弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人田中福一の上告理由第一点乃至第四点は結局事実誤認の主張を出でな
いものであり、(原判決挙示の証拠を綜合すれば原判決の事実認定は肯認すること
ができる。)
 同第五点は単なる訴訟法違反の主張に外ならない。(論旨の引用する前段の原判
示は「訴外Dの代理人Eが本件山林を買受けるに当つて所論AB線以東の指示を受
けた」というのであり、後段の原判示は「訴外Dが右山林を上告人に売渡す際その
境界を詳細に知悉していなかつた」というに止まるのであるから、その間必ずしも
齟齬あるものとはいい得ない。)
 同第六点は法令違反をいうけれど、所論は原審の仮定的判示に対する非難に過ぎ
ない。原審の確定した事実によれば、本件山林はもと被上告人の所有に属していた
ところ、被上告人は該山林中所論図面DABEC線内の部分を除き、図面AB線以
東の部分のみを訴外Fに売渡し、次いで右売買の目的とされたAB線以東の山林の
みにつき、右Fは訴外Dに、同訴外人は上告人に順次これを売渡したのであるが、
前示いずれの売買に際しても登記面だけではあたかも本件山林の全部につき所有権
が移転されたかの如くそれぞれ登記せられたのである。すなわち、上告人は当初被
上告人が自己にその所有権を保留した所論図面DABEC線内の山林についてはこ
れを買受けたことなく、しかも上告人とD間の売買における仲介人Gから該山林は
伐採せぬようにとの注意を受けていたにも拘わらず、他人の所有に属することを知
りながら敢えて該山林の立木を被上告人主張のとおり伐採したというのである。
 原審はこの事実関係の下に被上告人から上告人に対して係争山林前掲図面DAB
EC線内の部分につきその所有権移転登記の抹消を求め、且つまた不法行為による
損害賠償としてその伐採にかかる立木の当時の時価相当の金額及びこれに対する訴
状送達の翌日以降支払済に至るまでの年五分の遅延損害金の支払を求める本訴請求
を認容したのであつて、この原判旨は首肯するに足る。それ故論旨摘録にかかる「
仮りに上告人が図面DABEC線内の係争山林部分をも買受けていたとしても」と
の仮定事実を前提とする原判示を非難するに過ぎない所論は上告理由として採用す
るに足りない。されば論旨はすべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特
例に関する法律(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該
当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認めら
れない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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