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平成11年(行ケ)第25号 審決取消請求事件
平成14年2月26日口頭弁論終結
判          決
原        告     A
原        告     ラボ・テリー有限会社     
原告ら訴訟代理人弁理士    山   田   文   雄
同              山   田   洋   資
被        告     ルーセント テクノロジーズ インコー
ポレーテッド
被告訴訟代理人弁理士     岡   部   正   夫
同              加   藤   伸   晃
同              吉   澤   弘   司
主          文
原告ら各自の本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら各自
特許庁が平成9年審判第2452号事件について平成10年12月15日に
した審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
(1) 本案前の答弁
主文と同旨。
(2) 本案の答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、発明の名称を「最適資源割当て方法」とする特許第2033073
号の特許(昭和61年3月28日出願(優先権主張日・1985年4月19日)。
平成8年3月19日登録。以下「本件特許」といい,その権利を「本件特許権」
と,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
原告らは,平成9年2月7日付けで,本件特許を請求項1ないし6のいずれ
に関しても無効とすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を平成9年
審判第2452号事件として審理した結果,平成10年12月15日に,「本件審
判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月24日にその謄本を原告に送達
した。
2 審決の理由の要点
別紙審決書の理由の写し記載のとおりである。要するに、①本件発明は,メ
モリ,デジタルプロセッサというハードウエア資源を用いて,産業上又は技術上の
資源についての最適割当て問題を解決するために,その諸物理量に関して,上記資
源の最適割当てのための演算処理を,上記アルゴリズムに従って実行することによ
り,短時間に最適割当て結果を得るという技術的効果を奏する技術的思想であり,
数学の解法そのものではなく,単にコンピュータを用いただけのものでもないか
ら,特許法29条1項柱書に規定する発明に該当する,②本件発明に係る出願は,
特許法36条3,4項に規定される要件を満たしている,③本件発明は,審判甲第
1,第2,第5号証の各1に記載のいずれの発明とも同一でない,④本件発明は,
審判甲第1,第2,第5号証の各1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものではない,として,請求人(原告)らの主張する無効事由をす
べて排斥するものである。
3 本件特許の特許請求の範囲
「1 産業上又は技術上の資源についての割当の制約が多次元空間における凸
ポリトープPで表わされそして割当コストが該多次元空間におけるコスト・ベクト
ルcで表わされる線形計画法モデルについてメモリ中に記述されている該凸ポリト
ープと該コスト・ベクトルを参照して,
(1) 該ポリトープの内部の位置にある資源割当て開始ポイントX
curr
を選
定し,
(2) 該開始ポイントのアフアイン・スケーリングされたものが該ポリトー
プのアフアイン・スケーリングされたものP′において幾何的により中心化される
又は厳密に実行可能であるようなアフアイン・スケーリングDを決定し,
(3) 該アフアイン・スケーリングされたポリトープに投影されたアフアイ
ン・スケーリングされたコストベクトルに依存して決められた方向pに該開始ポ
イントを該ポリトープ内で進めた次のポイントX
next
を求め,そして
(4) 該次のポイントが所定の評価基準に適合したとき,該次のポイントを
最適資源割当を表すものとし,適合しないとき該次のポイントによって開始ポイン
トを更新して該(1)~(3)の工程を繰り返すようデジタルプロセッサを制御してお
り,
該ポリトープが制約式(Ax=b,L≦x≦U;A

u≦c)であり,
該コスト・ベクトルが該資源割当ての最適化に関する目的関数
(c

x;uTb)であるとき,Ax=bを制約条件とし
     
max{0,(Li-xi),(xi-Ui)}
を最小化するフイジビリテイ・プロブレムを解くことにより該資源割当
て開始ポイントが選定されており,
該アフアイン・スケーリングは対角スケール・マトリックスDにより
表され,該Dの第i番目の対角要素は
Dii=min{1,xi
curr
-Li,Ui-xi
curr

であり,
該次の資源割当てを改良する際の方向pは,
p=-D{I-(AD)

(AD




-1
AD}Dc
で表され,ここでIは単位マトリックスであり,
該次の資源割当ての値x
next


next
=x
curr
+αp
で表され,そしてαは該次の資源割当てに関して決定された方向pにお
ける改良のステップの大きさであり
α=βmin{min{(Li-xi)/pi|pi<0},
min{(Ui-xi)/pi|pi>0}}
で表され,ここでβの値は1よりも小さいものである最適資源割当て方
法。
2 請求の範囲第1項に記載の最適資源割当て方法において,
該線形計画法モデルはプライマル・モデルとデュアル・モデルとして規
定され,該(1)~(3)の工程は該プライマルモデルと該デュアル・モデルのそれぞれ
に適用され,そして該次のポイントにより表される資源割当ての最適化の程度がデ
ュアリティ・ギャップを参照することで判定されている最適資源割当て方法。
3 請求の範囲第1項に記載の最適資源割当て方法において,
該(1)~(4)の工程は,該制約式において厳密に実行可能である開始資源
割当てを選定し;アファイン・スケーリングされた開始資源割当てがアファイン・
スケーリングされた制約式に関しより厳密に実行可能であるようなアファイン・ス
ケーリングDを決定し;そして該アファイン・スケーリングされた制約式に投影さ
れたアファイン・スケーリングされた目的関数の最大降下方向に依存して決めら
れた方向pに該開始資源割当てを次の資源割当てX
next
へと,該制約式に関し厳密
に実行可能な範囲内で改良し,該次の資源割当てがより最適であるようにしている
最適資源割当て方法。
4 請求の範囲第1項に記載の最適資源割当て方法において,
潜在関数f(x)を定義し,該次の資源割当てへのステップは該次の資
源割当てでの該潜在関数の値が減少するよう選択されている最適資源割当て方法。
5 請求の範囲第1項に記載の最適資源割当て方法において,
該線形計画法モデルはプライマル・モデルとデュアル・モデルとして規
定され,該(1)~(3)の工程は該プライマル・モデルと該デュアル・モデルのそれぞ
れに適用され,そして該次の資源割当ての最適化の程度がデュアリティ・ギャップ
を参照することで判定されている最適資源割当て方法。
6 請求の範囲第1項に記載の最適資源割当て方法において,
該メモリ中に記述されている該凸ポリトープと該コスト・ベクトルが動
的に更新されている最適資源割当て方法。」
第3 本案前の主張に関する当事者の主張
1 被告の主張の要点
(1) 被告は,平成12年12月11日に,本件特許権を,その請求項1ないし
6のすべてについて放棄し,その後間もなく,これに基づく特許権抹消登録も行わ
れた。これにより,本件特許権はすべて消滅した。
(2) 原告A(以下「原告A」という。)は,東京工業大学大学院社会理工学研
究科教授であり,将来自らの会社を設立する予定であるにしても,過去に業として
本件発明を実施したことはない。本件につき本案判決をすることは,原告Aが,こ
れまでいくつかのその著作に述べてきた自論を正当化する助けにはなるとしても,
それは,行政処分である本件審決について,その取消しを求める法律上の利益とな
る事柄とはいえない。
原告ラボ・テリー有限会社(以下「原告会社」という。)は,一応コンピ
ュータソフトウェアの製作会社であると主張するものの,企業としては実在してお
らず,過去に本件発明に係るソフトウェア製品を業として実施したなどの法律上の
利害関係を有するとは認められない。
(3) 以上によれば,原告らのいずれについてみても,本件訴えは,訴えの利益
を欠くから,却下されるべきである。
2 原告らの主張の要点
(1) 被告の本案前の主張は,審判において争われていない事項であり,本件訴
訟の審理の対象とはならないというべきである。
審決取消訴訟の訴訟物は,「審決の違法性」であり,その審理の対象は,
審決のなされた当該審判手続の違法と審決の実質的判断の違法とに関するものであ
る。特許無効に関する審決に対する取消訴訟においては,特許庁における審判手続
において現実に争われ,かつ,審理判断された特定の無効原因に関するもののみが
審理の対象とされるべきものであって,それ以外の無効原因について,訴訟におい
て,これを審決の違法事由として主張し裁判所の判断を求めることは許されないと
解するべきである。
(2) 被告は,原告Aが過去に業として本件発明を実施したとされる事実がな
い,と主張する。
しかし,原告Aは,学生のクラス編成問題を解くために自ら内点法ソフト
ウェアを開発する計画であったのに,当時の特許権者であるAT&Tベル研究所の
関係者の反発をかうことになって中止した経緯がある。被告は,自ら本件発明の実
施を中止させておきながら,原告Aが実施した事実がないなどと主張することは許
されない。
原告会社は,実在する会社であり,原告Aとともに主・双対内点法を用い
たソフトウェアを開発する構想を練っていた。
原告らは,本件特許の存在により,本件発明に関連したソフトウェアの開
発を行うことを中止したことにより,この分野の研究が大幅に遅れ,これを市販し
ていれば得られたであろう経済的な利益を逸失したものである。
したがって,原告らは,本件訴訟において,審決の取消を求める法律上の
利害関係を有する。
(3) そもそも,本件訴えについての訴えの利益は,審判請求適格を有し,か
つ,無効審判請求が成り立たないとする審決を受けたこと自体で足りるものである
というべきである。
本件審判請求に係る審判事件が係属していた当時,本件特許権は放棄され
ず,登録されていたのだから,原告らが審判請求適格を有していたのは明らかであ
り,この審判請求が成り立たないとの審決を受けた原告らは,本件訴訟において訴
えの利益を有する。
被告による本件特許権の放棄は,原告らの審判請求適格には何らの影響も
及ぼすものではない。
(4) 被告による,原告らに訴えの利益がないとの主張は,弁論準備手続の最終
段階に至って初めて主張されたものであり,審理を遅延させる目的であることが明
白であるから,時機に後れた攻撃防御方法に該当し,民事訴訟法157条に基づき
却下されるべきである。
第4 当裁判所の判断
1 弁論の全趣旨によれば,被告は,本件特許権をその請求項1ないし6のすべ
てについて放棄し,平成12年12月11日付けで,特許庁に対し,放棄による特
許権抹消の登録を申請し,その後間もなく,これに基づき本件特許権の登録は抹消
されたことが認められる。
被告は,本件特許権が放棄されたことにより,本件訴訟における原告らの訴
えの利益は消滅した,と主張する。
(1) 特許法123条には,特許の無効審判の請求人適格について,これを限定
する文言はない。しかしながら,特許の無効審判は,いわゆる準司法的な争訟手続
の性格を有する国家制度であるから,民事訴訟手続において原告に訴えの利益があ
ることが必要であるのと同様に,請求人は審判請求について法律上正当な利益を有
することが必要であり,単に,これを求める事実上の利益があるだけでは足りない
というべきである。換言すれば,特許の無効審判の請求人適格があるというために
は,無効審判請求の対象となる特許の存在により,請求人が法律上の不利益を受
け,又は受けるおそれがあるため,特許無効の審判によって回復又は回避される法
律上の利益があることを要するものというべきである。
これを本件についてみる。
原告らが,これまでに本件特許権の侵害となる可能性のある行為をしたこ
と,原告らが,本件特許権につき実施権の設定を受けたこと,本件訴訟以外に,原
被告間で,本件特許権に関し具体的な法的紛争を生じたことなど,上記法律上の利
益の存在を根拠付ける事実関係として典型的なものをみると,これらにつながる,
証拠は全くない。
原告らは,本件特許の存在により,これに抵触するソフトウェアの作成,
開発等ができず,損害を被った,と主張する。しかしながら,原告らが本件特許権
の存続中,これに抵触する行為ができなかったことにより損害を被ったとしても,
原告らが被告にこの損害についての賠償請求権を取得したか否かは,本件特許が審
判手続により無効とされるか否かとは別の問題であり,本件特許が審判手続により
無効とされたとしても,肯定されるとは限らず,他方では,本件特許が審判手続に
より無効とされない限り否定されるというものでもない。要するに,原告らに損害
賠償請求権が認められるか否かと本件特許が審判手続により無効とされるか否かと
の間に法律上のつながりはないのである。そうである以上,仮に原告ら主張の事実
関係があったとしても,それをもって,上記法律上の利益とすることはできないと
いうべきである。
他にも,原告らの上記法律上の利益を根拠付ける事実関係は,本件全証拠
によっても認めることができない。
以上のとおりであるから,原告らの本件特許を無効にすることにつき審判
を請求する法律上の利益は,本件特許権が放棄されたことにより,いずれも消滅
し,これに伴い,原告らの請求人適格は消滅した,と解するのが相当である。
(2) 原告らが本訴において本件審決の取消しを求めるのは,取消しに基づい
て,改めて,特許庁において,本件特許を無効にすることについての審判がなされ
るようにするためであり,それ以外のためであることはあり得ない。そして,そう
であるとすると,上記のとおり,本件特許を無効にする審判に関する請求人適格が
消滅した原告らには,もはや,本件審決の取消を求める法律上の利益はないという
べきであり,原告らの,訴えの利益は,いずれも消滅するに至ったものと解するの
が相当である。
2 原告らは,被告の本案前の主張は,審判において争われていない事項であ
り,本件訴訟の審理の対象とすることは許されない,と主張する。
しかしながら,審判において争われていない事項を審決取消訴訟の審理の対
象とすることは許されないとの原告らの主張が当てはまるのは,本案に関する審理
についてだけであり,訴訟要件である訴えの利益に関する審理に当てはまるもので
はないことは,論ずるまでもないことである。審決取消訴訟においても,訴えの利
益の有無は,裁判所がその存在に疑いを生じたときには,当事者間に争いがあるか
否かを問わず,職権で取り上げなければならないのである。
原告らは,本件訴えについての訴えの利益は,無効審判請求が成り立たない
とする審決を受けたこと自体で足りる,と主張する。しかしながら,無効不成立の
審決を受けたことにより,原告らに当事者適格が認められることは,特許法178
条2項の規定に照らし明らかであるものの,そのことによって,当然に原告らに本
件訴訟における訴えの利益も認められる,ということになるものではない。上述し
たとおり,本件においては,いわば,審判段階においてなら請求人適格の問題とな
るべき問題が,遅れて,取消訴訟の段階になって生じてきたため,訴訟要件の問題
に形を変えているのである。
原告らは,被告の本案前の主張は,時機に後れた防御方法に該当し,民事訴
訟法157条に基づき却下されるべきであると主張する。しかしながら,訴えの利
益の有無は,当事者の主張の有無にかかわらず,裁判所が職権で取り上げなければ
ならない職権調査事項であることは前記のとおりであるから,この点に関する当事
者の主張につき,民事訴訟法157条が適用されることはあり得ないものというべ
きである。
原告らの主張は,いずれも採用することができない。
第5 以上のとおり,原告らの本件訴えは,いずれも,訴えの利益を欠く不適法な
ものであるから,これらをいずれも却下することとし,訴訟費用の負担につき行政
事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判
決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官     山   下   和   明
裁判官     宍   戸       充
裁判官    阿   部   正   幸

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