弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成17年2月24日判決言渡
平成17年(少コ)第142号 賃金請求事件
口頭弁論終結日 平成17年2月10日
少額訴訟判決
主    文
1 被告は,原告に対し,4万6745円及びこれに対する平成16年12月2
6日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担
とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請  求
被告は,原告に対し,7万3698円及びこれに対する平成16年12月2
6日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
原告は,被告と平成15年9月1日に締結した基本給として月給29万円,
雇用主である被告は労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)及び雇
用保険には加入しないとする労働契約(争いがない。)に基づき,次の(1)ないし(3)
の合計7万3698円及び支払日の翌日から年14.6パーセントの
割合による遅延損害金の支払いを求める。
(1)4万6745円
被告は平成16年7月に労災保険及び雇用保険に加入したことにより,平
成15年9月1日から平成16年7月31日までの被告が負担すべき労災保
険料1万5079円及び雇用保険料3万1666円の合計4万6745円を
原告の平成16年8月分の給与から差し引いた(争いがない。)ので,賃金
全額支払いの原則に違反する。
(2)1953円
被告は雇用保険料として原告の平成16年8月分の給与から1953円を
差し引いた(争いがない。)が,これは重複して控除したものである。
(3)2万5000円
被告は,基本給29万円とした労働契約に違反して,原告の平成16年8
月分から同年12月分までの各基本給から各5000円ずつ合計2万500
0円を差し引いた(争いがない。)が,これは不当な賃金カットである。
2 被告の主張の要旨
被告が契約した多くの日本人講師については労災保険及び雇用保険に加入し
てきたが,ほとんどの外国人講師は,日本に長くいないこと,1年契約を締結
しても契約途中で退職することが少なくないこと,失職後6か月後から給付資
格が得られる雇用保険に加入したくないことなどを理由に,被告とほとんどの
外国人講師間には,労災保険及び雇用保険に加入しないが,被告がその保険料
を負担しないで済むので,その保険料相当分である5000円を基本給に上乗
せする旨の合意ができている。
原告は,被告と上記のような契約を締結していながら,ハローワークに対し
被告との契約は無効であると主張したので,被告は契約開始時に遡って保険料
を支払うようにとのハローワークの指示に従った。そのために被告は,平成1
5年9月1日から平成16年7月31日までの被告が負担すべき労災保険料1
万5079円及び雇用保険料3万1666円の合計4万6745円を原告の平
成16年8月分の給与から差し引いたものである。また,保険料相当分である
5000円を原告の基本給に上乗せしていたので,被告は原告の平成16年8
月分以後の各基本給から各5000円を差し引いた28万5000円を支払っ
ている。
3 主たる争点
(1)外国人講師について,労災保険及び雇用保険に加入しない代わりに,保険
料相当分である5000円を原告の基本給に上乗せする契約は無効か。
(2)労災保険料及び雇用保険料の合計4万6745円を原告の平成16年8月
分の給与から遡って差し引くことが許されるか。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
原告本人,被告代表者,甲1の1ないし4,甲2,乙1及び2並びに弁論の
全趣旨によれば,被告の主張の要旨記載の事実を認めることができる。以上の
認定事実及び当事者間に争いのない事実によれば,被告が労災保険及び雇用保
険に加入しないことは,労働者災害補償保険法及び雇用保険法に違反するが,
そうだからといって原告と被告間の労働契約が違法となるとはいえない。原告
が被告と合意の上,労災保険及び雇用保険に加入しない代わりに保険料相当分
である5000円を基本給として得ていたことにより,原告が特に経済的な不
利益を受けていないことを考慮すると,上記契約が直ちに無効とまではいえな
い。
2 争点(2)について
争点(1)に対する判断によれば,被告がハローワークの指示に従って契約開
始時に遡って労災保険及び雇用保険に加入し,その期間の保険料を支払ったこ
とにより,原告は保険料相当分である5000円を基本給に上乗せしてもらっ
ていたことは理由のないこととなり,被告の損失において原告はその利益を得
たことになる。そうすると,原告に支払われた部分については被告に返還請求
権が生ずることになる。被告は,平成16年7月に,平成15年9月1日から
平成16年7月31日までの被告が負担すべき労災保険料1万5079円及び
雇用保険料3万1666円の合計4万6745円を支払ったのであるから,こ
の部分について返還請求権があるとして,これを原告の平成16年8月分の給
与から差し引いたというのであるが,しかしながら,これは,労働基準法24
条1項の賃金全額支払いの原則に違反し許されるものではない。
3 その他について
(1)原告は,雇用保険料として平成16年8月分の給与から1953円を差し
引いたのは重複控除であると主張するが,被告が平成16年7月に雇用保険
に加入し,同月31日までの雇用保険料を支払ったので,原告は同年8月1
日からの雇用保険料のうち個人負担分である1953円を負担すべきである
から,重複控除にはならない。
(2)更に,原告は平成16年8月分から同年12月分までの各基本給から各5
000円ずつ合計2万5000円を差し引いたのは不当な賃金カットである
と主張するが,上記争点(1)及び(2)について判断したとおり,原告が被告と
合意の上,労災保険及び雇用保険に加入しない代わりに保険料相当分である
5000円を基本給として支払ってきたという状態が解消されたことによる
支払停止であると解されるから,不当な賃金カットには当たらない。
(3)なお,原告は年14.6パーセントの遅延損害金を請求しているが,原告
は退職者ではないので,賃金の支払の確保等に関する法律6条1項の適用は
ない。したがって,被告が株式会社であるから,遅延損害金は商行為によっ
て生じた債務に関するものとして商事法定利率の限度で認められる。
4 結  論
よって,原告の請求は,労災保険料1万5079円及び雇用保険料3万16
66円の合計4万6745円及びこれに対する平成16年12月26日から支
払済みまで年6パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理
由がある。
東京簡易裁判所少額訴訟1係
裁 判 官 横  田  康  祐

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛