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裁判例


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主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
   原告が,刑の執行停止申立て(以下「本件執行停止申立て」という。)に関
し平成13年7月9日付けでした行政文書の開示請求(以下「本件開示請求」とい
う。)に対し,被告が同年8月6日付けでした開示しない旨の決定(以下「本件不
開示決定」という。)を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,原告が平成13年6月5日付けで行った刑の執行停止申立て(本
件執行停止申立て)に関する,①大阪高等検察庁が本件執行停止申立てにつき発し
た八王子医療刑務所その他関係官公署,病院に対する原告の病状,受刑状況等に関
する照会書またはこれに類する文書の控え,②前記各照会書に関する原告の病状,
受刑状況等に関する回答書(添付文書を含む)全部,③その他大阪高等検察庁が本
件執行停止申立てに関して所持するすべての行政文書(これら各文書を総称して,
以下「本件行政文書」という。)について,原告が行政機関の保有する情報の公開
に関する法律(ただし,平成13年法律第140号による改正前のもの。以下「情
報公開法」という。)に基づき本件開示請求をしたのに対し,被告が開示しない旨
の決定(本件不開示決定)をしたため,原告において本件不開示決定の取消しを求
めた事案である。
1 前提となる事実等(当事者間に争いのない事実を含む。)
(1) 情報公開法の定め
ア 開示請求権(3条)  
 何人も,この法律の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行
政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。
イ 行政文書の開示義務(5条)
 行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に
次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されてい
る場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない。
(ア) 個人に関する情報(1号)
 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除
く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の
個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を
識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することは
できないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるも
の。ただし,次に掲げる情報を除く。
a 同号イ  省略
b 同号ロ
  人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必
要であると認められる情報
c 同号ハ  省略
(イ) 2号以下  省略 
ウ 公益上の理由による裁量的開示(7条)
 行政機関の長は,開示請求に係る行政文書に不開示情報が記録されてい
る場合であっても,公益上特に必要があると認めるときは,開示請求者に対し,当
該行政文書を開示することができる。
エ 行政文書の存否に関する情報(8条)
 開示請求に対し,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを
答えるだけで,不開示情報を開示することとなるときは,行政機関の長は,当該行
政文書の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否することができる。
(2) 原告は,被告に対し,平成13年7月9日,情報公開法に基づき,本件開
示請求をした。
 本件開示請求に係る本件行政文書は,原告が平成13年6月5日付けで行
った刑の執行停止申立て(本件執行停止申立て)に関する,①大阪高等検察庁が本
件執行停止申立てにつき発した八王子医療刑務所その他関係官公署,病院に対する
原告の病状,受刑状況等に関する照会書またはこれに類する文書の控え,②前記各
照会書に関する原告の病状,受刑状況等に関する回答書(添付文書を含む)全部,
③その他大阪高等検察庁が本件執行停止申立てに関して所持するすべての行政文書
であった。
(甲11号証)
(3) 被告は,平成13年8月6日,本件行政文書について,開示請求に係る行
政文書の存否を答えるだけで,特定個人の刑の執行の有無という個人情報を開示す
ることになるため(情報公開法5条1号,8条)との理由で,行政文書の存在自体
を明らかにすることなく,情報公開法9条2項に基づき,開示しない旨の決定(本
件不開示決定)をし,そのころ,原告に不開示決定通知書を送付した。
(甲14号証)
(4) 原告は,本件不開示決定を不服として,検事総長に対し,審査請求を申し
立てた。
 検事総長は,上記審査請求について,情報公開審査会に諮問した。同審査
会は,調査,審議の上,平成14年3月25日,本件不開示決定は妥当である旨の
答申をした。
 検事総長は,上記答申も踏まえ,平成14年4月11日,上記審査請求を
棄却する旨の裁決をし,そのころ,原告に裁決書を送付した。
(甲13号証の1ないし4,15号証,乙1号証)
(5) 原告は,平成14年7月11日,被告がした本件不開示決定の取消しを求
める本件訴訟を提起した。
(当裁判所に顕著な事実)
2 争点
 本件の争点は,本件行政文書を不開示とした本件処分の適法性である。
 3 争点についての当事者の主張
(1) 被告
ア(ア) 本件不開示決定は,いわゆる存否応答拒否(情報公開法8条)を理

とする不開示決定である。
 開示請求がされた場合,行政機関の長は,当該開示請求に係る行政文
書が存在すれば,これについて開示決定(全部開示決定又は部分開示決定)あるい
は不開示決定をし(同法9条1項,2項),当該開示請求に係る行政文書を保有し
ていなければ,その旨の決定をする(同項括弧書)のが,本来である。
 ところが,時としては,開示請求に係る行政文書の存否を明らかにす
ることによって,不開示情報を開示することとなり,不開示情報の規定により保護
しようとしている利益が損なわれる場合がある。そこで,このような場合にも,不
開示情報の規定が保護しようとしている利益の保護を全うするため,開示請求に係
る行政文書の存否を明らかにすることなく,開示請求を拒否することができるとし
たのが,同法8条である。
(イ) 本件について検討すると,本件行政文書は,原告が平成13年6月
5日付けで大阪高等検察庁検察官に対して行った刑の執行停止申立て(本件執行停
止申立て)に関し,同検察官が発した八王子医療刑務所等に対する原告の病状,受
刑状況等に関する照会書及びそれに対する回答書,その他被告が本件執行停止申立
てに関して所持するすべての行政文書である。
 そうすると,本件行政文書は,これが存在するかどうかを回答するだ
けで,原告が平成13年6月5日付けで大阪高等検察庁検察官に対して刑の執行停
止の申立てをしたかどうかという情報が明らかになり,さらに,その前提として,
当時,原告が刑の執行を受けていたかどうかという情報もまた明らかになる。
 そして,特定の個人の刑の執行の有無に関する情報が,当該個人を識
別することのできる情報に当たり,情報公開法5条1号本文に該当することは明ら
かであるところ,仮に本件行政文書が存在している場合,そのことを前提に,同号
本文により不開示としたのでは,結局のところ,原告が当時刑の執行を受けていた
という情報を明らかにする結果となる。もちろん,本件行政文書が存在しなかった
場合,これを保有していない旨の決定をすれば,その逆に原告が当時刑の執行を受
けていなかったという情報を開示することとなる。
 したがって,本件開示請求は,情報公開法8条所定の場合,すなわ
ち,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,不開示情
報を開示することとなるときに該当するから,本件行政文書の存否を明らかにしな
いで,これを拒否すべきものである。
 よって,本件行政文書について,開示請求に係る行政文書の存否を答
えるだけで,特定個人の刑の執行の有無という個人情報を開示することになるため
(情報公開法5条1号,8条)との理由で,行政文書の存否を明らかにすることな
く,情報公開法9条2項に基づき,開示しないこととした本件不開示決定は,適法
である。
 また,本件行政文書の中には,原告の病状に関する医療機関への照会
書とその回答書も含まれており,これらの文書が存在するかどうかを答えると,原
告の特定の医療機関への通院の有無や病歴の有無等という個人を識別することので
きる情報を開示することともなる。
 したがって,そのことからしても,本件行政文書に対する開示請求に
対しては,当然に存否応答拒否をすべきことは明らかであり,本件不開示決定は,
この点からも適法である。
イ(ア) 原告は,本件行政文書に記録された情報は原告本人に関する情報で
あるから,最高裁判所の判例(最高裁判所平成13年12月18日第三小法廷判
決・民集55巻7号1603頁。以下「兵庫県条例最高裁判決」という。)に照ら
すと,本件行政文書を不開示とすることはできず,本件不開示決定は違法である旨
主張する。
(イ) しかしながら,情報公開法に基づく開示請求権は,同法が創設した
権利であり,その具体的な内容,範囲等は,根拠法規である同法の定めるところに
よるべきところ,同法は,以下のとおり,個人情報の本人開示請求を認めることを
予定していないと解すべきである。
 すなわち,情報公開法の制度趣旨が国民の理解と批判の下にある公正
で民主的な行政の推進にある(同法1条)ことからすれば,同法は,同一の行政情
報を不特定多数者に公開することを制度の前提としているから,特定の者の個人情
報をその者だけに開示するのは,上記趣旨に合致せず,情報公開制度の予定すると
ころではないというべきである。また,同法は,何人に対しても等しく開示請求権
を認めており,開示請求の理由や利用の目的,開示請求者が誰かといった個別的事
情は,当該開示請求に対する決定に影響を及ぼさないとの立法政策を採っている
(同法3条,4条)。そして,同法5条1号本文前段は,個人識別情報を不開示と
した上で,個人の権利利益を侵害しないか,又は侵害が受忍限度内にとどまるので
不開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示による公益が優
越するため開示すべきものを同号ただし書で限定列挙して除外する個人情報識別型
を採用しており,個人情報の本人開示請求であっても,個人に関する情報であっ
て,特定の個人を識別できる情報であれば,同法5条1号本文前段に該当するもの
として,不開示とする立法政策を採っている。さらに,同条各号の不開示情報(同
条1号本文前段及び同条2号ロを除く。)は,いずれも,当該情報を「当該開示請
求者に開示することにより」一定の支障が生じるおそれがあるか否かではなく,
「公にすることにより」一定の支障が生じるおそれがあることを要件としており,
同条各号の不開示情報の定め方からも,同法が不開示情報該当性は開示請求者が誰
であるかを問わないで,客観的にこれを判断すべきものとするとの立法政策を採っ
ていることは明らかである。このほか,同法や同法施行令には,本人確認の方法
等,本人開示に関する規定やセンシティブ情報の開示の問題に関する規定は一切存
せず,同法は,そもそも個人情報の本人開示請求を認めることを予定していないと
解すべきである。
(ウ) また,情報公開法の立法経緯をみても,情報公開法要綱案が,個人
情報の本人開示については個人情報保護制度の問題であり,情報公開制度において
本人開示を否定する立場から立案されたものであることは明らかであり,同要綱案
を受けて制定された情報公開法も,同様に本人開示を否定する立場であることは明
らかである。
(エ) 兵庫県条例最高裁判決は,情報公開制度において,一般的に個人情

の本人開示請求を認めたものではなく,兵庫県における公文書の公開等
に関する条例(昭和61年兵庫県条例3号。以下「兵庫県条例」という。)の解釈
を示したにすぎず,同判決の射程は,情報公開法の個人情報の不開示事由には及ば
ない。
ウ(ア) 原告は,本件行政文書は,原告の生命,健康に係る重要なものであ
り,情報公開法7条により開示されるべきであるところ,本件不開示決定は,その
点を全く考慮しておらず,違法である旨主張する。
(イ) しかしながら,情報公開法7条は,行政機関の長に対し,要件裁量
を認めたもので,行政機関の長が同条による公益上の裁量開示を行わなかったとし
ても,その裁量権の不行使が違法とされるのは,その判断に裁量権の濫用,逸脱が
認められる場合に限られる。しかるに,原告の主張は,本件不開示決定時におけ
る,同条による公益上の裁量開示をしないとの被告の判断に,どのような裁量権の
濫用,逸脱があったのかを何ら具体的に明らかにするものではないから,主張自体
失当である。
(ウ) また,原告の主張する利益は,原告自身の個人的利益という「私
益」にすぎず,情報公開法7条で考慮すべき「公益」にはおよそ該当しないという
べきであるから,被告が同条の公益上の裁量開示をしなかったことについて,何ら
の裁量権の濫用,逸脱も認められない。
エ 従前,自己を本人とする情報の開示については,行政機関の保有する電
子計算機処理に関する個人情報の保護に関する法律(昭和63年法律第95号)1
3条及び14条に規定されていた。
 今般,同法を全部改正する行政機関の保有する個人情報の保護に関する
法律(平成15年法律第58号。以下「行政機関個人情報保護法」という。)が成
立した。
 これにより,自己情報の本人開示は,行政機関個人情報保護法13条に
よることとなり,立法政策上,自己情報の本人開示の問題については,情報公開法
制ではなく,個人情報保護法制によることが一層明らかになった。
 しかるところ,我が国における個人情報保護法制においては,従前か
ら,刑の執行に関する情報については,本人からの開示請求であっても,個人情報
保護法制の適用対象外とされており,この理は,行政機関個人情報保護法において
も同様である。
 したがって,情報公開法下において,個人情報の本人からの開示請求を
特別扱いすべきでないことは明らかである。
(2) 原告
 本件行政文書の開示の必要性については,別紙「訴状」記載のとおりであ
り,また,被告の主張に対する反論は,別紙「準備書面(第1回)」記載のとおり
である。
第3 当裁判所の判断
1(1) 本件開示請求に係る本件行政文書の内容は,原告が平成13年6月5日付
けで行った刑の執行停止申立て(本件執行停止申立て)に関する,①大阪高等検察
庁が本件執行停止申立てにつき発した八王子医療刑務所その他関係官公署,病院に
対する原告の病状,受刑状況等に関する照会書またはこれに類する文書の控え,②
前記各照会書に関する原告の病状,受刑状況等に関する回答書(添付文書を含む)
全部,③その他大阪高等検察庁が本件執行停止申立てに関して所持するすべての行
政文書である(前提となる事実等(2))。
 ところで,情報公開法5条1号は,個人に関する情報(事業を営む個人の
当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日そ
の他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合する
ことにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)を不開
示情報として規定するところ,上記のような内容の本件行政文書が,同号にいう個
人に関する情報として,不開示情報に当たることは明らかである。
(2) なお,同号ただし書ロは,個人に関する情報中,人の生命,健康,生活又
は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報については,
不開示情報から除外する旨規定している。この点,原告の主張によれば,本件行政
文書中には,原告の病状に関する情報も含まれることとなるが,原告の主張を前提
としても,原告の病状に関する情報は自己の生命,健康に関する情報として原告自
身がこれを知る必要性が存する場合があり得るにすぎず,これをもって,人の生
命,健康を保護するため,当該情報を公にする必要があると認めることはできな
い。
2 被告は,本件開示請求に対し,情報公開法8条に基づき,開示請求に係る本
件行政文書の存否を答えるだけで,特定個人の刑の執行の有無という個人情報を開
示することになるとして,本件行政文書の存在自体を明らかにすることなく,本件
不開示決定をしている(前提となる事実等(3))。
 しかるところ,前提となる事実等(2)記載のような本件行政文書の内容に照ら
せば,本件行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,原告に係る刑の執行の
有無という個人に関する情報が開示されることになることは明らかであるから,被
告が本件行政文書の存否を明らかにしないで本件開示請求を拒否したことは適法で
ある。
3(1) 原告は,本件行政文書に記録された情報は原告本人に関する情報であるか
ら,本件行政文書を不開示とすることはできず,本件不開示決定は違法である旨主
張する。 
 そこで,以下この点について検討する。
(2)ア 憲法21条は,国民の表現の自由を保障するところ,その実効性を担保
するためには,国民の知る権利も保障する必要がある。しかしながら,憲法上認め
られる知る権利は,それ自体では抽象的な権利であり,特定の情報ないし文書の開
示を請求するためには,これに具体的権利性を与える実定法上の根拠が必要である
と解される。してみれば,開示請求権の内容や範囲も,当該実定法の目的や趣旨を
参考として,当該実定法の文言に即して判断すべきこととなる。
イ そこで情報公開法の規定についてみるに,同法1条は,行政機関の保有
する情報の一層の公開を図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責
務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民
主的な行政の推進に資することを目的とする旨規定している。また,同法3条は,
何人も,同法の定めるところにより,行政機関の長に対して当該行政機関の保有す
る行政文書の開示を請求することができる旨規定しており,開示請求者について,
何らの制約を加えていない。さらに,同法5条1号本文前段は,個人に関する情報
であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を
識別することができるものを不開示情報としており,不開示の根拠として,個人の
プライバシー保護の必
要性を直接の判断基準とする立場に立たず,特定の個人を識別することができる情
報は原則として不開示とする立場に立っているものと解される。このほか,同法や
同法施行令には,開示請求がされた情報が開示請求者自身の情報に該当するか否か
を明らかにするための手続がなんら規定されていない。
ウ 以上のような情報公開法の規定に照らすと,同法は,本人による自己情
報の開示請求のように,個人のプライバシーを侵害するおそれを想定し難い場合で
あっても,それが個人識別情報に該当する以上,原則として不開示とする立場に立
っていると解するのが相当である。
エ このことは,情報公開法の立法経緯からも明らかである。
 すなわち,情報公開法制の整備について検討を行った行政改革委員会
は,平成8年12月16日に「情報公開法要綱案」及び「情報公開法要綱案の考え
方」を明らかにしたが,「情報公開法要綱案の考え方」の八(1)において,個人情報
の本人開示の問題は,基本的には個人情報の保護に関する制度の中で解決すべき問
題であるとともに,本人に開示すべき個人情報の範囲の在り方も,その中で専門的
に検討すべき問題であるとし,また,個人情報の保護に関する制度が整備されるま
での措置として,情報公開法の中に本人開示を認める制度を盛り込むという意見も
あるが,本人に開示することが不適切な情報も現実に存在し,不特定多数者を対象
とする不開示情報の考え方とは異なる本人開示に特有の開示範囲を規定すること,
請求者が本人であること
の確認手続を規定することなどの情報公開法の枠組みを越えた検討が不可欠であ
る,さらに,国民の関心が強いのは医療,教育関係情報であり,その取扱いについ
ての専門的な検討を避けて制度化することも適切でないとして,同要綱案には個人
情報の本人開示を認める制度を盛り込まないこととしたとされている(総務省行政
管理局編・詳解情報公開法509頁以下参照)。
(3) この点,原告は,兵庫県条例最高裁判決を根拠として,請求者自身の自己
情報の開示請求の場合には,個人に関する情報(情報公開法5条1号)として不開
示とすることは許されない旨主張する。
 しかしながら,(2)ア記載のとおり,開示請求権の内容や範囲は,当該開示
請求権に具体的権利性を与える実定法の目的や趣旨を参考として,当該実定法の文
言に即して判断すべきものであるから,兵庫県条例の解釈として判断を示した兵庫
県条例最高裁判決によって,直ちに情報公開法の下においても自己情報の開示を認
めるべきであるとすることはできない。
 このことは,兵庫県条例8条1号が,個人の思想,宗教,健康状態,病
歴,住所,家族関係,資格,学歴,職歴,所属団体,所得,資産等に関する情報
(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別
され得るもののうち,「通常他人に知られなくないと認められるもの」が記録され
ている公文書については,その公開を行わないことができる旨規定されており,情
報公開法5条1号本文前段の規定とはその規定ぶりを異にしていることからも明ら
かである。
(4) 以上の検討結果に照らせば,本件行政文書に記録された情報は原告本人に
関する情報であるとの原告の主張を前提としても,1記載の不開示情報に該当する
と認められる本件行政文書について,これを不開示とした本件不開示決定は適法で
あるというべきである。
4 原告は,本件行政文書は,原告の生命,健康に係る重要なものであり,情報
公開法7条により開示されるべきであるところ,本件不開示決定は,その点を全く
考慮しておらず,違法である旨主張する。
 この点,同条は,開示請求に係る行政文書に不開示情報が記録されている場
合であっても,公益上特に必要があると認めるときは,開示請求者に対し,当該行
政文書を開示することができる旨規定し,公益上の理由による裁量的開示を認めて
いる。しかるに,原告の主張を前提としても,原告の病状に関する情報は自己の生
命,健康に関する情報として原告自身がこれを知る必要性が存する場合があり得る
にすぎず,これを開示することが公益上特に必要があると認めることはできないか
ら,被告が同条による裁量的開示を行わなかったことについて,何ら裁量の濫用,
逸脱は認められない。
 したがって,この点についての原告の主張は失当である。
5 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は
理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
  大阪地方裁判所第2民事部
       裁判長裁判官    山  田  知  司
          裁判官    田  中  健  治
  
          裁判官    小  野  裕  信

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