弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人渡辺正雄、同山花貞夫、同齊藤忠昭の上告趣意第一、二は違憲(憲法三一
条、一四条違反)をいうが、記録に徴するも、本件公訴の提起が所論の如く労働組
合や組合員の行動であることを理由としていると認むべき証拠はないから、所論違
憲の主張は前提を欠き、適法な上告理由に当らない。
 同第三について。
 所論は、原判決は憲法二八条に違反すると主張する。しかし、同盟罷業は必然的
に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負
担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労
働力を使用者に利用させないことにあるのであつて、これに対し使用者側がその対
抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し、不法に、使用者側の
自由意思を抑圧し或はその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許
されず、従つて労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止する
ために執られた労働者側の威力行使の手段が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸
脱したものと認められる場合には、威力業務妨害罪が成立し、これを処断すること
は憲法二八条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二七年(あ)第
四七九八号同三三年五月二八日大法廷判決、刑集一二巻八号一六九四頁)の示すと
ころである。そして本件において原審の維持する第一審判決が確定した事実関係の
下における被告人等の同判示第一、第二の行為は、不法に威力を用いて会社側の業
務を妨害したものであつて争議権の正当な範囲を逸脱したものということができる
から(なお、被告人ら多数の者が圧延工場粗ロール前約二米の附近に坐り込み、そ
の周囲を取り囲んで、加熱炉から送られてくる約一二〇〇度の高熱の鋼塊を粗ロー
ルにかけた場合にロールされた鋼塊が右坐り込みをした者等に突き当つて人命を損
傷する危険がある状況の下において、作業をするのに危険であるから退去するよう
にと要求されながらこれに応じないためやむなく粗ロール作業を断念中止させたと
きは、威力業務妨害罪を構成するものと解すべきである。)、これに刑法二三四条、
二三三条を適用処断した第一審判決を是認した原判決は正当であつて、憲法二八条
に違反するところはない。
 所論その余の違憲をいう点(憲法二五条、二七条、一八条違反)は、いずれも原
判決の判示に副わない事実を前提とする主張であつて前提を欠き、適法な上告理由
に当らない。
 同第四は判例違反をいうが、所論引用の判例はいずれも事案を異にして本件に適
切ではないから、その主張は前提を欠き、同第五は事実誤認の主張であつて、いず
れも上告適法の理由に当らない。
 被告人A本人の上告趣意は違憲(憲法三一条、一四条違反)をいうが、前記弁護
人の上告趣意第一、二について説示したとおり、その主張は前提を欠き、適法な上
告理由に当らない。
 その余の被告人ら本人の各上告趣意は、違憲(憲法二八条、二五条違反)をいう
が、いずれもその実質は事実誤認、単なる法令違反の主張に帰し、適法な上告理由
に当らない。
 また記録を調べても所論の点につき刑訴法四一一条を適用すべきものとは認めら
れない。
 よつて、同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
  昭和四二年三月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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