弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 申立
一、原告
1 被告は、その従業員である訴外A、同B、同C、同D、同E、同F、同G、同
H、同I、同J、同K、同Lに対して、それぞれ雇傭契約解除の意思表示をせよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
主文同旨。
第二 主張
一、原告
(一) 請求の原因
1 昭和三七年一〇月三一日、原告組合と被告会社との間に「非組合員の範囲に関
する協定」(以下本件協定という)なる労働協約が締結されたが、その第二項には
「組合を除名された者、又は組合を脱退した者については、会社は、これを解雇し
なければならない。但し、会社が解雇を不適当と認めた場合は三〇日以内に組合と
協議の上決定する。」、第三項には「この協定書の有効期間は昭和三七年一一月一
日より昭和四〇年一〇月三一日までの三年間とする。但し、有効期間満了前に新に
労働協約を締結し、この協定事項が労働協約に移された場合はその労働協約に定め
る有効期間を適用する。」、第四項には「この協定書の有効期間満了の日までに労
働協約が締結されない場合で会社組合の双方がこの協定事項に異議のないときは有
効期間満了前にこの協定書を更新するものとする。」と、それぞれ定められてい
る。
2 しかして、本件協定第四項は自動更新の定めというべきところ、第三項本文所
定の有効期間満了日である昭和四〇年一〇月三一日までに同項但書にいう労働協約
が締結されず、かつ、その日までに原告組合、被告会社のいずれからも本件協定の
自動更新について異議が述べられることがなかつたから、本件協定は第四項により
同年一一月一日自動的に更新されたものである。
3 さらに、本件協定は、右更新による有効期間の満了日である昭和四三年一〇月
三一日以前に、前同様労働協約が締結されず、しかも原告組合、被告会社のいずれ
からも本件協定の自動更新について異議が述べられていないから、同年一一月一日
再度更新されたものである。
4 被告会社の従業員である訴外A、同B、同C、同D、同E、同F、同G、同
H、同I、同J、同K、同Lの一二名は、いずれももと原告組合の組合員であつた
が、原告組合は昭和四一年五月一一日Eを、同年六月二二日その余の者を除名処分
に付した。
 右Eら(以下被除名者という)は、原告組合が同年三月二八日闘争宣言を発して
開始した春闘の最中である同年四月二八日、Bを除くその余の者が、次いで同月三
〇日右Bがそれぞれ原告組合に対し脱退届を提出するとともに、他の原告組合員に
対し、脱退工作を行なつたため、統制違反として右除名処分に付されたものであ
る。
5 そこで、被告会社は、本件協定第二項本文に基づき、被除名者らとの雇傭契約
を解除すべき義務がある。
6 よつて、原告は被告に対し、被除名者らに対する雇傭契約解除の意思表示をな
すことを求める。
(二) 反対主張に対する答弁
1 反対主張第1項は争う。(2)で、再度の更新につき異議が述べられていた旨
主張するが、本件訴訟において被告が昭和四三年一〇月三一日以前争つていたの
は、第一回目の更新の有無についてであり、それをもつて再度の更新について異議
を述べたものと目することはできない。
2 同第2項は争う。被告主張日時に原告組合と被告会社間に交渉はあつたが、そ
れは本件協定第二項但書に定める「協議」ではなかつた。
3 同第3項中、就業規則に限定的に列挙して定められている解雇基準に原告組合
除名の場合がないことは認める。しかし、本件協定のごときユニオン・ショップ協
定は労働協約のいわゆる債務的部分と規範的部分とを兼ね備えた複合的構造をもつ
ものというべきであり、その効力は、就業規則の解雇基準と関係なく、当然、組合
を除名された者に及ぶのである。
4 同第4第5項は争う。
(訴訟上の申立)
 被告の反対主張第1項(2)の期間満了による本件協定の失効の主張は、被告の
故意または重大な過失により時機におくれて提出されたものであつて、そのため訴
訟の完結を遅延せしめるものであるから、民事訴訟法第一三九条第一項により却下
を求める。
二、被告
(一) 請求の原因に対する認否
1 請求原因第1項は認める。
2 同第2項中、本件協定第四項が自動更新の定である点および本件協定が原告主
張の日に更新されたとの点は争う。
3 同第3項は争う。
4 同第4項中、被除名者らが他の原告組合員に対し、脱退工作を行なつたとの点
は不知、その余は認める。
5 同第5項は争う。
(二) 反対主張
1(1) 本件協定締結に至る原告組合と被告会社間の交渉において、更新につい
ては、改めてその旨会社組合間において、確認の上書面による更新手続をとること
が約されたものであり、それを表わすため、本件協定第四項には「更新するものと
する」という文言が使われているのであつて、同項は自動更新の定めではない。そ
して、右書面による確認の手続がなされたことはないから、本件協定は第三項本文
所定の期間の満了により失効している。
(2) 仮に本件協定第四項が自動更新の約定であり、原告主張の第一回目の更新
がなされたとしても、更新後の有効期間も三年であり、昭和四三年一〇月三一日を
もつて満了となるところ、後記昭和四一年五月一六日から四回にわたり被告会社、
原告組合間になされた協議の過程において、被告会社は本件協定は昭和四〇年一〇
月三一日限りで失効している旨表明し、それ以来本件訴訟においても終始本件協定
の更新を争い、更新の意思のないことを明らかにし、もつて本件協定の更新につい
て異議を述べているから、本件協定は右更新後の期間満了日の経過により失効した
といわなければならない。
(3) いずれにしても、被告会社が、就業規則上の解雇基準に反して、これに該
当しない従業員をすでに失効した本件協定に基づいて解雇する義務を負ういわれは
ない。
2 仮に右主張が容れられないとするも、被告会社は被除名者の解雇を不適当とし
たので、本件協定第二項但書に基づき、昭和四一年五月一六日、同月一九日、同月
二八日および同年六月一四日の四回にわたり、原告組合との間に協議を行なつた
上、これらの者を解雇しないことに決定している。
3(1) さらに、仮に右被告会社の措置が効力を生じないものであるとしても、
本件決定のようなユニオン・シヨツプ協定は、集団的な労働関係の場における労使
相互間の債権債務の関係を協定したものであつて、いわゆる規範的部分に属するも
のではなく、また、それは集団的労働関係が個別的労働関係と関連し、あるいはこ
れに適用される場合であるとしても、その関連適用が個々の労働者の不利益に作用
するときは、使用者と個々の労働者との間の個別的な労働契約上の制限の範囲内に
おいてのみ認められるものであつて、使用者は労働協約によりユニオン・シヨツプ
制が設定されていても、個々の労働契約、就業規則等の解雇基準によつて、使用者
が解雇権を有する範囲内においてのみ、労働組合から除名された者または脱退者を
解雇できるにすぎない。
(2) 被告会社は、就業規則において従業員の解雇基準を限定的に列挙して設定
しているが、従業員が原告組合を除名され、あるいは脱退した場合に、これらの者
を解雇できるとする基準の定めはなく、かつ、被除名者らもしくは脱退者らとの労
働契約においても、そのような場合に解雇できるとする特約もないから、被告会社
が被除名者らを解雇することはできないものである。
4 右主張もまた容れられないとしても、被除名者らは、昭和四一年三月一八日以
降の原告組合と被告会社との争議の過程において、原告組合の統制から集団的に離
脱し、新たな団結を企図して、原告組合を脱退したものであつて、同年五月一〇日
労働組合の結成を目的として同友会なる団体を結成し、次いで同年六月二日「森尾
電機株式会社従業員組合」なる労働組合を結成した。
 右集団的な脱退は、同一組合内の異質な集団の発生を原因とするものであつて、
すでにBを除くその余の被除名者らが脱退した同年四月二八日の時点において、原
告組合は労働組合の統一体としての基盤を失い、本件協定はその効力を失うに至つ
たものである。
5 更に、右主張も容れられないとするも、被除名者らの前記脱退は団結権選択の
自由に基づいて原告組合とは別個の労働組合を結成することを目的として行われた
ものであるから、このような場合、被除名者らに対しては本件協定の効力は及ばな
いものというべきである。
第四 証拠(省略)
       理   由
一、原告主張の請求原因第1項の事実および第4項の事実中、被除名者らが他の原
告組合員に対し脱退工作を行なつたとの点を除くその余の事実は当事者間に争いが
なく、右事実によれば被除名者らはいずれも昭和四一年六月二二日までに、本件協
定第二項本文に定める「組合を除名された者又は組合を脱退した者」に該当するに
至つたものといわなければならない。
二、そこで、本件協定が現に効力を有しているかどうかについて検討する。本件協
定の更新を規定する第四項の趣旨につき、原告は自動更新を定めたものである旨主
張するのに対し、被告は、原告組合と被告会社間において更新を確認する旨の書面
による合意を要するとの約定が付されていた旨主張するので、この点につき按ずる
に、本件協定第三項の趣旨と証人M、N、O(一部)の各証言とを併せ考えると、
本件協定の有効期間である昭和四〇年一〇月三一日までに原被告間にユニオン・シ
ヨツプ条項を含めた新たな労働協約の締結がなされない場合の措置として、かかる
場合には、原告組合、被告会社の双方から本件協定の更新について異議が述べられ
ない限り、本件協定は自動的に更新されるという趣旨の下に約定されたものと認め
るに足り、証人O、Pの各証言中、右認定の趣旨に反する部分は、前記採用の証拠
に照して措信しがたく、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
 そして、昭和四〇年一〇月三一日までに本件協定第三項但書に基づく労働協約の
締結がなされなかつたこと、および原告組合、被告会社双方から本件協定の更新に
ついて異議が述べられなかつたことはいずれも被告において明らかに争わないとこ
ろであるから、本件協定は昭和四〇年一〇月三一日の経過とともに自動的に更新さ
れたといわなければならない。
三、ところで、別段の定めのない限り、右更新された本件協定の有効期間は更新前
と同一の三年と解すべきであり、別段の定めのあることの主張立証はないから、そ
の有効期間は昭和四三年一〇月三一日をもつて満了するといわなければならない。
 ところで、証人O、P、Nの各証言を併せ考えれば、被除名者Eの解雇をめぐ
り、昭和四一年五月一六日から四回にわたり、原告組合と被告会社との間で話合い
が行なわれたが、その席上、被告会社は、本件協定は昭和四〇年一〇月三一日限り
で失効したとの見解を表明し、それを固執して譲らなかつたため、原告組合は本件
訴訟提起に及んだものであることが認められ、さらに被告が本件訴訟において終始
右見解と同一の主張をなしてきたことは本件訴訟の経過に照して明らかである。右
被告のとつた態度は、本件協定の更新について本件協定第四項にいう「異議」を述
べたことに当ると解するを相当とする。したがつて、本件協定は再度更新されるこ
となく、前示第一回目の更新による有効期間満了により失効したといわざるをえな
い(本件協定が昭和四三年一〇月三一日の経過に併い、期間満了により失効した旨
の被告の主張は、本件訴訟の経過に鑑み訴訟の完結を遅延せしめるものとは認めら
れないから、これを時機におくれたものとして却下することを求める原告の申立は
却下することとする)。
四、しかして、本件協定のようなユニオン・シヨツプ協定は、労働組合の組織の維
持拡大および統制力の強化を目的として、被除名者もしくは脱退者の解雇を使用者
に義務づけることを内容とするものであるから、使用者のユニオン・シヨツプ協定
に基づく被除名者もしくは脱退者の解雇義務は、同協定の失効と共に消滅し、たと
えユニオン・シヨツプ協定の有効期間内に除名または脱退により組合員たる身分を
失つた労働者についても、同協定が失効した後は、労働組合はもはや使用者に対
し、当該労働者の解雇を請求することはできないものと解するを相当とする。けだ
し、ユニオン・シヨツプ協定が失効するときは、組合の組織と統制の維持は、もつ
ぱら組合自身の力によつてするほかはなく、その後の被除名者または脱退者は除名
または脱退を理由として使用者から解雇される危険はない事態に立ち至るのである
が、かかる事態に立ち至つた時点において、かつて同協定の有効期間内に除名また
は脱退により組合員たる身分を失つた労働者の解雇を使用者に義務づけても、組合
の組織と統制の維持には役立たないことであるし、そのような効果のない解雇を使
用者に強制し得るとなすことは、当該労働者を失業させることにより組合の報復的
感情を満足させるにすぎず、ユニオン・シヨツプ協定の目的を逸脱するものである
からである。
五、叙上よりして、本件協定の失効により被除名者を解雇する義務は存在していな
い旨の被告の主張は理由があるといわなければならないから、原告の本訴請求はそ
の余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免がれない。
 よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決
する。
(裁判官 兼築義春 豊島利夫 菅原晴郎)

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