弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人椎木緑司の上告理由第一点および第二点について。
 論旨は、被上告人らはそれぞれ原判決(引用の一審判決)判示の従前の土地の一
部を上告人から賃借していたが、本件土地区画整理事業の施行者たる広島市長から
右従前の土地に対する仮換地につき賃借権と同一内容の使用収益をなしうる部分の
指定を受けていないから、右仮換地についてなんらの使用収益権を有しない筈であ
るのに、原審が、被上告人らは右仮換地につき潜在的に使用収益権を有するもので
あつて無権原の占有の場合と同視し得ないと判断して上告人の本訴請求を棄却した
のは、土地区画整理法九八条、八五条の解釈を誤り、ひいては立証責任分配の原則
に違反したものであるという。
 よつて案ずるに、原判決によれば、上告人がその所有する本件従前の土地につい
て本件土地区画整理事業の施行者たる広島市長から仮換地(換地予定地)の指定を
受けたことおよび被上告人らが上告人から右従前の土地の一部をそれぞれ賃借して
いたことは当事者間に争がないというのである。被上告人らとしては、従前の土地
の所有者たる上告人の連署を得るか、もしその連署が得られなければ、みずから施
行者に対し当該賃借権を証する書面を添えて権利申告の手続をなし、施行者から右
仮換地につき使用収益部分の指定を受けることによつて仮換地を使用収益すること
ができるのである(本件土地区画整理事業は、当初特別都市計画法に基づくもので
あつたため、被上告人らの施行者に対する賃借権届出の期間は同法施行令四五条の
規定により土地区画整理施行地区の告示のあつた日から一箇月以内と定められてい
たが、その後、本件土地区画整理事業は原判決(引用の一審判決)判示のように土
地区画整理法施行法五条の規定により昭和三〇年四月一日以降は土地区画整理法に
基づく土地区画整理事業となり、従つて、被上告人らとしては、特段の事情のない
かぎり、換地処分の終了するまでいつでも施行者に対し権利申告をなしうることと
なつたのである。)。そして、このように従前の土地につき賃借権を有するにすぎ
ない者は、施行者から使用収益部分の指定を受けることによつてはじめて当該部分
について現実に使用収益をなしうるにいたるのであつて、いまだ指定を受けない段
階においては仮換地につき現実に使用収益をなし得ないものというべきである。従
つて、仮換地の指定により従前の土地上の賃借人所有の建物がそのまま仮換地上に
存することとなつた場合であつても、右賃借人としては、特段の事情もないのに、
施行者に対して権利申告の手続をなさず、従つて施行者による使用収益部分の指定
もないまま右建物を所有してその敷地たる仮換地の使用収益を継続することは許さ
れないところといわなければならない。
 しかるに、原審が、被上告人らにおいて施行者に対し権利申告の手続をせず、施
行者から仮換地上の使用収益部分の指定を受けていないことを確定しながら、なお、
被上告人らが仮換地について有する潜在的使用収益権に基づいて本件建物の敷地部
分の使用収益を継続しうるものの如く判断して上告人の本訴請求を棄却したのは、
土地区画整理法九八条、八五条の解釈適用を誤つたものというべく、右違法は判決
に影響を及ぼすことが明らかであるから、爾余の点に対する判断を俟つまでもなく、
原判決は破棄を免れない。
 しかして、本件は、事実上の主張につき原審においてなお審理の必要があるもの
と認められるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官奥野健一の補足意見があるほか、裁
判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一の補足意見は次のとおりである。
 土地区画整理法による仮換地の指定があつた場合、従前の土地に未登記の借地権
その他の用益権を有する者は、同法八五条により土地所有者と連署し又は当該権利
を証する書類を添えて単独で、その権利の種類及び内容を施行者に申告しなければ
ならない。施行者はその申告がない限り、これが権利は存しないものとみなして、
所定の整理施行に必要な処分又は決定をすることができるのである。これは未登記
の借地権その他の用益権の保護を目的とする反面、土地区画整理の迅速かつ画一的
遂行を確保しようとする趣旨である。従つて、未登記の用益権者は、その権利の届
出をしない限り、整理施行者に対しては自己の権利を対抗することができないと言
わなくてはならない。しかし、土地所有者に対しても、右権利の申告をなし、用益
権の目的となるべき部分の指定を受けない限り、その用益権を主張することができ
ないものと解すべきかは問題である。
 思うに、仮換地の指定は、土地関係者に対し私法上の権利義務の関係をあらたに
創設する処分ではなく、仮換地の指定により、特別都市計画法一四条一項の規定の
場合と同様、従前の土地に存する私法上の使用収益関係が仮換地の上に移行するも
のと解するのが相当である。けだし、従前の土地の上に私法上の使用収益権を有し
ていた者は、仮換地の指定という行政処分により、従前の土地に対する使用収益権
を奪われ、更にこれに代わるべき仮換地について、その権利の申告をなし、その用
益権の目的となるべき部分の指定を受けないという一事により従前の土地に対して
有していた私法上の用益権が土地所有者に対しても認められないということは、用
益権者に酷であり不合理であるからである。従つて従前の土地の用益権者は仮換地
について、少くとも従前の土地所有者に対する関係においては、その用益権を以つ
て対抗することができるものと解すべきである。しかし、未登記の用益権者は右の
如く権利の申告及び指定を受けなくとも従前の土地の所有者に対する関係において
は用益権の対抗を主張し得るけれども、仮換地は従前の土地と範囲、位置を異にす
るものであるから、仮換地のうちの如何なる位置の如何なる範囲の部分が用益権の
目的となるべきかは、施行者の指定によつて初めて特定されるものと解すべきであ
る。そしてこの推定は施行者の権限に属し、裁判所は濫りにこれに介入し、その指
定をすることは許されないものと解する。殊に本件では、土地区画整理法に基づく
土地区画整理事業であるから、換地処分の終了まで、用益権者は土地所有者の連署
を要せず、単独に権利の申告をなし、その権利の目的となるべき部分の指定を受け
ることができるのであり、指定があれば遡及してその部分の占有が適法と解せられ
るのであるに拘らず、自ら用益権の目的となるべき部分の指定を受けずして擅に仮
換地を占有使用するものであつて、かかることは土地所有者に対する関係において
も許されざるところである。けだし、土地の占有者がその占有の正当なる権原に基
づくものであること及びその正当に占有し得べき部分の範囲については、占有者に
おいて前記指定を受けたことについて主張立証すべき責任があり、これを尽さざる
以上その占有は違法といわざるを得ないからである。
 本件において被上告人らは施行者に対して権利申告の手続をなさず、その占有使
用し得る部分の指定を受けないで、仮換地の上に建物を所有しその敷地部分の仮換
地を占有使用するものであつて、その占有部分の占有の正当な権原に基づくことの
立証を尽さざるものであるに拘らず、上告人の請求を棄却したのは、立証責任の分
配の原則に違反したか、審理不尽の廉あるものというの外はない。よつて、原判決
は破棄を免れない。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    草   鹿   浅 之 助
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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