弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人の被控訴人生協に対する主位的請求のうち、本判決確定時以降の毎月の
金員支払を求める部分を却下する。
2 控訴人の被控訴人生協に対するその余の請求をいずれも棄却する。
3 参加生協の請求を棄却する。
4 控訴人が、参加生協に対し、雇用契約上の地位を有することを確認する。
5 参加生協は、控訴人に対し、金六一一万〇一六六円及び平成三年五月以降本判
決確定に至るまで、毎月二五日限り、金三〇万〇五〇〇円の割合による金員を支払
え。
6 控訴人の参加生協に対する平成三年四月分の金三〇万〇五〇〇円の支払請求を
棄却する。
7 控訴人の参加生協に対する主位的請求のうち、本判決確定時以降の毎月の金員
支払を求める部分を却下する。
二 控訴人の被控訴人生協に対する当審で追加した予備的請求のうち、本判決確定
時以降の毎月の金員支払を求める部分を却下し、その余の予備的請求を棄却する。
三 控訴人の参加生協に対する当審で追加した予備的請求のうち、本判決確定時以
降の毎月の金員支払を求める部分を却下する。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人に生じた費用の二分の一と参加生協に
生じた費用を参加生協の負担とし、控訴人に生じたその余の費用と被控訴人生協に
生じた費用を控訴人の負担とする。
五 この判決は、第一項5に限り、仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
〔参加生協〕
1 原判決中、参加生協敗訴部分を取り消す。
2 控訴人の参加生協に対する請求を棄却する。
3 控訴人と参加生協との間に雇用契約関係がないことを確認する。
4 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
〔控訴人〕
《被控訴人生協について》
1 原判決を取り消す。
2 控訴人が被控訴人生協に対し、雇用契約上の地位を有することを確認する。
3(一) 原審からの主位的請求
 被控訴人生協は、控訴人に対し、金六〇万一七四〇円及び平成元年一一月以降毎
月末日限り金三〇万〇八七〇円の割合による金員を支払え。
(二) 当審で追加した予備的請求
 被控訴人生協は、控訴人に対し、金六〇万一七四〇円及び平成元年一一月から被
控訴人生協が控訴人を就労させるまで、毎月末日限り金三〇万〇八七〇円の割合に
よる金員を支払え。
《参加生協について》
原判決主文第四、五項を次のとおり変更する。
1 原審からの主位的請求
 参加生協は、控訴人に対し、金六一一万〇一六六円及び平成三年四月以降毎月二
五日限り金三〇万〇五〇〇円の割合による金員を支払え。
2 当審で追加した予備的請求
 参加生協は、控訴人に対し、金六一一万〇一六六円及び平成三年四月から参加生
協が控訴人を就労させるまで、毎月二五日限り金三〇万〇五〇〇円の割合による金
員を支払え。
《訴訟費用》
 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人生協及び参加生協の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
〔控訴人〕
 参加生協の控訴を棄却する。
〔参加生協及び被控訴人生協〕
 控訴人の控訴及び当審で追加した予備的請求をいずれも棄却する。
第二 当事者の主張
 原判決事実第二ないし第四記載のとおりである。ただし、以下のとおり付加訂正
する。
一 原判決一〇頁六行目冒頭から九行目末尾までを以下のとおり変更する。
「7 被控訴人生協は、控訴人の地位を争い、これまで賃金を支払ってこなかった
うえ、今後も、控訴人の労務の提供を拒絶して賃金を支払わないことが窺われるこ
と、また、本件賃金請求のような回帰的給付については、現在履行すべき過去分の
賃金支払の履行がないときは将来の分についてもあらかじめ請求する利益があると
考えられること等からすれば、控訴人は、被控訴人生協に対し、口頭弁論終結時以
降の将来の賃金についても現在請求する必要がある。
 よって、控訴人は、被控訴人生協に対し、控訴人が被控訴人生協に対し雇用契約
上の地位を有することの確認を求めるとともに、賃金請求権に基づき、金六〇万一
七四〇円(平成元年九月分及び一〇月分の賃金)及び主位的には平成元年一一月以
降毎月末日限り金三〇万〇八七〇円、予備的には平成元年一一月から被控訴人生協
が控訴人を就労させるまで、毎月末日限り金三〇万〇八七〇円の賃金の支払を求め
る。」
二 同一三頁六行目冒頭から八行目末尾までを以下のとおり訂正する。
「2 被控訴人生協は、平成元年九月一日付『採用取消のご通知』と題する書面を
控訴人に送付し採用を拒否したので、被控訴人生協との雇用関係は成立するに至ら
なかったと主張している。」
三 同一七頁九行目冒頭から同一八頁二行目末尾までを以下のとおり訂正する。
「5 参加生協は、控訴人の地位を争い、これまで賃金を支払ってこなかったう
え、原審判決によって賃金の支払を命ぜられて以降も強制執行停止の申立てを行
い、あくまで控訴人に賃金を支払わない態度を示しているなど、今後も、控訴人の
労務の提供を拒絶して賃金を支払わないことが窺われること、また、本件賃金請求
のような回帰的給付については、現在履行すべき過去分の賃金支払の履行がないと
きは将来の分についてもあらかじめ請求する利益があると考えられること等からす
れば、控訴人は、参加生協に対し、口頭弁論終結時以降の将来の賃金についても現
在請求する必要がある。
 よって、控訴人は、参加生協に対し、控訴人が参加生協に対し雇用契約上の地位
を有することの確認を求めるとともに、賃金請求権に基づき、金六一一万〇一六六
円(平成元年八月一日から同月二〇日までの賃金の内金一〇万〇一六六円、同年九
月分から平成三年四月分までの賃金六〇一万円)及び主位的には平成元年一一月以
降毎月二五日限り金三〇万〇五〇〇円、予備的には平成元年一一月から被控訴人生
協が控訴人を就労させるまで、毎月二五日限り金三〇万〇五〇〇円の賃金の支払を
求める。」
四 同二〇頁の四行目と五行目の間に以下のとおり付加する。
「仮に、参加生協が控訴人に対し、平成三年五月八日(本件反訴状送達時)以降の
賃金支払義務を負うとしても、その額は労働基準法二六条を適用し、請求額の六割
にとどめるべきである。」
第三 証拠(省略)
       理   由
第一 甲事件について
 原判決理由第一記載のとおりである。ただし、以下のとおり付加訂正する。
一 原判決二一頁三行目の「丙第六ないし第八号証、甲第九号証、」を「甲第二三
号証、丙第六ないし第九号証、」と、同七行目の「甲第四、第七号証(いずれも」
を「甲第四、第七、第一〇、第一六ないし第二二号証(第七、第一七号証について
は原本の存在及び成立とも、なお、第四、第七、第一〇号証については」と、それ
ぞれ訂正する。
二 同二五頁一行目冒頭から同六行目末尾までを以下のとおり訂正する。
「5 参加生協A理事は、平成元年七月八日、控訴人に対し、前記出向研修の話は
なくなり、また、参加生協での受け入れ部署もなくなったとして、被控訴人生協へ
の移籍を打診するとともに、参加生協の理事会で内諾を得るために必要であるとし
て、移籍承諾書への署名を求めた。この時点では、参加生協A理事と被控訴人生協
B理事との間では、移籍の方針のみが合意されていたにとどまり、移籍後の待遇に
ついては、以後の控訴人と被控訴人生協側との交渉に委ねられた。控訴人は、それ
まで一年以上、はっきりした身分上の位置付けのないまま前記共同鮮魚センターで
の業務に就いていたこともあり、基本的に移籍の方針を受け入れることとして右移
籍承諾書に署名をしたが、その原本は、移籍が最終的に決定してから押印のうえ提
出することとし、署名だけをした承諾書のコピーをA理事に提出した。」
三 同二六頁九行目冒頭から同二七頁三行目末尾までを以下のとおり訂正する。
「8 一方、控訴人は、前記移籍承諾書のコピーをA理事に提出した同年七月八日
以降、被控訴人生協B理事と本件移籍に関して相談したところ、同理事は、移籍後
の賃金は高い方にスライドすること、これまで参加生協で働いた退職金は被控訴人
生協に引き継ぐこと、控訴人のこれまでの経験を生かし、共同購入部に配置させる
ようにすること、冬の一時金は全額支給することなどの好条件を示したため、控訴
人は、それらを具体的な形で示してほしい旨要望するとともに、移籍は、その具体
的な条件次第である旨を述べた。また、控訴人は、同年八月三日には、被控訴人生
協C理事に対し、右B理事の話に基づいて控訴人が作成した『移籍に関する協定
書』を手渡し、その内容の検討を依頼した。右協定書では移籍期日は同月一日とさ
れているものの、控訴人の配属先、賃金、有給休暇の日数等の欄は白紙であっ
た。」
四 同二九頁六行目末尾に以下のとおり付加する。
「右通知に対し、控訴人は、被控訴人生協に「『採用取消のご通知』に対する不同
意のご通知」と題する書面を送付し、三回にわたり団体交渉の申入れをしたほか、
参加生協に対しても、二回にわたり控訴人の移籍に伴う労働条件等について団体交
渉を申入れた。なお、参加生協は、本件採用取消後の控訴人の扱いについて、平成
元年八月一日付けで退職したものとして扱い、同年九月一三日、控訴人に対し、退
職金を小切手で送付した。これに対し、控訴人は、被控訴人生協の職員として移籍
したから、退職金等も被控訴人生協に引き継がれている旨の同年一〇月一日付け通
知書を送付し、右小切手を法務局に供託した。」
五 同二九頁八行目の「原告は、」から同一一行目の「時点では、」までを以下の
とおり訂正する。
「控訴人も、基本的に移籍を承諾したことは認められるものの、最終決定までは移
籍承諾書の原本の提出を保留するなど、未だ確定的に移籍を承諾したわけではない
と認められるし、控訴人が右移籍を承諾した時点では、」
六 同三〇頁九行目冒頭から同三二頁八行目末尾までを以下のとおり訂正する。
「前記二で認定した事実によれば、控訴人は、参加生協から被控訴人生協への移籍
を基本的に受け入れ、被控訴人生協と雇用契約を締結する方向で話し合いを進めて
いたものの、それはあくまで、控訴人の考えていたとおりの雇用条件が満たされる
ということが前提となっていたものであり、そのことは被控訴人生協側にも示され
ていたこと、しかし、本件では、それらの条件が結局折り合うに至らず、控訴人
は、被控訴人生協が提示した移籍人事契約書への署名押印もしないまま、同年九月
一日、被控訴人生協から採用を拒否する旨の通知を受けたのであるから、控訴人と
被控訴人生協との間に雇用契約が成立したと認めることができないことは明らかで
ある。なお、右通知書の文言は、「採用取消」となっているものの、右に述べたと
ころからすれば、採用行為(雇用契約の締結)があったとは認めがたいのであるか
ら、その実質は採用拒否の通知とみるほかない。」
第二 乙及び丙事件について
 原判決理由第二記載のとおりである。ただし、以下のとおり付加訂正する。
一 原判決三六頁二行目の「署名を」から同三行目末尾までを以下のとおり訂正す
る。
「署名をするなどして、基本的に本件の移籍を承諾したこと(前記のように未だ確
定的な意思表示ではないとみられるが、以下これを「本件移籍承諾」あるいは「移
籍の承諾」等という。)は前記のとおりである。
二 同三七頁一行目の「被告生協」を「参加生協」と訂正する。
三 同三八頁二行目の「こと、」の次に「控訴人も、基本的に移籍を承諾したもの
の、最終決定までは移籍承諾書の原本の提出を保留するなど、未だ確定的に移籍を
承諾したわけではないこと、」を付加する。
四 同四二頁八行目末尾に以下のとおり付加する。
「また、本件のような雇用契約関係については、民法の特別規定として労働基準法
二六条が適用されるところ(同条は、直接には休業の場合を規定したものである
が、解雇等、雇用契約の存否が問題となっている場合にも適用があると解され
る。)、同条は、労働者の労務の提供を要せずして使用者に反対給付の責任を認め
た趣旨の規定であるから、控訴人が就労できなかったことが参加生協の責に帰すべ
き事由に基づくものとすれば、参加生協は、控訴人が労務の提供をしたか否かを問
わず、控訴人に対し、賃金の支払義務を免れない。」
五 同四二頁九行目冒頭から同四九頁九行目末尾までを以下のとおり訂正する。
「2 そこで、控訴人が平成元年八月一日以降参加生協に就労しなかったことが参
加生協の責に帰すべき事由に基づくものといえるか否かについて検討するに、前記
のように、控訴人の退職の意思表示は、被控訴人生協との雇用関係の成立を条件と
するものであって、両者は相互に一体的な関係にあるものであり、被控訴人生協と
の間で確定的に雇用契約が締結されるまでは、参加生協との雇用契約が存続するも
のであったこと、このように控訴人の参加生協の退職はあくまで被控訴人生協の採
用に伴うものであったことは参加生協の側でも認識していたにもかかわらず、参加
生協は、被控訴人生協と必ずしも十分な連絡をとることなく、控訴人と被控訴人生
協との間で確定的な雇用契約が成立したか否かを確認しないまま、一方的に控訴人
を平成元年八月一日付で退職したものとして扱い、退職金の交付等、その後の一連
の手続を進め、これによって、控訴人は、参加生協における就労の途を閉ざされた
のであるから、結局、控訴人の参加生協への不就労は、使用者たる参加生協の責に
帰すべき事由に基づくものというべきであり、控訴人は、参加生協に対し、同日以
降の賃金請求権を失わないというべきである。
 もっとも、前記認定のように、控訴人は、同日以降、参加生協退職の効力を争っ
たり、参加生協との雇用関係の存続を主張したりすることなく、もっぱら、被控訴
人生協との雇用関係の存否のみを問題にし、本訴においても、当初は、被控訴人生
協のみを相手に雇用関係存続の確認等を求めていたことが明らかであるが、これら
は、控訴人の参加生協での就労ができなくなってからの事情であるし、また、前記
のように、控訴人としては、自己の希望する条件が満たされれば、被控訴人生協に
雇用されることに異存はなかったのであるから、まずは、被控訴人生協と交渉し、
そのような条件を満たす形での雇用契約を締結しようと考えたことも無理からぬも
のがあること、なお、当時、参加生協と控訴人との間の雇用関係が存続していたと
いいうるか否かは、法的に難しい問題を含み、一義的に判定しにくい事柄であった
こと等からすれば、控訴人の右のような対応も、参加生協への控訴人の不就労が参
加生協の責に帰すべき事情によるとの前記判断を左右するに足るものではない。
3 参加生協は、参加生協が控訴人に対し、賃金支払義務を負うとしても、その額
は労働基準法二六条を適用し、請求額の六割にとどめるべきである旨主張するが、
同条が使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、労働者に平均賃金の六割以上
の手当の支払を命じているのは、労働者が使用者に対し、解雇期間中の全額賃金請
求権を有すると同時に解雇期間内に得た利益を償還すべき義務を負っている場合、
その決済手続を簡便ならしめるため、償還利益の額をあらかじめ賃金額から控除し
うることを前提としたうえ、その控除の限度を、特約なき限り平均賃金の四割まで
はなし得る旨を定めたものと解されるのであるから、控訴人が右利益を得たことに
ついての主張、立証の全くない本件において、控訴人の賃金請求権が、同条によっ
て制限される理由はない。
4 控訴人は、将来の賃金についても、本訴で請求する必要がある旨主張するが、
本件口頭弁論終結の日(平成六年二月一四日)以降、本判決確定に至るまでの分
は、予め請求する必要があると認められるが、本判決確定後の分については、本判
決により、控訴人が参加生協の従業員としての地位を有することが確定されるので
あるから、控訴人が現実に就労すると否とを問わず、特段の事情のない限り、参加
生協の対応も現在とは異なるであろうことが予測されるところ、右特段の事情が存
するものとは認めがたいので(控訴人主張のような事情は、本件のような事案につ
いて一般的に認められる事情であって、それだけでは右特段の事情に当たるとはい
えない。)現時点において、予めその請求をする必要があるということはできな
い。
5 参加生協における控訴人の賃金額が、平成元年八月一日当時、月額三〇万〇五
〇〇円であり、支払日が毎月二〇日締めの当月二五日払いであったことは当事者間
に争いがない。
 したがって、参加生協は、控訴人に対し、金六一一万〇一六六円(平成元年八月
一日から同月二〇日までの賃金の内金一〇万〇一六六円、同年九月分から平成三年
四月分までの賃金六〇一万円。控訴人は、平成三年四月以降毎月二五日限り金三〇
万〇五〇〇円の支払を求めるが、右四月分はすでに六〇一万円に含まれており、重
複請求である。)及び平成三年五月から本判決確定に至るまで毎月二五日限り金三
〇万〇五〇〇円の賃金を支払う義務がある。」
第三 結論
 以上のとおり、控訴人の甲事件請求のうち、本判決確定時以降の毎月の金員支払
を求める部分は訴えの利益がなく不適法であり、その余の部分及び参加生協の乙事
件請求はいずれも理由がなく、控訴人の丙事件請求のうち、本判決確定時以降の毎
月の金員支払を求める部分は前同様不適法であり、その余の部分は、雇用関係存在
確認及び参加生協に対し、金六一一万〇一六六円及び平成三年五月から本判決確定
に至るまで毎月二五日限り金三〇万〇五〇〇円の金員の支払を求める限度でその理
由がある。
 また、控訴人の当審で追加した予備的請求は、被控訴人生協に対する請求のうち
本判決確定時以降の毎月の金員支払を求める部分は不適法であり、その余の部分は
理由がなく、参加生協に対する請求のうち本判決確定時以降の毎月の金員支払を求
める部分は不適法である。
 よって、控訴人及び参加生協の各控訴に基づき、原判決を主文一のとおり変更
し、控訴人の当審で追加した予備的請求につき、主文二、三のとおり却下及び棄却
することとし、訴訟費用の負担につき民訴法三八六条、八九条、九二条、九三条を
適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋欣一 矢崎秀一 及川憲夫)

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