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平成14年(行ケ)第356号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成15年5月12日
判     決
原   告         A   
原   告          B  
原   告          C  
上記3名訴訟代理人弁護士中 村 勝 彦
同訴訟復代理人弁護士  勝 浦 敦 嗣
同訴訟代理人弁理士   稲 葉 良 幸
同内 田 佐江子
被   告          プリンチペ・エッセ・ピ・ア
同訴訟代理人弁護士   佐 藤 雅 巳
同           古 木 睦 美
主     文
     1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申てのための付加期間を30日
と定める。
 事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告ら
(1) 特許庁が平成11年審判第30783号事件について平成14年3月5日
にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
主文第1,2項と同旨
第2 争いがない事実等(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)
1 特許庁における手続の経緯
  (1) プリンチぺ ソシエタ ペル アツチオーニ(その後平成6年11月13
日,フラッシュ ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータと名称を変更し
た。以下「プリンチペ社」という。)は,「PRINCIPE」の欧文字を横書き
してなり,商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの。)1条別
表第17類の「被服,布製身回品,寝具類」を指定商品とする登録第210886
4号商標(昭和55年9月9日登録出願。平成元年1月23日設定登録。平成9年
8月25日に上記名称変更につき表示更正の登録。平成11年2月16日存続期間
の更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権を有していた。原告らは,平成
9年7月ころ,プリンチペ社から本件商標の商標権の譲渡を受け(原告A及び原告
Bの持分各25%,原告Cの持分50%),同年8月25日にその旨の移転登録を
経由した(甲4,5,乙1)。
  (2) 被告は,平成11年6月21日,原告らを被請求人として,本件商標の登
録を商標法50条1項の規定により取り消すことについて特許庁に審判を請求し,
同請求の予告登録が同年7月14日にされた。
  (3) 特許庁は,被告の上記請求について,平成11年審判第30783号事件
として審理を行った上,平成14年3月5日,「登録第2108864号商標の商
標登録は取り消す。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。特許庁は,
同月15日にその謄本を原告らに送達した(弁論の全趣旨)。
 2 本件審決の理由の要点(甲1)
 本件審決の理由は,要するに,被請求人である原告らは,本件審判請求の登
録(平成11年7月14日)前3年以内に,日本国内において,本件商標をその指
定商品について使用していなかったというべきであり,かつ,これを使用しなかっ
たことについて正当な理由があるものとは認められないから,商標法50条の規定
により,本件商標の登録を取り消すべきである,というものである。
第3 当事者の主張
1 原告らの主張
次に述べるとおり,本件商標の通常使用権者は,本件審判請求の登録前3年
以内に,日本国において,本件商標をその指定商品に使用していたものであり,こ
の点に関する本件審決の認定判断は誤りである。
 (1)プリンチペ社から株式会社パートナー社(以下「パートナー社」とい
う。)に対する本件商標の使用権の再許諾権付き許諾
    プリンチペ社は,1993年(平成5年)12月1日付けで,パートナー
社との間で,契約期間を同日から2004年(平成16年)12月1日までの間と
し,プリンチペ社はパートナー社に対し,日本国等において,被服等に関し,本件
商標を独占的に使用する権利を許諾する,パートナー社は,プリンチペ社の承認を
得て,本件商標の使用権を第三者に再許諾する権利を有することなどを内容とする
契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(2)アプリンチペ社の本件契約上の地位の原告らによる承継
    原告らは,1997年(平成9年)7月ころ,プリンチペ社から本件商
標の商標権の譲渡を受け(原告A及び原告Bの持分各25%,原告Cの持分50
%),同年8月25日にその旨の移転登録を経由した。
イ原告らは,本件商標の商標権を取得するとともに,パートナー社の承諾
の下に,プリンチペ社から本件契約上の本件商標の使用権許諾者の地位を承継し
た。
(3)パートナー社から株式会社ハタ・コーポレーション(以下「ハタ社」とい
う。)への本件商標の使用権の許諾とハタ社による本件商標の使用
   ア パートナー社は,本件契約により取得した本件商標の使用権の再許諾権
に基づいて,1994年(平成6年)1月1日付けで,株式会社エトアールマルゼ
ン(以下「エトアールマルゼン社」という。)との間で,本件商標の使用権を許諾
する旨の契約(パートナー社・エトアールマルゼン社間契約」という。)を締結
し,また,エトアールマルゼン社は,1995年(平成7年)1月1日付けで,ハ
タ社との間で,同日から1997年(平成9年)12月31日までの間,本件商標
の使用権をハタ社に許諾する旨の契約(以下「エトアールマルゼン社・ハタ社間契
約」という。)を締結した。その後,パートナー社とハタ社は,エトアールマルゼ
ン社の承諾を得て,1996年(平成8年)5月1日付け「「PRNCIPE」商標使用契
約書」に関する契約内容変更の覚書」により,上記契約の内容を変更し,パートナ
ー社が直接ハタ社に本件商標の使用権を再許諾する旨の合意をした。
 イ ハタ社は,上記覚書に基づき,本件審判請求の登録(平成11年7月1
4日)前3年以内に,本件商標を指定商品である被服について使用していた。
(4)パートナー社から本件商標の使用権の許諾を受けたフレックスジャパン株
式会社(以下「フレックス社」という。)による本件商標の使用
   ア パートナー社は,1997年(平成9年)12月1日付けで,フレック
ス社との間で,契約期間を同日から2001年(平成13年)2月末日までの間と
し,シャツ類全般(ドレス,カジュアル)に関し,フレックス社に対し本件商標の
使用権を許諾する旨の契約(以下「パートナー社・フレックス社間契約」とい
う。)を締結した。上記契約は,同契約8条に基づき,その後も更新されて継続し
ている。
   イ フレックス社は,準備期間を経て,1999年(平成11年)初め以
降,本件商標を付したシャツを東武百貨店などに販売し,今日に至っている。
2 被告の主張
(1) 原告らの主張(1)の事実は否認する。
本件契約に係る契約書であるとして原告らが提出した証拠(甲6)は,同
契約日当時プリンチペ社の代表権限を有していた「D」(社長)及び「E」(専務
取締役)又はその者から代理権限を授与されたものにより作成されたものではな
い。したがって,甲6の契約書は無効なものである。
    上記契約書が有効なものであるとしても,上記契約書は,プリンチぺ社が
パートナー社に対しデザインの供給とプリンチペ社がイタリアにおいて所有す
る「PRINCIPE」なる商標の使用権の許諾を内容とするものであり,プリンチペ社が
パートナー社に本件商標の使用権を許諾する内容のものではないし,まして,原告
らがパートナー社に本件商標の使用権を許諾する内容のものでもない。
(2)ア 原告らの主張(2)アの事実うち,本件商標権についてプリンチペ社から
原告らへの権利移転の登録がされていることは認め,その余の事実は否認する。
イ同(2)イの事実は否認する。
原告らの主張によれば,1997年(平成9年)7月ころ,プリンチペ
社から原告らに対し,本件契約上の本件商標の使用権許諾者の地位の譲渡がなされ
たことになるが,プリンチペ社から原告らに対する本件商標権の移転登録の申請が
された1997年7月2日当時,プリンチペ社は既に清算に入っていたのであるか
ら,上記地位の譲渡があったとすれば,清算人と原告らとの間で当然上記地位の譲
渡に関する契約書が取り交わされたはずである。しかるに,かかる契約書は存在し
ない。また,原告らが本件契約に係る契約書であると主張する甲6には,プリンチ
ペ社が上記本件商標の使用権許諾者の地位を原告らに譲渡するについては,事前に
パートナー社の書面による承諾を得なければならない旨の定めが記載されている
(10条)ところ,かかる事前の承諾はない。
    プリンチペ社から本件契約上の本件商標の使用権許諾者の地位の譲渡を
受けたとする原告らの主張は全く理由がない。
(3)ア 原告らの主張(3)アの事実は否認する。
 (ア)パートナー社・エトアールマルゼン社間契約に係る契約書であると
し て原告らが提出した証拠(甲7)の作成日は1994年(平成6年)1月1日
であるが,その当時,エトアールマルゼン社は,プリンチペ社との間の契約によ
り,同社が有する「日本における「PRINCIPE」商標」の使用権を許諾されていたも
のであり,甲7の契約書における「日本における「PRINCIPE」商標」が本件商標を
指すことは明らかである。
     しかして,甲7の契約書の内容は,パートナー社がエトアールマルゼ
ン社に対し,エトアールマルゼン社がプリンチペ社から許諾を受けて有する専用使
用権に係るブランド「PRINCIPE」に関して,サブライセンシーの開拓,企画,コー
ディネート及び管理業務のサービスを提供するというものである。
      パートナー社が,プリンチペ社から本件商標の使用権の許諾を受けて
いないことは前記(1)に記載のとおりであり,甲7の契約書が,パートナー社がエト
アールマルゼン社に対し,本件商標の使用権を再許諾する内容の契約書でないこと
は明らかである。
    (イ) エトアールマルゼン社・ハタ社間契約に係る契約書であるとして原
告らが提出した証拠(甲8)の内容は,エトアールマルゼン社が同社の専用使用ブ
ランド「PRINCIPE」の使用権をハタ社に許諾するというものであるが,エトアール
マルゼン社がパートナー社から本件商標の使用権の許諾を受けた事実がないことは
上記(ア)に記載のとおりである。
      甲8の契約書記載のエトアールマルゼン社の「専用使用ブラン
ド「PRINNCIPE」」が,エトアールマルゼン社がプリンチペ社から許諾を受けて有し
ていた専用使用権に係るブランドを指すものであることは上記(ア)に 述べたとお
りである。
(ウ) 仮に,プリンチペ社がパートナー社に本件商標の独占的使用権を再
許諾権付きで許諾し,また,パートナー社がエトアールマルゼン社ないしハタ社に
対し,本件商標の使用権を再許諾したものとしても,上記再許諾をするについて
は,プリンチペ社の事前の書面による承諾を得なければならない旨の定めが甲6の
契約書に記載されている(7条)ところ,かかる事前の承諾はないから,上記再許
諾は無効である。
 (エ) したがって,本件審判請求の登録(平成11年7月14日)前3年
以内に,ハタ社が本件商標の使用権を有していたということはできない。
イ 同(3)イの事実は否認する。
ハタ社が,本件審判請求の登録(平成11年7月14日)前3年以内
に,本件商標をその指定商品である被服について使用した事実はない。
(4)ア 原告らの主張(4)アの事実は否認する。
(ア) 原告らは,パートナー社がフレックス社に対し本件商標の使用権を
再 許諾した旨主張するが,パートナー社がプリンチペ社から本件商標の使用権の
許諾を受けた事実のないことは前記(1)記載のとおりであり,したがって,パートナ
ー社がフレックス社に対し,本件商標の使用権の再許諾をしたということはあり得
ない。
(イ) パートナー社・フレックス社間契約に係る契約書であるとして原告
が提出した証拠(甲22)には,パートナー社はイタリアン・プレス・サービス・
カンパニー.H.K.リミテッドの保有する商標第25類の「PRINCIPE(プリンチ
ペ)」の独占的製造,販売権を取得し,これに基づき,フレックス社に同商標の使
用権を許諾する旨の記載があるが,イタリアン・プレス・サービス・カンパニー.
H.K.リミテッドは本件商標の商標権者ではない。また,甲22の契約書1条に
は,「パートナー社はフレックス社に対し,パートナー社が専用使用権を有する商
標「PRINNCIPE(プリンチペ)(以下「本商標」という)に関し,第3条に定める商
品について独占使用権を許諾する。」旨定められているが,一方,上記契約書2条
は,「フレックス社は,販売方法,販売場所,宣伝広告,その他いかなる点におい
ても,「本商標」(「本商標」と結合される図柄を含む)のブランドイメージを毀
損するような使用をしてはならない。」旨定め,「本商標」が図形を含むものであ
ることを明らかにしているから,上記契約書にいう「商標「PRINNCIPE(プリンチ
ペ)」」が本件商標とは異なるものであることは明らかである。
  本件契約が有効に成立したものとしても,その契約期間は,1993
年(平成5年)12月1日から1998年(平成10年)12月1日までであり,
同契約は更新されていない。1998年当時,プリンチペ社は清算中であり,本件
契約の更新などするはずはない。これに対し,甲22の契約書の契約期間は,19
97年(平成9年)12月1日から2001年(平成13年)2月末日までであ
り,その基礎となるべき本件契約の契約期間を超えており,プリンチペ社がかかる
契約を承諾するはずがない。
 したがって,甲22の契約書は,パートナー社がフレックス社に対
し,本件商標の使用権を許諾したものではない。
イ同(4)イの事実は否認する。
フレックス社が,本件審判請求の登録(平成11年7月14日)前3年
以内に,本件商標をその指定商品である被服について使用した事実はない。
第4 当裁判所の判断
1 商標法50条によれば,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用
使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商
標の使用をしていないときは,何人も,その指定商品等に係る商標登録を取り消す
ことについて審判を請求することができ,同審判請求があった場合においては,そ
の審判請求に係る指定商品等についてその登録商標の使用をしていないことについ
て正当な理由があることを被請求人が明らかにした場合を除き,上記審判請求の登
録前3年以内に日本国内において商標権者等のいずれかがその請求に係る指定商品
等のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限
り,その指定商品等に係る商標登録の取消しを免れないとされている。
   なお,商標とは,標章,すなわち文字,図形,記号若しくは立体的形状若し
くはこれらの結合又はこれらと色彩の結合であって,業として商品を生産し,証明
し,又は譲渡する者がその商品について使用をするもの等をいい(商標法2条1
項),また,商標法で標章について「使用」とは,商品又は商品の包装に標章を付
する行為,商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若し
くは引渡しのために展示し,又は輸入する行為,商品又は役務に関する広告,定価
表又は取引書類に標章を付して展示し,又は頒布する行為等をいう(同条3項(平
成14年法律第24号による改正前のもの))とされている。
   本件の争点は,ハタ社又はフレックス社が,本件商標の通常使用権を有して
いたか否か,ハタ社又はフレックス社が,本件審判請求の登録(平成11年7月1
4日)前3年以内に本件商標をその指定商品に使用していたと認められるか否かで
ある。そこで,以下この点に関して判断する。
 2ハタ社が本件審判請求の登録(平成11年7月14日)前3年以内に本件商
標の通常使用権を有していたか否か,また,その期間内に本件商標をその指定商品
に使用していたか否かについて
  (1)アプリンチペ社からパートナー社に対する本件商標の使用権の再許諾権付
き許諾の有無について
    (ア) 原告らは,プリンチペ社は1993年(平成5年)12月1日付け

     パートナー社との間で,契約期間を同日から2004年(平成16年)
12月1日までとする本件契約を締結した旨主張し,同契約に係る契約書であると
して証拠(甲6)を提出する。
     しかしながら,甲6の契約書の冒頭部分には,各契約条項の前提をな
すと解される事項として,「本会社(判決注:プリンチペ社)は,イタリアにおけ
る「PRINCIPE」の商標の所有者であり,かつ,イタリアにおいて当該商標の下に,
日本の商標法における商品分類の第17類,20類,21類,22類,25類及び
26類に属する全ての商品の製造者及び販売者としてビジネスに従事している。本
会社は,独占的に,イタリアにおける本会社のデザイン及び創作に基づき製造され
た本製品(判決注:被服等)について「PRINCIPE」の商標をイタリアにおいて使用
し,かつ他の者,商会又は会社に対して上記商標を使用する許可を付与する権限を
有している。パートナー社は,本契約において定めるとおり,本会社のデザイン及
び創作に基づく様々な種類の製品を本領域(判決注:日本国等)において製造及び
販売することを望んでいる。」との記載があり,上記契約書4条には,パートナー
社は,被服等に関連し,日本国等において,「PRINCIPE」の商標及びプリンチペ社
の名称を使用する独占的権利を有する旨の定めが,同契約書7条には,パートナー
社は,他の者,商会又は会社に対し,日本国等において,上記商標等を付した被服
等を製造及び販売することを許可する権利を有する旨,但し,パートナー社は,ま
ずプリンチペ社の書面による承認を取得しているものとする旨の定めがそれぞれ記
載されていることが認められる。
    (イ) 他方,証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,プリンチペ社はエ
トアールマルゼン社との間で,1989年(平成元年)6月1日発効し,契約期間
を5年間とする商標使用権の許諾に関する契約を締結したこと,同契約に係る契約
書の冒頭には,各契約条項の前提をなす事項として,「Company(判決注:
プリンチペ社)は,日本及びイタリアにおいての「PRINCIPE」の商標の権利者であ
り,日本の商標の法に基づく商品区分,17類,20類,21類,22類及び25
類の関連商品(判決:衣料全般等)の製造及び販売を営む。Companyは,他
の者,商会又は会社に対し,商標「PRINCIPE」をCompanyのデザイン及びク
リエーションの製品に使用する許可を与え,また,イタリア及び日本において独占
的な使用を承認する。EM(判決注:エトアールマルゼン社)は,次に定義付ける
領域内(判決注:日本国等)においてCompanyがデザイン及びクリエートし
た様々な種類の製品の製造と販売を希望している。」との記載があり,上記契約書
4条aには,エトアールマルゼン社は「PRINCIPE」の商標及びプリンチペ社の名称
を衣料全般等に日本国等において使用する権利を独占的に有する旨の定めが,上記
契約書5条には,同契約は1989年(平成元年)6月1日に効力を発し,5年間
継続するものとし,両者合意の上で文書にて追加年の更新をすることができる旨の
定めが,上記契約書7条には,エトアールマルゼン社は,他の者,商会又は会社に
対し,日本国等において,上記の商標等を付した製品の製造及び販売の許可を与え
る権利を有する旨,但し,エトアールマルゼン社は,まずプリンチペ社の書面によ
る承認を取得しているものとする旨の定めがそれぞれ記載されている。
 (ウ)上記認定の事実によれば,プリンチペ社は,1989年(平成元
年)6月1日に発効した契約により,エトアールマルゼン社に対し,プリンチペ社
が有する日本においての商標「PRINCIPE」,すなわち本件商標の独占的な使用権を
付与したことが認められる。プリンチペ社が,エトアールマルゼン社に対し本件商
標の独占的な使用権を許諾しながら,同時に,パートナー社に対し本件商標の独占
的使用権を許諾することは考えにくいことであり,このことに加え,甲6の契約書
では,契約条項の前提をなす事項として,プリンチぺ社がイタリアにおけ
る「PRINCIPE」の商標の所有者である旨の記載がされているにとどまり,乙2の契
約書のように,プリンチぺ社が日本及びイタリアにおいての「PRINCIPE」の商標の
権利者であることの記載はないことを考慮すれば,甲6の契約書は,プリンチペ社
がパートナー社に対し,イタリアにおける「PRINCIPE」の商標の独占的な使用権を
許諾したにとどまるものであると解する のが相当であり,上記契約書が,プリン
チペ社がパートナー社に対し,本件商標の独占的な使用権を許諾する内容のもので
あると認めることはできない。
      したがって,証拠(甲6)が権限を有する者により作成されたものか
どうかの点はさておき,それは,プリンチペ社がパートナー社との間で本件契約が
成立したことを証するものとはいえない。
 イパートナー社からハタ社に対する本件商標の使用権の許諾の有無につい

   (ア) 原告らは,パートナー社はエトアールマルゼン社との間で,本件契
約 により取得した本件商標使用の再許諾権に基づいてエトアールマルゼン社に対
し本件商標の使用権を許諾する旨の契約(パートナー社・エトアールマルゼン社間
契約)を締結し,また,エトアールマルゼン社はハタ社との間で,本件商標の使用
権をハタ社に許諾する旨の契約(エトアールマルゼン社・ハタ社間契約)をし,そ
の後,パートナー社及びハタ社の2社は,エトアールマルゼン社の承諾の下に,1
996年(平成8年)5月1日付けで,上記契約の内容を変更し,パートナー社が
直接ハタ社に本件商標の使用権を再許諾するものとする合意をした旨主張する。
 (イ)しかしながら,パートナー社が,プリンチペ社から本件商標の使用
権の許諾を受けていないことは上記アに説示したとおりであり,原告らがパートナ
ー社・エトアールマルゼン社間契約に係る契約書であるとして提出した証拠(甲
7)は,エトアールマルゼン社がパートナー社に対し,エトアールマルゼン社の専
用使用ブランド「PRNCIPE」のサブライセンシーの開拓業務,企画,コーディネート
及び管理業務を委託することを内容とする契約であり,原告らが主張するような内
容の契約の成立を証するものでないことはその記載内容に照らして明らかである。
 (ウ) 上記ア認定の事実並びに証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,
エトアールマルゼン社は,1995年(平成7年)1月1日付けで,ハタ社との間
で,契約期間を同日から1997年(平成9年)12月末日までとして,エトアー
ルマルゼン社がハタ社に対し,エトアールマルゼン社の専用使用ブラン
ド「PRINCIPE」の商標を使用した被服等の製造,販売権を許諾する旨の契約を締結
したこと,上記エトアールマルゼン社の専用使用ブランド「PRINCIPE」の商標は,
前記ア(イ)の契約により,エトアールマルゼン社がプリンチペ社から独占的な使用
権の許諾を受けた本件商標を指すものであることが認められる。
      しかしながら,エトアールマルゼン社とハタ社間の上記契約に関して
は,パートナー社とハタ社の間で交わされたと認められる1996年(平成8年)
5月1日付け「「PRNCIPE 商標使用契約書」に関する契約内容変更の覚書」(甲
9)により,パートナー社が直接ハタ社に本件商標の使用権を再許諾するものとす
る旨,上記契約内容を変更する合意がされている。このことは,上記契約が何らか
の理由により契約期間が満了する前の上記覚書作成時点において終了したことを示
すものと認めるほかない。そして,パートナー社が,プリンチペ社から本件商標の
使用権の許諾を受けていないことは前記アに説示したとおりであるから,上記覚書
により,ハタ社が本件商標の使用権を取得するいわれはない。
したがって,証拠(甲8,9)をもって,ハタ社がエトアールマルゼ
ン社ないしパートナー社から本件審判請求の登録(平成11年7月14日)前3年
以内の期間において本件商標の使用権の許諾を受けていたと認めることはできな
い。
ウ原告らの上記ア(ア)及びイ(ア)の主張に沿う証拠(甲17,19,2
1,3 0,31)のうち上記認定に反する部分はたやすく信用することができ
ず,他に,上記原告ら主張事実を認めるに足りる証拠はない。
(2) のみならず,原告らが提出した証拠(甲10,12ないし16,18)
は,次に説示するとおり,いずれも,ハタ社が本件審判請求の登録(平成11年7
月14日)前3年以内に本件商標をその指定商品に使用したとの原告ら主張事実を
証するものとはいえず,また,同原告ら主張事実に沿う証拠(甲17,19)もた
やすく信用することができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
ア 甲10は,ハタ社が,1995年(平成7年)5月16日及び17日に
開催した1995年から1996年(平成8年)秋冬コレクション発表会の案内状
であり,また,甲12は,ハタ社が,1995年(平成7年)11月1日及び2日
に開催した1996年(平成8年)春夏コレクション発表会の案内状であると認め
られるが,各案内状にはいずれも本件商標の指定商品が何ら表示されていないばか
りでなく,上記各コレクション発表会が本件審判請求の登録(平成11年7月14
日)前3年以内にされたものでないことは明らかである。なお,上記各証拠がハタ
社により上記各コレクションに係る商品が販売されたことを証するものでないこと
はいうまでもない。
イ 証拠(甲13)は,ハタ社が作成した1997年(平成9年)春夏物ネ
クタイの商品リストであると認められるが,これらが広告,定価表又は取引書類と
して展示され,又は各販売先に頒布されたことを認めるに足りる証拠はなく,まし
て,上記商品リストをもって,ハタ社により同リスト記載の商品が販売されたこと
を証するものとはいえない。
また,原告らがエトアールマルゼン社・ハタ社間契約に係る契約書であ
るとする甲8には,エトアールマルゼン社はハタ社に対し,専用使用ブラン
ド「PRINCIPE」の商標を付した指定商品,すなわち「旧第17類,現第25類 被
服(但し,メンズのスーツ,ジャケットに限る)」を製造し,日本国において販売
する使用権を許諾する旨の約定しかなく,ハタ社に対しネクタイについて上記商標
の使用権を許諾する旨の約定はないから,仮に,上記商品リストが展示,頒布され
たものとしても,これをもって,ハタ社が本件商標の使用権者として本件商標をそ
の指定商品に使用したということはできない。
 ウ原告らは,証拠(甲14)は,ハタ社が1997年(平成9年)に販売
していた「PRINCIPE」ブランドの商品(メンズパンツ)に使用されていた下げ札で
あると主張するが,上記下げ札げ自体は,本件商標がその指定商品に使用され,そ
の指定商品が販売のため展示されていたことを示すものということはできない。
エ 証拠(甲15)は,1995年(平成7年)2月2日付けの繊研新聞で
あり,同新聞には,「ハタ・コーポレーションは,今秋冬物からイタリア・フィレ
ンツェの専門店「プリンチペ」(1930年創業)ブランドのメンズ重衣料を日本
国内でライセンス生産し,専門店ルートで販売する。プリンチペと提携関係にある
専門店のエトワールマルゼン(本社富山市)との3年契約で,3年後,小売りベー
スで10億円の売上高を見込んでいる。」との記載があるが,この記載は,ハタ社
が,本件審判請求の登録(平成11年7月14日)前3年以内に,本件商標をその
指定商品について使用したことを示すものではない。
オ 弁論の全趣旨も併せてみれば,証拠(甲16)は,ハタ社が,上記新聞
にあるとおり,専門店「プリンチペ」(1930年創業)ブランドのメンズ重衣料
を日本国内でライセンス生産し,専門店ルートで販売するに当たり,今後のブラン
ド展開のスケジュールを詳述した1995年(平成7年)1月作成の企画書である
と認められ,また,証拠(甲18)は,パートナー社がハタ社宛てに提出した19
98年(平成10年)秋冬物の企画書である(同企画書には「principe」の文字及
び本件商標の指定商品に含まれる各種商品が表示されている。)。
     しかしながら,一般的に,企画書は,商品開発,販売計画を記載した会
社内の内部文書というべきものであり,これをもって,本件商標が本件指定商品に
ついて使用されたことを示すものということはできず,さらに,前者についていえ
ば,その内容は,本件審判請求の登録(平成11年7月14日)前3年以内に関す
るものではなく,ハタ社が同期間内に本件商標をその指定商品について使用したこ
とを示すものでないことは明らかである。
3フレックス社が,本件審判請求の登録(平成11年7月14日)前3年以内
に本件商標の通常使用権を有していたか否か,また,その期間内に本件商標をその
指定商品に使用していたか否かについて
(1)ア 原告らは,パートナー社がプリンチペ社から本件商標の独占的使用権を
再許諾権付きで許諾を受けたことを前提に,フレックス社がパートナー社から本件
商標の使用権の再許諾を受けた旨主張するが,パートナー社がプリンチペ社から本
件商標の独占的使用権の許諾を受けたと認められないことは,前記2(1)アに説示し
たとおりである。
 原告らは,パートナー社・フレックス社間契約に係る契約書であるとし
て証拠(甲22)を提出する。しかしながら,甲22の契約書には,パートナー社
はイタリアン・プレス・サービス・カンパニー.H.K.リミテッドの保有する商
標第25類の「PRINCIPE(プリンチペ)」の独占的製造,販売権を取得し,これに
基づき,フレックス社に同商標の使用権を許諾する旨記載されているところ,イタ
リアン・プレス・サービス・カンパニー.H.K.リミテッドは本件商標の商標権
者ではなく,上記契約書にいう同社が保有する商標第25類の「PRINCIPE(プリン
チペ)」と本件商標とは別の商標を意味するものと解するのが相当である。
 したがって,証拠(甲22)をもって,フレックス社がパートナー社か
ら本件商標の使用権の許諾を受けたとの事実を認めることはできない。
   イ 原告らの上記アの主張に沿う証拠(甲19,29,30)はたやすく信
用することができず,他に上記原告ら主張事実を認めるに足りる証拠はない。
(2) そうすると,仮に,フレックス社が本件審判請求の登録(平成11年7月
14日)前3年以内に「PRINCIPE」の商標をその指定商品について使用した事実が
あるとしても,それは本件商標の使用権者としての本件商標の使用には該当しな
い。
4 以上の次第で,原告らが本件審決の取消事由として主張するところは,その
余の点について判断するまでもなく理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵
は見あたらない。
 よって,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することと
し,主文のとおり判決する。
 東京高等裁判所第3民事部
   裁判長裁判官北  山  元  章
   裁判官  青  栁     馨
裁判官  沖  中  康  人

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