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令和2年12月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成30年(ワ)第26219号謝罪広告等請求事件
口頭弁論終結日令和2年10月1日
判決
原告A
同訴訟代理人弁護士松隈貴史
被告株式会社新潮社
同訴訟代理人弁護士岡田宰
同広津佳子
同杉本博哉
同藤峰裕一
主文15
1被告は,被告が運営する別紙1記載第1のインターネットウェブサイトから
別紙2記載の記事を削除せよ。
2被告は,原告に対し,金440万円及びこれに対する平成30年8月8日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求をいずれも棄却する。20
4訴訟費用は,これを6分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担
とする。
5この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求25
1被告は,本判決の確定した日から30日以内に,被告が発行する「週刊新潮」
誌上に,別紙3記載第1の謝罪広告を,別紙3記載第2の要領で1回掲載せよ。
2被告は,本判決の確定した日から30日以内に,被告が運営する別紙1記載
第1のインターネットウェブサイト上に,別紙3記載第1の謝罪広告を,別紙
1記載第2の要領で1年間掲載せよ。
3主文第1項と同旨。5
4被告は,原告に対し,2200万円及びこれに対する平成30年8月7日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する平成30年8月8日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要10
本件は,芸能人である原告が,出版社である被告において,①原告が私立大
学に裏口入学をしたこと等を内容とする記事をインターネットウェブサイト上
で配信し,②同趣旨の内容の記事を掲載した週刊誌を発行し,③同週刊誌にか
かる電車の中吊り広告において,原告を被写体とする写真を添えて上記記事の
見出し等を掲載したこところ,①ないし③については原告の名誉を毀損し,③15
については原告のパブリシティ権を侵害すると主張し,被告に対し,パブリシ
ティ権侵害の不法行為に基づき損害賠償金2200万円及びこれに対する上記
中吊り広告掲載日である平成30年8月7日から支払済みまで平成29年法律
第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,名
誉毀損の不法行為に基づき損害賠償金1100万円及びこれに対する,上記中20
吊り広告掲載日の後の日であり,上記週刊誌の発売日である平成30年8月8
日から支払済みまで上記改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払,週刊誌の誌面及びインターネットウェブサイト上への謝罪広告の掲載,
並びにインターネットウェブサイト上の記事の削除を求める事案である。
1前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。なお,枝番25
号の記載を省略したものは,枝番号を含む(以下同様)。)
(1)当事者
ア原告は,訴外株式会社タイタン(以下「タイタン」という。)に所属する
タレントであり,訴外B(以下「訴外B」という。)と「爆笑問題」という
コンビを結成し芸能活動を行っている。
イ被告は「週刊新潮」という週刊誌を発行する株式会社である。5
なお,同週刊誌は,平成28年(2016年)10月1日から平成29
年(2017年)9月30日にかけて,毎号44万部以上が発行されてい
た。(甲16)
(2)被告のインターネット上における記事の配信
ア被告は,平成30年8月7日,ツイッター(インターネットを利用して10
ツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することがで
きる情報ネットワーク)上の自己のアカウント(「@shukan_shincho」)にお
いて,「爆笑問題・Aの過去の裏口入学が明らかに。明日発売の『#週刊新
潮』で報じます。結成30年となる爆問の2人は日本大学芸術学部で出会
いましたが,そのコネとカネがなければ今日のコンビはなかったかも…15
…?詳しくは速報にて」と投稿し(以下「本件ツイート」という。),本件
ツイートに下記イの記事を掲載したウェブページへのリンクを設定した。
(甲1)
イ被告は,自らの運営する別紙1記載第1のウェブページにおいて,「爆笑
問題『A』に裏口入学の過去発覚コンビ結成の“日大芸術学部”入試で」20
との見出しで,別紙2のとおりの記事(以下,「本件記事1」という。)を
掲載した。(甲2)
(3)電車の中吊り広告
被告は,平成30年8月7日,発行予定の「週刊新潮平成30年8月16・
23日夏季特大号」(以下「本件雑誌」という。)を広告するため,電車の中25
吊り広告(以下,「本件中吊り広告」という。)に「受験日直前に『ホテルに
缶詰』!現役教員が事前にレク!爆笑問題『A』を日大に裏口入学させた父
の溺愛」と記載し,そこに原告及び訴外Bを被写体とする写真を掲載した。
(甲3)
(4)被告による本件雑誌の発刊
被告は,平成30年8月8日発売の本件雑誌の26頁から30頁にかけて,5
「爆笑問題『A』を日大に裏口入学させた父の溺愛」との見出しで,本件記
事1の内容を更に詳細にした記事(以下,「本件記事2」といい,本件記事1
と併せて「本件各記事」という。また,本件各記事及び本件中吊り広告を併
せて「本件各記事等」という。)を掲載した。(甲4)
2争点10
(1)本件中吊り広告によるパブリシティ権侵害の有無(争点1)
(2)本件各記事等による名誉毀損の成否(争点2)
(3)名誉毀損に係る,真実性・相当性の抗弁の成否(争点3)
(4)相当因果関係を有する損害及びその額(争点4)
(5)本件記事1の削除請求の可否(争点5)15
(6)謝罪広告の掲載の要否(争点6)
3争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件中吊り広告によるパブリシティ権侵害の有無)について
[原告の主張]
被告は,社会的に著名な原告に関する醜聞的な記事を掲載できれば本件雑20
誌の売上の増収が見込めると考えて,原告に関する全く存在しない事実をね
つ造し,あわよくば芸人でもある原告なら笑って流してくれるのではないか
などと安直に考え,原告に関するねつ造記事を本件雑誌に掲載したものであ
り,被告には本件雑誌に原告に関する記事を掲載する正当な動機がなく,本
件各記事の作成・出版行為自体に,専ら原告の有する顧客吸引力を不正に利25
用する目的が存在し,被告の本件中吊り広告によりパブリシティ権侵害が成
立するというべきである。仮に,このような場合に名誉毀損のみが成立し,
パブリシティ権の侵害が認められないのであれば,著名人に関する全く根も
葉もない事実がねつ造されて記事にされ,当該記事が掲載されていることを
理由に当該著名人の肖像等が掲載された広告などが至るところで使用された
としても名誉毀損による慰謝料しか認められないという事態にもなりかねず,5
当該著名人が受けた経済的損失は一切填補されることはないこととなるが,
このようなことが合理性を欠いていることは明らかである。
[被告の主張]
本件中吊り広告は,本件記事2を掲載した週刊新潮の各記事の見出しのラ
インナップと当該記事のテーマとなった人物の写真が掲載されたもので,原10
告と訴外Bの写真以外にも,著名人の肖像写真が掲載されており,本件中吊
り広告は,明らかに,原告のブロマイド写真でもなくグラビア写真でもなく,
肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象とする商品ではないし,中吊り広告自
体はキャラクター商品でもない。
また,本件中吊り広告の原告の肖像写真が掲載されている箇所には,「受験15
日直前に『ホテルに缶詰』!現役教員が事前にレク!爆笑問題『A』を日
大に裏口入学させた父の溺愛」という本件記事2の見出しが記載され,原告
の肖像写真は,当該見出しよりも小さい。そして,一般読者の普通の注意と
読み方を基準とすれば,この本件中吊り広告の記述は,受験日直前にホテル
にて現役教員が事前にレクするなどして,原告の父親が,原告を日本大学(以20
下「日大」ともいう。)に裏口入学させたという事実を摘示するもので,原告
の日大への裏口入学がテーマであり,本件記事2も,かかる裏口入学につい
て報道したものであることに基づき,原告の肖像写真を掲載したにすぎず,
本件中吊り広告の内容と本件記事2との間には齟齬は認められない。そうす
ると,原告の肖像写真が,本件記事2及び本件中吊り広告による各事実摘示25
のいずれにも,全く関連なく扱われたということはできない。
以上の本件中吊り広告における原告の肖像写真の扱われ方,本件記事2及
び本件中吊り広告の事実摘示の内容等に斟酌すれば,本件中吊り広告におい
て,「専ら」顧客吸引力を利用する目的は認められないから,パブリシティ権
を侵害するとの原告の主張は失当である。
(2)争点2(本件各記事等による名誉毀損の成否)について5
[原告の主張]
本件各記事等が「原告が日本大学に裏口入学した」事実を摘示しているこ
とは明らかなのであって,かかる事実の摘示は,日本大学に入学するに必要
な学力に遠く及ばない原告が,いわゆる裏金を用いて日本大学に入学したと
の印象を抱かせるものであり,その内容からして,一般人の普通の注意と読10
み方を前提とする限り,原告の社会的評価を低下させ,名誉毀損が成立する
といえる。
[被告の主張]
本件各記事には,「ゲタを履かせてもらっていることは,Aも分かっていた
ことになる」との記述もあるが,いずれも,父親のお陰で裏口入学させたと15
いう事実摘示ではなく,むしろ,原告の父親の溺愛をテーマとして記述して
いるものである。そして,本件中吊り広告も,「『A』を日大に裏口入学させ
た父の溺愛」とあり,原告の日大への裏口入学は原告の父親の溺愛によると
いう事実を摘示しているにすぎず,原告が父親に裏口入学を頼んだという事
実摘示はなく,その他原告が主体的な立場で裏口入学をしたという事実摘示20
もないから,原告にとって不快な表現であったとしても,本件各記事等のい
ずれについても,名誉毀損としての類型的実質的違法性を帯びているとは言
い難く,名誉毀損は成立しない。
(3)争点3(名誉毀損に係る,真実性・相当性の抗弁の成否)について
[被告の主張]25
本件各記事等に関しては,真実性・真実相当性の抗弁につき証明がされた
というべきである。
すなわち,上記の証明の対象となる事実は,原告の父親が原告を日本大学
に裏口入学させたという事実であり,原告の父親の行動を主とするものであ
る。しかして,被告の週刊新潮編集部は,原告の父親から原告の裏口入学の
斡旋を依頼されて請け負い,日本大学側との交渉や原告を入学させるための5
段取りを実際に担った経営コンサルタントの供述を得ていた。そして,同供
述によれば,この話は,C氏からの話に端を発したものであるところ,同氏
の実姉のD氏の配偶者であった,C氏の義理の兄の指定暴力団住吉会大日本
興行のE氏の運転手のF氏の供述とも,生前のE氏から爆笑問題として活躍
していた原告について日本大学芸術学部に裏口で入学したと聞いていたとい10
う重要な点で,一致をしていることが認められた。そして,上記経営コンサ
ルタントの供述内容は,具体的で詳細であった。
さらに,原告の高校時代の成績は,担任や同級生の供述から,日大芸術学
部に現役で合格できる水準とは思われなかった事実も確認され,タイタンの
代表者であるG氏も原告が足し算引き算などの算数ができなかったことを認15
めており,原告の父親の1人息子の原告に対する溺愛ぶりも確認されたこと,
そして,日本大学が,積極的に原告の裏口入学について否認をせずに,単に
「事実を把握していない」というだけの回答内容にとどまったことも,当該
経営コンサルタントの供述内容の信用性を裏付ける事情の1つとして理解さ
れた。20
したがって,原告の父親が当該経営コンサルタントを通じて裏口入学のた
めの手段を尽くした結果として原告を日本大学芸術学部に入学させたという
事実は,真実であるというべきであり,また,以上のような取材結果を踏ま
えれば,当該事実を真実であると信じるについて相当な理由があるというべ
きであるから,当該事実の摘示が公共の利害に関する事実に係ること,当該25
事実の摘示が専ら公益を図る目的でされたことをも併せると,被告は,名誉
毀損の責を負わないというべきである。
[原告の主張]
ア本件における立証対象は,原告が日本大学の現役教員から試験問題に関
するレクチャーを受験直前に受けていたとの事実と,原告は日本大学の入
学試験において合格点をとることはできなかったが,原告の父親が日本大5
学側に800万円を支払うことで特別に入学を許可されたとの事実であ
る。
イ本件においては,30年以上の前の話であり,当事者が事実を否定して
いるにも拘わらず,何ら客観的証拠も存在しておらず,また,唯一の証言
者ともいえる経営コンサルタントの供述には重要な点において,明らかに10
虚偽の事実が存在し,そもそも日本大学芸術学部の試験自体が被告の主張
するようなハイレベルの試験ではなかったことに鑑みれば,上記アの立証
対象事実がいずれも真実でないことは明らかである。
また,被告は,本件において当事者間に繋がりがあったことを示す必要
最小限の取材すら一切行っておらず,当時の原告の担任と部活顧問におい15
ても原告の成績では日本大学芸術学部に入れなかったことを推認させる
供述は一切なく,むしろ原告の成績については高く評価しており,原告の
同級生からも原告の成績が悪かった等という話は一切得られていない。こ
れらからすれば,被告は,上記アの立証対象事実について,本来行うべき
取材を何ら行っていないことは明らかであり,そのような被告において,20
上記のような事実があったと信じるについて相当な理由があったと認め
られる余地はない。
(4)争点4(相当因果関係を有する損害及びその額)について
[原告の主張]
アパブリシティ権侵害による損害25
この点に関しては,原告を商品の広告宣伝に用いた場合に要する費用が
参考になるところ,原告と訴外Bとが組む「爆笑問題」を商品の広告に出
演させる場合には,通常出演契約料としては年間8000万円(原告は年
間契約しかしていない。)が必要となる。そうすると,本件が年間契約では
なく1回限りであり,「爆笑問題」ではなく,原告個人のパブリシティ権侵
害を問題としているという事情を考慮しても,本件のような広告に原告を5
出演させる場合には,どれだけ低く見積もっても2000万円を下回るこ
とはない。したがって,原告のパブリシティ権侵害による損害は2000
万円であるというべきである。
イ名誉毀損による損害
被告の本件一連の名誉毀損行為が,極めて広範囲の人々に周知される態10
様であったこと,原告の裏口入学に関する事実が全くの事実無根のもので
あり,原告のタレント活動に重大な支障をきたす極めて悪質なものである
ことを考慮すると,かかる原告の精神的苦痛に対する慰謝料は,どのよう
に低く見積もっても1000万円を下ることはない。
ウ弁護士費用15
本件の被告による不法行為は,パブリシティ権侵害による損害が200
0万円,名誉毀損による損害(慰謝料)が1000万円であるところ,各
損害額のそれぞれ1割が弁護士費用として認められるべきである。
[被告の主張]
原告の上記主張はいずれも争う。20
(5)争点5(本件記事1の削除請求の可否)について
[原告の主張]
本件一連の名誉毀損行為は広範囲に及んでいるが,内容は全くの虚偽であ
るから,別紙1記載第1のインターネットウェブサイト上の別紙2記載の記
事を削除することを求める。25
[被告の主張]
原告の上記主張は争う。
(6)争点6(謝罪広告の掲載の要否)について
[原告の主張]
原告は,著名なタレントであり,単に金銭による賠償を受けただけでは,
その後のタレント活動に対する支障がなくなることはなく,広く一般に本件5
一連の名誉毀損行為の内容が虚偽であったことを周知させる必要性が極めて
高い。そのためには,原告の名誉回復のための措置として,被告が発行する
「週刊新潮」及び被告が管理運営する別紙1記載第1のインターネットウェ
ブサイト上に別紙3記載第1の謝罪広告を,前記第1の1,2記載のとおり
に掲載することが必要不可欠である。10
[被告の主張]
原告の上記主張は争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記第2の1の前提事実,各末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次15
の事実が認められる。
(1)本件記事1の内容について(甲2)
本件記事1は,見出しを「爆笑問題『A』に裏口入学の過去発覚コンビ
結成の“日大芸術学部”入試で」とするものであり,本文には次のとおりの
記載がある。20
ア「お笑いコンビ爆笑問題・A(53)の裏口入学が発覚。」
イ「父・H氏は,溺愛する一人っ子のAを,なんとしてでも日大に合格さ
せたかったようだ。入試前年の83年後半,指定暴力団組長の愛人芸者の
娘と知り合い,“知る人ぞ知る裏口入学ネットワーク”に依頼をする。だが,
『この成績では無理だろうというレベルでしたね。Aの父親とも何度か打25
ち合わせの席を持ちましたが,“息子,バカなんです。バカなんです”と繰
り返していてね。“割り算もできないんです”ともボヤいていました』(さ
る日大関係者)」
ウ「日大関係者は,『1次試験前日くらいのタイミングで,ホテルにAを缶
詰にしました』と,裏口入学について具体的な証言をする。曰く,本番と
同じ問題を使い,現役教員自らレクチャーした……。となれば,ゲタを履5
かせてもらっていることは,Aも分かっていたことになる。父・H氏は,
対価として日大に800万円を支払った。」
(2)本件記事2の内容について(甲4)
本件記事2は,見出しを「特集爆笑問題『A』を日大に裏口入学させた
父の溺愛」,「受験日直前に『ホテルに缶詰』!」,「現役教員が事前にレク!」10
とするものであり,本文には次のとおりの記載がある。
ア「Aが相方と出会ったのは日大芸術学部だが,Aはそこへ裏口入学して
いた。受験日直前にホテルへ缶詰で,現役教員のレクを受け・・・ほとん
どは父の溺愛によるものである。」
イ「実力ではとても受からないと考えたH氏は,知る人ぞ知る裏口入学ネ15
ットワークの門を叩いた。息子の受験を翌年に控えた83年後半のことで
ある。」「日本を代表する指定暴力団の,有力親分の愛人芸者が産んだ娘が
いて,そんなちょっとややこしい事情を抱えた人物とH氏はひょんなとこ
ろから知遇を得た。そのコネを通じこのネットワークの元締めに辿り着い
ている。組織の力は極めて強く,『最も確実に入学できる道』だったのだ。20
とはいえAの場合,それが極めて難産だった」
ウ「『この成績では無理だろうというレベルでしたね。Aの父親とも何度か
打ち合わせの席を持ちましたが,“息子,バカなんです。バカなんです”と
繰り返していてね。“割り算もできないんです”ともボヤいていました』」,
「『父親の話だと,内部進学も危ういということでした。実際,評定などか25
ら見て,ウチを受験させ,そこに少しゲタを履かせる程度では,入学でき
るボーダーには到底達しない印象でした』」(判決注:日大関係者による発
言の形式で記載されている。下記オ,カ及びクの各『』内につき同様で
ある。)
エ「日大の現役教員がAを直接指導して本番に臨むという『缶詰作戦』が
発案されたのである。と同時に,最難関の映画学科は無理だから,演劇学5
科への合格を念頭にプロジェクトは進んでいく。」
オ「『1次試験前日くらいのタイミングで,ホテルにAを缶詰にしました。
試験日まで日にちを空けると情報漏れが怖いし,何しろ頭に詰め込んだも
のが抜けちゃうかもしれないし。それでも父親は“息子には裏口だってこ
とを言ってない。知らせたくない。何とか実力で受かったことにできませ10
んか”ってこだわったんだけど,背に腹は代えられないってことで,この
条件を呑ませたんです』」「要するにAはゲタを履かせてもらっているのを
理解していたということになる。」
カ「『ゲタの履かせようがなかったんです。いや,履かせる足がなかった。
学科試験はAの場合,英語と国語なんですが,英語はもう限りなくゼロ点15
に近くって。答案用紙を逆にして書いたのかなぁと疑うほどでして,なる
ほどそういう風に見れば満点に近づくね・・・といった冗談の様な話を,
まぁ,われわれ大人たちはしたわけです。市ヶ谷にある日大の施設内では
当時の総長(現在だと学長に相当)も参加して,“これはもう却下しよう,
さすがにバレるだろう”“いやいや,何とか方法を考えましょう”みたいな20
会話が繰り返されたということです』」「『結局,Aひとりを合格にするとあ
まりに露骨なので,補欠合格者として他にも5~6人くらい一緒に名を連
ねることにしたのです。』」
キ「父・H氏は日大サイドに800万円を対価として支払った。これが,
83年から翌年にかけて展開された裏口作戦のひとくさりである。」25
ク「『ホテルに缶詰にした際,本番と同じ問題をもとに,面接の指導もしま
した。虎の巻じゃなくて試験問題そのもの。Aが知らないはずがないです
よ』」
(3)本件中吊り広告について(甲3)
ア本件中吊り広告は,本件雑誌を広告するものであり,本件雑誌に収録さ
れた多数の記事の見出しが,様々なサイズの文字で記載されている。5
イ原告に係る記事の見出しは,本件中吊り広告の左から4分の1程度のス
ペースを使用して,赤色の背景に縦書きで概ね4行にわたり記載されてお
り,「受験日直前に『ホテルに缶詰』!現役教員が事前にレク!」の箇所が
黒地に黄色の比較的大きいサイズの文字で,そして,「爆笑問題『A』を日
大に裏口入学させた父の溺愛」の箇所の大部分が赤地に白色の更に大きい10
サイズの文字で記載されている。そして,この見出しスペースの下方3分
の1程度,幅3分の2程度のスペースに原告の肖像写真が,訴外Bの肖像
写真とともに掲載されている(なお,訴外Bの肖像写真は,原告の肖像写
真に比して4分の1程度と,相当に小さいものとなっている。)。
ウまた,他の著名人に係る記事の見出しが,本件中吊り広告の右から5分15
の1程度のスペースを使用して,青色の背景に縦書きで概ね3行にわたり,
概ね原告の記事に係る見出しと同程度に大きいサイズの文字で記載され
ている。そして,当該見出しの下方付近から本件中吊り広告の真ん中下方
の「週刊新潮」の表示の右方にかけて,当該記事に関係する3名の著名人
の肖像写真が,原告の肖像写真と同程度か,やや小さいサイズで掲載され20
ている。
エさらに,上記イ及びウの間のスペースには,本件雑誌に収録された記事
の見出しが,小さいサイズの文字で多数記載されており,このうち,一部
の記事については,関係する15名の著名人等の様々な肖像写真がサイズ
を異にして掲載されている。25
(4)本件各記事等に係る取材の経緯等
ア平成30年6月12日,本件雑誌の編集部のI編集長(以下「I」とい
う。)は,旧知の経営コンサルタント(以下「本件経営コンサルタント」と
いう。)と会食した際に,同人から原告の裏口入学に関与した旨を聞かされ
た。Iは,長年の関係から本件経営コンサルタントを信頼していたため,
上記の話は事実に違いないと考え,その後,原告の裏口入学に係る記事を5
本件雑誌に掲載することを企図するに至った。そこで,Iは,同月26日
に,再度,本件経営コンサルタントと面談して,同人の協力を依頼し,原
告の裏口入学につき,請け負った当時の状況,依頼者や大学側の人間等関
係者とのやりとり,果たした仕事の内容等を詳細に聴取した。(乙17,2
7,証人I)10
また,同年7月24日,Iは,本件雑誌の編集部のJ(以下「J」とい
う。)を帯同して,本件経営コンサルタントと面会し,更に詳細な内容を聴
取した。この際に,Iは,本件経営コンサルタントから,原告の父親と初
めて会った際に受け取った名刺として,原告の父親の氏名などが表示され
た名刺を受け取った。(乙17,26,27,29,証人I)15
さらに,同月31日,Iは,Jとともに本件経営コンサルタントと面会
して追加取材を行った。(乙17,26,27,証人I)
以上の4回にわたる取材によって,I及びjは,1983年に,本件経
営コンサルタントが,知人である訴外C(以下「C」という。)から原告の
裏口入学に係る斡旋の打診を受け,原告の父親と面会したこと,その際,20
原告の父親が,原告は割り算もできないなど学力が低く,実力で志望先に
合格できそうにない旨を述べ,本件経営コンサルタントに対し,原告が裏
口入学できるようにしてほしい旨を依頼し,本件経営コンサルタントが引
き受けたこと,原告の在籍していた高校が,原告の学業成績を理由に内申
書等の作成になかなか応じてくれない旨を原告の父親が本件経営コンサル25
タントに述べたこと,志望先大学に原告の内申書等を提出したところ,大
学側から入学に難色を示されたため,原告が希望していた映画学科からラ
ンクを下げて,演劇学科に絞って交渉をすることにしたこと,なおも難色
を示す大学側との交渉の中で,大学側が,入学試験日の直前に大学の教職
員らが原告をホテルに缶詰めにして,事前に手配した入試問題の内容を勉
強させておく旨の作戦を提案し,最終的に原告の父親もこれを了承し,実5
際に,上記作戦が実行されたこと,試験後に,大学側から試験結果が芳し
くなく原告を不合格にした旨の連絡を一旦受けたが,本件経営コンサルタ
ントが大学側の関係者と協議を重ねた結果,大学の入学式の前日か前々日
頃に,原告を補欠合格とする取扱いとなったこと,原告の父親は謝礼とし
て,大学側に800万円を支払ったこと等を聴き取り,上記(1)及び(2)で10
摘示した本件各記事の基となる事項を聴取した。(全体につき,乙17,2
6,27,証人I)
イ平成30年7月27日,本件各記事等に係る取材チームが立ち上げられ,
Jがデスクとなり,担当記者として,K記者(以下「K」という。)を指名
し,次いでL記者(以下「L」という。)を指名した。K及びLは,次の(ア)15
ないし(オ)のとおり取材を行い,これらの取材の結果を踏まえて,Iは,
上記アの本件経営コンサルタントからの聴取結果が真実であり,少なくと
も真実と確信できるだけの相当性があるものと判断し,本件各記事等の作
成と掲載を決めた。(全体につき,乙24ないし27,証人I,証人K,証
人L)20
(ア)平成30年7月27日から同月30日ころにかけて,Kが取材開始に
当たり必要となる資料として,原告の父親が経営していた株式会社の法
人登記,タイタンの法人登記,原告の母親に関する複数の雑誌記事,原
告に関する複数の雑誌記事,原告の著書等を収集した。(乙1ないし15
の2)25
(イ)K及びLは,原告の出身高校の卒業名簿を基にして,原告の高校時代
の同級生への取材を行うこととし,平成30年8月1日から2日にかけ
て,Lが同級生4名に対して電話で取材をし,うち1名から割り算がで
きない原告に驚いた経験があること等を聴取した。同月2日,Lは,上
記の同級生の1名と面会し,当時の卒業アルバム及び卒業生の進路先が
記載された名簿(「第20回卒業生要録」)を入手した。この名簿では,5
1984年(昭和59年)3月2日時点の原告の進学先として「横浜放
送映画専門学院」と記載されていた。(乙19,26添付8)
J,L及びK(以下,併せて「Jら」という。)は,当該記載は,本件
経営コンサルタントからの聴取結果のうち,原告が一旦は不合格となっ
たが,その後の折衝を経た末に補欠合格となったという点と整合し,上10
記聴取結果の真実味が増すものと認識した。
(ウ)平成30年8月2日,Kは,原告の在籍当時の高校の教員の連絡先を
調査の上,担任であったM(以下「M」という。)と面会して,当時の原
告の成績に係る印象,原告が日本大学芸術学部映画学科への入学を希望
しており,Mが内申書を映画学科と演劇学科向けに2通作成したこと,15
Mは,原告が映画学科に落ちて横浜の専門学校に行くものと思っていた
ら,後から演劇学科に合格したとの報告を受けたことなどを聴取した。
また,同月3日,Kは,当時の演劇部の顧問であったN(以下「N」と
いう。)に電話で取材をして,Nは原告が横浜放送映画専門学院に合格し
ていてそこに行くものと思っていたが,その後原告から日本大学芸術学20
部の演劇学科に合格したと聞いた旨を聴取した。(乙18)
Jらは,上記については,2人の教員からの聴取結果が合致しており,
本件経営コンサルタントからの聴取結果の真実味が増すものと認識した。
(エ)平成30年8月3日,Kは,タイタン宛ての書面で,原告の裏口入学
に係る事実関係についての取材への協力を求めた。これに対し,タイタ25
ンの代表者からKに対し電話があり,上記のような事実関係はあり得な
いし,原告本人も否定している旨の応答であった。同日,K及びLが,
再度,タイタン宛ての書面で取材への協力を求め,さらに同月5日にも,
同様の書面で取材への協力を求めたが,タイタンから返事が得られなか
った。そこで,同日,K及びLが,原告の自宅を訪ね,原告から直接に
聴取をしようと試みたところ,居合わせた原告は,裏口入学につき身に5
覚えがない旨を述べた。その後,K及びLは,タイタンの事務所でタイ
タンの代表者と1時間ほど話をしたが,従前に電話で話された内容以上
のものは聴取できなかった。(乙20,21)
(オ)平成30年8月6日,Kは,日本大学宛ての書面で,原告の裏口入学
に係る事実関係についての取材への協力を求めた。同日,日本大学から10
書面で「そのような事実は把握しておりません。」という回答がなされた。
(乙23)
ウ訴外F(以下「F」という。)は,令和元年5月29日付けの陳述書を作
成した。同陳述書には,Fが,Cの異父姉の配偶者に当たる人物の運転手
を務めていたこと,平成の初め頃,当該人物から原告が日本大学芸術学部15
に裏口入学した旨を繰り返し聞かされたことなどが記載されている。(乙1
6)
2争点1(本件中吊り広告によるパブリシティ権侵害の有無)について
(1)肖像等を無断で使用する行為については,①肖像等それ自体を独立して鑑
賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で肖像等20
を商品等に付し,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等
の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を
侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である(最
高裁平成21年(受)第2056号同24年2月2日判決・民集66巻2号8
9頁参照)。25
これを本件について見るに,前記1(3)のとおり,本件中吊り広告は,本件
雑誌に収録された記事の見出しと当該記事に関連する多数の著名人等の肖像
写真が掲載されたものであって,原告と訴外Bの肖像写真以外にも,18名
分の肖像写真が掲載されている。しかも,同1(3)のとおり,原告に係る記事
の見出しは,本件中吊り広告の左から4分の1程度のスペースを使用して,
赤色の背景に縦書きで概ね4行にわたり記載されるなどの態様のものである5
が,原告の肖像写真は,この見出しスペースの下方3分の1程度,幅3分の
2程度のスペースに掲載されたものであって,同写真は,本件記事2の見出
しが記載された箇所付近に,当該見出しの大きさとの関係で不相応とまでは
いい難い大きさで掲載されたものであるといえる。このような掲載態様に照
らせば,本件中刷り広告における原告の肖像写真は,本件記事2の見出しを10
補足する目的で使用されたものということができるのであって,同写真の掲
載が,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③肖像等を商品等の
広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とす
るといえる場合に当たるとは認めるに足りない。その他,これを左右するに15
足りる事情は見当たらない。
そうすると,本件中吊り広告において,原告を被写体とする写真を同人に
無断で掲載する行為は,専ら原告の肖像の有する顧客吸引力の利用を目的と
するものとはいえず,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上
違法であるということはできないというべきである。20
(2)これに対し,原告は,本件のような場合において名誉毀損のみが成立し,
パブリシティ権の侵害が認められないのであれば,著名人に関する全く根も
葉もない事実がねつ造されて記事にされ,当該記事が掲載されていることを
理由に当該著名人の肖像等が掲載された広告などが至るところで使用された
としても名誉毀損による慰謝料しか認められないという事態にもなりかねず,25
当該著名人が受けた経済的損失は一切填補されることはなく,合理性を欠い
ていることは明らかである旨を主張する。
しかしながら,前記説示のとおり,本件中吊り広告において,原告を被写
体とする写真を同人に無断で掲載する行為が,その掲載態様に照らし,専ら
原告の肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえない以上,
原告の上記主張を考慮しても,その実質が広告であるなどとして,名誉権侵5
害と異なる法益を侵害するパブリシティ権侵害が成り立つものということは
できないといわざるを得ない。また,仮に名誉毀損の不法行為が成立する場
合には,当該不法行為と相当因果関係を有する損害については填補されるの
であるから,上記主張に係る経済的損失はその限度で填補されるものという
べきである。さらに,本件において,名誉毀損の不法行為によって填補され10
るべき損害を超えて,被告に填補させるべき損害の発生を認めるに足るだけ
の事実関係も認められない。
以上によれば,原告の上記主張は,パブリシティ権侵害の成立を否定する
上記判断を左右するものとはいえず,採用の限りでない。
3争点2(本件各記事等による名誉毀損の成否)及び争点3(名誉毀損に係る,15
真実性・相当性の抗弁の成否)について
(1)名誉毀損行為該当性
アこの点,名誉とは人の社会的評価に関するものであるところ,記事の内
容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般読者の普通の注
意と読み方を基準として判断するのが相当である(最高裁昭和29年(オ)20
第634号同31年7月20日判決・民集10巻8号1059頁参照)。
これを本件について見るに,前記1(1)ないし(3)のとおり,本件各記事
等においては,具体性や詳細さの点で違いはあるにせよ,原告が私立大学
に「裏口入学」した過去がある旨の事実が摘示されており,ここにいう「裏
口入学」が「正規の手続でなく,かげに回って」(広辞苑第7版)入学する25
ことを意味し,私立大学にそのような形で入学した過去を有すること自体
が,その人の社会的評価を低下させること,また,裏口入学の事実に加え
て,原告が受験日直前にホテルに缶詰め状態となって,現役教員から事前
にレクチャーを受けた旨の記載があり,これ自体,原告が裏口入学を自ら
認識していた可能性をうかがわせるものであることからすれば,本件各記
事等の内容は,原告の社会的評価を看過できない程度に低下させるものと5
いうべきであって,原告の名誉を毀損するものと言わざるを得ない。した
がって,被告が本件各記事等を作成し掲載した行為は,原告に対する名誉
毀損行為に該当するというべきである。
イこれに対し,被告は,本件各記事等は,原告の父親の溺愛をテーマとし
て記述しているものであるし,原告の裏口入学は原告の父親の溺愛による10
という事実を摘示しているにすぎず,原告が父親に裏口入学を頼んだとい
う事実摘示はなく,その他原告が主体的な立場で裏口入学をしたという事
実摘示もないから,本件各記事等のいずれについても,名誉毀損の類型的
実質的違法性を帯びているとは言い難いと主張する。
しかしながら,被告が主観的にいかなるテーマを設定していたかはとも15
かく,本件各記事等において摘示された事実により原告の社会的評価が看
過できない程度に低下することは前述のとおりであって,原告が裏口入学
に際し主体的な立場であった等の事実の摘示がないからといって,原告に
対する名誉毀損の不法行為を構成するに至らないという判断にはつなが
らないものというべきである。したがって,被告の上記主張は,本件各記20
事等による名誉毀損の成立を肯定した上記の判断を左右するものではな
い。
(2)真実性・相当性の抗弁の成否
ア被告は,「原告の父親が,原告を日大に裏口入学させた」という事実が真
実であり,または真実であると信じるにつき相当の理由があること,当該25
事実の摘示が公共の利害に関する事実に係ること,当該事実の摘示が専ら
公益を図る目的でされたことを主張して,名誉毀損による不法行為責任を
否定する。
しかしながら,本件各記事等に記載された内容は,専ら前記1(4)アのと
おり,本件経営コンサルタントから聴取した内容(以下「本件経営コンサ
ルタントの陳述」という。)に依存しているところ,本件経営コンサルタン5
トについてはその特定は必ずしも十分であるとはいえず,また,後記イの
とおり,同コンサルタントの陳述の信用性を具体的に認めるに足りる客観
的な証拠も見当たらないものであり,その内容が真実であることの証明が
あったとはいえない。さらに,本件経営コンサルタントの陳述を記事にし
た場合の影響の大きさに比して,実際に被告において行った取材の期間・10
経過やその内容等は前記1(4)のとおりであって,これらに照らすと,被告
において,本件経営コンサルタントの陳述につき十分な検討や裏付け取材
を行ったとは言い難いものというほかなく,被告において,本件経営コン
サルタントの陳述を真実であると信じるにつき相当な理由があったとは
認められないものというべきである。15
したがって,その余の点を検討するまでもなく,被告主張に係る真実性・
相当性の抗弁は認められない。
イこの点に関し,被告は,本件経営コンサルタントの陳述は,具体的で詳
細であり,裏口入学の仲介をしたとされる者の親族の運転手であるFの陳
述と,原告が日本大学芸術学部に裏口入学したという点で一致しているこ20
と,原告の高校時代の担任や同級生,原告の配偶者の各陳述,日本大学の
単に「事実を把握していない」というだけの回答内容等からすれば,本件
経営コンサルタントの陳述の信用性が裏付けられているとして,原告の父
親が本件経営コンサルタントを通じて裏口入学のための手段を尽くした
結果として原告を日本大学芸術学部に入学させたという事実は真実であ25
るというべきであるし,取材結果を踏まえれば,当該事実を真実であると
信じるについて相当な理由があるというべきである旨を主張する。
しかしながら,Fの陳述は,その内容を前提としても,裏口入学に直接
関与していない者から,原告が日本大学芸術学部に裏口入学したという話
を聞いたというものにすぎず,本件経営コンサルタントの供述の信用性を
裏付けるには到底足りないものというほかない。また,原告の高校時代の5
学力水準に係る担任や同級生の供述,並びに原告の配偶者からの確認結果
についても,担任(M)は証人尋問において原告の高校時代の学力水準に
係る記事内容を否定する旨の供述をしている上,被告が確認したと主張す
る内容を前提としたとしても,これらはそもそも主観的な印象の域を出る
ものではなく,それ自体,本件経営コンサルタントの陳述の信用性を積極10
的に基礎付けるに足りるものとは考え難い。さらに,日本大学の上記回答
内容についても,その内容自体からして,本件経営コンサルタントの陳述
の信用性を積極的に裏付ける方向に働くものとは言い難い。
これらの点を併せ考慮すれば,被告は,必ずしも本件経営コンサルタン
トの陳述と矛盾まではしないが積極的にその信用性を基礎付けるには足15
りない取材結果のみの積み重ねに基づいて,本件経営コンサルタントの供
述の信用性を肯定したものと言わざるを得ないところ,これは,真実性に
係る判断手法としては到底不十分なものと評せざるを得ず,このような判
断を追認し真実性・相当性の証明があったとすることはできない。なお,
このことは,被告主張に係る立証対象事実(すなわち,原告の父親が本件20
経営コンサルタントを通じて裏口入学のための手段を尽くした結果とし
て原告を日本大学芸術学部に入学させたという事実)を前提としても,そ
の内容に照らし,上記説示が左右されるものではない。
4争点4(相当因果関係を有する損害及びその額)について
上記3のとおり,被告の本件各記事等の作成及び掲載は,原告に対する名誉25
毀損を内容とする不法行為を構成するところ,上記1(1)ないし(3)で摘示した,
原告の父親が暴力団関係者とつながりのある者の紹介で裏口入学ネットワーク
を利用したこと,及び原告自身が入学試験前に大学関係者から試験問題の開示
を受けてレクチャーを受けていたこと等を含む本件各記事等の記載内容,本件
雑誌を含む「週刊新潮」の発行部数等に照らした世間一般の読者層への認知度
や浸透度,原告の職業や従前の活動内容,及び日本大学芸術学部在籍中に訴外5
Bと知り合ったという点は原告の経歴の中で相応の重要性を有していたことが
うかがわれることなどに加え,上記1(4)で摘示し,上記3で検討した本件各記
事等の作成に係る経緯を考慮すれば,本件における被告の行為によって原告の
受けた精神的損害は重大なものであると言わざるを得ない。他方で,原告は著
名なタレントであり,各種メディアを通じて自ら被害の回復を図ることが一定10
程度は可能であり,現にその機会を得ていたことがうかがわれること,本件各
記事等の掲載により原告の活動に客観的に見て具体的かつ重大な支障が生じた
事実までは認めるに足りないこと,その他,本件に現れた一切の事情を総合考
慮すれば,上記の精神的損害を慰藉する額としては,400万円と認定するの
が相当というべきである。また,上記に加え,本件事案の性質や本件訴訟の経15
過,難易度その他一切の事情に鑑み,本件の不法行為と相当因果関係があると
認められる弁護士費用としては,40万円とするのが相当である。
上記の点に関する被告の主張は,上記説示に照らし,採用の限りでない。ま
た,上記の点に関する原告の主張は,上記説示に照らし,上記認定額を超える
限度において,採用の限りでない。20
5争点5(本件記事1の削除請求の可否)について
前記3のとおり,本件記事1は,原告の名誉権を違法に侵害するものである
といえるから,原告は,被告に対し,人格権としての名誉権に基づく侵害差止
請求として,本件記事1の削除を請求することができるというべきである。こ
の点に関する被告の主張は,同説示に照らし,採用の限りでない。25
6争点6(謝罪広告の掲載の要否)について
前記4のとおり,被告の名誉毀損行為によって原告が被った損害は重大なも
のであるが,他方で,上記5のとおり,原告が本件記事1の削除を請求できる
こと,前記のとおり,原告は,各種メディアを通じて自ら被害の回復を図るこ
とが一定程度は可能であること,その他,本件訴訟に顕れた一切の事情を考慮
すれば,原告の名誉を回復する手段としては,前記認定の金銭賠償をもって足5
り,それに加えて原告が主張する各謝罪広告の掲載を認める必要性までは認め
られないというべきである。この点に関する原告の主張は,同説示に照らし,
採用の限りでない。
7結論
以上のとおり,原告の請求は主文第1項及び第2項の限度で理由があるか10
ら,それらの限度でこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこ
れらを棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,主文第1項につい
ては,仮執行の宣言は相当ではないので,これを付さないこととする。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官田中孝一
裁判官横山真通
裁判官奥俊彦
別紙1
第1ウェブサイトURL
https://以下省略
第2記載要領5
文字:文字の大きさは12ポイント以上
文字のフォントはゴシック体
文字の色は黒
年月日:謝罪広告の日
別紙2
爆笑問題「A」に裏口入学の過去発覚コンビ結成の“日大芸術学部”入試で
東京医科大の入試をめぐる“不正”が取り沙汰される折も折,お笑いコンビ爆笑
問題・A(53)の裏口入学が発覚。これまた渦中の日本大学がその舞台だが,こ
の裏口が無ければ相方のB(53)と出会うこともなく……。5
***
大東文化大学第一高校に通ったAが,日本大学芸術学部を受験したのは1984
年のこと。自身の進学について,〈いずれ日芸に行きたいと思っていた〉と自伝に
綴るが,一方で〈ダメなら専門学校の横浜映画学校に行ければいいやって思ってま
した〉(『爆笑問題A自伝』)。10
だが,内装会社を営んでいた父・H氏は,溺愛する一人っ子のAを,なんとして
でも日大に合格させたかったようだ。入試前年の83年後半,指定暴力団組長の愛
人芸者の娘と知り合い,“知る人ぞ知る裏口入学ネットワーク”に依頼をする。だ
が,
「この成績では無理だろうというレベルでしたね。Aの父親とも何度か打ち合わせ15
の席を持ちましたが,“息子,バカなんです。バカなんです”と繰り返していてね。
“割り算もできないんです”ともボヤいていました」(さる日大関係者)
そこでA本人に尋ねると,
「僕は身に覚えはないですよ」
との答えが返ってくるが,先の日大関係者は,20
「1次試験前日くらいのタイミングで,ホテルにAを缶詰にしました」
と,裏口入学について具体的な証言をする。曰く,本番と同じ問題を使い,現役
教員自らレクチャーした……。となれば,ゲタを履かせてもらっていることは,A
も分かっていたことになる。父・H氏は,対価として日大に800万円を支払った。
こうして“合格”した先で出会った相方と結成した爆笑問題は,今年で30年を25
迎えた。8月8日発売の週刊新潮では,“ゲタを履かせようにも,その足がなかっ
た”という言も出た「Aの裏口入学」について詳しく報じる。
別紙3
第1謝罪内容
当社は,当社が発刊した「週刊新潮2018年8月16・23日夏季特大号」誌
内,当社が運営するウェブサイト上,及び当社が管理するツイッター上において,
株式会社タイタンに所属するタレントのA氏(コンビ名:爆笑問題)が,日本大学5
芸術学部に裏口入学したという虚偽の事実を掲載し,もってA氏の名誉を著しく毀
損しました。
この名誉毀損行為につき,上記記事を撤回するとともに,ウェブサイト上及びツ
イッター上の記事を削除し,A氏を初め,ご迷惑をおかけした関係者の皆様に対し,
深く陳謝致します。10
第2記載要領
大きさ:週刊新潮の誌面1頁(B5サイズ)
文字:文字の大きさは12ポイント以上
文字のフォントはゴシック体15
文字の色は黒
年月日:謝罪広告の日

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