弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人富田順一、同青木彦次郎の上告趣意は、末尾に添附した別紙書面記載の通
りである。
 弁護人富田順一の上告趣意について。
 記録を調べて見るに、原審公判調書中所論文字訂正の個所があり且つ其訂正の個
所に対して認印を施した形跡がないことは所論の通りである。しかし其筆蹟墨質等
に徴すれば、後日同公判調書作成者以外の者によつて訂正されたものではなく、同
調書作成者たる書記が訂正したものと推認し得るから、旧刑訴法第七二条の要件を
みたさない瑕疵はあるがその為めに同調書全部を無効であるとはいえない。なお第
四回公判期日において、仮に所論の如く第三回公判調書に記載されている各書類に
ついてのみ証拠調をしたとしても第三回公判調書には証拠調をした書類として第一
回公判調書に記載されている各書類及び第一回公判調書等が記載されているから、
第四回公判期日には第一回公判調書に記載されている各書類についても適法な証拠
調がなされたことを認め得る、従つて所論の如き違法はない。
 弁護人青木彦次郎の上告趣意第一点について。
 原判決の認定した事実によれば、被告人はB及びCと共謀の上、三名何れもA方
に侵入し、強盗行為を実行したものであり、其強盗行為遂行に際しBは所持の骨透
刀を以てAの妻の胸部を突き刺し其上同兇器を以てAを突き刺し同人を殺害し、其
際被告人はAの身辺にあつた判示金品を強取したのである従つて共同正犯者BがA
を殺害したことについては共同正犯たる関係上被告人もまた其責をまぬがれるもの
ではない。論旨は、A殺害について被告人は犯意がないから其責を負うべき理由が
ないと主張する。しかし旧刑法第二四〇条後段の罪は、強盗犯人が強盗行為を為す
に際し人を殺害した場合に成立する結果犯であつて、殺害についての犯意のあるこ
とを要件としないものであから、被告人はA殺害の犯意を有しなかつたものとして
も共同正犯たる関係上Bの行為により発生したA殺害の点について、其責を負わな
ければならない。論旨前段は理由がない。なお論旨は末尾において、原判決は証拠
の趣旨に添わない事実認定をしたと非難するのであるが、原判決挙示の証拠により
判示事実は十分認定し得るものであつて所論の如き違法はない。しかのみならず右
の主張は原審の事実誤認を非難することに帰するから、上告適法の理由とならない。
 同第二点について。
 旧刑法第二四〇条後段の罪は強盗犯人が強盗行為遂行に際し人を殺害すれば成立
するもので殺害の点に対する犯意の存在を要件としないこと並に同罪は結果犯であ
るから共同正犯者Bの行為によつて発生したA死亡と言う結果について共同正犯者
たる関係上被告人も其結果に対する責を負わなければならないことは前点において
説明した通りである。論旨はさらに被告人はA殺害行為には直接手を下していない
から殺害の点に対する責を負わなければならない理由がないと主張する。しかし二
人以上共謀して犯罪の実行行為をなした場合は、他の共同正犯者のなした行為に対
しても、其責をまぬがれるものでないことは当裁判所のしばしば判例とするところ
であつて今これを改める必要を認めない。論旨は独自の見解に基いて当裁判所の判
例を非難するものであるが採用できない。論旨は理由がない。
 よつて旧刑訴法第四四六条により主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 竹原精太郎関与
  昭和二四年七月二六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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