弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する
     本件を東京高等裁判所に差戻す
         理    由
 弁護人田沼秀男の上告趣意は別紙記載のとおりである。
 右上告趣意第一、二点について、
 食糧管理法三条一項違反の罪は米麦等の生産者がその生産した米麦等で命令によ
り定められたものを所定の時期までに供出しないことによつて成立するのであるが、
右命令による供出割当量がその年度の実収高以上であつた場合には、実収高を超え
る部分については同罪の成立が阻却されると解すべきことは当裁判所の判例とする
ところである(昭和二三年(れ)第一七二四号昭和二六年七月一八日大法廷判決参
照)。ところで本件被告人はその生産にかかる昭和二二年度産米穀につき命令によ
り六一石二斗の供出割当を受けたにも拘らず所定の期限までに四〇石四斗四升一合
を供出しただけで残二〇石七斗五升九合の供出をしなかつたということで、前記食
糧管理法違反に問われ、原判決で有罪に処せられたのであるが、記録によると被告
人は警察において同年度における米穀の実収高は一一五俵半即ち四六石二斗で供出
割当量は実収高を超えていたと陳述し、爾来検察庁、第一審及び原審を通じて供出
割当が過重であつた旨を供述をしているばかりでなく、被告人の居住しているa町
b部落の食糧調整委員長A及び同町長兼同町食糧調整委員長Bに対する検察事務官
の各聴取書には同人等の供述として、被告人方の昭和二二年度の実収高の予想は約
五五石であるから割当量を供出出来ないことは割当当時から判つていたが、部落へ
の割当を消化するためには止むを得なかつた旨及び被告人方の実収高は一三五俵は
あると思うから一五〇俵の割当は過重であるが、雑穀を換算すれば保有米を差引い
ても一二〇俵位は供出できると思つたので異議の申立があつたが取り上げなかつた
旨の記載があり、且右B作成の証明書によれば被告人に対する昭和二一年、二三年
及び二四年度産米穀の供出割当量はそれぞれ四四石、三九石六斗及び三九石二斗で
あつて、昭和二二年度のそれが前記の如く特に多量に割当られたものであること及
び被告人は昭和二一年度及び二三年度においてはいずれも割当量の一〇〇パーセン
ト以上を供出したこと(二四年度は当時未確定)がわかる。そして、原判決の確定
したところによれば、被告人は昭和二二年度産米穀一〇俵を他に闇売りした事実が
あるけれども、該産米を加算しても同年度における被告人方の米穀実収高が供出割
当量以上であつたと認めるに足る資料は記録中に一も存在しない。以上の次第であ
るから、若し原判決が被告人の昭和二二年度における米穀の実収高を供出割当量以
上であつたと認定した上でのものであるならば、それは未だ審理を尽さず擅に事実
を認定したもので実験則に反するというべく、若し実収高の如何を問わず不供出分
全部について前記食糧管理法違反の罪が成立すると判断した趣旨であるならば同法
条の解釈適用を誤つたものといわなければならないこと、正に所論のとおりである。
さればいづれにしても、原判決は違法たるを免れないのであつて、しかも右の違法
は判決に影響なしということはできないから、本点論旨はその理由があり、原判決
は破棄するを相当とする。
 よつて、その余の論旨に対する判断を省略し旧刑訴四四七条四四八条ノ二により
主文のとおり判決する。
 右は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 十蔵寺宗雄関与
  昭和二六年八月一七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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