弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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              主        文
    被告人を懲役2年に処する。
    この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
    被告人から金250万円を追徴する。
              理        由  
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成8年7月10日から平成10年7月9日までの間,○○国税局課
税第二部酒類業調整官として,酒類等の販売業者を監督すること等の職務に従事し
ていた者であるが,平成10年1月下旬ころ,広島市○○区○○番○○号所在の喫
茶店Aにおいて,フランチャイズチェーンシステムによるコンビニエンスストアー
等の経営等を目的とする株式会社Bの取締役兼○○地区本部長として○○地区の同
社直営店及び同社フランチャイズ加盟店の経営を統括掌理していたCから,酒類小
売販売業者である同社直営店及び同社フランチャイズ加盟店に対する指導監督等に
ついて,同社及び同社フランチャイズ加盟店のために便宜な取り計らいを受けたこ
との謝礼及び将来も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであ
ることを知りながら,現金250万円の供与を受け,もって,自己の職務に関して
賄賂を収受したものである。
(証拠の標目)
 (省略)
(法令の適用)
 (省略)
(量刑の理由)
 本件は,国税局酒類業調整官として,酒類等の販売業者に対する監督権限を有
し,また管内の酒類小売業免許の付与等に関して絶大な権限を振るっていた被告人
が,脱法行為の疑いのあるコンビニエンスストアーの酒類小売業免許の移転などに
ついて便宜な取り計らいをしたり,将来もそれを続けてもらいたいとの趣旨で供与
されるものであることを知りながら,現金250万円の賄賂を収受した事案であ
る。
 被告人は,株式会社Bの取締役であるCが被告人に接近してきた意図が,Bに関
係する酒類小売業免許の移転などについて穏便な取り計らいをしてもらうためであ
ることを知るや,Bに賄賂を提供させようと考え,Bに酒類小売業免許の移転など
について種々の問題があることを指摘したり,その点について被告人に絶大な権限
があることを誇示したりしながら,B以外の業者の免許譲渡については関係法令を
形式的に適用して厳格な運用をする一方,Bについては,違法な免許譲渡を疑う各
税務署の担当者らの意見を押さえ込んでまで有利な取り計らいをし,国税局OBの
税理士を顧問税理士として紹介し,一企業にすぎないBの内部の勉強会で自ら講師
役を務めるなど徹底して肩入れをして,その信頼を得た上で,「わしも署の指導官
や若い衆をたまには飲まさにゃいけんけえのお。」と申し向けて,自分からあから
さまに賄賂の供与を要求し,収受したものであって,その犯行は,計画的かつ悪質
である。
 また,被告人は,私利私欲のため,自己が有する絶大な職務権限を濫用して酒類
行政をゆがめ,酒類行政に対する国民の信頼,ひいては税務行政全体に対する信頼
を著しく損なったものであり,本件犯行が社会に及ぼした影響は重大である。
 さらに,被告人は,昭和46年ころに税理士の依頼で申告書類の作成を手伝っ
て,当時の給与の数か月分に相当する金銭を受け取ったことを皮切りに,長年にわ
たって,税理士や納税者から不正あるいは不明朗な多額の金銭の供与を受け続け,
部下らを連れて派手に飲食したり,多額の金品を愛人に貢ぐなどした上,本件でも
何のためらいもなく賄賂を要求しているのであって,その規範意識の鈍麻には著し
いものがある。
 以上の事情によれば,被告人の刑事責任は決して軽いものではない。
 しかしながら,被告人は,既に懲戒免職処分を受けて,その職を失い,また,事
件報道を通じてその犯行が広く知れわたり,社会的な非難にさらされるなど,一定
の社会的制裁を受けていること,公務員としての職を失ったことから再犯のおそれ
はないこと,事実を素直に認めて謝罪し,しょく罪寄附をするなど,反省の情が認
められること,元の職場の上司が被告人の今後の相談役を引き受ける旨申し出てい
ること,被告人には扶養すべき病身の妻がいること,被告人には前科前歴がないこ
となど,被告人にとってしんしゃくできる事情も認められる。
 そこで,これらの事情を総合考慮すれば,被告人に対しては,今回はその刑の執
行を猶予し,社会内での更生の機会を与えることが相当である。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑-懲役2年,追徴金250万円)
  平成13年10月16日
    広島地方裁判所刑事第一部
        裁判長裁判官  山  森  茂  生
           裁判官  高  原     章
           裁判官  寺  元  義  人 

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