弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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           主       文
    被告人を禁錮1年4月に処する。
    訴訟費用は全部被告人の負担とする。
           理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成13年4月23日午後5時40分ころ,業務として普通乗用自動
車を運転し,神戸市A区B町a番地先の信号機により交通整理の行われている交差点を
西方から南方に向け右折進行するに当たり,対向直進車両の有無及びその安全を確
認して進行すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,対向直進車両の有無
及びその安全確認不十分のまま,時速約10ないし20キロメートルで右折進行し
た過失により,折から普通自動二輪車を運転して東方から対向直進してきたB(当時
52歳)をして急制動の措置をとらせて同人を同自動二輪車もろとも転倒滑走させ
て自車左側部に衝突させ,よって,同人に加療約1年6か月間以上を要し四肢知覚
障害,四肢不全麻痺の後遺症を伴う外傷性頸髄損傷等の傷害を負わせたものであ
る。
(証拠の標目)- かっこ内は検察官請求証拠甲乙の番号
省略
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,本件事故について,被告人が,普通乗用自動車(以下「被告人車
両」ともいう。)を運転し,西方から南方に向け右折進行しようとして,本件交差
点内の右折車線において停止していたところ,被害者が,普通自動二輪車(以下
「被害者バイク」ともいう。)を運転し東方から対向進行してきて,被告人車両に
気付くのが遅れて急ブレーキをかけて転倒し,被告人車両の方に向かって進行して
きたため,被告人が,被害者との衝突を避けようとして,被告人車両を右折進行さ
せたことから,被告人車両左側部に被害者が接触したものであって,被告人に過失
はない旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,当裁判所が前示のとおり認
定した理由について,以下補足して説明する。
2 前掲各証拠によれば,次の事実が間違いがないと認められる。すなわち,
① 本件交差点は,東西に通じる道路と本件交差点から南方に延びる道路とがT
字型に交差する三叉路交差点であって,東西に通じる道路は,本件交差点西側入口
の手前で東行車線が直進車線と右折車線の2車線に分かれており,西行車線が1車
線になっていて,西行車線の幅員は約3.0メートルであり,東西両方向からの見
通しはいずれも良好であったこと
② 本件事故当時,天候は晴れであり,日没前でまだ明るかったこと
③ 本件事故は,本件交差点において,西方から南方に向かい時速約10ないし
20キロメートルで右折進行しようとした被告人運転の普通乗用自動車と東方から
時速約40キロメートルで対向直進してきた被害者運転の普通自動二輪車との間に
発生したものであること
④ 本件交差点には,時差式信号機が設置されていて,東行車線の青色信号表示
の時間が西行車線の青色信号表示の時間よりも10秒長くなっていたが,本件事故
当時,被告人車両及び被害者バイクの各対面信号はともに青色表示であったこと
⑤ 本件事故直後,本件交差点内の路面には,被害者バイクによる長さ約4.2
メートルの擦過痕が東行車線の右折車線南端線(以下「中央線」という。)から約
1.2メートル南側の西行車線内に中央線とほぼ並行につけられており,衝突地点
はほぼその擦過痕の終了(西端)部分であったこと
■ 被告人車両の左側後部ドア下部及び左後輪には本件事故によって生じたもの
と考えられる痕跡があり,被害者バイクの右側面後部には本件事故によって生じた
ものと考えられる塗料が直線状に剥げた部分があったこと
■ 被害者は,本件事故当時ヘルメットを着用していたが,本件事故により判示
の傷害を負ったこと
が認められる。
3 証人Cの当公判廷における供述並びにCの検察官調書(甲15)及び警察官調書
(甲13,14)(以下,併せて「C供述」という。)は,概略,「Cは,軽四輪貨
物自動車を運転し,南方から北方に向け進行してきて,本件交差点の南詰で赤色信
号待ちのため停止中に本件事故を目撃した。本件事故は,被告人車両が,右折した
前車に引き続いて2台目に右折しようとして,右折車線から対向車線に時速約15
ないし20キロメートルで1メートルか2メートル出てきたところ,対向車線をそ
んなに速くも遅くもない速度で直進してきた被害者バイクが右側を下にして転倒し
その運転者が左側に倒れるようにして滑走しながら,被告人車両の左側面に衝突す
るというものであった。被告人車両が右折する前に交差点中央の右折車線で一時停
止していたようなこ
とはなかった。」というのである。
 ①Cは,本件交差点から南方に延びる道路において,北方を向いて信号待ちのた
めに先頭で停車していて本件事故を目撃したものであるが,本件事故現場は,Cの停
車位置から約20メートル先の真正面に見えるところにあって,その視認状況は良
好であったこと,②C供述は,本件事故直後から終始一貫して,被告人車両は,右折
した前車に引き続いて2台目に右折しようとして,対向車線に進出し,本件事故を
招いたものであって,右折する前に交差点中央の右折車線で一時停止していたよう
なことはなかった旨いうものであり,そのことについては全く動揺がみられないこ
と,③C供述の前記のような目撃状況は,前記認定の本件交差点内の路面の擦過痕の
状況,被告人車両及び被害者バイクの各衝突の痕跡等の客観的状況と合致してお
り,そこに不合理不
自然な点は見当たらないこと,④Cは,被告人や被害者とは本件事故当時まで面識の
なかった第三者である上,本件事故を目撃直後119番等の通報をし,警察官が臨
場するまで現場に止まって目撃状況を説明するなど,その供述態度も誠実であるこ
となどを考え併せると,上記のようなC供述の信用性は高いというべきである。
4 これに対し,被告人の当公判廷における供述並びに被告人の検察官調書(乙4
ないし6)及び警察官調書(乙2)(以下,併せて「被告人供述」という。)は,
概略,「被告人は,被告人車両を運転して,前車が右折した後,右折車線の先頭で
一時停止し,前方約75メートル付近の地点にヘッドライトを点灯せずに走行して
くる被害者バイクを認めた。被害者バイクより先行してくる車両はなかったが,先
に右折しようとはせず,そのまま40キロメートルを少し上回る程度の時速で進行
してくる被害者バイクの動静を注視していたところ,被害者が北方を脇見していた
ことから,本件交差点に入る辺りで,被告人車両に気付き急ブレーキをかけて転倒
し被告人車両の方に向かって進行してきたため,被告人が,被害者との衝突を避け
ようとして,被告人
車両を急いで右折進行させたことから,西行車線内の衝突地点において,被告人車
両左側部に被害者が接触衝突した。」というのである。
しかしながら,①被告人が前方約75メートル付近の地点に被害者バイクを認
め,その時速が40キロメートルを少し上回る程度であったというのであれば,被
害者バイクが本件交差点に到達するまでに約5秒の余裕があって右折が可能だった
のであるから,被告人車両がその間右折車線に停車していたというのは不自然な感
を否めないこと,②被害者であるBの当公判廷における供述(以下「被害者証言」と
いう。)は,「本件事故時の状況についての記憶は事故の影響により失われている
が,本件事故現場のひとつ手前の交差点で信号待ちして出発したころまでの記憶は
ある。ヘッドライトは昼間でもいつも点灯して走行しており,このときも点灯して
いた。」旨いうのであって,被害者証言のこの部分は信用できると考えられること
や,また,被害者バ
イクの進行方向からの見通しは良好である上,バイクを運転して何十メートルも脇
見をすればまっすぐ進路を保つことは困難であるから,被害者が本件交差点に入る
辺りまで被告人車両に気付かないほど長い間脇見をしていたとは思われないことか
ら考えると,被告人供述が被害者バイクの進行状況についていうところはそれ自体
真実性に乏しいこと,③本件交差点内の路面には,上記のとおり,被害者バイクに
よる長さ約4.2メートルの擦過痕が中央線から約1.2メートル南側の西行車線
内に中央線とほぼ並行につけられていたのであって,被害者バイクが転倒して被告
人車両の方に向かって進行してきたという被告人供述は,このような客観的事実に
合致しないこと,④しかも,被告人供述が被害者バイクが急ブレーキをかけ転倒し
始めたという地点か
ら衝突地点までは約16メートルであって,被害者バイクの時速が約40キロメー
トルであるとすると,その間を到達するのに約1.5秒しかないのであるから,被
害者バイクが転倒して被告人車両の方に向かって進行してきたことを被告人が認識
してそれに反応するのに相当の時間を要するであろうことを考えれば,被告人車両
が急発進したとしても,その左側後部ドアないしは左後輪が中央線から約1.2メ
ートル南側の西行車線内に至る辺りまで約3.5メートルも進行する余裕があった
とは思われないことなどを考え併せると,上記のような被告人供述の信用性は乏し
いといわざるを得ない。
5 そして,先に2で間違いがないと認定した事実に上記のように信用できるC供述
によって認められる事実を総合すると,本件事故は,被告人が,被告人車両を運転
し,対向直進車両の有無及びその安全確認不十分のまま,時速約10ないし20キ
ロメートルで右折進行した過失により,折から被害者バイクを運転して東方から対
向直進してきた被害者に急制動の措置をとらせて被害者バイクもろとも転倒滑走さ
せて被告人車両左側部に衝突させ,被害者に判示の傷害を負わせたものであること
が明らかである。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は平成13年法律第138号附則2条により同法による改正前
の刑法211条前段に該当するところ,所定刑中禁錮刑を選択し,その所定刑期の
範囲内で,被告人を禁錮1年4月に処し,訴訟費用については刑事訴訟法181条
1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,普通乗用自動車を運転して交差点を右折するに当たり,対向
直進車両の有無及びその安全確認不十分のまま右折進行した過失により,対向直進
してきた普通自動二輪車を転倒させて衝突し,その運転者に判示の傷害を負わせた
という事案である。
 被告人は,自動車運転者が右折進行する際に果たすべき基本的な注意義務を怠っ
たものであって,その過失の程度は高いこと,被害者は,対面青色信号に従い直進
しようとして本件交差点に進入したものであって,特段の落ち度はないこと,被害
者は,本件事故により加療約1年6か月間以上を要し四肢不全麻痺等の後遺症を伴
う判示の傷害を負わされたものであって,生じた結果は非常に重大であること,と
ころが,被告人は,本件事故直後から公判段階に至るまで,被害者に責任を転嫁し
て,不合理不自然な弁解に終始し,被害者に対する被害弁償はおろか謝罪や見舞い
さえすることなく,むしろ「自分の方が被害者だと思っている。」と被害者やその
家族の神経を逆なでするような発言をするなど,被告人には反省の態度が全く認め
られないし,その被
害者に対する態度も不誠実というほかないこと,しかも,被告人車両は,本件事故
当時,無車検かつ無保険・無共済車であったが,被告人は車検や自動車損害賠償責
任保険等のことは全く気にしないで運転していたというのであって,その点でも無
責任というほかないこと,そして,当然のことながら,被害者の被害感情は厳し
く,被害者は被告人に対する厳重処罰を望んでいることなどを考え併せると,犯情
は悪く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
 してみると,被害者は,自動車損害賠償保障法の規定により,政府から本件事故
による損害のてん補として2219万円の支払いを受けている(なお,被告人は,
政府からその求償を受けており,その納期は平成15年4月25日となっていた
が,現在までその支払いをしていない。)こと,被告人が本件後の平成14年4月
下旬ころに被告人車両を廃棄処分していること,被告人には,昭和48年9月に業
務上過失傷害罪により,平成4年7月に道路交通法違反(駐車違反)罪により,そ
れぞれ罰金刑に処せられた以外に,前科が見当たらないことなどの,被告人のため
に酌むべき事情を考慮しても,主文の実刑はやむを得ないところである。
(検察官の科刑意見 禁錮1年8月)
 よって,主文のとおり判決する。
  平成15年5月29日
    神戸地方裁判所第12刑事係甲
         裁 判 官    森岡安廣

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