弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 被告が原告らに対し平成5年11月17日付けでした地方公務員
災害補償法に基づく各公務外認定処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は,地方公務員である原告らが,知的障害児通園施設の指導業務に従事中,上肢や腰部に痛みなどの症状が
発症したところ,これらは原告らが従事した指導業務に起因する公務上の疾病であるとして,被告に対して地方公務員災
害補償法(以下「地公災法」という。)に基づき公務上認定請求をしたのに対し,被告から公務外認定処分を受けたため,
その取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者の地位
ア さざんか学園は,横浜市が開設する,児童福祉法43条にいう知的障害児通園施設(知的障害のある児童を日々
保護者の下から通わせて,これを保護するとともに,独立自活に必要な知識技能を与えることを目的とする施設)である。
イ 原告Aは,昭和30年9月生の男性で,昭和54年10月社会福祉職として横浜市に任用されると同時に,民政局
(現在は福祉局)さざんか学園開設準備担当応援を発令され,同年12月さざんか学園が開設されると引き続き児童指導
員として同学園勤務を命じられた。その後,原告Aは,平成5年4月横浜市南福祉事務所のケースワーカーに異動した。
ウ 原告Bは,昭和31年8月生の女性で,昭和52年4月保母として横浜市に任用され,民生局中央児童相談所一時
保護所勤務を発令され,昭和53年9月から民生局ひのき学園に勤務した後,昭和54年10月さざんか学園開設準備担当
の発令を受け,同年12月さざんか学園が開設されると引き続き保育士として同学園勤務を命じられた。その後,原告Bは,
平成6年4月横浜市立笹下南保育園の保育士に異動した。
(2) さざんか学園の概要
ア さざんか学園は,昭和54年12月,児童福祉法上の施設である精神薄弱児通園施設として開設されたが,平成1
0年法律第110号に基づく同法改正によって知的障害児通園施設となったものである。
 さざんか学園は,横浜市立の知的障害児通園施設としてはときわ学園(保土ヶ谷区所在)に次ぐもので,知的障害
を持つ園児に対して「遊び」を取り入れた集団生活を通して,発達に必要な生活経験を豊かにし,基本的生活習慣と社会
性を身につけ,社会生活になじんでいけるよう指導援助を行うことを目的としている。
イ さざんか学園は,横浜市q区rs丁目t-uに所在し,JR鶴見駅から徒歩10分くらいのところにあって,旧東海道に
面している。
 さざんか学園は,図書館と併設された鉄筋3階建ての建物の1階部分で,職員室,ホール,指導室5室(このうち1
室は多目的に使用している。),調理室,静養室,トイレ等がある。また,園庭には,鉄棒,ブランコ,滑り台,砂場,築山,
グローブジャングル(回転するジャングルジム),わんぱくジム(ロープネットでよじ登って遊ぶもの)等が設けられているほ
か,夏季には組み立て式プールも設けられている。
ウ さざんか学園の入園対象となるのは3歳以上の知的障害児で,日々通園可能な就学前の児童であるが,小学校
に入学するまで必ず在園するということではなく,さざんか学園において一定の保育・介護を受けた後,幼稚園・保育園等
の他の施設に通園するため退園していく園児もいる。定員は40名で,入園児童を4つのクラスに分けて運営している。
エ さざんか学園への入園は,保健所・医療機関などで知的障害が認められた児童につき,父母等が児童相談所に
入園申込みをし,児童相談所が診断・判定を行い,その結果に基づいて入園決定を行い,児童の入園に至るというプロセ
スで行われる。
オ 園児は,自家用車などで直接登降園する場合もあるが,多くは,鶴見区・神奈川区・港北区を巡回している学園
バスで登降園する。この3区内には,あらかじめ決められたバス停留所があり,そこまでは保護者が送迎することになってい
る。また,学園バスは,京浜急行鶴見駅前にも停まるため,前記3区以外からの園児は保護者に連れられて電車等の交通
機関で京浜急行鶴見駅前まで行き,そこから,学園バスで登園する。
カ さざんか学園の指導日は,月曜日から金曜日までの週5日で,園内での指導は,午前10時から水曜日以外は午
後2時まで,水曜日は午後1時までとなっている。
キ さざんか学園の職員は,園長が1名,副園長が1名,事務が1名,児童指導員及び保育士が合計13名,調理が2
名,運転手が1名,看護婦が1名(平成元年10月26日以降ときわ学園と兼務で配置),嘱託医が2名(小児科,精神科各1
名。ただし,学園に常駐しない。)の総計22名である。
そのうち,児童に対する指導業務(児童の保育・介護業務)及び保護者に対する援助業務を行う職員は,児童指
導員及び保育士であるが,児童指導員は社会福祉主事資格を持つ者,保育士は保育士資格を持つ者で,さざんか学園
においては,全く同じ業務を行っている(以下「児童指導員・保育士」と総称する。)。
(3) さざんか学園の園児の状況
さざんか学園が対象とする知的障害児の特徴は,言語発達(理解と表出)や認知の面,運動発達の面,対人関係や
社会性の面(情緒面),基本的生活習慣の面などの各領域にわたって発達の遅れが見られること,それぞれの領域での発
達度にやや差があることが多いこと,発達の速さがゆっくりしていること等であるが,その発達の筋道は健常児と共通してい
る。
知的障害児の発達段階については,児童の知能指数(IQ)に相当する乳幼児の発達段階を表す発達指数(DQ)に
より,最重度(DQ20未満),重度(DQ20から35),中度(DQ35から50),軽度(DQ50から70)と分類されることが多い。
3歳から5歳までの児童の体重は,おおむね12キログラムから20キログラム程度であるが,児童の中には20キログラ
ム以上の者も少なくなく,中には30キログラムを超える者もいる。
(4) さざんか学園における指導の目標及び内容
ア さざんか学園では,園児に対し,・ 健康な心と体に育つ,・ 自分のことが自分でできる,・ 人とのかかわり合いの
中で遊びができることを目標に指導・援助を行っている。
イ さざんか学園では,この指導目標に基づき,次のような内容の保育・指導を行っている。
(ア) 健康や生活リズムの確立と,ADL(食事,排泄,着脱,清潔,整理等の日常生活動作activity of daily 
livingをいう。以下同じ。)を身につけ,身辺自立を促すという基本的生活習慣の指導
(イ) 全身を使った遊び,手や指を動かす遊び,見たり聞いたりする遊び,集団遊び等を通じて興味や意欲を育て健
康な体を作るという遊び・運動の指導
(ウ) 5月から1月までに約20回,健康な体をつくり親子関係の改善を図るために,民間スイミングクラブとの契約によ
り行われる温水プールでの水泳指導
(エ) 地域の保育園の園児と交流し,経験の拡大と対人関係の発達を促す交流保育
(オ) 経験を広げ,社会性の向上を図るための園外指導,合宿,運動会,学園祭,誕生会等の行事
(5) 原告らの休業
ア 原告Aは,平成元年11月16日から休業に入った。これに先だって,原告Aは,同月8日,9日,11日年次休暇を
取得し,同月13日は代休日であった。なお,原告Aについての,同日付けの汐田理学診療所の診断書には「頸肩腕障
害,腰痛症」との記載がある。その後,原告Aは,平成2年10月職場復帰したが,復帰に当たっては業務軽減措置が行わ
れた。
イ 原告Bは,平成元年12月28日から休業に入った。なお,原告Bについての,平成元年12月27日付けの汐田理
学診療所の診断書には「頸肩腕障害,腰痛症」との記載がある。その後,原告Bは,平成3年3月職場復帰した。
(6) 原告らの公務上認定請求について
ア 原告Aは平成元年12月27日付けで,原告Bは平成2年1月18日付けで,それぞれ,さざんか学園で指導業務に
従事中,上肢や腰部に痛みなどの症状の発症があり,これらは原告らが従事した指導業務に起因する公務上の疾病であ
るとして,地公災法に基づき,被告に対して,公務上認定請求をしたが,被告は,いずれについても,平成5年11月17日
付けで公務外認定処分(以下「本件各処分」という。)をした。
イ 原告らは,本件各処分について,平成6年1月14日付けで地方公務員災害補償基金横浜市支部審査会に対し
審査請求をしたが,同支部審査会は,平成8年8月8日付けでこれらをいずれも棄却する旨の決定をした。さらに,原告ら
は,同年9月26日付けで地方公務員災害補償基金審査会に再審査請求をしたが,同審査会は,平成9年6月25日付け
でこれらをいずれも棄却する旨の裁決をした。
2 争点
原告らの上記公務上認定請求にかかる疾病(以下「本件疾病」という。)に公務起因性が認められるかどうか。
3 当事者の主張の骨子
(1) 原告ら
ア 因果関係の判断視点
(ア) 地方公務員の疾病が地公災法の補償の対象となるためには,公務と疾病との間に相当因果関係が存すること
が必要である。そして,公務と疾病との相当因果関係を肯定するためには,公務に内在又は随伴する危険が現実化して
当該疾病を発症又は増悪させたと認められることが必要である。
訴訟上の因果関係の立証は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必
要とし,かつ,それで足りるものである。この基本原則は,公務と疾病との間の因果関係の存否を判断する際の判断基準で
もある。
相当因果関係を肯定するには,まず,前提として条件関係が存在することが必要である。
条件関係が認められた場合の相当性については,地方公務員災害補償制度(以下「地公災制度」という。)の趣
旨に照らすと,当該公務がその災害発生の危険を内在又は随伴しており,その危険が現実化したということができるなら,
これをもって必要かつ十分と解するのが相当で,他に災害の発生との間に条件関係のある原因があったとしても,公務起
因性を肯定すべきである。
ところで,公務の遂行に当たる公務員は,当該公務の内容,性質等に照らし,これを遂行できるだけの心身の健
康状態,能力等の適格性を有していることが想定されているといえるから,そのような公務員において,当該公務の内容,
性質等が当該疾病の要因となるものであり,当該職員の症状の推移と公務との間に対応関係を認めることができれば,公
務に内在する危険が現実化したものと判断され,他に明らかにこれに優越する要因が個別具体的に認められない限り,相
当因果関係が認められる。
被告は,相当因果関係が認められるためには,公務が他の原因と比較して相対的に有力な原因となっていること
が必要であると主張するが,何をもって相対的に有力な原因であると考えるのか,その判断基準が明確でないから,上記
のとおりに解するのが相当である。
(イ) 労働基準法75条は,業務上の疾病のみについてその内容を命令で定めることとしているが,その趣旨は,疾病
の内容が負傷ほどに明らかでないことから,命令において具体的に明らかにすることにより,補償責任を迅速かつ確実に
履行させることを図ることにあり,労働基準法施行規則の定めが因果関係の明白性を殊更要求するものと解されてはなら
ない。
被告は,原告らの疾病につき,昭和48年11月26日付け基金理事長通知地基補第539号「公務上の災害の認
定基準について」及び昭和52年2月14日付け基金理事長通知地基補第67号「腰痛の公務上外の認定について」に基
づいて,公務外認定処分をしている。これらの通知による基準は,認定の要件として発症前に過重な業務に従事したかど
うかを重視し,業務の過重性は同僚や同種公務員との比較で判断するとしているが,この基準は,当該公務員の所定業
務自体が負荷の大きなものである場合や,当該職場や同種職務がおしなべて過重である場合を考えれば不合理であり,
当該公務員にとっての適切な業務量を基準として過重であったかどうかを判断すべきである。
イ 保育・介護労働と頸肩腕障害及び腰痛との一般的因果関係について
(ア) 頸肩腕障害について
頸肩腕障害は,昭和47年度日本産業衛生学会頸肩腕症候群委員会報告が提案した名称で,「業務による障害
を対象とする。すなわち,上肢を同一肢位に保持,または反復使用する作業により神経・筋疲労を生ずる結果起こる機能
的あるいは器質的障害である。ただし,病像形成には精神的因子及び環境因子の関与も無視し得ない。したがって本障
害には従来の成書に見られる疾患(腱鞘炎,関節炎,斜角筋症候群など)も含まれるが,大半は従来の尺度では判断しが
たい性質のものであり,新たな観点に立った診断基準が必要である。」と定義されている。
労働省の平成9年2月3日付け通達「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準について」(基発第65号,以
下「基発65号通達」という。)は,「上肢等に過度の負担のかかる業務によって,後頭部,頸部,肩甲帯,上腕,前腕,手及
び指に発生した運動器の障害」を対象とし,その代表的な診断名の一つとして頸肩腕症候群を挙げている。そして,中央
労働災害防止協会が労働省に提出した「職場における頸肩腕症候群予防対策に関する検討結果報告書」(以下「検討結
果報告書」という。)は,「頸肩腕症候群は,他覚的な所見よりも,上肢等への負担による自覚症状が先行することが多いこ
とから,日常の健康状態の把握及び健康診断における問診が特に重要である。」としている。
検討結果報告書は,頸肩腕症候群を予防する観点から留意すべき作業の一例である,上肢等の特定の部位に
負担のかかる作業として,保育,看護,介護作業を挙げ,これらの作業が頸肩腕障害の起きやすい業務であり,特別の対
策が必要であることを示している。さらに,頸肩腕症候群の発生には,同一姿勢の維持,反復動作等作業そのものに関連
した直接要因が関与することが多く,作業量,作業強度等の促進要因による影響を十分考慮した上で,作業管理を適切
に行う必要があるとしている。
 基発65号通達は,業務上の認定要件として,・ 上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事し
た後に発症したものであること,・ 発症前に過重な業務に就労したこと,・ 過重な業務への就労と発症までの経過が,医
学上妥当なものと認められることを挙げているが,平成9年2月3日付けで労働省労働基準局補償課長が発出した事務連
絡「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準の運用上の留意点について」(事務連絡第1号,以下「補償課長事務
連絡」という。)は,「上肢等に負担のかかる作業」について,保育,看護,介護作業を例示している。また,基発65号通達
は,「相当期間従事した」とは,発症までに上肢作業に6か月程度以上従事したことをいうとし,「過重な業務」の判断基準
として,長時間作業,他律的かつ過度な作業ペース,過大な重量負荷・力の発揮,過度の緊張,不適切な作業環境(不適
切な作業台の高さ等)といった質的な要因も評価の対象とすることとしている。
 頸肩腕障害では,自覚症状が先行し,それに対する適切な対応がされないまま悪化することが多く,いわゆる難
治例が発生することもある。検討結果報告書は,頸肩腕症候群及び関連疾病の治療中若しくはその後の職場復帰,これ
らの既往ある者の配置若しくは配置転換に際して,上肢等への負担によって症状が再発したり増悪することがあるとしてい
る。
基発65号通達は,上肢障害については,適切な療養を行うことによって,おおむね3か月程度で症状が軽快し,
手術が施行された場合でも一般的におおむね6か月程度の療養が行われれば治ゆするものと考えられるとしている。しか
し,この見解には,科学的根拠がなく,難治性になると,休業,リハビリを含めて長年の経過をたどらざるを得ないことがあ
る。
さらに,最判平成9年11月28日裁判集民事168号269頁も,保育士の保育労働が身体の特定部位に負担がか
かる作業であることを明らかにしている。
なお,地方公務員災害補償基金の平成9年4月1日付け通知地基補第103号及び第104号には,上肢等の特
定の部位に負担のかかる状態で行う作業として保育,看護,介護作業の例示を欠くが,これは,上記事務連絡に相違する
不相当なものである。
(イ) 腰痛について
労働省労働基準局長の平成6年9月6日付け通達「職場における腰痛予防対策の推進について」(基発第547
号。以下「基発547号通達」という。)は,腰痛の発生が比較的多い作業を5つ挙げたうちの1つとして重症心身障害児施
設等における介護作業を挙げ,具体的な予防対策を指示している。さらに,基発547号通達は,上記作業に加え肢体不
自由児施設,特別養護老人ホーム等における介護についても,同様の対策を取ることを求めている。
そして,基発547号通達は,腰痛予防の対策として,腰部に負担のかかる中腰,ひねり,前屈,後屈ねん転等の
不自然な姿勢をとらないようにすること,腰部に負担のかかる動作を行うに当たっては,姿勢を整え,かつ,急激な動作を
避けること,頭部又は腰部の不意なひねりを可能な限り避け,動作時には,視線も動作に合わせて移動させること,同じ姿
勢や動作が反復するような作業態様をできるだけ避けること等を求めている。
(ウ) 疫学的調査,研究について
多くの疫学的調査結果や臨床報告等も保育・介護作業と頸肩腕障害・腰痛症との因果関係を明らかにしている。
以上によれば,保育・介護労働と頸肩腕障害・腰痛症との間には一般的な因果関係があるということができる。
ウ さざんか学園での労働実態
(ア) 人員配置
さざんか学園開設時,横浜市民生局は,同種施設のときわ学園に勤務している経験者をさざんか学園に複数配
置すべきであったのに,障害幼児の療育について未経験の職員のみを配置した。
さざんか学園では,園児の保育・介護業務,保護者の援助業務に当たる専門職は,障害児3人に1人の割合で
配置されている児童指導員・保育士のみであり,かつ,休暇や研修,出張等で職員が欠ければ,その割合を保つことはで
きず,出勤している職員の負担が大きくなった。
実際,児童指導員・保育士が全日全員出勤した日は少なく,特に通常の保育日に全日全員出勤した日は極めて
少ない。児童指導員・保育士が2人以上欠けている日も相当数ある。
児童指導員・保育士以外では,平成元年10月26日看護婦が配置されたが,ときわ学園と合わせて1名であった
ため,1日おきの出勤であった。また,さざんか学園には,ケースワーカーや理学療法士,作業療法士等は配置されてい
なかった。
(イ) 入園児の重度化
さざんか学園の入園対象は,3歳以上の知的障害児で,日々通園可能で小集団になじむ就学前の子供とされて
いたが,開設当時の情勢から見て,重度,低年齢の児童が入園してくることは明らかであった。しかし,横浜市民生局は,
4歳児以上の中程度の障害児を受け入れる障害児指定保育園の職員配置基準と同じ3対1の基準でさざんか学園を開設
した。
被告が提出した資料,措置決定した児童相談所から送付されてきた資料及びさざんか学園で指導を実践するた
め検討した結果をまとめた甲第88号証によれば,実際,さざんか学園の開設から3年間は,重度の障害をもった園児は入
園児全体の10パーセント以下であったが,昭和57年度以降は,20パーセント以上になり,昭和63年度には半数となっ
た。平成元年には,やや少なくなったが,重度の障害を持つ園児が20パーセントを超える状態は変わらなかった。
(ウ) 施設設備について
さざんか学園の建物には,柱が多いため,児童指導員・保育士は,死角や柱への衝突の危険に注意を払う必要
がある。また,平成3年9月改修されるまでの指導室の園児用トイレは,手洗い用の流しが園児用の低いものしかなかった
ため,児童指導員・保育士が水を使うときは,上半身を前かがみにしなければならず,園児が体を汚したときに必要なシャ
ワー室も,園児が立つ床の高さが,介助する児童指導員・保育士の立つ床の高さと同じであったため,中腰又は前かがみ
の姿勢で,かつ,園児がつかまる手すりもないことから,片手で園児を支えながらシャワー介助を行わなければならなかっ
た。指導室内のロッカーは,移動可能で高さが100センチメートルくらいのものであったため,園児が登って落下しそうにな
ったり,ロッカー自体が倒れそうになるなどの危険があった。給食の際も,平成3年8月までは適当な高さの配膳テーブル
がなく,児童指導員・保育士は,児童用の低い保育テーブルで盛りつけていた。連絡帳を記入する際も幼児用の低いい
すに座って,かなり無理な姿勢での作業をしていた。玄関や指導室の鍵も不十分なところがあり,園児が外に出てしまうお
それがあることから児童指導員・保育士の緊張は強かった。また,学園内には,歩行不安定な園児のための手すりも取り
付けられていなかった。
(エ) 労働時間の実情
さざんか学園での園児の指導時間は,水曜日以外は4時間で,学園バスの車内指導の時間を含めても6時間で
あったが,園児は,様々な障害を持ち,多様な対応を必要としており,児童指導員・保育士は,休みなく,常に神経を張り
つめた状態で腰背部や上肢に負担のかかる作業を行っているから,その身体的・精神的緊張は,通常の保育園の保育時
間8時間と変わらない。
また,土曜日も職員の出勤日とされ,主として個別面談,家庭訪問,教材準備等が行われていた。
残業時間もあらかじめ割り当てられた年数十時間の枠を越えたものは,記録に残らないが,学期末等には,勤務
時間内に仕事を消化することができず,勤務時間後も業務に当たることが多かった。
前記のように,児童指導員・保育士が休暇を取ると,他の児童指導員・保育士の負担が大きくなるため,心理的に
休暇を取りにくい状態であった。そのため,疲労が蓄積しやすかった。
(オ) このようなことから,さざんか学園では,頸肩腕障害や腰痛症が多発しており,昭和54年度から平成元年度にか
けて保育・介護業務に携わった児童指導員・保育士21名のうち,11名が頸肩腕障害や腰痛症により通院治療を受け,通
院治療は受けなかったが同様の症状で業務に支障を感じた者が8名に上った。
エ さざんか学園での公務の過重性について
(ア) 知的障害児の特徴
 知的障害とは,・ 一般的知的機能が平均と比較して有意に低いこと,・ その社会が年齢に応じ期待する個人
的・社会的な自立の程度(社会生活能力)が明らかに遅れていること,・ これらが発達の著しい時期である受胎から18歳
の誕生日までに発症したことと定義される。
 横浜市では,知能検査によって判定される知的能力とともに発達検査による適応能力の程度によっても知的障
害の程度を判定しているが,知的障害が重い場合,総じてADLの能力も低く,介護度が高くなる。
 また,運動能力,手指の操作性,対人関係・社会性,基本的生活習慣,指示理解,言語表現等の分野ごとに発
達年齢を測定し,これを分子とし暦年齢を分母として割る発達指数という概念があるが,暦年齢に従って順調に発達年齢
が伸びていく例が多い健常児に対し,知的障害児では,発達年齢の伸びが鈍いため,暦年齢の増加に伴い発達指数は
低下していくことになる。
 知的障害を有する子供は,知的障害に加え自閉性障害や身体障害等の他の障害や合併症を併有している場合
が少なくない。自閉症児には,社会的相互関係の障害,コミュニケーションの障害,活動の対象や興味の幅が著しく限ら
れるといった特徴がある。その結果,自ら危険を認識できず,危険回避も容易ではないし,コミュニケーションが困難である
こともあって保育に当たっては特別の注意が必要である。
 障害を有することは人間としての発達に大きな困難を伴うが,適切な働きかけや教育が行われれば,どの子供も
発達していく。就学までの期間は,障害児にとっても人間としての基本的な機能・能力を獲得していく重要な時期である。
障害児保育・療育は,障害の軽減や障害の固定化の防止という機能訓練的側面にとどまらず,日常生活面での能力を発
揮させ,活動への意欲を高め,社会参加に向けての基礎を作っていくことに結びつけることが求められる。自閉性障害に
ついても自傷・他害,多動,異食といった「問題行動」といわれる行動の固定化を防ぐため,信頼できる大人との関係を形
成していくことや子供が理解して受け止められる世界を少しずつ広げていくことが求められる。
(イ) さざんか学園での指導は,次のように行われる。
a 個別目標の作成
児童指導員・保育士は,毎日園児と実際に接し,家庭での様子を知ることにより把握した園児の様子をクラス担
任間で話し合い,試行錯誤しながら個別指導目標を立て,これらを基に保育・介護を行う。
b 指導形態
個々の園児の障害や発達状況,特性等を考慮し,効果的に指導を進められるように,クラスを編成して,日常的
な指導はこのクラスを単位として行う。
クラス指導は,クラス担任全員が,個々の園児の保育・介護にかかわるが,場面に応じてリーダー,連絡帳担
当,フリーに分かれて,1週間交替でクラス全体を運営していく。4名担任の場合は,フリーが2名となる。
クラス指導以外には,課題に集中できるよう個別あるいは少数での指導を行う場合や,園児相互の関係の広が
りを促すために,複数クラスの合同や,クラスを越えたグループを編成しての指導,全体指導等を行う場合もある(リズム運
動,全体集会等)。
(ウ) 保育・介護の実際
保育・介護作業の内容とそれに伴う児童指導員・保育士の業務を一日の標準的な日課に沿って指摘すると以下
のようになる。
a 朝の連絡会
朝は8時45分までに着替えをすませて事務室に集合し,全員で10分程度の連絡会を行い,8時55分ころ送迎
バスが出発する。
b バス車内での指導(バス当番の場合)
バスには,児童指導員・保育士が2人乗車し,出発後5分から10分で初めの停留所に到着し,保護者から園児
を預かり,乗車させる。その後数か所の停留所を回り,最後に鶴見駅前で残りの園児を乗車させる。
バス乗車口から座席までの園児の移動介助では,園児の背の高さに合わせて前傾・中腰姿勢で園児を支える。
バス車内では,揺れる狭い車内で園児への対応をし,危険も伴う。
c 清掃等(バス当番以外の場合)
連絡会終了後に準備運動を行い,その後,15分から30分かけて,園内外の清掃を行う。また,係ごとの打合せ
や,直接登園した園児の受け入れも行う。
d 安全確保
園児は,ドアの鍵を開けたり,フェンスをよじ登ったりして園外に出てしまうことがあるため,園児の在園中は,園
児の人数には常に注意して行動を把握しなければならない。
e バスからの移動介助
バスから各指導室へ園児を移動させる際の介助は,園児の身長に合わせた姿勢をとりつつ,園児の体重を支え
る。
f 朝の支度
(a) 持ち物の整理
園児たちは,指導室に入ると,かばんから連絡帳やタオルを取り出し,それぞれの場所におく。児童指導員・
保育士は,園児の身長や動きに合わせて,園児の動作に手を添えて介助する。
(b) 着替え
着替えの介助は,園児に合わせて前かがみや中腰姿勢になったり,床に直接座り込んで園児を支えたり,起
こしたり,持ち上げたりしながら,園児の動作に手を添えて,やる気を起こさせながら根気よく続ける必要がある。
(c) 排泄介助
排泄の際には,トイレへの移動介助が伴う。トイレ内の排泄指導では,園児を安全に便器の前に立たせ,園児
を支えながら動作に手を添える。排泄後の手洗いは,園児用の低い蛇口で,前傾・中腰姿勢になりながら園児の姿勢を保
持して行わせる。
g 朝の健康チェック・一日の導入
朝の支度を終えた後,園児たちの健康状態を確認したり,親と離れて緊張した園児の気持ちを十分にほぐす必
要がある。この時には,職員のうち1人は,連絡帳に目を通しており,他の2人の職員が園児の保育に当たる。
h リズム運動
軽く体を動かして心身ともにほぐすために,ホールでリズム運動をしたり,指導室で体を動かしたりする。
i 朝の会
朝の会では,リーダーが園児の前に座って,1人ずつ名前を呼んだり,紙芝居や手遊び歌などをしながら次の
課題への気持ちや期待を高めていく。
ここでは,しゃがみ込んだり,園児用の低いいす(縦横約25センチメートル,高さ約29センチメートル)に座った
姿勢で,園児の姿勢を保持したり,突然の立ち歩きを押さえたり,離席した子供を連れ戻すというとっさの動作も加わる。
j 設定遊び(午前の課題)
園児たちの発達を促すために,様々な設定の遊び,課題を工夫して取り組んでいく。
肢体不自由などを併せ持ち,1人では歩くことができない園児を外で遊ばせるためには,シートやマットを敷いて
座らせ,1人で座った姿勢を保持できない園児は,職員が抱きかかえて支える必要がある。
また,自閉性障害児の興味を広げていくには,時間をかけてかかわり,十分満足させ,信頼関係を作ることが必
要で,1時間以上もかかわらなければならないこともある。
(a) 感覚遊び
様々な感触を受け入れられない園児のため,小麦粉を使った感覚遊びを行う。いやがったり不安がる園児を
安心させながら少しずつさわらせていく必要がある。児童指導員・保育士は,園児を抱きかかえたり,立て膝で移動したり
することもある。
感覚遊びは,紙吹雪や砂などを使っても行われ,後かたづけが大変である。
(b) 遊び
感覚遊びなどの後には,園児たちを園庭やホールで遊ばせ,その間に他の児童指導員・保育士は,汚れた園
児にシャワーを浴びさせたり,部屋の掃除を行ったりする。ここでの揺さぶり遊びは,上肢や腰背部への負担が大きいし,
重量のある遊具や道具を倉庫から出すこともある。
(c) 散歩
手をつなぐ場合でも,バギーや散歩用の車に乗せていく場合でも前傾・中腰姿勢となる。また,園児が自分の
行きたい方向に飛び出すのを止めたり,歩行が不安定な園児の姿勢を保持する必要がある。
(d) リズム運動
リズム運動は,音楽に合わせて体を動かしながら園児たちの発達を促す遊びである。
ハイハイ遊びでは,園児に声をかけながら児童指導員・保育士も一緒にハイハイをする。園児の介助をするた
めに,立て膝の状態で腰にひねりが入り,その姿勢が続く。
手押し車遊びは,園児の手指や腕の力をつけたり,首からあごにかけての筋力を付けるために効果があり,言
葉の発達にも影響する。児童指導員・保育士は,前傾姿勢で園児の体を支えたり,園児の腕の力が特に弱い場合は,立
て膝で,片方の手を伸ばして園児の上半身を支えるという極端な前傾姿勢を余儀なくされる。
どんぐりの曲に合わせて寝返りの運動をする遊びでは,児童指導員・保育士は,床にひざを付けて園児の肩と
足を支えたり,押したりしながら介助する。
(e) プール
夏になると,屋上から,プールの部品を運んできて組み立てる。児童指導員・保育士は,園児を水中で揺さぶ
ったり,抱きかかえて水の中に入ったりする。また,プールに入る前の着替え,出た後のシャワーや着替えの介助は,個別
的に行う。
k 手洗い,排泄
外の遊びから帰ってきた園児に,排泄を行わせ,手を洗わせる。短時間のうちに1人ずつ職員の手を添えて介
助する。特に汚れている園児がいる場合に,シャワーを浴びさせる時は,園児の姿勢を保持しながら行う。
l 給食準備
午前中の遊びの片づけと掃除をした後,給食の準備に取りかかる。
その日出席した園児に合わせて,重さ約20キログラムの保育テーブルと個人机をセットしていく。配膳は高さの
低い保育テーブルを利用して行われていた。園児が給食袋からスプーンやお手ふきを出す際にも手を添える。
m 食事
食事の際は,児童指導員・保育士が園児用の低いいすに座りながら,園児の口へ食事を運んだり,スプーンを
持つ手を支えたり,手を添えたりしながら介助する。1人で3人から4人の子供を同時に介助するので,腰へのひねりや上
肢や腰背部への負担が同じ姿勢で連続することになる。
また,いすに座った園児の姿勢を保持する介助や,突然の立ち歩きを押さえるとっさの動作,離席した園児を抱
いて連れ戻す等の動作の時も負担のかかる姿勢となりやすい。
n 片づけ
食べ終わった園児から,トレイを配膳台に運ぶが,児童指導員・保育士は,園児のトレイを持つ手に手を添え,1
人に対応しながら他の園児にも注意を払いつつ移動しなければならない。
鍋,おひつ,食器等の片づけやテーブルを拭いたり,運び出したり,床を拭く作業は,負担が大きい。
o 着替え
食事後に,ほとんどの園児は,食べこぼしで汚した服を着替える。児童指導員・保育士は,園児の動作に合わ
せて中腰のまま介助する手を挙げたり下げたりする。また,まだ食事中の園児に声をかけたり,クラス全体の安全把握をす
る。
p 午後の遊び
食事の後片づけをし,連絡帳担当の児童指導員・保育士が連絡帳を記入している間,全クラスの園児がホール
に集まって遊ぶ。ホールでは,児童指導員・保育士が少人数で園児の安全把握をする。また,連絡帳担当者は,園児用
保育テーブルと園児用のいすを利用して連絡帳に記入する。
q ホールの片づけ
指導室の片づけが終わると,園児は指導室に戻るため,児童指導員・保育士は,ホールのトランポリンやマットな
どの遊具を片づけ,指導室への移動介助を行う。
r 排泄介助
s 帰りの支度
連絡帳をかばんにしまい,着替えの介助をする。
t 帰りの会
帰りの支度の後,明日もさざんか学園に行きたいという気持ちを起こさせるため,楽しく行う。しゃがみ込んだり,
園児用の低いいすに座って,園児の姿勢を保持したり,突然の立ち歩きを押さえたり,離席した子を抱いて連れ戻したりす
る。
u バス乗車
登園の時と同じようにバスに乗せる。
v 降園バス
午後2時ころ降園バスは2人の児童指導員・保育士と共に出発し,午後3時15分ころに帰ってくる。バス当番以
外の児童指導員・保育士は,降園後の業務に入る。
w 降園後の業務
降園後においては,個人面談がない場合,指導室,園庭,廊下,ホール等の片づけ,清掃作業や,洗濯,洗い
物を行ったり,園児の作品の整理をする。
個人面談がある場合は,2人が保護者と面談し,1人が園児を見るが,面談は,園児用の低いいすとテーブルで
行われる。
家庭訪問がある場合は,3名担任の場合,通常2人が訪問し,降園時間と同時に出発し,1時間から1時間半ほ
どかけて家庭での園児の状況を把握したり,保護者と話し合ったりする。この場合休憩がとれない。また,残った担任1人
で指導室の片づけ等を行うことになる。
x 休憩時間
始業から6時間以上経過して初めて与えられる午後3時15分からの休憩時間には,事務室や指導室で過ごす
こととなり,ゆったり身体を休められる環境ではないし,保護者や関係機関等との連絡,片づけや清掃,面談などがずれ込
んでしまい,所定の60分間休憩できることはまれである。
y 午後の連絡会
午後4時15分から,全職員が事務室に集まり,15分から30分程度,当日の園児の状況など必要事項について
連絡・検討を行う。
z 連絡会以後
その後,各担当の打ち合わせや資料作成を行ったり,降園バス運行中に終わらなかった業務を再開して行った
りする。
(エ) 園児に対する指導内容,児童指導員・保育士の業務内容及びその特徴
a 園児の成長発達の基盤を作るために欠かせない,遊び・運動については,発達の土台となる興味と意欲を引き
出すために,感覚を刺激する遊びや,バランス感覚を育て,筋力を高めるような遊びを行う。障害を持つ園児は,放ってお
いてはなかなかうまく遊べるようにならないため,児童指導員・保育士が,適切,積極的にかかわり,遊びの力を付けさせて
いくことが,重要な保育・介護の一内容となる。しかし,知的障害の他にも様々な障害を持っている複数の園児を相手にし
て,児童指導員・保育士が,こうした遊びにかかわっていくことは楽な作業ではなく,注意を四方に巡らせながら,異なった
動作を同じ場面で同時に連続的に要求されることが多い。
ADLに関しては,園児が自分でできるようになることが目的であり,児童指導員・保育士は,園児の自発的動作
を引き出させるように,微妙に,時間をかけながらゆっくりした動きで介助する必要がある。
それに加えて,障害が重かったり,別の身体障害を併有するため歩行できない園児の場合は,園児を床に寝か
せておむつを取り替えたり,体をタオルで拭いたり,抱きかかえたり,両手を取って歩かせて次の動作に誘導していかなけ
ればならない。こうした介助作業を行う場合は,立ち上がったり,座ったりする回数が多く,片手で園児の姿勢を保持しなが
ら,もう一方の手で介助することになる。
b 障害児保育・療育では,保護者・家族への援助は副次的なものにとどまらない。この時期の子供たちの保護者・
家族には,わが子の障害を受容していくために大きな援助が求められ,この援助や相談には,直接子供を見ている職員の
地道で時間をかけた対応が求められる。日々行われるものとしては,園児の保育・介護の様子を児童指導員・保育士が記
入し,保護者が家庭での様子や質問・意見等を書く連絡帳や,保護者が体温や体調について記入する生活リズムチェック
表がある。また,保護者と直接話し合う機会として,個別面談,指導参加又は指導参観,見学,懇談会がある。さらに,児
童指導員・保育士は,5月,夏季,及び必要に応じて家庭訪問を行い,家庭や地域での園児の様子を把握するとか,家庭
での取り組み方について助言する。
園全体で行うものとして,母親教室,父母教室,父親参観があり,毎月,翌月の月間予定や行事等の説明を20
分から30分程度行う保護者連絡会もある。
連絡帳への記入は,全員分を記入するのに,30分から40分程度必要で,その間,児童指導員・保育士は,園
児を視線の片隅におきながら,園児用のいすに腰掛けて背中を丸めた姿勢をとり続ける。そして,これらの保護者への援
助は,日常の勤務時間では終わらないこともしばしばあり,園児の降園後,電話連絡をすることもある。
c その他,児童指導員・保育士は,指導日誌・ケース記録等の記入,個別指導方針及びクラス指導方針の起案と
毎期末のまとめ,教材準備・制作,室内装飾,クラス便りの作成,就学・就園先訪問などのクラス業務を行い,全体の業務
として,合宿,運動会,学園祭その他の行事の担当,クラス委員会,保護者指導担当,総務担当,水泳指導担当,地域担
当,給食委員会等の業務を分担する。また,さざんか学園では,毎日の連絡会,毎月及び各期末の指導会議,ケース会
議,カリキュラム会議,内部研修,派遣研修などが行われている。
(オ) 年間の指導とその特徴
さざんか学園における年間の指導は,1学期(4月から7月下旬),夏季特別指導期間(7月下旬から8月),2学期
(9月から12月),3学期(1月から3月)と分かれる。
年度当初の4月から5月は,多くの新入園児が入園するため,園児が落ち着かず,特に神経を使うことが多い。ま
た,この時期は,保護者に対してもきめ細やかな対応が必要で,連絡帳の記入や個別の対応により多くの時間が必要とな
る。さらに,この時期は,卒園児の就学・就園先の訪問が行われるため,繁忙が続く。
6月から9月にかけては,水遊びを行う機会が多くなり,プール等の準備や水遊びの際の園児の安全と健康の管
理,着脱やシャワーの際の介助の機会が多くなる。
7月下旬から8月にかけての夏季特別指導期間は,決められた登園指導日や行事以外は,自由登園となる。自
由登園日は,日常の指導は行われないが,児童指導員・保育士は,プールの準備や,指導室・ホール等の整備を行う。ま
た,合宿,夏祭り,親子水泳指導等の準備,家庭訪問などにより,お盆の前後10日以外は,多忙である。
9月になると,しばらくの間園児が落ち着かないことがあるほか,10月の運動会,11月の学園祭と,大きな行事が
続き,あわただしく,疲労が蓄積しやすい。
そして,各学期末や年度末は,園児のまとめと個別面談を集中的に行うため,繁忙となる。
年度末から翌年度が始まるまでの間の春休み期間中は,卒退園や継続の園児のためにまとめとしての会議打ち
合わせと起案が必要となるし,新入園児のためには一日入園ほか受け入れの準備が必要となる。
(カ) さざんか学園の保育・介護労働の過重性
保育・介護労働においては,移動介助,ADL介助,運動・遊び介助等のすべての場面において,それぞれ,中
腰,前かがみ,しゃがみ,床座り,低いいすに座る,上肢を浮かせたままでいるなどの不自然な姿勢を余儀なくされ,その
姿勢を継続しなければならない上,児童指導員・保育士は,園児の様子をしっかり見つめながら,上肢を用いなければな
らないから,腰背部,頸部に強い身体的負担がかかる。
また,保育・介護労働においては,児童指導員・保育士は,飛び出し,高所登り,落下,転倒等の危険予防,てん
かん発作,虚弱・病弱,不安等のある園児への対応の必要があり,1つの場面で同時に複数連続して発生する予測のつ
かない突発的な園児の動きにも細心の注意を常時払いながら次々と対応していかなければならず,精神的負担は相当強
い。また,保護者に対する関係でも,精神的負担は大きい。
業務を処理するため残業せざるを得ない場合もある。アルバイト職員が配置されている場合には,アルバイト職員
には,園児に対する保育・介護業務や,指導室の清掃等の業務以外は任せられないため,その他の業務は残りの担任で
分担せざるを得ず,過重な負担となっていた。
オ 原告Aについて
(ア) 原告Aは,極めて健康体であった。
原告Aは,昭和54年3月大学を卒業した後,同年10月1日に横浜市に採用された。原告Aは,同月4日にさざん
か学園開設準備担当応援を命じられ,開設準備室に勤務し,知的障害児通園施設のときわ学園等での実習を含む研修
その他の業務を行った。
(イ) 原告Aのさざんか学園における業務内容とその過重性
a 昭和54年度
さざんか学園は,昭和54年12月1日開設され,同月10日から園児を受け入れた。原告Aは,開設と同時にさざ
んか学園での勤務を開始し,同月10日からは,他の児童指導員・保育士とともに,こじか組(園児5人)を担当した。
b 昭和55年度から昭和58年度
原告Aは,昭和55年度にはこじか組(園児7人,担任3人),昭和56年度にはこぐま組(園児9人,担任4人),昭
和57年度にはきりん組(園児9人,担任3人),昭和58年度にはひよこ組(園児9人,担任3人)をそれぞれ担当した。原告
Aが担当したクラスでは,昭和56年度のこぐま組で重度の知的障害を有する園児が多かったことを除けば,知的障害の程
度は比較的軽く,また重複障害を持つ園児もそれほど多くなかった。
原告Aのこれらの年度における健康状態は,年度当初には,腰痛や肩凝り,腕の痛み等が出ていたが,間もな
く消失するという状況であった。
c 昭和59年度
原告Aは,ひよこ組の園児8人(重度1人,中度5人,軽度2人)を3人で担当した。ひよこ組には,脳性麻痺で,
歩行介助や移動介助を要し,ADL介助の度合いも高い園児X1がいた。X1に対する歩行介助は,保護者からの依頼に
基づき理学療法士の指示に従って行われ,児童指導員・保育士が右手を支え,X1が体重を左足に乗せたときに麻痺の
ある右足を前に出させるというものであった。この介助のためには,中腰やしゃがんだ姿勢で上肢を使う必要があった。
この年のひよこ組では,園児のX2が集会室のろくぼくから転落して,頭蓋骨にひびが入るけがをするという事故
があり,児童指導員・保育士は,一層の精神的緊張を強いられた。
原告Aは,この年に腰や上肢の痛みが増し,軽減・消失しにくくなってきた。
d 昭和60年度
原告Aは,とんぼ組9人(重度2人,中度5人,軽度2人)を3人(原告A,D保育士,E保育士)で担当した。X1の
ほか,てんかん発作をしばしば起こすX3,多動で指導室の外に出ていこうとすることが度々あったX4,身長が低く歩行不
安定なX5がいた。
原告Aには,4月下旬ころから,腰・背中・足等を中心とした強い痛み,肩や首のひどい凝りや強い痛みが生じ
た。原告Aは,7月24日梶山診療所で頸肩腕障害・腰痛症と診断された。
同じ組を担当していたE保育士が妊娠したことから,原告AとD保育士の身体的・精神的負担が増した。
e 昭和61年度
原告Aは,こぶた組9人(重度1人,中度5人,軽度3人)を3人(原告A,D保育士,E保育士)で担当した。前年
度からのX4,X1のほか,移動及びADLの介助度が極めて高いX6,自閉・多動傾向で情緒不安定なX7,X8(新入園
児),心理的に不安定であったX9等がいた。特に,X4(前年度とんぼ組),X7,X10,X9は体重が20キログラムを超えて
いた。
E保育士は産休・育児休業に入り,アルバイト保育士が配置されたが,アルバイト保育士に任せられる業務は限
られ,原告AとD保育士の負担は大きかった。
学期末には,手や腕のしびれも出てきたが,多忙のため通院もままならなかった。
f 昭和62年度
原告Aは,みかん組9人(重度5人,中度4人)を,4人(原告A,F指導員,G保育士,H保育士)で担当した。こ
のクラスでは,自閉症の園児と麻痺などを持つ園児が混在していた。X6,X8のほか,中度知的障害,身体障害1級で歩
行不可,高度難聴,視力障害という重複障害を持つX11,重度知的障害,体幹機能障害等を持つX12,歩行訓練が必
要なX13,自閉・多動傾向のあるX14がいた。4人の児童指導員・保育士で指導に当たっていたが,1人が他のクラスに応
援に出る場合もあった。
原告Aは,11月10日,汐田はり灸マッサージ治療院に通院し,はり・灸治療を受けた。
g 昭和63年度
原告Aは,パンダ組8人(重度6人,中度2人)を4人(原告A,F指導員,G保育士,D保育士)で担当した。X11
(ADLは一部協力動作ができるようになった。),X12(ADLは一部自発的動作ができるようになった。),X13(平成元年
3月ようやく数歩歩けるようになった。)のほか,歩行未自立のX15,歩行不安定で,視力障害のあるX16,歩行未自立の
X17,歩行不安定でてんかん発作を持つX18等がいた。
同じクラスを担当していたG保育士が妊娠し,5月30日に産休に入り,代替者の配置もなかったため,休みたく
ても休むことができなかった。9月配置された代替者はアルバイトで,十分な業務を任せることができなかった。
原告Aは,上肢の凝りや痛みが増大したが,通院時間が取れない状況であった。
h 平成元年度
原告Aは,パンダ組8人(重度3人,中度5人)を4月から8月までは,3人で担当した。前年度からの継続で,一
時期てんかん発作が頻発していたX18,前年度から継続のX17,X16など,クラスの園児ほとんどについて移動介助やA
DL介助の度合いが高く,個別対応が必要であったが,3人配置とされた。9月には,原告Bがパンダ組に加わったが,同
僚の休暇などの関係で4人で指導することができた日はほとんどなかった。
原告Aの症状は悪化し,昭和63年7月中断していたはり・灸治療を5月17日から再開した。
原告Aは,運動会担当となり,9月ころから多忙となった。
原告Aは,11月上旬にX18を支えた際に背中から腰にかけて激痛が走り,症状が好転しなくなったため,休業
に入った。
(ウ) 原告Aの症状の推移について
昭和60年7月24日の梶山診療所での初診時,原告Aは,頸肩部,腰部の痛み等,下肢痛,手指の倦怠感を訴
え,他覚所見でも頸部,肩,背中,腰部等に異常所見があった。治療経過によれば,昭和60年度の新学期に悪化した症
状がその後軽快し,同年12月16日治療が中断している。
重度の園児比率が高まった昭和62年度に症状は悪化し,原告Aは,同年11月10日汐田はり灸マッサージ治療
院,同月13日に汐田ヘルスクリニックに通院を開始している。その症状が軽快しないまま,通院時間も確保することができ
なくなって,昭和63年7月27日いったん治療を中断した。
その後も,症状は継続し,原告Aは,平成元年5月17日汐田はり灸マッサージ治療院,同年6月26日汐田ヘルス
クリニックへの通院を再開しているが,症状は増悪し,休業に至った。
休業後平成2年2月ころまでは,症状が好転しなかったが,その後,徐々に快方に向かい,同年10月職場に復帰
した。復帰後も症状は続いたが,平成5年に異動した後症状は回復した。
原告Aの症状を持続性身体表現性疼痛障害であるとするI医師の診断は,患者との直接のかかわりが重要な精
神神経科的分野にもかかわらず患者を直接診察せずにされた診断で信用性がない。原告Aの神経・精神的症状は頸肩
腕障害に随伴したものである。
(エ) 労働省通達等,原告らの主治医であるJ医師の意見,判決例から見ても,原告Aの本件疾病が公務に起因して
いることは明らかである。
(オ) K医師の意見に対する反論
K医師は,モーレイテストの結果が陽性であることから前斜角筋症候群の可能性があるとしているが,モーレイテ
ストの結果が陽性であることのみから前斜角筋症候群であるとはいえない。
また,加齢に伴う頸椎の退行変性の可能性については,本件疾病の発生とは関係がない。
カ 原告Bについて
(ア) 原告Bは極めて健康体であった。原告Bは,昭和52年横浜市に任用された後,中央児童相談所一時保護所勤
務を発令された。一時保護所での勤務は,早出,遅出,宿直,日勤等を交互に行うものである上,特に,当時の宿直は1
人体制でほとんど睡眠をとることができない状態であったが,昭和53年8月までの1年5か月間に健康上の問題は生じて
いなかった。
原告Bは,ひのき学園を経て,昭和54年12月からさざんか学園勤務を命じられ,実際には,第一子産休明けの
昭和55年3月からさざんか学園で保育士を務めることとなった。
(イ) 原告Bの業務内容とその過重性及び症状の経過
a 昭和54年度から昭和57年度
この時期は,原告Bは,産休や育児休業の取得により,勤務から解放されている時間や期間があった。そして,
担当する園児の障害の程度も,昭和56年度までは,中軽度児が多かった。昭和57年度から,重度化重複化が進み,原
告B担当のクラス6人には,最重度1人,重度3人が含まれた。
b 昭和58年度
原告Bは,7月までは第3子の産休を取得していたが,その後担当することになったクラスは,園児9人のうち6人
が自閉症であり,3人の児童指導員・保育士で担当した。このころから,原告Bは腰痛や肩の凝りを感じるようになったが,
育児のため1時間の職務専念義務免除(以下「職免」という。)をとっていたこともあり,その症状は持続しなかった。
c 昭和59年度
原告Bは,らいおん組9人(重度2人,中度5人,軽度2人,自閉症児5人)を3人で担当した。このクラスは,自閉
症児と歩行不安定で介助度の高い園児が同一クラスとなっており,子供同士の衝突事故や他害による事故を防ぐために,
精神的緊張が非常に強い状態を指導時間中維持しなければならなかった。このクラスには,移動介助が必要なX19,歩
行不安定なX20,自閉症・情緒不安定で体重が30キロ前後もあるX21,その他の自閉症児がいた。
原告Bは,9月ころから腰痛が悪化し,汐田病院整形外科に通院したり,昭和60年2月はカイロプラクティックに
通院するようになり,腰痛のために年次休暇を取得して休業することもあった。
d 昭和60年度
原告Bは,つばめ組9人(重度1人,中度3人,軽度5人,自閉症児4人)を3人で担当した。このクラスは,全員が
新入園児で基本的生活面での介助度が高かった上,クラスが落ち着き出した7月新たに園児が加わり,再びクラスが混乱
した。
X6が散歩途中に頭部にけがをするという事故も発生し,神経を張りつめて仕事をすることが必要となった。ま
た,7月から入園したX22は多動児で,園外に出て行方不明になることもあるなど個別対応を余儀なくされた。連鎖反応
で,クラス全体が落ち着かない状態が続いていた。
原告Bは,カイロプラクティックへの通院を続けていたが,腰痛は更に悪化し,上肢の痛みも発生し,昭和61年1
月29日,梶山診療所を受診するとともにはり灸マッサージの治療を開始した。当初は,週2回の治療で,症状の軽減が見
られた。
e 昭和61年度
原告Bは,こうし組9人(重度1人,中度5人,軽度3人,自閉症児5人)を,3人で担当した。このクラスは比較的
落ち着いていたが,5月異動してきた新人のL保育士が新人研修で出張することが多かったため,原告Bの負担は大きくな
った。原告Bは,保護者担当となり,多くの業務を行った。
これらにより,症状は悪化し,9月には腰痛のため,1週間休業し,近所の医者に痛み止めの注射をしてもらっ
た。
f 昭和62年度
原告Bは,バナナ組9人(重度1人,中度6人,軽度2人,自閉症児6人)を3人で担当した。このクラスでは,5人
の多動児を含む自閉症の園児の対応に追われ,また,精神的に不安定になっていた園児の母親と常に連絡をとるなど,
業務の負担は大きかった。また,この年は,業務に必要な専門知識を得るために生理学講座を受講していた。
原告Bは,腰痛,頸から肩,背中にわたる上肢の痛みが強くなっていた。
g 昭和63年度
原告Bは,ぞう組6人(9月から7人。重度4人,中度2人,軽度1人,自閉症児7人)を3人で担当した。この年は,
重複障害の園児と多動の園児を分けるクラス編成をしたため,クラスの園児全員が自閉症児となり,年度当初は,6人の園
児を3人の児童指導員・保育士で担当する体制であった。
また,産休に入ったパンダ組のG保育士の代替要員配置のために,原告Bは当局に働きかけるなど積極的に活
動した。
9月に新たに入園した園児も自閉症であり,集団になじまなかったため,当初は個別的な対応が必要であった。
原告Bの腰や上肢の痛みは悪化していたが,定期的に通院する時間も取れなかった。
h 平成元年度
原告Bは,この年の5月30日から7月29日まで看護欠勤したが,その前の約2か月間及び8月には,ぞう組9人
(重度1人,中度4人,軽度4人,自閉症児6人)を3人で担当し,9月以降は,パンダ組9人(重度3人,中度5人,軽度1
人)を4人で担当した。パンダ組は,重複障害や歩行不安定の園児が集中しているクラスで,負担は大きく,また,別のクラ
スの応援をすることも多かった。さらに,11月から原告Aが休業したことで,原告Bの負担は更に増大し,症状も悪化した。
原告Bは,11月22日汐田理学診療所を受診し,J医師から休業の必要性の説明を受けた。しかし,原告Bは,
業務を続けたため,症状は更に悪化し,12月28日から休業した。
i 休業中
 休業に入った当初は,一時的に症状が悪化したが,平成2年4月緑神経科に通院するようになったころから徐
々に症状が軽快し,平成3年3月から復職した。
j 復職後
復職後も,症状は順調に回復し,平成5年12月治ゆと診断された。平成6年異動した笹下南保育園では,障害
児を含むクラスや,乳児のクラスを担当しているが,その後症状が発生することはない。
(ウ) 他原因の不存在
原告Bの家事・育児による負担は,義母や夫の協力が得られたことから極めて少なかった。夫の家族との関係も
良好であった。
長女の不登校の一因は,原告Bが多忙になったことであった。原告Bは,不登校についてすぐに適切な対処をと
ることができ,看護欠勤を取得するなどして長女の精神的安定を取り戻させるとともに,自らの症状も若干軽快させることが
できた。
(エ) 原告Bの症状の発生及び増悪は,業務の過重の推移と並行して現れており,原告Bの本件疾病は公務に起因
して発生したことが明らかである。
頸椎の加齢による退行変性は,骨の出っ張りを取り除かなければ治ゆしないのであって,現在治ゆしている原告
Bの症状とは関係がない。
また,精神的要因・心因的要因は,頸肩腕障害から発生したものである。原告Bを直接診察していないI医師の意
見書は信用できない。
さらに,長期にわたる投薬などによっても症状が改善しなかったのは,これらの症状が業務の過重性により発生し
たのに,業務の軽減が行われなかったからであり,このことが公務起因性を否定することにはならない。
キ 以上のとおりであるから,原告らの頸肩腕障害・腰痛症の発症は公務に起因したものである。
(2) 被告
ア 相当因果関係の必要性について
労働基準法に基づいて創設された災害補償制度の趣旨は,被用者の業務の遂行は使用者の支配管理下におい
て行われ,その利益は使用者に帰属するものであるのに対し,その行う業務には各種の危険性が内在しており,使用者の
支配管理下にある被用者には,その危険性を回避することが困難な場合もあることから,その危険性が現実化して被用者
が負傷し又は疾病にかかった場合には,使用者に何らの過失がなくても,危険を負担してその損失補償に当たるべきであ
るというものである。
地方公務員の災害補償については,地公災法によることになるが,地公災法,国家公務員災害補償法の趣旨は,
労災制度と同一である。また,現行の公務員制度は,地方公務員,国家公務員とも,給与,勤務時間,その他の勤務条件
について民間との均衡において制定されており,広義の労働条件の一つである災害補償制度についても,それぞれの制
度の均衡が考慮されなければならない。したがって,地公災制度,国家公務員災害補償制度及び労災制度は,相互に均
衡のとれた運用がなされなければならない。
地公災法26条に定める「職員が公務上疾病にかかった場合」とは,職員の疾病が公務に起因して発生したことを
いい,この疾病と公務との間には相当因果関係のあることが必要である。
災害補償制度の本質は,業務に内在する各種の危険性が現実化した場合の損失について使用者が無過失責任
を負うことにあり,それに要する費用は,使用者の保険料,地公災制度においては地方公共団体の負担金により賄われ,
労働者や公務員には,保険料等の負担や責任割合による損失負担が求められない。そこで,偶発的な傷病や本人の素
因の影響が大きいものについてまで,災害補償制度によって填補すべきものとするならば,使用者に過大な負担を強いる
ばかりでなく,ひいては災害補償制度の存在基盤そのものを危うくすることになりかねない。
災害補償制度のような無過失責任の下では,民法等の過失責任主義の場合と異なり,結果発生に不可欠の条件
となった一切の事情がその予見可能性の有無にかかわらず因果関係の判断の基礎となるから,もし業務起因性が単に業
務との因果関係一般(事実上の因果関係)を意味するにすぎないとしたら,およそ公務(業務)上外を区別する合理的基準
は成り立たなくなってしまう。
したがって,無数の原因のうちの一つである公務に全体についての危険責任を負担させるだけの合理性を担保す
るためには,少なくとも公務が,災害発生との間に条件関係を有するその他の原因に比較して,より重要な比重を占めて
いることが必要である。特に,客観的な症状がうかがえなくても本人の愁訴により症状が認められる頸肩腕症候群や腰痛
症の事案においては,発症の要因として,本人の体力,体格といった個体要因や,日常生活要因もあり,これら公務以外
の要因をも踏まえつつ,公務の方が相対的に重要な比重を占めていると評価できない限り,公務と疾病との間の相当因果
関係はないといわなければならない。
原告らが因果関係の判断に関して主張する最判平成9年11月28日は,保育所の保育士の事案であって,本件の
原告らとは児童を保育する時間も対象人数も異なるだけでなく,この事件では,安全配慮義務違反による民事上の損害賠
償請求が問題となっているのであって,本件とは事案を異にする。災害補償制度と民事損害賠償制度の違いから,因果
関係の概念も異なり,上記判決により,一般的に保育士の業務に地公災制度上の公務起因性があるとはいえない。
原告らの主張によれば,児童指導員・保育士が頸肩腕症候群・腰痛症を発症すれば,すべて労災・公務災害とい
うことになる。しかし,このような理解は,法律の規定に明らかに反する。児童指導員・保育士の頸肩腕症候群・腰痛症は,
業務に伴う有害作業が当該疾病を発症させる原因となることが医学経験則上認められた「職業病」ではない。
そもそも,上肢や腰部に負担のかかる作業は無数に存在する。したがって,児童指導員・保育士の頸肩腕症候群・
腰痛症について公務起因性が認められるには,当該職員が従事した業務が,上肢若しくは腰部に回復可能な筋肉疲労
の程度を超えて,病的な状態を生ぜしめる程度の負担のかかる労働態様のものであることを要する。すなわち,当該業務
に当該分量及び態様で従事していれば,病的状態を生じさせても無理はないとの医学上の経験則から納得し得る場合で
あることが必要であり,これを具体化したのが地方公務員災害補償基金の認定基準である。
さざんか学園の児童指導員・保育士の指導・援助業務の実態は,通常の業務に従事している限り,頸肩腕症候
群・腰痛症を発症するような業務ではないから,原告らが児童指導員・保育士の業務により頸肩腕症候群・腰痛症を発症
したと主張するなら,発症前に過重な業務に従事したことを立証しなければならない。このような業務の過重性は,同種公
務員を基準として判断するべきである。当該公務員を基準として業務の過重性を判断するとすれば,結果的に発症したと
いう事実から当該公務員にとっては業務が過重であったという結論になりかねず,公務災害補償の公平性,客観性は確保
できない。同種公務員にとっては過重でない業務に従事したにもかかわらず頸肩腕症候群・腰痛症を発症したということで
あれば,当該個人の肉体的・精神的素因や私生活での上肢・腰部への負担が大きいために発症したといわざるを得ず,こ
のような場合には公務災害補償の対象とはならない。
イ 原告らの業務と頸肩腕症候群・腰痛症との一般的因果関係について
(ア) 頸肩腕症候群について
頸肩腕症候群は,単一の傷病名ではなく,一種の症状名で,臨床的には頸椎及びその周辺の軟部組織の解剖
学的・生理的弱点退行変性を基調として,頸,肩,手,指の連鎖的疼痛,しびれ,脱力感,冷感を主訴とする一群の症状
群の総称である。原告らが使用している頸肩腕障害との用語は,産業衛生学会の頸肩腕症候群委員会が頸肩腕症候群
のうち業務による障害を特に区別するためにつけた呼称であるが,同会の頸肩腕障害の定義と病像分類は,それ自体矛
盾しているし,頸肩腕障害という呼称は,整形外科の分野では一般的な傷病名としては用いられておらず,労働省の通達
にも用いられていない。
原告らは,基発65号通達及び補償課長事務連絡を根拠に,原告らの従事した公務と原告らの頸肩腕症候群と
の間に一般的定型的因果関係があると主張するが,これら通達及び事務連絡は,保育,看護,介護業務と頸肩腕症候群
との間に一般的な因果関係を認めるものではなく,他の要件を満たして初めて業務起因性が認められるとしている。
(イ) 腰痛症について
腰痛症とは,症状を表す診断名であり,その原因がわからない場合にも付されることがある。また,腰痛は,多くの
人間が一生のうちの何らかの時期に経験するとの指摘もあり,精神的な要因によるものもあるとされている。
原告らは,基発547号通達等を根拠に原告らの従事した保育業務と腰痛との間に一般的定型的因果関係が認
められると主張する。
しかし,基発547号通達は,特定の業務と腰痛症との間の一般的定型的因果関係を認めたものではない。
さらに,基発547号通達に挙げられているのは,重症心身障害児施設等における介護業務であり,その内容から
見ても,いわゆる「寝たきり」の重症心身障害者・児に対する介護業務の腰痛予防について述べていることは明らかであ
る。しかし,知的障害児通園施設は,日々通園が可能な知的障害の幼児を対象とし,日常生活の全般に介護を要するわ
けでもなく,生活の場として一日中過ごすわけでもないから,基発547号通達により,原告らの従事した保育業務と腰痛症
との一般的定型的な因果関係を認めることはできない。
(ウ) 原告らは,各種の疫学調査から,保育業務と頸肩腕症候群や腰痛症との一般的な因果関係が存在すると主張
する。しかし,原告らが,疫学調査として主張するものは,調査集団について,保育所の保育士と知的障害児施設の児童
指導員・保育士を混同しており,ある特性を備えた人口集団である「分母」の定義ができていないこと,単に調査集団に対
するアンケート調査の訴え率等を主張しているにすぎず,客観的な医学的資料に基づく「有病率,罹患率」等の正確な測
定を行っていないこと,調査結果について対象集団との比較をほとんど行っていないことなど,基本的な条件を満たしてお
らず,疾病の疫学的因果関係を検証するための疫学調査とはいえない。
かえって,原告らの従事した公務と頸肩腕症候群・腰痛症との間に定型的因果関係は認められないことを示す調
査もある。
(エ) 頸肩腕症候群・腰痛症については,身体的な負荷だけでなく,神経症要因の関与が認められる。(オ) 頸
肩腕症候群・腰痛症の発症要因は複雑多岐であって,業務以外の他の様々な要因も関係するから,業務による原因のみ
が影響を及ぼしているとはいえない。
以上より,原告らの頸肩腕症候群・腰痛症と原告らの行っていた業務との間には一般的定型的な因果関係は認め
られず,これらが公務に起因するかどうかは,原告らの具体的業務の内容,業務が原告らに与えた負担の程度,業務の過
重性,原告らの症状の変遷と業務の関連性等から個別に検討しなければならない。
ウ さざんか学園の実情
(ア) 職員配置について
知的障害児通園施設の職員配置は,厚生労働省基準によれば,乳児又は幼児の場合,児童4人につき児童指
導員・保育士1人以上とされている。ところが,さざんか学園では,児童3人に児童指導員・保育士1人の割合で配置して
おり,平成元年当時,他の政令指定都市との比較でも,余裕のある配置がされていた。
さらに,保育所の保育士の配置基準や処遇時間と比較してもさざんか学園の児童指導員・保育士の配置は高い
水準にある。入所の施設である横浜療育園でも,日中においては,さざんか学園の園児よりもはるかに障害の程度の重い
児童2人を1人の職員で介護しているのである。
そもそも,さざんか学園では,知的障害児に対する個別的な取組みが行いやすいように保育所の保育士の配置
基準を大幅に上回る児童指導員・保育士を配置して業務による負担の軽減を図っているのである。
その上,実際には,園児は常時定員の40人に近い数が処遇されていたわけではないから,職員の配置は更に
余裕のあるものとなる。
開設当時,職員には,ひのき学園から異動した保育士4人を配置し,副園長もときわ学園のベテランの職員を配
置した。
なお,さざんか学園の対象は,3歳以上で,日々通園可能な就学前の知的障害児であって,障害の程度が中軽
度であることに固執したわけではなく,低年齢化・重度化も想定した上で,既設の施設の状況や他の自治体の職員配置基
準を参考にしながら人員を配置した。
また,副園長も昼食後の自由遊びの際やバスの乗車・降車の際には,応援に入っていたし,その他にも職員や園
児の出席状況に合わせて適宜応援をしていた。また,園長や事務職も応援に入ることがあった。
アルバイトにより体制を整えることもあったし,実習生がいる場合には,指導の補助をしていた。その他,行事の際
は,ボランティアや保護者の参加もあり,児童指導員・保育士の負担は軽減された。
厚生労働省基準によれば,理学療法士や作業療法士については,知的障害児通園施設への配置義務はない。
さざんか学園に通う重複障害のある園児は,個別に「こまどり園」,「ひよどり園」等の肢体不自由児・言語障害児通園施設
で理学療法士,作業療法士から定期的に指導を受けていたので,これらのスタッフを配置していなくても人的体制が不十
分とはいえない。
平成元年にさざんか学園に看護婦を配置したのは,2歳児受け入れを実施するに当たり,園児の健康管理を十
分に行うためである。
平成元年度の職員配置状況は,児童指導員・保育士13人に対し,園児の月平均は33.4人であり,職員配置は
園児2.6人に対し1人となっている。また,園児の登園率は平均で84パーセントであり,職員配置は更に高水準となる。
(イ) 園児の障害の程度について
さざんか学園では,日々通園が可能な知的障害のある幼児に対し,集団生活を通して,発達に必要な生活体験
を豊かにし,基本的な生活習慣と社会性を身につけ社会生活になじんでいけるよう指導援助を行う。具体的には,通園,
身の回りの支度,リズム運動,課題指導,水泳指導,食事指導,様々な遊びの中での指導援助が行われている。
家庭での養育が著しく困難な児童を入所させる知的障害児施設や,重度の知的障害及び重度の肢体不自由が
重複している児童を入所させる重症心身障害児施設とは対象となる児童の障害の程度が異なる。さざんか学園では,日
々の通園ができないほどの身体障害があったり,知的障害児通園施設での指導になじまないような重い知的障害等があ
る児童は入園対象とならない。退園後に幼稚園や保育園に進むことのできる児童も多かった。
原告らは,入園児の重度化が進んだと主張するが,原告らの主張する軽度,中度,重度がいかなる基準による分
類かが不明確である。甲第88号証の記載内容の信頼性には疑問があるし,入園前に歩けないとして身体障害1級,2級
の判定を受けても,入園時には,手引き歩行が可能になっているような園児もおり,実態を反映していない。
 仮に甲第88号証の記載を前提としても,4,5歳児については,比較的障害の重い者が多かったが,3歳児につ
いては,障害の軽い者が多く,全体としては,さほど職員の負担を増大させることはなかった。
(ウ) 施設設備について
さざんか学園の指導室は,厚生労働省基準を上回る広さを有し,また,設備も開設当時考えられる最新の設備を
有していた。間取りも,廊下一本で各教室に行き来できる機能的な造りとなっている。
大人用の手洗い場の設置,園児用シャワー室の底上げについては,他の政令指定都市の施設や,横浜市内の
他の施設でも実施していないところが多い。それにもかかわらず,他の政令指定都市の施設や横浜市の他の施設で通常
の業務が原因で頸肩腕症候群・腰痛症が発生したことはないから,さざんか学園の設備の不備が原告らの発病の原因に
なったとはいえない。児童用トイレ内の手洗い場やシャワーを使用するのは,ごく短時間にすぎないから,改修前の設備で
あってもさほど上肢や腰に負担がかかるものではない。
また,園児用ロッカーの不備については,ロッカーによじ登ったりすることは頻度としては少ないと考えられるし,
給食の盛りつけも工夫によって,身体への負担を減らすことはできる。また,鍵の不備の主張についても,大規模な工事を
要するわけでもないのに平成3年まで改修がされなかったのは特に問題がなかったからと推測される。
(エ) 労働時間について
平成元年当時,さざんか学園の職員の一日の勤務時間は,7時間30分であった。さざんか学園では,直接指導
時間が,水曜日が3時間,その他の曜日が4時間となっており,年間の指導日は208日であったが,このうち園児の指導時
間が4時間であった日は131日にすぎず,年間実働時間のうち指導時間は約37パーセントにとどまる。
さざんか学園では,昼食時に休憩はとれないが,園児との対応があることからやむを得ない。休憩時間は,園児
の降園後に与えられており,昼食指導の一環として職員も昼食を済ましているから,休憩時間には余裕がある。保護者と
の面談は年3回で,原則として園児が降園する1時間を当てていることから,休憩がとれないという事態はほとんどなかった
はずである。
さざんか学園の職員の超過勤務は横浜市行政職の平均と比較しても極めて少なかった。横浜市では,すべての
職場に超過勤務の枠を設定しており,業務が処理できない場合には超過勤務の追加要求ができることとなっていた。ま
た,仕事を持ち帰ることについては,園児の記録を持ち帰ることはプライバシー保護の観点から考えられない。任命権者の
指示のない自宅での作業によって生じた災害については,公務遂行性は否定されるのが原則である。
さざんか学園では他の政令指定都市の施設と比べてもかなり長い休園日が設定されており,長期間にわたって
園児との対応が求められないことで身体的に極めて負担が少ないといえる。また,年次休暇や生理休暇も他の横浜市職
員の平均と比べかなり多くの日数が取得されており,年次休暇や生理休暇が取得しやすい職場であったといえる。
このようなことから,児童指導員・保育士にとって,さざんか学園は,人気のある職場となっている。
エ さざんか学園における保育作業について
(ア) さざんか学園での指導について
さざんか学園での業務は,寝たきり老人や重度心身障害児に対して行うような「介護」とは内容が全く異なる。重
症心身障害児施設においては,入所者の体を抱え,移動させ,体位を変換させ,入浴をさせること等が最も負担の軽減を
図るべき作業とされているが,このような作業は,知的障害児通園施設では見られない。
園児の発達レベルに応じた指導目標を設定する作業は,指導経験の積み重ねによりしだいに習熟していく。
a 学園バス内での指導
13人の児童指導員・保育士が,2人ずつローテーションを組んで車内指導に当たるため,1人当たり平均して1
3通園日当たり2通園日分程度の車内指導を担当するにすぎない。園児全員がバス通園するわけでもなく,さざんか学園
に最も近く,バス乗車時間が数分程度の鶴見駅で園児の約半数が乗り降りする。
b 学園バスから児童室までの誘導
学園前の道路が比較的交通量の少ない道路であること,勝手に走り出す可能性のある園児は,指導と経験の
積み重ねにより判断できるようになること,乗り降りの際は,さざんか学園の全職員で対応し,要所要所に職員を配置する
などの予防策を採っているので,原告らが主張するほど強度の精神的緊張を強いられるものではない。移動介助を要する
園児は少数であり,移動介助に要する時間も短時間である。
c 身辺処理
身辺処理は,園児自身ができるようになることを目標としているから,児童指導員・保育士は,園児ができない部
分のみを手伝う。
指導時間内では,排泄や失禁の回数はさほど多くはなく,児童指導員・保育士が,園児に慣れるに従って,排
泄リズムの把握が可能となるため,失禁の回数も減る。
そもそも,排泄,衣服の着脱,食事については障害のない子供であっても,相当年齢に達するまでは介助を必
要とするし,子供の発達の程度には個人差も大きいから障害児に対する介助の負担が特に重いとはいえない。
d リズム運動
リズム運動は,10分間という短時間で,激しい運動でもない。幾つかの種類の中から1種類ないし2種類の運動
を行うが,体操や歩く,走るといった行為では前傾や中腰の姿勢をとる必要はない。ハイハイや手押し車,連続寝返り等の
運動が行われることもあるが,毎日ではないし,時間も5分程度に限られる。
e 朝の会
朝の会は,リーダーが前に出て園児全員を座らせて歌を歌ったり,名前を呼んで返事をさせたり,手遊び歌,紙
芝居をしており,上肢に負担がかかるような内容ではない。身体に麻痺があって,児童指導員・保育士の膝の上に載せな
ければならない園児の数は限られているし,肢体不自由児を集めたクラス編成をすれば,園児の姿勢保持をしながら立ち
歩きをする園児を押さえる動作をすることはない。
f 課題指導
月,水,木曜日に行われる課題指導は,体を使う遊びだけではなく,造形,音楽,散歩など,月単位でカリキュラ
ムを組んでおり,上肢に負担がかからない内容のものも多かった。また,児童指導員・保育士が園児のそばで見守ってい
ることも多かった。
g 水泳指導
金曜日の水泳指導は,インストラクターが指導し,保護者も参加するもので,水中の動きであるから,上肢や腰
部に負担がかかるものではない。
h 給食準備
盛りつけについては,園児用の机でなく,より高い出窓の部分を利用して行っていることもあり,時間も15分間
で,交代で担当する。
i 食事指導
食事に介助が必要な園児は少なく,大部分の園児は,ほぼ自立して給食を食べられる。昼の時間は,児童指導
員・保育士が,園児と共に食事をする給食指導の時間であって,昼休み時間ではない。そして,給食の終わった園児は,
他の職員がホールへ連れていくため,児童指導員・保育士が,ほとんど昼食を食べられない状況は生じない。
j 午後の自由遊び,個別指導ないし課題指導
水曜日と金曜日を除き行われる自由遊びも,上肢に特別な負担となるような業務ではない。園長や副園長も積
極的に子供たちとの対応を行う。また,個別指導,課題指導も短時間である。
k 降園準備,帰りの会
帰りの会は,音楽を聴いたり,手遊びをしたり,なるべく落ち着ける雰囲気を作るようにしている。
l バス乗車
水曜日以外の平日には,実際には1時50分にバスに乗車しているから,正味の指導時間は4時間に満たない。
m 清掃,指導日誌の記入
これらの業務も上肢に特別な負担がかかるものではない。
n 休憩
休憩時間は各自自由に過ごすことができた。
o 午後の連絡会,クラス打ち合わせ,記録,翌日の準備
これらの業務も上肢に負担がかかるものではない。
てんかん発作については,発作を起こす園児は限られる上,一般的には服薬により発作を押さえられるので,発
作を起こすことはまれであり,特別な精神的負担は認められない。
園児の記録,行事その他の業務分担については,4時間の指導時間に対し,指導以外の実働時間は少なくとも3
時間30分あるから,この時間を利用して勤務時間内に業務を終えることは十分可能である。保護者との面談はそれほど多
くはなかったし,原則として園児が降園する1時間をあてていたので,面談日でも超過勤務をしなければならないことはな
かった。リーダーが書く指導日誌はA4判1枚程度で,通常はバスが戻ってくるまでの時間に書ける程度のものである。
無理な姿勢についても,立て膝の姿勢をとるなど姿勢や動作を工夫することで身体的負担を少なくすることはでき
るし,経験を積むことで,身体的負担のかからない動作等を自然に修得できる。
保護者への援助としての連絡帳記入は,担当者が決められており,児童指導員・保育士の全員が毎日記入する
のではない。他の児童指導員・保育士が園児を見ている間に,担当者が連絡帳に記入するので,園児への対応と連絡帳
への記入を同時に行うことはない。1クラス7人から9人程度の連絡帳を記入するにすぎないから長時間を要することはな
く,その間園児用のいすに腰掛けるとしてもさほど負担とはならない。
保護者に電話連絡をする必要があるのは,緊急の事態に限られ,頻度としては極めて少ない。
1年のスケジュールでも,年3回の長期特別指導期間(休園日)があるし,一学期の初めや家庭訪問期間,各学
期末は,短縮指導になっていて,職員の負担は軽減されている。学年末の記録もそれほどの量ではなく,勤務時間内に
十分処理できる。
夏季特別指導期間は,5日程度の決められた日が自由登園日とされ,それ以外の日は,基本的に園児の登園し
ない休園日である。さざんか学園の夏の休園日は,他都市に比べかなり長く,この時期に夏季職免等を十分に取得してい
るから,疲労回復ができないことはあり得ない。
(イ) 業務による負担について
頸肩腕症候群の発生には,同一姿勢の保持,反復動作等作業そのものに関連した直接要因が関与することが
多いとされている。しかし,さざんか学園における指導・援助業務には,このような同一姿勢の保持や反復動作は見当たら
ない。さざんか学園の一日の業務内容には,一時的に上肢に負担がかかる動作はあるが,同一姿勢を保持したり,同一
部位を使用する動作が長時間続くことはない。むしろ,全身を動かすような動作の方が多いし,朝の会や帰りの会のように
静的な動作も含まれている。課題指導,個別指導については,それほど体力を使わない,クレヨン遊び,おもちゃ遊び,粘
土遊び,絵本を見ることなども組み合わされており,原告らが主張するほど身体を使う遊びばかりではなかった。
しかも,児童指導員・保育士は,園児の行動を見守る場面も多い。日常生活動作についても,本当に指導・援助
が必要な園児や,指導・援助が必要な場面は限られる。
さざんか学園の児童指導員・保育士の業務には,腰痛の原因となる,血流不良による筋緊張を生じるような動作
も見あたらない。
さざんか学園の指導・援助業務は,時間や日が限られており,頸肩腕症候群や腰痛症を発症するほど上肢・腰部
に特別な負担がかかる動作ではない。原告らが負担であると主張する動作のほとんどは,知的障害児の保護者が休みな
く行っているものである。
原告らは,児童指導員・保育士は個々の園児の動きを絶えず緊張して観察する必要があるとか,自閉・多動傾向
児の問題行動等による負担があるとか指摘する。しかし,このような対応が必要な状況は常時頻繁に起きるものではない
し,一般的には,入園後一定期間がたてば,園児も落ち着いてくるので,予測のつかない突発的行動はかなり減少する。
仮に何らかの問題行動が起きるとしても,短い指導時間においてさざんか学園内という安全な場所において,1クラスにつ
き3人から4人の児童指導員・保育士が対応している中で起きるものであるし,多くの児童指導員・保育士は,指導・経験の
積み重ねからある程度問題行動の予測がつくはずであるから,原告らが主張するほど絶え間なく強い緊張を強いられるも
のではなく,児童指導員・保育士のみが,健常児の一般教育に携わる者など他の公務員に比し過重な精神的負担を負っ
ているとはいえない。
精神的・心理的要因については,個人的気質,素因が大きく影響するものであり,また,ストレスの全くない業務と
いうものは考えられず,単に原告らが業務に関してストレスを受けたというだけでは,公務上災害の要件を満たすとはいえ
ない。また,本件では,原告らに,頸肩腕症候群・腰痛症を発症させるほどの業務上の精神的負担もない。
(ウ) 原告らを診察したJ医師は,整形外科についての専門的知見を有しておらず,また,保育士等の頸肩腕症候
群・腰痛症が,職業病であることを前提とした診察を行っていることがうかがわれ,その診断結果は信用し難い。
オ 原告Aについて
(ア) 原告Aに対する公務外認定処分が正しいかどうかについては,原告Aが昭和60年4月以前に過重な業務に従
事したことにより,昭和60年4月頸肩腕症候群及び腰痛症を発症したかどうかが問題となる。
(イ) 原告Aの発症前の業務について
a 開設当時の状況
昭和54年度は,園児の数に比して児童指導員・保育士の数が多く,業務は著しく軽減されていた。
b 昭和54年度から昭和58年度まで
原告Aが,各年度に担当したクラスは,3対1の基準を大きく上回っていた。年度初めの業務も,多くの園児が前
年からの継続であったことからすれば,落ち着かない新入園児の数は限られるし,4月は指導時間が短縮されているから,
業務は軽減されていた。
c 昭和59年度
昭和59年度も,さざんか学園の職員配置は3対1を大きく上回っていた。
原告Aは,年次休暇・夏季職免を31日取得し,超過勤務時間は12時間である。年間の指導時間は667時間5
分であり,最も少ない月でも11日間は指導業務に従事せず,月15日以上指導業務に従事しない月が6か月あった。園児
の指導から継続して解放される期間も頻繁にあり,疲労が蓄積する状況ではなかった。
X1の障害は軽度である上,ADLの介助が必要な部分も限られ,登園するのも1週間に2日間であった。
また,発症前1か月間の勤務状況からすれば,公務の過重性は全く認められない。
(ウ) 原告Aの発症後の業務について
a 発症後の業務は,公務起因性の判断とは無関係である。
b 昭和60年度
原告Aは,昭和60年度に年次休暇・夏季職免を15日取得し,超過勤務時間は12時間である。年間の指導時
間は669時間28分であり,最も少ない月でも9日間は指導業務に従事せず,15日以上指導業務に従事しない月が5か月
間あった。
クラスの園児9人のうち7人は,継続園児であるし,クラス全員が出席した日は少ない。X3のてんかんは服薬に
よりコントロールされ,大きな発作を起こすことはなかった。
梶山診療所により頸肩腕障害・腰痛症の診断がされるまでの勤務状況は過重ではなく,原告Aの症状と公務と
の関連性はない。
c 昭和61年度
原告Aは,昭和61年度に年次休暇・夏季職免を19日取得し,超過勤務時間は14時間である。年間の指導時
間は718時間34分で,最も少ない月でも10日間は指導業務に従事せず,15日以上指導業務に従事しなかった月が5か
月間あった。
担当のこぶた組の園児は9人のうち3人が継続であり,1人以外中軽度の園児ばかりであった。
E保育士の産休中は代替のアルバイト保育士が配置されていた。アルバイト保育士に任せられない業務はデス
クワークであって,上肢や腰等に負担がかかるものではない。
d 昭和62年度
原告Aは,昭和62年度に年次休暇・夏季職免を25.5日取得している。超過勤務時間は16時間である。年間
の指導時間は675時間20分であり,最も少ない月でも11日間は指導業務に従事せず,15日以上指導業務に従事しなか
った月が5か月間あった。
担当のクラスに重い障害の園児がいたとしても,それらの園児が登園する日数は少なく,また,X12は昭和62
年度には歩けるようになっていた。
原告Aは,昭和62年11月10日通院した日の直前には出勤しておらず,この通院の際に発症していた腰痛は
公務外の原因によるものである。
e 昭和63年度
原告Aは,昭和63年度に年次休暇・夏季職免を24.5日取得している。超過勤務時間は26時間である。年間
の指導時間は663時間40分で,最も少ない月でも10日間は指導業務に従事せず,15日以上指導業務に従事しない月
が6か月間あった。
原告Aが担当したクラスは,5月下旬から8月を除いては,2対1の職員配置であった。G保育士の産休の期間
も,原告Aは職免をとっていたり,夏季特別指導期間であったりして,業務は過重ではない。
重度とされる園児の多くが他の施設や病院に通っていたから,園児の出席率は低かった。
原告Aは,アコーディオンの練習ができる程度の身体の状況であった。
f 平成元年度
原告Aは,平成元年11月15日までの間に,年次休暇・夏季職免を23日取得している。また,超過勤務時間は
10時間である。最も少ない月(11月を除く)でも11日間は指導業務に従事していなかった。
この年のクラスも,園児の出席状況を考えれば,業務の過重性があったとは認められない。
原告Aが治療を再開した平成元年5月17日の前,約2か月間にも公務の過重性は認められない。
また,X18を支えた際に激痛が走ったとする主張は,腰部に急激な負担がかかった場合に頸肩腕症候群・腰痛
症のような慢性疾患が引き起こされることはないことからすると不自然である。
(エ) 原告Aは,極めて健康であったわけではない。また,発症及び症状悪化には家庭での育児・家事の負担も相当
影響したと考えられる。
(オ) 原告Aに対し,昭和60年7月24日頸肩腕障害・腰痛症との診断が下されているが,この際に,鑑別診断はされ
ていない。また,原告Aの症状には,頸肩腕症候群・腰痛症としては理解し難いものもある。また,その後に汐田ヘルスクリ
ニックでされた診断の際もエックス線検査はされていないなど,不十分である。
原告Aは,平成元年11月から平成2年9月まで10か月半にわたって休業加療したものの,カルテ記載の客観的
所見からは休業中に症状が継続して改善しているとは認められず,公務とこの症状との因果関係は否定される。
また,J医師は,原告Aの頸肩腕障害・腰痛症は,昭和60年12月いったん治ゆし,平成元年5月再発したと診断
しており,原告Aの主張と異なる。
カ 原告Bについて
(ア) 原告Bの発症時期の主張は,公務上認定請求書等の書類に記載されたものと,本件訴訟での主張が異なり,
不明確であり,かつ,それを裏付ける診断書等が存在しない。
原告Bに対する公務外認定処分が正しいかどうかについては,原告Bが昭和60年2月以前に過重な業務に従事
したことにより,昭和60年2月頸肩腕症候群及び腰痛症を発症したかどうかが問題となる。
(イ) 原告Bの発症前の業務について
 原告Bは,さざんか学園に勤務する前に他の施設において児童の保育業務や障害児の指導に従事した経験を
有し,知的障害児の指導に関する知識や技能は修得していた。
原告Bは,昭和54年10月長女を,翌年8月長男を,昭和58年5月次男をそれぞれ出産し,その前後に,産前・
産後の休暇,1時間の通勤緩和,1時間の育児職免を取得しているため,昭和54年度から昭和59年度において業務に
従事した期間及び時間は短い。
a 昭和54年度から昭和57年度
原告Bが,各年度に担当したクラスは3対1の基準を大きく上回り,原告Bの業務は著しく軽減されていた。
b 昭和58年度
原告Bが昭和58年度に担当したクラスは,甲第88号証によっても自閉症児は3人しかおらず,その障害の程度
は,中度1人,軽度2人である。
原告Bは,産休のため,7月9日から勤務を開始しており,年度当初でクラスが落ち着かない時期には勤務して
いない。勤務開始後も,1時間の育児職免を取得しており,業務に従事した期間及び時間は短い。
c 昭和59年度
原告Bは,8月12日まで1時間の育児職免を取得したほか,年次休暇を19日取得している。原告Bは長女を保
育園に迎えに行くことになっており,残業はできない状態であって,年間の超過勤務時間は12時間であった。年間の指導
時間は677時間10分であり,最も少ない月でも11日間は指導業務に従事せず,15日以上指導業務に従事しなかった月
が5か月間あった。継続して指導業務に従事しなかった期間も頻繁にある。
原告Bが担当したクラスの園児9人のうち6人は継続園児で,自閉的傾向児の4人も障害は中軽度であった。同
じクラスを担当した他の児童指導員・保育士はいずれも経験が長く,指導はやりやすかった。甲第88号証には,X20が歩
行不安定であったとの記載はないし,甲第66号証によれば,X19は歩けたことがうかがわれる。
本件訴訟において原告Bが主張した腰痛症の発生時期である昭和59年9月の前の業務を見ても,また,公務
上認定請求に係る災害発生の時期及び本件訴訟において原告Bが主張した頸肩腕症候群の発生時期である昭和60年
2月の前6か月の業務を見ても,指導業務に従事しなかった日数は多く,公務の過重性は認められない。
(ウ) 原告Bのその後の業務
a 昭和60年度
原告Bは,年次休暇・生理休暇・夏季職免を34.5日取得している。超過勤務は12時間である。年間の指導時
間は645時間43分であり,最も少ない月でも11日間は指導業務に従事せず,15日以上指導業務に従事しない月が6か
月間あった。
原告Bの主張する園児の状況には誇張が多い。甲第88号証にも,X22が自閉症であったとの記載はない。
原告Bが通院職免を取得した日は業務が多忙と思われる時期と関係がないし,超過勤務の状況を見れば年度
末に業務が忙しく通院ができなかったとは言い難い。
b 昭和61年度
原告Bは,年次休暇・生理休暇・夏季職免を32.5日取得している。超過勤務は15時間である。年間の指導時
間は678時間15分であり,最も少ない月でも9日間は指導業務に従事せず,15日以上指導業務に従事しない月も7か月
間あった。
L保育士の研修は家庭訪問期間中にはなく,L保育士も他の職員と同程度に家庭訪問を行っており,また,原
告Bが卒園先訪問をしたのは1回のみである。
9月に腰痛のため寝込んだとされる前は,夏季特別指導期間でほとんど指導業務には従事しておらず,過重な
業務があったとは認められない。
c 昭和62年度
原告Bは,年次休暇・生理休暇・夏季職免を30日間取得している。超過勤務は17時間である。年間の指導時
間は611時間40分で,最も少ない月でも12日間は指導業務に従事せず,15日以上指導業務に従事しない月も6か月間
あった。
原告Bが,職免を取得して基礎生理学講座を受講できたのは,職員配置に余裕があったからである。
原告Bが通院職免を取得した日はそれ以前の年に比べて増加しておらず,間隔も空いている。自覚症状も腰痛
症とは合致しない。
d 昭和63年度
原告Bは,年次休暇・生理休暇・夏季職免を33.5日取得している。超過勤務は22時間である。年間の指導時
間は625時間10分であり,最も少ない月でも9日間は指導業務に従事せず,15日以上指導業務に従事しなかった月が9
か月間あった。
原告Bが担当したクラスは2対1の基準に近いものであった。
e 平成元年度
原告Bは,12月までに年次休暇・生理休暇・夏季職免を27日,看護欠勤48.5日を含むその他職免を55日取
得し,ほとんど勤務らしい勤務はしていない。12月までの指導時間は327時間43分で,勤務時間の20パーセント程度で
あり,全く指導業務に従事していない日が目立つ。
原告Bの担当したクラスは,ほぼ2対1の職員配置がされていた。全体で見ても,園児の出席率を考えると,余裕
のある職員配置であり,他のクラスに応援に行っても業務が過重であったとはいえない。
原告Bは,休業直前には指導業務には就いておらず,業務の過重性はない。
(エ) 原告Bの業務以外の要因について
原告Bには,ぜんそくの持病がある。ぜんそくの発作により肩凝りが強くなったり,熟睡できないため体調が悪くな
ることは一般的にあり得る。また,原告Bには,昭和60年2月当時,5歳4か月の長女,4歳5か月の長男,1歳8か月の次男
がおり,さらに,夫の帰宅は遅かったから,育児の負担は重かった。原告Bは,結婚当初から夫の両親及び夫の妹と同居し
ており,それに伴う精神的ストレスは大きかった。
原告Bの長女は,昭和63年10月ころから平成2年9月ころまで不登校の状態であり,これによる原告Bの心身の
疲労は極めて大きかった。原告Bが,看護欠勤明けに業務に従事した時間が短かったにもかかわらず再び休業せざるを
得なかったのは,不登校問題に伴う心身の疲労が極めて大きかったからである。
(オ) 昭和61年1月29日の梶山診療所での腰痛症との診断はレントゲン写真も撮らず,腰椎の異常の有無も確認せ
ずにされたものでずさんである。平成元年11月22日の汐田ヘルスクリニックでの頸肩腕障害・腰痛症との診断も,レントゲ
ン撮影もせず,神経学的診察も十分行わないままされた不十分なものである。
原告Bが主張するように,休業後症状が悪化したというのであれば,公務と関係なく悪化しているのであって,この
症状は公務と関係がない。また,休業後かなりの期間が経過しても症状が軽快しなかったことは,公務との因果関係を否
定するものである。
キ 以上のように,原告らが過重な業務を行っていたとはいえないから,原告らの発症と公務との因果関係は認められ
ない。
第3 当裁判所の判断
1 争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 頸肩腕症候群及び腰痛の発生機序等
 ア(ア) 頸肩腕症候群とは,頸部,肩,腕から手指にかけての痛み,しびれ,知覚障害,筋力低下などの自覚症状を呈
する状態をいう,とするのが臨床医学上一般的な見解である。その場合,広義には,このような症状を引き起こす,頸椎性
疾患,胸郭出口症候群,Pancoast腫瘍,筋結合織炎,肩関節周囲炎,心疾患・胆嚢疾患等による関連痛,自律神経障害
などの,すべての疾患を含むが,狭義には,診断が可能なこれら疾患を除外した後の非特異的な病像を意味し,通常,頸
肩腕症候群の用語は,この狭義の意味で用いられる(以下「頸肩腕症候群」をこの意味で用いる。)。
 一方,原告らの診断書に記載のある頸肩腕障害とは,昭和47年度日本産業衛生学会頸肩腕症候群委員会報
告書が,「業務による障害を対象とする。すなわち,上肢を同一肢位に保持,または反復使用する作業により神経・筋疲労
を生ずる結果起こる機能的あるいは器質的障害である。ただし,病像形成には精神的因子及び環境因子の関与も無視し
得ない。したがって本障害には従来の成書に見られる疾患(腱鞘炎,関節炎,斜角筋症候群など)も含まれるが,大半は
従来の尺度では判断しがたい性質のものであり,新たな観点に立った診断基準が必要である。」との定義の下に提唱した
名称であり,上肢を中心にした痛み・しびれなどの症状を労働との関連で分類したものであるが,この疾病名が対象とする
客観的な病像は,結局において,頸肩腕症候群と異ならないものと考えられる。
(イ) 頸肩腕症候群の発生機序は必ずしも明らかではないが,一般的な説明は次のとおりである。一般に,筋肉の痛
みや凝りという症状は,長時間にわたり筋肉が血行不全の状態になった場合などに生じる。頸椎は,重い頭蓋を支え,上
肢を懸垂しているため,絶えず機能的負荷がかかっており,作業中の頸椎の不良姿勢や,繰り返し起こる頸部の筋の過
労,上肢の筋肉の過労によって筋肉の血行が障害され,酸素や栄養素などの供給が不十分になるとともに乳酸等の有害
な物質が滞留することになり,痛みを生じる。この痛みが筋の緊張を連鎖的に引き起こし,血液の悪循環を生むことになり,
凝りという状態になる。特に,筋肉の動きが少ないにもかかわらず筋肉を緊張させた状態では血行不全が生じやすいとさ
れている。このような筋の緊張状態が続くと,炎症性の反応が生じ,頸肩腕部の軟部組織の線維化が生じ,慢性的な障害
となるというものである。
(ウ) 頸肩腕症候群を発生させる原因としては,・ 上肢の反復動作の多い作業,・ 上肢を上げた状態で行う作業,・
 頸部,肩の動きが少なく,姿勢が拘束される作業,・ 上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業が挙げられ,
局所的な筋の非生理的使用が特に上肢の障害の原因になりやすいとされている。また,作業の質の問題としては,・ 長
時間作業,連続作業,・ 他律的かつ過度な作業ペース,・ 過度の緊張,・ 不適切な作業環境が挙げられる。特に,精
神的な緊張がある場合は,間接的に筋肉の緊張が高まり,上肢等への負担が増大することがある。
(エ) 頸肩腕症候群の自覚症状としては,頸,肩,上肢への放散する痛みと凝りがあり,めまい,耳鳴り,視力障害,
発汗障害などの自律神経症状を訴えることもあるが,これらの症状は,頸椎性疾患,胸郭出口症候群,末梢神経絞扼障
害,胸腹部臓器よりの関連痛,心因性疾患等の他の疾患でも発生し得るものであるため,上記の症状がある場合には,そ
の発生原因を明らかにすることが頸肩腕症候群かどうかの診断には必要である。
 補償課長事務連絡には,胸郭出口症候群と上肢障害(頸肩腕症候群)との鑑別テストについて,アドソンテスト,
ライトテスト,気をつけ姿勢テスト等が挙げられ,これらがすべて陰性であれば胸郭出口症候群は否定できると注記されて
いる。また,同事務連絡には,スパーリングテストについて頸部の変形性脊椎症又は椎間板ヘルニアの場合に陽性となる
旨注記されている。その他胸郭出口症候群との鑑別テストとしては,モーレイテスト,アレンテスト,エデンテスト(上記気を
つけ姿勢テストの一種で,これを座位で行うもの)等がある。
(オ) 頸肩腕症候群は,その程度が軽度のうちは,障害を引き起こす原因を取り除けば3か月程度で軽快することが
多い。しかし,障害を引き起こす原因が取り除かれないまま時間が経過すると,その症状は強まったり,他の部分にも広ま
ったりし,その場合には,障害を引き起こす原因を取り除いてもなかなか軽快せず,治療に長期を要することもあると考えら
れる。
(甲3,4,7,9,18,乙83,85)
イ(ア) 一般に腰痛を発生させる疾患の主なものとしては,以下のようなものが挙げられるが,腰痛症という用語は,腰
の痛みのうち,骨や,関節,椎間板等に特別の異常の認められない,その意味で非特異的なものの総称である。
a 筋・筋膜性腰痛及び腰部捻挫
 腰部の外傷,重い物を持ったときや長時間にわたる腰部の負荷で,腰背部や骨盤を支持する筋,筋膜やじん
帯に発生した障害を原因とし,急性期には,知覚神経終末枝刺激による鋭利痛を発し,時間の経過とともに重苦しい痛み
になり,運動時痛や圧痛が主になる。
b 椎間板ヘルニア
 腰椎の椎間板内に存在する線維輪や髄核が脱出することにより神経根を圧迫して主として座骨神経領域に痛
みを発生させる。
c 変形性脊椎症
加齢による椎間板変性を原因とし,急性腰痛ではない。
d 脊椎分離症,脊椎すべり症
脊椎分離症は若年者のスポーツによる傷害と先天性要因により第5腰椎椎弓の一部が切れているもの,脊椎す
べり症は脊椎分離症か椎間板変性が存在した場合に椎体が前方にすべり出しているもので,いずれも急性腰痛ではな
い。
e 心身症性腰痛
 疼痛の表現が奇異,演技的であり,疼痛部位が一定せず,除痛治療に反応しないなどの特徴がある。
f 関連痛
腹部や胸部内臓に障害があるときに発生する。
g その他
脊椎骨骨折,脊椎骨粗鬆症,炎症や腫瘍等がある。
(イ) 腰痛の原因としては,・ 腰部に動的あるいは静的に過度に負担を加える動作要因,・ 腰部への振動,寒冷,
床・階段での転倒等で見られる環境要因,・ 年齢,性,体格,筋力等の違い,既往症又は基礎疾患の有無及び精神的な
緊張度等の個人的要因があるとされる。特に,作業姿勢・動作については,腰部に負担のかかるものとして,中腰,ひね
り,前屈(おじぎ姿勢),後屈ねん転(うっちゃり姿勢),しゃがむ・かがむ姿勢,床に膝やお尻をつく姿勢といった不自然な
姿勢をとることや,立位,椅座位等で同一姿勢を長時間とること,急激,不用意に腰部に負担のかかる動作を行うこと,不
意に頭部又は腰部のひねりを行うこと等が挙げられる。
(ウ) 慢性の腰痛(腰痛症)は,繰り返し加えられる力学的ストレスや長時間続く不自然な緊張などが積み重なって腰
にひずみが生じることによって発生する。人間の身体は,痛みが発生するところがあると,その周辺の筋肉が緊張して痛い
部分を保護しようとするが,筋肉の動きが少ない状態で筋肉の緊張が長く続くと血液の循環が悪くなり,乳酸などの有害な
老廃物が局所にたまってしまい,この有害物質が神経を刺激して痛みを起こし,その結果筋肉の緊張が高まってしまうとい
う痛みの悪循環が起こる。そして日々の負荷が積み重なって発生した慢性の腰痛では,症状が悪化すると,治療が功を奏
しにくく,長期間の療養が必要な場合がある。ただ,慢性の腰痛には心因的なものも影響し,複雑な原因が絡み合って発
生するとされている。
(甲10,11,18,甲29の2,乙87,88)
ウ 基発65号通達は,上肢等に過度の負担のかかる業務によって,後頭部,頸部,肩甲帯,上腕,前腕,手及び指
に発生した運動器の障害(上肢障害)を対象とし,労働基準法施行規則別表第1の2第3号4又は5に該当する疾病である
ことの認定基準として,・ 上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症したものであること,・
 発症前に過重な業務に就労したこと,・ 過重な業務への就労と発症までの経過が,医学上妥当なものと認められること
を挙げている。前記・の上肢等に負担のかかる作業について,同通達は,上肢の反復動作の多い作業,上肢を上げた状
態で行う作業,頸部,肩の動きが少なく,姿勢が拘束される作業,上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業を
挙げ,補償課長事務連絡は,上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業の一例として,保育,看護,介護作業
を挙げている。また,上記通達は,過重な業務の判断について,同一事業場における同種の労働者と比較して,おおむ
ね10パーセント以上業務量が増加し,その状態が発症直前3か月程度にわたる場合等の業務量の基準を挙げているが,
同時に,過重な業務の判断に当たっては単に業務量だけでなく,質的な要因も考慮すべきであるとしている。なお,基発6
5号通達の基礎となった検討結果報告書にも,頸肩腕症候群を予防する観点から留意すべき作業の一例として,保育,看
護,介護作業が挙げられている。また,同報告書では,頸肩腕症候群の治療中や治療後,その既往のある者について
は,業務による上肢等への負担によって,症状が再発したり増悪したりすることがあることが指摘されている。(甲3,4,6)
 基発547号通達は,重症心身障害児施設等における介護作業について,腰痛の発生が比較的多いことを前提に
腰痛予防のための対策を示している。その内容は,重症心身障害児施設等で,入所児,入所者等の介護を行わせる場合
には,姿勢の固定,中腰で行う作業や重心移動等の繰り返し,重量の負荷等により,労働者に対して腰部に静的又は動
的に過重な負担が持続的に,又は反復して加わることがあり,これが腰痛の大きな要因となるとし,介護のために入所児等
を床面又はベッドから抱えた状態で作業を行わせるときの作業姿勢,食事の際の介助の姿勢等について,適切な対策を
採ることを求めている。なお,肢体不自由児施設,特別養護老人ホーム等における介護にかかる腰痛の予防についても,
これらの措置に準じた対策を求めている。(甲10)
(2) 保母,保育士等に関する健康調査事例
ア 地方公務員災害補償基金が昭和51年3月発表した「心身障害児施設及び保育所における保母の勤務実態等に
関する労働衛生学的調査結果報告書」は,横浜市内の3保育所及び知的障害児施設である松風学園における保育士の
労働や自覚症状について調査したものであるが,調査対象の46人中,腰痛を訴える者が35人おり,整形外科学的有所
見者が5人いた(うち,松風学園では18人中14人が腰痛を訴え,2人に整形外科学的所見が認められた。)としている。そ
して,各種の自覚症状調査によって,大部分の保育士が精神的,肉体的疲労及び肩腕腰部分の凝り,だるさ,痛みを訴
えていること,作業実態調査からは,1日のうちの体位変更が多く,園児持ち上げ姿勢も一定していないこと,腰痛経験者
の大部分は,現職場に入ってから後に発症し,かつ,中腰姿勢維持に発症頻度が高く,これらのうち,徐々に痛み出した
と訴える者のほとんどが,整形外科的調査により腰部筋筋膜炎と診断されていることを指摘している。もっとも,同報告書
は,自覚症状や整形外科的な所見と作業実態調査成績との関係は明らかにできなかったとしている。
イ 財団法人神奈川県予防医学協会が平成4年3月発表した「腰痛・頸肩腕症候群職員健康状況調査報告書」は,
平成2年11月から12月まで横浜市民生局の保育士・調理員・指導員を対象として実施された健康診断で用いられた問診
票・調査票の集計を行ったものである。これによれば,対象となった指導員112人のうち,上げたり下ろしたりする,中腰に
なる,前かがみになるなどの姿勢をとる作業について「いつも」あるいは「ときどき」あると回答している者が多いこと,肩がこ
る,腰が疲れるという自覚症状について「いつも」あるいは「ときどき」あると回答している者が半数以上に及ぶこと,また調
査対象者全体において,一定の作業姿勢と肩や腰などの症状に関連性が見られる場合があることなどが示され,また,指
導員の有所見者は男性2人・女性2人であるとされている。
ウ その他保育所の保育士や児童福祉施設の児童指導員・保育士,養護学校教員を対象にした各種調査によれば,
これらの者には,頸・肩・腕の痛みや凝り,腰の痛みの自覚症状や自律神経失調症状がある者が少なからずおり,一部に
は,整形外科的所見の認められる者もいること,また,これらの者の行っている業務は,中腰,前かがみなど腰に負担のか
かる姿勢をとることが多いことが示されている。ただし,調査の結果,医師による治療を要するかどうかの判定がされた調査
における,医師による治療を要するとの判定の率は,高いものでも10パーセント程度にとどまっている。
(甲17ないし20,甲22,26,甲29の3,8,9,甲34,36,38,138)
(3) さざんか学園の児童数,児童指導員・保育士の人数,勤務状況等
ア さざんか学園の各年度における児童数は,昭和59年度が34人ないし35人,昭和60年度が34人ないし36人,昭
和61年度が33人ないし35人,昭和62年度が33人ないし34人,昭和63年度が33人ないし34人(4月は30人),平成元
年度が,11月26日までは33人ないし34人,11月27日以降は34人ないし36人であった。また,児童の出席数の平均
(特別指導期間を除く。)は,昭和59年度が28.9人,昭和60年度が29.4人,昭和61年度が29.1人,昭和63年度が2
7.6人,平成元年度(12月末まで)が28.9人であった(いずれも小数点第2位以下四捨五入)。
イ さざんか学園の昭和58年度ないし平成元年度における園児の障害程度は,入園時の判定で,昭和58年度が,
最重度3人,重度9人,中度17人,中軽度1人,軽度4人,昭和59年度が,重度9人,中重度1人,中度17人,中軽度2
人,軽度6人,昭和60年度が,重度6人,中重度1人,中度16人,中軽度1人,軽度12人,昭和61年度が,最重度2人,
重度8人,中度12人,中軽度2人,軽度13人,昭和62年度が,重度13人,中度16人,中軽度2人,軽度3人,昭和63年
度が,重度15人,中重度2人,中度12人,軽度5人,平成元年度が,重度9人,中重度1人,中度15人,中軽度1人,軽
度11人であった。
ウ さざんか学園の児童指導員・保育士の員数は13人である。これと,昭和59年度ないし平成元年度の児童数を前
提とする園児と児童指導員・保育士との比率は,児童2.7人に対して1人ないし児童2.5人に対して1人である。また,さ
ざんか学園の児童指導員・保育士(アルバイトを含む。)が昭和63年度に実際に指導に当たった人数(特別指導期間を除
き,通院職免は指導時間にかからなかったものとする。)の平均は11.5人である。これと,昭和59年度ないし平成元年度
(昭和62年度を除く。)の各年度における出席児童数の平均との比率は,児童2.6人に対して1人ないし児童2.4人に対
して1人である。
 なお,児童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63号。ただし,昭和62年厚生省令第12号による改正後の
もの。)は,精神薄弱児通園施設の児童指導員及び保母の総数を通じておおむね乳児又は幼児の数を4で除して得た数
及び少年の数を7.5で除して得た数の合計数以上としている。また,児童福祉法による入所施設措置費国庫負担金の交
付基準は,幼児について,昭和56年9月までは5対1,昭和56年10月からは4対1としている。また,昭和54年当時,政令
指定都市の知的障害児通園施設における,指導職員1人に対する実際の児童数は,東京都の4施設,川崎市の2施設,
名古屋市の2施設,神戸市の1施設,横浜市の1施設(ときわ学園)で3人以下となっているが,札幌市の1施設,名古屋市
の2施設,大阪市の1施設,神戸市の2施設では3人を超え4人以下であり,北九州市の5施設,福岡市の1施設は4人を
超えている。
エ さざんか学園の児童指導員・保育士の指導日における出勤状況は,昭和63年度では,児童指導員・保育士の全
員がさざんか学園に出勤した日(半日未満の職免等,通院職免,開港記念日職免及び家庭訪問,合宿による出張の場合
も出勤に含む。)は全指導日208日のうち29日で,2人以上の児童指導員・保育士が同時に半日以上欠けていた日は12
4日である。平成元年度(12月末まで)では,全指導日157日のうち全員が出勤した日は6日で,2人以上欠けていた日は
122日である。
オ 昭和54年にさざんか学園が開設された際,副園長は,ときわ学園のベテランの職員が配置され,児童指導員・保
育士の数人は年齢の高い児童の通園施設であったひのき学園から異動したが,それ以外は,障害児の保育について経
験のない職員であった。
カ さざんか学園の児童指導員・保育士は,勤務時間後に残って業務を行うことがしばしばあり,その際には,超過勤
務としての記録が残らないことが多かった(この点,被告は,さざんか学園の児童指導員・保育士は残業が少なかったと主
張し,この主張に沿うものとして乙第99号証の2が存在する。しかし,同号証は,ほとんどの月において原告Aと原告Bの
超過勤務時間が一致しているという不自然な記載になっていることが同号証の存在自体から認められところ,この事実と,
証拠(甲119,証人O)によれば,児童指導員・保育士はあらかじめ決められた枠以上の超過勤務をしても市当局から超過
勤務としての取扱いを受けることができなかったこと,乙第99号証の2は,市当局が超過勤務として取り扱われたもののみ
を記載していることが認められることを合わせ考えると,被告の上記主張は採用することができない。)。
(甲75ないし80,甲88,119,128,156,157,乙35,36,乙37の2,乙55,56,67,75,証人M,同N,同O,原
告A本人)
(4) さざんか学園の施設状況等
 さざんか学園の建物は,その中央部分に,斜めに廊下が配置され,玄関から見て廊下の左側に指導室が雁行式に
配置され,右側には,事務室,集会室(ホール)等が配置されている。上記のような指導室の配置のため,すべての指導室
の入り口付近を一度に見渡すのは困難である。また,廊下や集会室には,太いコンクリートの円柱が立っているので,児童
指導員・保育士は,児童が柱に衝突しないように注意したり,柱の陰に隠れてしまわないよう,死角に注意したりする必要
がある。
 各指導室には,園児用トイレとシャワーが設置されているが,平成3年に改修が行われるまで,その部分に設置され
た流しは幼児の身長に合わせた低いものでしかなく(大人用の流しが設けられていなかった。),シャワーが設置されてい
る部分の床はその他の部分とほぼ同じ高さで(園児の身長に合わせた底上げが講じられていなかった。),シャワー部分に
は手すりが設けられていなかった。
 また,各指導室には,平成3年まで,大人用の高さのテーブルはなく,給食を鍋などから各園児の食器に分ける配膳
も,保育用テーブルで行っていた(この点,被告は,盛りつけに指導室の出窓の部分を利用することができたかのように主
張するが,甲第82号証の29-Cの写真は,配膳用テーブルの導入された後の作業状況を撮影したものであることが明ら
かであるから,配膳用テーブルが導入される前に配膳のため出窓部分を使用できたことの根拠とはなり得ず,その他被告
の上記主張を裏付ける証拠はない。)。
 このほか,平成5年まで,指導室内の園児用のロッカーは高さが1メートルくらいで移動可能なものであった(このた
め,園児が登ろうとして,ロッカーが倒れそうになるなどの危険があった。)。また,平成3年まで,指導室等のドアに鍵が設
置されていなかったり,壊れていたりすることがあった。
(甲60,84,119,検証)
(5) さざんか学園の児童指導員・保育士における類似疾病の発症例
 さざんか学園の児童指導員・保育士における類似疾病の発症例は,以下のとおりである。
ア M指導員は,昭和61年度からさざんか学園での勤務を開始したが,昭和62年度ころから頸から肩にかけての痛
みを感じるようになり,汐田理学診療所に通院したり,鍼灸に通ったりした。M指導員の肩や上肢の痛みはその後も回復す
ることはなく,平成元年12月27日付けで公務上認定請求をした。その後,平成4年から5年にかけて産休及び育児休業を
取得したこともあり,平成7年4月西福祉事務所のケースワーカーに異動した後は,治療を受けることはなくなった。M指導
員の公務上認定請求については,公務外認定がされたが,M指導員は,審査請求に要する準備が過重であると考え,審
査請求はしなかった。
イ P指導員は,昭和54年の開設時からさざんか学園の児童指導員として勤務した。P指導員は,昭和60年ころか
ら,腰,手,首の痛みを感じるようになり,昭和63年6月から整体治療を受けたりもしたが,通院自体が負担となり,約1年で
中止した。P指導員は,平成2年5月西福祉事務所のケースワーカーに異動した後は,症状が軽快,消失した。P指導員
は,同年1月公務上認定請求をしたが,公務上認定手続のための書類の作成が負担となり,請求を取り下げた。
ウ その他,J医師は,平成3年から4年ころ,さざんか学園の職員2人の頸部等の痛みなどの症状について治療を行
っている。
(甲86の1,2,甲126,135,証人M)
(6) さざんか学園の児童指導員・保育士が従事する業務の内容等
ア さざんか学園の児童指導員・保育士の業務内容は,以下のとおりである。
 (ア) 1日の流れ
a さざんか学園の児童指導員・保育士は,各クラス3人か4人ずつに分かれて指導に当たるが,各クラス担任の中
では,交替で,1日の進行を中心となって行うリーダー,連絡帳の記入を行う連絡帳担当,給食の準備などを行うフリーとい
った役割分担をする。
b 児童指導員・保育士は,毎朝8時45分に事務室で連絡会を行い,バス当番の場合は,8時55分に出発するバ
スに乗車する。バス当番は,朝のバスと帰りのバスそれぞれについて,2人ずつ交替で行うため,児童指導員・保育士13
人について均等に割り振れば,3.25日に1回担当することになる。
 バスは年度によって異なるが,約5分ないし約25分走行して最初の停留所に到着し,園児を乗せる。その後幾
つかの停留所を経由し,最後に鶴見駅前で停車し,おおむね半数の園児を乗せて約5分でさざんか学園に到着する。
 それぞれの停留所では,保護者から園児を受け取り,バスの席に着かせ,必要に応じてシートベルトをさせる。
児童指導員・保育士は,1人が前方で後ろ向きに座り,もう1人は後部で,それぞれ安全確認をしたり,園児と手遊びなどを
行ったりする。車内で立ち上がったり歩き出したりする園児がいる場合には,バスが走行中であってもその園児に対応す
る。
c バス当番以外の児童指導員・保育士は,準備体操,園庭,園の外側,指導室の清掃を行う。9時15分からは,
水曜日以外は業務や行事の担当ごとの話合いが行われることもあり,水曜日はクラスごとの話合いを行う。
d バスは10時に学園に到着し,児童指導員・保育士は,園児を指導室に移動させる。1人で歩けない園児につい
ては,児童指導員・保育士が,抱きかかえて運んだり,手を引いて歩かせたりする。また,勝手に門とは反対の方向に走っ
ていってしまう園児もおり,そのような園児は,道路に飛び出さないように,後を追いかけていって連れ戻さなければならな
い。そのため,バスが到着したときは,園長,副園長,事務職員も含めて職員全員で門の外に出て,園児が全員園内に入
るように注視している。
 また,直接登園する園児もおり,その場合,園内で保護者から園児を受け取ることになる。
e 園児は,指導室に入った後,かばんやリュックを下ろし,連絡帳やタオルを所定の場所に置き,かばん等をロッ
カーにしまう。児童指導員・保育士は,これらの動作について園児それぞれの発達段階に合わせて声をかけて行わせた
り,手を添えたりする。園児が着替えをする場合も同様に声をかけ,手を添える。
 また,児童指導員・保育士は,園児各人に対し排泄指導を行う。おむつをしている園児のおむつを外したり,取
り替えたりし,また,介助が必要な園児については,トイレに連れていった上で姿勢を支えたり,排泄後の始末を行ったり,
排泄後に手を洗わせたりする。排泄指導は,多くの園児について,登園後と降園前の1日2回行う。
 これらの支度が終わった園児は,自由遊びとして,積み木やおもちゃ,絵本などで遊び,児童指導員・保育士
は,それにかかわるとともに,連絡帳担当は,この間に家庭からの連絡帳を読むなどして,園児の状態を把握する。
f 10時25分から10時40分まで,ホール又は指導室で体を動かすリズム運動を行う。これは,子供向けの体操
や,ハイハイ,手押し車,寝返り,歩く,走る,といった運動を行うものである。児童指導員・保育士は,何人かの園児につ
いて次々に,園児に手本を示したり,また,手押し車運動であれば園児の膝や腰を持って支えたりする。
g 10時40分から朝の会を行う。園児を半円形に並べた椅子に座らせて指導室の前方に座ったリーダーの方を向
かせ,歌を歌ったり,手遊びをしたり,名前を呼んで返事をさせたりする。身体に麻痺があるなどの理由で椅子に座ることが
できない園児については,児童指導員・保育士が床の上に直接座り,自分の膝の上に園児を乗せることもある。また,立ち
歩く園児がいる場合には,連れ戻してリーダーの方を向かせる。
h 10時50分から,カリキュラムに沿って午前の遊び・課題を行う。カリキュラムの代表的なものとして,次のようなも
のがある。
・ 造形遊び
 粉や粘土,紙,クレヨン,絵の具等を用い素材の感触や,形の変化を楽しむ。児童指導員・保育士は,園児に
手を添えたりし,また,終了後は,道具の片づけや,汚れてしまった園児にシャワーを浴びさせるなどの作業が必要となる。
・ 運動遊び
 リズム運動や揺さぶり遊びなどのほか,トランポリンなどの遊具を使った遊び,砂場遊びなどを行う。児童指導
員・保育士は,園児を抱きかかえて振り回したりするほか,大型の道具の準備や片づけをする。夏季には組み立て式のプ
ールを園庭に設置し,水遊びも行う。この場合,園児に着替えさせたりシャワーを浴びさせることが必要となる。
・ 散歩
 公園や広場まで散歩をする。児童指導員・保育士は,園児と手をつないでいったり,バギーや散歩用の車に
園児を乗せて押していったりする。
i 午前の遊びが終わると,給食準備のために主にフリーの担任が抜けて,指導室にテーブルや椅子を運び込み,
厨房から昼食を運んできて盛りつけをしていく。平成3年までは,配膳作業は園児用の低いテーブルで行われている。給
食の準備中,園児は,園庭やホールで,他のクラスと合同で,h・と同様の内容による自由遊びをする。
j 5月から翌年1月までの金曜日には,午前の遊びの時間等にスイミングクラブの温水プールを利用して水泳指導
が行われる。これは,保護者も参加し,スイミングクラブのインストラクターの指導の下に行われるが,児童指導員・保育士も
実際にプールに入って指導する。
k 11時45分から給食となり,児童指導員・保育士は,園児の向かいや隣で園児用の小さな椅子に座り,食べるよ
うに促したり励ましたり,嫌いなものを勧めたりする。食べさせることが必要な園児もいる。食べ終わった園児から,食器など
を片づけさせるが,その際にも,児童指導員・保育士が手伝うことが多い。
 食事後,給食担当の児童指導員・保育士は,鍋や食器などを厨房に返したり,テーブルを拭いたり,テーブル
や椅子を運び出して掃除をするなどの作業をする。
l 給食を食べ終わった園児から順次ホール等に向かい,全クラスの園児が午前の自由遊びと同様の自由遊びを
する。給食を食べ終わった園児から順次ホールに移動するため,早く給食の終わった園児には児童指導員・保育士がか
かわることができず,また,連絡帳担当は指導から外れるため,副園長や園長がホール等での園児の様子を見ることもあ
る。
 この間に,連絡帳担当は,クラスの園児全員分の連絡帳を記入するが,この作業も園児用の机と椅子で行い,3
0分から40分程度を要する。
 曜日によって個別指導・課題指導が行われる場合もある。
m 13時15分ころになると,遊具等の片づけをし,各指導室に向かう。
n 13時25分ころから帰りの支度をし,朝の支度と同様に排泄や着替えを行う。
o 13時40分から朝の会と同様の帰りの会を行う。
p 13時50分に朝のバス到着時と同様にしてバスに乗車させる。
q バス当番の場合,朝と逆のコースを走るバスに乗り,順次園児を保護者に引き渡す。
r バス当番以外の場合は,指導室や園庭等の清掃作業を行い,指導室内などのぞうきんがけの作業も行う。ま
た,タオル等の洗濯や道具の片づけ,園児の作品の整理なども行う。リーダーはA4判1枚程度の指導日誌を記入する。
s 15時15分ころに降園バスが戻ってくると,職員の休憩時間となるが,業務を行っている場合もあり,必ずしも所
定の1時間の休憩がとれるわけではない。
t 休憩時間後,16時15分から,事務室で15分から30分程度連絡会が行われる。
u 児童指導員・保育士の終業時刻は17時15分である。
(イ) その他の業務について
 毎週水曜日には園児の降園は早いが,指導会議が行われており,そのほかにも,適宜指導会議がある。また,行
事の直前等にはその準備をし,各学期末や学年末には指導に関する記録のまとめをするなど,これ以外の業務もある。
 年数回,個人面談や家庭訪問が行われる。個人面談は,各学期末を中心に行われ,園児が降園する時間をあ
て,クラス担任のうち,1人が園児に対応し,2人が保護者と面談する。また,家庭訪問は5月と夏季特別指導期間中のほ
か,必要に応じて行われ,園児の降園と同時に2人が家庭を訪問し,1時間以上かけて保護者と話し合う。残りの担任1人
が指導室等の片づけを行う。
 その他,保護者との関係では,母親教室,父母教室,父親参観などが定期的に行われている。
(ウ) 一年間の流れ
 さざんか学園では,4月から7月下旬までの1学期,7月下旬から8月までの夏季特別指導期間,9月から12月ま
での2学期,1月から3月までの3学期の各期間に分けて指導が行われる。
 さざんか学園では,毎年園児の多くが入れ替わり,それに伴い,クラスの構成も大きく変動するため,4月から5月
にかけては新入園児を中心とする園児が落ち着かず,児童指導員・保育士も園児に対し,個別的対応が必要となることが
多い。また,5月から7月にかけては,卒園児の就学・就園先や家庭への訪問が行われる。
 夏季特別指導期間は,クラス別に設けられる登園日や,合宿,夏祭りといった行事以外は自由登園となり,園庭
プールやホールなどを使用することができるようになっている。また,この期間に行われる家庭訪問では,児童指導員・保
育士が,家庭を訪問した上で,園児と共に地域のプールに行ったりすることもある。
 2学期に入ると,休み明けのために園児が落ち着かない時期がしばらくあり,その後,10月のふれあいレクリエー
ション(運動会),11月の学園祭という大きな行事が続く。
 原告らが実際に従事した指導時間は,昭和59年から平成元年までの各年とも,5月から7月,10月,11月には6
0時間を超えることが多いなど長時間にわたっているが,それ以外の月も,8月とごく一部の例外を除いて40時間を超えて
いる(別表のとおり)。
 各学期末や学年末には,園児のケースまとめと個別面談があり,特に学年末から新学年の開始までの時期には
新入園児を迎える準備もある。
イ さざんか学園の児童指導員・保育士の従事する上記のような業務内容を,児童指導員・保育士が当該業務に従
事することによって受ける身体的・精神的負担という側面から見ると,およそ,以下のとおりである。
(ア) 児童指導員・保育士は,園児が学園にいる間は,常に園児の動向に注意する必要がある。特に,登園バスから
降りて学園に入るとき及び学園から出て降園バスに乗るときは,園児が勝手に道路に飛び出さないように特に園児の動き
を注意深く注視していなければならない。また,バスから学園までの間,指導室からホールや園庭への移動の際に,介助
が必要な園児がいる場合は,抱きかかえたり,手を引いたりして移動の介助をする。さらに,毎日15分間のリズム運動や午
前中約1時間の課題指導(運動遊びを行う場合)・自由遊び,給食後の約1時間の自由遊び等(水曜日は短縮される。)の
時間には,園児を支えたり,園児を抱えて揺さぶったりすることが度々ある。その他の時間にも姿勢が不安定な園児を支え
たり,園児が勝手な方向に向かないようにしたりすることがあるし,園児の排泄や食事指導の際には,介助が必要な場合も
ある。
(イ) 自閉症傾向児,特に多動児に対しては,他の園児との衝突を防ぎ,また,多動児自身が傷害を負うのを防ぐた
めに,力一杯抵抗する園児を押さえることもあり,その際には,園児がパニックを起こさないように注意しなければならな
い。さらに,多動児の場合,どのような動きをするかを事前に予測することが困難な場合もあるため,それに対応するため
には,常にその園児に意識を向けることが必要となる。このような状況は,新入園の時期より,児童指導員・保育士が慣れ
てきた時期の方が,園児の行動がある程度予想できるようになるため,少なくなるとはいえるが,自閉症傾向児の行動のす
べてを予測することは難しく,現に転落事故や園児が外へ出て行方不明になる事件が発生することは年度当初に限られ
ず,注意が必要な状況はその後も基本的に変わりがない。また,前年度も担当した園児については,慣れているため負担
はある程度軽くなるが,新たなクラスで環境が変化することにより継続園児が落ち着かなくなることもあるので,継続園児が
多くても負担が著しく軽減されるとはいえない。
 このようなことから,動きの特に多い多動児やパニックを起こしがちな園児に対しては,児童指導員・保育士の個
別的又は個別的に近いかかわりが必要となる場合が少なくない(この点,被告は,さざんか学園の園児よりはるかに障害の
程度が重い児童を対象とする入所の施設においても児童と職員の比率は2対1程度であることから個別的な対応が必要
であるというのは誇張であると主張する。しかし,障害の程度が重い児童を対象とする入所の施設では,多くの児童はいわ
ゆる寝たきりの状態であり,部屋の中や建物の中を走り回るといったことはないのに対し,さざんか学園の園児は,走り回る
ことができる者も多かったことからすれば,危険を避けるためには,動きの激しい園児やパニックになった園児に付きっきり
で対応するなど,寝たきりの児童の介護より負担が大きくなることも考えられるから,被告のこの主張は当たらないものという
べきである。)。
(ウ) 障害の程度が重くない園児についても,他の園児と自発的に遊ぶことが余り期待できないため,園児の能力を
発達させるためには,児童指導員・保育士が,見本を示したり,手助けをするなどして積極的に遊び・課題を行わせること
が重要である。そして,児童指導員・保育士が様々な方法で積極的にかかわればそれだけ園児の発達には好影響が生じ
ることが期待されるから,児童指導員・保育士が園児の発達を促そうと一所懸命になればなるほど,業務量は増していくこ
とになる。
(エ) これらの作業においては,児童指導員・保育士は,園児の身長に合わせるために姿勢を低くしなければなら
ず,園児の体を支えるなど低い位置で上肢や腰部に負担がかかる作業を行うことが多い。園児の体重は,通常10キログラ
ムを超え,20キログラムを超える場合も珍しくない上,園児の動きに合わせて不意に他律的に動かなければならないた
め,一連の作業により,特に園児の体重を支えることになる上肢や腰部にかかる負担は大きい。また,食事指導や朝の会・
帰りの会などで椅子に腰掛ける場合も,園児用の低い椅子に腰掛けることになり,腰部への負担は大きい。(被告は,知的
障害児の保護者が行っていることとさざんか学園の児童指導員・保育士の業務は同様のものであり,それほどの負担では
ないと主張するが,1人の児童指導員・保育士が複数の園児を担当しなければならないのであるし,上記アによれば,さざ
んか学園では,園児の発達を促すために,家庭ではできない遊びや運動を行っていることがうかがわれ,また,他人の子
供を預かっているという精神的負担も加わるものと考えられるから,児童指導員・保育士の負担は,家庭における保護者の
負担とは質的にも量的にも異なるものということができるから,被告の上記主張は採用することができない。)。
(オ) さざんか学園の指導時間は通常4時間であり,4時間未満の日も多いが,児童指導員・保育士は,園児が学園
にいる間は,自分がトイレに行く時間以外は全く休みなく園児との対応をしているといってよく,精神的な緊張は全くとぎれ
ることはなく,上肢や腰部への現実の負担もほとんど連続して生じている。
(カ) さらに,園児の指導の記録,行事の準備などの業務のため,残業(上記(3)カ参照)や持ち帰りの仕事をしなけれ
ばならない場合も少なくない。後者については,園児が2時に降園してからの時間は,1時間の休憩時間を除けば,2時間
程度しかなく,その時間内に,指導室の清掃,タオル等の洗濯,打ち合わせも行わなければならないのであるから,指導の
記録等の業務のため指導時間開始前の約1時間の一部をあてることができるとしても,所定の勤務時間内に終わらない場
合が生じる。
(甲61,甲75ないし80,甲86,103,119,128,乙41,55,56,75,証人M,同O,原告A本人,同B本人)
(7) 原告Aの業務内容,症状経過等
ア 原告Aは,昭和54年に横浜市に任用され,さざんか学園での勤務を開始するまで,おおむね健康であり,高校生
の時に鎖骨を折り,完治したこと以外には,特に頸,肩,上肢,腰等に痛みなどの症状を感じることはなかった。原告Aは,
さざんか学園で勤務するようになった後も,昭和58年ころまでは,時折腰等の痛みを感じることはあってもすぐに軽快して
いた。
イ 原告Aは,昭和59年度には,P指導員,Q保育士と共に,ひよこ組8人の園児を担当した。園児の障害の程度は,
重度1人,中度4人,中軽度1人,軽度2人であり,前年度も原告Aが担当した園児が3人いた。
このクラスの園児の1人であるX1は,知的障害の程度は軽度であったが,脳性麻痺により歩行不安定であり,身体
障害者センターへ訓練に通っていた。X1については,さざんか学園でも保護者の要望により,身体障害者センターの理
学療法士の指示に従った方法で,歩行介助を行っていた。この歩行介助は,児童指導員・保育士が,X1の右手を支え,
X1が体重を左足に乗せたときに,麻痺のある右足を前に出させるというものであった。このように,他の訓練施設の理学療
法士や作業療法士等から訓練上の指示が出されることはしばしばあった。他方,クラスの園児全員が一度に移動する場合
には,X1を抱きかかえて移動する場合もあった。もっとも,この年度のX1は,体が弱かったため,さざんか学園を休みがち
であった。また,この年度には,X2がろくぼくから転落するという事故もあった。この年度の途中から,原告Aには,腰や上
肢の痛みが現れ,その症状が軽減・消失しにくくなっていた。
ウ 原告Aは,昭和60年度には,D保育士,E保育士と共にとんぼ組9人の園児を担当した。園児の障害の程度は,
重度1人,中重度1人,中度4人,中軽度1人,軽度2人であり,前年度も原告Aが担当した園児が3人,それ以外の継続
園児が4人いた。
 このクラスには,前年度のX1が在籍していたほか,小さなてんかんの発作を月数回起こすX3,多動で高所を好む
X4を含む少なくとも3人の自閉的傾向児などがいた。原告Aは,この年の4月下旬ころから,腰・背中・足の強い痛み,肩
や首のひどい凝りや強い痛みを感じるようになり,5月から7月まで,川崎セツルメント診療所で腰部牽引の治療を受けた
が,余り改善せず,7月24日に梶山診療所に受診し,J医師の診察を受けた。この時,J医師は,頸椎,腰椎のエックス線写
真撮影,筋肉の緊張や圧痛についての診察,モーレイテスト,ライトテスト,アレンテスト,エデンテスト,アドソンテスト等を
行っている。その結果,頸肩腕診察所見としては,僧帽筋肩峰部筋緊張昂進・圧痛,前頸筋緊張昂進・圧痛,大胸筋起始
部圧痛,橈尺側手根伸筋緊張昂進・圧痛,項部筋緊張昂進・圧痛,肩甲挙筋圧痛,肩甲骨内側筋(大菱形筋)緊張昂
進・圧痛,腰部所見としては,腰椎傍脊椎筋群緊張昂進・圧痛,腰方形筋緊張昂進・圧痛,殿筋圧痛などが認められた。
また,頸椎,腰椎のエックス線写真には異常所見がなく,モーレイテストについては,右がツープラス(圧痛があって手に響
いた状態),左がワンプラス(圧痛がある状態)の所見があり,その他のテストについては異常所見がなかった。原告Aは,
梶山診療所に通院して投薬及びはり灸マッサージ治療を受けた。2学期後半には,原告Aの症状は改善し,12月23日で
定期的治療は中断した。
エ 原告Aは,昭和61年度には,D保育士,E保育士と共に,こぶた組9人の園児を担当した。園児の障害の程度
は,重度1人,中度5人,軽度3人であり,前年度も原告Aが担当した園児が2人,それ以外の継続園児が1人いた。
このクラスには,引き続きX1が在籍したほか,重度の知的障害で言葉もほとんど理解できず,歩行も不安定なX6,
多動児や情緒不安定になることが多い園児を含む4人の自閉的傾向児がいた。なお,このクラスの園児のうち4人の体重
は20キログラム以上あった。また,E保育士は,4月当初から妊娠しており,動きが多い園児や体が大きい園児にかかわる
ことは難しく,原告AとD保育士の2人でそのような園児の対応をしていた。E保育士は,昭和61年5月27日から産休に入
り,代替として,アルバイトの保育士が配置された。このアルバイトの保育士には,クラスリーダーや連絡帳担当,記録とまと
め,保護者との面談等の業務を行わせることはなかった。この時期,原告Aには,手や腕の痛みやしびれが出た(ただし,
特に通院はしていない。)。
オ 原告Aは,昭和62年度には,F指導員,G保育士,H保育士と共に,みかん組9人の園児を担当した。園児の障
害の程度は,重度5人,中度4人であり,前年度も原告Aが担当した園児が2人いた。
このクラスには,前年度から継続のX6のほか,高度難聴で補聴器使用,視力障害で眼鏡使用,歩行不可で移動
介助が必要というX11,抗けいれん剤の副作用とアテトーゼ(不随意運動)により非常にふらつきが激しく,歩けるがすぐ転
んでしまうために移動介助と全面的なADL介助が必要なX12及び2人の自閉的傾向児がいた。このクラスは,歩行不可
や未自立な園児と多動の園児が混在するクラス編成が行われており,歩けない園児に多動児がぶつかる事態も多発して
いた。X11は,姿勢の保持ができないため,移動の際,はっていくか,職員が抱いて連れていくかしており,排泄の際も洋
式便器に座らせて介助していた。原告Aは,この年にクラス委員会に所属し,「さざんか学園の指導内容について」と題す
る冊子を中心となって作成したため,それに伴う業務も多かった。
原告Aは,昭和62年11月ころから,腰痛,頸部痛,両肩痛などの症状を強く感じ,同月10日から汐田はり灸マッサ
ージ治療院での治療を定期的に受けるようになった(なお,証拠(乙11)によれば,同日のカルテには,2,3日前から腰痛
との記載があることが認められるところ,被告は,11月7日は土曜日,8日は日曜日で,原告Aは9日と10日に年次休暇を
取得しているので,この腰痛は業務によるものではない旨主張する。しかし,2,3日前からとのカルテの上記記載が正確
に2日前あるいは3日前を意味するかは疑わしいものである上,災害性のものではない腰痛にあっては,腰痛発生の時期
を明確に認識するのは難しいことが多いと見られるから,カルテの上記記載は7日ころ以前の指導業務によって腰痛が発
生したことを排除するものではないと考えられるので,この主張は採用することができない。)。原告Aは,同月13日には,
汐田理学診療所でも診察を受けている。
カ 原告Aは,昭和63年度には,F指導員,G保育士,D保育士と共に,パンダ組8人の園児を担当した。園児の障害
の程度は,重度5人,中重度1人,中度2人で,重複障害児を中心としたクラス編成となっていた。前年度も原告Aが担当し
た園児が3人いた。
このクラスはほとんどの園児が歩行不可・不安定・未自立で,移動介助が必要な園児が多く,ADL介助の度合い
が高い園児も多かった。とりわけ,発作やふらつきの多い,X12,X18には,特に注意をしなければならなかった。なお,こ
の年のパンダ組の1日平均出席園児数は約6.0人であった。G保育士は,当初から妊娠中で児童を抱えて移動したりす
ることは控えており,5月下旬から産休に入ったが,代替者は配置されず,パンダ組を3人の児童指導員・保育士で担任す
ることになった。9月からは,アルバイトの保育士が配置されたが,アルバイトには任せられない業務もあった(上記エ参
照)。原告Aには,腰背部や上肢の痛みに加え,偏頭痛も現れ,前年度から引き続き7月まで,汐田はり灸マッサージ治療
院で定期的に治療を受けたが,症状が改善したため,7月27日で通院を中断した(なお,被告は,原告Aがこの時期にア
コーディオンを弾ける健康状態であったと主張する。証拠(甲70,原告A本人)によれば,昭和63年度の冬ころから春ころ
にかけて,原告Aは,発表会に出るためにアコーディオンの練習をしたことがあったことが認められるが,この時期は比較
的症状の程度が弱い時期であったためと考えられる。)。
キ 原告Aは,平成元年度には,P指導員,D保育士と共に,パンダ組8人の園児を担当した。園児の障害の程度は,
重度3人,中度5人であり,前年度も原告Aが担当した園児が3人いた。その後,9月からは,原告Bがパンダ組に加わっ
た。もっとも,児童指導員・保育士の全員が指導に参加できる日は限られていた。
 このクラスの園児のうち6人は歩行不安定であり,ADL介助の度合いが高い園児も含まれていた。新入園児のX2
2は,精神的に不安定で,1学期の途中までは,児童指導員・保育士が抱いてあげることが多かった。また,前年度から継
続のX18のてんかん発作の状態が悪くなり,その動向に注意する必要があった。原告Aは,腰や上肢の痛みがひどくな
り,5月17日から汐田はり灸マッサージ治療院で,週1回の治療を再開すると共に,6月26日から汐田理学診療所に通院
した。さらに,原告Aは,運動会担当となり業務が多忙となったが,11月上旬にX18を支えた際に,背中から腰に激痛を感
じることがあった(被告は,この症状について,腰痛症としては説明できないものである旨主張するが,証拠(原告A本人)
によれば,この障害がX18を支えたという業務によるものであることが認められるところ,この障害が発生したことにより,そ
の部分をかばうなどのため,腰の筋肉等に今まで以上の負荷がかかり腰痛を悪化させることは十分考えられるというべきで
ある。)。原告Aの症状はその後も好転せず,11月13日汐田理学診療所を受診した際,J医師から休業加療が必要である
との診断を受けた。
ク 原告Aは11月16日から休業したが,休業後しばらくの間はかえって症状が悪化したように感じた。症状が改善し
ない状態はしばらく続いたが,平成2年7月ころから症状の改善を感じるようになり,同年10月から職場に復帰した。なお,
この間,同年1月からは,緑神経科にも通院し,投薬,カウンセリング等の治療を受けた。
 原告Aは,平成元年12月27日,災害発生の日時を昭和60年4月,傷病名を頸肩腕障害・腰痛症として公務上認
定請求をした。
ケ 原告Aがさざんか学園に復帰した後,腰痛の症状は軽減されたが,頸や肩の症状はしばしば現れることがあり,配
転希望を申し出て平成5年に南福祉事務所のケースワーカーに異動した。原告Aが南福祉事務所に異動した後は,上肢
や腰部の症状を感じることはない。
コ なお,昭和59年4月から平成元年11月までの各月において,原告Aが園児の指導に当たった日数,指導時間等
は,別表のとおりである。
(甲78ないし80,甲88,119,乙5,6,乙9ないし12,乙17ないし20,乙47の2ないし7,乙48の2ないし7,乙49の
2ないし7,乙50の2ないし7,乙55,56,75,90,乙91の1,証人O,同J,原告A本人)
(8) 原告Bの業務内容,症状経過等
ア 原告Bは,昭和52年4月横浜市に任用され,中央児童相談所一時保護所に勤務した。昭和53年8月ひのき学園
の保育士に異動し,6歳から18歳の知的障害児の訓練等に当たった。原告Bは,昭和54年6月から産休に入り,同年10
月長女を出産し,産休中にさざんか学園に異動した。原告Bは,産休に引き続く育児休業が終了した昭和55年3月からさ
ざんか学園での勤務を開始した。なお,この時まで,原告Bには,頸・肩・上肢・腰に痛みなどの症状を感じることはなかっ
た。
イ 原告Bが昭和54年度中に実際に勤務した期間は,昭和55年3月の1か月間であったが,この間,こじか組7人の
園児を児童指導員・保育士3人で担当した。
 原告Bは,昭和55年度には,ことり組の10人の園児を4人の児童指導員・保育士で担当した。原告Bは,1時間の
通勤緩和職免をとった後,同年6月から産休に入り,同年8月長男を出産して10月勤務を再開し,この際も,昭和56年2
月まで1時間の通勤緩和職免をとった。
 昭和56年2月原告Bの長女と長男が保育園に入園した。保育園への朝の送りは原告Bの夫が,夕方の迎えは原
告Bの義母が行い,また,原告Bは,夕方帰宅すると,義母が準備した夕食を長男・長女と一緒にとり,長男・長女と一緒に
入浴して夜8時に寝かせ,原告Bもそのまま就寝するようにしていた。
ウ 原告Bは,昭和56年度には,原告A,R指導員,Q保育士と共にこぐま組10人の園児を担当し,昭和57年度に
は,S指導員,Q保育士と共に,うさぎ組6人の園児を担当した。原告Bは,同年9月ころから,妊娠に伴い,通勤緩和職免
をとり,昭和58年3月から次男の出産のため産休をとった。
エ 原告Bは,昭和58年度に,S指導員,H保育士と共にらいおん組の園児9人を担当した。障害の程度は,重度2
人,中度4人,中軽度1人,軽度2人であり,継続園児は3人(前年度の担任は不明)であった。らいおん組の園児のうち3
人は自閉的傾向児であった。
 原告Bは,昭和58年7月まで産休をとり,職場復帰から昭和59年8月ころまで1時間の通勤緩和職免(所定終業時
刻より1時間早く公務を離れるもの)をとっていた。長男・長女は保育園の時間外託児を受け,朝は原告Bの夫が送り,夕方
は原告Bが迎えに行っていた。また,次男は,原告Bの義母が面倒を見ていた。原告Bは,3人の子供と一緒に義母の作っ
た夕食を食べ,子供を入浴させて夜8時に寝かせ,自分も就寝していた。
オ 原告Bは,昭和59年度に,F指導員,H保育士と共にらいおん組の園児9人を担当した。障害の程度は,重度2
人,中度4人,中軽度1人,軽度2人であり,前年度も原告Bが担当した園児が6人いた。らいおん組の園児のうち4人は自
閉的傾向児であった。
 このクラスの園児のうち2人は多動児で,そのうちのX21は,自傷行為や攻撃性も強く,特に注意が必要であった。
また,このクラスでは,X19とX20の2人の園児が歩行不安定であった。また,食事に40分から1時間を要する園児が1人
いた。原告Bは,昭和59年年9月ころ,腰や背中,肩の痛みを感じるようになり,そのころ数回,汐田病院整形外科に通院
し,温熱療法と鎮痛剤投与の治療を受けた。また,昭和60年2月ころから昭和61年1月ころまで,帰宅途中にカイロプラク
ティック治療を受け,昭和60年2月20日には腰痛のため年次休暇を取得した。家庭では,長男と長女は保育園に通園
し,次男は原告Bの義母が面倒を見ていた。また,義母が家事のほとんどを行っていた。
カ 原告Bは,昭和60年度には,R指導員,T指導員と共に,つばめ組の園児9人を担当した。障害の程度は,重度1
人,中度3人,軽度5人であった。つばめ組の園児のうち3人は自閉的傾向児であった。
 このクラスの園児は全員が新入園児でADL介助の必要が高かった。7月入園のX22は多動児で,予測できない
行動をとるため特に注意が必要であり,加えて,落ち着きかけたクラスがX22のせいで再び騒然となった。また,12月に
は,X6が散歩中に転落して頭を打つ事故や,X22が園外に出て行方不明になる事件もあり,児童指導員・保育士は,更
に気を遣って保育に当たらなければならなかった。
 この間,原告Bの腰痛,頸・肩・上肢の痛みの症状は悪化し,昭和61年1月から3月まで梶山診療所ではり灸マッ
サージの治療を5回受けた。1月29日の診察において,梶山診療所のJ医師は,原告Bについて,関係する筋肉の緊張を
触診し,両側僧帽筋肩峰部筋緊張昂進・圧痛,左側腰部筋緊張昂進・圧痛,腰部背屈痛・背屈制限を認めるとともに,モ
ーレイテスト,ライトテスト,アレンテスト等を行っている。これらのテストについては,いずれも異常所見はなかった。この時
期,原告Bの3人の子は,いずれも保育園に通い,当初は義母が,後には原告Bが迎えに行っていた。
キ 原告Bは,昭和61年度には,R指導員,T指導員と共にこうし組の園児9人を担当した。障害の程度は,重度1人,
中度4人,中軽度1人,軽度3人であり,前年度も原告Bが担当した園児が5人いた。こうし組の園児のうち4人は自閉的傾
向児であった。
 5月,T指導員が転勤し,新人のL指導員が配置されたが,同人は新人研修等の研修のため出張することが6月に
5回あった(なお,原告Bは,L指導員が研修のため,家庭訪問や就学・就園先訪問を残りの2人でしなければならなかった
旨主張するが,証拠(乙75)によれば,5月の家庭訪問の回数は,原告B7回,R指導員6回,L指導員5回であり,6月に
原告Bが就園先訪問をしたのは1回のみであることが認められるので,この主張は採用できない。)。原告Bは,4月10日梶
山診療所に通院した後,5月ころから汐田はり灸マッサージ治療院で引き続きはり灸の治療を受けた。
 原告Bは,6月には,4日,5日,24日,26日と集中して梶山診療所に通院し,その後,9月にも2日,4日,8日と集
中して同診療所に通院し,9月1日から4日まで年次休暇を取得している。この直前は,夏季特別指導期間であり,原告B
は,8月25日,26日,27日の職員会議に出席し,29日にクラス懇談会及び中央児童相談所との打ち合わせに出席して
いるほかは,8月28日及び30日はいずれも出勤していない。さらに,原告Bは,12月5日梶山診療所ではり灸の治療を受
けているが,同日の梶山診療所のカルテの所見欄には,夜痛みで眠れない旨の記載がある。原告Bは,昭和62年2月12
日汐田はり灸マッサージ治療院に通院しているが,その際のカルテの所見欄には,一昨日朝より腰痛との記載がある。
ク 原告Bは,昭和62年度には,D保育士,S指導員と共に,バナナ組の園児9人を担当した。障害の程度は,重度1
人,中度5人,中軽度1人,軽度2人であり,前年度も原告Bが担当した園児が4人いた。バナナ組の園児のうち3人は自閉
的傾向児であった。
 原告Bは,毎月1回ないし2回研修職免をとって生理学講座を受講した。このクラスでは,X24が多動で動きも激し
く,X25はフェンスを越えて何度も園から出るなどのことがあり,特に注意を必要とした。また,X26の母親は精神的に不安
定であったため,連絡を密に取る必要があり,さらに,父親の協力を得るため児童相談所と連絡を取り,夜間に父親と共に
児童相談所を訪れるなどのことをした。原告Bの腰痛や上肢の痛みの症状は悪化していたが,定期的な通院のための時
間が取れない状況であった。原告Bは,4月から6月23日まで合わせて5回汐田はり灸マッサージ治療院に通院したが,4
月9日汐田はり灸マッサージ治療院に通院してから,同月10日,11日には,腰痛のため年次休暇を取得し,その後,6月
5日にも腰痛のため年次休暇を取得している。原告Bは,6月の上記通院の後は汐田はり灸マッサージ治療院への通院を
中断し,12月11日通院を再開しているが,その後は,昭和63年1月6日にかけて5回,2月に1回,3月に2回同治療院に
通院している。この年には,原告Bの長女は小学校2年生,長男は小学校1年生になり,次男も4歳になったため育児の手
間は軽くなっている。
ケ 原告Bは,昭和63年度には,P指導員,U指導員と共に,ぞう組の園児7人を担当した。障害の程度は,重度3
人,中重度1人,中度2人,軽度1人であり,前年度も原告Bが担当した園児が1人,それ以外の継続園児が2人いた。ぞう
組の園児は全員が自閉的傾向児であった。
 この年は,歩行が未自立であったり不安定であったりする園児をパンダ組に,自閉的傾向児をぞう組に集中して配
置するクラス編成が採られ,これらの2クラスには他のクラスよりも多く児童指導員・保育士を配置した。このクラスの児童
は,それぞれ,多動,情緒不安定などの問題があった。原告Bには引き続き腰痛や上肢の痛みの症状があったが,通院の
ための時間も取れないほど多忙であった。それでも,原告Bは,4月10日,11日と6月5日,22日には腰痛のため年次休
暇を取得し,同月に2回,9月30日から11月24日にかけて5回汐田はり灸マッサージ治療院に通院し,通院はそこでいっ
たん中断している。
 なお,この年の10月から,原告Bの長女が不登校の状態になった。原告Bは知り合いに相談するなどし,長女と共
に東大病院に通ったりした。
コ 原告Bは,平成元年度の当初は,E保育士,V指導員と共にぞう組の園児8人を担当した。障害の程度は,中重度
1人,中度3人,軽度4人であり,前年度も原告Bが担当した園児が3人いた。
 原告Bは,5月30日から長女の不登校に対応するため,看護欠勤をし,7月にかけての約2か月間長女と一緒に過
ごした。原告Bは,8月職場に復帰し,9月からは,原告A,P指導員,D保育士と共にパンダ組8人の園児を担当した。パ
ンダ組の園児の状況は(7)キのとおりであった。パンダ組では11月16日から原告Aが休業に入り,原告Bの業務は増加し
た。なお,この時期,パンダ組の児童指導員・保育士は,全員がそろわない日が多く,平成元年9月指導に当たった児童
指導員・保育士の数の平均は1日当たり約3.3人,10月は約3.4人,11月は約2.6人,12月は約2.7人であり,一方,
同時期の同クラス園児の出席数の平均が,平成元年9月は約5.9人,10月及び11月は約6.5人,12月は7人である。原
告Bは,11月22日汐田理学診療所でJ医師の診察を受けた。診察の結果,J医師は,原告Bに,両側肩峰部筋緊張昂進・
圧痛,深部に筋硬結,頸部右伸展痛,両側前腕部筋緊張昂進・圧痛,頂部緊張を認めたほか,モーレイテスト,アレンテ
ストでは異常所見を認めず,腰部については筋緊張(運動制限なし)を認めた。なお,関係部位についてのレントゲン検査
では異常所見が認められなかった。以上のとおり,この時点では,腰痛の症状よりも頸肩腕の症状が強かったため,J医師
は,原告Bに対し,頸肩腕障害として,休業の必要性を説明した。
 その後,同月27日には,2歳児1人が入園し,パンダ組に配置された。原告Bは,汐田理学診療所への通院を続
け,12月6日には腰痛の所見がある旨カルテに記載された。また,12月12日からはり灸マッサージの治療を再開した。し
かし,原告Bの症状は悪化し,同月20日汐田理学診療所において,首,肩の凝りと痛み,右肘の痛み,頭痛を訴え,診察
の結果,肩部分の緊張・圧痛,首の圧痛,右前腕部圧痛が認められた。さらに,同月27日の同診療所での診察の結果,
肩峰部及び項部の筋緊張・圧痛が強く,右肩にしびれを伴っていることが認められたほか,食欲不振,不眠,頭痛,吐き
気などがあって,通勤がつらい状態になっていることが認められ,以後休業加療を要する旨診断された。以上の経過によ
り,原告Bは,同月28日から休業に入った。
サ 休業後もしばらくの間は,原告Bの症状は改善せず,平成2年4月から緑神経科にも通うようになった。その後,原
告Bの症状は,徐々に軽快し,平成3年3月から業務軽減と時間内通院を条件に職場復帰した。
 原告Bは,平成2年1月18日,災害発生の日時を昭和60年2月,傷病名を頸肩腕障害・腰痛症として公務上認定
請求をした。
シ 原告Bは,平成6年4月異動した笹下南保育園では,乳児クラスや障害児を含むクラスを担当しているが,通院を
要するような腰や上肢の痛みは起きていない。
ス なお,昭和59年4月から平成元年12月までの各月において,原告Bが園児の指導に当たった日数,指導時間等
は,別表のとおりである。
(甲69,甲78ないし80,甲88,128,157,乙7,8,乙13ないし16,乙21ないし24,乙51の2ないし7,乙52の2な
いし7,乙53の2ないし7,乙54の2ないし7,乙55,56,75,乙76の1,乙81,90,証人O,原告B本人)
2 上記1の認定事実を前提として判断する。
(1) 地公災法は,地方公務員の公務上の災害に対して補償を行うものであるところ(同法26条,28条,28条の2第1
項,29条1項,31条,45条1項等),公務上の災害といえるためには,公務と災害との間に相当因果関係のあることが必
要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・判例時報837号34頁参照)。そして,地公災制度の目的は,労
働者災害補償保険と同様に,公務に内在又は随伴する危険が現実化して発生した災害によって地方公務員が被る損失
を補償することにあると考えられるから,当該災害の発生が公務に内在又は随伴する危険が現実化したものといえるような
関係にある場合に公務と災害との間に相当因果関係があると判断されるものと解される。そして,この意味における相当因
果関係,すなわち公務起因性の有無は,当該地方公務員の公務の内容・性質,勤務状況,疾病の発症の経緯,発症前
の健康状態,症状の推移と公務との対応関係,同種公務に従事する他の地方公務員にかかる類似症状の発症の有無,
疾病についての医学的知見等,諸般の事情を総合して判断されるべきものである。
(2) 上記1の認定事実によれば,本件については,およそ,次のとおりの事情が存在する。
ア さざんか学園において,児童指導員・保育士は,運動遊び,自由遊び等の時間には,園児を支えたり,園児を抱
えて揺さぶったりすることが度々ある。その他の時間にも姿勢が不安定な園児を支えるなどし,園児の排泄や食事指導の
際には,介助が必要な場合もある。
 自閉症傾向児,特に多動児に対しては,他の園児との衝突を防ぎ,また,多動児自身が傷害を負うのを防ぐため
に,力一杯抵抗する園児を押さえることもある。さらに,多動児の場合,どのような動きをするかを事前に予測することが困
難な場合もあるため,それに対応するためには,常にその園児に意識を向けることが必要となる。前年度も担当した園児に
ついては,慣れているため負担はある程度軽くなるが,新たなクラスで環境が変化することにより落ち着かなくなることもあ
るので,継続園児が多くても負担が著しく軽減されるとはいえない。このようなことから,動きの特に多い多動児などの園児
に対しては,児童指導員・保育士の個別的又はこれに近いかかわりが必要となる場合が少なくない。障害の程度が重くな
い園児についても,他の園児と自発的に遊ぶことが余り期待できないため,園児の能力を発達させるためには,児童指導
員・保育士が,見本を示したり,手助けをするなどして積極的に遊び・課題を行わせることが重要である。
 これらの作業においては,児童指導員・保育士は,園児の身長に合わせるために姿勢を低くしなければならず,園
児の体を支えるなど低い位置で上肢や腰部に負担がかかる作業を行うことが多い。園児の体重は,通常10キログラムを超
え,20キログラムを超える場合も珍しくない上,園児の動きに合わせて不意に他律的に動かなければならないため,一連
の作業により,特に園児の体重を支えることになる上肢や腰部にかかる負担は大きい。また,食事指導や朝の会・帰りの会
などで椅子に腰掛ける場合も,園児用の低い椅子に腰掛けることになり,腰部への負担は大きい。
 さざんか学園の指導時間は通常4時間であるが,以上のとおり,園児が学園にいる間中,児童指導員・保育士には
上肢や腰部への負担が絶えず生じ,精神的な緊張もとぎれることがないといってよい状態である。
 もっとも,さざんか学園の児童指導員・保育士1人当たりの児童数は各種の基準よりも少なく,他の政令指定都市
の知的障害児通園施設と比較しても低位にあるが(上記(3)ウ参照),このような事実があるからといって,さざんか学園の児
童指導員・保育士における上記のような身体的・精神的負担を過小評価することはできないものと考えられる。
イ(ア) 原告Aは,さざんか学園で勤務を始める前には,特に上肢や腰部の症状を感じたことがなかった。しかし,原告
Aは,昭和60年4月中旬ころ,腰・背中・足の強い痛み,肩や首のひどい凝りや強い痛みを感じるようになり,その後,川崎
セツルメント診療所,梶山診療所,汐田はり灸マッサージ治療院,汐田理学診療所等に通院して診療を受けたが,原告A
の上肢及び腰部の症状はその後も好転せず,平成元年11月13日汐田理学診療所を受診した際,J医師から休業加療が
必要であるとの診断を受けた。
 このように,原告Aは,昭和60年4月中旬ころから症状の悪化を感じて通院を開始し,同年7月24日梶山診療所
に受診(その際のJ医師の診断内容は,上記1(7)ウのとおりである。)するなどして,同年12月23日で定期的治療を中断し
ている。その後,原告Aは,昭和62年11月ころから症状を強く感じ,同月10日から治療を受けている。この治療は昭和63
年7月27日まで続き,同日で中断したが,平成元年5月17日から症状を強く感じて治療を再開している。このように原告A
が症状の悪化を感じた時期は昭和60年4月中旬,昭和62年11月,平成元年5月といずれもさざんか学園における業務
が多忙な時期である。そして,原告Aが治療を中断しているのは,昭和60年12月下旬,昭和63年7月下旬といずれもさざ
んか学園に園児が登園しなくなり原告Aの業務が多忙でなくなる時期である。特に,昭和63年の5月から7月までの時期
は,担当していたパンダ組のG保育士が産休に入り当初4人であった担任が3人となっていた時期で,それ以前やそれ以
後に比べ業務が多忙であった時期である。さらに,原告Aが休業に至る平成元年11月の直前である同年9月と10月に
は,原告Aの指導時間は60時間を超えて長くなっている。なお,原告Aは,さざんか学園から南福祉事務所に異動した後
には,上肢や腰部の症状を感じていない。
 以上によれば,原告Aの症状は,歩行介助が必要な園児や自閉症傾向児を担当していた昭和60年に病的な状
態に悪化し,その後も,業務が多忙な時期には,悪化が見られるという経過をたどり,特に歩行不安定や歩行不可の園児
が多かったクラスを担当した昭和63年度と平成元年度に更に悪化し,平成元年11月には休業に至っている。しかし,原
告Aは,休業後11か月で職場復帰し,さざんか学園の業務から離れた後は,症状を感じなくなっている。
(イ) 原告Bは,さざんか学園での勤務を開始する前には,中央児童相談所一時保護所やひのき学園での勤務をし
ていた時期も含め,上肢や腰部の症状を感じることはなかった。
 原告Bは,次男の産休から復職し,通勤緩和職免が終了して間もなくの昭和59年9月ころ,腰や背中,肩の痛み
を感じるようになり,その後,汐田病院整形外科,梶山診療所,汐田はり灸マッサージ治療院,汐田理学診療所等に通院
して診療を受けたが,原告Bの上肢及び腰部の症状はその後も好転せず,平成元年12月27日汐田理学診療所を受診し
た際,J医師から休業加療が必要であるとの診断を受けた。
 このように,原告Bは,昭和59年9月ころから,腰や背中,肩の痛みを感じて通院するようになり,昭和61年1月2
9日梶山診療所に受診(その際のJ医師の診断内容は,上記1(8)カのとおりである。)するなどした後,同年6月には,4日,
5日,24日,26日と集中して通院しており,これは,業務が多忙な時期と一致している。もっとも,原告Bは,同年9月にも2
日,4日,8日と集中して通院し,9月1日から4日まで年次休暇を取得しているが,この直前は,夏季特別指導期間であり,
原告Bは,8月25日,26日,27日の職員会議に出席し,29日にクラス懇談会及び中央児童相談所との打ち合わせに出
席しているほかは,8月28日及び30日はいずれも出勤しておらず,この時期に症状が悪化しものとすると,園児の指導業
務と直接の関係があるとは必ずしもいえないかのように見える。しかし,それ以前の経過からすると,原告Bの症状は,この
ころまでには慢性的なものに進行していた可能性が高く,この場合,わずかな上肢や腰部への負担でも強い症状を引き起
こすことが十分に考えられるので,業務が繁忙でない時期に症状が悪化したものとしても,原告Bの症状と業務との関係が
否定されるものではないと考えられる。
 その後,同年12月5日梶山診療所に受診した際には,カルテの所見欄に夜痛みで眠れないとあり,症状の悪化
がうかがわれるが,これは,指導業務が繁忙な時期の直後に当たる。また,その約2か月後の昭和62年2月12日汐田はり
灸マッサージ治療院に通院した際のカルテの所見欄には,一昨日朝より腰痛とあり,この時期にも症状が悪化したことがう
かがわれる。原告Bは,同年4月9日に同所に通院してから,同月10日,11日には,腰痛のため年次休暇を取得し,その
後,6月5日にも原告Bは腰痛のため年次休暇を取得している。この4月及び6月は,新学年開始に伴う業務の繁忙の時期
と一致する。
 原告Bが治療を再開するのは,昭和62年12月11日で,指導業務が比較的繁忙な時期である10月及び11月の
直後である。その後,昭和63年1月6日にかけて,5回治療を受け,その後は,2月に1回,3月に2回治療を受けている。
原告Bは,昭和63年6月2回治療を受け,6月22日には,腰痛のため年次休暇を取得している。その後,9月30日から11
月24日にかけて5回治療を受けるが,治療はそこで中断している。このうち,6月は新学年開始に伴い業務が繁忙な時期
の直後であって,実際原告Bのこの月の指導時間は77時間余りと長く,また,9月終わりから11月下旬にかけての時期は
指導業務が多忙な時期に当たる。
 原告Bは平成元年の5月から7月にかけて看護欠勤を取得し,業務から離れている。しかし,業務に復帰した後
本格的に指導業務が始まった9月からは歩行不安定や歩行未自立な園児を多数含むパンダ組に配置され,多忙な業務
を行ったもので,パンダ組の児童指導員・保育士は,指導に参加しなかった日が特に多く,他のクラス等からの応援が入っ
たことはあったとしても,特に11月及び12月においてより多くの園児の保育を担当しなければならなかったことが推認され
る。
 その後,原告Bは,12月27日汐田理学診療所において,以後休業加療を要する旨の診断され,同月28日から
休業に入ったが,これは,以前から上肢や腰部に症状があった原告Bについて,看護欠勤により,その症状が一時軽快し
ていたとはいえ,完治に至らないうちに前記のような負担の重い業務に就いたことで一気にその症状が悪化したと見ること
ができる。なお,原告Bは,笹下南保育園に異動した後は,通院を要するような上肢や腰部の症状を感じていない。
ウ さざんか学園の児童指導員・保育士における類似症状の発症例としては,M指導員及びP指導員の事例がある。
M指導員は,昭和61年度からさざんか学園での勤務を開始したが,昭和62年度ころから頸から肩にかけての痛みを感じ
るようになり,汐田理学診療所に通院するなどしたが,平成4年から5年にかけて産休及び育児休業を取得したこともあり,
平成7年4月他の部署に異動した後は,治療を受けることはなくなった。また,P指導員は,昭和54年の開設時からさざん
か学園の児童指導員として勤務したが,昭和60年ころから,腰,手,首の痛みを感じるようになり,昭和63年6月から整体
治療を受けたりもしたが,通院が負担となり,約1年で中止した。その後,P指導員は,平成2年5月他の部署に異動した後
は,症状が軽快,消失した。その他,J医師は,平成3年から4年ころにかけて,さざんか学園の職員2人の頸部等の痛みな
どの症状について治療を行っている。
 このほか,各種の保母,保育士等の健康調査によれば,上肢や腰の痛みなどの自覚症状を有する者が少なから
ず存在したことが明らかにされている(上記1(2)参照)。
(3)ア 上記アないしウ判示の事情,上記1(1)判示の頸肩腕症候群及び腰痛の発生機序等に関する医学上の知見,証
拠(甲135,証人J)並びに弁論の全趣旨を合わせると,原告Aについては,さざんか学園に勤務中の昭和60年中旬ころ,
原告Bについては,同じくさざんか学園に勤務中の昭和59年9月ころ,それぞれ,頸肩腕症候群及び腰痛(腰痛症)が発
症したもので,かつ,これら疾病(本件疾病)の発症は,いずれも,さざんか学園において従事した児童指導員(原告A)な
いし保育士(原告B)としての公務に起因するものと認めることができ,乙第83,第84号証,証人Kの証言中上記認定に反
する部分は,いずれも採用することができず,他に上記認定を左右する証拠はない。
イ なお,被告は,原告Bについて,ぜんそくの持病があるとか,家庭生活上のストレスがあるとかの,多原因の存在を
主張する。しかし,前者については,原告Bのぜんそくの症状の程度を明らかにするに足りる適確な証拠はなく,原告Bに
ついて,ぜんそくが頸肩腕症候群及び腰痛に類似した症状を引き起こしたことを認めるに足りる証拠は見当たらない。後
者については,精神的な負担として育児の負担,夫の両親との同居によるストレス,長女の登校拒否によるストレス等を指
摘するI医師の意見書(乙第84号証)が存在するが,I医師の意見書には,直接患者を診察していない者の意見書である
という問題がある上,同意見書の内容も,必ずしも説得的とはいえない。
 すなわち,同意見書が指摘する育児の負担や夫の両親との同居といった家庭内の問題については,夫の両親と
は仲がよく,義母が育児のかなりの部分を代わりにやってくれていた旨の原告B本人の供述が存在するところ,この供述の
信憑性を覆すに足りる証拠はない。また,同意見書は,次男出産後の職免終了直後の昭和59年9月腰痛が悪化している
ことから育児の負担が原因ではないかとの指摘も行っているが,原告Bが昭和59年8月ころまで取得した通勤緩和職免
は,所定終業時刻より1時間早い職免を内容とするものであるから,指導時間には影響がなかったものというべく,昭和59
年9月ころ症状が発症したのは,まさに,産休後に職場復帰してからの約1年間の公務に起因するものと見るのが自然で
ある。
 もっとも,長女の登校拒否については,原告Bにとって大きな心配の種であったことは想像に難くないが,原告Bが
このことをどの程度大きなストレスと感じたかについては的確に認めることのできる証拠はないし,原告Bの上肢や腰部の
症状は昭和63年及び平成元年ころにはかなり進行し慢性化していたと見られるところ,長女の登校拒否が始まったころに
原告Bの症状が急激に悪化したことを認めるに足りる証拠もないことからすれば,長女の登校拒否と原告Bの症状の推移
が対応しているともいい難い。
3 結論
 以上の次第であるから,本件各処分はいずれも違法であって,取消しを免れない。
横浜地方裁判所第7民事部
 
裁判長裁判官  福  岡  右  武
 裁判官矢澤敬幸及び同須賀康太郎は,いずれも転補の
ため,署名押印することができない。
裁判長裁判官  福  岡  右  武
・別表省略

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