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平成29年7月26日判決言渡
平成28年(行ケ)第10038号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成29年5月17日
判決
原告DIC株式会社
訴訟代理人弁護士塚原朋一
訴訟代理人弁理士長谷川芳樹
同清水義憲
同吉住和之
同中塚岳
被告JNC株式会社
訴訟代理人弁理士石井良夫
同城所宏
主文
1特許庁が無効2014-800152号事件について平成27年1
2月28日にした審決のうち,「特許第5234227号の請求項1
ないし5,7ないし11に係る発明についての特許を無効とする。」
との部分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
⑴原告は,平成24年4月4日,発明の名称を「ネマチック液晶組成物及び
これを用いた液晶表示素子」とする国際特許出願をし(特願2012-52
5771号。優先日は平成23年4月6日,優先権主張国は日本国。),平
成25年4月5日,特許権の設定登録を受けた(特許第5234227号。
請求項の数は11。以下「本件特許」という。)。
⑵被告は,平成26年9月9日,特許庁に対し,本件特許について無効審判
請求をした。
原告は,平成27年9月28日,本件特許の特許請求の範囲について訂正
請求をした(以下,この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)。
特許庁は,上記無効審判請求につき,無効2014-800152号事件
として審理し,平成27年12月28日,本件訂正を認めた上で,「特許第
5234227号の請求項1ないし5,7ないし11に係る発明についての
特許を無効とする。特許第5234227号の請求項6に係る発明について
の無効審判請求を却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,
その謄本は,平成28年1月8日,原告に送達された。
⑶原告は,平成28年2月5日,本件訴訟を提起した。
2特許請求の範囲の記載
本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載(請求項6は,本件訂正によ
り削除された。)は,次のとおりである(下線は訂正部分を示す。以下,各請
求項に記載された発明を,請求項の番号に従って「本件発明1」などといい,
これらを総称して「本件発明」という。また,本件訂正後の明細書(甲21)
を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
第一成分として,式(I)
【化1】
で表される化合物を含有し,その含有量が5から25%であり,第二成分とし
て,誘電率異方性(Δε)が負でその絶対値が3よりも大きい,一般式(II
-1)及び(II-2)
【化2】
(式中,R1
及びR2
はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基,
炭素原子数1から10のアルコキシル基,炭素原子数2から10のアルケニル
基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し,環A及び環Bはそ
れぞれ独立的にトランス-1,4-シクロへキシレン基,1,4-フェニレン
基,2-フルオロ-1,4-フェニレン基,3-フルオロ-1,4-フェニレ
ン基,3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基,2,3-ジフルオロ-1,
4-フェニレン基又は1,4-シクロヘキセニレン基を表し,p及びqはそれ
ぞれ独立的に0,1又は2を表す。)で表される化合物群から選ばれる1種又
は2種以上の化合物を含有し,その含有量が20から80質量%であり,該第
二成分として一般式(II-1A),(II-1B)及び(II-2A)
【化3】
(R3
及びR4
はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素
原子数2から10のアルケニル基を表す。)で表される化合物群から選ばれる
1種又は2種以上の化合物を含有し,25℃におけるΔεが-2.0から-6.
0の範囲であり,25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08から0.1
2の範囲であり,20℃における粘度(η)が10から30mPa・sの範囲
であり,ネマチック相-等方性液体相転移温度(Tni)が60から120℃の
範囲であることを特徴とする液晶組成物であって,
第三成分としてさらに,一般式(III-A),(III-D),(III-
F),(III-G)及び(III-H)
【化5】
(式中,R5
は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアル
ケニル基を表し,R6
は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から
5のアルケニル基を表すが,一般式(III-F)においてR5
がメチル基かつ
R6
がプロピル基及びR5
がプロピル基かつR6
がメチル基を表すことはない。)
で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含有し,
塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない,
液晶組成物。
【請求項2】
第三成分として,一般式(III-G)
【化6】
(式中,R5
は炭素原子数1から5のアルキル基を表し,R6
は炭素原子数1か
ら5のアルキル基を表す。)で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又
は2種以上含有する請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】
式(I),一般式(II-1A),(II-2A)及び一般式(III-A)
を同時に含有する請求項1又は2に記載の液晶組成物。
【請求項4】
式(I),一般式(II-1B),(II-2A)及び一般式(III-A)
を同時に含有する請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項5】
式(I),一般式(II-1A),(II-1B),(II-2A)及び一般
式(III-A)を同時に含有する請求項1から4のいずれか1項に記載の液
晶組成物。
【請求項7】
アルケニル基を有する液晶化合物の含有量が10%未満である請求項1から5
のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項8】
重合性化合物を含有する請求項1から5,7のいずれか1項に記載の液晶組成
物。
【請求項9】
請求項1から5,7,8のいずれか1項に記載の液晶組成物を用いた液晶表示
素子。
【請求項10】
請求項1から5,7,8のいずれか1項に記載の液晶組成物を用いたアクティ
ブマトリックス駆動用液晶表示素子。
【請求項11】
請求項1から5,7,8のいずれか1項に記載の液晶組成物を用いたVAモー
ド,PSAモード,PSVAモード,IPSモード又はECBモード用液晶表
示素子。」
3本件審決の理由の要旨
⑴本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであるが,要するに,
本件発明は,いずれも甲1(国際公開第2011/024666号)に記載
された発明(甲1発明1又は甲1発明2)と同一である(相違点は実質的な
相違点ではない)か,同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものであるから,本件特許は,新規性欠如(特許法29条1項3号)又
は進歩性欠如(同条2項)により無効とすべきである,というものである。
(2)本件審決が認定した引用発明,本件発明と引用発明との一致点及び相違点
は,以下のとおりである。
ア引用発明
(ア)甲1発明1
「液晶組成物の全重量に基づいて,第一成分として式(1-1)及び式
(1-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合
物の5重量%から60重量%,
第二成分として式(2-1)で表される化合物の群から選択された少な
くとも1つの化合物の5重量%から40重量%,及び
第三成分として式(3-3-1)で表される化合物を含む式(3-1)
から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1
つの化合物の20重量%から70重量%,
をそれぞれ含有し,更に必要に応じて,重合可能な基を有する化合物を
含有する,
ネマチック相の上限温度が70℃以上であり,波長589nmにおける
光学異方性(25℃)が0.08以上であり,そして周波数1kHzに
おける誘電率異方性(25℃)が-2以下である負の誘電率異方性を有
する液晶組成物。
(ここで,R1
およびR2
は独立して,炭素数1から12のアルキル又は
炭素数1から12のアルコキシであり;mは1または2である。)
(ここで,R3
およびR4
は独立して,炭素数1から12のアルキル,炭
素数1から12のアルコキシ又は炭素数2から12のアルケニルである。)」
(イ)甲1発明2
「甲1発明1の液晶組成物を含有し,液晶表示素子の動作モードが,V
Aモード,IPSモード,またはPSAモードであり,液晶表示素子の
駆動方式がアクティブマトリックス方式であるアクティブマトリックス
駆動方式の液晶ディスプレイ。」
イ本件発明1と甲1発明1の対比
(一致点)
「成分として,一般式(II-1)及び(II-2)
【化2】
(式中,R1
及びR2
はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル
基,炭素原子数1から10のアルコキシル基を表し,環Aはトランス-1,
4-シクロへキシレン基,環Bは1,4-フェニレン基を表し,pは0又
は1,qは1である。)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以
上の化合物を含有し,その含有量が20から80質量%であり,該第二成
分として一般式(II-1A)及び(II-2A)(判決注:「一般式(I
I-1A),(II-1B)及び(II-2A)」の誤記と認められる。)
【化3】
(R3
及びR4
はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基又は
炭素原子数2から10のアルケニル基を表す。)で表される化合物群から
選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し,25℃におけるΔεが-2.
0から-6.0の範囲であり,25℃における屈折率異方性(Δn)が0.
08から0.12の範囲であり,ネマチック相-等方性液体相転移温度
(Tni)が70から120℃の範囲である液晶組成物」である点。
(相違点1)
本件発明1では,「第一成分として,式(I)(式は省略)で表される
化合物を含有し,その含有量が5から25%であ」るのに対して,甲1発
明1では,「第三成分として式(3-3-1)で表される化合物を含む式
(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少な
くとも1つの化合物の20重量%から70重量%…を含有」する点
(相違点2)
本件発明1では,「誘電率異方性(Δε)が負でその絶対値が3よりも
大きい,一般式(II-1)及び(II-2)…で表される化合物」であ
るのに対して,甲1発明1では,「式(1-1)及び式(1-2)で表さ
れる化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」及び「式(2-
1)で表される化合物」であり,それら化合物の誘電率異方性につき特定
されていない点
(相違点3)
本件発明1では,「20℃における粘度(η)が10から30mPa・
sの範囲であ…ることを特徴とする液晶組成物」であるのに対して,甲1
発明1では,液晶組成物の粘度につき特定されていない点
(相違点4)
本件発明1では,「第三成分としてさらに,一般式(III-A),(I
II-D),(III-F),(III-G)及び(III-H)
【化5】(式は省略)
(式中,R5
は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5の
アルケニル基を表し,R6
は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子
数2から5のアルケニル基を表すが,一般式(III-F)においてR5

メチル基かつR6
がプロピル基及びR5
がプロピル基かつR6
がメチル基を表
すことはない。)で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種
以上含有」するのに対して,甲1発明1では,「第三成分として式(3-
3-1)で表される化合物を含む式(3-1)から式(3-10)で表さ
れる化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物…を…含有」する

(相違点5)
本件発明1では,「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」の
に対して,甲1発明1では,「塩素原子で置換された液晶化合物」を含有
するか否か特定されていない点
ウ本件発明2~5と甲1発明1の対比
(相違点1~5)
前記イと同じ
エ本件発明7と甲1発明1の対比
(相違点1~5)
前記イと同じ
(相違点6)
本件発明7では,「アルケニル基を有する液晶化合物の含有量が10%
未満である」のに対して,甲1発明1では,当該「アルケニル基を有する
液晶化合物の含有量」につき特定されていない点
オ本件発明8と甲1発明1の対比
(相違点1~5)
前記イと同じ
カ本件発明9~11と甲1発明2の対比
(相違点7)
「液晶組成物」につき,本件発明9~11では,それぞれ「請求項1か
ら5,7,8のいずれか1項に記載の」ものであるのに対し,甲1発明2
では「甲1発明1の」ものである点
4取消事由
(1)引用発明の認定の誤り
(2)本件発明1についての一致点の認定の誤り・相違点の看過
(3)本件発明1についての相違点に係る判断の誤り
ア特許法29条1項の法令解釈の誤り
イ相違点は実質的な相違点ではないとした判断の誤り
ウ相違点は適宜なし得ることであるとした判断の誤り
(4)本件発明2~5,7~11についての認定・判断の誤り
第3取消事由に関する原告の主張
1引用発明の認定の誤り
(1)本件審決は,甲1発明1について,「式(3-3-1)で表される化合物
を含む式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択され
た少なくとも1つの化合物…を含有」するものと認定する。
しかるところ,上記構成が,「式(3-3-1)で表される化合物」が「式
(3-1)から式(3-10)で表される化合物」の例であることを意味す
るのであれば,結局のところ,上記構成は,「式(3-1)から式(3-1
0)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物…を含有」
することを意味することとなり,本件審決の上記認定に誤りはない。
しかし,上記構成が,「式(3-3-1)で表される化合物」に限定され
ることを意味するのであるとすれば,甲1には,「式(3-1)から式(3
-10)で表される化合物」として好ましいのが「式(3-3-1)で表さ
れる化合物」であるとは記載されておらず,また,「式(3-3-1)で表
される化合物」と「第一成分として式(1-1)及び式(1-2)で表され
る化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」及び「第二成分とし
て式(2-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合
物」との組合せについても記載がないから,本件審決の上記認定は誤りであ
る。
(2)また,本件審決による甲1発明1の認定には,次のような不備もある。
ア式(1-1),(1-2)及び(2-1)について,R1
,R2
及びmを
含む式がないにもかかわらず,これらの定義を認定している。他方,R5

びR6
については,その定義が認定されていない。
イ式(3-1)ないし式(3-10)及び式(3-3-1)について,
「R3
およびR4
は独立して,炭素数1から12のアルキル,炭素数1から
12のアルコキシ又は炭素数2から12のアルケニルである。」と認定す
るが,甲1(請求項4,段落[0045])には,R3
及びR4
について,「炭
素数1から12のアルキル,炭素数1から12のアルコキシ,炭素数2か
ら12のアルケニル,または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数
2から12のアルケニルである。」とされているから,上記認定は誤りで
ある。
また,R5
ないしR7
については,その定義が認定されていない。
(3)したがって,甲1発明1は,甲1の請求項1ないし4及び9を引用する請
求項16及び段落[0055]の記載どおりに認定されるべきである。また,
本件審決が認定した「式(3-3-1)で表される化合物を含む式(3-1)
から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの
化合物…を含有」するとの構成が,「式(3-3-1)で表される化合物」
に限定されることを意味するのであるとすれば,本件審決による甲1発明1
の認定は誤りである。
2本件発明1についての一致点の認定の誤り・相違点の看過
(1)一致点の認定の誤り
本件審決は,本件発明1と甲1発明1との対比において,甲1発明1にお
ける「液晶組成物の全重量に基づいて,第一成分として式(1-1)及び(式
1-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物の5
重量%から60重量%,第二成分として式(2-1)で表される化合物の群
から選択された少なくとも1つの化合物の5重量%から40重量%…含有し」
は,当該「第一成分」と「第二成分」とを総和として液晶組成物の全重量に
基づき「10重量%から100重量%」含有することを意味するから,本件
発明1における「一般式(ⅠⅠ-1)及び(ⅠⅠ-2)で表される化合物群
から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し,その含有量が20から8
0質量%であり」と組成比の点で一部重複するとして,「成分として,一般式
(ⅠⅠ-1)及び(ⅠⅠ-2)…で表される化合物群から選ばれる1種又は
2種以上の化合物を含有し,その含有量が20から80質量%であり」との
点を本件発明1と甲1発明1の一致点と認定する。
しかし,甲1には,甲1発明1の液晶組成物の全重量に基づく,「第一成分
として式(1-1)及び式(1-2)で表される化合物の群から選択された
少なくとも1つの化合物」と「第二成分として式(2-1)で表される化合
物の群から選択された少なくとも1つの化合物」の合計割合は記載されてい
ない。そして,甲1発明1は,「第三成分として…の化合物の20重量%から
70重量%」を含むものであるところ,「第一成分として…の化合物の5重量%
から60重量%」及び「第二成分として…の化合物の5重量%から40重量%」
の上限と下限を加算した「10重量%から100重量%」は,甲1発明1が
「第三成分として…の化合物の20重量%から70重量%」を含有する余地
のない範囲を明らかに含んでいるから,当業者は,甲1発明1における「第
一成分として…の化合物」及び「第二成分として…の化合物」の合計割合が
「10重量%から100重量%」であるとは理解しない。
また,本件発明1の第二成分については,請求項1に「一般式…(ⅠⅠ-
2)…(式中,…環Bはそれぞれ独立的にトランス-1,4-シクロヘキシ
レン基,…を表し,…qはそれぞれ独立的に0,1…を表す。)で表される化
合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し,その含有量が20
から80質量%であり」と記載されているとおり,「その含有量」は,「一般
式(ⅠⅠ-1A),(ⅠⅠ-1B)及び(ⅠⅠ-2A)…で表される化合物」
だけでなく,例えば,環Bがトランス-1,4-シクロヘキシレン基を表し,
qが0,1を表す「一般式(ⅠⅠ-2)…で表される化合物」も含めた含有
量を意味するものである。しかるところ,甲1に記載された式(4-1-1)
及び式(4-1-2)で表される化合物も,本件発明1の「環Bがトランス
-1,4-シクロヘキシレン基を表し,qが0,1を表す一般式(ⅠⅠ-2)
で表される化合物」に相当するから,甲1発明1における「第一成分として
…の化合物」,「第二成分として…の化合物」並びに式(4-1-1)及び式
(4-1-2)で表される化合物の液晶組成物全量に基づく重量%が,本件
発明1の上記「その含有量」に対応することになる。ところが,甲1発明1
は,「第一成分として…の化合物」,「第二成分として…の化合物」並びに式(4
-1-1)及び式(4-1-2)で表される化合物の液晶組成物全量に基づ
く重量%により特定されるものではない。
以上によれば,甲1発明1における「液晶組成物の全重量に基づいて,第
一成分として式(1-1)及び(式1-2)で表される化合物の群から選択
された少なくとも1つの化合物の5重量%から60重量%,第二成分として
式(2-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物
の5重量%から40重量%…含有し」が,当該「第一成分」と「第二成分」
とを総和として液晶組成物の全重量に基づき「10重量%から100重量%」
含有することを意味するとした本件審決の判断は誤りであり,これを前提と
した上記一致点の認定も誤りである。
(2)相違点の看過
ア上記(1)のとおり,「成分として,一般式(ⅠⅠ-1)及び(ⅠⅠ-2)…
で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し,そ
の含有量が20から80質量%であり」との点を本件発明1と甲1発明1
の一致点とした本件審決の認定は誤りであり,その結果,本件審決は,本
件発明1と甲1発明1の相違点を看過し,相違点2を誤って認定している。
すなわち,相違点2は,正しくは,「本件発明1の「一般式(ⅠⅠ-1)
及び(ⅠⅠ-2)…で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の
化合物」の「含有量が20から80質量%」であるのに対し,甲1発明1
は,第一成分として式(1-1)及び式(1-2)で表される化合物の群
から選択された少なくとも1つの化合物の「5重量%から60重量%」,
第二成分として式(2-1)で表される化合物の群から選択された少なく
とも1つの化合物の「5重量%から40重量%」を含有する点」(相違点
α)と認定されるべきである。
イまた,本件発明1は,「第一成分として,式(Ⅰ)で表される化合物を
含有し,その含有量が5から25%であり」,「第三成分としてさらに,
一般式(ⅠⅠⅠ-A),(ⅠⅠⅠ-D),(ⅠⅠⅠ-F),(ⅠⅠⅠ-G)
及び(ⅠⅠⅠ-H)…で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は
2種以上含有」するものであるが,甲1には,両者の組合せについての記
載はない。
したがって,本件発明1と甲1発明1の相違点として,更に,「本件発
明1では,「第一成分として,式(Ⅰ)表される化合物を含有し,その含
有量が5から25%であり」,「第三成分としてさらに,一般式(ⅠⅠⅠ
-A),(ⅠⅠⅠ-D),(ⅠⅠⅠ-F),(ⅠⅠⅠ-G)及び(ⅠⅠⅠ
-H)…で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含有」
するのに対して,甲1には,両者の組合せについて記載されていない点」
(相違点β)が認定されるべきであり,本件審決には,当該相違点を看過
している点において誤りがある。
(3)以上のとおり,本件審決には,本件発明1と甲1発明1との一致点の認定
を誤り,ひいては,相違点を看過した誤りがあり,また,当該相違点はいず
れも実質的な相違点であり,当業者が適宜なし得ることでもないから,この
点は本件審決の結論に影響を及ぼすものである。
3本件発明1についての相違点に係る判断の誤り
(1)特許法29条1項の法令解釈の誤り
ア本件審決は,本件発明1と甲1発明1の相違点1及び4について,「当該
使用に格別な技術的意義が存するものとは認められ」ないことを,相違点
3について,「「20℃における粘度(η)が10から30mPa・sの範
囲である」と規定した点に格別な技術的意義が存するものとは認められ」
ないことを,相違点5について,「「塩素原子で置換された液晶化合物を含
有しない」態様を選択した点に格別な技術的意義が存するものとは認めら
れ」ないことをそれぞれ根拠として,いずれの相違点も「実質的な相違点
であるものとはいえない」と判断する。
しかるところ,このような判断内容からすると,本件審決は,特許法2
9条1項の「を除き」を,同項各号記載の発明を除くのみならず,「当該発
明との相違点に格別な技術的意義がない発明」をも除くものと解釈し,「特
許発明と刊行物に記載された発明との相違点に格別な技術的意義がなけれ
ば,当該相違点は実質的な相違点ではない」という前提に立つものと理解
される。
しかしながら,以下に述べるとおり,審決が前提とする特許法29条1
項の解釈は誤りである。
(ア)特許法29条1項には,「次に掲げる発明を除き」と規定されている
が,この「を除き」の用語の通常の意味には,「当該発明との相違点に格
別な技術的意義がない発明を除き」との意味はないから,本件審決の上
記解釈は,特許法29条1項の文理解釈からは導き出されない。
(イ)特許法29条2項は,「特許出願前にその発明の属する技術の分野に
おける通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発
明をすることができたときは,その発明については,同項の規定にかか
わらず,特許を受けることができない。」と規定するところ,これを換言
すれば,「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識
を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることがで
きないときは,その発明については,同項の規定により,特許を受ける
ことができる。」ということになる。
ところが,特許法29条1項の「を除き」を「当該発明との相違点に
格別な技術的意義がない発明」をも除くものと解釈すると,同法29条
2項の「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識
を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることがで
きない」発明であるにもかかわらず,同法29条1項の「次に掲げる発
明を除き」に該当するため,特許を受けることができない場合が生じる
ことになる。例えば,引用発明との間で,その技術的意義を論ずるまで
もなく当業者に容易想到でない相違点を有する発明であっても,当該相
違点に格別な技術的意義がなければ同法29条1項3号に該当し,特許
を受けることができなくなる。
してみると,特許法29条1項の「を除き」に係る本件審決の上記解
釈は,特許法29条2項の規定と整合せず,特許を受けることができな
い発明の範囲を不当に拡張する解釈であって,誤りである。
イ以上のとおり,「特許発明と刊行物に記載された発明との相違点に格別な
技術的意義がなければ,当該相違点は実質的な相違点ではない」とする本
件審決の前提は誤りであり,したがって,相違点1,3~5が「実質的な
相違点であるものとはいえない」とする本件審決の判断も誤りであって,
本件審決は取り消されるべきである。
(2)相違点は実質的な相違点ではないとした判断の誤り及び相違点は適宜なし
得ることであるとした判断の誤り
ア相違点1について
(ア)実質的な相違点ではないとした判断の誤り
本件審決は,「甲1には,ネマチック相の温度範囲,適切な光学異方性,
負に大きな誘電率異方性,大きな比抵抗,紫外線に対する高い安定性,
熱に対する高い安定性などの特性を達成しつつ,10~12mPa・s
(実施例1ないし8)及び18~20.5mPa・s(比較例6など)
なる低い粘度が達成された液晶組成物に係る具体例についても記載され
ている。それに対して,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても,
本件発明における「式(Ⅰ)」で表される化合物を特に選択して「5から
25(重量%)」なる含有量となるように使用することによって,甲1発
明1のものとは異なる特異な効果を奏しているものと客観的に認識する
ことができない。」とした上で,「甲1発明1の液晶組成物における「式
(3-3-1)」で表される化合物として,R3
がメチル基でR4
がプロピ
ル基である…化合物(判決注:本件審決の該当部分における「R3
」は
「R6
」の,「R4
」は「R7
」の誤記と認められる。以下同じ。)を使用す
ることは,選択肢中の一種の化合物を単に選択使用したものと認められ,
当該使用に格別な技術的意義が存するものとは認められず,上記相違点
1については,実質的な相違点であるものとはいえない。」と判断する。
しかしながら,以下に述べるとおり,本件審決の上記判断は誤りであ
る。
aまず,甲1には,式(3-3-1)で表される化合物について,
R6
及びR7
は「独立して,炭素数1から12を有する直鎖のアルキル
基または炭素数1から12を有する直鎖のアルケニルである。」(段落
[0054])との記載があるのみで,R6
及びR7
がメチル基及びプロ
ピル基である組合せは記載されておらず,また,式(3-3-1)で
表される化合物は極めて多数の化合物群であるから,式(3-3-1)
の意味するものが,R6
及びR7
がメチル基及びプロピル基であるもの
のみであるといえないことも当然である。
したがって,甲1には,そもそも本件発明1の式(Ⅰ)で表される
化合物は記載されておらず,本件発明1の内容を知らない当業者には,
当該化合物は自明でもない。
bまた,本件発明1は,「Δn(屈折率異方性)が低下しない,Tni(ネ
マチック相-等方性液体相転移温度)が低下しない,η(粘度)が十
分に小さく,かつ表示不良がない又は抑制された」を両立させたΔε
(誘電率異方性)が負の液晶組成物を提供することを課題とし,その
解決のために,「式(Ⅰ)で表される化合物」を「5から25%」含有
させたものである。
これに対し,甲1には,「Δnが低下しない,Tniが低下しない,η
が十分に小さく,かつ表示不良がない又は抑制された」を両立させた
Δεが負の液晶組成物を提供するという課題についての記載はなく,
「式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化
合物の20重量%から70重量%」が「Δnが低下しない,Tniが低
下しない,ηが十分に小さく,かつ表示不良がない又は抑制された」
の両立という技術的意義を有することも読み取れない。すなわち,甲
1の「発明が解決しようとする課題」の欄(段落[0009])には,
「ネマチック相の高い上限温度,ネマチック相の低い下限温度,小さ
な粘度,適切な光学異方性,負に大きな誘電率異方性,大きな比抵抗,
紫外線に対する高い安定性,熱に対する高い安定性などの特性におい
て,少なくとも1つの特性を充足する液晶組成物である。他の目的は,
少なくとも2つの特性に関して適切なバランスをとる液晶組成物であ
る。」と記載されているのであるから,甲1の記載に接した当業者は,
甲1発明1の解決課題を,上記各特性のうち,「少なくとも1つの特性
を充足する液晶組成物」あるいは「少なくとも2つの特性に関して適
切なバランスをとる液晶組成物」であると理解するものといえる。
したがって,甲1の記載に接した当業者は,「Δnが低下しない,
Tniが低下しない,ηが十分に小さく,かつ表示不良がない又は抑制
された」を両立させたΔεが負の液晶組成物を提供するために,甲1
発明1に着目することはそもそもないし,そのための成分化合物とし
て,甲1に記載された発明の必須成分であって誘電率異方性(Δε)
の絶対値を上げる「式(1)で表される化合物の群から選択された少
なくとも1つの化合物」や光学異方性(Δn)及び誘電率異方性(Δ
ε)の絶対値を上げる「式(2)で表される化合物の群から選択され
た少なくとも1つの化合物」ではなく,「式(3)で表される化合物の
群から選択された少なくとも1つの化合物」に着目し,その中から式
(3-3)で表される化合物であって,R3
がメチル基でR4
がプロピ
ル基である化合物を採用して,当該化合物の割合を5から25重量%
とすることを思いつくことはない。
c甲1の記載に接した当業者が,「第三成分の好ましい割合は,粘度を
下げるためまたは上限温度を上げるために約20重量%以上であり」
(段落[0043])との記載に着目したとしても,甲1には,式(3)
で表される化合物の環A,環B及び環Cについて,「好ましい環A,環
B,または環Cは,粘度を下げるために1,4-シクロへキシレンで
ある。」(段落[0050])と記載されているから,当業者であれば,
粘度を下げるようとする際には,甲1発明1の「第三成分として…式
(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された
少なくとも1つの化合物」のうち,1,4-シクロへキシレンを有す
る式(3-1)で表される化合物等を含有させるのであって,1,4
-シクロへキシレンを有しない式(3-3)で表される化合物を含有
させることはない。
しかも,甲1には,R3
及びR4
について,「さらに好ましいアルキル
は,粘度を下げるためにエチル,プロピル,ブチル,ペンチル,また
はヘプチルである。」(段落[0046]),「粘度を下げるために,さら
に好ましいアルコキシは,メトキシまたはエトキシである」(段落[0
047]),「さらに好ましいアルケニルは,粘度を下げるためにビニル,
1-プロペニル,3-ブテニル,または3-ペンテニルである。」(段
落[0048]),「さらに好ましい例は,粘度を下げるために2,2-
ジフルオロビニル,および4,4-ジフルオロ-3-ブテニルである」
(段落[0049])として,粘度を下げるために好ましい基が多数列
挙されているのに,その中にメチル基は記載されていない。また,甲
6(「トランス-ジフルオロスチルベン(DFS)系液晶の物性と高速
応答STN用液晶組成物への応用」と題する文献)には,表1記載の
R1
がC5H9である液晶化合物2eの粘度の値は,R1
がC5H11であ
る液晶化合物2dの粘度の値よりも低いことが記載され,甲16(特
開平9-208503号公報)には,「粘度が小さいことを目的とする
場合,アルケニル基を有する化合物を多用することが好ましく,特に
CH2=CH-(CH2)u(u=0,2)の化合物が好ましい」こと(段
落【0050】)が記載されているから,これらの記載内容を知る甲1
の記載に接した当業者が,液晶組成物の粘度を下げようとするならば,
R3
,R4
としてアルキル基,特にメチル基を採用することはない。
d環,とりわけシクロヘキサン環が増えると液晶相の熱安定性が高く
なることは液晶分野の当業者によく知られていること(甲17(液晶
便覧)の312頁右欄26~28行,313頁右欄5~14行,23
~26行)からすれば,甲1の記載に接した当業者は,ネマチック相
の上限温度を上げようとする際に,「式(3)…で表される化合物の群
から選択された少なくとも1つの化合物」として,まずは1,4-シ
クロヘキシレンを有する4環の化合物を含有させるのであって,1,
4-シクロヘキシレンを有しない2環の式(3-3)で表される化合
物を含有させることはない。また,甲6には,表1記載のR1
がC5
H9である液晶化合物2eのTniの値は,R1
がC5H11である液晶化
合物2dのTniよりも大きいことが記載され,また,甲16には,4
-(3-ブテニル)-4’-プロピルビフェニルの液晶相上限温度は,
4-ブチル-4’-プロピルビフェニルの液晶相上限温度よりも約3
0℃高いこと(段落【0040】~【0043】)が記載されているか
ら,これらの記載内容を知る甲1の記載に接した当業者が,ネマチッ
ク相の上限温度を上げようとするならば,R3
,R4
としてアルキル基
を採用することはない。
e甲1の記載に接した当業者が,「第三成分の好ましい割合は,…誘電
率異方性の絶対値を上げるために約70重量%以下であり」(段落[0
043])との記載に着目したとしても,「式(3)…で表される化合
物の群から選択された少なくとも1つの化合物」は,そもそも誘電率
異方性が「0」である(段落[0038])から,誘電率異方性の絶対
値を上げようとする際に,当業者は,「式(3)…で表される化合物の
群から選択された少なくとも1つの化合物」の割合を減少させること
はあっても,その増加を検討することはない。
f以上によれば,「「式(3-3-1)」で表される化合物として,R3
がメチル基でR4
がプロピル基である…化合物を使用することは,選択
肢中の一種の化合物を単に選択使用したもの」であるとする本件審決
の判断は誤りである。
また,本件発明1の「式(Ⅰ)で表される化合物を含有し,その含
有量が5から25%であ」るとの構成は,「Δnが低下しない,Tniが
低下しない,十分に粘度が低い,かつ表示不良がない又は抑制された」
の両立という技術的意義を有するのに対し,甲1発明1の「第三成分
として…式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から
選択された少なくとも1つの化合物の20重量%から70重量%…を
含有」する構成は,「粘度を下げる,上限温度を上げる,又は誘電率異
方性の絶対値を上げる」というものにすぎないから,相違点1には格
別な技術的意義があるといえるのであり,「当該使用に格別な技術的意
義が存するものとは認められず,上記相違点1については,実質的な
相違点であるものとはいえない。」とする本件審決の判断は誤りである。
(イ)当業者が適宜なし得ることであるとした判断の誤り
本件審決は,「仮に,上記相違点1に係る事項に何らかの技術的意義が
存したとして検討すると,甲1には,甲1発明1における「第三成分と
して」の「式(3-3-1)で表される化合物を含む式(3-1)から
式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの
化合物」は,液晶組成物の粘度を下げるまたは上限温度を上げるという
特性を有することが記載されている…から,甲1発明1において,組成
物の粘度を更に低下させる又はネマチック相の上限温度を更に高めるこ
とを意図して,組成物の20~70重量%を占める「第三成分」の少な
くとも一部として「式(3-3-1)」で表されR3
がメチル基でR4
がプ
ロピル基である化合物を一定以上,例えば5~25質量%の組成比で使
用することは,当業者が適宜なし得ることと認められ,特段の技術的相
違が存するものとも認められない。また,…式(Ⅰ)で表される化合物
を液晶組成物の総量に対して5~25(質量)%としたことにより,有
意な効果上の差異が存するものとも認められず,格別な技術的意義が存
するものとも認められない。してみると,上記相違点1は,当業者が適
宜なし得ることとも認められる。」と判断する。
しかしながら,甲1に,甲1発明1における「第三成分として」の「…
式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された
少なくとも1つの化合物」は液晶組成物の粘度を下げる,又は,上限温
度を上げるという特性を有することが記載されているとしても,前記(ア)
で述べたとおり,甲1発明1において,組成物の粘度を更に低下させる
又はネマチック相の上限温度を更に高めることを意図して,組成物の2
0~70重量%を占める「第三成分」の少なくとも一部として,「式(3
-3-1)」で表されR6
がメチル基でR7
がプロピル基である化合物を5
~25質量%の組成比で使用することは,当業者が適宜なし得ることで
はない。
また,前記(ア)bで述べたとおり,本件発明1において,式(Ⅰ)で表
される化合物を液晶組成物の総量に対して5~25(質量)%としたこ
とには,格別な技術的意義が存する。
(ウ)小括
したがって,「相違点1は,実質的な相違点ではないか,当業者が適宜
なし得ることである。」とした本件審決の判断は誤りである。
イ相違点3について
本件審決は,相違点3について,「甲1発明1は,解決課題として「小さ
な粘度」の液晶組成物の提供を意図するものであり…,甲1には,10~
12mPa・s(実施例1ないし8)及び18~20.5mPa・s(比
較例6など)が達成された液晶組成物に係る具体例についても記載されて
いる。」とした上で,本件発明1において,「20℃における粘度(η)が
10から30mPa・sの範囲である」と規定した点に格別な技術的意義
は認められないから,相違点3は実質的な相違点とはいえない旨判断する。
しかし,上記ア(ア)bで述べたとおり,甲1発明1は,「ネマチック相の
高い上限温度,…熱に対する高い安定性などの特性」において,「少なくと
も1つの特性を充足」あるいは「少なくとも2つの特性に関して適切なバ
ランスをとる」ことができるというものであるところ,甲1には,上記「少
なくとも1つの特性」が「小さな粘度」のみを意味する旨あるいは「少な
くとも2つの特性」の1つが必ず「小さな粘度」である旨の記載はない。
また,甲1には,甲1発明1自体の粘度の数値範囲の記載はなく,むし
ろ,段落[0038]の表2によれば,粘度が中程度(M)あるいは大き
な(L)成分化合物を含有していてもよいとされている。
加えて,当業者が,甲1に列挙されている多くの特性の中から「小さな
粘度」のみを抽出して切り出し,これを甲1発明1の解決しようとする課
題であると推論する事情もない。
そうすると,甲1の実施例として,「小さな粘度を充足する液晶組成物」
が記載されていたとしても,甲1の記載に接した当業者は,甲1発明1の
解決しようとする課題を,当然に「小さな粘度を充足する」ことであると
は理解せず,甲1に記載された各特性の「少なくとも1つの特性を充足」
あるいは「少なくとも2つの特性に関して適切なバランスをとる」ことで
あると理解するというべきであるから,「甲1発明1は,解決課題として「小
さな粘度」の液晶組成物の提供を意図するものであ」るとする本件審決の
判断は誤りである。
また,本件審決は,本件発明1における「20℃における粘度(η)が
10から30mPa・sの範囲であ…ること」の技術的意義について,甲
1発明1自体の技術的意義との対比ではなく,甲1発明1とは特定事項の
異なる複数の発明である実施例1~8の液晶組成物の発明や比較例6など
の液晶組成物の発明との対比に基づいて,本件発明1における上記構成に
「格別な技術的意義が存するものとは認められない」旨判断するが,当該
判断は,対比の対象を誤ったものであるから,これに基づく本件審決の判
断も誤りである。
したがって,本件発明1において,「「20℃における粘度(η)が10
から30mPa・sの範囲である」と規定した点に格別な技術的意義が存
するものとは認められず,上記相違点3については,実質的な相違点であ
るとはいえない。」とする本件審決の判断は誤りである。
ウ相違点5について
(ア)本件審決は,「甲1には,塩素原子を「X1
」又は「X2
」なる基とし
て有する「式(4-1)」で表される液晶化合物が使用できることが記載
されている…が,当該「式(4-1)」で表される液晶化合物につき,好
適には,液晶組成物の粘度を下げるために「X1
」及び「X2
」なる基が
いずれもフッ素であることも記載されている…から,甲1発明1におい
て,小さな粘度の液晶組成物とすることを意図し,塩素原子を有する液
晶化合物の含有量を実質的に0質量%に低減化する,すなわち塩素原子
を有する液晶化合物を含有しないとすることは,当業者が適宜なし得る
ことである。」と判断する。
しかし,本件発明1において,「塩素原子を有する液晶化合物を含有し
ない」ものとすることには,「表示不良が抑制される」という技術的意義
があるところ(本件明細書の段落【0056】),甲1には,「Δnが低下
しない,Tniが低下しない,ηが十分に小さく,かつ表示不良がない又
は抑制された」を両立させたΔεが負の液晶組成物を提供するという課
題についての記載がないのであるから,甲1の記載に接した当業者は,
「Δnが低下しない,Tniが低下しない,ηが十分に小さく,かつ表示
不良がない又は抑制された」を両立させたΔεが負の液晶組成物を提供
するために甲1発明1に着目することはそもそもないし,甲1発明1の
必須成分でもない「X1
およびX2
は,一方がフッ素であり,他方が塩素
であ」る「式(4-1)で表される化合物の群から選択された少なくと
も1つの化合物」が表示不良を生じる成分化合物であるなどと認識する
こともないのであって,当該化合物を含有させないようにすることは当
業者には全く思いつかないことである。
したがって,甲1発明1において,「Δnが低下しない,Tniが低下し
ない,ηが十分に小さく,かつ表示不良がない又は抑制された」を両立
させたΔεが負の液晶組成物を提供するために,塩素原子を有する液晶
化合物を含有しないとすることは,当業者が適宜なし得ることではない。
また,甲1発明1は,誘電率異方性(Δε)の絶対値を上げる「式(1)
で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」や光学
異方性(Δn)及び誘電率異方性(Δε)の絶対値を上げる「式(2)
で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」を必須
成分とするものであるから,甲1の記載に接した当業者は,甲1発明1
の解決しようとする課題に関する特性として列挙されたもののうち,ま
ずは「適切な光学異方性」,「負に大きな誘電率異方性」に着目するのが
自然であり,特に「小さな粘度」に着目すべき事情はない。そして,甲
1には,「さらに好ましいアルキルは,粘度を下げるためにエチル,プロ
ピル,ブチル,ペンチル,またはヘプチルである。」(段落[0046]),
「粘度を下げるために,さらに好ましいアルコキシは,メトキシまたは
エトキシである。」(段落[0047]),「さらに好ましいアルケニルは,
粘度を下げるためにビニル,1-プロペニル,3-ブテニル,または3
-ペンテニルである。」(段落[0048]),「粘度を下げるために2,2
-ジフルオロビニル,および4,4-ジフルオロ-3-ブテニルである。」
(段落[0049]),「粘度を下げるために1,4-シクロヘキシレンで
ある。」(段落[0050]),「好ましいZ1
は,粘度を下げるために単結
合である。…。好ましいZ2
またはZ3
は,粘度を下げるために単結合,
…である。」(段落[0051])といった記載があり,他方,3-HHB
(2F,3Cl)-O2を含有する実施例8の液晶組成物の粘度は,
X1
又はX2
が塩素である「式(4-1)…で表される化合物の群から選
択された少なくとも1つの化合物」を含有しない実施例1~7の液晶組
成物の粘度よりも小さいことからすると,当業者は,必ずしも「好まし
いX1
またはX2
は,粘度を下げるためにフッ素である。」(段落[005
2])とは認識しない。
したがって,甲1発明1において,当業者が,「小さな粘度の液晶組成
物とすることを意図」することはなく,また,粘度を下げるために,塩
素原子を有する液晶化合物を含有しないようにすることもない。
(イ)また,本件審決は,「本件発明が「塩素原子で置換された液晶化合物
を含有しない」ことにより,格別な効果を奏するものとも認めることが
できない」ことから,「甲1発明1において,「塩素原子で置換された液
晶化合物を含有しない」態様を選択した点に格別な技術的意義が存する
ものとは認められ」ない旨判断する。
しかし,上記(ア)のとおり,本件発明1において,「塩素原子を有する
液晶化合物を含有しない」ものとすることには,「表示不良が抑制される」
という技術的意義があるのに対し,甲1には,これについて全く記載さ
れていないから,相違点5には格別な技術的意義があるといえ,本件発
明1は甲1発明1と比較して,「塩素原子を有する液晶化合物を含有しな
い」ことにより,格別な効果を奏しているといえる。
(ウ)したがって,相違点5について,実質的な相違点であるとはいえない
か,当業者が適宜なし得ることであるとする本件審決の判断は誤りであ
る。
エ本件発明1の効果について
本件審決は,「本件発明1の効果が,甲1発明の効果に比して,格別顕著
なものであるということができないから,本件発明1が,甲1発明などの
従来技術に対して選択的に有利な効果を奏する発明,いわゆる選択発明で
あるということができない。」と判断する。
しかし,本件発明1の効果と甲1発明1の効果を対比すると,前者の効
果が,「Δεが負の液晶組成物において,Δnが低下しない,Tniが低下
しない,十分に粘度が低い,かつ表示不良が抑制される」の両立であるの
に対し,後者の効果は,「少なくとも1つの特性を充足する液晶組成物」
あるいは「少なくとも2つの特性に関して適切なバランスをとる液晶組成
物」であるから,本件発明1の効果は,甲1発明1の効果に比して,特別
顕著なものであるといえる。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
4本件発明2~5,7~11についての認定・判断の誤り
本件発明2~5,7~11に係る請求項は,いずれも本件発明1に係る請求
項1を引用するものであるから,本件発明1についての各取消事由は,上記各
発明についても同様に当てはまる。
加えて,本件発明2~5,7及び8に係る本件審決の認定・判断には,次の
ような誤りもある。
(1)本件発明2~5について(相違点の看過)
本件審決は,「本件発明2ないし5と上記甲1発明1とをそれぞれ対比す
ると,上記甲1発明1では,第三成分として「式(3-5)」で表される化
合物を更に使用することも開示されているところ,上記甲1発明1における
「「式(3-5)」で表される化合物」は,それぞれ,本件発明2における
「一般式(ⅠⅠⅠ-G)で表される化合物に相当することが当業者に自明で
ある。また,甲1には,甲1発明1に係る具体例として,「式(1-1)」
で表される化合物,「式(1-2)」で表される化合物,「式(2-1)」
で表される化合物及び「式(3-1-1)」で表される化合物を併用含有し
てなる液晶組成物についても記載されている…から,本件発明3に係る「式
(Ⅰ),一般式(ⅠⅠ-1A),(ⅠⅠ-2A)及び一般式(ⅠⅠⅠ-A)
を同時に含有する」,本件発明4に係る「式(Ⅰ),一般式(ⅠⅠ-1B),
(ⅠⅠ-2A)及び一般式(ⅠⅠⅠ-A)を同時に含有する」及び本件発明
5に係る「式(Ⅰ),一般式(ⅠⅠ-1A),(ⅠⅠ-1B),(ⅠⅠ-2
A)及び一般式(ⅠⅠⅠ-A)を同時に含有する」は,いずれも甲1発明1
との対比における新たな相違点となるものではない。してみると,甲1発明
1と本件発明2ないし5のそれぞれとの間で,…相違点1ないし5を除く新
たな相違点が存するものとは認められない。」と認定する。
しかしながら,本件審決で認定される甲1発明1は「…第三成分として…
式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少な
くとも1つの化合物の20重量%から70重量%を…含有し,…負の誘電率
異方性を有する液晶組成物。」というものであり,「「式(3-5)」で表
される化合物を更に使用すること」を特定事項とはしていないし,「第三成
分として…式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択
された少なくとも1つの化合物」の意味が,「「式(3-5)」で表される
化合物を更に使用すること」と当然に同じであるとはいえないから,「甲1
発明1では,第三成分として「式(3-5)」で表される化合物を更に使用
することも開示されている」とする本件審決の認定は誤りである。
そうすると,本件発明2と甲1発明1は,前者が,「式(Ⅰ)で表される
化合物を5から25%含有する」とともに,「第三成分として,一般式(Ⅰ
ⅠⅠ-G)…で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含
有する」ものであるのに対し,後者は,「第三成分として…式(3-1)か
ら式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化
合物の20重量%から70重量%」を含有するものである点においても相違
し,本件審決には,当該相違点を看過した誤りがある。
また,甲1発明1は,3-H1OB(2F,3F)-O4,3-HH1O
B(2F,3F)-O2,5-HH1OB(2F,3F)-O2,3HBB
(2F,3F)-O2を含有する実施例8の液晶組成物の発明等とは異なる
発明であるところ,本件審決の判断は,本件発明3~5と,実施例8の液晶
組成物の発明等とを誤って対比し,本件発明3~5と甲1発明1との間に「相
違点1ないし5を除く新たな相違点が存するものとは認められない。」とす
るものである。
したがって,本件発明3~5と甲1発明1は,前者が,「式(Ⅰ)で表さ
れる化合物を5から25%含有する」とともに,「一般式(ⅠⅠⅠ-A)を
同時に含有する」ものであるのに対し,後者は,「第三成分として…式(3
-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも
1つの化合物の20重量%から70重量%」を含有するものである点におい
ても相違し,本件審決には,当該相違点を看過した誤りがある。
(2)本件発明7について(相違点6に係る判断の誤り)
本件審決は,本件発明7と甲1発明1の相違点6について,「甲1発明1の
誘電率異方性が負の液晶組成物において,モノマー化合物であることが当業
者に自明なアルケニル基を有する液晶化合物につき,液晶表示素子とした際
の焼き付きなどの表示不良を防止することを意図し,上記甲8に記載された
当業者に知られた技術事項に基づいて,液晶組成物におけるアルケニル基を
有する液晶化合物の含有量をある一定の上限値,例えば10質量%未満に低
減化することは,当業者が適宜なし得ることと認められる。」と判断する。
しかしながら,甲1には,そもそも,「液晶表示素子とした際の焼き付きな
どの表示不良を防止すること」について全く記載がなく,「液晶表示素子とし
た際の焼き付きなどの表示不良」が「液晶組成物におけるアルケニル基を有
する液晶化合物」によることも記載されていないから,甲1の記載に接した
当業者が,甲1発明1に着目して「液晶表示素子とした際の焼き付きなどの
表示不良を防止することを意図」することはないし,「液晶組成物におけるア
ルケニル基を有する液晶化合物の含有量をある一定の上限値,例えば10質
量%未満に低減化すること」を想到することもできない。
また,甲8(国際公開第2010/119779号)は,液晶組成物にお
いて,残存する重合性化合物による焼き付き等の不具合という問題が生じて
いたことから,重合性化合物が残存しない重合性化合物含有液晶組成物を提
供することを解決課題とし,その課題を,「第一成分として,一般式(Ⅰ)…
で表される重合性化合物から選ばれる一種又は二種以上の化合物を含有…す
る…液晶組成物。」とする発明により解決することを開示するものであるが,
甲8にも,「第一成分として,一般式(Ⅰ)…で表される重合性化合物から選
ばれる一種又は二種以上の化合物」ではない,アルケニル基を有する「第二
成分として,一般式(ⅠⅠ)…で表される化合物」,「第三成分として,一般
式(ⅠⅠⅠa),一般式(ⅠⅠⅠb)及び一般式(ⅠⅠⅠc)…で表される化
合物からなる群から選ばれる化合物又は一般式(ⅠⅤa),一般式(ⅠⅤb)
及び一般式(ⅠⅤc)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物」が
焼き付き等の不具合を引き起こすことは記載されていない。そうすると,「液
晶表示素子とした際の焼き付きなどの表示不良を防止すること」について全
く記載がない甲1の記載に接した当業者が,甲8の記載内容を想起すること
はそもそもないし,仮に想起し得たとしても,甲1に記載された重合可能な
化合物(段落[0066])として,甲8に記載された「第一成分として,一
般式(Ⅰ)…で表される重合性化合物から選ばれる一種又は二種以上の化合
物」を採用することはあっても,重合可能な化合物(重合性化合物)ではな
いアルケニル基を有する化合物の含有量を低減することに思い至ることはな
い。
したがって,相違点6は,甲1発明1に甲8記載の当業者に知られた技術
事項を組み合わせることにより,当業者が適宜なし得ることとはいえないか
ら,本件審決の上記判断は誤りである。
(3)本件発明8について
本件審決は,「本件発明8と上記甲1発明1とを対比すると,上記甲1発明
1における「重合可能な基を有する化合物」が,本件発明8における「重合
性化合物」に相当するものと認められるから,甲1発明1と本件発明8との
間で,…相違点1ないし5を除く新たな相違点が存するものとは認められな
い。」と認定する。
しかしながら,本件発明8と甲1発明1とを対比すると,前者が,必ず「重
合性化合物を含有する」ものであるのに対し,甲1発明1は,「重合可能な基
を有する化合物」を必ず含有するものではない点においても相違するものと
認められる。
したがって,本件審決には,上記相違点を看過した誤りがある。
第4被告の反論
1「引用発明の認定の誤り」に対し
原告は,本件審決が,甲1発明1について,「式(3-3-1)で表される
化合物を含む式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択
された少なくとも1つの化合物…を含有」するものと認定したことについて,
甲1には,「式(3-1)から式(3-10)で表される化合物」として好ま
しいのが「式(3-3-1)で表される化合物」であるとは記載されておらず,
また,「式(3-3-1)で表される化合物」と「第一成分として式(1-1)
及び式(1-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合
物」及び「第二成分として式(2-1)で表される化合物の群から選択された
少なくとも1つの化合物」との組合せについても記載がないから,本件審決の
上記認定が,「式(3-3-1)で表される化合物」に限定されることを意味
するのであるとすれば,その認定は誤りである旨主張する。
しかし,甲1の段落[0055]には,「特に好ましい化合物(3)は,化合
物(3-1-1),化合物(3-3-1),および化合物(3-10-1)で
ある。」と記載されているから,甲1の請求項3に係る「式(3)で表される
化合物の群から選択された少なくとも一つの化合物」として,特に好ましい化
合物(3)として例示された化合物(3-3-1)が選択されるのは当然であ
る。
また,甲1の請求項の記載には,第一成分,第二成分,第三成分として,所
定の式で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物が選択さ
れた組合せが記載されているから,上位の式であろうが,下位の式であろうが,
その式で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物の中から
選択された組合せが記載されていることは明白である。
そして,本件審決が認定する「…化合物を含む…化合物」とは,「○○を含
む□□」という表現形式であって,文字どおりの意味に解釈をすればよく,「○
○」が下位の式を,「□□」が上位の式を示すことは明らかであるから,「○
○を含む□□」という表現形式の記載が,結局「□□」を意味するのか,ある
いは「○○」を意味するのかを決めつける必要性は全くない。
したがって,本件審決の甲1発明1に係る上記認定に誤りはなく,原告の上
記主張は理由がない。
2「本件発明1についての一致点の認定の誤り・相違点の看過」に対し
原告は,甲1には,甲1発明1の液晶組成物の全重量に基づく,「第一成分と
して式(1-1)及び式(1-2)で表される化合物の群から選択された少な
くとも1つの化合物」と「第二成分として式(2-1)で表される化合物の群
から選択された少なくとも1つの化合物」の合計割合は記載されていないから,
甲1発明1における「液晶組成物の全重量に基づいて,第一成分として式(1
-1)及び(式1-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つ
の化合物の5重量%から60重量%,第二成分として式(2-1)で表される
化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物の5重量%から40重量%
…含有し」が,当該「第一成分」と「第二成分」とを総和として液晶組成物の
全重量に基づき「10重量%から100重量%」含有することを意味するとし
た本件審決の判断は誤りであり,これを前提とした一致点の認定も誤りであっ
て,その結果,本件審決は相違点を看過している旨主張する。
しかし,甲1には,「第一成分として式(1-1)及び式(1-2)で表さ
れる化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物の5重量%から60重
量%」,「第二成分として式(2-1)で表される化合物の群から選択された
少なくとも1つの化合物の5重量%から40重量%」及び「第三成分として式
(3-1-1)…で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合
物の20重量%から70重量%」を含有することが記載されており,少なくと
も第三成分を20重量%含有するのであるから,甲1発明1の液晶組成物の全
重量に基づく「第一成分として…選択された少なくとも1つの化合物」及び「第
二成分として…選択された少なくとも1つの化合物」の合計割合が,「10重
量%から80重量%」であることが理解できる。
したがって,本件発明1と甲1発明1とは,一般式(Ⅱ-1)及び(Ⅱ-2)
で表される化合物の含有量が「20から80質量%であり」と組成比の点で一
部重複するものであるから,本件審決が認定した一致点に誤りはなく,相違点
の看過も認められない。
3「本件発明1について相違点に係る判断の誤り」に対し
⑴「特許法29条1項の法令解釈の誤り」に対し
原告は,本件審決が,本件発明1と甲1発明1の相違点を「実質的な相違
点ではない」と判断したことについて,特許法29条1項の「を除き」を,
同項各号記載の発明を除くのみならず,「当該発明との相違点に格別な技術的
意義がない発明」をも除くものとする解釈を前提とする点において誤りであ
る旨主張する。
しかし,本件審決は,甲1発明1として,甲1に記載されている事項及び
甲1に記載されているに等しい事項から把握される発明を適正に認定し,本
件発明1と甲1発明1とを対比して,一致点と一応の相違点(外形上の相違
点)を認定し,一応の相違点が実質的な相違点であるか否かを判断したもの
であり,その結果,一応の相違点が実質的な相違点でないと判断できたこと
から,本件発明1は甲1に記載された発明(甲1発明1)であると結論付け
たにすぎない(すなわち,本件審決は,本件発明1も甲1発明1も事実上の
選択肢を有する発明であり,両者の構成を対比してみても全てが一致するも
のではないことから,当該選択肢中のいずれか一の選択肢を対比した結果を
一応の相違点とし,その一応の相違点が実質上相違点でない旨判断したもの
である。)。
したがって,本件審決がその結論を導くに当たってした特許法29条1項
の解釈に誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。
⑵「相違点は実質的な相違点ではないとした判断の誤り及び相違点は適宜な
し得ることであるとした判断の誤り」に対し
ア相違点1について
(ア)「実質的な相違点ではないとした判断の誤り」に対し
a原告は,甲1には,そもそも本件発明1の式(I)で表される化合
物は記載されておらず,本件発明1の内容を知らない当業者には,当
該化合物は自明でもないことから,相違点1は実質的な相違点である
旨主張する。
しかし,本件発明1の式(I)で表される化合物は,甲13(中国
特許公開第101323596号公報),甲4(国際公開第2012
/053323号)及び甲12(国際公開第2012/046590
号)(優先日は2010年10月4日)の実施例にも含有されており,
本件特許の優先日前には,既に当業者に認識されていたものである。
また,式(3-3-1)で表される化合物(以下「R6
-BB-R7

とも表記する。)において,R6
およびR7
は独立して,「炭素数1か
ら12を有する直鎖のアルキル」であってもよく,現に,甲1には,
記載された第三成分として特に好ましいとされた「式(3-3-1)
で表される化合物」(甲1[0055])は,「5-BB-1」10%
(段落[0096]),「V2-BB-1」5%(段落[0104])及
び「1V2-BB-1」4%(段落[0101])を含有する組成物も
例示されているから,「式(3-3-1)で表される化合物」の両端
のR6
及びR7
が,炭素数1のアルキル及び炭素数3のアルキルである
場合(すなわち,本件発明1の式(I)で表される化合物)が実質的
に開示されているといえる。
そして,甲1発明1の「式(3-3-1)で表される化合物」は,
式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少
なくとも1つの化合物に含まれるから,その含有量も20重量%から
70重量%としてもよいものである。
したがって,相違点1は実質的な相違点ではないから,この点に係
る本件審決の判断に誤りはない。
b原告は,甲1の記載に接した当業者が,本件発明1と同様の課題を
解決するために甲1発明1に着目することはそもそもなく,そのため
の成分化合物として,「式(3)で表される化合物の群から選択され
た少なくとも1つの化合物」に着目し,その中から式(3-3)で表
される化合物であって,R3
がメチルでR4
がプロピルである化合物を
採用して,当該化合物の割合を5から25重量%とすることを思いつ
くことはない旨主張する。
しかし,ここでは,新規性の有無の判断として,本件発明1と甲1
発明1の相違点1が実質的な相違点であるか否かが検討されるべきで
あるのに,当業者が甲1発明1に着目することがないとか,当業者が
式(3-3)で表される化合物であってR3
がメチルでR4
がプロピル
である化合物を採用することを思いつくことはないなどと動機付けに
係る主張をすることは,失当というべきである。
また,原告は,本件発明1の技術的意義が「Δnが低下しない,
Tniが低下しない,ηが十分に小さく,かつ表示不良がない又は抑制
された」の両立にあるのに対し,甲1発明1は同様の技術的意義を有
しないことを,その主張の根拠とするが,本件明細書の記載からは,
本件発明1のそのような技術的意義を認識することはできない。
そして,本件審決が認定するとおり,甲1発明1は,「第三成分と
して式(3-3-1)で表される化合物を含む式(3-1)から式(3
-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合
物20重量%から70重量%…を含有」し,式(3-3-1)におい
て,「R6
およびR7
は独立して,炭素数1から12を有する直鎖のア
ルキルまたは炭素数2から12を有する直鎖のアルケニルである」と
ころ,当該「式(3-3-1)」の化合物において,R6
及びR7
が炭
素数1のアルキル及び炭素数3のアルキルであるものが本件発明1の
「式(I)で表される化合物」に相当し,その含有量も本件発明1と
重複しているのであるから,相違点1が実質的な相違点ではないとし
た本件審決の判断に誤りはない。
c原告は,甲1には,粘度を下げるために好ましい基としてメチル基
は記載されていないことや甲6,16及び17の記載を根拠として,
これらの証拠の記載内容を知る甲1の記載に接した当業者が,液晶組
成物の粘度を下げようとするならば,R3
,R4
としてアルキル,特に
メチル,を採用することはなく,また,ネマチック相の上限温度を上
げようとするならば,R3
,R4
としてアルキルを採用することはない
旨主張する。
しかし,甲6,16及び17の記載にかかわらず,甲1発明1の「式
(3-3-1)」の化合物において,R6
及びR7
が炭素数1のアルキ
ル及び炭素数3のアルキルであるものが本件発明1の「式(I)で表
される化合物」に相当し,その含有量も本件発明1と重複している以
上,相違点1が実質的な相違点ではないとした本件審決の判断に誤り
はない。
(イ)「当業者が適宜なし得ることであるとした判断の誤り」に対し
原告は,本件発明1において,式(Ⅰ)で表される化合物を液晶組成
物の総量に対して5~25(質量)%としたことには格別な技術的意義
が存するから,相違点1は当業者が適宜なし得ることではない旨主張す
る。
しかし,原告が本件発明1の技術的意義であると主張する「Δnが低
下しない,Tniが低下しない,ηが十分に小さく,かつ表示不良がない
又は抑制された」の両立なるものは,本件明細書の記載からは認識でき
ないことであり,本件発明1の上記構成に「格別な技術的意義が存する」
とはいえないから,原告の上記主張は明細書の記載に基づくものではな
い。
また,甲1には,第三成分について,「化合物(3)は粘度を下げる
または上限温度を上げる。」(段落[0039]),「特に好ましい化合
物(3)は,化合物(3-1-1),化合物(3-3-1),…化合物
(3-10-1)」(段落[0055])と記載され,化合物(3-3-
1)において,「R6
およびR7
は独立して,炭素数1から12を有する
直鎖のアルキル…」(段落[0054])とされている。加えて,甲1に
は,1,4-シクロへキシレンのない化合物(3-3-1)の例として
「5-BB-1」(段落[0096]),「V2-BB-1」(段落[00
98]),「1V2-BB-1」(段落[0101]),「V2-BB-1」
(段落[0104])を用いることが具体的に示され,更に,「好ましい
アルキルは,メチル,エチル,プロピル…。さらに好ましいアルキルは,
粘度を下げるためにエチル,プロピル…」(段落[0046])との記載
もあるのであるから,甲1には,化合物(3-3-1)において,粘度
を下げるために好ましいメチル及びプロピルを選択することも実質的に
開示されているに等しく,当業者ならば適宜なし得ることといえる。
さらに,甲5(特開昭59-219382号公報),甲6及び甲7
(「PhysicalPropertiesofDiarylalkanes」と題する論文)の記載に
よれば,液晶化合物において,アルキル鎖の炭素数の少ない方が粘度が
低いことは,本件特許の優先日前に周知なことであるところ,甲1発明
1は低粘度の液晶組成物を提供することを目的としており,甲1には,
式(3-3),式(3-3-1)において「R3
は好ましくは,メチル,
エチル,プロピル,…オクチルである」とされていることからすると,
甲1発明1において,粘度を低くするという観点からは,R3
(R6
)と
して炭素数の少ないものを選ぶはずであり,メチル,エチル,プロピル
と炭素数の少ない順に検討した結果,メチル及びプロピルを選ぶこと,
すなわち,式(3-3-1)で表される化合物のR6
及びR7
としてメチ
ル及びプロピルを選択することは,当業者ならば適宜なし得ることとい
える。特に,甲1には,上記のとおり,式(3-3-1)で表される化
合物の具体例として,R7
がメチルであるもの(「5-BB-1」及び「V
2-BB-1」)が示されているから,更にR6
としてプロピルを選択す
ることは,当業者ならば適宜なし得ることである。
したがって,相違点1について,当業者が適宜なし得ることであると
した本件審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張には理由がない。
イ相違点3について
(ア)原告は,甲1には,甲1発明1において充足されるべきものとされ
る「少なくとも1つの特性」が「小さな粘度」のみを意味する旨あるい
は「少なくとも2つの特性」の1つが必ず「小さな粘度」である旨の記
載はなく,甲1発明1自体の粘度の数値範囲の記載もないことなどから,
「甲1発明1は,解決課題として「小さな粘度」の液晶組成物の提供を
意図するものであ」るとする本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,甲1には,実施例1~8の液晶組成物の粘度が,比較例1か
ら6のそれと比べて小さいバルク粘度を有すること(段落[0105])
が記載され,実施例1~8では,10.3mPa・s(実施例8)~1
2.6mPa・s(実施例5)の粘度の数値範囲が具体的に記載されて
いるのであるから,このような甲1の記載全体からすれば,甲1記載の
発明と認められる液晶組成物について,「小さな粘度」を実現すること
が技術課題とされており,その粘度が,上記実施例の範囲と同程度のも
のであることは,当業者であれば理解することができる。
したがって,本件審決の上記判断に誤りはない。
(イ)また,原告は,本件審決について,本件発明1における「20℃に
おける粘度(η)が10から30mPa・sの範囲であ…ること」の技
術的意義について,甲1発明1自体の技術的意義との対比ではなく,甲
1発明1とは特定事項の異なる複数の発明である実施例1~8の液晶組
成物の発明や比較例6などの液晶組成物の発明との対比に基づいて,本
件発明1における上記構成に「格別な技術的意義が存するものとは認め
られない」と判断した点に誤りがある旨主張する。
しかし,上記(ア)のとおり,甲1において「小さな粘度」を実現する
という技術課題が把握され,甲1発明1の粘度が実施例や比較例の範囲
と同程度であることが理解されることからすれば,本件発明1において,
「20℃における粘度(η)が10から30mPa・sの範囲であ」る
とする構成は,従来技術に係るものであって,格別な技術的意義が存す
るとは認められないから,本件審決の上記判断に誤りはない。
ウ相違点5について
原告は,本件発明1において,「塩素原子を有する液晶化合物を含有しな
い」ものとすることには,「表示不良が抑制される」という技術的意義があ
るのに対し,甲1には,これについての記載がないから,甲1発明1にお
いて,塩素原子を有する液晶化合物を含有しないものとすることは,当業
者が適宜なし得ることではない旨主張する。
しかし,本件審決が認定するとおり,甲1発明1では,塩素原子を有す
る液晶化合物の使用につき,発明の構成に必要な技術事項として規定され
ているものではなく,また,甲1には,塩素原子を有する液晶化合物を使
用しない液晶組成物に係る具体例も記載されている(…[実施例1],[実
施例2]及び[実施例4]ないし[実施例7]参照…)のであるから,甲1
発明1には,塩素原子を有する液晶化合物を使用しない液晶組成物に係る
態様,すなわち,塩素原子を有する液晶化合物の含有量が実質的に0%で
ある液晶組成物に係る態様も包含されているものと認められる。
したがって,甲1発明1は,本件発明1と同様に,塩素原子を有する液
晶化合物を含有しないことによって「表示不良が抑制される」という技術
的意義を有するものであるから,原告の上記主張は理由がない。
エ本件発明1の効果について
原告は,本件発明1の効果が,「Δεが負の液晶組成物において,Δn
が低下しない,Tniが低下しない,十分に粘度が低い,かつ表示不良が抑
制される」の両立であるのに対し,甲1発明1の効果は,「少なくとも1
つの特性を充足する液晶組成物」あるいは「少なくとも2つの特性に関し
て適切なバランスをとる液晶組成物」であるから,本件発明1の効果は,
甲1発明1の効果に比して特別顕著なものである旨主張する。
しかし,本件発明1の技術的意義が「Δnが低下しない,Tniが低下し
ない,ηが十分に小さく,かつ表示不良がない又は抑制された」の両立に
あることは,本件明細書の記載から認識することができないし,甲1発明
1においては,従来技術に比べても小さいバルク粘度が得られているので
あるから,本件発明1の効果は,甲1に実質的に開示されていることであ
る。
したがって,本件発明1の効果が甲1発明1の効果に比して特別顕著な
ものであるとはいえず,原告の上記主張は理由がない。
4「本件発明2~5,7~11についての認定・判断の誤り」に対し
(1)本件発明1に係る各取消事由にいずれも理由がないことは既に述べたとお
りであるから,これらの取消事由が本件発明2~5,7~11についても当
てはまる旨の原告の主張には理由がない。
(2)本件発明2~5について
ア本件発明2について
原告は,本件審決で認定される甲1発明1は「「式(3-5)」で表さ
れる化合物を更に使用すること」を特定事項とはしておらず,「第三成分
として…式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択
された少なくとも1つの化合物」の意味が「「式(3-5)」で表される
化合物を更に使用すること」と当然に同じであるとはいえないから,「甲
1発明1では,第三成分として「式(3-5)」で表される化合物を更に
使用することも開示されている」とする本件審決の認定は誤りであり,そ
の結果,本件審決には本件発明2と甲1発明1との相違点を看過した誤り
がある旨主張する。
しかし,審決が認定した甲1発明1は「第三成分として式(3-3-1)
で表される化合物を含む式(3-1)から式(3-10)で表される化合
物の群から選択された少なくとも1つの化合物…を…含有」するものであり,
甲1には,「さらに好ましい化合物(3)は,…,化合物(3-3-1),
化合物(3-5-1),…である。」(段落[0055])として,式(3
-5)で表される化合物の下位である化合物(3-5-1)が示され,更
に,実施例4では,化合物(3-5-1)として,「3-HHB-3」(式
(3-5-1)において,R6
が炭素数3,R5
が炭素数3であるもの)が,
実施例6では,「3-HHB-1」(式(3-5-1)において,R6
が炭
素数3,R5
が炭素数1であるもの)が用いられている。そして,「式(3
-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくと
も1つの化合物」は,式(3-3)及び式(3-5)の組合せをも含んで
いるから,甲1発明1は,式(3-3)で表される化合物だけの場合のみ
ならず,「式(3-5)」で表される化合物を更に使用することをも意味
していることは明らかである。
したがって,本件審決の上記認定に誤りはなく,原告の上記主張は理由
がない。
イ本件発明3~5について
原告は,「甲1には,…「式(1-1)」で表される化合物,「式(1
-2)」で表される化合物,「式(2-1)」で表される化合物及び「式
(3-1-1)」で表される化合物を併用含有してなる液晶組成物につい
ても記載されている」とする本件審決の認定は誤りであり,その結果,本
件審決には本件発明3~5と甲1発明1との相違点を看過した誤りがある
旨主張する。
しかし,本件発明3は,本件発明1において,①「式(I),一般式(Ⅱ
-1A),一般式(Ⅱ-2A)」及び②「一般式(Ⅲ-A)」を同時に含
有する点を特定する発明であり,上記①については,本件発明1において
検討された技術的事項であるから,本件発明1において,更に一般式(Ⅲ
-A)を含有する点が特定されたものと理解することができる。
しかるところ,甲1発明1は,第三成分として式(3-1)から式(3
-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を
含有するものであり,当該化合物は,式(3-1)及び式(3-3)の組
合せをも含んでいるから,甲1発明1は,式(3-3-1)で表される化
合物だけの場合のみならず,「式(3-1)」と「式(3-3-1)」で
表される化合物を更に使用することをも意味していることは明らかである。
そして,甲1発明1の式(1-1),式(2-1)のR5
がアルコキシの
場合,これらは順に本件発明3の一般式(Ⅱ-1A),一般式(Ⅱ-2A)
に相当し,また,甲1発明1の式(3-1)は本件発明3の一般式(Ⅲ-
A)に相当するから,本件発明3と甲1発明1との間には相違点1ないし
5以外の新たな相違点はないものといえる。なお,本件発明4及び5は,
本件発明3の上記①が,それぞれ「式(I),一般式(Ⅱ-1B),一般
式(Ⅱ-2A)」及び「式(I),一般式(Ⅱ-1A),一般式(Ⅱ-1
B),一般式(Ⅱ-2A)」に置き換わっただけであるから,本件発明3
について述べたことが同様に当てはまる。
したがって,本件審決が,本件発明3~5と甲1発明1との相違点を看
過しているとはいえず,原告の上記主張は理由がない。
ウ本件発明7について
原告は,甲1には,そもそも「液晶表示素子とした際の焼き付きなどの
表示不良を防止すること」や「液晶表示素子とした際の焼き付きなどの表
示不良」が「液晶組成物におけるアルケニル基を有する液晶化合物」によ
ることが記載されていないとした上で,本件発明7と甲1発明1の相違点
6について,甲1発明1に甲8記載の当業者に知られた技術事項を組み合
わせることにより当業者が適宜なし得るとした本件審決の判断は誤りであ
る旨主張する。
しかし,甲1には,紫外線又は熱に対する安定性(VHR-2,VHR
-3)の値,すなわち,液晶表示素子の寿命が長いこと及び正常な表示品
位が長時間維持されることが示されているから,実質的には,液晶表示素
子につき,「表示不良がない又は抑制する」ことが記載されていることは
明らかである。
また,本件明細書の段落【0014】には,アルケニル化合物を含む液
晶組成物の表示不良への影響について,従来から検討されていたことが記
載されており,この記載は,表示不良の原因となるアルケニル化合物を減
らす,ないしは0とすることが検討されていたことを意味している。そし
て,本件特許の優先日前の周知技術を示す甲8(国際公開第2010/1
19779号)の実施例12にも,誘電率異方性Δεが-3.3である液
晶組成物LC-6として,アルケニル基を含んでいないもの([0117]
~[0120])が記載されている。
このように,甲1の技術課題が,VHRが高く,表示不良を起こさない
液晶表示素子の提供にあることが認められ,他方,甲8等に示されるとお
り,液晶組成物において,表示不良の原因となるアルケニル化合物を減ら
す,ないし0とすることが本件特許の優先日前の周知技術であることから
すれば,相違点6は,甲1発明1に甲8記載の周知技術を組み合わせるこ
とにより当業者が適宜なし得たことといえる。
したがって,本件審決の上記判断に誤りはなく,原告の上記主張は理由
がない。
エ本件発明8について
原告は,本件発明8と甲1発明1とを対比すると,前者が,必ず「重合
性化合物を含有する」ものであるのに対し,甲1発明1は,「重合可能な基
を有する化合物」を必ず含有するものではない点においても相違するから,
本件審決には,当該相違点を看過した誤りがある旨主張する。
しかし,本件審決は,甲1発明1につき,本件発明8との対比のために
「重合可能な基を有する化合物を含有する」ことを「更に必要に応じて」
として認定したものである。そうすると,「重合性化合物を含有する」点
は,本件発明8と甲1発明1との相違点とはいえないから,本件審決の判
断に誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。
第5当裁判所の判断
1本件発明について
(1)本件明細書の記載
本件明細書(甲21)には,次の記載がある。
ア技術分野
【0001】本発明は液晶表示材料として有用な誘電率異方性(Δε)
が負の値を示すネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子に関
する。
イ背景技術
【0002】液晶表示素子は,時計,…テレビ等に用いられている。液
晶表示方式としては,その代表的なものにTN(捩れネマチック)型,S
TN(超捩れネマチック)型,DS(動的光散乱)型,GH(ゲスト・ホ
スト)型,IPS(インプレーンスイッチング)型,OCB(光学補償複
屈折)型,ECB(電圧制御複屈折)型,VA(垂直配向)型,CSH(カ
ラースーパーホメオトロピック)型,あるいはFLC(強誘電性液晶)等
を挙げることができる。また駆動方式としてもスタティック駆動,マルチ
プレックス駆動,単純マトリックス方式,TFT(薄膜トランジスタ)や
TFD(薄膜ダイオード)等により駆動されるアクティブマトリックス(A
M)方式を挙げることができる。
【0003】これらの表示方式において,IPS型,ECB型,VA型,
あるいはCSH型等は,Δεが負の値を示す液晶材料を用いるという特徴
を有する。これらの中で特にAM駆動によるVA型表示方式は,高速で広
視野角の要求される表示素子,例えばテレビ等の用途に使用されている。
【0004】VA型等の表示方式に用いられるネマチック液晶組成物に
は,低電圧駆動,高速応答及び広い動作温度範囲が要求される。すなわち,
Δεが負で絶対値が大きく,低粘度であり,高いネマチック相-等方性液
体相転移温度(Tni)が要求されている。また,屈折率異方性(Δn)と
セルギャップ(d)との積であるΔn×dの設定から,液晶材料のΔnを
セルギャップに合わせて適当な範囲に調節する必要がある。加えて液晶表
示素子をテレビ等へ応用する場合においては高速応答性が重視されるため,
粘度(η)の低い液晶材料が要求される。
【0005】これまでは,Δεが負でその絶対値の大きな化合物を種々
検討することにより液晶組成物の特性を改良してきた。
【0006】Δεが負の液晶材料として,以下のような2,3-ジフル
オロフェニレン骨格を有する液晶化合物(A)及び(B)…を用いた液晶
組成物が開示されている。
【0007】
【化1】
【0008】この液晶組成物は,Δεがほぼ0である化合物として液晶
化合物(C)及び(D)を用いているが,この液晶組成物は,液晶テレビ
等の高速応答が要求される液晶組成物においては十分に低い粘性を実現す
るに至っていない。
【0009】
【化2】
【0010】一方,式(E)で表される化合物を用いた液晶組成物も既
に開示されているが,上記の液晶化合物(D)を組み合わせたΔnが小さ
い液晶組成物…や応答速度の改善のために液晶化合物(F)のようにアル
ケニル基を分子内に有する化合物(アルケニル化合物)を添加した液晶組
成物…であり,高Δnと高信頼性を両立させるには更なる検討が必要であ
った。
【0011】
【化3】
【0012】また,式(G)で表される化合物を用いた液晶組成物は既
に開示されている…が,この液晶組成物も上記の液晶化合物(F)のよう
にアルケニル化合物を含む化合物を含有した液晶組成物であるため,焼き
付きや表示ムラ等の表示不良が発生し易い弊害があった。
【0013】
【化4】
【0014】なお,アルケニル化合物を含む液晶組成物の表示不良への
影響については既に開示されている…が,一般的にはアルケニル化合物の
含有量が減少すると液晶組成物のηが上昇し,高速応答の達成が困難にな
るため,表示不良の抑制と高速応答の両立が困難であった。
【0015】このようにΔεが負の値を示す化合物と液晶化合物(C),
(D)及び(F)を組み合わせるのみでは,高いΔnと低いηを両立させ,
なおかつ,表示不良のない又は抑制されたΔεが負の液晶組成物の開発は
困難であった。
【0016】ここで,式(A)及び式(G)にΔεがほぼゼロである式
(I)を組み合わせた液晶組成物…が開示されている。しかし液晶表示素
子の製造工程では液晶組成物を液晶セルに注入する際に極低圧とするため
蒸気圧が低い化合物は揮発してしまうため,その含有量を増やすことが出
来ないと考えられていた。このため,該液晶組成物は式(I)の含有量を
限定してしまっており,大きなΔnを示すものの,粘度が著しく高いとい
う問題があった。従って,高Δnと低粘度の両立が求められていた。
【0017】
【化5】
ウ発明が解決しようとする課題
【0019】本発明が解決しようとする課題は,ΔnおよびTniを低下
させることなく,ηが十分に小さく,Δεが負でその絶対値が大きな液晶
組成物を提供し,更にこれを用いたVA型等の表示不良がない又は抑制さ
れた液晶表示素子を提供することにある。
エ課題を解決するための手段
【0020】~【0023】本発明者は,種々のビフェニル誘導体及び
フルオロベンゼン誘導体を検討し,特定の化合物を組み合わせることによ
り前記課題を解決することができることを見出し,本発明を完成するに至
った。
本発明は,第一成分として,式(I)
【化6】
で表される化合物を含有し,その含有量は5から25%であり,第二成分
として,誘電率異方性(Δε)が負でその絶対値が3よりも大きな化合物
を含有する液晶組成物を提供し,また,これを用いた液晶表示素子を提供
する。
オ発明の効果
【0024】本発明のΔεが負の液晶組成物は,Δn及びTniを低下さ
せることなく,十分に粘度が低いため,これを用いたVA型等の液晶表示
素子は高速応答であり,表示不良が抑制されるため,非常に有用である。
カ発明を実施するための形態
【0054】…式(I),一般式(II-1A),(II-1B),(I
I-2A),一般式(III-A)及び一般式(IV)を同時に含有する
重合性化合物含有液晶組成物は高Δnと低粘性を達成しており,これを用
いてPSAモード又はPSVAモードの液晶表示素子にした場合,高Δn
に対応した狭ギャップと液晶組成物の低粘度から高速応答が実現でき,ま
た,表示ムラが抑制されるか,又は,全く発生しないという優れた特徴が
ある。
【0055】また,通常のネマチック液晶,スメクチック液晶として,
アルケニル基を有する液晶化合物を含有した方が液晶組成物の粘度低下に
は効果があり,高速応答に有用であるが,VHRの低下を引き起こし,表
示不良を誘発してしまうため,応答速度を重視するのか,信頼性を重視す
るのかで使い分ける必要がある。特に表示不良を抑制したい場合はアルケ
ニル基を有する液晶化合物の含有量を減らすか,又は含有しないことが重
要である。その含有量としては,10%未満が好ましく,5%未満がより
好ましく,含有しないことが特に好ましい。ここで含有しないとは積極的
に添加しないことを意味し,製造時の不純物等不可避的に含有するものを
含まないことを意味し,0.5%以下が好ましく,0.1%以下が好まし
く,測定限界(ガスクロマトグラフィーによる測定では10ppm程度)
以下が好ましい。
【0056】また,塩素基を有する液晶化合物を含有した液晶組成物が
開示されているが,信頼性を著しく損ない,表示不良を引き起こす。この
ため,塩素基を有する液晶化合物の含有量を減らすか,又は含有しないこ
とが重要である。その含有量としては,10%未満が好ましく,5%未満
がより好ましく,含有しないことが特に好ましい。ここで含有しないとは
積極的に添加しないことを意味し,製造時の不純物等不可避的に含有する
ものを含まないことを意味し,0.5%以下が好ましく,0.1%以下が
好ましく,測定限界(ガスクロマトグラフィーによる測定では10ppm
程度)以下が好ましい。
【0057】本発明の液晶組成物を用いた液晶表示素子は高速応答と表
示不良の抑制を両立させた有用なものであり,特に,アクティブマトリッ
クス駆動用液晶表示素子に有用であり,VAモード,PSVAモード,P
SAモード,IPSモード又はECBモード用に適用できる。
キ実施例
【0058】~【0060】…以下の実施例及び比較例の組成物におけ
る「%」は『質量%』を意味する。
実施例中,測定した特性は以下の通りである。
Tni:ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)
Δn:25℃における屈折率異方性
Δε:25℃における誘電率異方性
η:20℃における粘度(mPa・s)
【0060】~【0063】(実施例1)
以下に,調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【化13】
実施例1に示すネマチック液晶組成物の物性値は,Tni:75.5℃,
Δn:0.108,Δε:-3.0,η:16.3mPa・sであった。
また,本液晶組成物を使用した液晶表示素子の応答速度を測定したところ,
9.3msecであった。更に,電圧保持率(VHR)を測定し,高いV
HRを有していることが確認された。なお,セル厚は3.5um,配向膜
はJALS2096であり,応答速度の測定条件は,Vonは5.5V,
Voffは1.0V,測定温度は20℃で,AUTRONIC-MELC
HERS社のDMS301を用いた。VHRの測定条件は電圧5V,周波
数60Hz,温度60℃で,東陽テクニカ株式会社のVHR-1を用いた。
また,液晶セル注入の条件(圧力及びODF法)を変えても物性値に変
化は見られなかった。
【0063】~【0065】(比較例1)
以下に,調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【化14】
比較例1に示すネマチック液晶組成物の物性値は,Tni:74.7℃,
Δn:0.109,Δε:-3.0,η:17.3mPa・sであった。
参考文献6に記載の実施例2のように式(I)で表される化合物が2%含
有している場合,実施例1よりも粘度が高い。従って,本発明の請求範囲
である式(I)を5から20%含有することは,本発明の効果を得るため
に非常に重要であることがわかる。また,本液晶組成物を使用した液晶表
示素子の応答速度を測定したところ,10.5msecであった。
【0065】~【0068】(比較例2)
比較例1では式(I)で表される化合物を2%含有する液晶表示組成物
の例を示したが,この式(I)で表される化合物を使用せず,側鎖の炭素
原子数が多い式(III-F)のR5
がペンチル基,R6
がメチル基である
化合物の含有量を13%から15%に増加させた液晶組成物を調製した。
その物性値を示す。
【化15】
比較例2に示すネマチック液晶組成物は本発明の式(I)を含まず,そ
の物性値は,Tni:75.0℃,Δn:0.109,Δε:-3.0,η:
17.6mPa・sであった。式(I)で表される化合物を2%含有する
比較例1及び式(I)で表される化合物を含有しない比較例2の物性値を,
実施例1と比較すると,Tni,Δn及びΔεはほぼ同等の値となったが,
ηは比較例1で6%,比較例2で7%上昇した。
これにより本発明のように式(I)で表される化合物の含有量を増加さ
せることによりΔεが負の化合物を含有する液晶組成物はΔnとTniを
低下させることなく,ηを改善できることがわかった。
【0068】~【0070】(実施例2)
以下に,調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【化16】
実施例2に示すネマチック液晶組成物の物性値は,Tni:71.2℃,
Δn:0.115,Δε:-2.7,η:15.5mPa・sであった。
【0070】~【0072】(実施例3)
以下に,調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【化17】
実施例3に示すネマチック液晶組成物の物性値は,Tni:75.3℃,
Δn:0.095,Δε:-3.2,η:15.3mPa・sであった。
【0072】~【0074】(実施例4)
実施例1に示すネマチック液晶組成物99.7%に対して,式(IV-
a)
【化18】
で示される重合性化合物を0.3%添加し均一溶解することにより重合性
液晶組成物CLC-1を調製した。CLC-1の物性は実施例1に示すネ
マチック液晶組成物の物性とほとんど違いはなかった。CLC-1をセル
ギャップ3.5μmでホメオトロピック配向を誘起するポリイミド配向膜
を塗布したITO付きセルに真空注入法で注入した。このセルのプレチル
ト角(クリスタルローテーション法)を測定した後,周波数1kHzで1.
8Vの矩形波を印加しながら,320nm以下の紫外線をカットするフィ
ルターを介して,高圧水銀灯により液晶セルに紫外線を照射した。セル表
面の照射強度が10mW/cm2
となるように調整して600秒間照射し
て,重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させた垂直配向性液晶表示
素子を得た。重合性化合物が重合することにより,液晶化合物に対する配
向規制力が生じていることが確認できた。また,垂直配向性液晶表示素子
は優れた光学特性及び高速応答性を有していることを確認した。
【0074】~【0076】(実施例5)
実施例1に示すネマチック液晶組成物99.7%に対して,式(IV
-b)
【化19】
で示される重合性化合物を0.3%添加し均一溶解することにより重合性
液晶組成物CLC-2を調製した。CLC-2の物性は実施例1に示すネ
マチック液晶組成物の物性とほとんど違いはなかった。CLC-2をセル
ギャップ3.5μmでホメオトロピック配向を誘起するポリイミド配向膜
を塗布したITO付きセルに真空注入法で注入した。このセルのプレチル
ト角(クリスタルローテーション法)を測定した後,周波数1kHzで1.
8Vの矩形波を印加しながら,320nm以下の紫外線をカットするフィ
ルターを介して,高圧水銀灯により液晶セルに紫外線を照射した。セル表
面の照射強度が10mW/cm2
となるように調整して600秒間照射し
て,重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させた垂直配向性液晶表示
素子を得た。重合性化合物が重合することにより,液晶化合物に対する配
向規制力が生じていることが確認できた。また,垂直配向性液晶表示素子
は優れた光学特性及び高速応答性を有していることを確認した。
【0076】~【0078】(実施例6)
実施例1に示すネマチック液晶組成物99.7%に対して,式(IV
-c)
【化20】
で示される重合性化合物を0.3%添加し均一溶解することにより重合性
液晶組成物CLC-3を調製した。CLC-3の物性は実施例1に示すネ
マチック液晶組成物の物性とほとんど違いはなかった。CLC-3をセル
ギャップ3.5μmでホメオトロピック配向を誘起するポリイミド配向膜
を塗布したITO付きセルに真空注入法で注入した。このセルのプレチル
ト角(クリスタルローテーション法)を測定した後,周波数1kHzで1.
8Vの矩形波を印加しながら,320nm以下の紫外線をカットするフィ
ルターを介して,高圧水銀灯により液晶セルに紫外線を照射した。セル表
面の照射強度が10mW/cm2
となるように調整して600秒間照射し
て,重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させた垂直配向性液晶表示
素子を得た。重合性化合物が重合することにより,液晶化合物に対する配
向規制力が生じていることが確認できた。また,垂直配向性液晶表示素子
は優れた光学特性及び高速応答性を有していることを確認した。
(2)本件訂正後の特許請求の範囲の記載(前記第2の2)及び本件明細書の上
記記載によれば,本件発明は,次の特徴を有するものと認められる。
ア技術分野
本件発明は液晶表示材料として有用な誘電率異方性(Δε)が負の値を
示すネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子に関するもので
ある(【0001】)。
イ背景技術
液晶表示方式の代表的なものにIPS型,ECB型,VA型等があり,
駆動方式としてアクティブマトリックス(AM)方式等があるが(【00
02】),これらの表示方式は,Δεが負の値を示す液晶材料を用いると
いう特徴を有し,特にAM駆動によるVA型表示方式は,高速で広視野角
の要求される表示素子の用途に使用されているところ(【0003】),V
A型等の表示方式に用いられるネマチック液晶組成物には,低電圧駆動,
高速応答及び広い動作温度範囲,すなわち,Δεが負で絶対値が大きく,
粘度(η)が低く,高いネマチック相-等方性液体相転移温度(Tni)が
要求されており,また,屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との
積であるΔn×dの設定から,液晶材料のΔnをセルギャップに合わせて
適当な範囲に調節する必要もある(【0004】)。
これまでは,Δεが負でその絶対値の大きな化合物を種々検討すること
により液晶組成物の特性を改良してきたが(【0005】),高いΔnと
低いηを両立させ,なおかつ,表示不良のない又は抑制されたΔεが負の
液晶組成物の開発は困難であった(【0015】)。また,Δεがほぼゼ
ロである式(I)を組み合わせた液晶組成物が開示されているが,該液晶
組成物は式(I)の含有量を増やすことができず,大きなΔnを示すもの
の,粘度が著しく高いという問題があり,高Δnと低粘度の両立が求めら
れていた(【0016】,【0017】)。
ウ発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は,ΔnおよびTniを低下させること
なく,ηが十分に小さく,Δεが負でその絶対値が大きな液晶組成物を提
供し,更にこれを用いたVA型等の表示不良がない又は抑制された液晶表
示素子を提供することにある(【0019】)。
エ課題を解決するための手段
本件発明の発明者は,特定の化合物を組み合わせることにより前記課題
を解決することができることを見出し,本件発明を完成するに至った。す
なわち,本件発明は,第一成分として,式(I)で表される化合物を含有
し,その含有量が5から25%であり,第二成分として,誘電率異方性(Δ
ε)が負でその絶対値が3よりも大きい,一般式(II-1)及び(II
-2)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有
し,その含有量が20から80質量%であり,該第二成分として一般式(I
I-1A),(II-1B)及び(II-2A)で表される化合物群から
選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し,25℃におけるΔεが-2.
0から-6.0の範囲であり,25℃における屈折率異方性(Δn)が0.
08から0.12の範囲であり,20℃における粘度(η)が10から3
0mPa・sの範囲であり,ネマチック相-等方性液体相転移温度(Tni)
が60から120℃の範囲であることを特徴とする液晶組成物であって,
第三成分としてさらに,一般式(III-A),(III-D),(II
I-F),(III-G)及び(III-H)で表される化合物群から選
ばれる化合物を1種又は2種以上含有し,塩素原子で置換された液晶化合
物を含有しない液晶組成物を提供し,また,これを用いた液晶表示素子を
提供するものである(各式の内容は,前記第2の2の【請求項1】記載の
とおり)。(【請求項1】,【0020】~【0023】)
オ発明の効果
本件発明のΔεが負の液晶組成物は,Δn及びTniを低下させることな
く,十分に粘度が低いため,これを用いたVA型等の液晶表示素子は高速
応答であり,表示不良が抑制されるため,非常に有用である(【0024】)。
2引用発明(甲1発明1)の認定の誤りについて
(1)甲1の記載
甲1には,次の記載がある。
ア請求の範囲
[請求項1]第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択さ
れた少なくとも1つの化合物,および第二成分として式(2)で表される
化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し,そして負の
誘電率異方性を有する液晶組成物。
ここで,R1
およびR2
は独立して,炭素数1から12のアルキル,炭素
数1から12のアルコキシ,炭素数2から12のアルケニル,または任意
の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;
mは1または2である。
[請求項2]液晶組成物の全重量に基づいて,第一成分の割合が5重量%
から60重量%の範囲であり,そして第二成分の割合が5重量%から40
重量%の範囲である請求項1に記載の液晶組成物。
[請求項3]第三成分として式(3)で表される化合物の群から選択さ
れた少なくとも一つの化合物をさらに含有する,請求項1または2に記載
の液晶組成物。
ここで,R3
およびR4
は独立して,炭素数1から12のアルキル,炭素
数1から12のアルコキシ,炭素数2から12のアルケニル,または任意
の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;
環A,環B,および環Cは独立して,1,4-シクロへキシレン,1,4
-フェニレン,2-フルオロ-1,4-フェニレン,3-フルオロ-1,
4-フェニレン,または2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンであ
り;Z1
は独立して,単結合,エチレン,またはカルボニルオキシであ
り;jは,0,1,または2である。
[請求項4]第三成分が式(3-1)から式(3-10)で表される化
合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である請求項3に記載の
液晶組成物。
ここで,R3
およびR4
は独立して,炭素数1から12のアルキル,炭素
数1から12のアルコキシ,炭素数2から12のアルケニル,または任意
の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。
[請求項5]第三成分が式(3-1)で表される化合物の群から選択さ
れた少なくとも1つの化合物である請求項4に記載の液晶組成物。
[請求項6]第三成分が式(3-5)で表される化合物の群から選択さ
れた少なくとも1つの化合物である請求項4に記載の液晶組成物。
[請求項7]第三成分が式(3-10)で表される化合物の群から選択
された少なくとも1つの化合物である請求項4に記載の液晶組成物。
[請求項8]第三成分が,式(3-1)で表される化合物の群から選択
された少なくとも1つの化合物,および式(3-5)で表される化合物の
群から選択された少なくとも1つの化合物の混合物である請求項4に記載
の液晶組成物。
[請求項9]液晶組成物の全重量に基づいて,第三成分の割合が20重
量%から70重量%の範囲である請求項3から8のいずれか1項に記載の
液晶組成物。
[請求項10]第四成分として式(4-1)および式(4-2)で表さ
れる化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物をさらに含有する,
請求項1から9のいずれか1項に記載の液晶組成物。
ここで,R1
およびR2
は独立して,炭素数1から12のアルキル,炭素数
1から12のアルコキシ,炭素数2から12のアルケニル,または任意の
水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;環
Dおよび環Eは独立して,1,4-シクロへキシレン,または1,4-フ
ェニレンであり;Z2
およびZ3
は独立して,単結合,エチレン,メチレン
オキシ,またはカルボニルオキシであり;X1
およびX2
は独立して,フッ
素または塩素であり;kは,1,2,または3であり;pおよびqは独立
して,0,1,2,または3であり,そしてpとqとの和が3以下である。
[請求項11]第四成分が,式(4-1-1)から式(4-1-2),
および式(4-2-1)から式(4-2-4)で表される化合物の群から
選択された少なくとも1つの化合物である請求項10に記載の液晶組成物。
ここで,R1
およびR2
は独立して,炭素数1から12のアルキル,炭素
数1から12のアルコキシ,炭素数2から12のアルケニル,または任意
の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;
環D1
,環D2
,環E1
,および環E2
は独立して,1,4-シクロへキシ
レンまたは1,4-フェニレンであり;Z2
およびZ3
は独立して,単結
合,エチレン,メチレンオキシ,またはカルボニルオキシである。
[請求項12]第四成分が式(4-1-1)で表される化合物の群から
選択された少なくとも1つの化合物である請求項11に記載の液晶組成
物。
[請求項13]第四成分が式(4-1-2)で表される化合物の群から
選択された少なくとも1つの化合物である請求項11に記載の液晶組成
物。
[請求項14]第四成分が式(4-2-3)で表される化合物の群から
選択された少なくとも1つの化合物である請求項11に記載の液晶組成
物。
[請求項15]液晶組成物の全重量に基づいて,第四成分の割合が5重
量%から40重量%の範囲である請求項10から14のいずれか1項に記
載の液晶組成物。
[請求項16]ネマチック相の上限温度が70℃以上であり,波長58
9nmにおける光学異方性(25℃)が0.08以上であり,そして周波
数1kHzにおける誘電率異方性(25℃)が-2以下である請求項1か
ら15のいずれか1項に記載の液晶組成物。
[請求項17]請求項1から16のいずれか1項に記載の液晶組成物を
含有する液晶表示素子。
[請求項18]液晶表示素子の動作モードが,VAモード,IPSモー
ド,またはPSAモードであり,液晶表示素子の駆動方式がアクティブマ
トリックス方式である請求項17に記載の液晶表示素子。
イ技術分野
[0001]本発明は,主としてAM(activematrix)素子などに適
する液晶組成物およびこの組成物を含有するAM素子などに関する。特に,
誘電率異方性が負の液晶組成物に関し,この組成物を含有するIPS(in-
planeswitching)モード,VA(verticalalignment)モードまたはP
SA(polymersustainedalignment)モードの素子に関する。
ウ背景技術
[0002]~[0004]液晶表示素子…は適切な特性を有する液晶
組成物を含有する。この液晶組成物はネマチック相を有する。良好な一般
的特性を有するAM素子を得るには組成物の一般的特性を向上させる。2
つの一般的特性における関連を下記の表1にまとめる。組成物の一般的特
性を市販されているAM素子に基づいてさらに説明する。ネマチック相の
温度範囲は,素子の使用できる温度範囲に関連する。ネマチック相の好ま
しい上限温度は約70℃以上であり,そしてネマチック相の好ましい下限
温度は約-10℃以下である。組成物の粘度は素子の応答時間に関連する。
素子で動画を表示するためには短い応答時間が好ましい。したがって,組
成物における小さな粘度が好ましい。低い温度における小さな粘度はより
好ましい。
[0005]組成物の光学異方性は,素子のコントラスト比に関連する。
組成物の光学異方性(Δn)と素子のセルギャップ(d)との積(Δn×
d)は,コントラスト比を最大にするように設計される。適切な積の値は
動作モードの種類に依存する。VAモードの素子では約0.30μmから
約0.40μmの範囲,IPSモードの素子では約0.20μmから約0.
30μmの範囲である。この場合,小さなセルギャップの素子には大きな
光学異方性を有する組成物が好ましい。組成物における絶対値の大きな誘
電率異方性は素子における低いしきい値電圧,小さな消費電力と大きなコ
ントラスト比に寄与する。したがって,絶対値の大きな誘電率異方性が好
ましい。組成物における大きな比抵抗は,素子における大きな電圧保持率
と大きなコントラスト比に寄与する。したがって,初期段階において室温
だけでなく高い温度でも大きな比抵抗を有する組成物が好ましい。長時間
使用したあと,室温だけでなく高い温度でも大きな比抵抗を有する組成物
が好ましい。紫外線および熱に対する組成物の安定性は,液晶表示素子の
寿命に関連する。これらの安定性が高いとき,この素子の寿命は長い。こ
のような特性は,液晶プロジェクター,液晶テレビなどに用いるAM素子
に好ましい。
[0006]…VAモードを有するAM素子においては負の誘電率異方
性を有する組成物が用いられる。…負の誘電率異方性を有する液晶組成物
の例は…特許文献1から6に開示されている。
[0008]望ましいAM素子は,使用できる温度範囲が広い,応答時
間が短い,コントラスト比が大きい,しきい値電圧が低い,電圧保持率が
大きい,寿命が長い,などの特性を有する。1ミリ秒でもより短い応答時
間が望ましい。したがって,組成物の望ましい特性は,ネマチック相の高
い上限温度,ネマチック相の低い下限温度,小さな粘度,適切な光学異方
性,正または負に大きな誘電率異方性,大きな比抵抗,紫外線に対する高
い安定性,熱に対する高い安定性などである。
エ発明が解決しようとする課題
[0009]本発明の1つの目的は,ネマチック相の高い上限温度,ネ
マチック相の低い下限温度,小さな粘度,適切な光学異方性,負に大きな
誘電率異方性,大きな比抵抗,紫外線に対する高い安定性,熱に対する高
い安定性などの特性において,少なくとも1つの特性を充足する液晶組成
物である。他の目的は,少なくとも2つの特性に関して適切なバランスを
有する液晶組成物である。別の目的は,このような組成物を含有する液晶
表示素子である。別の目的は,小さな光学異方性,または大きな光学異方
性である適切な光学異方性,負に大きな誘電率異方性,紫外線に対する高
い安定性などを有する組成物であり,そして短い応答時間,大きな電圧保
持率,大きなコントラスト比,長い寿命などを有するAM素子である。
オ発明の効果
[0011]本発明の長所は,ネマチック相の高い上限温度,ネマチ
ック相の低い下限温度,小さな粘度,適切な光学異方性,負に大きな誘
電率異方性,大きな比抵抗,紫外線に対する高い安定性,熱に対する高
い安定性などの特性において,少なくとも1つの特性を充足する液晶組
成物である。本発明の1つの側面は,少なくとも2つの特性に関して適
切なバランスを有する液晶組成物である。別の側面は,このような組成
物を含有する液晶表示素子である。他の側面は,適切な光学異方性,負
に大きな誘電率異方性,紫外線に対する高い安定性などを有する組成物
であり,そして短い応答時間,大きな電圧保持率,大きなコントラスト
比,長い寿命などを有するAM素子である。
カ発明を実施するための形態
[0012]この明細書における用語の使い方は次のとおりである。本
発明の液晶組成物または本発明の液晶表示素子をそれぞれ「組成物」また
は「素子」と略すことがある。…「液晶性化合物」は,ネマチック相,ス
メクチック相などの液晶相を有する化合物または液晶相を有さないが組成
物の成分として有用な化合物を意味する。…光学活性な化合物および重合
可能な化合物は組成物に添加されることがある。…
[0035]第一に,組成物における成分化合物の構成を説明する。本
発明の組成物は組成物Aと組成物Bに分類される。組成物Aはその他の液
晶性化合物,添加物,不純物などをさらに含有してもよい。「その他の液
晶性化合物」は,化合物(1),化合物(2),化合物(3),化合物(4
-1),および化合物(4-2)とは異なる液晶性化合物である。このよ
うな化合物は,特性をさらに調整する目的で組成物に混合される。…添加
物は,光学活性な化合物,酸化防止剤,紫外線吸収剤,色素,消泡剤,重
合可能な化合物,重合開始剤などである。…
[0037]第二に,成分化合物の主要な特性,およびこの化合物が組
成物の特性に及ぼす主要な効果を説明する。成分化合物の主要な特性を本
発明の効果に基づいて表2にまとめる。表2の記号において,Lは大きい
または高い,Mは中程度の,Sは小さいまたは低い,を意味する。記号L,
M,Sは,成分化合物のあいだの定性的な比較に基づいた分類であり,0
(ゼロ)は,値がほぼゼロであることを意味する。
[0038]
[0039]成分化合物を組成物に混合したとき,成分化合物が組成物
の特性に及ぼす主要な効果は次のとおりである。化合物(1)は誘電率異
方性の絶対値を上げる。化合物(2)は光学異方性を上げ,そして誘電率
異方性の絶対値を上げる。化合物(3)は粘度を下げるまたは上限温度を
上げる。化合物(4-1)および化合物(4-2)は誘電率異方性の絶対
値を上げ,そして下限温度を下げる。
[0040]第三に,組成物における成分の組み合わせ,成分化合物の
好ましい割合およびその根拠を説明する。組成物における成分の組み合わ
せは,第一成分+第二成分,第一成分+第二成分+第三成分,第一成分+
第二成分+第四成分,および第一成分+第二成分+第三成分+第四成分で
ある。組成物における成分の好ましい組み合わせは,第一成分+第二成分
+第三成分および第一成分+第二成分+第三成分+第四成分である。
[0041]第一成分の好ましい割合は,誘電率異方性の絶対値を上げ
るために約5重量%以上であり,下限温度を下げるために約60重量%以
下である。さらに好ましい割合は約5重量%から約40重量%の範囲であ
る。特に好ましい割合は約8重量%から約35重量%の範囲である。
[0042]第二成分の好ましい割合は,光学異方性および誘電率異方
性の絶対値を上げるために約5重量%以上であり,下限温度を下げるため
に約40重量%以下である。さらに好ましい割合は約5重量%から約30
重量%の範囲である。特に好ましい割合は約10重量%から約25重量%
の範囲である。
[0043]第三成分の好ましい割合は,粘度を下げるためまたは上限
温度を上げるために約20重量%以上であり,誘電率異方性の絶対値を上
げるために約70重量%以下である。さらに好ましい割合は約25重量%
から約65重量%の範囲である。特に好ましい割合は約30重量%から約
60重量%の範囲である。
[0044]第四成分の好ましい割合は,誘電率異方性の絶対値を上げ
るために約5重量%以上であり,粘度を下げるため約40重量%以下であ
る。さらに好ましい割合は約5重量%から約35重量%の範囲である。特
に好ましい割合は約5重量%から約30重量%の範囲である。
[0045]第四に,成分化合物の好ましい形態を説明する。R1
,R2

R3
,およびR4
は独立して,炭素数1から12のアルキル,炭素数1から
12のアルコキシ,炭素数2から12のアルケニル,または任意の水素が
フッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。好ましい
R1
およびR2
はそれぞれ,紫外線または熱に対する安定性などを上げるた
めに炭素数1から12のアルキル,または誘電率異方性の絶対値を上げる
ために炭素数1から12のアルコキシである。好ましいR3
およびR4
はそ
れぞれ,紫外線または熱に対する安定性などを上げるために炭素数1から
12のアルキル,または下限温度を下げるために炭素数2から12のアル
ケニルである。
[0046]好ましいアルキルは,メチル,エチル,プロピル,ブチル,
ペンチル,ヘキシル,ヘプチル,またはオクチルである。さらに好ましい
アルキルは,粘度を下げるためにエチル,プロピル,ブチル,ペンチル,
またはヘプチルである。
[0047]好ましいアルコキシは,メトキシ,エトキシ,プロポキシ,
ブトキシ,ペンチルオキシ,ヘキシルオキシ,またはヘプチルオキシであ
る。粘度を下げるために,さらに好ましいアルコキシは,メトキシまたは
エトキシである。
[0048]好ましいアルケニルは,ビニル,1-プロペニル,2-プ
ロペニル,1-ブテニル,2-ブテニル,3-ブテニル,1-ペンテニル,
2-ペンテニル,3-ペンテニル,4-ペンテニル,1-ヘキセニル,2
-ヘキセニル,3-ヘキセニル,4-ヘキセニル,または5-ヘキセニル
である。さらに好ましいアルケニルは,粘度を下げるためにビニル,1-
プロペニル,3-ブテニル,または3-ペンテニルである。これらのアル
ケニルにおける-CH=CH-の好ましい立体配置は,二重結合の位置に
依存する。粘度を下げるためなどから1-プロペニル,1-ブテニル,1
-ペンテニル,1-ヘキセニル,3-ペンテニル,3-ヘキセニルのよう
なアルケニルにおいてはトランスが好ましい。2-ブテニル,2-ペンテ
ニル,2-ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはシスが好ましい。こ
れらのアルケニルにおいては,分岐よりも直鎖のアルケニルが好ましい。
[0049]任意の水素がフッ素で置き換えられたアルケニルの好まし
い例は,2,2-ジフルオロビニル,3,3-ジフルオロ-2-プロペニ
ル,4,4-ジフルオロ-3-ブテニル,5,5-ジフルオロ-4-ペン
テニル,および6,6-ジフルオロ-5-ヘキセニルである。さらに好ま
しい例は,粘度を下げるために2,2-ジフルオロビニル,および4,4
-ジフルオロ-3-ブテニルである。
[0050]環A,環B,および環Cは独立して,1,4-シクロへキ
シレン,1,4-フェニレン,2-フルオロ-1,4-フェニレン,3-
フルオロ-1,4-フェニレン,または2,5-ジフルオロ-1,4-フ
ェニレンであり,jが2である時,2つの環Cは同じであっても,異なっ
てもよい。好ましい環A,環B,または環Cは,粘度を下げるために1,
4-シクロへキシレンである。環D,環D1
,環D2
,環E,環E1
,および
環E2
は独立して,1,4-シクロへキシレンまたは1,4-フェニレンで
あり,pが2または3である時,任意の2つの環Dは同じであっても,異
なってもよく,qが2または3である時,任意の2つの環Eは同じであっ
ても,異なってもよい。環D,環D1
,環D2
,環E,環E1
,または環E2
は,光学異方性を下げるために1,4-シクロへキシレンである。1,4
-シクロヘキシレンに関する立体配置は,上限温度を上げるためにシスよ
りもトランスが好ましい。
[0051]Z1
は独立して,単結合,エチレン,またはカルボニルオキ
シであり,jが2である時,2つのZ1
は同じであっても,異なってもよい。
好ましいZ1
は,粘度を下げるために単結合である。Z2
およびZ3
は独立し
て,単結合,エチレン,メチレンオキシ,またはカルボニルオキシであり,
pが2または3である時,任意の2つのZ2
は同じであっても,異なっても
よく,qが2または3である時,任意の2つのZ3
は同じであっても,異な
ってもよい。好ましいZ2
またはZ3
は,粘度を下げるために単結合,また
は誘電率異方性の絶対値を上げるためにメチレンオキシである。
[0052]X1
およびX2
は独立して,フッ素または塩素である。好ま
しいX1
またはX2
は,粘度を下げるためにフッ素である。
[0053]mは,1または2である。好ましいmは,上限温度を上げ
るために2である。jは0,1,または2である。好ましいjは,下限温
度を下げるために1である。kは,1,2または3である。好ましいkは,
下限温度を下げるために2である。pおよびqは独立して,0,1,2,
または3であり,そしてpとqの和が3以下である。好ましいpは,上限
温度を上げるために2である。好ましいqは,下限温度を下げるために0
である。
[0054]第五に,成分化合物の具体的な例を示す。下記の好ましい
化合物において,R5
は,炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは
炭素数1から12を有する直鎖のアルコキシである。R6
およびR7
は独立
して,炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素数2から12
を有する直鎖のアルケニルである。R8
は,炭素数2から12を有する直鎖
のアルケニルである。
[0055]好ましい化合物(1)は,化合物(1-1)および化合物
(1-2)である。さらに好ましい化合物(1)は,化合物(1-1)で
ある。好ましい化合物(2)は,化合物(2-1)である。好ましい化合
物(3)は,化合物(3-1-1)から化合物(3-10-1)である。
さらに好ましい化合物(3)は,化合物(3-1-1),化合物(3-3
-1),化合物(3-5-1),および化合物(3-10-1)である。
特に好ましい化合物(3)は,化合物(3-1-1),化合物(3-3-
1),および化合物化合物(3-10-1)である。…
[0056]
[0057]
[0058]
[0060]第六に,組成物に混合してもよい添加物を説明する。この
ような添加物は,光学活性な化合物,酸化防止剤,紫外線吸収剤,色素,
消泡剤,重合可能な化合物,重合開始剤などである。…
[0066]PSA(polymersustainedalignment)モードの素子に適
合させるために重合可能な化合物が組成物に混合される。重合可能な化合
物の好ましい例はアクリレート,メタクリレート,ビニル化合物,ビニル
オキシ化合物,プロペニルエーテル,エポキシ化合物(オキシラン,オキ
セタン),ビニルケトンなどの重合可能な基を有する化合物である。特に
好ましい例は,アクリレート,またはメタクリレートの誘導体である。重
合可能な化合物の好ましい割合は,その効果を得るために,約0.05重
量%以上であり,表示不良を防ぐために10重量%以下である。さらに好
ましい割合は,約0.1重量%から2重量%の範囲である。…
[0069]最後に,組成物の用途を説明する。本発明の組成物は主と
して,約-10℃以下の下限温度,約70℃以上の上限温度,そして約0.
07から約0.20の範囲の光学異方性を有する。この組成物を含有する
素子は大きな電圧保持率を有する。この組成物はAM素子に適する。この
組成物は透過型のAM素子に特に適する。成分化合物の割合を制御するこ
とによって,またはその他の液晶性化合物を混合することによって,約0.
08から約0.25の範囲の光学異方性を有する組成物,さらには約0.
10から約0.30の範囲の光学異方性を有する組成物を調製してもよい。
この組成物は,ネマチック相を有する組成物としての使用,光学活性な化
合物を添加することによって光学活性な組成物としての使用が可能である。
[0070]この組成物はAM素子への使用が可能である。さらにPM
素子への使用も可能である。この組成物は,PC,TN,STN,ECB,
OCB,IPS,VA,PSAなどのモードを有するAM素子およびPM
素子への使用が可能である。IPSまたはVAモードを有するAM素子へ
の使用は特に好ましい。これらの素子が反射型,透過型または半透過型で
あってもよい。透過型の素子への使用は好ましい。非結晶シリコン-TF
T素子または多結晶シリコン-TFT素子への使用も可能である。この組
成物をマイクロカプセル化して作製したNCAP(nematiccurvilinear
alignedphase)型の素子や,組成物中に三次元の網目状高分子を形成させ
たPD(polymerdispersed)型の素子にも使用できる。
キ実施例
[0074]ネマチック相の上限温度(NI;℃):偏光顕微鏡を備え
た融点測定装置のホットプレートに試料を置き,1℃/分の速度で加熱し
た。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測
定した。ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略すことがある。
[0075]ネマチック相の下限温度(TC;℃):ネマチック相を有す
る試料をガラス瓶に入れ,0℃,-10℃,-20℃,-30℃,および
-40℃のフリーザー中に10日間保管したあと,液晶相を観察した。例
えば,試料が-20℃ではネマチック相のままであり,-30℃では結晶
またはスメクチック相に変化したとき,TCを≦-20℃と記載した。ネマ
チック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。
[0076]粘度(バルク粘度;η;20℃で測定;mPa・s):測
定にはE型回転粘度計を用いた。
[0077]光学異方性(屈折率異方性;Δn;25℃で測定):測定
は,波長589nmの光を用い,接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折
計により行なった。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと,試料
を主プリズムに滴下した。屈折率n∥は偏光の方向がラビングの方向と平
行であるときに測定した。屈折率n⊥は偏光の方向がラビングの方向と垂
直であるときに測定した。光学異方性の値は,Δn=n∥-n⊥,の式か
ら計算した。
[0078]誘電率異方性(Δε;25℃で測定):誘電率異方性の値
は,Δε=ε∥-ε⊥,の式から計算した。誘電率(ε∥およびε⊥)は
次のように測定した。
1)誘電率(ε∥)の測定:よく洗浄したガラス基板にオクタデシルトリ
エトキシシラン(0.16mL)のエタノール(20mL)溶液を塗布し
た。ガラス基板をスピンナーで回転させたあと,150℃で1時間加熱し
た。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであるVA素子に
試料を入れ,この素子を紫外線で硬化する接着剤で密閉した。この素子に
サイン波(0.5V,1kHz)を印加し,2秒後に液晶分子の長軸方向
における誘電率(ε∥)を測定した。
2)誘電率(ε⊥)の測定:よく洗浄したガラス基板にポリイミド溶液を
塗布した。このガラス基板を焼成した後,得られた配向膜にラビング処理
をした。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり,ツイ
スト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(0.
5V,1kHz)を印加し,2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率
(ε⊥)を測定した。
[0079]しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V):測定には大
塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンラ
ンプである。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり,
ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally
blackmode)のVA素子に試料を入れ,この素子を紫外線で硬化する接着
剤を用いて密閉した。この素子に印加する電圧(60Hz,矩形波)は0
Vから20Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に,素子に
垂直方向から光を照射し,素子を透過した光量を測定した。この光量が最
大になったときが透過率100%であり,この光量が最小であったときが
透過率0%である電圧-透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が
10%になったときの電圧である。
[0080]電圧保持率(VHR-1;25℃;%):測定に用いたT
N素子はポリイミド配向膜を有し,そして2枚のガラス基板の間隔(セル
ギャップ)は5μmである。この素子は試料を入れたあと紫外線で硬化す
る接着剤で密閉した。このTN素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)
を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあい
だ測定し,単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面
積Bは減衰しなかったときの面積である。電圧保持率は面積Bに対する面
積Aの百分率である。
[0081]電圧保持率(VHR-2;80℃;%):測定に用いたT
N素子はポリイミド配向膜を有し,そして2枚のガラス基板の間隔(セル
ギャップ)は5μmである。この素子は試料を入れたあと紫外線で硬化す
る接着剤で密閉した。このTN素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)
を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあい
だ測定し,単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面
積Bは減衰しなかったときの面積である。電圧保持率は面積Bに対する面
積Aの百分率である。
[0082]電圧保持率(VHR-3;25℃;%):紫外線を照射し
たあと,電圧保持率を測定し,紫外線に対する安定性を評価した。測定に
用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し,そしてセルギャップは5μm
である。この素子に試料を注入し,光を20分間照射した。光源は超高圧
水銀ランプUSH-500D(ウシオ電機製)であり,素子と光源の間隔
は20cmである。VHR-3の測定では,減衰する電圧を16.7ミリ
秒のあいだ測定した。大きなVHR-3を有する組成物は紫外線に対して
大きな安定性を有する。VHR-3は90%以上が好ましく,95%以上
がより好ましい。
[0083]電圧保持率(VHR-4;25℃;%):試料を注入した
TN素子を80℃の恒温槽内で500時間加熱したあと,電圧保持率を測
定し,熱に対する安定性を評価した。VHR-4の測定では,減衰する電
圧を16.7ミリ秒のあいだ測定した。大きなVHR-4を有する組成物
は熱に対して大きな安定性を有する。
[0084]応答時間(τ;25℃で測定;ms):測定には大塚電子
株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプで
ある。ローパス・フィルター(Low-passfilter)は5kHzに設定した。
2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が3.2μmであり,ラビング
方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normallyblack
mode)のPVA素子に試料を入れ,この素子を紫外線で硬化する接着剤を
用いて密閉した。この素子にしきい値電圧を若干超える程度の電圧を約1
分間印加し,次に5.6Vの電圧を印加しながら23.5mW/cm2
の紫
外線を約8分間照射した。この素子に矩形波(60Hz,10V,0.5
秒)を印加した。この際に,素子に垂直方向から光を照射し,素子を透過
した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であ
り,この光量が最小であったときが透過率0%である。応答時間は透過率
0%から90%に変化するのに要した時間立ち上がり時間(risetime;ミ
リ秒)である。
[0089]実施例により本発明を詳細に説明する。本発明は下記の実
施例によって限定されない。比較例および実施例における化合物は,下記
の表3の定義に基づいて記号により表した。
表3において,1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置はトランスで
ある。実施例において記号の後にあるかっこ内の番号は化合物の番号に対
応する。(-)の記号はその他の液晶性化合物を意味する。液晶性化合物
の割合(百分率)は,液晶組成物の全重量に基づいた重量百分率(重量%)
であり,液晶組成物には不純物が含まれている。最後に,組成物の特性値
をまとめた。
[0090]
[0096][比較例6]
特開2008-308581号公報に開示された組成物の中から実施例
1を選んだ。根拠はこの組成物が,化合物(1-2),化合物(3-1-
1),化合物(3-3-1),化合物(3-5-1),化合物(4-1-
2-1),および化合物(4-2-1-2)を含有しているからである。
この組成物の成分および特性は下記のとおりである。
V-HH-3(3-1-1)30%
3-HH2B(2F,3F)-O2(-)10%
3-HHB(2F,3F)-O2(4-1-2-1)10%
3-HH1OB(2F,3F)-O1(1-2)4%
3-HH1OB(2F,3F)-O2(1-2)9%
4-HH1OB(2F,3F)-O1(1-2)4%
3-H1OCro(7F,8F)-5(4-2-1-2)7%
5-H1OCro(7F,8F)-5(4-2-1-2)7%
V-HHB-1(3-5-1)9%
5-BB-1(3-3-1)10%
NI=82.7℃;Δn=0.087;η=19.4mPa・s;Δε
=-3.1.
[0097][実施例1]
3-HH1OB(2F,3F)-O2(1-2)6%
5-HH1OB(2F,3F)-O2(1-2)6%
3-HBB(2F,3F)-O2(2-1)10%
5-HBB(2F,3F)-O2(2-1)10%
V-HH-3(3-1-1)33%
1V-HH-3(3-1-1)7%
3-HB-O2(3-2-1)3%
1V-HBB-2(3-6-1)4%
V-HB(2F,3F)-O2(4-1-1-1)6%
V-HB(2F,3F)-O4(4-1-1-1)5%
3-H2Cro(7F,8F)-5(4-2-1-1)3%
3-H1OCro(7F,8F)-5(4-2-1-2)4%
3-HHCro(7F,8F)-5(4-2-3-1)3%
NI=77.2℃;Tc≦-20℃;Δn=0.087;η=10.9
mPa・s;Δε=-2.8;τ=8.6ms;VHR-1=99.
0%;VHR-2=98.1%;VHR-3=98.1%.
[0098][実施例2]
3-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)4%
5-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)4%
3-HH1OB(2F,3F)-O2(1-2)7%
5-HH1OB(2F,3F)-O2(1-2)8%
2-HBB(2F,3F)-O2(2-1)4%
3-HBB(2F,3F)-O2(2-1)8%
3-HH-5(3-1)4%
V-HH-3(3-1-1)28%
1V-HH-3(3-1-1)8%
V2-BB-1(3-3-1)3%
V2-HHB-1(3-5-1)5%
3-HBB-2(3-6-1)3%
5-HBB(F)B-3(3-10-1)3%
2-Cro(7F,8F)2H-3(4-2-2-1)3%
2O-Cro(7F,8F)2H-3(4-2-2-1)3%
3-HH1OCro(7F,8F)-5(4-2-3-3)5%
NI=87.1℃;Tc≦-20℃;Δn=0.089;η=10.
8mPa・s;Δε=-2.6;τ=8.6ms;VHR-1=99.
2%;VHR-2=98.2%;VHR-3=98.1%.
[0099][実施例3]
3-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)5%
5-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)5%
3-HH1OB(2F,3F)-O2(1-2)4%
5-HH1OB(2F,3F)-O2(1-2)4%
3-HBB(2F,3F)-O2(2-1)10%
3-HH-O1(3-1)3%
V-HH-3(3-1-1)25%
V-HH-5(3-1-1)10%
V-HHB-1(3-5-1)7%
5-HBBH-3(3-8-1)3%
5-HB(F)BH-3(3-9-1)3%
3-HHB(2F,3Cl)-O2(4-1)4%
3-HB(2F,3F)-O2(4-1-1-1)6%
V-HHB(2F,3F)-O2(4-1-2-1)6%
3-H2Cro(7F,8F)-5(4-2-1-1)5%
NI=84.9℃;Tc≦-20℃;Δn=0.083;η=10.9
mPa・s;Δε=-2.5;τ=8.6ms;VHR-1=99.
1%;VHR-2=98.1%;VHR-3=98.2%.
[0100][実施例4]
3-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)5%
5-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)5%
3-HBB(2F,3F)-O2(2-1)7%
4-HBB(2F,3F)-O2(2-1)6%
5-HBB(2F,3F)-O2(2-1)7%
V-HH-3(3-1-1)40%
3-HHB-3(3-5-1)4%
3-HHEBH-5(3-7-1)4%
3-HB(2F,3F)-O2(4-1-1-1)5%
5-HB(2F,3F)-O2(4-1-1-1)5%
3-H2Cro(7F,8F)-3(4-2-1-1)3%
3-H2Cro(7F,8F)-5(4-2-1-1)3%
2O-Cro(7F,8F)HH-5(4-2-4-1)3%
3-Cro(7F,8F)2HH-5(4-2-4-2)3%
NI=73.7℃;Tc≦-20℃;Δn=0.082;η=11.4
mPa・s;Δε=-2.8;τ=8.6ms;VHR-1=99.
1%;VHR-2=98.0%;VHR-3=98.0%.
[0101][実施例5]
3-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)6%
3-HH1OB(2F,3F)-O2(1-2)5%
3-HH1OB(2F,3F)-O4(1-2)5%
3-HBB(2F,3F)-O2(2-1)7%
5-HBB(2F,3F)-O2(2-1)7%
3-HH-VFF(3-1)5%
V-HH-3(3-1-1)28%
1V2-BB-1(3-3-1)4%
V-HHB-1(3-5-1)6%
3-HB(2F,3F)-O2(4-1-1-1)5%
3-HB(2F,3F)-O4(4-1-1-1)5%
3-HHB(2F,3F)-O2(4-1-2-1)6%
2-Cro(7F,8F)2H-3(4-2-2-1)3%
2O-Cro(7F,8F)2H-3(4-2-2-1)3%
3-HH1OCro(7F,8F)-5(4-2-3-3)5%
NI=77.4℃;Tc≦-20℃;Δn=0.088;η=12.6
mPa・s;Δε=-2.3;τ=8.8ms;VHR-1=99.
1%;VHR-2=98.0%;VHR-3=98.1%.
[0102][実施例6]
V-H1OB(2F,3F)-O4(1-1)7%
3-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)7%
5-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)7%
V-HH1OB(2F,3F)-O4(1-2)6%
3-HH1OB(2F,3F)-O2(1-2)6%
V-HBB(2F,3F)-O2(2-1)4%
3-HBB(2F,3F)-O2(2-1)6%
2-HH-3(3-1)3%
V-HH-3(3-1-1)30%
7-HB-1(3-2-1)3%
3-HHEH-3(3-4-1)3%
3-HHB-1(3-5-1)3%
V2-HHB-1(3-5-1)3%
V-HHB(2F,3F)-O2(4-1-2-1)9%
1O1-HBBH-5(-)3%
NI=85.2℃;Tc≦-20℃;Δn=0.081;η=11.2
mPa・s;Δε=-3.1;τ=8.6ms;VHR-1=99.
1%;VHR-2=98.1%;VHR-3=98.1%.
[0103][実施例7]
3-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)6%
4-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)6%
5-H1OB(2F,3F)-O2(1-1)6%
3-HBB(2F,3F)-O2(2-1)9%
4-HBB(2F,3F)-O2(2-1)3%
5-HBB(2F,3F)-O2(2-1)9%
V-HH-3(3-1-1)30%
V-HH-5(3-1-1)5%
1V-HH-3(3-1-1)7%
VFF-HHB-1(3-5)3%
VFF2-HHB-1(3-5)3%
5-HBB(F)B-2(3-10-1)2%
5-HBB(F)B-3(3-10-1)2%
3-HH2Cro(7F,8F)-5(4-2-3-2)3%
3-HBCro(7F,8F)-5(4-2-3-4)3%
3-BBCro(7F,8F)-5(4-2-3-5)3%
NI=89.5℃;Tc≦-20℃;Δn=0.102;η=11.7
mPa・s;Δε=-2.8;τ=8.7ms;VHR-1=99.
2%;VHR-2=98.1%;VHR-3=98.1%.
[0104][実施例8]
3-H1OB(2F,3F)-O4(1-1)5%
3-HH1OB(2F,3F)-O2(1-2)6%
5-HH1OB(2F,3F)-O2(1-2)6%
3-HBB(2F,3F)-O2(2-1)10%
5-HBB(2F,3F)-O2(2-1)9%
2-HH-3(3-1)28%
5-HB-O2(3-2-1)5%
V2-BB-1(3-3-1)5%
3-HHB-O1(3-5-1)4%
3-HBB-2(3-6-1)4%
V-HB(2F,3F)-O2(4-1-1-1)5%
V-HB(2F,3F)-O4(4-1-1-1)5%
V2-HHB(2F,3F)-O2(4-1-2-1)5%
3-HHB(2F,3Cl)-O2(4-1)3%
NI=79.9℃;Tc≦-20℃;Δn=0.093;η=10.3
mPa・s;Δε=-2.7;Vth=2.63V;τ=8.5ms;V
HR-1=99.0%;VHR-2=98.0%;VHR-3=98.
2%.
[0105]実施例1から実施例8の組成物は,比較例1から比較例6
のそれと比べて小さいバルク粘度を有する。よって,本発明による液晶組
成物は,特許文献1から特許文献6に示された液晶組成物よりも,さらに
優れた特性を有する。
ク産業上の利用可能性
[0106]ネマチック相の高い上限温度,ネマチック相の低い下限温
度,小さな粘度,大きな光学異方性,大きな誘電率異方性,大きな比抵抗,
紫外線に対する高い安定性,熱に対する高い安定性などの特性において,
少なくとも1つの特性を充足する,または少なくとも2つの特性に関して
適切なバランスを有する液晶組成物である。このような組成物を含有する
液晶表示素子は,短い応答時間,大きな電圧保持率,大きなコントラスト
比,長い寿命などを有するAM素子となるので,液晶プロジェクター,液
晶テレビなどに用いることができる。
(2)検討
原告は,本件審決による甲1発明1の認定について,①「式(3-3-1)
で表される化合物を含む式(3-1)から式(3-10)で表される化合物
の群から選択された少なくとも1つの化合物…を含有」するとの構成が,「式
(3-3-1)で表される化合物」に限定されることを意味するのであると
すれば,当該認定は誤りであり,②そのほかにも,各式中の置換基(R)等
の定義の認定に不備がある旨主張するので,以下検討する。
ア上記②の主張について
まず,甲1の記載によれば,本件審決による甲1発明1の認定に次のよ
うな不備あることは明らかであり,この点に関する原告の指摘は正当であ
る。
(ア)本件審決は,式(1-1),式(1-2)及び式(2-1)におけ
るR等の定義について,「(ここで,R1
およびR2
は独立して,炭素数
1から12のアルキル又は炭素数1から12のアルコキシであり;mは
1または2である。)」と認定する。
しかし,式(1-1),式(1-2)及び式(2-1)には,R1

R2
及びmの記載はない一方,R5
及びR6
の記載があるから,本件審決の
上記認定は,不必要な「R1
,R2
及びm」の定義を認定し,必要な
「R5
及びR6
」の定義を認定していない点において不備があるものとい
える。
そして,式(1-1),式(1-2)及び式(2-1)における
「R5
及びR6
」については,甲1の段落[0054]に,「R5
は,炭素数
1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素数1から12を有する直
鎖のアルコキシである。R6
およびR7
は独立して,炭素数1から12を
有する直鎖のアルキルまたは炭素数2から12を有する直鎖のアルケニ
ルである。」との記載があるから,これに従った認定がされるべきであ
る。
(イ)本件審決は,式(3-1)ないし式(3-10)及び式(3-3-
1)におけるRの定義について,「(ここで,R3
およびR4
は独立して,
炭素数1から12のアルキル,炭素数1から12のアルコキシ又は炭素
数2から12のアルケニルである。)」と認定する。
しかし,式(3-1)から式(3-10)における「R3
及びR4
」に
ついての甲1の記載をみると,[請求項4]に,「R3
およびR4
は独立し
て,炭素数1から12のアルキル,炭素数1から12のアルコキシ,炭
素数2から12のアルケニル,または任意の水素がフッ素で置き換えら
れた炭素数2から12のアルケニルである。」との記載があり,更に,
段落[0045]には,「好ましいR3
およびR4
はそれぞれ,紫外線また
は熱に対する安定性などを上げるために炭素数1から12のアルキル,
または下限温度を下げるために炭素数2から12のアルケニルである。」
との記載もあるが,上記[請求項4]記載のものから「任意の水素がフッ
素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニル」のみを除外したも
のについての記載や示唆は認められないから,本件審決の上記認定は誤
りであって,上記[請求項4]の記載に従った認定がされるべきである。
また,本件審決には,式(3-3-1)に記載された「R6
及びR7

の定義を認定していない点においても不備があるところ,当該「R6
及び
R7
」については,甲1の段落[0054]に,上記(ア)のとおりの記載が
あるから,これに従った認定がされるべきである。
(ウ)そこで,以上の不備を改めて甲1発明1を認定すると,次のとおり
である。
「液晶組成物の全重量に基づいて,第一成分として式(1-1)及び式
(1-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合
物の5重量%から60重量%,
第二成分として式(2-1)で表される化合物の群から選択された少な
くとも1つの化合物の5重量%から40重量%,及び
第三成分として式(3-3-1)で表される化合物を含む式(3-1)
から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1
つの化合物の20重量%から70重量%,
をそれぞれ含有し,更に必要に応じて,重合可能な基を有する化合物を
含有する,
ネマチック相の上限温度が70℃以上であり,波長589nmにおける
光学異方性(25℃)が0.08以上であり,そして周波数1kHzに
おける誘電率異方性(25℃)が-2以下である負の誘電率異方性を有
する液晶組成物。
(ここで,R5
は,炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素
数1から12を有する直鎖のアルコキシであり,R6
は,炭素数1から1
2を有する直鎖のアルキルまたは炭素数2から12を有する直鎖のアル
ケニルである。)
(ここで,R3
およびR4
は独立して,炭素数1から12のアルキル,炭
素数1から12のアルコキシ,炭素数2から12のアルケニル,または
任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルで
あり,R6
およびR7
は独立して,炭素数1から12を有する直鎖のアル
キルまたは炭素数2から12を有する直鎖のアルケニルである。)」(下
線は,本件審決認定の「甲1発明1」を改めた部分を示す。)
イ上記①の主張について
本件審決は,甲1発明1の液晶組成物が含有する第三成分について,「式
(3-3-1)で表される化合物を含む式(3-1)から式(3-10)
で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」と認定す
る。しかるところ,ここで,式(3-3-1)で表される化合物は,式(3
-3)で表される化合物の「R3
及びR4
」(独立して,炭素数1から12
のアルキル,炭素数1から12のアルコキシ,炭素数2から12のアルケ
ニル,または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のア
ルケニル)を「R6
及びR7
」(独立して,炭素数1から12を有する直鎖
のアルキルまたは炭素数2から12を有する直鎖のアルケニル)に限定す
るものであることが明らかであり,これを踏まえて,「式(3-3-1)
で表される化合物を含む式(3-1)から式(3-10)で表される化合
物の群から選択された少なくとも1つの化合物」との文言を自然に解釈す
れば,本件審決は,甲1発明1の液晶組成物が含有する第三成分を「式(3
-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくと
も1つの化合物」として特定した上で,「式(3-3-1)で表される化
合物」が「式(3-1)から式(3-10)で表される化合物」に含まれ
る例であることを注意的に示したものと理解するのが相当である。
してみると,本件審決の上記認定は,甲1発明1の液晶組成物が含有す
る第三成分を「式(3-3-1)で表される化合物」に限定して認定する
ものではなから,そのような限定があることを前提とする原告の上記①の
主張には理由がない。
ウ以上によれば,本件審決には,甲1に記載された発明について,上記ア
(ウ)のとおりに認定すべきところを,前記第2の3(2)ア(ア)の「甲1発明
1」のとおりに認定した点において誤りがあるものといえるが,その誤り
は,いずれも甲1の記載についての明らかな誤認や認定漏れにすぎず,本
件審決の結論に実質的な影響を及ぼすものではないから,これをもって本
件審決に取り消すべき違法があるとはいえない。
したがって,原告主張の「引用発明の認定の誤り」に係る取消事由には
理由がない。
3本件発明1についての一致点の認定の誤り・相違点の看過について
原告は,本件審決が,甲1発明1は,「第一成分」と「第二成分」とを総和
として液晶組成物の全重量に基づき「10重量%から100重量%」含有する
ものであるとした上で,「成分として,一般式(ⅠⅠ-1)及び(ⅠⅠ-2)…
で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し,その含
有量が20から80質量%であり」との構成を本件発明1と甲1発明1の一致
点と認定したのは誤りであり,その結果,本件審決は相違点を看過している旨
主張するので,以下検討する(ただし,本件審決の「甲1発明1」の認定に不
備があることは上記2のとおりであるから,以下の判断においては,甲1発明
1が上記2(2)ア(ウ)のとおりのものであることを前提に検討を進める。)。
(1)本件審決は,甲1発明1における「第一成分として式(1-1)及び式(1
-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」が,
本件発明1における「第二成分として,…一般式(II-1)…で表される
化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物」を包含すること,及び甲
1発明1における「第二成分として式(2-1)で表される化合物の群から
選択された少なくとも1つの化合物」が,本件発明1における「第二成分と
して,…一般式…(II-2)…で表される化合物群から選ばれる1種又は
2種以上の化合物」を包含することを前提として,甲1発明1において,液
晶組成物の全重量に基づいて,第一成分の重量が「5重量%から60重量%」
であり,第二成分の重量が「5重量%から40重量%」であることは,第一
成分と第二成分の総和としての重量が「10重量%から100重量%」であ
ることを意味するから,本件発明1と甲1発明1は,「一般式(ⅠⅠ-1)
及び(ⅠⅠ-2)…で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化
合物を含有し,その含有量が20から80質量%であり」との点において一
致する旨認定する(別紙審決書48,49頁)。
しかしながら,①甲1発明1における「式(1-1)及び式(1-2)で
表される化合物」と②本件発明1における「一般式(II-1)で表される
化合物」とを対比すると,②のR1
及びR2
は,「それぞれ独立的に炭素原子
数1から10のアルキル基,炭素原子数1から10のアルコキシル基,炭素
原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオ
キシ基」であるのに対し,①のR6
及びR5
は,「R5
は,炭素数1から12を
有する直鎖のアルキルまたは炭素数1から12を有する直鎖のアルコキシで
あり,R6
は,炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素数2から
12を有する直鎖のアルケニルである」ことから明らかなとおり,両者の関
係は,本件審決がいうように①の化合物が②の化合物を包含するという関係
にあるものではなく,①の化合物の一部と②の化合物の一部が一致するとい
う関係にあるものにすぎない(例えば,式(1-1)又は式(1-2)にお
いてR6
が炭素数11を有する直鎖のアルキルである①の化合物は,②の化合
物には含まれないし,他方,一般式(II-1)においてR1
がアルコキシル
基である②の化合物は,①の化合物には含まれない。)。そして,このこと
は,甲1発明1における「式(2-1)で表される化合物」と,本件発明1
における「一般式(II-2)で表される化合物」の関係にも同様に当ては
まることである。
してみると,甲1発明1が,「式(1-1)及び式(1-2)で表される
化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」及び「式(2-1)で
表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」を含有するこ
とをもって,本件発明1における「一般式(ⅠⅠ-1)及び(ⅠⅠ-2)…
で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有」するこ
とと一致するということはできないのであって,この点について,本件審決
が本件発明1と甲1発明1の一致点と認定したことは誤りである。
(2)また,仮に,甲1発明1における「式(1-1)及び式(1-2)で表さ
れる化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」(以下「化合物(1
-1,2)」という。)が,本件発明1における「一般式(II-1)で表さ
れる化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物」に対応し,甲1発明
1における「式(2-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも
1つの化合物」(以下「化合物(2-1)」という。)が,本件発明1におけ
る「一般式(II-2)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上
の化合物」に対応するものであることを前提としても,甲1の記載からは,
甲1発明1における化合物(1-1,2)及び化合物(2-1)の総和とし
ての重量が「10重量%から100重量%」であることが理解できるものと
はいえないから,「一般式(ⅠⅠ-1)及び(ⅠⅠ-2)…で表される化合
物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し,その含有量が20か
ら80質量%であり」との点を本件発明1と甲1発明1の一致点とすること
はできないというべきである。
すなわち,甲1の[請求項1]では,式(1-1)及び式(1-2)の上
位概念である「式(1)」で表される化合物の群から選択された少なくとも
1つの化合物(以下「化合物(1)」という。)は「第一成分」とされ,ま
た,式(2-1)の上位概念である「式(2)」で表される化合物の群から
選択された少なくとも1つの化合物(以下「化合物(2)」という。)は「第
二成分」とされており,両者は別々の成分であることが規定されている。そ
して,甲1の[請求項2]では,両者が別々の成分であることを前提に,液
晶組成物の全重量に基づく,それぞれの含有割合が個別に規定されている。
また,甲1の段落[0038]の表2(化合物の特性)の記載によれば,化
合物(1)と化合物(2)とは,成分化合物としての主要な特性のうち,上
限温度,光学異方性及び誘電率異方性において差異があるものとされ,更に,
段落[0039]には,成分化合物を組成物に混合したときに,当該成分化
合物が組成物の特性に及ぼす影響についても,「化合物(1)は誘電率異方
性の絶対値を上げる。化合物(2)は光学異方性を上げ,そして誘電率異方
性の絶対値を上げる。」として,やはり両者に差異がある旨が記載されてい
るのであるから,以上のような甲1の記載に接した当業者は,甲1記載の発
明において,化合物(1)と化合物(2)とは,それぞれ異なる特性を有す
る別成分であると認識するものといえる。
してみると,甲1発明1においては,式(1-1)及び式(1-2)で表
される化合物は,「第一成分」に係る一群のものとして,また,式(2-1)
で表される化合物は,「第一成分」とは別の「第二成分」に係る一群のもの
として,それぞれ当業者に認識されるものといえるのであり,これを前提と
すれば,当業者は,甲1発明1の液晶組成物において,化合物(1-1,2)
を,液晶組成物の全重量に基づいて「5重量%から60重量%」の範囲で含
有されるべき一つの成分として認識し,また,化合物(2-1)を,液晶組
成物の全重量に基づいて「5重量%から40重量%」の範囲で含有されるべ
き別の成分として認識するのであって,これらの各成分を合わせた含有量を
特定の範囲のものとすることを認識するとはいえない。
したがって,甲1の記載からは,甲1発明1における化合物(1-1,2)
及び化合物(2-1)の総和としての重量が,上記「5重量%から60重量%」
及び「5重量%から40重量%」の上限と下限を単純に加算した「10重量%
から100重量%」であることが理解できるものではないから,このような
理解が可能であることを前提として,「成分として,一般式(ⅠⅠ-1)及
び(ⅠⅠ-2)…で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合
物を含有し,その含有量が20から80質量%であり」との点を本件発明1
と甲1発明1の一致点であるとした本件審決の認定は誤りというべきである。
(3)さらに,甲1発明1の液晶組成物は,全体として,「周波数1kHzにお
ける誘電率異方性(25℃)が-2以下である負の誘電率異方性を有する」
とされており,また,甲1の[0038]には,化合物(1)及び化合物(2)
の誘電率異方性の概略が,それぞれ「L」及び「M~L」であること(誘電
率異方性の値は負であり,記号は絶対値の大小を示す。)が記載されている
ものの,甲1発明1の第一成分である式(1-1)及び式(1-2)で表さ
れる化合物自体,並びに第二成分である式(2-1)で表される化合物自体
の誘電率異方性の数値が記載されているわけではないから,甲1の記載及び
本件特許の優先日当時の技術常識を参酌しても,上記各化合物の誘電率異方
性を具体的に把握することはできない。そうすると,甲1発明1の液晶組成
物において,第一成分である式(1-1)及び式(1-2)で表される化合
物,並びに第二成分である式(2-1)で表される化合物の誘電率異方性が,
本件発明1の第二成分の誘電率異方性に相当する「負でその絶対値が3より
も大きい」ものであることを当業者が把握できるとはいえないのであって,
甲1発明1と本件発明1とでは,この点においても実質的な相違があるもの
といわなければならない。
⑷以上によれば,本件審決は,上記(1)及び(2)の点において本件発明1と甲
1発明1の一致点の認定を誤っており,その結果,これに対応する相違点を
看過したものといえる(看過した相違点として,原告主張の「相違点α」(前
記第3の2(2)ア)を認めることができる。)。
そして,上記(1)及び(2)の説示によれば,当該相違点が実質的な相違点で
あることは明らかであり,他方,当該相違点に係る容易想到性については,
本件審決の判断対象とはされておらず,本件に顕れた証拠や技術常識等から
自明であるということもできない。
さらに,上記(3)の点が,本件発明1と甲1発明1の実質的相違点であるこ
とは上記(3)で説示したとおりであるから,本件審決は,これを実質的相違点
ではないとした点においても誤っているものというべきである。
してみると,本件審決における上記一致点の認定の誤り・相違点の看過は,
本件発明1について,甲1に記載された発明と同一であるか,又は,同発明
に基づいて容易に発明をすることができたものであるとした本件審決の結論
に影響を及ぼすものといえる。
したがって,原告主張の「本件発明1についての一致点の認定の誤り・相
違点の看過」に係る取消事由には理由がある。
4本件発明2~5,7~11についての認定・判断の誤りについて
上記3のとおり,本件審決の本件発明1についての認定・判断には結論に影
響を及ぼす誤りがある。そうである以上,いずれも本件発明1に係る請求項1
を引用し,更にこれを限定する発明である本件発明2~5,7~11について
も,本件審決の認定・判断には結論に影響を及ぼす誤りがあるものといえる。
したがって,原告主張の「本件発明2~5,7~11についての認定・判断
の誤り」に係る取消事由にも理由がある。
5結論
以上の次第であるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本
件審決のうち,「特許第5234227号の請求項1ないし5,7ないし11
に係る発明についての特許を無効とする。」との部分は取り消すべきものであ
る。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
大西勝滋
裁判官
杉浦正樹

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