弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人菅原正治作成名義の控訴趣意書に記載されているとお
り(ただし、当審第一回公判における同弁護人の釈明参照)であるから、ここにこ
れを引用する。
 控訴趣意第一、法令解釈の誤りの論旨および同第二、事実誤認の論旨について。
 所論は、要するに、原判決は、その罪となるべき事実として、「被告人は、原判
示日時ごろ、原判示道路において、原判示A運転の普通貨物自動車の正常な交通を
妨害するおそれがあるのに、原判示軽三輪自動車を運転して横断した。」旨を判示
し、かつ「弁護人の主張について」と題する部分において、「本件の場合のような
転回には、常に横断を伴うものであり、したがつて、被告人において、たとえ、当
初転回の意思で発進したもので、それが転回としては未遂に終つたものであつたと
しても、横断としての構成要件充足の行為があつた以上、横断の犯意に欠けること
はなく、道路交通法第二五条の二第一項違反の罪が成立する」旨を判示している。
しかしながら、被告人は、原判示道路において、原判示軽三輪自動車を運転し、転
回をする意思で、徐々に進路をかえ、斜めに進行して、同道路に進出し、被告人運
転の原判示軽三輪自動車の前輪が原判示道路の中央部より僅か約六〇糎はみ出した
地点付近で停車したものであつて、もとより、被告人に原判示道路を横断する意思
がなく、同条第一項にいわゆる横断にも当らないし、原判決のいうような転回に伴
う横断は同条第一項の処罰の対象とならないものと解される。しかのみならず、被
告人の本件行為が、かりに横断となるとしても、本件証拠上、被告人は、原判示道
路において、転回しようとして道路中央部にまで(被告人運転の原判示軽三輪自動
車前輪が道路中央部より約六〇糎はみ出した地点まで)進出した時、原判示A運転
の普通貨物自動車が被告人の左方(西方)約四一・六米の地点付近を進行中である
のを認めたので、これを通過させるため、一時停車していたところ、原判示Aが、
前方の注視を怠り、少なくとも時速約六〇粁の高速度で、原判示普通貨物自動車を
運転東進して来て、前記のように一時停止中であつた被告人運転の原判示軽三輪自
動車に衝突したものと認定するのが至当であつて、被告人には、原判示A運転の原
判示普通貨物自動車の正常な交通を妨害する意思がなく、またその妨害のおそれも
全くなかつたのである。しかるに、本件前後の事情あるいはその内容上、措信し得
べからざる原審第二回公判調書中、証人A、同Bの各供述記載、A、Bの司法巡査
に対する各供述調書、司法警察員C作成の実況見分調書の各記載などを措信して、
被告人の本件行為をもつて、原判示A運転の原判示普通貨物自動車の正常な交通を
妨害するおそれのある横断であると認定した原判決は、証拠の取捨選択を誤り、事
実を誤認するに至つたものであつて、いずれにせよ、原判決には、事実を誤認し、
ひいては道路交通法第二五条の二第一項の解釈適用を誤つた違法がある、というの
である。
 所論にかんがみ検討すると、原判決が証拠として引用した各証拠ならびに当審証
人Bの当審公判廷における供述を総合すれば、被告人は、原判示日時ごろ、原判示
道路(幅員約八米の東西に通ずる道路)南側に面する余語種苗店に所用があり、そ
のとき乗車していた原判示軽三輪自動車を同道路南端に西向きに駐車して、同店に
赴き、所用をすませた後、再び該軽三輪自動車に乗車し同道路において、方向転換
(いわゆるユーターン)をしようとして、該自動車を発進させ、時速約四・五粁の
速度で、徐々に方向を北に向けながら、ほぼ斜めに進行し、該道路中央部付近に近
づき(該道路中央部にはセンターラインは引いてないが、五ないし六米おきに鋲が
打つてある)、該自動車前部が、右の道路中央部の鋲の線あたりに来たとき一旦停
車した。一方、原判示Aは、原判示普通貨物自動車を運転し、原判示道路北側(同
女運転の前回普通貨物自動車の右側が、前記中央部の鋲の線より、二、三〇糎北側
のあたり)を東進し、被告人運転の原判示軽三輪自動車が道路中央寄りに進出して
来たので、ブレーキを踏みかけたが、前記のように、被告人が一旦停止したのを見
て、そのまま進行した。ところが、その際、被告人が、急に、その運転にかかる前
同軽三輪自動車を、転回させる意図の下に、発進させたので、原判示Aにおいて、
これを避けることができず、結局、被告人は、その運転する原判示軽三輪自動車前
輪付近を、原判示A運転の原判示普通貨物自動車右フエンダー付近に衝突させるに
至つたものであることを認めることができる。これについて、所論は、原審第二回
公判調書中証人A、同Bの各供述記載、A、Bの司法巡査に対する各供述調書、司
法警察員作成の実況見分調書の各記載などが措信できないものであるというけれど
も、これらを、その余の原審において取り調べられた各証拠ならびに当審証人Bの
当審公判廷における供述と比照して、仔細に検討してみると、所論指摘の右各証拠
の内容は、いずれも前後一貫し、それ自体、あるいはその相互間において、とくに
矛盾する点がなく、これらが虚偽であると疑うべき箇所を発見できない。なお前掲
の所論実況見分調書に記載された距離関係を誤記として攻撃する所論は、独自の立
論に依拠して、計算をなすもので、該所論も首肯するに値しない。一方被告人は、
本件捜査段階および原審公判廷において、一貫して、所論に沿う趣旨の事実関係を
主張しているのであるが、これを裏付けるに足る証拠がなく、その他に右各所論を
採用し、原判決が引用した各証拠ならびに当審証人Bの当審公判廷における供述に
より認定した前記事実関係を左右するに足る証左は存しない。(なお所論は原判示
Aが原判示普通貨物自動車を時速六〇粁以上の速度で運転した旨主張し、被告人は
原審公判廷において、これと同趣旨の供述をし、原審で取調べたDほか五名作成の
各上申書の記載もこれに沿うものであるが、その他の本件各証拠と総合して考える
と、右所論に沿う各証拠は措信できず、その他にこれを肯認<要旨>するに足る証拠
はない。)そこで、前記認定の事実関係の下に、これが法令を適用するにあたり、
道路交通法</要旨>第二五条の二第一項にいわゆる転回の趣意を考えてみると、そ
もそも同転回とは、車両が従来の進行方向とは逆の方向に進行する目的をもつてな
す同一路上における方向転換の行為を総称するものと解すべく、殊に、同条第一項
にいう「転回し」という趣意は、その文義上、一見すれば、右の方向転換を終り、
車両が従来の進行方向と逆の方向に進路を向け終えた状態を指称し、そのときにお
いて、本罪の既遂となるように解されないでもないが、同条の立法趣旨が、車両の
転回(もしくは横断、後退)による歩行者または他の車両等の正常な交通に対する
妨害を防ぎ、その他道路における危険を防止し、もつて交通の安全と円滑を図るに
出でたものと解せられることにかんがみると、ここに転回というのは、前叙のよう
な方向転換の目的をもつて、この目的に沿う車両の運転操作を開始し、その方向転
換を終るまでの一連の車両の運転操作を指称し、該運転操作を、歩行者または他の
車両等の正常な交通を妨害するおそれのある状態でなした場合には、同条第一項に
いわゆる転回をなしたものとして、同犯罪が成立すると解するを相当とする。従つ
て、右の転回行為が、その中途において、同条第一項にいう横断の形態をとつたと
しても、それは、同法条に関して、転回未遂もしくは横断と解すべきでなく、転回
に該当するものといわなければならない。この見地に立つて、前記認定事実を考え
ると、被告人は、原判示道路において転回をしたものというの外なく、その際原判
示A運転の普通貨物自動車の正常な交通を妨害するおそれがあつたことも明白であ
る。そうとすると、原判決が、被告人の本件行為をもつて、同条第一項にいう横断
と認定したことは、結局、事実を誤認し、ひいては法令の解釈適用を誤つたものと
いわなければならない。しかしながら、同条第一項の規定の内容に徴すると、同条
は、転回と横断とを併列して規定し、該転回と横断との間に、これが罪責または情
状に関し、法的に、とくに径庭があるものとも認められないし、原審が認定した事
実は、それが横断にあたるか転回にあたるかの点を除き、当審が認定した事実と、
ほぼ同一であると推認せられ、ただその法的評価如何に関するものであるから、原
判決の右の違法は、判決に影響を及ぼさないと解せられる。従つて、結局論旨は理
由がないことに帰着する。
 よつて、本件控訴は理由がないから、刑事訴訟法第三九六条に則り、これを棄却
し、当審における訴訟費用については、同法第一八一条第一項本文を適用して、こ
れを全部被告人に負担させることとする。
 以上の理由によつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 上田孝造 裁判官 藤本忠雄 裁判官 杉田寛)

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