弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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           主       文
    被告人を懲役4年6月に処する。
    未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
    押収してある果物ナイフ3本(平成15年押第12号の1,2,4),二
徳ナイフ1本(同押号の3)及び金槌1本(同押号の5)をいずれも没収する。
           理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 平成14年11月3日午後2時30分ころ,神戸市a区bc丁目d番地のe所在の
ジェイエイA支店B店キャッシュコーナーにおいて,現金自動預払機を操作していた
C(当時25歳)から睨まれたと邪推し,かつて女性から気持ち悪い等と言われたこ
となどを思い出して,同女も被告人を気持ち悪いものを見るように見ていると思っ
て激高し,同女に対し,同女が死亡するに至るかもしれないことを認識しながら,
あえて,所携の果物ナイフ(刃体の長さ約10.0センチメートル,平成15年押
第12号の4)で,同女の後方から,同女の頚部を1回突き刺したが,同女に加療
約10日間を要する左頚部刺創の傷害を負わせたに止まり,同女を殺害するに至ら
なかった
第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時場所において,刃体
の長さ約10.0センチメートルの前記果物ナイフ1本を携帯した
第3 同月28日午後4時15分ころから同時20分ころまでの間,同市f区g町h丁
目i番j号所在D鉄道株式会社E駅東方約200メートルの国道2号線44.2キロポ
ストから43.8キロポストまでの間の同国道北側歩道上において,同所に設置さ
れた国土交通省近畿地方整備局F国道工事事務所G出張所長Hが管理する線形誘導標2
枚など合計64点(損害額合計18万6300円相当)を所携の金槌(同押号の
5)で叩き壊し,もって他人の物を損壊した
第4 業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午後4時24分ころ,前
記D鉄道株式会社E駅東方約750メートルの国道2号線北側歩道上において,刃体
の長さ約10.2センチメートルの果物ナイフ1本(同押号の1),刃体の長さ約
7.9センチメートル,刃体の幅約2.3センチメートルの果物ナイフ1本(折り
たたみ式,同押号の2)及び刃体の長さ約7.4センチメートル,刃体の幅約1.
8センチメートルの二徳ナイフ1本(折りたたみ式,同押号の3)を携帯した
ものである。
(証拠の標目)-かっこ内は検察官請求証拠甲乙の番号
省略
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,判示第1の事実について,被告人は,被害者に対する殺意を有して
おらず,傷害罪が成立するに止まる旨主張し,被告人も,当公判廷ではそれに沿う
供述もしているが,当裁判所は,前示のように,被告人には被害者に対する未必的
な殺意があったと認定したので,以下その理由について補足して説明をする。
2 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被告人が犯行に用いた果物ナイフ(以下「本件果物ナイフ」という。)は,
刃体の長さ約10.0センチメートル,幅約2センチメートルの先端鋭利な刃物で
あり,人を殺傷する能力は高いとはいえないものの,これで身体の枢要部を力を込
めて刺突するなどすれば,人を殺害することが可能なものであって,被告人はこれ
を自宅から携帯してきており,その形状等をよく認識していた。
(2) 被害者の負った創傷は,頚部後方左寄り部分にある約2センチメートルの刺
創を刺入口とし,左側頚部にある約1センチメートルの刺創を刺出口とする,長さ
約5センチメートルの貫通刺創であり,頚動脈の外側にある皮下脂肪及び皮膚が損
傷されただけで,加療約10日間を要するものに止まっているが,刺創がもう少し
内側に生じていれば,頚動脈が損傷され,死亡の結果を招く可能性も十分あった。
(3) 被告人は,被害者の右後方に立って,本件果物ナイフを利き手である左手で
逆手に持ち,自己の左肩上方に振り上げた上,現金自動預払機を操作していて動か
ずに立っている被害者の後頚部を狙い,本件果物ナイフを振り下ろして突き刺して
おり,その結果,本件当時被害者が着用していたマフラー及びセーターを突き抜
け,前記のとおり被害者の頚部に約5センチメートルの貫通刺創を負わせた。
   なお,被告人は,捜査段階から,刺すときに手かげんをした旨供述していた
のに加え,当公判廷においては,更に被害者の首ではなく肩を狙って刺した旨供述
するが,いくらか手かげんをしたにせよ,なお相当の力をもって刺突したことは,
上記の刺創の状況等から明らかであるし,また,被告人は,捜査段階ではほぼ一貫
して被害者の後頚部を狙ったと供述していたものである上,犯行態様は無防備な被
害者の背後からいきなり突き刺すというものであるところ,肩を狙ったのが頚部に
突き刺さってしまうような事情は窺えないのであるから,上記の被告人の当公判廷
における供述はそのままには信用できない。
   被告人は,被害者の身体の枢要部である後頚部を狙い,本件果物ナイフで相
当の力をもって突き刺したものと認めるのが相当である。
 (4) 被告人は,本件当日朝から酒を飲み,酒に酔った状態で外出し,残高照会を
するためにジェイエイA支店B店キャッシュコーナーに入った際,以前数回見かけた
ことがあり,小・中学校時代に好意を寄せていた女性に似ていることから覚えてい
た被害者が現金自動預払機を操作していたので,その右隣りの現金自動預払機の前
に立ち,同女の方をちらちらと見ていたところ,被害者から睨まれたものと思い,
かつて女性から気持ち悪い等と言われたことなどを思い出し,被害者も同様に自分
のことを気持ち悪いものを見るように見ていると思って激高し,本件犯行に及ん
だ。
 (5) 被告人は,上記のとおり,被害者の態度に激高して咄嗟に犯行に及んだもの
であり,被害者を一回突き刺したものの,それ以上の攻撃を加えていない。
3 上記認定した凶器の性状,創傷の部位,程度,被告人の刺突部位についての認
識,凶器の用法,犯行態様,本件犯行に至る経緯,動機等を考え併せれば,被告人
に確定的殺意があったとまで認めるのは困難であるが,少なくとも未必的な殺意が
あったことは間違いがないと認めることができる。
よって,弁護人の主張は理由がない。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は刑法203条,199条に,判示第2の所為は銃砲刀
剣類所持等取締法32条4号,22条に,判示第3の所為は包括して刑法261条
に,判示第4の所為は包括して銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条,同法
施行令9条2号にそれぞれ該当するところ,各所定刑中,判示第1の罪については
有期懲役刑を,判示第2ないし第4の各罪についてはいずれも懲役刑をそれぞれ選
択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により
最も重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期
の範囲内で,被告人を懲役4年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中
100日をその刑に算入し,押収してある果物ナイフ1本(平成15年押第12号
の4)は判示第1の
,押収してある金槌1本(同押号の5)は判示第3の各犯罪行為の用に供した物で
被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用して,ま
た,押収してある果物ナイフ2本(同押号の1,2)及び二徳ナイフ1本(同押号
の3)は判示第4の犯罪行為を組成した物で被告人以外の者に属しないから,同法
19条1項1号,2項本文を適用して,いずれもこれを没収し,訴訟費用について
は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用してこれを被告人に負担させないこと
とする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,金融機関のキャッシュコーナーで現金自動預払機を操作して
いた被害者に対し,未必の殺意をもってその頚部を所携の果物ナイフで突き刺した
が,殺害するに至らなかったという殺人未遂(判示第1),その際前記果物ナイフ
を不法に携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反(判示第2),国道上の線形
誘導標などを所携の金槌で次々と叩き壊したという器物損壊(判示第3)及びナイ
フ3本を不法に携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反(判示第4)の事案で
ある。
 判示第1の犯行は,被告人が,前記の経緯で未必の殺意を抱いて犯行に及んだも
のであって,その動機は短絡的かつ身勝手で酌量の余地はない。被告人は,無防備
な状態の被害者に対し,いきなり所携の果物ナイフで身体の枢要部である頚部を突
き刺すという行為に及んだものであって,1歩間違えれば,より重大な結果が生じ
た可能性もあったのであり,その犯行態様は悪質で危険性が高い。被害者は何ら落
ち度がないのに突然本件被害に遭い,判示のとおりの傷害を負わされたものであっ
て,その肉体的精神的苦痛は小さくなく,被告人に対する処罰感情が厳しいのも頷
けるところ,被告人は被害者に対して何ら慰謝の措置を講じておらず,今後示談等
が成立する見込みも存しない。
 判示第2の犯行は,被告人が人を脅して金を奪い取る目的でナイフを自宅から持
ち出して携帯し,判示第4の犯行は,被告人が喧嘩になった際相手を脅す目的でナ
イフを自宅から持ち出して携帯したものであって,その各携帯の動機に酌むべき点
はないし,また,判示第2の犯行のナイフは判示第1の犯行に実際に使用している
ことや,判示第4の犯行では3本ものナイフを携帯していることを考えると,その
各態様も悪質かつ危険である。
 また,判示第3の犯行は,被告人が,飲酒中過去の揉め事などを思い出して立腹
し,自宅から金槌を持ち出して犯行に及んだものであって,その動機は身勝手かつ
自己中心的で酌むべき余地がない。本件犯行により国道上の線形誘導標などが合計
64点も損壊され,生じた損害額は18万6300円相当と高額であるところ,い
まだ被害弁償はされておらず,今後も被害弁償がされる見込みがない。
 そして,判示の各犯行や日頃の生活状況等からは,被告人の粗暴で危険な性格傾
向が窺われることも,量刑上看過することはできない。
 以上からすれば,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
 してみると,判示第1の犯行については,一時の激情による偶発的な犯行である
上,殺意は未必的なものであり,また,幸いにも未遂に止まっていて,被害者が受
けた傷害の程度も比較的軽いこと,被告人は捜査段階から概ね事実を認め,現在で
はそれなりに反省をしていること,被告人には器物損壊の前歴1犯以外に前科前歴
がないこと,被告人は本件により約6か月間身柄拘束を受けていること,被告人は
26歳とまだ若年であることなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,
主文の刑は免れないところである。
(検察官の科刑意見 懲役8年)
 よって,主文のとおり判決する。
  平成15年5月27日
     神戸地方裁判所第2刑事部
         裁判長裁判官 森  岡  安  廣
            裁判官 川  上     宏
 裁判官  伏  見  尚  子 

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