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平成26年1月22日判決言渡
平成23年(行ウ)第279号遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
主文
1大田労働基準監督署長が原告に対していずれも平成20年3月21日
付けでした労働者災害補償保険法による休業補償給付,遺族補償給付及び
葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
主文と同旨。
第2事案の概要
本件は,亡Aの妻である原告が,亡Aの肺がんによる療養及び死亡について,
亡Aが,勤務先において石綿ばく露作業に従事したことにより肺がんを発症し
たものであると主張して,大田労働基準監督署長(以下「労基署長」という。)
に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく休業
補償給付,遺族補償給付及び葬祭料の各支給を請求したところ,労基署長がこ
れらをいずれも支給しない旨の処分(以下「本件各不支給処分」という。)を
したことから,本件各不支給処分の取消しを求める事案である。
以下の1から3までの各事実は,掲記の証拠(なお,乙2に含まれる各文書
については,表題と乙2の頁数をもって表示する。以下同じ。)及び弁論の全
趣旨により認められる。
1前提となる事実
(1)当事者等
亡A(昭和8年▲月▲日生)は,昭和30年2月10日,B株式会社(昭
和38年にC株式会社と合併。現在の名称は「株式会社DE事業所」。以下,
上記合併等の前後を問わず「本件会社」という。)に入社し,平成5年2月2
8日,本件会社を定年退職し,平成18年▲月▲日,死亡した。
原告は,亡Aの妻であり,亡Aの死亡当時,亡Aと生計を同じくしていた。
(2)本件会社における亡Aの経歴
本件会社における亡Aの経歴は,以下のとおりである。
昭和30年2月10日入社
同年5月10日技術部発動機課
昭和34年2月24日原動機部機械課
昭和37年11月15日原動機工場機械課溶接係
昭和39年1月13日原動機工場溶接班長
昭和42年4月1日原動機工場溶接課溶接作業班長
昭和47年4月1日原動機工場整備管理者
昭和48年5月10日原動機工場溶接課第1溶接係長(職制)
昭和54年12月1日原動機工場溶接課技師
平成5年2月28日定年退職
この間,亡Aは,主としてαの原動機工場における航空機のエンジン部品
の修理に係る溶接作業のほか,溶接技術の研究,開発,指導等に従事してい
た。
(甲23,乙2(石綿業務従事証明〔128頁〕,面談調査報告書〔173頁
から175頁まで〕,Aさんの経歴〔185頁〕))
(3)亡Aの肺がんによる死亡
亡Aは,平成17年8月15日,Fセンターを受診したところ,原発性肺
がん(肺腺がん)と診断され,3回にわたる入院治療の末,平成18年▲月
▲日,肺がんにより死亡した(死亡時73歳)。
(甲15から17まで,34,乙2(死亡診断書〔136頁〕,意見書〔16
2頁から164頁まで〕))
(4)亡Aの肺組織に関する医学的所見等
ア平成17年8月15日にFセンターにおいて行われた胸部エックス線検
査及び胸部CT検査において,亡Aには,石綿肺及び胸膜プラークの所見
のいずれも認められなかった。
また,平成18年▲月▲日,Fセンターにおいて病理解剖が行われた
際の組織学的検索において,亡Aの肺内に石綿小体の存在は認められなか
った。
(甲2,乙2(意見書2通〔160頁から164頁まで〕,病理解剖診断報
告書〔165頁〕))
イ平成19年3月20日に独立行政法人労働者健康福祉機構G病院におい
て行われた亡Aの肺組織検体の位相差顕微鏡による石綿小体の計数結果
(乾燥肺重量1グラム当たりの本数)は,右肺下葉につき122本,左肺
下葉につき469本であった。
(甲3,乙2(石綿小体計測結果報告書〔166頁から168頁まで〕,ホ
ルマリン固定肺組織の提供について(回答)〔169頁,170頁〕,意見
書〔171頁,172頁〕))
ウ平成19年12月21日付けで独立行政法人労働安全衛生総合研究所が
労基署長に報告した亡Aの肺組織検体の分析透過型電子顕微鏡による石綿
繊維の計数結果(乾燥肺重量1グラム当たりの本数)は,以下のとおりで
あった。
(ア)右肺下葉
a総石綿繊維数154万本(うちクリソタイル136万本,クロシド
ライト8.5万本,トレモライト8.5万本)
b1μm超の石綿繊維数102万本(うちクリソタイル85万本,ア
モサイト8.5万本,クロシドライト8.5万本)
c5μm超の石綿繊維数検出下限値(8.5万本)未満
(イ)左肺下葉
a総石綿繊維数273万本(うちクリソタイル170万本,アモサイ
ト34万本,クロシドライト34万本,トレモライト34万本)
b1μm超の石綿繊維数255万本(うちクリソタイル153万本,
アモサイト34万本,クロシドライト34万本,トレモライト34万
本)
c5μm超の石綿繊維数51万本(うちアモサイト34万本,クロシ
ドライト17万本)
(甲4,乙2(原動機工場溶接作業者の肺内石綿繊維数濃度の計数結果〔1
54頁から156頁まで〕))
(5)本件訴訟に至る経緯
原告は,労基署長に対し,平成19年5月16日,労災保険法に基づく遺
族補償給付(遺族補償年金)及び葬祭料の各支給を請求し,同年6月1日,
亡Aの平成17年8月15日から平成18年▲月▲日までの328日間の
肺がん療養に係る休業補償給付の支給を請求した(以下,これらの請求を「本
件各請求」という。なお,亡Aによる生前の休業補償給付の支給請求は行わ
れていない。)が,労基署長は,いずれも平成20年3月21日付けで,亡
Aの肺がんが,労働基準法施行規則(平成25年9月30日厚生労働省令第
113号による改正前のもの。以下「労基則」という。)別表第1の2第7
号7に定める「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫」には該当し
ないとの理由により,本件各不支給処分をした。
原告は,東京労働者災害補償保険審査官に対し,平成20年5月13日付
けで審査請求をしたが,同審査官は,平成22年1月8日付けで上記審査請
求を棄却する旨の決定をした。
原告は,労働保険審査会に対し,平成22年2月25日付けで再審査請求
をしたが,同審査会は,同年11月4日付けで上記再審査請求を棄却する旨
の決定をした。
原告は,平成23年4月27日,本件各不支給処分の取消しを求める本件
訴えを提起した。
(甲5,乙1,2(労働保険再審査請求書〔1頁〕,休業補償給付支給請求書
及び不支給決定通知〔129頁から132頁まで〕,遺族補償年金支給請求書
及び不支給決定通知〔133頁から135頁まで〕,葬祭料請求書及び不支給
決定通知〔137頁から141頁まで〕,労働保険審査請求書〔280頁から
282頁〕,決定書〔283頁から309頁まで〕),当裁判所に顕著な事実)
2石綿の定義,種類,性質等
(1)石綿とは,これまで産業用に使用されてきた繊維状の鉱物の総称であり,
その種類は,蛇紋石族石綿と角閃石族石綿に大別され,蛇紋石族石綿にはク
リソタイル(白石綿)が,角閃石族石綿にはアモサイト(茶石綿),クロシ
ドライト(青石綿),アンソフィライト,トレモライト及びアクチノライト
がそれぞれ含まれる。これまで世界で使用された石綿の9割以上を占めてい
るのはクリソタイルであり,角閃石族石綿のうち大量に使用されたのは,ア
モサイト及びクロシドライトである。
(乙21)
(2)石綿ばく露により肺内に吸入された比較的長い石綿繊維は,体内で消失す
ることなく長期間肺内に滞留し,その一部の表面に鉄質蛋白が付着して亜鈴
状の小体(石綿小体)を形成することがあるところ,肺内に吸入された石綿
繊維は,下肺野により多く集積する傾向があることから,石綿小体及び石綿
繊維は,一般に肺の上葉部よりも下葉部に多くみられる。
(甲32,乙3,8,18)
(3)クリソタイルは,角閃石族石綿と比較して,生体液の作用による溶解及
びマクロファージによる運搬排出の両作用により体内で消失しやすく,肺内
吸入後に他の部位に移動する度合も大きい。また,これらの性質に加え,ク
リソタイルは,表面がプラスに帯電しているため鉄質蛋白を吸着し難いなど
の性質を有しており,結果として,角閃石族石綿に比べて石綿小体を形成し
難いという特質を有している。
(甲13,29,32,乙3,6,8,10,13,18,23の1・2)
3石綿ばく露作業と肺がん発症との因果関係に関する医学的知見及び認定基準
(1)石綿ばく露と肺がん発症との関係
石綿ばく露と肺がん発症との間には,石綿累積ばく露量が増加すれば肺が
ん発症率が高まるという直線的な量-反応関係が存在する。しかし,肺がん
については,石綿に特異的な疾患である中皮腫とは異なり,喫煙を始めとす
る石綿以外の発症原因が多く存在する一方で,石綿による肺がんと石綿以外
の原因による肺がんとを医学的に区別することはできない。
そこで,肺がん発症の原因を石綿ばく露とみなすためには,疫学的観点に
照らして,肺がん発症の相対リスクを2倍以上に高める(危険要因のばく露
を受けた人口群における健康障害の発症数が,当該危険要因のばく露を受け
ない人口群における発症数の2倍以上となる)石綿累積ばく露量の存在が必
要であると解するのが合理的であるとされている。なお,肺がん発症の相対
リスクを2倍以上に高める石綿累積ばく露量については,石綿の種類を区別
することなく,25本/ml×年(「本/ml×年」は,空気1ミリリットル
当たりの石綿繊維数にばく露年数を乗じた値の単位。)とするのが妥当とされ
ている。
(甲29,33,乙3,6,7,13,14,16,23の1・2)
(2)ヘルシンキ国際専門家会議において合意された判断基準
1997年(平成9年)1月,フィンランドのヘルシンキにおいて,石綿
産出国以外の8か国から19人の専門家が参加して,石綿,石綿肺及びがん
についての国際専門家会議が開かれ,同会議において,石綿関連疾患の診断
及び原因の特定に関する最新基準(以下「ヘルシンキ基準」という。)の合意
が得られた。ヘルシンキ基準のうち,肺がんに関連する内容は,以下のとお
りである。
ア臨床目的で,職業上の石綿粉じんばく露の可能性が高い人を特定するた
めに推奨される基準は,専門の実験室における電子顕微鏡での計数結果と
して,乾燥肺重量1グラム当たりの角閃石族石綿の繊維数が10万本以上
(5μm超)若しくは100万本以上(1μm超)の場合,又は,専門の
実験室における光学顕微鏡での測定結果として,乾燥肺重量1グラム当た
りの石綿小体数が1000本以上の場合である。
イ肺がん発症の相対リスクを2倍以上に高める25本/ml×年の石綿累
積ばく露量の指標としては,以下の場合が挙げられる。
(ア)1年の高濃度石綿ばく露(石綿製品製造,石綿吹き付け,石綿製品
による断熱作業,古い建築物の解体)又は5年から10年の中等度石綿
ばく露(建築,造船)
(イ)乾燥肺重量1グラム当たりの角閃石族石綿の繊維数200万本(5
μm超)又は500万本(1μm超)
(ウ)乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数5000本から1万500
0本(ただし,乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が1万本未満の
場合には,電子顕微鏡による繊維分析が推奨される。)
ウクリソタイル繊維は,クリアランス(浄化)の速度が速く,角閃石族石
綿繊維と同程度には肺組織内に蓄積されない。そのため,クリソタイルに
よる肺がん発症の危険度については,肺組織内の繊維分析よりも,職業歴
(繊維数×曝露年数)の方がより良い指標となる。
エ25本/ml×年の石綿累積ばく露量の存在を認める上で,上記イのす
べての基準が満たされている必要はない。明確な職業上のばく露歴を有す
るが,肺組織内の繊維数が少量である場合や,肺組織内に高濃度の繊維数
が検出されるが,職業上のばく露歴が不明確又は短期である場合等には,
上記の石綿累積ばく露量の存在を認めて差し支えない。
(甲29,乙6,7,23の1・2)
(3)石綿による疾病の業務上外認定基準に関する行政通達
労働省又は厚生労働省(以下「厚労省」という。)は,昭和53年以降,
石綿による疾病の業務上外認定基準に関する行政通達を定め,これを順次改
定してきた。これらの内容,変遷状況等は,以下のとおりである。
ア「石綿による疾病」及び「石綿ばく露作業」の定め
昭和53年以降の前述の一連の行政通達は,「石綿による疾病」(石綿と
の関連が明らかな疾病)の一つとして肺がんを定め,また,「石綿ばく露
作業」(石綿による疾病の発生のおそれのある作業内容)の一つとして,「耐
熱性の石綿製品を用いて行う断熱被覆」(後述の昭和53年認定基準)あ
るいは「耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又
はその補修作業」(後述の平成15年認定基準,平成18年認定基準及び
平成24年認定基準)を定めている。
(甲6,7,乙4の1,乙15,17)
イ一連の行政通達の内容,変遷状況等
(ア)昭和53年10月23日付け労働省労働基準局長通達「石綿ばく露
作業従事労働者に発生した疾病の業務上外の認定について」(基発第58
4号。以下「昭和53年認定基準」という。)
労働省設置の医学専門家による「石綿による健康障害に関する専門家
会議」は,昭和53年9月18日付けで,「石綿による健康障害に関する
専門家会議検討結果報告書」(以下「昭和53年報告書」という。)を作
成した。昭和53年報告書においては,石綿ばく露と肺がん発症との関
係について,当時の疫学調査結果から,石綿ばく露量が大となるにつれ
て肺がん発生の超過危険が大きくなる傾向がみられ,症例としては石綿
ばく露期間がおおむね10年を超える労働者に発生したものが多いが,
高濃度で比較的短期間の石綿ばく露を受けた作業者や,一時的に高濃度
の石綿ばく露を受ける作業が間けつ的に行われる業務に従事した労働者
に肺がん発生がみられたこともあるので,これらの症例における石綿ば
く露と肺がんとの関連については,石綿ばく露歴,臨床所見,病理学的
所見等を調査の上,個別に詳細な検討が加えられるべき旨が報告されて
いる。
労働省労働基準局長は,昭和53年報告書の内容を踏まえ,同年10
月23日付けで昭和53年認定基準を定め,都道府県労働基準局長あて
に発出した。
昭和53年認定基準のうち肺がんに関連する内容は,以下のとおりで
ある。
a石綿肺の所見が認められない石綿ばく露作業従事労働者に発生した
原発性肺がんについては,①石綿ばく露作業への従事期間がおおむね
10年以上であり,かつ,②肺組織内の石綿繊維又は石綿小体等の病
理学的所見が得られている場合には,労基則別表第1の2第7号7に
該当する業務上の疾病として取り扱う。
b石綿ばく露作業従事労働者に発生した肺がんのうち,上記aに該当
しない肺がんについては,例えば,比較的短期間に高濃度の石綿ばく
露を受ける作業又は一時的に高濃度の石綿ばく露を間けつ的に受ける
作業に従事した労働者に肺がん発生がみられたこともあるので,かか
る労働者に発生した肺がんについては,石綿ばく露作業の内容,同従
事歴,臨床所見,病理学的所見等を調査の上,関係資料を添えて本省
にりん伺する。
(甲6,乙16,17)
(イ)平成15年9月19日付け厚労省労働基準局長通達「石綿による疾
病の認定基準について」(基発第0919001号。以下「平成15年認
定基準」という。)
厚労省設置の医学専門家による「石綿ばく露労働者に発生した疾病の
認定基準に関する検討会」は,平成15年8月26日付けで,「石綿ばく
露労働者に発生した疾病の認定基準に関する検討会報告書」(以下「平成
15年報告書」という。)を作成した。
厚労省労働基準局長は,平成15年報告書の内容を踏まえ,平成15
年9月19日付けで,平成15年認定基準を定め,都道府県労働局長あ
てに発出し,平成15年認定基準の施行に伴い,昭和53年認定基準を
廃止した。
平成15年認定基準のうち肺がんに関連する内容は以下のとおりであ
るところ,その内容については,昭和53年認定基準の内容をおおむね
踏襲したものとなっている。
a石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,①石綿ばく露
作業への従事期間が10年以上あり,かつ,②肺組織内に石綿小体又
は石綿繊維が認められる場合には,労基則別表第1の2第7号7に該
当する業務上の疾病として取り扱う。
b上記aに該当しない原発性肺がんであって,上記a①又は②に該当
する事案は,本省に協議する。
(甲7,乙2(平成15年報告書〔25頁〕))
(ウ)平成18年2月9日付け厚労省労働基準局長通達「石綿による疾病
の認定基準について」(基発第0209001号。以下「平成18年認定
基準」という。)
環境省及び厚労省設置の医学専門家による「石綿による健康被害に係
る医学的判断に関する検討会」は,平成18年2月,「『石綿による健康
被害に係る医学的判断に関する考え方』報告書」(以下「平成18年報告
書」という。)を作成した。平成18年報告書においては,新たに累積ば
く露量と肺がん発症の関係等に関する医学的知見(前記(1),(2)等)を
踏まえた平成15年認定基準の再検討が行われ,その結果,肺がん発症
の原因を石綿ばく露とみなすための相対リスクが2倍となる石綿累積ば
く露量(25本/ml×年)に相当する指標につき,①医学的指標とし
ては肺内石綿繊維数又は石綿小体数等が,職業ばく露歴に関連した指標
としては石綿ばく露作業従事期間がある,②肺内石綿繊維数又は石綿小
体数による指標としては,乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数50
00本以上又は石綿繊維数(角閃石族石綿のみならず,クリソタイルも
含む。)200万本以上(5μm超)若しくは500万本以上(2μm
超)の場合に,肺がん発症の相対リスクが2倍以上であると判断し得る
が,石綿小体数と石綿繊維数を比べた場合,石綿繊維数の方がより正確
にばく露量を反映するので,電子顕微鏡を用いて石綿繊維数を測定する
のが最も望ましいほか,石綿小体は,角閃石族石綿(クロシドライト,
アモサイト)についてはばく露の良い指標となるが,クリソタイルにつ
いては,前記2(3)の性質から実際のばく露量とずれを生じる可能性があ
る,③石綿ばく露作業従事期間による指標については,我が国における
業種別,職業別等のばく露濃度に関する数値データが存在せず,同業種,
同職種でも作業内容やその頻度によって石綿ばく露の程度に差があり,
業種,職種等をもって石綿ばく露の濃淡を評価することが困難であるこ
とから,業種,職業等の別を問わず,原則として石綿ばく露作業におお
むね10年以上従事した場合に,肺がん発症の相対リスクが2倍以上で
あると判断し得るが,作業従事期間だけを判断指標とすることは,石綿
ばく露作業の内容,頻度及び程度によっては,必ずしも25本/ml×
年の累積ばく露量を満たすとは限らず,石綿ばく露に関する医学的所見
を併せて評価することが必要である,等と報告されている。
厚労省労働基準局長は,平成18年報告書の内容を踏まえ,平成18
年2月9日付けで,平成18年認定基準を定め,都道府県労働局長あて
に発出し,平成18年認定基準の施行に伴い,平成15年認定基準を廃
止した(なお,平成18年認定基準のうち,肺がんに関する部分につい
ては,平成22年12月10日付け厚労省労働基準局長通達「石綿によ
る疾病の認定基準の一部改正について」(基発第1210第6号)により
一部改正され,後記bの「乾燥肺重量1グラム当たりの石綿繊維数50
0万本以上」という基準の対象となる石綿繊維の長さについて,従前「2
μm」とされていたのが「1μm」に改められ,同改正内容が,平成1
8年2月9日にさかのぼって適用された。以下において,「平成18年認
定基準」という場合には,上記改正後のものをいうものとする。)。
平成18年認定基準のうち肺がんに関連する内容は,以下のとおりで
ある。
a石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,①肺内に石綿
小体又は石綿繊維が認められ,かつ,②石綿ばく露作業への従事期間
が10年以上ある場合には,労基則別表第1の2第7号7に該当する
業務上の疾病として取り扱う。
b石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,乾燥肺重量1
g当たりの石綿小体数が5000本以上又は石綿繊維数が200万本
以上(5μm超)若しくは500万本以上(1μm超)認められる場
合は,石綿ばく露作業への従事期間が10年未満でも,業務上の疾病
として取り扱う。
c石綿ばく露作業への従事期間が10年未満の事案であっても,肺内
に石綿小体又は石綿繊維が認められる場合は,本省に協議する。
(乙3,4の1・2)
(エ)平成19年3月14日付け厚労省労働基準局労災補償部補償課長通
達「石綿による肺がん事案の事務処理について」(基労補発第03140
01号。以下「平成19年通達」という。)
厚労省労働基準局労災補償部補償課長は,平成18年認定基準の運用
に関する事務処理についての通達として,平成19年3月14日付けで,
平成19年通達を定め,都道府県労働局労働基準部長あてに発出した。
平成19年通達は,平成18年認定基準において,肺がん発症の相対
リスクを2倍に高める石綿ばく露量の指標として,乾燥肺重量1グラム
当たり5000本以上の石綿小体が認められる場合が挙げられていると
ころ,石綿ばく露作業に10年以上従事した場合にも,肺がん発症の相
対リスクが2倍と評価されていることから,石綿ばく露作業に10年以
上従事した労働者の肺内には,石綿小体に関し,「乾燥肺重量1グラム当
たり5000本以上」と同水準のばく露量が想定されるとする。その上
で,平成19年通達は,石綿小体数が乾燥肺重量1グラム当たり500
0本を下回る場合には,「乾燥肺重量1グラム当たり5000本以上」と
同水準のばく露とみることができるかどうかという観点から,作業内容,
頻度,ばく露形態,石綿の種類,肺組織の採取部位等を勘案し,総合的
に判断することが必要であるから,「乾燥肺重量1グラム当たり5000
本以上」の基準に照らし,石綿小体数が明らかに少ない場合は,本省に
照会されたいとしている。
(乙5)
(オ)平成24年3月29日付け厚労省労働基準局長通達「石綿による疾
病の認定基準について」(基発第0329第2号。以下「平成24年認定
基準」という。)
厚労省設置の医学専門家による「石綿による疾病の認定基準に関する
検討会」は,平成24年2月,「石綿による疾病の認定基準に関する検討
会報告書」(以下「平成24年報告書」という。)を作成した。平成24
年報告書は,平成18年報告書以降の石綿による肺がんに関する重要な
知見を収集,検討した結果として,肺がん発症の相対リスクを2倍に高
める25本/ml×年の石綿累積ばく露量の指標につき,①肺内石綿繊
維数又は石綿小体数による指標については,クリソタイルのクリアラン
スの程度が大きいとされる一方で,クリソタイルによる肺がん発症リス
クが角閃石族石綿と比較して低いとする報告が多数存在しており,これ
らの報告を踏まえると,クリソタイルによる肺がん発症リスクは,角閃
石族石綿と比べて1/10以下の低いものと考えられ,クリソタイルに
ついては,クリアランスの影響が最大に現れたとしても,肺がん発症リ
スクの低さを考慮すれば,角閃石族石綿以上の肺内石綿繊維数がなけれ
ば,肺がん発症の相対リスクが2倍となる石綿ばく露量に至らないとい
う結果になる,②これらを総合的に勘案すれば,クリソタイルについて
角閃石族石綿と同じ基準で評価する平成18年認定基準の内容は,石綿
ばく露労働者の幅広い救済という観点を考慮したものと判断される,③
ただし,石綿小体については,肺の各葉での分布が異なる可能性や,ク
リソタイル繊維では形成されにくい旨の特性等を考慮する必要があるこ
とから,従前と同様,石綿小体数が乾燥肺重量1グラム当たり5000
本未満であることをもって直ちに業務外とせず,職業ばく露が疑われる
レベルである乾燥肺重量1グラム当たり1000本以上ある事案につい
ては,本省の検討会で個別に審査する方法を継続するのが妥当である,
労災補償の対象と判断するためには,労働者としての石綿ばく露作業
従事歴が1年以上あるとの要件を付加すべきであり,同従事歴が1年未
満である場合は,職業ばく露以外の要因についての検討が必要である,
石綿ばく露作業従事期間による指標については,石綿小体計測が行わ
れた3000件余の事例について,労働者が従事していた作業の種類ご
とに分類の上,各事例の乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が50
00本に到達する期間を推定して比較検討した結果,3種の作業(①石


綿糸,石綿布等の石綿紡績製品製造作業,②石綿セメント又はこれを原
料として製造される石綿スレート,石綿高圧管,石綿円筒等のセメント
製品の製造工程における作業,③石綿の吹き付け作業)のいずれかに従
事した者については,その期間が5年程度であることが確実である場合
には,肺がん発症の相対リスクが2倍以上になる石綿ばく露があったも
のとみなすことに合理性がある一方,それ以外の作業従事者については,
乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が5000本に到達する期間に
大きな差が認められ,作業内容や従事頻度により累積ばく露量が大きく
異なることが改めて示唆されており,石綿ばく露作業従事期間によって
累積ばく露量を推定することは,現在までに我が国で得られた知見から
は適当ではないとする。
厚労省労働基準局長は,平成24年報告書の内容を踏まえ,平成24
年3月29日付けで,平成24年認定基準を定め,都道府県労働局長あ
てに発出し,平成24年認定基準の施行に伴い,平成18年認定基準を
廃止した。
平成24年認定基準のうち,肺がんに関連する内容は,以下のとおり
である。
a石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,①乾燥肺重量
1グラム当たりの石綿小体数が5000本以上又は石綿繊維数200
万本以上(5μm超)若しくは500万本以上(1μm超)の所見が
得られ,かつ,②石綿ばく露作業への従事期間が1年以上ある場合に
は,労基則別表第1の2第7号7に該当する業務上の疾病として取り
扱う。
b石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,①石綿糸,石
綿布等の石綿紡績製品の製造工程における作業,②石綿セメント又は
これを原料として製造される石綿スレート,石綿高圧管,石綿円筒等
のセメント製品の製造工程における作業,③石綿の吹き付け作業のい
ずれかの作業への従事期間又はそれらを合算した従事期間が5年以上
ある場合は,上記aの基準にかかわらず,業務上の疾病として取り扱
う。
c乾燥肺重量1グラム当たり1000本以上5000本未満の石綿小
体が認められるものについては,関係資料を添えて本省に協議する。
(乙13,15)
4争点及び当事者の主張
本件の争点は,亡Aの療養及び死亡の原因である肺がんの業務起因性の有無
であり,これに関する当事者の主張は,以下のとおりである。
(1)原告の主張
ア業務起因性に関する判断基準について
(ア)厚労省が定める業務上外認定基準に関する行政通達は,業務上外認
定に関する行政判断の統一を図るために活用されているものであり,行
政手続法5条に規定する審査基準にも該当することから,少なくとも処
分時に適用のある行政通達における業務上外認定基準の要件に該当すれ
ば,直ちに業務上認定がなされるべきである。本件各不支給処分時に適
用されていたのは平成18年認定基準であり,労基署長は,平成18年
認定基準に法的に拘束され,これを遵守すべきものであるから,平成1
8年認定基準の要件を満たすにもかかわらず,業務上認定をしない場合
は違法であり,その不支給処分は取消しを免れない。
(イ)昭和53年認定基準,平成15年認定基準及び平成18年認定基準
は,多少の表現上の相違を除き,業務上認定の要件として,①石綿ばく
露作業への従事期間が10年以上あり,かつ,②肺内に石綿小体又は石
綿繊維が認められる場合という二つの要件のみを一貫して掲げている。
平成18年認定基準において新たに付加された石綿小体又は石綿繊維の
具体的な数値基準(乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数5000本
以上又は石綿繊維数200万本以上(5μm超)若しくは500万本以
上(1μm超))は,石綿ばく露作業への従事期間が10年未満の場合(上
記①の要件を満たさない場合)でも,一定数以上の石綿小体又は石綿繊
維が認められた場合には業務上認定をする旨を新たに定め,従前の業務
上認定の要件を緩和する趣旨で設けられたものである。
(ウ)平成19年通達は,石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あり,
かつ,肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められる場合(上記(イ)①及び
②の要件を満たす場合)であっても,石綿小体の具体的な数値基準(乾
燥肺重量1グラム当たり5000本以上)を業務上認定の要件に加える
ことによって,平成18年認定基準における業務上認定の要件を狭める
ものであり,局長名義による平成18年認定基準の内容を,職制上下位
に位置する課長名義による通達によって実質的に変更するという不当な
ものである。また,医学的知見においても,クリソタイルは,クリアラ
ンスの程度が大きい上,石綿小体を形成しにくい性質を有しており,石
綿小体数は,クリソタイルの実際のばく露量の指標として適切ではない
とされているところ,平成19年通達は,クリソタイルのばく露を受け
ていた者を含め,一定数以上の石綿小体の存在を業務上認定の不可欠な
要件とする点において,医学的知見に反する不合理なものである。よっ
て,平成19年通達の内容を前提に,業務起因性の判断を行うのは違法
である。
(エ)平成24年認定基準は,本件各不支給処分時には存在しなかった通
達であり,その内容の如何は,本件各不支給処分の違法性とは無関係で
あって,この点について論じる被告の主張は失当である。
イ亡Aの石綿ばく露作業への従事期間,ばく露濃度等について
本件会社における亡Aの石綿ばく露作業への従事期間は,昭和30年5
月(技術部発動機課への配属時)から平成5年2月(定年退職時)までの
約38年間である。その間,亡Aは,航空機のエンジン部品の溶接作業に
従事しており,同作業時には,石綿が使用された手袋及び防熱衣を着用し,
断熱材又は保温材として使用する石綿(クリソタイル)が加熱後に乾燥し
て飛散する中で,飛散する石綿を息で飛ばしながら溶接作業を行っていた
ところ,溶接作業後には,乾燥した石綿の除去作業が行われることもあり,
溶接作業場内では,他の従業員の溶接作業に伴うものも含め,就労時間中,
常時石綿ばく露を受ける状況にあった。また,亡Aは,原動機工場溶接課
第1溶接係長(職制)となった昭和48年5月以降も,度々溶接作業場に
出向いては,後進に対する溶接技術の指導を行っており,依然として石綿
ばく露を受けていた。よって,亡Aは,ヘルシンキ基準にいう石綿製品製
造作業や石綿吹き付け作業と同程度の高濃度石綿ばく露,あるいは高濃度
とまではいえなくとも,中等度石綿ばく露を受けていたものといえる。
ウ業務起因性について
亡Aにおいては,約38年間にわたる石綿ばく露作業への従事期間が認
められ,かつ,肺内に石綿小体及び石綿繊維が認められることから,平成
18年認定基準における業務上認定の要件を満たしていることは明らかで
ある。また,仮に,亡Aの肺がんの業務上外認定において,上記以外の事
情を総合考慮する必要があるとしても,亡Aの石綿ばく露の程度は前述の
とおり高濃度あるいは中等度であるほか,肺内の石綿繊維数は,ヘルシン
キ基準における職業上の石綿粉じんばく露の可能性が高い人を特定するた
めに推奨される基準を超えていることからすれば,亡Aの肺がんについて
は,業務上の石綿ばく露に起因するものと認めるのが相当である。
亡Aの肺内石綿小体数及び石綿繊維数が,肺がんの発症リスクを2倍に
高める石綿累積ばく露量の指標となる一定数に達していないという事実は,
クリアランスの程度が大きく,石綿小体を形成しにくいというクリソタイ
ルの性質に照らして,必ずしも肺がんの発症リスクを2倍に高める石綿累
積ばく露量が存在しなかったことを裏付けるものとはいえない。
(2)被告の主張
ア業務起因性に関する判断基準について
(ア)平成18年認定基準は,その文言上,①石綿ばく露作業への従事期
間が10年以上あり,かつ,②肺内に石綿小体又は石綿繊維がわずかで
も認められれば,すべからく業務起因性を認めることができるかのよう
な規定となっている。しかし,現在の医学的知見によれば,石綿ばく露
作業への従事期間が10年以上認められても,肺内に一定数の石綿小体
又は石綿繊維が認められない場合には,必ずしも肺がん発症の相対リス
クを2倍に高めるほどの石綿累積ばく露量が存在したとはいえないとこ
ろ,平成18年認定基準は,上記医学的知見を踏まえた上で,石綿ばく
露作業従事期間のみを指標とせず,肺内石綿小体数や石綿繊維数等の医
学的所見をも併せて考慮することとしたものである。すなわち,肺がん
発症の相対リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量が存在したとすれば,
肺内にわずかの石綿小体しか存在しないということは考えられず,上記
の石綿累積ばく露量に相当する乾燥肺重量1グラム当たり5000本以
上の石綿小体が存在することが想定される。よって,10年以上の石綿
ばく露作業従事期間が認められるものの,乾燥肺重量1グラム当たりの
石綿小体数が上記本数を下回る場合には,その他の事情も総合的に考慮
した上で,肺がん発症の相対リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量が
存在したか否かを判断することが必要である。平成19年通達は,この
ことを明確にし,平成18年認定基準が上記医学的知見に照らして正確
に適用されるための事務取扱について定めたものであって,平成18年
認定基準の内容と矛盾するものでも,これを変更するものでもない。
(イ)平成18年以降の新たな医学的知見を踏まえて定められた平成24
年認定基準においても,明らかに高濃度の石綿ばく露が認められる一部
の作業内容を除き,石綿ばく露作業従事期間によって石綿累積ばく露量
を推定することは不適当であるとの見解に基づいて,業務上認定につき,
肺がん発症の相対リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量に相当する乾
燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数又は石綿繊維数の存在を基本的要
件としつつ,石綿ばく露作業従事期間の要件については原則として1年
以上でよいとされたものである。
(ウ)肺内石綿小体数及び石綿繊維数が,実際の累積ばく露量を的確に反
映せず,累積ばく露量の指標として適切でないとされているのは,純粋
にクリソタイルのみのばく露を受けた場合であり,上記見解は,クリソ
タイルと角閃石族石綿との混合ばく露において,ばく露を受けた石綿の
種類の中でクリソタイルの割合が比較的多かったという場合にまで妥当
するものではない。また,クリソタイルについては,角閃石族石綿と比
べてクリアランスの程度が大きい一方,肺がん発症リスクが低いとされ,
肺内に角閃石族石綿以上の石綿繊維数が存在しなければ,肺がん発症の
相対リスクを2倍に高める累積ばく露量には至らないものと認められる
ことから,肺内石綿小体数及び石綿繊維数について,クリソタイルを角
閃石族石綿と区別せず同じ基準で評価することは,クリソタイルばく露
の事案において被災労働者に有利なものということができ,石綿ばく露
労働者の幅広い救済という観点を考慮した妥当な方法というべきである。
(エ)平成24年認定基準は,平成18年以降の最新の医学的知見を踏ま
えて定められたものであるところ,行政処分の取消訴訟においては,口
頭弁論終結時の知見に基づいて,当該処分の違法性の有無が判断される
べきであるから,本件各不支給処分の違法性の有無を判断するに当たり,
最新の医学的知見に基づく平成24年認定基準を考慮することは,何ら
問題がない。
イ亡Aの石綿ばく露作業への従事期間,ばく露濃度等について
本件会社における亡Aの石綿ばく露作業への従事期間は,亡Aが石綿を
使用した溶接作業を主として行っていた昭和37年ころ(ジェットエンジ
ンの溶接作業が業務に加わるようになった時期)から昭和42年ころ(原
動機工場溶接課溶接作業班長への就任前)までの約6年間にすぎないと考
えるべきである。また,溶接作業の内容・実態及び溶接作業場の広さ・内
部状況に照らすと,亡Aの石綿ばく露の程度はさほど深刻なものではなく,
ヘルシンキ基準にいう高濃度石綿ばく露や中等度石綿ばく露と同程度のば
く露を受けていたものとはいえない。
ウ業務起因性について
上記イのとおり,亡Aの石綿ばく露作業従事期間は約6年間であり,平
成18年認定基準における10年以上の石綿ばく露作業従事期間の要件を
満たしていない。また,亡Aの乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数及
び石綿繊維数は,平成18年認定基準及び平成24年認定基準において肺
がん発症の相対リスクを2倍に高める累積ばく露量の指標とされる数値基
準を大幅に下回っているほか,石綿小体数については,平成24年認定基
準において本省協議の対象とされている最下限値の1000本をも下回っ
ている。その上,亡Aの石綿ばく露作業の内容は,航空機のエンジン部品
の溶接作業における断熱材及び保温材としての石綿製品の使用であり,平
成24年認定基準における従事期間のみで業務起因性を肯定し得る各作業
内容には該当しないし,その作業実態等に照らして,石綿ばく露の程度が
高濃度あるいは中等度であったともいえない。これらの事情に照らすと,
亡Aにおいて肺がん発症の相対リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量の
存在を認めることはできないから,亡Aの肺がんについて,業務起因性を
認めることはできない。
なお,亡Aの乾燥肺重量1グラム当たりの石綿繊維数が,ヘルシンキ基
準における職業上の石綿粉じんばく露の可能性が高い人を特定するために
推奨される基準を超えているとしても,これにより肺がん発症の相対リス
ク自体が直ちに左右されるものではなく,相対リスクが2倍となるもので
もないから,これをもって業務起因性を肯定すべき根拠の一つとする原告
の主張は失当である。
第3当裁判所の判断
1本件の業務起因性に関する法的判断の枠組み
(1)労災保険法に基づく休業補償給付(同法12条の8第1項2号)は,労
働者が業務上の疾病による療養のため労働することができず,賃金を受領で
きない場合に,当該労働者に対して支給され(同法7条1項1号,12条の
8第2項,労働基準法(以下「労基法」という。)76条1項,75条),遺
族補償給付(労災保険法12条の8第1項4号)及び葬祭料(同項5号)は,
労働者が業務上死亡した場合に,当該労働者の遺族又は葬祭を行う者に対し
て支給される(同法7条1項1号,12条の8第2項,労基法79条,80
条)。なお,休業補償給付を受ける権利を有する者が死亡した場合,死亡し
た者が死亡前に休業補償給付を請求していなかったときは,その者の配偶者
であって,その者の死亡当時その者と生計を同一にしていた者は,自己の名
で休業補償給付を請求することができるとされている(同法11条2項,1
項)。また,遺族補償給付及び葬祭料の支給要件とされる「労働者が業務上
死亡した場合」とは,労働者が業務上の疾病に起因して死亡した場合を含む
ものと解される。そして,前述の「業務上の疾病」としては,労基法75条
2項,労基則35条,別表第1の2第7号7により「石綿にさらされる肺が
ん又は中皮腫」が規定されている。
(2)被災労働者の疾病に業務起因性が認められるためには,業務と当該疾病
との間に条件関係のみならず相当因果関係があることが必要である(最高裁
判所昭和50年(行ツ)第111号昭和51年11月12日第二小法廷判
決・裁判集民事119号189頁参照)。そして,労働者災害補償保険制度
が労基法上の災害補償責任を担保する制度であり,災害補償責任が使用者の
過失の有無を問わずに被災労働者の損失をてん補する制度であって,いわゆ
る危険責任の法理に由来するものであることにかんがみれば,業務と当該疾
病との間に相当因果関係を認めるためには,当該疾病が,被災労働者の従事
していた業務に内在する危険性の現実化によるものと評価されることが必
要である(最高裁判所平成6年(行ツ)第24号平成8年1月23日第三小
法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁判所平成4年(行ツ)第70
号平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。
(3)前述の業務起因性に関する法令解釈の内容(前記(2))に加え,石綿ばく
露作業と肺がん発症との因果関係に関する前述の医学的知見(前記第2の3
(1))を併せて考慮すれば,石綿ばく露作業に従事した労働者が発症した原
発性肺がんについて,業務起因性を肯定するためには,当該労働者において,
肺がん発症の相対リスクを2倍以上に高める25本/ml×年の石綿累積ば
く露量が存在したことが認められる必要があるものと解するのが相当であ
る。
2業務上外認定基準に関する行政通達の位置付け
(1)石綿による疾病の業務上外認定基準に関する行政通達(前記第2の3(3))
は,石綿ばく露作業従事労働者に発症した疾病に係る労災保険法上の業務起
因性について,行政内部における認定判断の統一化,明確化を図るため,当
該時点における医学的知見を踏まえた解釈基準等を定めたものであり,一定
の合理性があるものと認めることができるところ,本件各不支給処分時に適
用のあった平成18年認定基準は,行政手続法5条に基づく申請に対する処
分についての審査基準として定められ(同条1項,2項),公表されていた
ものである(同条3項)。
(2)この点につき,被告は,本件各不支給処分の適法性を判断するに当たり,
平成18年認定基準後の医学的知見が反映された平成24年認定基準を考
慮すべきであると主張する。
すなわち,平成24年認定基準は,具体的な業種,職業等の別を問わず,
石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あることをもって,肺がん発症の
相対リスクを2倍以上に高める石綿累積ばく露量が存在することの基本的指
標とする考え方を採用せず,明らかに高濃度の石綿ばく露が認められる一部
の作業内容を除き,石綿ばく露作業への従事期間によって石綿累積ばく露量
を推定することは不適当であるとの見解に基づいて,一定数の石綿小体又は
石綿繊維の存在(乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が5000本以上
又は石綿繊維数200万本以上(5μm超)若しくは500万本以上(1μ
m超))をもって,肺がん発症の相対リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量
の基本的指標としつつ,石綿ばく露作業従事期間の要件については原則とし
て1年以上でよいとした上で,乾燥肺重量1グラム当たり1000本以上5
000本未満の石綿小体が認められるものについては,関係資料を添えて本
省に協議する旨を規定しているところ,被告は,平成18年認定基準,平成
19年通達及び平成24年認定基準の内容,平成18年報告書及び平成24
年報告書の内容並びにヘルシンキ基準及びその他の医学的知見を根拠として,
現在の医学的知見によれば,仮に,平成18年認定基準における10年以上
の石綿ばく露作業従事期間が認められたとしても,肺内に一定数の石綿小体
又は石綿繊維が認められない場合には,必ずしも肺がん発症の相対リスクを
2倍以上に高める石綿累積ばく露量が存在したとはいえないとして,上記石
綿累積ばく露量の存在を裏付ける指標としては,石綿ばく露作業従事期間で
はなく,肺内石綿小体数又は石綿繊維数による指標を原則的要件とすべき旨
主張する。
(3)確かに,平成18年認定基準は,法令としての対外的な拘束力を有するも
のではないから,本件各不支給処分の違法性に関する裁判所の判断を直接拘
束する性質のものではないが,一連の認定基準は,単に,その時々の医学的
知見をそのまま基準としたものではなく,各時点において請求対象とされる
事案の石綿ばく露時期における石綿使用の実情,石綿規制の有無・内容,石
綿含有製品を取り扱う職場環境等を踏まえた石綿ばく露作業従事者に対す
る救済の必要性の程度を踏まえた政策的な要素をも含んでいると解するの
が相当であり,このことは,平成24年報告書において,平成18年認定基
準策定当時に既に存在していた調査研究等に基づき,クリソタイルについて,
クリアランスの影響が最大に現れたとしても,肺がん発症リスクが角閃石族
石綿と比べて1/10以下と低いことを考慮すれば,角閃石族石綿以上の肺
内石綿繊維数がなければ発症リスク2倍のばく露量に至らないとの結論が
導き出されるとしたうえで,「これらを総合的に勘案し,クリソタイルにつ
いて角閃石族石綿と同じ基準で評価する現行の労災認定基準は,石綿ばく露
労働者の幅広い救済という観点を考慮しているものであると判断する。」と
していること(乙13)からも窺われるところである。
そうだとすると,平成18年認定基準が適用されるべき事例であって,平
成18年認定基準によれば業務起因性が肯定されるようなものについては,
その後の医学的知見を踏まえて策定された平成24年認定基準に合致しない
としても,そのことの故に業務起因性が否定されるべきものではないという
べきである。
(4)なお,平成19年通達は,①石綿ばく露作業への従事期間が10年以上
あり,かつ,②肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められる場合であっても,
肺内石綿小体数を指標とする要件(乾燥肺重量1グラム当たり5000本以
上)を満たさない場合は,これを満たす場合と同水準のばく露とみることが
できるかどうかという観点から,諸般の事情を勘案して総合的に判断するこ
とを要し,肺内石綿小体数が「乾燥肺重量1グラム当たり5000本以上」
の基準に照らして明らかに少ない場合は,本省に照会されたい旨を定めてい
るところ,原告は,平成19年通達は,平成18年認定基準の要件を狭める
ものであり,平成19年通達の内容を前提として業務起因性の有無の判断を
行うことは違法である旨主張する。しかしながら,平成19年通達は,その
発出者,宛名,表題からも明らかなとおり,平成18年認定基準を前提とし
て,その適用判断に当たっての事務処理の方法(一定の場合に本省照会をす
べきこと)を示した「事務連絡」にすぎないのであって,新たな要件を付加
するものではないというべきであるから,平成19年通達に従って,本省照
会をした案件であっても,労基署長は,あくまでも,平成18年認定基準に
則って,業務起因性の有無を判断すべきことに変わりはないというべきであ
る。
そのように解すると,平成19年通達に記載されたような場合には,労基
署長は,本省照会を経て,「石綿ばく露作業への従事期間が10年以上」とい
えるか否かを,総合的に判断することとなり,亡Aの石綿ばく露作業従事期
間は約6年であるとの被告の主張は,そのような趣旨のものとしてとらえる
ことができる。
3本件会社における石綿使用状況及び亡Aの業務内容
証拠(甲21,26,27,乙2(石綿業務従事証明〔128頁〕,面談調
査報告書〔173頁から175頁まで〕,聴取書2通〔176頁から182頁
まで〕,報告書〔183頁から190頁まで〕,メンテナンス・マニュアル〔2
05頁から207頁まで〕),22,証人H(以下,同人を「H」といい,同人
の証言を「証人H」という。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め
られる。
(1)本件会社における石綿使用状況等
ア本件会社においては,昭和30年前後ころから昭和60年前後ころまで
の間,航空機のエンジン部品の溶接作業に際し,熱伝導による変形を防ぐ
ための断熱材,または急激な冷却による収縮を防ぐための保温材としてク
リソタイル(白石綿)を主たる原料とする石綿が使用されており,溶接前
に溶接箇所の周辺部分あるいは部品全体に水を含ませた石綿を巻き付け
たり塗布したりして溶接が行われていた(ただし,エンジン部品の溶接作
業に石綿が必ず使用されていたわけではなく,溶接箇所が少ない場合や,
加熱により変形しにくい性質の金属の場合等には,石綿を使用しないこと
もあり,石綿を使用する作業は,溶接作業全体の5割程度であった。)。溶
接後,乾燥した石綿は,ワイヤーブラシで溶接作業場の床に擦り落とされ,
1日の作業終了時等に,箒で掃くなどして回収されていた。
イ少なくとも昭和40年ころから昭和43年ころにかけて,マグネシウム
合金製のエンジン部品の一部では,エンジン部品全体に帯状の石綿を巻き
付け,これをふたの付いた箱状のケースに入れて全体を保温器に入れて加
熱した後,これをケースごと取り出し,ケースに在中するエンジン部品の
溶接箇所のみ石綿を除去して溶接を行い,再度,全体を加熱して,冷却し
た後,エンジン部品全体を覆う乾燥した石綿を除去するという作業が行わ
れていた。上記作業では,溶接のためにケースのふたを開けると,乾燥し
た石綿が噴き出すため,溶接作業員は,舞い上がった石綿を息で吹き飛ば
しながら溶接作業を行っていた。
(2)本件会社における溶接作業状況
ア昭和43年ころ,亡Aを含む溶接作業員らは,石綿取扱時や溶接作業時
において,石綿粉じんの吸入を防ぐためのマスクをほとんど着用していな
かった。
イ箱状のケースを使用するマグネシウム合金製のエンジン部品の溶接作
業は,少なくとも昭和40年ころから昭和43年ころまでの間,月3回程
度行われており,溶接作業自体は10分程度で終了するものの,前後の作
業も含めると,1日がかりの作業となった。それ以外の石綿を使用した一
般的な溶接作業は,作業場において毎日行われており,亡Aを含む5名か
ら20名程度の溶接技術者が,おおむね5,6台程度の酸素アセチレンバ
ーナーを交代で使用して,ほぼ1日中溶接作業を行っていた。
ウ本件会社における当時の勤務形態は,月曜日から土曜日までの出勤で
(ただし,土曜日は半日。),始業は午前8時30分,終業は午後4時30
分,昼休憩は50分間であり,溶接作業場のある工場を離れる機会は,昼
食のため社員食堂に行くときだけであった。
エ亡Aは,エンジン部品の溶接作業が行われるようになった初期のころを
除き,溶接作業前後の石綿巻付けや除去作業には従事していなかった。
オ亡Aが溶接作業等に従事していた当時の溶接作業場のある工場の広さ
は約9126平方メートル(約117m×約78m)であり,天井の高さ
は平均約8メートル(形状はのこぎり型。)であったところ,このうち,
溶接作業場の広さは約1512平方メートル(約27m×約18m+約2
7m×約16m+約27m×約22m)であり,溶接作業場と他の作業場
との間に仕切りは存在していなかった。
4亡Aの石綿ばく露作業への従事期間について
(1)上記3(1)及び(2)の事実に加え,証拠(甲21,乙2(石綿業務従事証明
〔128頁〕,報告書〔183頁から190頁まで〕),面談調査報告書〔1
73頁から175頁まで〕,聴取書2通〔176頁から182頁まで〕),証
人H)を総合すれば,亡Aは,本件会社において,原動機部機械課配属とな
った昭和34年2月ころから,原動機工場溶接課第1溶接係長(職制)とな
った昭和48年5月ころまでの約14年間にわたり,αの原動機工場におけ
る航空機のエンジン部品の修理に係る溶接作業に従事しており,その間,上
記溶接作業に際し,断熱材又は保温材として,クリソタイルを主たる原料と
する石綿を日常的に使用していたことが認められる。当該作業内容は,平成
15年認定基準,平成18年認定基準及び平成24年認定基準における「石
綿ばく露作業」(石綿による疾病の発生のおそれのある作業内容)の一つで
ある「耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はそ
の補修作業」に該当するものと認められる。
(2)原告は,亡Aの石綿ばく露作業への従事期間が,技術部発動機課への配属
時(昭和30年5月)から定年退職時(平成5年2月)までの約38年間で
あり,その間,亡Aは,航空機のエンジン部品の溶接作業時に,石綿が使用
された手袋及び防熱衣を着用していた旨主張する。しかし,亡Aが,技術部
発動機課に配属された昭和30年5月ころから,原動機部機械課配属となっ
た昭和34年2月ころまでの間において,航空機のエンジン部品の溶接作業
に従事し,その際,石綿を断熱材又は保温材として使用するなどの石綿ばく
露作業に従事していたことを裏付ける証拠はない。また,亡Aが,原動機工
場溶接課第1溶接係長(職制)となった昭和48年5月ころ以降も,溶接作
業場に出向いて後進に対する溶接技術の指導を行うことがあった事実は前
記関係証拠から窺われるが,同事実をもって,亡Aが,職制となる以前と同
様に,石綿を使用した溶接作業自体に実際に従事していたものとまでは認め
ることはできない。亡Aが,溶接作業時に石綿が使用された手袋及び防熱衣
を着用していたとの事実についても,これを裏付ける証拠はない。
(3)他方,被告は,亡Aの石綿ばく露作業への従事期間について,ジェットエ
ンジンの溶接作業が業務に加わるようになった昭和37年ころから,原動機
工場溶接課溶接作業班長への就任前である昭和42年ころまでの約6年間
であると主張する。確かに,前記証拠によれば,亡Aが石綿を使用した溶接
作業を主たる業務として行うようになった時期は,ジェットエンジンの溶接
作業が業務に加わるようになった昭和37年ころであることが窺われるが,
亡Aが,原動機部機械課配属となった昭和34年2月ころから昭和37年こ
ろまでの間,石綿を使用した航空機のレシプロエンジンの溶接作業に従事し
ていたことは,本件会社において作成された亡Aの石綿業務従事証明(乙2
〔128頁〕)によって認められ,この認定を覆すべき証拠は存在しない。
また,亡Aが,原動機工場溶接課溶接作業班長に就任した昭和42年ころ以
降も,原動機工場溶接課第1溶接係長(職制)に就任した昭和48年5月こ
ろまでの間,石綿を使用した溶接作業に従事していたことは,前記証拠によ
り認められるのであって,これらの期間における亡Aの石綿ばく露が平成1
8年認定基準において要件とされている石綿ばく露作業従事期間に含まれ
ないとすべき事由は認められない。
(4)以上によれば,亡Aにおいては,10年を超える約14年間にわたる石綿
ばく露作業への従事期間が認められる。
5亡Aの肺内石綿小体及び石綿繊維について
亡Aの肺内には,右肺下葉につき122本,左肺下葉につき469本の石綿
小体(乾燥肺重量1グラム当たりの本数)が認められるところ(前記第2の1
(4)イ),その本数は,職業ばく露歴を有しない一般人と同じレベルのばく露量
とされる水準にある。これに対し,肺内の角閃石族石綿(アモサイト,クロシ
ドライト,アンソフィライト,トレモライト及びアクチノライト)の繊維数(乾
燥肺重量1グラム当たりの本数)は,右肺下葉につき17万本(1μm超),
左肺下葉につき51万本(5μm超)又は102万本(1μm超)であり(前
記第2の1(4)ウ),左肺下葉の角閃石族石綿の繊維数が,5μm超及び1μm
超のいずれにおいても,ヘルシンキ基準における職業上の石綿ばく露を受けた
可能性が高いとされる角閃石族石綿の繊維数(乾燥肺重量1グラム当たり10
万本以上(5μm超)又は100万本以上(1μm超))を上回っている。
6亡Aの肺がん発症に関するその他の要因の有無について
証拠(甲15,16,22,乙2(聴取書〔179頁から182頁まで〕),
証人H)によれば,亡Aには喫煙歴がないことが認められる。また,証拠(甲
15,22,35)によれば,亡Aの父(明治34年▲月▲日生)は,平
成5年▲月▲日,肺がんで死亡(死亡時92歳)しているが,同人が喫煙
歴を有していたこと,亡Aの兄弟らがいずれも健康であることが認められる。
したがって,亡Aの父が肺がんで死亡した点のみをもって,亡Aに肺がんの遺
伝的要因があるものと解することはできない。
7小括
以上によれば,亡Aにおいては,10年を超える約14年間にわたる石綿ば
く露作業への従事期間が認められる上,肺内には,ヘルシンキ基準において職
業上の石綿ばく露を受けた可能性が高いとされる基準を超える石綿繊維数(角
閃石族石綿)が認められる一方,他に,肺がん発症の原因となり得る要因が存
したことは窺われないのであるから,亡Aの肺がんについては,業務に起因す
るものと認めるのが相当であり,業務起因性を認めなかった本件各不支給処分
には違法がある。
第4結論
よって,本件各不支給処分の取消しを求める原告の請求は理由があるからこ
れを認容し,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
裁判長裁判官團藤丈士
裁判官篠原絵理
裁判官戸畑賢太

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