弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
 主文と同旨
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
一 本件は、平成三年分、同四年分及び同五年分の各総所得に関する被控訴人の所
得税の再修正申告に対して、控訴人が右各所得のうち、被控訴人が給与所得である
として申告した花泉中央リンゴ生産組合一関グループからの収入につき、これが給
与所得ではなく事業所得に係る収入であると認定して、平成七年二月二二日付け右
各年度分の所得税の各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分をしたので、被
控訴人が右所得は給与所得と解すべきであるとして右処分の取消しを求める訴えを
提起したところ、原審が被控訴人の主張を認めて、控訴人の右各処分を取り消した
ので、控訴人が控訴した事案である。
二 当事者の主張
 当事者の主張は、原判決六頁三行目の末尾に続けて「なお、被控訴人の本件収入
が事業所得であるとした場合、平成三年分ないし同五年分の被控訴人の所得税に関
しては、総所得及び過少申告加算税の各金額が控訴人主張の金額であることは認め
る。」を、同一一頁末行の「民法上の組合であること」の次に「及び被控訴人が本
件組合の組合員であること」をそれぞれ加え、同一六頁二行目の次に次のとおり加
える他は、原判決の「事実」欄の「第二当事者の主張」(原判決三頁七行目から同
一六頁二行目まで)と同一であるから、これを引用する。
「五 当事者の当審における主張
1 控訴人の主張
(一) 民法上の組合に対する課税の構造について
 組合は法人格を有しないので、組合財産は組合自体に法的に帰属させることがで
きず、総組合員に共有的に帰属し(民法六六八条)、債権債務関係も総組合員の共
有(準共有)に属することとなる(民法六七七条)。このような法人格を有しない
組合の事業活動の成果は、組合組織を通り抜け(パス・スルーし)、直接組合員に
帰属するものとして所得税の課税対象となり、組合事業から生じた収入に対する課
税については、収入が発生した段階において、各組合員に所得が発生したものとし
て課税を検討すべきものである。
(二) 事業所得と給与所得
 本件組合は、りんご生産を共同で行うことを目
的としており、りんご生産という事業によって得た所得は、農業から生ずる事業所
得(所得税法二七条一項)として、収入が発生した時点で各組合員に所得が発生
し、各組合員が納税主体となるのである。また、事業所得は、事業に供した資産と
その資産を利用した役務活動が融合して獲得された所得であり、事業所得は性質上
本質的に役務活動の対価としての性質も有しているのであり、組合員が労務を提供
して収入を得たとしても、それは組合の事業活動から生じた事業所得にほかならな
いのである。披控訴人は、組合員として組合事業のために労務を提供したのである
から、本件における被控訴人の労務提供契約は労務出資契約であり、これに対して
支払われた金銭は賃金ではなく、労務出資に対する組合利益の分配と解すべきであ
る。
(三) 雇用契約の成否
 組合は法人格を有しないのであるから、組合員が組合と雇用契約を締結しようと
すると、雇用契約の一方の当事者は組合を構成する総組合員とならざるを得ない。
また、組合においては、業務執行権は原則として各組合員が有するとされているか
ら、このような組合員としての地位と雇用者から支配される関係に立つ被用者とし
ての地位とは矛盾する関係に立つこととなり、組合員たる地位を維持しつつ自己が
属する組合との間で雇用契約を締結することは組合の法的性質と相容れないという
べきである。したがって、被控訴人が得た労務に対する対価は賃金ではなく、労務
出資に対する組合利益の分配と解すべきである。
2 被控訴人の主張
 事業所得と給与所得との区分についての判断を示した最高裁判所昭和五六年四月
二四日判決が、給与所得を「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮
命令に服して提供した労働の対価としての使用者から受ける給付」と判示している
ところによれば、被控訴人の本件所得は給与所得であることが明らかである。」
       理   由
一 請求原因1ないし3の事実及び同4の(一)の事実並びに「被控訴人の本件収
入が事業所得であるとした場合には、平成三年分ないし同五年分の被控訴人の所得
税に関しては、総所得及び過少申告加算税の各金額が控訴人主張の金額となるこ
と」についてはいずれも当事者間に争いがないから、本件においては、被控訴人の
本件収入が所得税法二七条一項の事業所得にあたるのか、それとも同法二八条一項
の給与所得にあたるのかが争点となる。
二 前提
事実
 右争点についての判断をするにあたり前提となる事実(本件組合の法的性質、事
業形態、被控訴人の法的地位、労務提供の内容、報酬等に関する事実)について
は、次のとおり付加・訂正する他は、原判決「理由」欄の「一」記載の認定(原判
決一六頁六行目の「請求原因」から同二六頁一行目まで)と同一であるから、これ
を引用する。
1 原判決一六頁六行目の「請求原因」から同九行目の「いうべきところ、」まで
を「前記当事者間に争いのない事実並びに」と改める。
2 原判決一九頁五行目の「一日当たり」の次に「四五〇〇円ないし」を加え、同
七行目の「形態となった」を「形態となり、出役義務制を改めた」と、同九行目の
「一般労務者として」を「一般作業員と同様に」とそれぞれ改め、同二〇頁四行目
の末尾に続けて、「なお、管理者はりんご園地の経営上の基本方針を立案し、作業
の計画・手順を決定し、専従者はこれに従い日々の労務に従事するが、一般作業員
と比べると経験を必要とする薬剤防除等の仕事は専従者が主として担当してい
た。」を加え、同二一頁七行目の「七六五・九一アール」を「七町五反」と改め、
同二五頁六行目の「に一関税務署」から同八行目の「同年」までを削る。
三 争点についての判断
 右前提事実をもとにして、被控訴人の本件収入を事業所得とみるべきか、それと
も給与所得とみるべきかについて検討する。
1 本件組合は、民法上の組合であり、各組合員が出資して共同の事業を営むこと
を合意して成立する組合員の結合体であり(民法六六七条一項)、組合の事業によ
り獲得された利益や損失は、理念的には組合財産を構成するものの、組合には法人
格が存しないことから、組合財産は組合自体には帰属せず、総組合員の共有(合
有)となり(民法六六八条)、債権債務も総組合員の共有(準共有)になるもの
(民法六七七条)と解される。したがって、このような組合の法的構造に照らせ
ば、組合の事業活動の成果たる所得に対する課税は、法人税の対象として組合に課
せられるものではなく、組合員の出資等に応じて各組合員の所得に分解されて帰属
し所得税の課税対象になるものと解するのが相当である。そして、組合員が組合か
ら組合員の立場で受け取る収入は、給与、賞与などの名目で受け取るものであって
も、これらの所得は当該組合の事業から生じた事業所得であるという性質が変わる
ものではないから、これを給与所得と解すべき
ではなく、組合の事業から生じた所得全体を各組合員の出資等に応じて配分した各
組合員個人の事業所得と解すべきものである。
 この点に関して、旧所得税基本通達一六三が、「任意組合の組合員の所得に対す
る課税については、給料、賞与その他組合から受ける名義のいかんにかかわらず、
当該組合の事業の内容に応じ、事業所得又はその他の所得として課税するものと
し、各組合員の所得又は損失の金額は、その年中における組合の利益又は損失の金
額を、利益又は損失の分配の割合の定にしたがい、各人にあん分した金額とす
る。」と規定していたのも、同様の趣旨と理解すべきものである(なお、右旧通達
は昭和四五年の現行所得税基本通達に伴って廃止され、現行の所得税基本通達三
六・三七共-二〇では旧通達の前段部分が記載されていないが、この部分は法律上
当然のこととして記載されなかったものであり、通達の見解が変更されたものと解
することはできない)。
 以上を本件について検討してみると、本件組合の活動内容はりんご生産たる農業
であるから、本件組合の事業活動により得た収入は所得税法二七条一項の農業から
生ずる所得として事業所得になるものと解され、本件組合がりんご生産という事業
活動から収入を得た場合には、その時点で各組合員に事業所得が発生しているもの
というべきである。ところで、本件においては、被控訴人は、平成元年以降、組合
から専従者として選出され、リンゴ生産に関する組合の労務に従事し、その労務提
供に対する対価として日給六〇〇〇円の給与を支給されてきたものであるが、被控
訴人に支給された右給与は名目上は給与の形式をとっており、その労務内容も管理
者Aの指揮命令に服するものであり、格別高度の技術的労務であるとは認められな
いが、被控訴人が組合員である以上は、その労務の提供も組合の事業活動と無関係
なものではありえず、組合の事業活動に参画するという面を捨象することはできな
いものというべきであり、被控訴人が労務提供の対価として受け取った給与なるも
のも、その実質は本件組合に発生した事業所得を、組合員である被控訴人に分配す
るものであると解するのが相当である。そして、被控訴人が具体的に受け取った本
件収入(被控訴人の申告に係る本件組合からの平成三年ないし同五年の給与支給
額)は、組合総会の決議に基づき承認された日給六〇〇〇円の給与算定基準に基づ
き算出されたものである
から、組合員の総意に基づき定められた組合所得に関する損益分配の合意に従った
組合の事業所得の分配と解すべきものである。そうすると、被控訴人の本件収入は
所得税法二七条一項の「事業所得」にあたるものというべきである。
2 これに対して、被控訴人は、組合において労務出資を認めるためには、当該労
務出資又はその評価の標準を合意しなければならないところ、本件組合においては
そのような合意が存在しないから、被控訴人の労務提供を労務の出資とみることは
できない旨主張する。しかしながら、前判示のとおり、本件組合では、平成元年二
月二一日の組合総会の決議に基づき、被控訴人の労務提供に対する対価について日
給を六〇〇〇円とすることが承認されているのであり、右承認をもって被控訴人の
労務出資に対する損益分配の割合についての合意と評価できるから、被控訴人のこ
の点に関する主張は採用できない。
 次に、被控訴人は、被控訴人が専従者として組合に労務を提供して給与を得てい
る事実を捉え、これが雇用契約に基づくものであるから被控訴人の取得している給
与は給与所得であると主張するが、本件組合は民法上の組合であり法人格を有しな
いのであるから、組合員たる被控訴人が組合との間に雇用契約を締結しようとすれ
ば、被控訴人は、一方で雇用契約の被用者としての立場で、他方では総組合員の一
人として雇用者の立場で雇用契約を締結するということになり、このような矛盾し
た法律関係の成立を認めることには疑問があるから、雇用契約が成立しているとす
る被控訴人の右主張はにわかには採用することができない。また、実質的にみて
も、被控訴人の労務提供は、前記認定のとおり、労務の出資をして組合の事業活動
に参画するものと評価するのが相当というべきである。
 さらに、被控訴人の本件収入を給与所得であると解すると、仮に組合員全員が労
務を提供しているような場合には、組合に発生した事業所得を給与として各組合員
に支払うことになるから、これにより組合の事業所得が極端に圧縮されてしまうと
いう結果を生ずる反面、組合員の給与所得については給与所得控除を通じて給与所
得の金額が圧縮される結果となるばかりでなく、給与の支給により組合に対する出
資に係る事業所得がマイナスになれば、事業所得と給与所得との損益通算によりさ
らに給与所得の金額が圧縮されることとなり、組合員の労務提供に対する対価を給
与所得と
認めることにより、著しい課税の不公平を招来し、所得税法が事業所得と給与所得
を分けて課税の公平を期した趣旨を没却することになりかねず、被控訴人の右主張
はこの観点からも採用することができない。
3 ところで、この点に関して、最高裁判所昭和五三年(行ツ)第九〇号、同五六
年四月二四日第二小法廷判決・判例時報一〇〇一号三四頁は、弁護士の顧問料が事
業所得か給与所得かが争われた事案において、所得税法上の事業所得(同法二七条
一項)と給与所得(同法二八条一項)の区分に関して、「およそ業務の遂行ないし
労務の提供から生ずる所得が所得税法上の事業所得と給与所得のいずれに該当する
かを判断するにあたっては、租税負担の公平を図るため、所得を事業所得、給与所
得に分類し、その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、
当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならない。」としたうえ、
「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有
し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務か
ら生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に
基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付
をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何ら
かの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があ
り、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならな
い。」と判示しており、給与所得に関するこの基準に従えば、被控訴人の本件組合
に対する労務の提供は、「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命
令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」として給与所得であ
ると解する余地がないわけではなく、被控訴人もその旨主張する。
 しかしながら、右判決は弁護士が顧問会社との顧問契約に基づいて受領した、弁
護士の労務提供の対価としての顧問料そのものの所得区分について判断したもので
あるところ、本件においては、顧問会社と弁護士という二者の関係ではなく、組合
の事業活動として組合員の労務提供により得られた成果が、組合は納税義務者とな
らないために、課税上組合を通り抜けて直接に組合を構成する各組合員に所得とし
て帰属するという関係に立っている場合であるから、これを
組合員の労務に対する対価としての観点からのみ捉えて、前記給与所得の概念に従
って被控訴人の収入を給与所得と評価することは相当ではないというべきである。
むしろ、本件においては、組合員の労務提供により獲得された所得は組合事業と有
機的に結合している点に着目すべきであり、右所得は組合の事業所得と捉えるのが
相当であるというべきであるから、右最高裁判所の判例に従って被控訴人の本件収
入を給与所得と解すべきであるという被控訴人の主張は採用できない。
四 そうすると、本件収入が給与所得であるのに、これを事業所得であるとしてな
した控訴人の本件各処分は違法であり、取り消されるべきものであるとする被控訴
人の主張は失当であるから、その余の点につき争いのない本件においては被控訴人
の請求は理由がないものというべきである。
五 結論
 以上によれば、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は理由がなく、右と異なる原
判決は相当でないから、これを取り消したうえ、被控訴人の請求を棄却することと
する。
 よって、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主
文のとおり判決する。
仙台高等裁判所第三民事部
裁判長裁判官 喜多村治雄
裁判官 小林崇
裁判官 大沼洋一

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