弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人柴田勇助の上告趣意第一点について。
 記録によると、被告人は強盗の容疑により昭和二二年一〇月一四日逮捕せられ、
翌一五日検察事務官に対し容疑事実を自白し、同日勾留後同月二一日には、司法警
察官に対し本件犯行の一切を自白して居り、同月二三日の公訴提起後も同月二九日
の第一審第一回公判期日において、公訴事実は全部相違ない旨自供し、爾来その供
述をひるがえすこともなく、同年一一月一四日言渡された第一審の有罪判決に対し
控訴申立てた原審においては、被告人及び弁護人から病気を理由に保釈の請求があ
つたが、大阪拘置所係医師の、拘禁にたえ得ない程の病状ではない旨の再三の病状
報告を得て勾留を継続し、昭和二三年三月一七日、五月七日、六月二八日の各公判
期日は、被告人不出頭のため延期せられ、九月六日の公判期日は、弁護人の差支え
により延期し、同月一五日の公判期日に至つてはじめて被告人の出頭を得て審理し
た経過を知ることができる。そして同期日の公判調書によると、被告人は本件公訴
事実全部を認め、唯身体が悪いので寛大な処分を受けたいため控訴に及んだ旨陳述
しているのである。
 以上の経緯に徴し、前記昭和二二年一〇月一四日以来の約一一箇月に亘る本件勾
留は必ずしも不当に長いものとはいえないばかりでなく、被告人の右の如き原審公
判廷における自白が、右の長期拘禁に起因するものであるとは到底認めることはで
きない。憲法三八条二項にいわゆる「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」
という中には、抑留若しくは拘禁と自白との間に因果関係のないことが明かな自白
を含まないことは当裁判所の判例とするところである(判例集第二巻一二号一五五
八頁大法廷判決参照)。してみれば、原審が右被告人の公判廷における自白を証拠
として採用したからといつて、原判決に所論の如く憲法三八条二項の違反があると
いうことはできない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 所論並びに記録添附の大阪拘置所係医師の病状報告等に徴し、被告人が原審にお
ける昭和二三年九月一五日の公判審理の前後を通じ肺浸潤と診断され、脚気を併発
して相当の病状にあつたことは看取できるのであるが、右九月一五日の公判調書に
よると、被告人は裁判長の尋問に対し詳細に答えて居り、裁判長から現在の健康状
態について尋ねられ、「二年程前から脚気と心臓が悪く、それが未決監に入つてか
ら昂じて来ました」と述べてはいるが、別段審理にたえられないため審理の停止を
求める趣旨の発言があつた模様もなく、弁護人も何等異議なく審理を受け、最終弁
論をなして終結しているのであるから、所論の如く、被告人の当時の病状が右の公
判期日に出頭することのできない程の重症で、到底審理にたえ得られず、遂に審理
中病状が悪化して心神喪失の状態に陥つたものと認めることはできない。従つて原
審が公判手続を停止することなく審理をしたからといつて所論の如く旧刑訴三五二
条に違反したものということはできない。論旨は理由がない。
 同第三点について。
 論旨第二点に対し説示した如く、原審における前記公判審理中被告人がその審理
にたえ得られない程の病状にあつたとは認めることができないのみならず、その公
判調書によれば、裁判長は明かに被告人に対し最終陳述の機会を与え、被告人は何
もないと述べた旨の記載があり、しかも旧刑訴六四条によれば、公判期日における
訴訟手続は公判調書のみによりこれを証明することがきるのであつて反証を許さな
いのであるから、論旨はこれを採用するを得ない。
 よつて旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 裁判官塚崎直義、長谷川太一郎、同沢田竹治郎、同穂積重遠は合議に干与しない。
 検察官 十蔵寺宗雄関与
  昭和二八年六月一七日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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