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         主    文
     一、 附帯控訴人(被控訴人)Aの本件附帯控訴を棄却する。
     二、 原判決主文第二項を除きその余を次のとおり変更する。
     (一) 被控訴人Aは控訴人Bに対し、別紙目録記載の建物を引き渡
し、且つ昭和三八年九月一日より同年一二月末日まで一箇月金三、五〇〇円の、昭
和三九年一月一日より昭和四一年一二月末日まで一箇月金四、二〇〇円の、昭和四
二年一月一日より右建物引渡済に至るまで一箇月金五、一〇〇円の各割合による金
員を支払え。
     (二) 被控訴人Aは控訴人Cに対し金八万二、八七〇円及びこれに対
する昭和三八年九月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
     (三) 被控訴人Dは控訴人Bに対し、別紙目録記載の建物を明け渡
し、且つ昭和三八年九月一日より同年一二月末日まで一箇月金一、七五〇円の、昭
和三九年一月一日より昭和四一年一二月末日まで一箇月金二、一〇〇円の、昭和四
二年一月一日より右建物明渡済に至るまで一箇月金二、五五〇円の各割合による金
員を支払え。
     (四) 被控訴人Dは控訴人Cに対し金四万一、四三五円及びこれに対
する昭和三八年九月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
     (五) 控訴人らのその余の請求を棄却する。
     (六) 訴訟費用は、第一、二審を通じ控訴人らの請求に関し生じた部
分(控訴費用を含む)は被控訴人らの負担とし、被控訴人(附帯控訴人)Aの請求
に関し生じた部分(附帯控訴費用を含む)は同被控訴人の負担とする。
     (七) 右(一)ないし(四)についでは控訴人らにおいて仮に執行す
ることができる。
         事    実
 控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という)らの代理人は、「原判決中控訴人ら
勝訴部分を除きその余を取り消す。被控訴人A(附帯控訴人)は控訴人Bに対し別
紙目録記載の建物(以下本件建物という)を引き渡せ。被控訴人Dは控訴人Bに対
し本件建物を明け渡せ。被控訴人両名は、控訴人Bに対し連帯して昭和三八年九月
一日以降昭和四四年七月三一日までは一箇月金一万円の割合による金員を、同年八
月一日以降右引渡及び明渡済に至るまでは一箇月金一万五、〇〇〇円の割合による
金員を支払え。被控訴人両名は控訴人Cに対し金二三万六、〇〇〇円及びこれに対
する昭和三八年九月一日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は第一、二審を通じ全部被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執
行の宣言を求め、被控訴人Aの附帯控訴に対し「本件附帯控訴を棄却する。附帯控
訴に関する訴訟費用は同被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人らの
代理人は「控訴人らの本件控訴及び控訴人Bが当審で拡張した新請求を棄却す
る。」との判決を求め、被控訴人Aの代理人は、附帯控訴として「原判決主文第二
項を取り消す。控訴人らは被控訴人Aに対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和三
八年九月二〇日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。附帯控訴費用は控
訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び書証の認否は左記の外原判決
事実摘示と同一であるから、これを引用する。
 一、 控訴人らの代理人の陳述
 (一) 本件建物を被控訴人Dにおいて居住占拠することが控訴人らに対する関
係で不法行為である理由
 (1) 被控訴人Aについて
 (イ) 同被控訴人は、昭和二六年一〇月本件建物(当時の所有者は控訴人C、
同被控訴人は本件建物を控訴人Cより無債で借受けていたものである)をこれに東
接する同被控訴人所有建物(以下隣接建物という)と一括して賃料一箇月六、〇〇
〇円で被控訴人Dに賃貸したが、本件建物については控訴人Cに無断で転貸したも
のであるから、民法第五九四条第二項又は同法第六一二条第一項にあたる行為であ
ること明白である。しかも、被控訴人Aは、昭和三六年九月に本件建物についての
使用貸借期間が満了したのであるから、本件建物を控訴人Cへ返還すべきであるの
に、自己の背信行為によつて被控訴人Dに本件建物を引き渡したままこれを自己の
責任によつて回収することをせず、単に消極的に本件建物と隣接建物についての賃
料を受領しないという措置をとつたのみである。
 (ロ) 仮に、百歩をゆづつて、被控訴人Aが本件建物を被控訴人Dへ転貸する
について控訴人Cの承諾があつたとしでも、その基本たる控訴人Cと被控訴人Aと
の間における本件建物についての使用貸借が終了した段階においては、控訴人Cは
同被控訴人に対し本件建物の返還を求め得るものである。従つて、同被控訴人は、
本件建物を返還しなかつたことについて使用借主としての返還義務を履行していな
いものとして被控訴人Dの不法占拠による責任と共にいわゆる不真正連帯の関係で
損害賠償責任がある。
 (2) 被控訴人Dについて
 同被控訴人は、本件建物を訴外亡Eから賃借したというが、訴外Eが控訴人C及
び被控訴人Aの代理人であつた事実は存在せず、訴外Eと控訴人C、被控訴人Aと
の間には単に養親子関係(特に訴外Eと控訴人Cとの間は利害対立状態にあつた)
があつたに過ぎないから、仮に、被控訴人Dにおいて訴外Eから本件建物を賃借し
たとしても、そのこと自体控訴人Cには何ら関係のないことである。控訴人Cとし
ては、昭和三六年九月まては本件建物を被控訴人Aに貸しているのに、更にこれを
被控訴人Dに貸すことについて訴外Eに代理権をうえる筈がない。控訴人Cとしで
は、これまで被控訴人Dが本件建物の賃料名下に被控訴人A又は訴外Fに対し金銭
の支払をなしていることについて、それら行為が非債弁済であることを警告したこ
とはあつても、この分を控訴人Cに対し支払えとか又は被控訴人Dの無断転借を追
認するが如き一切の行為をしたことはない。いずれにしでも、被控訴人Dは、本件
建物を占有するについて控訴人Cとの関係では無権原であり、その占有は不法のも
のである。
 (二) 本件建物を収益できないことによる損害
 (1) 前記のように、被控訴人Aの使用借物の返還義務の懈怠と被控訴人Dに
よる不法占拠との競合によつて、控訴人ら(昭和三六年九月一〇日から昭和三八年
八月三一日までの間は控訴人C、同年九月一日から本件建物が明け渡されるまでは
控訴人B)は本件建物について収益することができない。
 (2) 本件建物を他に賃貸するとすれば、その賃料は一箇月金二万円を下るこ
となく、控訴人らは、被控訴人らの不法行為により右賃料相当の損害を蒙つてい
る。控訴人らは、右よりはるかに下廻つた一箇月金一万円の割合による賃料相当の
損害金の支払を被控訴人らに求めていたのであるが、被控訴人らがいわれもなく抗
争している状況に鑑み、控訴人Bは、被控訴人らに対し賃料相当損害金として、
「昭和三八年九月一日以降本件建物引渡及び明渡済に至るまで一箇月金一万円の割
合による金員の連帯支払」を求めていたのを拡張して「昭和三八年九月一日以降昭
和四四年七月三一日までは一箇月金一万円の割合による金員の、同年八月一日以降
本件建物引渡及び明渡済に至るまで一箇月金一万五、〇〇〇円の割合による金員の
連帯支払」を求めると変更する。
 (三) 被控訴人Dの主張に対する反論
 (1) 同被控訴人は、本件建物と隣接建物とが合して一戸建一五坪の家屋を形
成すると主張するが、右は誤である。本件建物は被控訴人A所有の隣接建物と外見
上一棟ではあるが、両者は、土壁で区切られ、公道からの占用道路によつてそれぞ
れ各別の出入口を有して昭和二二年当時岐阜市営住宅として市の基準によつて一棟
二戸建として建築されたものである。従つて、本件建物は隣接建物とは当初から独
立した存在で家屋番号も異る。控訴人Cは、本件建物を独立部分として岐阜市より
買い受けたものである。
 (2) もつとも、本件建物と隣接建物との現状は、かつて存した両家屋間の区
切りの土壁を取り除きその他炊事場、便所、床の間等に無断で著るしい変更を加え
恰も一棟一戸建家屋の如き態で被控訴人Dが使用しているが、これは被控訴人Aな
いしは被控訴人Dが控訴人らに無断で改修したからに外ならない。
 (3) 登記の点についでは、被控訴人Aが昭和三七年八月一五日付で隣接建物
につき保存登記をした後約一年余おくれた昭和三八年九月二〇日に控訴人Cが本件
建物につき保存登記を経由したものであるから、右登記に対する被控訴人Dの批難
は失当である。
 (4) 控訴人Cは訴外Eに対し本件建物についての管理権を与えたことはな
い。被控訴人Dは、被控訴人Aから本件建物を転借したものであり、右転貸借は控
訴人Cに無断でなされたものである。
 二、 被控訴人Dの代理人の陳述
 (一) 本件建物と隣接建物とは一戸建一五坪の家屋(以下一五坪の家屋とい
う)である。右一五坪の家屋は、訴外Eと控訴人Cが共同で一棟一戸の建物として
建築したもので、訴外E、控訴人Cの共有に属したが、その後訴外Eにおいてその
持分を被控訴人Aに譲渡したので、同被控訴人及び控訴人Cの共有となつた。
 (二) 一五坪の家屋は、建築後控訴人Cの承諾の下に訴外E、被控訴人Aの居
宅として使用された。その際訴外Eは、一五坪の家屋につき所有者である控訴人C
及び被控訴人Aより管理をまかされたものである。管理権者である訴外Eは、一五
坪の家屋の性質を変えない範囲内で利用改良の権限を有し、右権限に基づき昭和二
六年一〇月一日一五坪の家屋を被控訴人Dに賃貸し、同被控訴人においては同日以
降賃借権に基づき一五坪の家屋を占有しているのである。
 (三) 仮に、控訴人Cが訴外Eに対し一五坪の家屋の管理の依頼をしたことが
ないとしても、被控訴人Aは一五坪の家屋の二分の一の持分権者であるから、同被
控訴人のみで共有物たる一五坪の家屋を管理する権限を有するところ、被控訴人D
は昭和二六年一〇月一日被控訴人Aより同人の右権限に基づき同人より一五坪の家
屋を賃借したものである。
 (四) 仮に、被控訴人Aが直接の賃貸人でないとしても、訴外Eは被控訴人A
の右管理権を代理して被控訴人Dに一五坪の家屋を賃貸したものである。
 (五) 右のとおりであるから、爾後一五坪の家屋の一部につき権利を取得した
と主張する控訴人Bに対し被控訴人Dはその賃借権を対抗できること論をまたな
い。
 (六) 控訴人Cは、一五坪の家屋(一戸一棟の建物)を共有者である被控訴人
Aの同意もなく又分割の方法にもようず昭和三八年九月二〇日に至つて卒然と本件
建物を一戸の建物として登記して本来一五坪の家屋であつたものを二戸の家屋の如
く変更を加え、その上で本訴請求に至つたものであるが、そもそもこのような変更
じたい無効である。
 三、 被控訴人Aの代理人の陳述
 本件建物が控訴人Cから控訴人Bへ贈与されたとの控訴人ら主張の事実を否認す
る。被控訴人Aの請求は、右贈与の事実が認められた場合の予備的請求である。
 四、 証拠(省略)
         理    由
 一、 先ず控訴人らの被控訴人Aに対する請求について判断する。
 (一) 成立に争いのない甲第六号証の一、二、甲第八号証の二、三、乙第一一
号証、原審及び当審における控訴本人Cの尋問の結果によると、控訴人Cは、昭和
二二年項より本件建物を所有していたが、昭和三八年九月一日その子である控訴人
Bに対し本件建物を贈与し、同年九月二〇日本件建物につき右贈与を原因とし控訴
人Bのために所有権移転登記を経由したことを認めることができる(但し本件建物
がもと控訴人Cの所有に属したことは被控訴人Aの認めるところである)。成立に
争いのない乙第六号証によると、控訴人Cは、右贈与後である昭和三九年に被控訴
人Aに対し、同人が本件建物を不法に占拠して控訴人Cの所有権に基づく本件建物
に対する使用収益を妨げて損害を蒙らせているとして損害賠償を求める訴を岐阜地
方裁判所へ提起(同裁判所昭和三九年(ワ)第三三三号家屋明渡請求反訴事件)し
た事実が認めうれるが、同号証及び当審における控訴本人Cの尋問の結果による
と、右訴提起(被控訴人Aより控訴人Cに対する同裁判所昭和三八年(ワ)第五七
一号損害金請求事件における反訴として提起)は、控訴人Cの訴訟代理人が同控訴
人の真意につき充分確かめることをしなかつたため、本件建物の当時の所有者を同
控訴人と誤解したことに基づくものと認めうれるので、前記訴の提起の事実は前記
認定を左右しない。又成立に争、いのない甲第一号証によると、昭和三八年九月二
〇日に控訴人Cが被控訴人Aに対し本件建物につき所有権を有している旨主張して
いた事実が認めうれるが、右事実も、控訴人らは親子の関係にあること及び控訴人
Cより控訴人Bへの本件建物の贈与について登記を経由したのが同日であること等
の前記事実を考えると、必ずしも前記認定をなすについて支障となるものではない
(控訴人らが右贈与につき登記を経ていることを重視するのが相当と考える)。又
乙第一号証によつて、本件建物の所有権が控訴人Cから訴外Eへ移転したものと認
め難いこと後記被控訴人Aの反訴に対する判断において説示するとおりであるか
ら、同号証も前記認定をなすにつき妨げとなるものではなく、他に前記認定を覆す
に足る確証はない。前記認定によると、本件建物は、昭和二二年頃より昭和三八年
九月一日(同日控訴人Cが控訴人Bに贈与するまで)までは控訴人Cの所有に属
し、同日(控訴人Bが右贈与を受けた後)以降は控訴人Bの所有に属したものとい
うべきである。
 (二) 昭和二三年九月九月控訴人Cが被控訴人Aに対し本件建物を無償(但し
公租公課は同被控訴人の負担)で貸与したことは当事者間に争いがない。そして、
成立に争いのない乙第二、第三号証、原審における被控訴本人Aの尋問の結果、原
審及び当審における控訴本人Cの尋問の結果を総合すれば、昭和二二年頃控訴人C
は、岐阜市より本件建物を買い受けこれを所有したこと、同控訴人は営業により生
計の資を得る考えでいたが本件建物が営業に適さなかつたので営業に適する土地を
物色していたところ、たまたま同控訴人の姪であり義妹の関係にある被控訴人A
(同控訴人及び同被控訴人はいずれも訴外Eの養子であつた)の所有する岐阜市a
町b丁目c番宅地二〇坪が営業に適する土地であつたので同被控訴人に対し右土地
の借用方を懇請し、その結果その頃控訴人Cは、被控訴人Aに本件建物を無償で貸
与するのと交換的に同被控訴人より右土地を無償で借り受けることになり、控訴人
Aより右土地の引渡を受け同時に本件建物を同被控訴人に引き渡したこと、昭和二
三年に被控訴人Aは控訴人Cが右土地に相当堅ろうな建物を建築しようと企図して
いるのは違約であるとして同控訴人に右土地明渡を求め両者の間に紛争を生じたこ
と、同被控訴人は右紛争解決のため岐阜地方裁判所へ訴提起前の和解を申し立て、
同裁判所において同年九月九日同控訴人と同被控訴人との間に「同被控訴人は同控
訴人に対し右土地を同日より向う一三ヶ年間無償で使用させる。右期間満了の後は
同控訴人は右上地上物件一切を収去してその土地を同被控訴人に明け渡さねばなら
ない。但し、右期間満了後同控訴人より更に右土地の使用方申込があつたときは同
被控訴人は支障のない限り引き続き同控訴人に使用させる。」旨の和解が成立した
こと(同日同控訴人と同被控訴人との間に右土地につき期間を一三ヶ年とする使用
貸借が成立したことは当事者間に争いがない)、右和解の際同控訴人及び同被控訴
人は、本件建物の貸借が前記のように右土地の貸借と交換的になされた関係から本
件建物の貸借も右和解条項と同旨の内容とする旨の暗黙の合意がなされていたこ
と、そのため前記和解の条項中には「右土地に対する爾後の公課は同控訴人におい
て負担し、同控訴人より同被控訴人に対し使用を許している本件建物に対する公課
は同被控訴人において負担する。」旨の一項が記載されたこと、その後昭和三二年
頃同控訴人が右土地に有した建物をGに使用させたことから、再び同控訴人と同被
控訴人との間に紛争を生じ、同被控訴人が岐阜簡易裁判所へ訴提起前の和解を申し
立て、同裁判所において同年三月一八日同被控訴人と同控訴人との間で和解が成立
したが、右和解において、同控訴人は、右土地上の建物を昭和三六年九月九日限り
収去し、右土地を無条件で同被控訴人に明渡すことを確約したこと、この和解の際
も本件建物の貸借についでも昭和三六年九月九日限りをもつてその貸借を終了させ
ることを同控訴人及び同被控訴人の間で暗黙に合意されていたことを認めることが
できる。右認定を左右するに足る証拠はない。右認定によれば、本件建物の貸借に
ついては期間を昭和二三年九月九日より一三ヶ年と約定されていたものであり、当
初は右期間満了後も事情によつては引き続き貸借することに約定されていたがその
後合意の上右期間満了後は貸借しないことに約定を変更したものといわなければな
らない。そうとすると、控訴人Cと被控訴人Aとの間の本件建物の使用貸借は、約
定期間満了により昭和三六年九月九日の経過と共に終了したものであり、同被控訴
人は右終了と同時に控訴人Cに対し本件建物を返還すべき義務を負うこと明らかで
ある。そして、弁論の全趣旨によると、同控訴人は、昭和三八年九月二〇日本件建
物を控訴人Bに譲渡する際、被控訴人Aに対し有する右本件建物の返還請求権を譲
渡したことが認められる。
 (三) 被控訴人Aは、「同被控訴人が本件建物を被控訴人Dに賃貸するについ
て、その当時控訴人Cの承諾を得た。」と主張し、原審における同被控訴本人尋問
の結果中には右に添う部分があるが、右部分は、原審及び当審における控訴本人
C、被控訴本人Dの各尋問の結果に照し採用できず、他に右主張事実を認めるに足
る証拠がない。又被控訴人Aの訴訟代理人が原審における昭和四一年五月二四日午
後二時の第三回口頭弁論期日において控訴人らの訴訟代理人に対し「本件建物の間
接占有権を同日限り放棄する。」旨陳述したことは当裁判所に明らかなところであ
るが、被控訴人Aの右間接占有権放棄の意思表示によつて控訴人らが本件建物につ
き現実の占有を取得するものではなく、又同被控訴人が本件建物を被控訴人Dに賃
貸し右賃貸により同被控訴人をして本件建物を占有使用させていること(このこと
は被控訴人Aの自認するところである)が右意思表示によつて改まるものでもない
から、右意思表示によつて同被控訴人が控訴人らに対し本件建物の返還義務を免れ
るものでないこと多言を要しない。
 (四) 被控訴人Aは、他に控訴人Bの本件建物返還請求を免れるに足る主張を
していない(本件建物がもと一棟二戸建のうちの一戸であつたのがその後一戸とし
ての独立性を失つたということは被控訴人Dにおいて主張しているが被控訴人Aは
右のことを自ら主張していないし、被控訴人Dの主張を援用することもしていない
ので、右のことについて判断をしない)ので、被控訴人Aは控訴人Bに対し本件建
物を引き渡すべき義務(返還義務)があること明らかである。
 (五) 被控訴人Aが右義務に違背し、本件建物の使用貸借が終了した後も本件
建物を被控訴人Dに賃貸して同人をして占有させていることは、控訴人らの本件建
物の所有権を侵害している不法行為にあたること疑がなく、右不法行為によつて控
訴人らが本件建物の賃料相当の損害を蒙つていることは明らかである。しこうし
て、原審における鑑定人Hの鑑定の結果(第二回)に建物を賃貸した場合毎年賃料
の増減をすることは稀であるという一般的な事実を併せ考えると、本件建物の賃料
は、昭和三六年より昭和三八年までは一箇月金三、五〇〇円、昭和三九年より昭和
四一年までは一箇月金四、二〇〇円、昭和四二年以降は一箇月金五、一〇〇円であ
ると認めうれる(右認定を左右するに足る証拠はない)から、被控訴人Aにおいて
右損害の賠償として、控訴人Cに対し金八万二、八七〇円(昭和三六年九月一〇日
より昭和三八年八月三一日まで一箇月金三、五〇〇円の割合、(3,500円×2
3)十(3,500円×21/31)円未満切捨の計算)及びこれに対する昭和三
八年九月一日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払
うべき義務があり、控訴人Bに対し同日以降同年一二月末日までは一箇月金三、五
〇〇円の、昭和三九年一月一日より昭和四一年一二月末日までは一箇月金四、二〇
〇円の、昭和四二年一月一日より本件建物引渡済に至るまでは一箇月金五、一〇〇
円の各割合による金員を支払うべき義務がある。
 (六) 右によれば、控訴人らの被控訴人Aに対する請求は、同被控訴人に対
し、控訴人Cにおいて前記金員の支払義務の履行を求める範囲で、控訴人Bにおい
て本件建物の引渡義務及び前記金員の支払義務の履行を求める範囲で、それぞれ正
当として認容すべきも、その余を失当として棄却すべきものである。
 二、 次に、控訴人らの被控訴人Dに対する請求について判断する。
 (一) 成立に争いのない甲第八号証の二、三、乙第二、第三号証、第一一号
証、丙第四号証、原審における被控訴本人Aの尋問の結果、原審及び当審における
控訴本人C、被控訴本人Dの各尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、昭和二
二年八月頃岐阜市は戦災者引揚者救済住宅として、控訴人C(引揚者)及び被控訴
人A(戦災者)がその養母である訴外Eの承諾を得て提供した同人所有の土地上に
一棟二戸建の家屋を建築したこと、右建築後間もなく右一棟二戸建の家屋のうち西
側の一戸を控訴人Cが、東側の一戸(七坪五合)を被控訴人Aが、岐阜市より各買
い受け所有したこと、控訴人Cが買受所有した右西側の一戸が本件建物であるこ
と、右二戸は、土壁をもつて仕切られ、各戸に便所、玄関があり、それぞれ独立し
た住宅用家屋として利用できるものであつたこと、控訴人Cは営業により生計の資
を得る考えでいたが、本件建物が営業に適さなかつたので、被控訴人Aに懇請して
同人所有の岐阜市a町b丁目c番宅地二〇坪を無償で借り受けることになつたが右
借受と交換的に本件建物を同被控訴人に無償で貸与することにし、本件建物買受後
間もなくこれを同被控訴人に引き渡して同被控訴人をして使用させたこと、昭和二
三年九月九日同控訴人と同被控訴人との間であらためて本件建物につき期間を同日
より一三ヶ年(但し期間満了後同被控訴人より更に本件建物の使用方申込があつた
ときは同控訴人は支障ない限り引き続き同被控訴人をして使用させる特約があつた
が後にこの特約を合意の上なくした)とする使用貸借契約が締結され、被控訴人A
は、引き続き本件建物を占有使用していたが、昭和二六年一〇月頃本件建物及び隣
接建物(同被控訴人が買受所有した前記東側の一戸)を被控訴人Dに賃貸したこと
(右賃貸契約は訴外Eが被控訴人Aの代理人として被控訴人Dと締結)、被控訴人
Dが右賃借により被控訴人Aより本件建物及び隣接建物の引渡を受けた時は、本件
建物と隣接建物との間の仕切壁は一部取り払われて片開戸がつけられて両者自由に
出入できるようになつており、又本件建物の便所、隣接建物の玄関が取りこわさ
れ、本件建物と隣接建物とが一戸の住宅として利用される状態を呈しており(右の
ような改造は被控訴人Aにおいて控訴人Cの承諾なくして行つたものである)、被
控訴人らの間の右賃貸借は、本件建物と隣接建物とを一戸の住宅としてなされたも
のであること、本件建物については、昭和三一年九月一日家屋台張に一箇の建物と
して登載され、次いで昭和三八年九月二〇日控訴人Cにおいて所有権保存登記を、
同日控訴人Bにおいて所有権移転登記を各経由していることが認めうれる。右認定
を左右するに足る証拠はない。
 <要旨>(二) 右認定によれば、控訴人Cは昭和二二年頃本件建物の所有権を取
得したことになる。しかし、右所有権は、当時施行の民法第二〇八条に定め
る「数人にて一棟の建物を区分し各其一部を所有する」にあたるもので、いわゆる
建物の区分所有権である。しこうして、建物の部分が区分所有権の客体となり得る
には、当該部分が構造上の独立性と利用上の独立性とを有することを要するもので
あり、若し当該部分が右各独立性を失えば区分所有は解消するものと解すべきであ
る。前記認定によれば、被控訴人Dが昭和二六年一〇月頃被控訴人Aより本件建物
及び隣接建物を賃借した時には、既に本件建物と隣接建物との境界をなしていた土
壁の一部が除去されて本件建物の構造上の独立性が失われ、又本件建物及び隣接建
物について内部の改造が行われて本件建物及び隣接建物が一戸の住宅として使用さ
れる状態を呈していて本件建物の利用上の独立性も失われていたものというべきで
ある。従つて、おそくとも被控訴人Dが本件建物及び隣接建物を被控訴人Aより賃
借した時には、控訴人Cの本件建物に対する区分所有権は消減しており、本件建物
及び隣接建物は一箇の不動産(以下一五坪の家屋という)として所有権の客体とな
り、控訴人C及び被控訴人Aは民法の附合に関する規定の類推により右一五坪の家
屋を共有(各持分についてこれを定める証拠がないので各二分の一と推認する)す
るに至つたものというべきである。本件建物について前記のように家屋台帳に記載
され、又控訴人C及び控訴人Bにおいて本件建物について前記のように各登記を経
ているが、右家屋台帳の記載及び右各登記によつて所有権が生ずるものでないか
ら、右記載及び各登記の存在は右判断の支障とならない。
 (三) 本件建物についての控訴人らの右各登記の事実に原審及び当審における
控訴本人Cの尋問の結果を総合すると、控訴人Cは昭和三八年九月一日その子であ
る控訴人Bとの間で本件建物を贈うする旨の契約をしたことが認めうれる。成立に
争いのない乙第一、第六号証、甲第一号証が右認定の支障となるものでないこと控
訴人らの被控訴人Aに対する請求についての判断において説示するとおり(前記一
の(一)であり、他に右認定を覆すに足る証拠はない。しこうして、右贈与契約当
時控訴人Cの本件建物の所有権は一五坪の家屋の共有権(持分二分の一)に変つて
いたのであるから、右契約は右共有権を贈与するものとして効力を有するものとな
すべく、従つて控訴人Bは一五坪の家屋について共有権(持分二分の一)を有する
ものである(本件建物が現在構造上及び利用上の独立性を有しないことは控訴人ら
の自認するところである)。
 (四) 控訴人らの被控訴人Dに対する請求は、本件建物が建築以来現在まで独
立して所有権の客体となるものであるとし、本件建物の所有権が控訴人C次いで控
訴人Bに帰属したことを前提とするものであり、控訴人らが一五坪の家屋の共有権
を有することを前提とするものでないが、共有権は単独所有権とその性質内容を同
じくし、ただその分量、範囲において狭いものに過ぎないから、右請求は控訴人ら
の一五坪の家屋の共有権に基づくものを包含するものと解するのが相当である。そ
して、共有者の一人は、共有建物の不法占有による妨害を排除しその明渡を単独で
訴求できるものである。
 (五) そこで、被控訴人Dの抗弁について考えてみる。
 (1) 同被控訴人は、「訴外Eが、一五坪の家屋について管理権を有し、右管
理権に基づき一五坪の家屋を同被控訴人に賃貸した。」旨主張するが、右事実を認
めるに足る証拠はなく、却つて前記認定のとおり、同被控訴人は被控訴人A(但し
訴外Eが代理)より一五坪の家屋を賃借したものであるから、右主張事実を前提と
する被控訴人Dの抗弁は採用できない。
 (2) 被控訴人Aが、一五坪の家屋を被控訴人Dに賃貸した当時、控訴人Cと
一五坪の家屋を共有(持分各二分の一)していたことは、前認定のとおりである
が、一五坪の家屋を被控訴人Dに賃貸することは共有物の保存行為に該らないか
ら、被控訴人A単独で右賃貸をなす権限を有しないこと明らかで、右権限があるこ
とを前提とする被控訴人Dの抗弁も採用できない。
 (3) 被控訴人Dが被控訴人Aより賃借したのは一五坪の家屋即ち本件建物と
隣接建物とを一棟一戸として住宅の用に供するためであつたこと前認定のとおりで
ある。従つて、若し本件建物部分を明け渡すことになれば、被控訴人Dにおいて隣
接建物だけで生活することを余儀なくされ生活上の不便を覚えることは疑いがない
が、控訴人Cが本件建物を被控訴人Aに貸与するに至つた事情及び右貸与は使用貸
借関係である上既に期間満了によりその関係が消滅していること、被控訴人Aが同
控訴人に無断で、本件建物と隣接建物との境界である土壁を取り除き、且つこれら
を一棟一戸の建物として被控訴人Dに賃貸したこと、元来本件建物と隣接建物とは
それぞれ独立して居住の用に供することができる構造にあつたものであること(両
建物に当初と同様の境界たる土壁を設けることによつて一戸の建物内に複数の家族
が居住する不都合を避けられるし、隣接建物に当初と同様に出入口を設ければ被控
訴人Dがいう袋の中にとじ込められたと同様の状態を免れ得る)、更に控訴人Cと
控訴人Bとは親子関係にあること等前記認定の各事実を考えると、控訴人Bがその
共有権に基づいて被控訴人Dに対し本件建物の明渡を求めること(前認定の事実か
ら控訴人Bは被控訴人Dを困惑させることのみを目的として右明渡を求めているも
のとは認め難い)が権利の乱用として許れないものとはなし難い。
 (六) そうとすると、被控訴人Dが昭和二六年一〇月頃より一五坪の家屋を占
有使用していることは控訴人らに対する関係では権原に基づかない不法のものとい
うの外なく、同被控訴人は控訴人Bに対し一五坪の家屋の一部である本件建物を明
け渡すべき義務を負うこと明らかである。又控訴人らは、被控訴人Dの本件建物不
法占有によつて賃料の二分の一(控訴人らは本件建物について持分二分の一の共有
権を有するに過ぎない相当の損害を蒙つているといわなければならず、同被控訴人
は控訴人らに対し右損害を賠償すべき義務がある。しこらして、本件建物の賃料
が、昭和三六年より昭和三八年まで一箇月金三、五〇〇円、昭和三九年より昭和四
一年までは一箇月金四、二〇〇円、昭和四二年以降は一箇月金五、一〇〇円と認定
すべきであること控訴人らの被控訴人Aに対する請求についての判断において説示
(前記一の(五))するとおりであるから、被控訴人Dは、控訴人Cに対し金四万
一、四三五円(昭和三六年九月一〇日より昭和三八年八月三一日まで一箇月金一、
七五〇円の割合、)(1,750円×23)十(1,750円×21/31)円未
満切捨)及びこれに対する昭和三八年九月一日以降完済に至るまで民法所定の年五
分の割合による遅延損害金を、控訴人Bに対し同日以降同年一二月末日までは一箇
月金一、七五〇円の、昭和三九年一月一日より昭和四一年一二月末日までは一箇月
金二、一〇〇円の、昭和四二年一月一日より本件建物明渡済に至るまでは一箇月金
二、五五〇円の各割合による金員を支払うべき義務がある。
 (七) 右によれば、控訴人らの被控訴人Dに対する請求は、同被控訴人に対
し、控訴人Cにおいて前記金員の支払義務の履行を求め、控訴人Bにおいて本件建
物の明渡義務及び前記金員の支払義務の履行を求める各範囲で正当として認容すべ
きも、その余は失当として棄却すべきである。
 三、 次に、被控訴人Aの控訴人らに対する反訴について判断する。
 当裁判所も同被控訴人の請求は失当として棄却すべきものと考える。その理由
は、原判決理由の第二反訴についての判断に説示するとおりであるから、これを引
用する。
 四、 よつて、原判決中控訴人らの被控訴人らに対する請求に関する部分は前記
と一部趣旨を異にし、これを維持できないからこれを主文二のとおり変更すること
とし、原判決中被控訴人Aの控訴人らに対する反訴に関する部分は正当であつて同
被控訴人の本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につ
き民事訴訟法第九六条、第九二条、第九三条、第八九条を適用し、仮執行の宣言に
つき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 布谷憲治 裁判官 福田健次 裁判官 杉田寛)
別紙
       目  録
 岐阜市d町e番地
 家屋番号同所○×番
 木造瓦葺平屋建居宅 建坪七坪五合(二四・七九平方米)

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