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平成16年(行ケ)第191号 審決取消請求事件(平成16年9月6日口頭弁論
終結)
          判           決
       原      告   シャープ株式会社
       訴訟代理人弁護士   永 島 孝 明
       同          伊 藤 晴 國
       同          明 石 幸二郎
       同          山 本 光太郎
       同    弁理士   中 尾 俊 輔
       同          伊 藤 高 英
       同          磯 田 志 郎
       被      告   ベンキュージャパン株式会社
       訴訟代理人弁護士   高 橋 隆 二
       同          櫻 井 彰 人
       同    弁理士   高 野 昌 俊
          主           文
 特許庁が無効2003-35181号事件について平成16年3月2
3日にした審決を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 原告は,名称を「表示体ユニット接続装置」とする特許第1865580
号発明(昭和59年1月13日特許出願,平成3年2月5日出願公告をすべき旨の
決定〔以下「本件出願公告決定」という。〕,平成4年2月12日付け手続補正書
及び平成5年7月9日付け手続補正書〔以下,これらを「本件各補正」という。〕
各提出,平成6年8月26日設定登録,以下「本件発明」といい,この特許を「本
件特許」という。)の特許権者である。
 被告は,平成15年5月8日,本件特許を無効にすることについて審判の
請求をし,同請求は,無効2003-35181号事件として特許庁に係属したと
ころ,原告は,同年7月29日,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本
件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載等を訂正(以下「平成15年訂正」
という。)する旨の訂正請求をした。
 特許庁は,同特許無効審判事件について審理した結果,平成16年3月2
3日,「特許第1865580号発明の特許を無効とする。」との審決(以下「本
件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月2日,原告に送達された。
(2)原告は,同年5月6日,本件審決の取消しを求める本件訴えを提起した
後,同年6月4日,本件明細書の特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂
正」という。)をする訂正審判の請求をし,特許庁は,同請求を訂正2004-3
9124号事件として審理した結果,同年7月1日,本件訂正を認める旨の審決
(以下「本件訂正審決」という。)をし,その謄本は,同年7月13日,原告に送
達された。
2 特許請求の範囲の記載
(1)本件各補正前の本件明細書の特許請求の範囲の記載
 複数の接続端子を有する多ドットの表示体と,表面に前記多ドットの表示
体を駆動するためのLSIチップがボンディングされ,且つ前記接続端子との接続
のためのチップ端子と他のLSIチップとの接続のための共通端子とを含む前記L
SIチップの配線が形成された複数のフィルム基板と,
該各フィルム基板上の共通端子と接続するための配線が形成された回路基
板とから成り,
前記表示体と前記複数のフィルム基板と前記回路基板とを電気的に接続し
て前記多ドットの表示体を複数のLSIチップにより駆動することを特徴とする表
示体ユニット接続装置。
(2)本件訂正に係るもの(訂正部分には下線を付す。)
 複数の接続端子を有する多ドットの表示体と,
 表面に前記多ドットの表示体を駆動するための,同一構成を有するLSI
チップがボンディングされ,且つ表面に前記接続端子との接続のためのチップ端子
と他のLSIチップとの接続のための共通端子とを含む前記LSIチップの配線が
形成された複数のフィルム基板と,
該各フィルム基板上の共通端子と接続するための配線が形成され且つ前記
表示体の背面位置で前記表示体の端面より内側に配置された回路基板とから成り,
前記表示体と前記複数のフィルム基板とを電気的に接続すると共に,前記
LSIチップが前記表示体の背面位置で前記表示体の端面と前記回路基板との間に
位置し,前記回路基板が前記フィルム基板面の前記表示体側に位置するように前記
複数のフィルム基板を前記回路基板に重合させ且つその重合した領域内で前記共通
端子と前記回路基板の配線とを接続して,前記複数のフィルム基板と前記回路基板
とを電気的に接続することで前記LSIチップの前記共通端子の相互間を共通して
接続し,電源信号とデータ信号を送ると共に,同一構成を有する両隣の前記LSI
チップを相互に接続して,前記多ドットの表示体を複数のLSIチップにより駆動
することを特徴とする表示体ユニット接続装置。
3 本件審決の理由の要旨
 本件審決は,本件各補正は,特許法(平成6年法律第116号附則6条1項
によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法〔以下「平成6年改
正前特許法」という。〕の趣旨と解される。)64条,17条の3において準用す
る同法126条2項の規定に適合しないので,同法(平成5年法律第26号附則2
条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法〔以下「平成
5年改正前特許法」という。〕の趣旨と解される。)42条の規定により,本件各
補正がされなかった特許出願について特許がされたものとみなされ,平成15年訂
正は,本件各補正を含むものであり,特許法134条5項(平成15年法律第47
号附則2条7項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法の趣
旨と解される。)において準用する平成6年改正前特許法126条2項の規定に適
合しないので認められないとし,本件発明の要旨を,本件各補正前の本件明細書の
特許請求の範囲の記載(上記2の(1))のとおりと認定した上,本件発明は,特開昭
58-122586号公報記載の発明(以下「引用発明」という。)及び従来周知
の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので
あるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同
法(平成5年改正前特許法の趣旨と解される。)123条1項1号の規定により無
効とすべきものであるとした。
第3 原告主張の本件審決取消事由
1 本件審決が,本件発明の要旨を本件各補正前の本件明細書の特許請求の範囲
の記載(上記第2の2の(1))のとおりと認定した点は,本件訂正審決の確定により
特許請求の範囲が上記第2の2の(2)のとおり訂正されたため,誤りに帰したことに
なるから,本件審決は,本件発明の要旨の認定を誤った違法があり,取り消されな
ければならない。
2 被告は,本件審決の判断の一部である本件各補正の適法性の判断,すなわ
ち,本件発明の要旨を認定する必要があると主張するが,失当である。本件訴訟の
審理の対象は,本件審決の取消原因の有無であるところ,本件審決は,本件発明の
要旨を本件各補正前の本件明細書の特許請求の範囲の記載(上記第2の2の(1))の
とおりと認定した上,本件発明は,引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものであると判断したが,本件訂正審決の確
定により特許請求の範囲が上記第2の2の(2)のとおり訂正されたため,誤りに帰し
たことになり,この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるか
ら,最高裁平成11年3月9日第三小法廷判決・民集53巻3号303頁(以下
「平成11年3月最判」という。)に従い,本件審決は取り消されるべきである。
したがって,本件審決の本件発明の要旨の認定は,本件訂正審決の確定に伴い,そ
れ自体が誤りであったことになるから,本件各補正の適法性を判断する必要はな
い。
第4 被告の反論
1 本件訂正審決の確定により,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が上記の
とおり訂正されたことは認める。
2 本件訴訟においては,本件審決を,単に本件訂正審決が確定したことのみを
理由に取り消すのではなく,本件審決の判断の前提となった本件発明の要旨を認定
した上で判決すべきである。本件審決は,本件出願公告決定後にした本件各補正が
いずれも特許請求の範囲を実質上変更するものであって特許法(平成6年改正前特
許法の趣旨と解される。)64条,17条の3において準用する同法126条2項
の規定に適合しないので,同法(平成5年改正前特許法の趣旨と解される。)42
条の規定により,本件各補正がされなかった特許出願について特許がされたものと
みなされ,本件発明の要旨は本件出願公告決定時の明細書の特許請求の範囲に記載
されたものと認定した上,本件発明と引用発明とを対比し,本件発明は特許法29
条2項に違反するとの判断をしたが,本件審決のした本件発明の要旨の認定は,本
件訴えの提起により確定しておらず,原告も本件訴状においてその認定を争ってい
るところである。このような状況において,本件訂正審決がされたが,その請求の
対象が不確定のままでは,本件訂正審決の確定により,特許請求の範囲を減縮した
ものか否かの判断はできない。
  平成11年3月最判及び最高裁平成11年4月22日第一小法廷判決・裁判
集民事193号231頁(以下「平成11年4月最判」という。)は,明細書の特
許請求の範囲が訂正審決の確定により減縮された場合には,減縮後の請求の範囲に
新たな要件が付加されているから,他の公知事実との対比を行わなければ,発明が
特許を受けることができるかどうかの判断をすることができず,このような判断は
特許庁の審判手続によって行うべきことを理由として,減縮を目的とする訂正審決
が確定した場合は当該審決を取り消すべきものとした。しかし,上記両最高裁判決
は,訂正前の発明の要旨が争いなく認定された事案であり,訂正審判の請求の対象
も明確であったため,当該訂正が特許請求の範囲の減縮であることが判断できたも
のである。これに対し,本件訴訟においては,本件訂正前の本件発明の要旨が,本
件審決の認定のとおり本件各補正前の明細書に記載されたものであるか,又は原告
が主張する本件各補正を経た後の明細書に記載されたものであるのかについて,司
法判断がされていないから,本件訴訟において,本件審決が取り消されるとして
も,取消し後に再開される審判における本件訂正前の発明の要旨を,判決の拘束力
をもって認定しておく必要がある。前者であれば,特許権者である原告は,本件出
願公告決定時の明細書を対象として,訂正審判請求を行うべきであるのに対し,後
者であれば,本件各補正後の明細書を対象として,訂正審判請求を行うべきであ
り,これを誤ることは,訂正要件を欠き,無効原因となる(特許法123条1項8
号,126条2項及び3項)。
  本件訴訟の審理の対象は,訴え提起時の本件特許に関する取消原因の有無で
あり,本件訂正審決の適法性は,別途,無効審判の手続において判断すればよいと
して,本件訴訟において本件訂正前の本件発明の要旨の認定を怠ることは許されな
い。
第5 当裁判所の判断
 1 本件訂正審決の確定により,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が上記第
2の2(2)のとおり訂正されたことは当事者間に争いがなく,この訂正によって,特
許請求の範囲が減縮されたことは明らかである。
   そうすると,本件審決が,本件発明の要旨を,本件各補正前の本件明細書の
特許請求の範囲の記載(上記第2の2(1))のとおり認定したことは,結果的に誤り
であったことに帰し,これが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるか
ら,本件審決は,瑕疵があるものとして取消しを免れない。
2 被告は,本件審決のした本件発明の要旨認定は,本件訴えの提起により確定
しておらず,原告も本件訴状においてその認定を争っているところであり,このよ
うな状況において,本件訂正審決の請求の対象が不確定のままでは,本件訂正審決
の確定により特許請求の範囲を減縮したものか否かの判断はできないと主張する。
しかしながら,本件審決が,本件発明の要旨を,本件各補正前の本件明細書の特許
請求の範囲の記載(上記第2の2(1))のとおり認定したことは,上記第2の3のと
おりである(なお,原告が,本件各補正の不適法を理由に上記のとおり本件発明の
要旨認定をした本件審決の認定の誤り等をいう本件訴状記載の取消事由の主張を,
本件第2回弁論準備手続期日においてすべて撤回し,取消事由の主張を上記第3の
1の主張に限定したことは,記録上明らかである。)ところ,本件発明に係る特許
請求の範囲の記載が上記第2の2(2)のとおり訂正されたこと,この訂正によって,
特許請求の範囲が減縮されたことは上記1のとおりであるから,本件訂正審決の確
定により特許請求の範囲を減縮したものか否かの判断ができないとの被告の主張が
失当であることは明らかである。
  被告は,平成11年3月最判及び平成11年4月最判は,訂正前の発明の要
旨が争いなく認定された事案であり,訂正審判の請求の対象も明確であったため,
当該訂正が特許請求の範囲の減縮であることが判断できたものであるのに対し,本
件訴訟においては,本件訂正前の本件発明の要旨が,本件審決の認定のとおり本件
各補正前の明細書に記載されたものであるか,又は原告が主張する本件各補正を経
た後の明細書に記載されたものであるのかについて,司法判断がされていないか
ら,本件訴訟において,本件審決が取り消されるとしても,取消し後に再開される
審判における本件訂正前の本件発明の要旨を,判決の拘束力をもって認定しておく
必要があるとも主張する。しかしながら,本件訂正前の本件発明の要旨が,本件審
決の認定するとおり本件各補正前の本件明細書に記載されたものであることについ
ては,原告も争っていないこと,本件訂正によって特許請求の範囲が減縮されたこ
とは,上記1のとおりであり,無効審決取消訴訟の係属中に当該特許権について特
許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決が確定した場合には,当該無効審決は取
り消されなければならないと解すべきである(平成11年3月最判及び平成11年
4月最判参照)から,被告の上記主張も理由がない。
  また,被告は,①本件訂正前の本件発明の要旨が,本件各補正を経た後の明
細書に記載されたものであれば,本各補正後の明細書を対象として,訂正審判請求
を行うべきであり,これを誤ることは,訂正要件を欠き,無効原因となる(特許法
123条1項8号,126条2項及び3項),②本件訴訟の審理の対象は,訴え提
起時の本件特許に関する取消原因の有無であり,本件訂正審決の適法性は,別途,
無効審判の手続において判断すればよいとして,本件訴訟において本件訂正前の本
件発明の要旨の認定を怠ることは許されないとも主張するが,いずれも,その前提
において失当であることは,上記判示に照らして明らかである。
  以上のとおり,被告の主張はいずれも採用の限りではない。
 3 よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決
する。
     東京高等裁判所知的財産第2部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴
 

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