弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役19年に処する。
未決勾留日数中240日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1平成21年10月1日午後6時30分ころ,北海道茅部郡a町字bc丁目d
番地のe所在の甲パークにおいて,被害者(当時28歳)に対し,殺意をもっ
て,その頸部にひも様のものを巻き付けて強く絞め付け,よって,そのころ,
同所において,同人を窒息死させて殺害し
第2引き続き,前記甲パークの土中に前記被害者の死体を埋め,もって死体を遺
棄した
ものである。
(争点に対する判断)
1本件の争点は,被害者を殺害し,その遺体を埋めたのが被告人なのか否かで
ある。
2人物関係
関係各証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)被告人及び被害者は,いずれも平成20年8月ころ来日した中国人技能実
習生であり,被告人は,乙水産において,被害者は,丙水産において,それ
ぞれ勤務していた。
(2)A,B,C,D及びEは,被告人の乙水産における同僚であり,F,G,
H及びIは被害者の丙水産における同僚であり,いずれも中国人技能実習生
である。
また,J,K及びLは丁水産・戊フーズに勤務し,Mは他社に勤務するい
ずれも中国人技能実習生である。
3被害者の遺体の状況
関係各証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
平成21年10月3日午後5時45分ころ,被害者の遺体が,北海道茅部郡
a町字bc丁目d番地のe所在の甲パークの南東に埋められているのが発見さ
れた。
被害者は,頸部にひも様のものを巻き付けられ,絞め付けられたことにより
窒息死していたものであった。
被告人の被害者に対する借金とその返済状況4
(1)関係各証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
,,(「」ア被告人は平成21年6月ころ被害者から30万円以下本件借金
という)を借りた。。
その後,被告人は,被害者から,被害者の母親の目の手術の費用等の送
金の必要が生じたとして,本件借金の返済を求められるようになった。
被害者は本件借金に関し,被告人に返済を促すため,Hに,会社に言う
べきか相談し,同年9月下旬ころ,被告人に対し,Mを通じて借金の返済
を求めるメモを交付し,同月30日にはGに同行してもらった上,被告人
の寮に行って直接返済を求めた。
被告人が同年10月1日に本件借金を返済する約束をしたことから,同
年10月1日午後5時30分過ぎころ,被害者は,自分の寮を出て,被告
人との待ち合わせ場所であるスーパー庚に向かった。その際,被害者は,
一人で大金を持ち帰るのが不安であるとして,同僚のFに同行を求めた。
同日午後6時ころ,被害者とFは,北海道茅部郡a町字bc丁目f番地のg
付近のゴミステーション前路上(以下,単に「ゴミステーション前」とい
う)で,被告人と会ったが,Fは,被告人から「先に行ってください」。。
と言われたため「己水産の寮で待っています」と言って被害者と別れ,,。
その後,被害者は,被告人と2人きりになった。
イ被告人の毎月の給料は約7万円ないし10万円である。
また,被告人名義の郵便貯金口座の残高は,平成21年8月26日の時
点で299円,同年10月1日の時点で304円であった。そして,同日
に利子5円が加算されて同日に残高が304円となったほかに,入出金の
動きはない。
ウ被告人は,平成20年9月ころから平成21年8月ころまで,Dと交際
しており,そのこともあって,Dの給料の管理を任され,Dのキャッシュ
。,カードを預かっていたDの毎月の給料は約7万円ないし11万円であり
被告人は,この給料からも被告人及びDの生活費等を支出していた。
エ被告人は,平成21年4月から6月にかけてJから20万円を,同年7
月から8月にかけてAから20万円を,同年8月中にEから15万円を,
同年9月ころBから5000円を借りていた。
このうち,被告人は,Bに対し1000円を返済したほかは,各人に対
して返済をしておらず,J,A,Eからは同年9月末や同年10月1日こ
ろまでに返済をするよう請求を受けていた。
オ被告人は,Nと平成21年5月ころから交際するようになり,毎日では
ないものの,それに近い頻度でデートをしていた。
被告人は,Nとのデートに際し,ゲームセンター等で1日あたり1万円
から1万数千円程度を,買い物等について1日あたり3000円から50
00円程度を費消していた。
(2)以上を踏まえるに,①被告人の収入に加え,被告人がDの給料を合わせて
管理していた時期があることを考慮に入れても,被告人がNとの交際で費消
した金銭等と比較すると,その支出は過大なものとなっていたとうかがえる
こと,②被告人の預貯金は数百円にとどまるものであったこと,③被告人は
被害者以外にも複数の者から多額の借金をし,その返済ができていないこと
が指摘できる。
そうすると,被告人は,被害者に対し,本件借金をしており,平成21年
10月1日には返済をするよう求められたが,これを返済できる状況になか
ったというべきである。
(3)これに対し,被告人は,①自らの寮の部屋に現金20万円があり,さらに
Eから借りた15万円のうちの10万円を加えて,平成21年8月中旬ころ
には30万円の金銭を有しており,②同年10月1日,Fと別れ,被害者と
2人になった際に,当該金銭によって,被害者に本件借金の返済をしたと供
述する。
しかしながら,前記の経済状況等を踏まえれば,被告人が同年8月中旬こ
ろに30万円の資金を有していたとは考え難い。
また,被害者からは,同年10月1日になる前から返済を求められていた
にもかかわらず,同日まで返済していない点や,同じ寮に住むA等から借金
返済を求められている中で,現金20万円を有していたとする点も自然なも
のとはいえない。
そして,被告人が仮に被害者にゴミステーション前で本件借金を返済した
ならば,被害者はFと別れて間もなく自転車に乗って北海道茅部郡a町字hi
丁目j番地のk所在の株式会社己水産寮(以下「己水産寮」という)に向かっ。
たはずであり,そうであれば,被害者は途中でFに合流したか,同人の待つ
己水産寮に現れたはずである。しかしながら,現実にはそのようになってい
ない。
したがって,被害者に30万円を返済したとの被告人の供述は信用するこ
とができない。
5被告人は,平成21年10月1日午後6時以降に,甲パークにおいて被害者
と会っていたのか。
(1)関係各証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
ア被害者は,平成21年10月1日午後6時ころ,被告人が,本件借金の
返済をすると言っていたことから,自転車に乗ってFと共に外出し,ゴミ
ステーション前にて,同じく自転車に乗った被告人と会い,その後,被害
者は,Fと別れた。
被害者は,本件借金の返済を受けられたなら,その後,己水産寮に向か
う予定であったが,同寮で待っていたFの所に現れず,行方不明となり,
同月3日,甲パーク内でその遺体が発見された。
イ平成21年10月1日午後6時から同日午後6時20分ころ,甲パーク
内で,男女の2人連れが会話をし,そのうち1人がたばこを吸っている様
子や,甲パーク内駐車場に自転車2台が停まっている様子が,甲パーク内
で習慣としてウォーキングをし,周回していたOにより目撃された。Oは,
髪型や自転車などから女性を中国人ではないかと,また,その女性と会話
をしている男性も中国人ではないかと考えていた。
ウ平成21年10月3日,上記男女2人連れが目撃された遊歩道付近で,
たばこ(以下「本件たばこ」という)が警察官により発見され,鑑定の結。
果,本件たばこに付着した唾液のDNA型が被告人のそれと一致した。
警察官は,Oに当時の目撃状況を聞き取っている際に,本件たばこを発
見したものであった。
,,,(2)以上を踏まえるにまず①いずれも自転車に乗った被告人及び被害者が
平成21年10月1日午後6時以降に,ゴミステーション前で2人きりとな
った後については,被告人は,本件借金の返済ができない状況にあったこと
から,被告人は被害者から本件借金返済の追及を受けざるを得ない状況であ
ったというべきである。
そして,②被害者の遺体が甲パークから発見されていること,③被告人の
DNA型と一致する唾液の付着した本件たばこが,甲パーク内遊歩道上で発
見されていること,④Oにおいて,同日午後6時20分ころまで中国人らし
,,き男女の2人連れが甲パーク内におりそのうち1人がたばこを吸っており
また,2台の自転車が停められていたことを目撃していたこと,⑤被害者は
本件借金の返済が受けられたのなら己水産寮に向かう予定で,本来甲パーク
に向かう予定はなかったものであることからすれば,被告人は,本件借金を
巡る被害者の追及に対応するに当たり,被害者と共にゴミステーション前か
ら甲パークに移動し,会話をしていたものというべきである。
して,被告人は,①平成21年10月1日に甲パークに行っ()アこれに対3
たことはなく,被害者に本件借金を返済した後,被害者と別れ,ゴミス
テーション前から,北海道茅部郡a町字hi丁目l番地のm所在のa町総合
運動公園とされる野球場に行ったものであり,②被害者は己水産寮に向
かったものと思われるが,中国人技能実習生の男女が共に歩いている様
子が目撃され,問題となるのを避けたかったため,被害者とはゴミステ
ーション前ですぐ別れ,その後の被害者の状況は分からないと供述する。
しかしながら,そもそも,被告人が被害者に本件借金を返済できる状
況になかったことからすれば,ゴミステーション前で被害者から何らの
追及を受けることなく別れたということは考え難い。むしろ,被告人は
被害者から本件借金について追及を受けざるを得ない状況の下,中国人
技能実習生である被告人及び被害者が本件借金を巡って会話するのを他
者に目撃されるのをなるべく避けるため,被告人は被害者と共に別の場
所に移動したものというべきである。
また,被害者が向かう予定であった己水産寮と被告人が向かったとい
う野球場は同じ方向でありながら,被告人はゴミステーション前で別れ
た後の被害者を見ていないというのであり,この点も自然なものとはい
えない。
その上で,前に指摘した点も踏まえれば,被告人の当該供述を採用す
ることはできない。
弁護人は,本件たばこについて,捜査機関などの第三者が置いたイまた,
可能性や,被告人が平成21年8月末に甲パークを訪れた際に吸ったもの
である可能性があると主張する。
しかしながら,捜査機関はOの目撃状況の聴取をしている際に,本件た
ばこを発見したものであり,その状況に照らすと,捜査機関が本件たばこ
をあらかじめ入手した上,発見場所に置いていたことを疑わせるような事
情はない。また,本件たばこは被害者の遺体が発見された場所から数十メ
ートル離れた遊歩道上から発見されたものであり,捜査機関以外の第三者
が被告人を犯人として陥れるために,あらかじめ本件たばこを入手し,発
見場所に置いたというには,迂遠に過ぎるというべきであり,考え難い。
また,本件たばこの状態からすれば,少なくとも,被告人が平成21年
8月末に甲パークに訪れた際に吸ったものであるというように,屋外で1
か月以上も置かれたものとみることもできない。
以上からすれば,弁護人の当該主張は採用できない。
6本件借金に関する被害者の追及と被告人への影響
関係各証拠によれば,以下の事実を認めることができる。()1
ア被害者は,その母親の目の手術の費用等で100万円を送金することが
必要となったところ,自らの預金が約30万円不足していたため,被告人
から本件借金を返済してもらう必要があった。
イ被害者の毎月の給料は約11万円であった。
ウ乙水産においては,会社より,中国人技能実習生に対し,トラブル防止
のため,中国人技能実習生同士で金銭の貸し借りをすることや男女交際を
することがないよう求められており,これに違反した場合は中国へ帰国し
てもらう可能性があると事前に伝えられていた。
エAが,平成21年3月ころ,Lと男女交際したことが乙水産に発覚した
際に,会社から注意され,始末書の提出と共に将来再び違反をしないよう
10万円の保証金の支払を求められたことがあった。
オ被告人は平成21年10月1日より以前に,女性従業員の胸を触ったこ
とにより,会社から既に注意を受け,次に問題を起こした場合には中国へ
帰国してもらうと告げられていた。
カ被告人は,交際するNと結婚し,その配偶者として日本で生活すること
を希望していた。
(2)以上を踏まえるに,まず,①被害者は,その毎月の給料が約11万円であ
る中,母親の目の手術費用等として100万円を送金する必要があったが,
約30万円が不足していたため,本件借金の返済を求めていたものであり,
被害者は平成21年10月1日の前にも本件借金の返済を求めていたことを
考え合わせれば,本件当日における本件借金に関する被害者の被告人に対す
る追及は厳しいものとならざるを得ない状況にあったというべきである。
そして,他方,②被告人にとって,被害者から本件借金に関し責任追及を
受け,さらにそれが乙水産に知られることは,既に女性従業員との関係で注
意を受けていた被告人にとって,中国へ帰国させられるかどうかに関わるも
ので,Nと交際し,結婚した上,日本で生活することを希望していた被告人
にとって,苦境に立たされる問題となっていたというべきである。
(3)これに対して,被告人は本件借金のことが発覚したとしても,乙水産から
帰国を命じられることはないと考えていたと供述する。また,弁護人は,他
の中国人技能実習生において,金銭の貸し借りや男女交際をしていた者がお
り,乙水産における金銭の貸し借りや男女交際については,実際には違反し
ても中国への帰国が求められるようなものではなかったと主張する。
確かに,他にも中国人技能実習生の間で金銭の貸し借りや男女交際があっ
たことは認められるが,それは中国人技能実習生間で会社には伝えないとい
う暗黙の了解があったからであり,それが会社に発覚しても構わないかどう
かは別問題というべきである。現に,Aについては,男女交際が発覚したた
め始末書の提出や10万円の保証金の支払を求められる事態となっている。
既に一度女性従業員の胸を触ったとして会社から注意を受け,Aのように保
証金を支払うこともできない被告人にとって,多額の借金や男女交際が会社
に発覚することは,中国へ帰国させられるおそれのある重大な事態であった
というべきである。
したがって,被告人の供述及び弁護人の当該主張を採用することはできな
い。
7B及びNに対する告白について
(1)関係各証拠によれば,被告人は,N及びBに対し,それぞれ平成21年1
0月20日,自らが犯人であると伝えたことが認められる。
(2)これに対し,被告人は,Nに対しては,本当は犯人ではないと言いたかっ
たが,日本語が分からず,言葉にできなかったとし,Bに対して言ったこと
については酒に酔っていて覚えていないと供述する。
しかしながら,関係各証拠によれば,被告人は日本語について流暢なもの
でなかったことは確かであるが,Nと平成21年5月ころから交際し,Nは
辞書を用いながら被告人と意思疎通を図っていたのであるから,そのような
Nとの間で,自らが犯人でないことすら,日本語が分からず終始伝えること
ができなかったというのは考え難い。
また,被告人は,Bのほか,Nに対しても自らが犯人であることを認めて
いることや,この点についてBに虚偽の供述をする事情も見いだし難いこと
からすれば,Bに対しても自らが犯人であることを認めたものというべきで
ある。
8その他の事情
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)被告人は,平成21年10月6日,Bに対し,本件借金の返済に充てる3
0万円を被告人が有していたことを警察に証言することを依頼したが,断ら
れた。
()被告人が平成21年10月1日に着ていたカーディガンの繊維と被害者の首2
に付着していた繊維は同種のものであった。
()被告人は,平成21年10月2日朝,前日に着ていたカーディガンとジーパ3
ンを洗濯した。
,,。,()被告人は平成21年10月13日首つり自殺を図ったこの点について4
被告人は,捜査機関に対し,当初,おもちゃで首をマッサージしていたことに
より,首に痕がついたと供述していた。
9小括(被告人の自白調書(乙2,20)以外の証拠からの判断)
平()以上を踏まえるに,①被告人は,本件借金が返済できない状況にあり,1
成21年10月1日午後6時以降に,ゴミステーション前でFと別れ,被害
者と2人きりとなった後,そのことについて責任追及を受けざるを得ない状
況にあったところ,②被告人は,その追及に対応するに当たり,被害者と共
にゴミステーション前から甲パークに移動し,話をしていたものである。
そして,③被害者は母親の目の手術費用等のため本件借金の返済を求める
必要があったこと等からすれば,被害者の追及は厳しいものとならざるを得
ない状況にあり,当該追及を受けることになる被告人は,勤務先によって中
国へ帰国させられること等に関して苦境に立つものであった。
そのうえで,④被害者は,被告人から本件借金の返済が受けられれば,Fの
待つ己水産寮に行く予定であり,他の行き先や会う予定の人物がいたわけでも
なかった。
そうであるとすれば,⑤被告人は,被害者との間で本件借金について解決が
できず,苦境に立つ中,被害者を思い余って殺害に及ぶ動機につながる事情が
あったものであり,さらに,被告人が甲パークにおいて被害者を殺害し,その
遺体を埋めたとする以外に,被害者が甲パークやそれ以外の場所で他の第三者
に殺害され,遺体が甲パークに埋められた可能性があるとは言い難いものとい
うべきである。
,,,()また以上に加え⑥被告人がB及びNに自らが犯人であると伝えたことは2
,,被告人が被害者を殺害しその遺体を埋めたからこそであると評価し得ること
⑦被告人がBに対し,被告人が本件借金返済のための30万円を有していたこ
との証言を依頼し,断られたことは,虚偽の証言を依頼したものと評価し得る
こと,⑧被告人が平成21年10月1日に着ていたカーディガンの繊維と被害
者の首に付着していた繊維は同種のものであったところ,両者はあくまで一致
したとまでいえるものではなかったが,被告人が被害者の首に接触するような
行動をとった可能性を示す限りでは一定の根拠となること,⑨被告人が平成2
1年10月2日の朝に前日に着ていたカーディガンとジーパンを洗濯したこと
は,その時期に照らしてみたときには,やはり犯行の痕跡を消す作業をしたも
のとの疑いを払拭できないこと,⑩被告人が自殺を図ったことは,当初はマッ
サージをしたものであると被告人がそのことを伏せる言動をしていたことから
すると,犯人であることによる自責の念により自殺を図ったが,その目的を達
せられず,そのことを伏せようとしたものと評価し得ることが指摘できる。
以上を総合すれば,被害者を殺害し,その遺体を甲パークに埋めたのは被告
人であると,相当程度推認できるというべきである。
()アこれに対して,弁護人は,被告人が被害者を殺害し,その遺体を甲パーク3
内に埋め,さらに凶器等を処分することは,被告人が丁水産・戊フーズ女子
寮に立ち寄っていること等を踏まえ,それに要する時間に照らして不可能で
あると主張する。
,,,しかしながら被告人が被害者を殺害した後その遺体を甲パークに埋め
凶器等を処分するのは,被告人が丁水産・戊フーズ女子寮に立ち寄るなどす
るまでに全てを終えたと限定的に考える必要はなく,被告人が平成21年1
0月1日午後10時20分ころに自らの寮の部屋に帰宅するまでの間に行う
ことも考えられ,弁護人の当該主張を採用することはできない。
また,弁護人は,被告人が被害者を殺害した後,同日午後10時20分こ
ろまでに,その遺体を甲パークに埋め,凶器等を処分したとすると,一連の
行動を機会を分けて行い,その間,丁水産・戊フーズ女子寮に立ち寄るなど
したことになるが,そのような行動は不自然であると主張する。
しかしながら,被告人が被害者を殺害した後,その遺体を埋めるまでいか
ずとも,遺体等を一時的に甲パーク内で,夜分人目につきにくいところに隠
した上,後の行為を行ったとしても,それ自体が不自然であるとはいえず,
また,一連の行為の途中に丁水産・戊フーズ女子寮に寄るなどした点につい
ても,Jから借金返済を求められていた状況等を踏まえると,不自然である
とまではいえない。
したがって,弁護人の当該主張についても採用できない。
被告人は,当初凶器や被害者の遺体を埋めるのに使っイまた,弁護人は,
た道具がわからず,Nに問われて初めて凶器がひもであったり,遺体を埋め
るのに使った道具がスコップであると答えたものであって,被告人が犯人で
あるならばそのような言動はあり得ないと主張する。
しかしながら,被告人は日本語を流暢に話すことができないところ,凶器
については,刃物等でなく,手でひもを用いて殺害したというところがNか
ら質問を受けるまで流暢に説明できなかったり,また,遺体を埋めた過程に
おいて,スコップのみでなく,付近にあった折れた木や手を用いた可能性が
ないものともいえず,Nとやりとりをする中で,そのような言動となったこ
と自体は不自然とはいえない。
したがって,弁護人の当該主張は採用できない。
ウその他,弁護人は,①Bに本件借金に関し証言を依頼したことは,捜査機
関からの取調べを免れたい一心であったこと,②被告人のカーディガンと被
害者の首に付着していた繊維については,被害者の殺害時に被告人のカーデ
ィガンの繊維が付着したと判断できるようなものではないこと,③被告人が
カーディガンとジーパンを洗濯したことは,それ自体不自然なものではない
こと,④被告人が自殺を図ったことは,捜査機関からの取調べ等で追いつめ
られた結果であること等を主張する。
しかしながら,Bに対する証言の依頼については,捜査機関からの取調べ
を免れたい一心であるということをもってして,前述の疑いを払拭できるも
のではない。また,その余の点については,弁護人の指摘する点を踏まえ,
その評価については慎重であるべきであるが,前述した限りの評価はなし得
,,るものというべきであって前記認定の事実を総合的に踏まえてみたときに
前記判断を左右するものではないというべきである。
(,。「」。)10被告人の捜査段階の自白調書乙220以下本件自白調書という
(1)任意性について
弁護人は,その弁論において,本件自白調書の任意性を争う主張を維持し
ているのか明らかでないところがあるが,念のため言及するに,関係各証拠
,,によれば本件においては捜査機関の逮捕前からの取調べが相当時間に及び
取調べの過程で被告人が全てを当初から語ったわけではなく,捜査機関の質
問を踏まえて,被告人が供述をしていた箇所があることはうかがえる。
しかしながら,関係各証拠によれば,捜査機関による被告人への暴力や脅
迫があったものとまでは認められないこと,取調べの時間については,通訳
を介するもので,通常に比べある程度時間を要するものとしてもやむを得な
いこと,本件事件を担当している弁護人が,被告人が初めて自白をし,逮捕
される前から数度にわたり接見に行き,被告人の主張を確認し,その権利等
について説明する機会があったこと,被告人は,初めて自白をする前に,一
度帰宅し,BやNに対しても自らが犯人であると言った上,自白に至ったこ
と,被告人は,自白した後も,犯行が計画的であったかについては,否定し
続けており,捜査機関の質問に言われるがまま供述しているわけでないこと
等からすれば,本件自白調書の任意性に疑いはないというべきである。
(2)信用性について
①被告人は,本件借金が返済できない状況にあり,アまず,前記のとおり,
平成21年10月1日午後6時以降に,被害者と2人きりとなった後,そ
のことについて責任追及を受けざるを得ない状況にあったこと,②被告人
は,その追及に対応するに当たり,被害者と共にゴミステーション前から
甲パークに移動し,話をしていたこと,③被害者は母親の目の手術費用等
のため本件借金の返済を求める必要があったこと等からすれば,被害者の
追及は厳しいものとならざるを得ない状況にあり,当該追及を受けること
になる被告人は勤務先によって中国へ帰国させられること等に関して苦境
に立つものであったことが認められるところ,本件自白調書はこれらの事
実と符合するものである。
そして,取調べ状況について,前記任意性について言及した点が指摘で
被告人は,捜査機関のみならず,B及びNに自らがきるものの,同様に,
犯人であると伝えたことや計画性については否認し続けていたこと等が指摘
できる。
イ他方,被告人の凶器や被害者の遺体を埋めるのに使用したスコップの入手
状況,被害者の遺体を埋めるのに要した時間や凶器等を捨てるまでの時間等
については,本件自白調書に記載されたとおりであったのか,関係各証拠を
踏まえるに,確かに疑義があるというべきである。
しかしながら,これらの事実は,いずれも被告人が凶器やスコップをあら
かじめ準備していたのかなど,犯行の計画性に関連する事項であり,犯行の
計画性について否認し続けた被告人が,これらの事実について,疑義のある
供述をしていたとしても,直ちに本件自白調書全体の信用性が欠けるとはい
えない。
ウそして,前記のとおり,本件自白調書は,被告人が平成21年10月1日
,,,午後6時以降被害者と共に甲パークに行きそこで本件借金を動機として
被害者を殺害するに至り,その遺体を埋めたとする点において,証拠上認め
られる事実と符合しており,信用できるというべきである。
エこれに対して,弁護人は,スコップから犯行現場の土が検出されていな
いこと,スコップや自転車から被告人の指紋が出ていないこと等を指摘し
て本件自白調書には信用性がないと主張する。
しかしながら,スコップから犯行現場の土が検出されていないことやス
,コップや自転車から被告人の指紋が出ていないことはそのとおりであるが
スコップの土の関係については,海中にあったスコップから犯行現場の土
が流され,海中の土が付着したとも考えられる。そして,指紋の関係につ
いては,全く検出されないことをどう考えるかは問題であるが,前述の事
実の符合状況等を踏まえたときに,このことをもって,本件自白調書の信
用性がないとはいえない。その他弁護人が指摘する点を踏まえて検討して
みても,本件自白調書全体の信用性は揺るがない。
11被告人の公判供述等
以上に対して,被告人は公判において,被害者を殺害し,その遺体を甲パ
ーク内に埋めたのは自分ではないと供述する。
しかしながら,被告人は本件借金の返済や被害者と甲パーク内で会ったこと
について事実と反する供述をしているものというべきであり,その他,これま
で指摘した諸点を踏まえれば,被告人の公判供述は信用できない。
12被告人以外の者による犯行の可能性について
弁護人は,被害者は性的暴行を受けた可能性があることや,被告人以外にも
中国人技能実習生や台湾国籍の者が甲パーク周辺に存在すること等を踏まえれ
ば,被告人以外の第三者の犯行の可能性があると主張する。
しかしながら,関係各証拠によれば,被害者から男性の精液が発見されてお
らず,遺体の服や身体の状態については,遺体を埋める作業中に生じたものと
して矛盾がなく,被害者が性的暴行を受けた上,殺害されたとは考え難い。
また,被害者の遺体が甲パーク内に埋められていること,被害者の自転車が
甲パーク付近の海岸近くの草むらに捨てられていたこと,被害者は被告人から
本件借金の返済を受けたわけでもなく,外見上金銭を持ち歩いているように見
,。えるわけでもないことからすると性的暴行以外の通り魔的な犯行も考え難い
次に,被告人以外で被害者と顔見知りの者による犯行の可能性について検討
するに,証拠上,被告人以外の中国人技能実習生の中に被害者と何らかのトラ
ブルを抱えていた者や本件当日午後6時以降に被害者と会った疑いのある者は
いない上,本件当日,被害者が被告人から借金の返済を受けるために外出し,
被告人と別れた後はFの待つ己水産寮に向かう予定であったことなどを踏まえ
ると,被害者が被告人以外の顔見知りの者に殺害され,遺体を遺棄されたとも
考え難い。
以上検討したとおり,本件においては,被告人以外の第三者が被害者を殺害
し,その遺体を遺棄した合理的な疑いはないというべきであり,弁護人の当該
主張は採用できない。
以上からすれば,まず,本件自白調書以外の関係各証拠を踏まえて,被害13
者を殺害し,その遺体を甲パークに埋めたのは被告人であると,相当程度推認
でき,それに加えて,本件自白調書の任意性に疑いはなく,その信用性につい
ても,被告人が平成21年10月1日午後6時以降,被害者と共に甲パークに
行き,そこで本件借金を動機として被害者を殺害するに至り,その遺体を埋め
すれば,被告人は,被害者を殺害たとする点において,信用できることから
し,その遺体を甲パーク内に埋めたものであると判断すべきである。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法199条に,判示第2の所為は同法190条にそ
れぞれ該当するところ,判示第1の罪について有期懲役刑を選択し,以上は同法4
5条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の
刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役
19年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中240日をその刑に算入し,
訴訟費用については刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させ
ないこととする。
(量刑の事情)
1本件は,被告人が,被害者の頸部にひも様のものを巻き付けて強く絞め付け,
窒息死させて殺害し(判示第1,被害者の遺体を埋めて遺棄した(判示第2))
事案である。
2本件では,被告人の刑を定めるに当たって,特に以下の事情を考慮した。
()まず,本件犯行態様及び犯行結果について検討する。被告人は,同じ中国人1
技能実習生である被害者に対し,殺意をもって,背後からひも様のものを頸部
に巻き付け,女性であり体格も劣り,被告人を友人と信じてついて行った被害
者の首を,甲状軟骨上骨が骨折するほどの強い力で絞め付け,被害者の力が抜
けるまで絞め続けて窒息死させて殺害し,引き続き,同人の遺体を公園内の土
中に埋めたものであり,その犯行態様は,極めて悪質というほかない。
被害者は,中国にいる家族の家計を助けるために日本に出稼ぎに来て真面目
,,に働いていたものであり被害者にとって大金である30万円を被告人に貸し
母親の目の手術費用など,家族への送金の必要に迫られて被告人にその返済を
,,求めていただけであるのに友人と信じていた被告人から理不尽にも殺害され
その遺体を土中に埋められたものであり,被害者の無念な気持ちと,中国で被
害者の帰りを待っていた被害者の家族や婚約者の悲しみは,心中を察するに余
りある。このように,本件犯行によって生じた結果は極めて重大であり,被害
。,者やその家族らの受けた苦痛も極めて大きいものである被害者の父親と弟は
犯人の極刑を希望するなど烈しい処罰感情を表している。
()次に,犯行に至る経緯や動機について検討する。被告人は,女性との交際費2
などに金銭を浪費する生活を送った結果,被害者や他の中国人技能実習生から
多額の借金をし,被害者から本件借金の返済を求められたが,返済することが
できなかったため,本件犯行に至ったのであるから,安易で身勝手な犯行であ
るといわざるを得ず,犯行に至る経緯や動機の点において被告人に酌むべき点
は全くない。
()さらに,被告人は,本件犯行後,一度は犯行を認めたものの,起訴後に犯行3
を否認するに至り,公判においても一貫して犯行を否認し,不合理な弁解に終
始している。また,被告人は,被害者を殺害した後,凶器を投棄するなどの証
拠隠滅を行ったほか,他の中国人技能実習生らに会いに行ったり電話で話した
りした際に動揺している様子はうかがわれなかったこと,被告人自身に対する
取調べが開始された数日後には,Bに対し,被告人が本件借金の返済に充てる
30万円を有していた旨の虚偽の証言を依頼するなどしていることを踏まえる
と,被告人が,本件犯行について反省しているとは認められず,犯行後の事情
も悪いといわざるを得ない。
()他方,被告人は,本件犯行後,一度は犯行を認め,そのときには本件犯行を4
悔いていた様子がうかがわれること,被告人には前科がないことや,現在25
歳と若く,矯正教育により更生する可能性があることなど,被告人に酌むべき
事情がないとはいえない。
,,3以上のとおり本件犯行態様の悪質性や生じた結果の重大性などを踏まえると
被告人のために酌むべき事情を最大限考慮しても,主文の刑に処するのが相当で
あると判断した。
(求刑懲役22年)
平成22年12月14日
函館地方裁判所刑事部
裁判長裁判官中桐圭一
裁判官大畠崇史
裁判官安井龍明

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