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平成25年2月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(行ケ)第10215号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年1月31日
判決
原告株式会社KBC
(旧商号:株式会社カルゥ)
同訴訟代理人弁理士宮崎伊章
的場照久
被告株式会社メディオン・
リサーチ・ラボラトリーズ
同訴訟代理人弁護士山田威一郎
同弁理士田中順也
同訴訟復代理人弁理士水谷馨也
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2011-800244号事件について平成24年5月11日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の後記2の本件発明に係
る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな
いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,
後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)被告は,平成10年10月5日,発明の名称を「二酸化炭素含有粘性組成
物」とする国際出願(特願2000-520135号。優先権主張:平成9年(1
997年)11月7日,日本)をし,平成23年1月7日,設定の登録(特許第4
659980号。請求項の数13)を受けた。以下,この特許を「本件特許」とい
い,本件特許に係る明細書(甲25)を「本件明細書」という。
(2)原告は,平成23年11月24日,本件特許の請求項1ないし13に係る
特許について,特許無効審判を請求し,無効2011-800244号事件として
係属した。
(3)特許庁は,平成24年5月11日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」旨の本件審決をし,同月21日,その謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりのものである(以下,請求項1
ないし13記載の発明を併せて「本件発明」という。)。なお,文中の「/」は原
文の改行箇所を示す。
【請求項1】部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治
療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットで
あって,/1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸
を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;又は/2)炭酸塩及び酸を含む複合顆
粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合
わせ/からなり,/含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであ
ることを特徴とする,/含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気
泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキ
ット
【請求項2】得られる二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5~90容量%
含有するものである,請求項1に記載のキット
【請求項3】含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後に
メスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50以
上の容量を保持できるものである,請求項1又は2に記載のキット
【請求項4】含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものであ
る,請求項1乃至3のいずれかに記載のキット
【請求項5】含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項1乃至
4のいずれかに記載のキット
【請求項6】請求項1~5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化
炭素含有粘性組成物を有効成分とする,水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用
医薬組成物
【請求項7】請求項1~5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化
炭素含有粘性組成物を含む部分肥満改善用化粧料
【請求項8】顔,脚,腕,腹部,脇腹,背中,首,又は顎の部分肥満改善用である,
請求項7に記載の化粧料
【請求項9】部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治
療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法であっ
て,/1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含
む顆粒(細粒,粉末)剤;又は/2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)
剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物;/を用いて,含水粘性組
成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化
炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み,/含水粘性組成物が,二酸化炭素を気
泡状で保持できるものである,二酸化炭素含有粘性組成物の調製方法
【請求項10】調製される二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5~90容
量%含有するものである,請求項9に記載の調製方法
【請求項11】含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後
にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50
以上の容量を保持できるものである,請求項9又は10に記載の調製方法
【請求項12】含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むもので
ある,請求項9乃至11のいずれかに記載の調製方法
【請求項13】含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項9乃
至12のいずれかに記載の調製方法
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件発明に関する特許請求の範囲及び発明の詳細
な説明の記載は,平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「法」とい
う。)36条4項及び同条6項1号に掲げる要件を満足しないものとすることはで
きない,などとしたものである。
4取消事由
サポート要件及び実施可能要件に係る判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1本件発明に係るサポート要件及び実施可能要件について
(1)本件審決は,甲12ないし17を根拠に,「二酸化炭素が血行促進作用を
示すこと」及び「血行が促進されることにより痩身作用を示すこと」は,いずれも
当業者に周知の事項であると判断した。
しかし,甲12ないし14には,二酸化炭素が血行促進作用を有することが記載
されているが,痩身作用については記載されていない。また,甲15ないし17に
は,血行促進による痩身作用が記載されているが,血行促進は二酸化炭素ではなく
マッサージ等の皮膚への強い刺激によるものである。
よって,二酸化炭素による血行促進作用により痩身作用を示すことは,当業者が
認識しているとはいえず,むしろマッサージ等の皮膚への刺激等による強い刺激に
よる血行促進があって初めて痩身作用が起こると理解されるべきである。
(2)従来は二酸化炭素が血行促進作用を有すると考えられていたが,1980
年代における発見以降,血行を促進するのは一酸化窒素によるものであることが徐
々に認識されるようになった。
以上のとおり,当業者は,二酸化炭素は血行促進作用を有さず,痩身作用も当然
有しないと認識しているから,部分肥満改善作用は,二酸化炭素含有粘性組成物の
うち二酸化炭素に基づく作用であるとした本件審決の判断に誤りがある。
(3)よって,二酸化炭素による部分肥満改善作用は当業者が当然に認識するも
のといえない以上,クエン酸そのものを用いた試験例8,9及び13により,「酸
と他の成分を含む顆粒(細粒,粉末)剤」を用いた場合にも同様の部分肥満改善効
果がサポートされているものといえない。また,「酸と他の成分を含む顆粒(細粒,
粉末)剤」を製造し,これを用いて,クエン酸そのものを用いた場合と同様の部分
肥満改善効果を発揮させることができたものといえないから,発明の詳細な説明は,
当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
したがって,本件発明は発明の詳細な説明に記載したものであり,発明の詳細な
説明は,当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである
とした本件審決の判断には誤りがある。
2被告の主張について
(1)被告は,本件発明は,皮膚への二酸化炭素の浸透量を増大させ,部分肥満
の改善という効果を発揮できるものである旨主張する。
しかし,本件発明の二酸化炭素含有粘性組成物を皮膚に塗布したとしても,粘性
組成物内の二酸化炭素が皮膚を透過して体内に吸収されることはなく,被告が主張
するような効果は生じない。
(2)被告は,二酸化炭素の血行促進作用が公知であると主張するが,二酸化炭
素は皮膚を通って体内に吸収されることがない以上,二酸化炭素の血行促進効果は
公知とはいえない。
また,被告が主張するように,二酸化炭素が皮膚から吸収されてボーア効果をも
たらし,血行が良くなると仮定しても,二酸化炭素濃度の高い血液は粘性組成物を
塗布した箇所にとどまらないから,塗布した箇所の血行が良くなるわけではない。
また,ボーア効果に関わる血液ガスは,空気呼吸によるものであって,皮膚から吸
収される二酸化炭素ではない。そして,血流量の定義に酸素飽和度やヘモグロビン
からの酸素放出が関係ないことからしても,ボーア効果により血行が促進されるわ
けではない。
(3)被告は,本件発明の部分肥満改善効果が二酸化炭素に起因している旨主張
する。
二酸化炭素は皮膚を通って体内に吸収されることはないから,被告の上記主張は
前提を欠く。また,脂肪燃焼とは脂肪酸のβ酸化であるところ,それを引き起こす
ホルモン感受性リパーゼは低血糖により活性化されるものである。血行が良くなっ
たとしても低血糖になるわけではないから,脂肪酸のβ酸化は起こらず,脂肪は燃
焼しないのである。
〔被告の主張〕
1本件発明に係るサポート要件及び実施可能要件について
(1)本件発明によって部分肥満改善効果が奏されることは,本件明細書の試験
例8,9及び13において,明確に実証されている。したがって,本件発明によっ
て部分肥満改善効果が奏されることが本件明細書において十分に裏付けられており,
当業者が本件明細書の記載から,本件発明を実施できることは,疑いの余地はない。
(2)本件明細書の試験例8,9及び13では,それぞれ実施例8,20及び1
8に記載の含水粘性組成物と酸の組合せから得られた二酸化炭素含有粘性組成物を
皮膚に塗布することにより,塗布部において部分痩せが認められたことが実証され
ている。また,実施例8,20及び18は,いずれも,「炭酸水素ナトリウム(炭
酸塩),アルギン酸及び水を含む含水粘性組成物」と「クエン酸」の組合せであり,
これらを混合して得られた二酸化炭素含有粘性組成物は,気泡の持続性が優れてお
り,二酸化炭素を効果的に保持できる。そして,二酸化炭素の効能として血行促進
作用や細胞への酸素供給量の増大作用(ボーア効果)等が知られていることに鑑み
れば,当業者であれば,本件明細書の試験例8,9及び13では,十分量の二酸化
炭素を局所的(部分的)に経皮吸収させることにより,当該局所において血流量や
酸素濃度を増加させ,それに伴って細胞の新陳代謝を活性化して,その結果,当該
局所における脂肪細胞の燃焼を生じさせていることにより,部分肥満改善効果が実
現されていると認識できる。さらに,当業者であれば,本件明細書の上記各試験例
で認められた部分肥満改善効果は,二酸化炭素の作用に起因していることを明確に
把握できるといえる。
このように,本件明細書の試験例8,9及び13で認められている部分肥満改善
効果は,クエン酸を使用したことによるものではなく,十分量の二酸化炭素を局所
的に経皮吸収させたことに基づくものである。そして,「炭酸塩,アルギン酸及び
水を含む含水粘性組成物」と混合される顆粒剤として「クエン酸以外の酸からなる
顆粒剤」又は「酸とその他の物質を含んだ顆粒剤」を用いた場合であっても,「ク
エン酸」を用いた場合と同様に,酸と炭酸塩との間で反応が生じ,二酸化炭素が発
生するというメカニズムは同様であり,発生した二酸化炭素がアルギン酸ナトリウ
ムを含む含水粘性組成物の中で効果的に保持されるという仕組みに関しても何ら違
いはない。
そうすると,本件発明において,使用される顆粒剤は,酸単独からなるもの,酸
と他の成分を含むもののいずれであっても,二酸化炭素の効能を効果的に利用して
部分肥満改善効果を奏し得るといえるから,クエン酸を用いた試験例8,9及び1
3により,「酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤」を用いた場合にも,同様の部分肥満
改善効果はサポートされている。したがって,本件発明が発明の詳細な説明に記載
されたものということができる。
また,クエン酸を用いた試験例8,9及び13を含む本件明細書の開示内容を見
た当業者であれば,「酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤」を用いて,クエン酸そのも
のを用いた場合と同様の部分肥満改善効果を発揮させることができるため,発明の
詳細な説明は,当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したもの
といえる。
よって,本件特許が,サポート要件及び実施可能要件を満たすとした本件審決の
判断に誤りはない。
2原告の主張について
(1)原告は本件審決の認定の一部にしか反論をしていないこと
原告は,本件審決のうち,二酸化炭素の痩身効果に関する認定部分に関して縷々
反論を述べるが,本件審決の認定のうちのごく一部の点の不備を主張するものにす
ぎず,本件審決の認定の違法性を基礎付ける理由にはなり得ない。
(2)二酸化炭素の痩身効果に関する原告の主張が失当であること
ア原告の主張は,甲12ないし17の開示内容と本件発明の技術的意義を的確
に理解していないものであり,本件審決の認定を覆す根拠にはなり得ない。
甲15ないし17においては,二酸化炭素については言及されていないが,マッ
サージ効果等による強い血行促進作用に基づいて痩身効果が認められ得ることを示
している。一方,甲12ないし14に開示されているような従来の二酸化炭素を利
用する皮膚外用剤では,わずかな血行促進作用しか認められないため,痩身効果ま
では実現できていないのである。
これに対し,本件発明では,発生した気泡状の二酸化炭素を含水粘性組成物中に
封じ込めて,当該含水粘性組成物中の二酸化炭素含量を高めることができ,ひいて
は皮膚への二酸化炭素の浸透量を増大させることが可能になっており,従来の二酸
化炭素を利用する皮膚外用剤よりも,二酸化炭素の効能を格段に向上させることが
できている。その結果,本件発明では,本件明細書の試験例8,9及び13で実証
されているように,優れた部分肥満改善効果を実現できている。甲12ないし14
に痩身効果が示されていないことは,むしろ本件発明の革新性を示しており,従来
の二酸化炭素を利用する皮膚外用剤よりも二酸化炭素の効能を格段に向上できてい
ることの証左ともいえる。
このように,甲12ないし17は,二酸化炭素による効能には部分肥満改善効果
がないことを示すものでないことは明らかであり,これを斟酌しても,本件審決の
認定に誤りがあるとはいえない。
イ原告は,あたかも二酸化炭素と血行促進効果が無関係であるかのような主張
をしている。
しかしながら,原告が提出した甲18ないし24は,二酸化炭素が血行促進作用
を備えていないことを示すものではない。
第4当裁判所の判断
1本件発明について
(1)本件明細書の記載
本件発明の特許請求の範囲の記載は前記第2の2のとおりのものであり,本件明
細書には,おおむね以下の記載がある(甲25)。
ア本発明者らは鋭意研究を行った結果,二酸化炭素含有粘性組成物が,抗炎症
作用や創傷治癒促進作用,美肌作用,部分肥満解消作用,経皮吸収促進作用なども
有することを発見して本件発明を完成した。
イ本件発明でいう「含水粘性組成物」とは,水に溶解した,又は水で膨潤させ
た増粘剤の1種又は2種以上を含む組成物である。該組成物に二酸化炭素を気泡状
で保持させ,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場合,二酸化炭素を皮下組織
等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できる。該組成物は,二酸化
炭素を気泡状で保持するためのものであれば特に限定されず,通常の医薬品,化粧
品,食品等で使用される増粘剤を制限なく使用でき,剤形としてもジェル,クリー
ム,ペースト,ムースなど皮膚粘膜や損傷組織,毛髪などに一般的に適用される剤
形が利用できる。
ウ本件発明の増粘剤に用いる半合成高分子の中のアルギン酸系高分子としては
アルギン酸ナトリウム,アルギン酸プロピレングリコールエステルなどが挙げられ
る。
エ本件発明の含水粘性組成物に二酸化炭素を保持させる方法としては,該組成
物に炭酸ガスボンベなどを用いて二酸化炭素を直接吹き込む方法がある。また,反
応により二酸化炭素を発生する物質を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を
発生させるか,又は含水粘性組成物を形成すると同時に二酸化炭素を発生させて二
酸化炭素含有粘性組成物を得ることも可能である。二酸化炭素を発生する物質とし
ては,例えば炭酸塩と酸の組合せがある。具体的には,炭酸塩含有含水粘性組成物
と酸の組合せ,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物の組合せ
等により二酸化炭素含有粘性組成物を得ることが可能であるが,本件発明は二酸化
炭素が気泡状で保持される二酸化炭素含有粘性組成物が形成される組合せであれば,
これらの組合せに限定されるものではない。
オ本件発明に用いる炭酸塩としては,炭酸アンモニウム,炭酸カリウム,炭酸
カルシウム,炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,セスキ炭酸カリウム,セスキ
炭酸カルシウム,セスキ炭酸ナトリウム,炭酸水素カリウムなどが挙げられ,これ
らの1種又は2種以上が用いられる。
本件発明に用いる酸としては,有機酸,無機酸のいずれでもよく,これらの1種
又は2種以上が用いられる。有機酸としては,ギ酸,酢酸,プロピオン酸,酪酸,
吉草酸等の直鎖脂肪酸,シュウ酸,マロン酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,
ピメリン酸,フマル酸,マレイン酸,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸等の
ジカルボン酸,グルタミン酸,アスパラギン酸等の酸性アミノ酸,グリコール酸,
リンゴ酸,酒石酸,クエン酸,乳酸,ヒドロキシアクリル酸,α-オキシ酪酸,グ
リセリン酸,タルトロン酸,サリチル酸,没食子酸,トロパ酸,アスコルビン酸,
グルコン酸等のオキシ酸などが挙げられる。無機酸としてはリン酸,リン酸二水素
カリウム,リン酸二水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,亜硫酸カリウム,ピロ亜
硫酸ナトリウム,ピロ亜硫酸カリウム,酸性ヘキサメタリン酸ナトリウム,酸性ヘ
キサメタリン酸カリウム,酸性ピロリン酸ナトリウム,酸性ピロリン酸カリウム,
スルファミン酸などが挙げられる。
カ本件発明の二酸化炭素含有粘性組成物を皮膚粘膜疾患若しくは皮膚粘膜障害
の治療や予防目的,又は美容目的で使用する場合は,該組成物を直接使用部位に塗
布するか,あるいはガーゼやスポンジ等の吸収性素材に含浸させるか,又はこれら
の素材を袋状に成形してその中に該組成物を入れて使用部位に貼付してもよい。該
組成物を塗布又は貼付した部位を通気性の乏しいフィルム,ドレッシング材などで
覆う閉鎖療法を併用すれば更に高い効果が期待できる。該組成物を満たした容器に
使用部位を浸すことも有効である。その場合,炭酸ガスボンベなどを用いて該組成
物に二酸化炭素を補給すればより効果が持続する。
キ実施例を示して本件発明を更に詳しく説明するが,本件発明はこれらの実施
例に限定されるものではない。実施例1ないし84の炭酸塩含有含水粘性組成物と
酸との組合せよりなる二酸化炭素含有粘性組成物を表1ないし表7に示す。
ク実施例8
炭酸塩含有含水粘性組成物(炭酸塩:炭酸水素ナトリウム2.4,増粘剤:アル
ギン酸ナトリウム3.0,カルボキシメチルセルロースナトリウム2.0,精製水
92.6),酸(クエン酸2.0),発泡性(+++),気泡の持続性(++)
ケ実施例18
炭酸塩含有含水粘性組成物(炭酸塩:炭酸水素ナトリウム2.4,増粘剤:アル
ギン酸ナトリウム2.0,カルボキシメチルスターチナトリウム2.0,カルボキ
シメチルセルロースナトリウム2.0,精製水91.6),酸(クエン酸2.0),
発泡性(+++),気泡の持続性(++)
コ実施例20
炭酸塩含有含水粘性組成物(炭酸塩:炭酸水素ナトリウム2.4,増粘剤:アル
ギン酸ナトリウム2.0,カルボキシメチルスターチナトリウム3.0,カルボキ
シメチルセルロースナトリウム3.0,精製水89.6),酸(クエン酸2.0),
発泡性(+++),気泡の持続性(++)
サ試験例8(顔と腹部の部分痩せ試験)
41歳男性。ふっくらした頬と太いウエストを痩せさせたいと希望し,実施例8
の組成物を1日1回15分間右頬に30g,腹部に100g塗布した。2ヶ月後に
右頬が5名の評価者全員により明らかに小さくなったと判断された。腹部はウエス
トが6㎝減少した。
シ試験例9(肌質改善及び顔痩せ試験)
37歳女性。ふっくらした頬と荒れ肌,肌のくすみに悩み,種々の化粧品を試し
たが効果が得られなかった。実施例20の組成物50gを1日1回10分間顔全体
に塗布したところ,1回目の塗布で肌のくすみが消えて白くなり,きめ細かい肌に
なった。2週間後には3名の評価者全員により,顔が小さくなったと判断された。
ス試験例13(腕の部分痩せ試験)
36歳女性。二の腕の太さを気にしていたため,実施例18の組成物30gを左
の二の腕に塗布し,食品包装用フィルム(商品名サランラップ,旭化成社製)をそ
の上からまいて6時間放置したところ,二の腕の周囲長が2㎝減少した。
(2)前記(1)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,二酸化炭素含有粘
性組成物が部分肥満解消作用等を示すこと(前記(1)ア),発明の一態様として含
水粘性組成物に気泡状の二酸化炭素を含有させたものが挙げられていること(前記
(1)イ),含水粘性組成物は,二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に
二酸化炭素の気泡を保持するものであって,使用部位に塗布又は貼付した二酸化炭
素含有組成物にガスボンベなどを用いて二酸化炭素を補給すれば効果が持続するこ
と(前記(1)イ,カ)等が記載された上で,二酸化炭素を発生し気泡として保持す
る粘性組成物を塗布することにより部分肥満改善効果が奏されたこと(前記(1)エ,
キないしス)が具体的な試験例8,9及び13(実施例8,20及び18)として
記載されている。
これらの記載によれば,本件特許に係る二酸化炭素含有粘性組成物の有効成分は
二酸化炭素であって,その部分肥満改善効果は二酸化炭素の作用によるものである
と解するのが相当である。
2サポート要件について
(1)特許請求の範囲の記載が,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明
に記載したものであることを要するとするサポート要件(法36条6項1号)に適
合することを要するとされるのは,特許を受けようとする発明の技術的内容を一般
的に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲を明らかに
するという明細書の本来の役割に基づくものである。この制度趣旨に照らすと,明
細書の発明の詳細な説明が,出願時の当業者の技術常識を参酌することにより,当
業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されていることが必要
である。
(2)本件明細書には,前記1(1)のとおり,炭酸塩と酸を反応させて二酸化炭素
を発生させることができること,そのための組合せとして,具体的な試験例で用い
た炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の組合せのほか,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,
粉末)剤と含水粘性組成物の組合せが記載され,アルギン酸ナトリウムが増粘剤で
あることや,用いることのできる炭酸塩や酸として具体的化合物が,多数記載され
ている。
本件明細書のこれらの記載に接した当業者であれば,アルギン酸ナトリウムと各
種炭酸塩及び各種酸を,本件発明の「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有
する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ」や「2)炭
酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する
含水粘性組成物の組み合わせ」として任意に組み合わせて用いることで,酸として
クエン酸を用いた試験例8,9及び13(実施例8,20及び18)と同様に,二
酸化炭素を発生させることができ,部分肥満改善効果が得られることを理解するこ
とができる。
(3)以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の課
題を解決できると認識できる程度に記載されており,本件発明は,発明の詳細な説
明に記載したものであるということができるから,本件特許は,サポート要件を満
たすものである。
3実施可能要件について
(1)物の発明において,その発明を実施することができるとは,その物を作る
ことができ,かつその物を使用できることを意味する。
(2)当業者であれば,前記1(1)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記
載された各種炭酸塩や各種酸をアルギン酸ナトリウムと組み合わせることにより,
本件発明の「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,
酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ」や「2)炭酸塩及び酸を含む複合顆
粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合
わせ」を製造することができ,これらを混合することにより二酸化炭素を発生させ
て部分肥満改善用に使用することができる。
(3)したがって,発明の詳細な説明は,本件発明を当業者が実施することがで
きる程度に明確かつ十分に記載したものであるから,本件特許は,実施可能要件を
満たすものである。
4原告の主張について
原告は,当業者は,二酸化炭素は血行促進作用を有さず,痩身作用も当然有しな
いと認識していた旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,二酸化炭素が部分肥満改善効果を有しないこ
とを具体的あるいは合理的に主張するものではない。そして,本件発明が,発明の
詳細な説明に記載したものであり,発明の詳細な説明が,本件発明を当業者が実施
することができる程度に明確かつ十分に記載されていることは,前記2及び3に判
断したとおりであって,二酸化炭素が生体に及ぼす作用を当業者がどのように認識
していたのか,また,本件発明の作用機序がいかなるものであるのかは,この判断
に影響を及ぼすものではない。
5結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官土肥章大
裁判官髙部眞規子
裁判官齋藤巌

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