弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件抗告を棄却する。
2抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
第1抗告の趣旨
1原決定を取り消す。
2本件を大阪地方裁判所に差し戻す。
第2事案の概要
1本件は,滋賀県,京都府及び大阪府に居住する抗告人らが,電気事業法
54条所定の定期検査を実施中の福井県大飯郡α町に所在する原子力発電
所であるA株式会社B発電所第3号機及び第4号機につき,電気事業法施
行規則93条の3に基づく経済産業大臣からA株式会社への定期検査終了
証の各交付が行政処分に当たるとして,相手方を被告として定期検査終了
証の各交付の差止めを求める本案事件を提起するとともに,仮の救済とし
て,定期検査終了証の各交付の仮の差止めを申し立てた事案である(以下,
略称は原決定と同様とする。)。
2原決定は,施行規則93条の3に基づく定期検査終了証の交付は,行訴
法3条7項にいう処分と認められないので,上記定期検査終了証の各交付
の差止めを求める本案事件に係る訴えは不適法であり,かつ,その不備を
補正することができないから,本件申立ては適法な本案訴訟の係属を欠く
不適法な申立てであるとして,その申立てをいずれも却下したところ,抗
告人らがこれを不服として即時抗告を申し立てたものである。
3法令の定め,前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のと
おり補正するほかは,原決定の「事実及び理由」第2の1ないし3記載の
とおりであるから,同部分を引用する。
(原決定の補正)
(1)原決定5頁7行目冒頭から同頁9行目末尾までを,以下のとおり改
める。
「エB発電所第3号機について,現時点において,法54条1項に定
める定期検査は終了していない(公知の事実)。」
(2)原決定5頁23行目冒頭から同頁24行目末尾までを,以下のとお
り改める。
「エB発電所第4号機についても,現時点において,法54条1項に
定める定期検査は終了していない(公知の事実)。」
第3抗告の理由及びこれに対する相手方の意見
抗告人らの抗告の理由及び相手方の意見に対する反論は,別紙「即時抗
告申立書」の第3,2012年5月21日付け「主張書面」,同月23日
付け「主張書面(補充)」及び同年6月18日付け「主張書面(3)」のと
おりであり,これに対する相手方の意見は,別紙平成24年6月15日付
け「意見書」のとおりである。
第4当裁判所の判断
当裁判所も,施行規則93条の3に基づく定期検査終了証の交付は行訴
法3条7項の差止めの訴えの対象になる処分であると認めることはできず,
本件申立ては不適法であるから却下すべきであると判断する。その理由は,
後記1のとおり補正し,当審における抗告人らの主張にかんがみ後記2の
説示を付加するほかは,原決定の「事実及び理由」第3の1ないし3に記
載のとおりであるから,これを引用する。
1原決定の補正
(1)原決定10頁3行目の「総合負荷性能検査」を「以下「総合負荷性
能検査」という。」と改める。
(2)原決定16頁18,19行目の「顕著な事実」を「疎乙10」と改
める。
2当審における抗告人らの主張について
(1)施行規則93条の3に定める定期検査終了証の交付がいわゆる観念
の通知に当たることは,原決定の説示(原決定「事実及び理由」第3の
3(1))するとおりである(このことは,抗告人らも認めるところであ
る。)。抗告人らは,そのような事実行為であっても国民の権利義務に
影響を与えると認めるべき場合があり,最高裁判例によって認められた
ケースも少なくないところ,事実行為は,国民の権利義務を形成するこ
とを直接に目的とする行為ではないから,これが国民の権利義務にいか
なる影響を与えるかは,関連法令の定めのみならず,行政の実務上の運
用や背景となる社会的事実も踏まえてきめ細かく判断すべきであると主
張する。そして,抗告人らは,医療法の規定に基づき都道府県知事が病
院を開設しようとする者に対してした病院開設中止の勧告を抗告訴訟の
対象となる行政処分に当たると認めた最高裁判所平成17年7月15日
第二小法廷判決・民集59巻6号1661頁(以下「平成17年最判」
という。)を引用して,定期検査終了証の交付は行政処分であると認め
られるべきであると主張する。すなわち,本件においては,定期検査の
一環としてのいわゆる調整運転に入った原子炉について,経済産業大臣
から定期検査終了証が交付されない場合,電力会社が(調整運転名目で
の)運転を続けることは法令上可能であるとしても,市民からは,当該
原子炉が技術基準に適合しないものではないとの経済産業大臣の判断が
ないのに,事実上の営業運転を続けているものとみなされ,社会的に強
い非難にさらされるから,これを継続することは事実上不可能であるの
に対し,定期検査終了証が交付されれば,電力会社は堂々と(営業運転
の名目で)運転を続けることができ,電力会社に,確実に,当該原子炉
につき,今後13か月間の運転継続を可能にするという重大な利益を招
くのであり,平成17年最判の事例で,病院開設の中止勧告という事実
行為が,病院を開設しようとする者に,相当程度の確実さをもって,病
院開設自体を断念せざるを得なくなるという重大な不利益を招くという
重大な結果に至ることに着目して,上記勧告に処分性が認められたこと
からすると,平成17年最判の趣旨に従っても,経済産業大臣による定
期検査終了証の交付は行政処分であると認められるべきであると主張す
る。
(2)確かに,平成17年最判は,問題となった医療法の規定のみならず,
健康保険法の規定の内容や通達,運用の実情という,事実上発生する効
果をも考慮に入れて処分性の有無を判断している。しかし,これは,事
実行為については,当該根拠規定である法令の定めのみによって事実行
為単体で評価するのではなく,行政行為としての性質を持たない数多く
の行為が,普遍的かつ恒常的に重要な機能を果たし,これらの行為が相
互に組み合わされることによって一つの仕組みが作り上げられ,新たな
意味と機能を持つような場合には,その観点からも直接国民の権利義務
を形成し又はその範囲を確定するものといえるか否かを判断すべきであ
るとしたものと解されるのであり(上記平成17年最判と同種事案の最
高裁判所平成17年10月25日第三小法廷判決・裁判集民事218号
91頁の藤田宙靖裁判官の補足意見参照),およそ重大な結果が事実上
発生する場合について一般的に処分性を肯定するという趣旨とは解され
ない。本件においては,原決定が説示するとおり(原決定「事実及び理
由」第3の3(2)),定期検査終了証が交付されないことによって,原
子炉の運転が制限されるという法律効果が生じたり,定期検査終了証が
交付されることによってその制限が解除されて運転ができるようになる
という法律効果がもたらされるような法規の仕組みが採られているわけ
ではないのであり,定期検査終了証の交付行為が,その根拠となる法規
ないしこれに関連する法規の仕組みやその運用の実情等に照らして,直
接国民の権利義務を形成又はその範囲を確定することに結びついている
ともいえない。そうすると,平成17年最判を根拠として定期検査終了
証の交付行為に処分性を認めることはできないというべきである。
この点に関する抗告人らの主張は理由がない。
(3)抗告人らは,定期検査中のいわゆる調整運転(施行規則90条の2
第5号)は総合負荷性能検査のための運転であるから,発電用原子炉施
設が技術基準に適合しないものではないことが確認されていない段階で
の調整運転と,これが確認された定期検査後のいわゆる営業運転とは,
法律上も区別されていると解すべきであり,原子炉設置者が総合負荷性
能検査のために必要な合理的期間を超えて調整運転を続けることは社会
的にみて許容されないことからしても,定期検査終了証の交付によって,
実用発電用原子炉の設置者に対し,営業運転の再開を可能とさせる法的
効果があると主張する。
しかし,いわゆる調整運転と営業運転(通常運転)という用語は法令
上の用語でなく,原決定の「事実及び理由」第3の3(3)記載のとおり,
法的効果において差異が認められるものでもない。
原子炉設置者は,法49条所定の使用前検査を受けこれに合格すれば
原子炉を運転することができるのであるが,その後も継続して技術基準
適合義務(法39条)が課せられている状況下にあるのであり,技術基
準適合命令発令の要件が技術基準に適合していないと認められることの
みで(法40条),定期検査との関係について法令上何らの規定も設け
られていないことからしても,定期検査中であろうと,定期検査終了証
交付後であろうと,経済産業大臣は,当該原子炉が技術基準に適合して
いないと判断した場合には技術基準適合命令を発することができるので
ある。このことに照らしても,定期検査中の調整運転の状態と定期検査
終了証交付後の営業運転の状態に法的意味の差異を見出すことは困難で
ある。抗告人らが主張するような,定期検査終了証が交付されないまま
で調整運転を長期間継続して行うような事態は,実用発電用原子炉に関
する法令の予定するところではないといえるにしても,仮にそのような
事態が生じても,原子炉設置者の地位に法的意味での影響を及ぼすもの
とはいえない。
抗告人らの上記主張も理由がない。
(4)抗告人らは,定期検査を受けるか否かは原子炉設置者の意思による
ところ,原子炉設置者は,原子炉をしばらく運転する意思がなければ,
定期検査申請書を提出する必要はないから,法は,引き続き当該原子炉
を運転することを希望している原子炉設置者に対し,定期検査を申請す
る権利を与えたと解すべきであり,定期検査における具体的手続に徴す
れば,定期検査終了証の交付は,その応答処分であるというべきであり,
このことは上記交付が行政処分であることを基礎付けるなどと主張する。
抗告人ら主張のように,原子炉設置者において,原子炉をしばらく運
転する意思がなければ,定期検査申請書を提出する必要はないとはいえ
ても,原子炉を運転する意思を有する場合,原子炉設置者は定期的に定
期検査を受ける義務を有しているのであるから,原子炉設置者において,
定期検査を受けようとする場合には,定期検査申請書を希望する検査開
始日の1か月前までに提出しなければならないとされているのであり
(施行規則93条1項),そうすると,上記申請書の提出は,定期検査
を受ける際の手続の一環として,原子炉設置者が負う上記義務の履行と
して行われるものであり,かかる申請書の提出に関する定めをもって,
原子炉設置者に対し,定期検査に係る申請権を付与したものと解するこ
とはできない。また,定期検査終了証の交付を受けることによって原子
炉設置者の負う技術基準適合維持義務が免除ないし軽減される関係にな
いことに照らしても,定期検査終了証の交付は,上記申請に対する応答
処分としての効果を有するものとみることもできず,上記交付は,当該
定期検査の機会には事業者が不断に(すなわち定期検査終了証交付前後
を通じて)課せられている技術基準適合維持義務の不遵守が発見されな
かったことを原子炉設置者に通知することを意味するにすぎないものと
解される。
この点に関する抗告人らの主張も理由がない。
(5)抗告人らは,経済産業大臣が定期検査終了証を交付せず,技術基準
適合命令も発しないとき,原子炉設置者の権利救済のためには,定期検
査終了証の交付に処分性を認める必要があるとも主張する。
定期検査が終了し,技術基準適合性等に特段の問題が発見されず,技
術基準適合命令を発令するなどの必要がない場合には,定期検査終了証
の交付がされるのであるから(施行規則93条の3),これが交付され
ない場合を想定して,原子炉設置者の権利救済のために,定期検査終了
証の交付行為に処分性を認める必要はない。他方,再起動させた原子炉
について総合負荷性能検査の結果が技術基準に適合しないと判断された
ときは,原子炉の使用を一時停止すべきことを命じるなどの技術基準適
合命令が発せられることが想定されるが,その場合は,原子炉設置者に
おいてこれに不服があれば,技術基準適合命令の効力を抗告訴訟で争う
ことが可能であり,この場合も,原子炉設置者の権利救済のために,定
期検査終了証の交付行為に処分性を認める必要はない。そもそも,定期
検査終了証が交付されないことによって原子炉の運転が制限されるとい
う法律効果が生じたり,定期検査終了証が交付されることによってその
制限が解除されて運転ができるようになるという法律効果がもたらされ
るような法規の仕組みが採られているわけではないことは上記のとおり
であるから,抗告人らの上記主張はその前提を欠くものとして失当であ
るというほかない。
(6)抗告人らは,定期検査終了証の交付は,原子炉設置者に対し,今後
13か月間ないし18か月間,定期検査を受けることなく営業運転を続
ける地位を付与するものであり,この意味からも,行政処分であるとも
主張する。
しかしながら,原子炉設置者は,原子炉を運転する以上,不断に技術
基準適合義務(法39条)が課せられ,この義務を遵守する立場にある
のであり,定期検査終了証の交付によって,上記義務が免除ないし軽減
されるわけではないこと,他方,経済産業大臣は,定期検査中であろう
と,定期検査終了証交付後であろうと,当該原子炉が技術基準に適合し
ていないと判断した場合には技術基準適合命令を発することができる立
場にあることは上記のとおりであり,これらのことに照らすと,定期検
査終了証の交付後,原子炉設置者において,法ないし施行規則に基づき
今後13か月間ないし18か月間,定期検査を受けることなく営業運転
を続けることができるとしても,そのことを捉えて,定期検査終了証の
交付行為が直接原子炉設置者の権利義務を形成又はその範囲を確定する
ことに結びついているともいえず,同行為に行政処分性を認めることは
できないというべきである。
この点に関する抗告人らの主張も理由がない。
3以上によれば,施行規則93条の3に基づく定期検査終了証の各交付の
差止めを求める本案事件に係る訴えは不適法であり,かつ,その不備を補
正することができないから,本件申立ては適法な本案訴訟の係属を欠く不
適法な申立てといわざるを得ず,本件申立てを却下した原決定は相当であ
り,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり決
定する。
平成24年7月3日
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官小松一雄
裁判官植屋伸一
裁判官遠藤曜子

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