弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     一、 原判決が、被上告人Dに対する上告人の請求中、金七万一、四六
六円の支払を求める部分につき、上告人敗訴の判決をした部分を破棄する。
     右部分についての被上告人Dの控訴を棄却する。
     二、 被上告人A、同Bに対する各上告を棄却する。
     三、 被上告人Dの関係においては、訴訟費用は第一、二、三審を通じ
これを五分し、その一を上告人の負担とし、その余を被上告人Dの負担とし、被上
告人A、同Bの関係においては、上告費用は、上告人の負担とする。
         理    由
 上告理由について。
 原判決は次の事実を確定している。すなわち、本件土地は、もと上告人の所有で
あつたが、上告人は昭和二七年一月三一日これを被上告人A、同B両名の先代亡C
に、次いでCは同日これを被上告人Dに、それぞれ売渡し、その所有権は右各売買
と同時に右各買主に移転した。右売買による所有権移転登記手続は昭和三一年六月
三〇日に完了したが、右登記手続の完了前、本件土地台帳上の所有名義人になつて
いた上告人は、右土地についての、前記売渡の日の翌日である昭和二七年二月一日
より昭和三一年一二月末日分までの固定資産税計金八万一、四八六円および昭和三
一年度分都市計画税金一、五四一円を、それぞれ上告人主張の日に八王子市に納付
したものである。しかして上告人の本件訴旨は、要するに、以上の事実関係に基
き、「被上告人Dは、前記売買により爾後、本件土地の実質上の所有者となつたも
のであり、しかも右売買の以前から同地上に建物を所有して本件土地を使用して来
たのであるから、当然、その所有権取得以後の固定資産税および都市計画税を負担
すべき義務がある。また被上告人A、同B両名の先代亡Cは、上告人との関係で
は、右土地の買主として、当然、買受後の固定資産税および都市計画税を負担すべ
き義務を負うに至つたものである。したがつて、被上告人D、および右Cの相続人
である被上告人A、同Bは、それぞれ上告人に対し、不当利得を原因として、前記
上告人が納付した固定資産税および都市計画税と同額の金員並びにこれに対する右
納付の日の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による利息(但し、被上告人A、
同Bは、相続分に応じ右各金員の二分の一宛)を支払らべき義務がある。よつて上
告人は被上告人らに対し、それぞれ右金員の支払を求めるため本訴に及んだ」とい
うのである。これに対し原判決が、上告人指摘のような見解に立脚し、上告人と被
上告人らとの関係においでも、前記各地方税は、当該納税期間中における各年度の
賦課期日たる一月一日現在に土地台帳上その所有名義人となつていた上告人が、こ
れを負担すべきが当然である旨判示し、被上告人Dに対する請求の一部を認容した
だけで、上告人のその余の請求をすべて棄却していることは、原判文上明らかであ
る。
 よつて先ず被上告人Dに対する関係について按ずるに、地方税法第三四三条第一
項、第七〇二条第一項(昭和三五年法第一四号による改正前のもの、以下これに同
じ)によれば、土地に対する固定資産税および都市計画税は、その所有者に課する
(但し質権または一〇〇年より永い存続期間の定のある地上権の目的である土地に
ついては、固定資産税は、その質権者または地上権者に課する)ものと定められて
いる。しかして右各法条の各第二項、第三五九条によれば、右にいう土地所有者と
は、賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日現在において土地台帳ま
たは土地補充課税台帳に所有者として登録されている者を指称するのであり、した
がつてその結果、土地所有者に変動を生じながら登記手続を経なかつたため台帳に
登録された所有名義人と実質上の所有者とが異なるに至つた場合は、賦課期日現在
の台帳に登録された所有名義人が、右規定の適用により、所有者として納税義務者
とされるわけである。しかしながう、このように法が台帳の所有名義人を納税義務
者と定めたのは、徴税機関をして、一々実質的所有権の帰属者を調査させ、所有者
の変動する毎にその所有期間に応じて税額を確定賦課させるようなことは、徴税事
務を極めて複雑困難ならしめるものであることにかんがみ、集団的な徴税の事務処
理の簡易明確を図るため、劃一的形式的に台帳上の所有名義人を所有者とした趣旨
に外ならない。すなわち右規定は、徴税技術の便宜のため、単に徴税団体との関係
において、何人が土地所有者したがつて納税義務者と目さるべきかを定めたものに
すぎないのであつて、私人相互の内部関係において私法上何人がこれを負担すべき
かは、右規定の定めるところではなく、右規定を参酌しつつ、しかもこれとは別個
に判断すべき事柄である。(税法上の納税義務者と私法上の納税義務負担者とか、
必ずしも一致しないものであることは、例えば、地方税法第一〇条の二、現行国税
通則法第九条の規定と民法第二五三条第一項の規定とを対照してみても、容易に首
肯できるところである)。ひるがえつて思うに、元来地方税法が、土地に対しての
固定資産税および都市計画税を設けている主たる根拠は、土地所有者が通常その土
地に応ずる担税能力を具有するものと推認され、また土地所有者が、都市計画事業
によつて増進される当該地方団体の一般的利益に当然均霑するものと認められるこ
とによるものとされている。それ故、右のように土地を所有する事実を基本として
課されるこの種の租税は、前記のような徴税事務の技術的便宜の点を別にしては、
これをもつて実質上の所有権を有しない単なる台帳上の所有名義人に負担させるべ
き合理的理由はなんら見出し難く、かかる租税を単なる台帳上の所有名義人に負担
させ、実質上の所有者にその負担を免れさせるようなことは、<要旨>当事者間の衡
平と取引の通念に反すること明らかであるといわなければならない。それ故、上来
説示した前記</要旨>租税法規の立法趣旨および右租税の根拠、並びに衡平の観念
と取引の通念を合せ考えるときは、結局、土地所有者に変動を生じ、台帳上の所有
名義人と実質上の所有者とが異なるに至つた場合、その土地に対する固定資産税お
よび都市計画税は、私人相互の関係においては、特別の合意等別段の事情のない限
り、実質上の所有者がその所有期間に応じ日割をもつて、これを負担すべきである
と解するのが相当である。ところで原判決の確定したところによれば、本件土地に
ついては、昭和二七年一月三一日に締結された前記各売買により、爾後、上告人は
単なる台帳上の所有名義人にすぎず、被上告人Dにおいてその実質上の所有者とな
つたことが明らかであるから、右両者の関係においては、特別の合意等別段の事情
のあつたことにつきなにも主張がない以上、その後の本件固定資産税および都市計
画税は、前説示に照らし被上告人Dが負担すべき筋合であるといわなければならな
い。もつとも原判決は、本件土地の前記売買による所有権移転登記手続が遷延した
原因は、上告人が前記売買契約締結後、右契約を合意解除したと称してCに対し、
右土地の所有権移転登記手続を拒否したことによるのであつて、そのため土地台帳
上の所有名義人の変更も遷延したものであるという事実を認定しているが、しかし
右のような登記手続拒否の事実は、場合により売主である上告人に損害賠償義務を
発生させる事由となることがあるのは格別、未だこれをもつて、実質上の所有者た
る被上告人Dをして、前記固定資産税および都市計画税の負担を免れさせ、これを
単なる台帳上の所有名義人にすぎない上告人をして負担させるのを相当と目すべき
事由とするに足りない。されば原判決の確定した前記事実関係のもとにおいては、
上告人は本来被上告人の負担すべき前記固定資産税および都市計画税合計金八万
三、〇二七円を八王子市に納付し、これにより被上告人Dは、法律上の原因なくし
て上告人の損失において右と同額の利得をしたものというべきであり、しかも、右
利得はそれが消滅したような事由については別段の主張がないから一応現存するも
のと解する外なく、したがつて上告人は被上告人Dに対し、不当利得を原因として
右金額の償還を求め得るものといわなければならない。それ故原判決が、被上告人
Dに対し右金員の支払を求める上告人の請求を認容した第一審判決のうち、金一万
一、五六一円の請求に関する部分を除き、その余の金七万一、四六六円に関する部
分を取消し、その部分の請求を棄却したのは、法律の解釈を誤つた違法があり、右
違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は右限度において破
棄を免れない。しかして、右部分についでは、原判決の確定した事実に基き裁判を
なすに熟するから、自判すべきである。すなわち当裁判所は、第一審判決が右金七
万一、四六六円の部分に関する上告人の被上告人Dに対する請求を認容したのは相
当であつて、この部分に対する被上告人Dの控訴は理由がないので、これを棄却す
ることとする。
 次に被上告人A、同Bの関係について按ずるに、本件土地に対する固定資産税お
よび都市計画税は、私人相互の関係においては、右土地の実質上の所有者が負担す
べきものであることは、さきに説示したとおりである。しかして原判決の確定した
前記事実関係によれば、被上告人A、同Bの両名の先代亡Cは、昭和二七年一月三
一日、本件上地を上告人から買受け一旦その所有権を取得したが、即日被上告人D
に対して、これを売渡しその所有権を移転したというのであるから、Cは、本件土
地について右昭和二七年一月三一日の一日だけ、これが実質上の所有者であつたに
すぎない。ところで、上告人は、上告人が納付した本件土地に対する同年二月一日
分以降の固定資産税等について、右は本来、Cの負担すべきものであると主張して
いるのであるが、しかし右二月一日以降、Cはもはや本件土地の実質上の所有者で
なかつたのであるから、同人が右二月一日以降の分の固定資産税等を負担すべきい
われはないというべきである。上告人は、Cが買主として、右売買契約以後の本件
土地に対する固定資産税等を当然負担するに至つたものの如く主張しているが、私
人相互の関係においでは、土地に対する固定資産税等は、前説示のとおり実質上の
所有者が負担すべきものであつて、たとえ一旦土地を買受けた者であつても、当事
者間に特別の合意がない限り、その者がその後実質上の所有者でなくなつた時は、
売主に対する関係においでも、当然には、その後の分の固定資産税を負担すべき法
律上の根拠はない。被上告人A、同Bに対する上告人の本訴請求は、Cが本件土地
の実質上の所有者でなくなつた後の分の固定資産税等も、同人において負担すべき
義務があることを前提とするものであるから、失当というの外ない。それ故、原判
決が被上告人A、同Bに対する上告人の本訴請求を棄却したのは結局相当であつ
て、上告人の主張は理由がない。被上告人A、同Bに対する本件上告は理由がない
から、棄却すべきである。
 なお上告人の請求中、利息損害金に関する部分は上告の対象になつていないか
ら、この部分については判断の要を見ない。
 以上説示のとおりであるから、上告審での訴訟費用の負担については、被上告人
Dに関しでは民事訴訟法第八九条、第九二条、第九六条を、被上告人A、同Bに関
しては同法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 土井王明 裁判官 兼築義春 裁判官 矢ケ崎武勝)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛