弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人久保田畯の上告理由一乃至四及び九について。
 自創法による農地買収において、買収計画で定められる「買収の時期」があらか
じめ、買収令書交付の日以後になるように定められることは望ましいことではある
けれども、右「買収の時期」より遅れて買収令書の交付せられることのあることは
法の予想するところであること所論のとおりであつて、「買収の時期」より遅れて
買収令書が交付されたからといつて、それだけで所論のようにただちに右買収処分
をもつて違法のものとするいわれはない。
 本件において、原審の確定した事実によれば、原判決添附別紙目録記載の二、三
の土地は、不在地主たる上告人所有の小作地として、昭和二二年五月二三日右土地
につき「買収の時期」を同年七月二日とする買収計画が樹立され、同年六月一〇日
その公告がなされ、所定の手続を経て、昭和二四年三月三一日自創法九条一項但書
に基き買収令書の交付に代えて公告が行われ、その頃「農林省のため所有権取得登
記ありたるものと看做された登記」がなされ、次いで右土地は被上告人Bに売り渡
され、同人のため、前記二の土地については昭和二五年二月一八日、前記三の土地
については同年五月九日、それぞれ、「昭和二二年七月二日自創法十六条の規定に
よる売渡による所有権取得登記」がなされ、その後さらに、昭和三二年三月二三日
附神ろ第二五五一号買収令書(買収の時期を昭和二二年七月二日とする)が同月二
四日上告人に交付され現在に至つているというのである。右事実によれば、「買収
令書の交付に代えてした公告」はその当時遅怠なく行われ、これが有効であるとの
前提の下に、買収計画において定められた「買収の時期」に本件土地の所有権が国
に移転し、次いで前示の経過で国からさらに被上告人に移転したものとして取り扱
われ、その後被上告人神奈川県知事があらためて昭和三二年三月二三日附買収令書
を翌二四日上告人に交付するに至るまで、右状態のまた経過したものであることは
明らかである。そして、本件買収令書は所論のように「買取の時期」から一〇年を
経過した後に上告人に交付されたとしても、右は右述の事実関係を前提として、当
時遅怠なくなされた「買収令書の交付に代えてした公告」に瑕疵があつたがため、
これを補正し、法律関係を安定する趣旨においてなされたものであることは原判文
上明らかであるから、すでに昭和三二年三月二三日附買収令書が上告人に交付され
た以後においては、右令書の交付が一〇年経過した後になされたとの一事をもつて、
本件買収処分の効力を否定し、さらにその以前になされた一違〇手続の効力をも否
定せんとすることは相当でなく、右事実関係の下では、買収による所有権移転の効
果は、買収計画において予定し、公告された「買収の時期」に遡つて生ずるものと
解するのが相当である。なお、右事実関係の下では、初めになされた買収令書の交
付に代る公告が事後の客観的法律判断において無効とされるものであるかどうかは、
右判断に影響を及ぼすものではない。
 また本件において昭和二二年五月二三日買収計画が樹立され、同年六月一〇日そ
の公告がなされたことは原判決の確定するところであるから、前記の趣旨において
昭和三二年三月二三日附買収令書の交付が自創法の規定に従つてなされたのは、農
地法施行法二条一項一号の法意に沿う所以であつて、この点においても原判決に所
論の違法はない。
 よつて所論は、すべて採用のかぎりでない。
 同五、六、七について。
前述のように、本件の事実関後の下では昭和三二年三月二三日附買収令書が交付さ
れた以後においては、遡つて「買収の時期」に買収目的地の所有権が国に移転した
こととなり、従つて国から売渡相手方への売渡処分も遡つて有効化されたものと解
すべきであるから、現在においては、登記は権利関係の現状に符合するのみならず、
その変動の経路にも符合することとなり、これを抹消すべきいわれはないものとい
うべきである。また、登記原因が公法行為に基くものであるかどうかにより、右の
結論を異にすべき理由はない。そして買収令書り交付に代る公告は、買収令書の告
知方法の一つであり、本件においては、初めになされた買収令書の交付に代る公告
は効力を生ぜず、後の買収令書の交付により一個の有効な買収処分の存在するに至
つたものと解すべきであつて、所論のように、公告による買収処分と買収令書の交
付による買収処分とが併存するものと解すべきではない。所論引用の判例はいずれ
も右判断と矛盾するものではなく、その他所論は、右判断に反する独自の見解を前
提として原判決を攻撃するものであつて採用し得ない。
 同八、一〇について。
 所論は原審の専権に属する証拠の取捨選択を非難するものであつて、採用のかぎ
りでない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    奥   野   健   一
 裁判官河村大助は病気につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎

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