弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人棚村重信、石黒武雄、河野曄二の上告理由第一点について。
 本件当事者間の性生活の状況に関する原審の認定は、挙示の証拠に照らせば、肯
認することができ、この点に関する証拠の取捨、判断も首肯することができる。そ
して右判示によれば、原審は、上告人が睾丸切除により性交不能となつたと認定し
ているものでないこと明らかである。論旨はひつきよう原審の適法にした事実の認
定および証拠の取捨、判断を非難するに帰するものというべく、採用できない。
 同第二点について。
 記録に徴すれば、原審における被上告人に対する代理人による所論尋問において、
被上告人が書面によつて陳述することにつき裁判長の許可があつたものと認められ
るし、また上告人は右尋問に対し遅滞なく異議を述べた形跡はうかがうことができ
ないから、原審が右被上告人尋問の結果を事実認定の一資料としたからといつて、
これをもつて違法とはなしえない。論旨はすべて採用できない。
 同第三点について。
 本件当事者間の性生活の状況に関する原判示によれば、上告人の性交態度は判示
のように常態ではなく若い女性である被上告人としては忍びえないものであり、し
かも右態度は昭和二八年一一月結婚生活に入つた当初から昭和三〇年五月頃被上告
人が実家に帰るまでの間終始かわるところなく、夫婦両名はこれが一時的のもので、
やがては上告人の焦燥態度も緩和するであろうと期待して夫婦生活を続けてきたが、
ついに一向に緩和しなかつた、というのである。そして、さらに原審の確定すると
ころによれば、上告人と被上告人は他人の紹介で昭和二七年春頃知り合つて見合を
し、挙式の上事実上の結婚生活に入つたものであるところ、その交際期間中上告人
は副睾丸結核のため睾丸を切除し、被上告人方ではこのことを知つて重視したが、
被上告人は、右切除に当つた医師の、睾丸を切除しても、生殖能力はないが、夫婦
生活には大して影響がない、との言を信じて結婚したものである。以上のような事
実にさらに原審認定の性生活を除く夫婦生活の状況等からうかがわれる本件当事者
双方の諸事情を加え、また夫婦の性生活が婚姻の基本となるべき重要事項である点
を併せ考えれば、被上告人が上告人との性生活を嫌悪し離婚を決意するに至つたこ
とは必ずしも無理からぬところと認められるのであつて、原審が判示性生活に関す
る事実をもつて民法七七〇条一項五号の事由にあたるとした判断はこれを是認する
ことができる。そして、前記のような諸事実が認められる以上、原判決が右判断に
あたり、上告人の性交能力の欠陥について治療回復の能否および当事者のこれへの
努力に関し認定判示するところがないからといつて、民法七七〇条一項五号の解釈
を誤り、また理由不備、審理不尽の違法があるということはできない。論旨は結局、
独自の見解に立脚し、また原判示にそわない事実を前提として原判決の違法を主張
するものというべく、すべて採用できない。
 上告人の上告理由について。
 論旨が理由のないことは上告代理人棚村重信らの上告理由に対する前記判断から
明らかであるから、所論はすべて採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一

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