弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はいずれも棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、末尾に添附した被告人両名の弁護人竹沢哲夫、同関原勇違名
及び被告人各本人の各控訴趣意者のとおりである。
 弁護人竹沢哲夫同関原勇連名の控訴趣意第一点について。
 しかし、日本国憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつ
て、これを保持しなければならないものであり、又、国民は、常にこれを公共の福
祉のために利用する責任を負い、濫用してはならないものであり(日本国憲法第十
二条)、なお、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福
祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とするものであり
(同第十三条後段)、結局、国民の自由及び権利といえども、公共の福祉に反する
場合においては、立法その他の国政の上で、制約を<要旨第一>受けるべきものであ
ることほ当然である。としろで、軽犯罪法は、刑法その他の刑罰法令には触れない
けれども、誰でもが、そんなことをされては危険だと感じ、或は迷惑だ
と思うに違いないような行為を禁止し、これに違背した考を処罰せんとするもので
あることが明らかであり、結局、公共の福祉を保持することを目的とするものであ
り、なお、同法は、特に、同法の適用にあたつては、国民の権利を不当に侵害しな
いように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用すること
があつてはならないと明記しているのであるから(軽犯罪法第四条)、同法が国民
の基本的人権に関する憲法の規定に違反するものと解することはできない。このこ
とは、原判決が本件について適用した軽犯罪法第一条第三十三号前段(原判決には
単に軽犯罪法第一条第三十三号と記載してあるが、その認定した犯罪事実に徴し、
同号前段であることが明らかである。)についても、直ちにいい得ることであつ
て、右規定は、他人の家屋その他の工作物に、その他人の承諾なく、且つ、社会常
識上是認されるような理由もなく、はり紙をすることは、少くともその工作物の所
有者や管理人に迷惑を与えることであり、且つ、自由に対する国民の権利の濫用で
あつて、公共の福祉のためにこれを利用するものとはいえないから、これを禁止
し、これに違背した者を処罰せんとする趣旨であつて、公共の福祉を保持すること
を目的とするものであることが明らかであり、しかも、思想、信条及び言論そのも
のの自由を直接制約しようとするものではなく、又、前記同法第四条の規定と合せ
考えれば、思想、信条及び言論の自由をじゆうりんする必然性を持つていると解す
ることはできない。従つて、右規定は憲法に違背するものではないから、論旨は理
由がない。
 同第二点について。
 <要旨第二>しかし、本件記録に徴すれば、仮に被告人Aが昭和二十六年十月三日
の司法警察員に対する供述調書において、氏名、年齢、住居を述べたと
しても、被告人等は、同月四日、渋谷簡易裁判所裁判官Bが、被疑事件を告げ、こ
れに関する陳述を聴いた際には、いずれもその氏名、年齢、住居を黙秘したことが
明らかであるから、右裁判官が、被告人等は定まつた住居を有しないものとして、
同人等を勾留したことは当然であつて、別段の違法はなく、又、その後、同裁判官
が、同月十三日、被告人等の勾留の理由を開示した際にも、被告人等は、依然とし
て、いずれもその氏名、年齢、住居を黙秘したので、そのまま被告人等の勾留を継
続していたところ、同月十九日、被告人等の原審の弁護人竹沢哲夫及び特別弁護人
Cの連署の上申書によつて、被告人等の氏名及び住居が明らかにされたので、原審
裁判官が、これを容れて、直ちに同日付をもつて、被告人等の勾留を取り消したこ
とが明らかであつて、軽犯罪法の本来の目的を逸脱して、他の目的のために、これ
を濫用して、被告人等を不当に勾留したと認むべき事由は少しも見当らない。な
お、本件記録に徴すれば、被告人等はいずれも昭和二十六年十月二日午後九時十分
頃、本件の現行犯人として逮捕され、同月三日、それぞれ司法警察員の取調を受
け、次いで同月四日、それぞれ検察官の取調を受けるとともに前記のようにB裁判
官の勾留尋問を受けた上、同月五日にはいずれも、本件により渋谷簡易裁判所に起
訴されたことが明らかであり、又、原審は専ら本件犯罪事実について審理し、本件
はり札の記載内容の如何について全然これを問題としなかつたことが明らかであ
り、本件について、軽犯罪法の本来の目的を逸脱して、他の目的のために、これを
濫用したことを疑うべき事由は何ひとつ見当らない。結局、論旨は独自の見解であ
つて、理由がない。
 同第三点
 <要旨第三>しかし、軽犯罪法第四条の規定は、同法の適用にあたつて、当然守ら
なければならない事項を特に明文をもつて明記した規定であつて、刑事
訴訟法第三百三十五条第二項の規定する法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加
重減免の理由となる事実に関するものではないから、論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 中村光三 判事 河本文夫 判事 鈴木重光)

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