弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 原告が被告に対し雇用契約上の地位を有することを確認する。
二 被告は、原告に対し、金一四〇万七〇〇〇円及び平成四年一二月以降毎月二五
日限り月額金三九万八五〇〇円を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、被告の従業員であった原告が、被告が原告に対して行った懲戒解雇は無
効であるとして、被告に対し、原被告間の雇用契約上の地位の確認と未払給料等の
支払を求めた事案である。
一 争いのない事実、証拠により容易に認められる事実及び本件記録上明らかな事

1(一) 被告は、貨物自動車運送等を業務とする会社である(当事者間に争いが
ない。)。
(二) 原告は、昭和三八年五月一三日被告(当時の商号は日本運送株式会社)に
臨時社員として雇用された後、同年一〇月一日より正規の社員となり、以後、事務
職員として被告の営業所や支店の業務係主任等を歴任し、昭和六一年二月には伏見
店店長、昭和六三年一月一日には京都府宇治市所在の宇治店店長に就任し、平成四
年九月九日付けで懲戒解雇されるまでの間、同店長として勤務していた(当事者間
に争いがない。)。
2 被告の就業規則第一四二条は、懲戒解雇の基準となる事由に関する規定である
ところ、同条第四号では「故意又は重大なる過失により会社に損害を与えたと
き。」が、同条第八号では「不正な方法で会社の公金又は物品を私消し、或いは持
ち出し又は持ち出そうとしたとき、及び不正な方法で賃金を詐取し又はこれを幇助
したとき。」が、それぞれ具体的な事由として定められている(乙四号証)。
3(一) 平成四年四月から八月までの間、宇治店には、四名の正社員たる運転手
が所属していた(当事者間に争いがない。)。
(二) 右四名(A、B、C及びD、以下「Aら」という。)は、いずれも被告内
でフットワーク運転手といわれる宅配貨物を取り扱う運転手であったが、被告の賃
金規則によれば、フットワーク運転手(以下単に「運転手」という。)に対して
は、同規則所定の概略以下のような内容の点数制により、能率手当及び時間外手当
が算出され、支給されることとされている(乙五、六号証、証人Eの証言)。
(1) 能率手当
 能率手当は、基礎額、変動額及び代行額の合計によって算出される。
 このうち、変動額は、件数点、重量点、訪問点、走行点、現収点、特殊点、特殊
額及び営業加算額によって構成される。
 件数点は、運転手が荷物の配達作業や集荷作業に従事した場合に加算される点数
である。配達作業に従事した場合には、配達した荷物の個数や配達先の軒数のいか
んにかかわらず、配達原票の枚数を基準として、一枚当たり一・二点が加算され
る。また、集荷作業に従事した場合には、出荷のあった荷主軒数(以下「集荷軒
数」という。)一軒当たり一点が加算されるが、集荷軒数一軒につき集荷原票の枚
数が二枚以上であるときには、その二枚以上の分について、一枚につき〇・一点
が、集荷軒数一軒当たりの加算限度額である七点を限度として、加算される。
 重量点は、実際の荷物の重量のいかんにかかわらず、配達枚数と集荷枚数との合
計数につき、一枚当たり一五キログラムを乗じて得られる計算上の重量を算出し、
その重量を、一トン当たり四・一五点に換算して算出する。また、複数の運転手が
乗務して作業を行った場合には、総扱重量を人数で除して得られる一名当たりの重
量を、計算対象重量とする。
 訪問点は、運転手が配達及び集荷作業で荷主を訪問したが留守等のためその作業
ができなかった、いわゆる空振の場合において、空振一軒先〇・三点が加算され
る。
 現収点は、運転手が様々な場面で現金の収受を行った場合に加算される点数であ
り、その集金額やそれに係る荷物の個数等にかかわらず、集金を行った軒数一軒当
たり二点とする。
 以上のような各点数を合計して得られる能率点につき、一点当たり一一・六円に
換算し、さらに特殊額、営業加算額及び代引額を加えることによって、変動額が算
出される。
(2) 時間外手当
 時間外手当は、時間外手当①の額と時間外手当②の額とを比較して、高い方の額
を支給する。
 時間外手当①は、被告の賃金規則の規定に従い、超過勤務を行った時間に応じて
算出される。
 時間外手当②は、能率手当の算定に係る件数点、重量点及び特殊点のほか、時間
点及び店所標準点によって構成され、所定の計算式によって算出される。その計算
方法は、月間の件数点、重量点、特殊点、時間点の合計点数から、運転手の各所属
店について店ごとに定められている標準点ランクによる店所標準点に当該月の出勤
日数を乗じて得られる数を差し引いて月間超過点を算出したうえ、これに超過点単
価を乗じて算出する。
 超過点単価は、月間超過点に応じて、三段階に区分して定められており、月間超
過点が二〇〇〇・一点以上の場合は単価三〇円、一〇〇〇・一以上二〇〇〇・〇点
以下の場合は単価四五円、一〇〇〇・一以下の場合は単価五七円とされている。
(三) 宇治店においては、平成四年四月以降、Aら全員が、次のように配達枚数
の過当計上等を行い、それによって前記各点数を水増しし、能率手当及び時間外手
当を不正に受給していた((1)による不正受給については〈乙六、七、八号証、
九号証の一から三まで、証人Eの証言〉、(2)による不正受給については当事者
間に争いがない。以下これらを総称して「本件不正受給」という。)。
(1)ア 物販チラシの配付枚数を配達枚数として計上していた。
イ 未収集金を行った場合、現収軒数として一軒計上するのみならず、配達枚数と
しても一〇枚を計上していた。
ウ ア及びイの不正計上の結果、重量点の計算対象重量についても、過当計上とな
った。
(2)ア 商流荷物の配達の場合、配達原票の枚数を集荷枚数として計上すべきで
あるのに、集荷した荷物の個数を集荷枚数として計上していた。
イ 集荷軒数一軒につき集荷原票枚数が七一枚以上の場合、日報において、七〇枚
以下の場合とは区別して別の所定欄に記入するものとされているにもかかわらず、
七〇枚以下の欄に記入し、七一枚を超える枚数についても、すべて点数加算の対象
としていた。
ウ 空振の場合、訪問軒数としてのみ計上すべきであるのに、訪問軒数として計上
したうえ、集荷軒数としても計上していた。
エ アからウまでの不正計上の結果、重量点の計算対象重量についても、過当計上
となった。
オ 複数の運転手が乗務して作業を行った場合、総扱重量を人数で除して得られる
一名当たりの重量ではなく、総扱重量そのものを各運転手の重量点の計算対象重量
としていた。
(四) 運転手については、各運転手ごとにフットワーク作業実績表(月報)(以
下「月報」という。)が毎月作成され、配達枚数、集荷枚数等の記載がされるとこ
ろ、平成四年八月、宇治店から月報の報告を受けている被告の京滋支店が、Aらの
月報に記載されている配達枚数及び集荷枚数が異常に多いことに気づき、被告にお
いて原告及びAらから事情聴取をするとともに、資料の調査を行ったところ、本件
不正受給の事実が判明し、原告及びAらもそれらの事実の存在を認めた(乙六号
証、九号証の三、証人Eの証言、原告本人尋問の結果)。
(五) そして、B(以下「B」という。)、C(以下「C」という。)及びD
は、平成四年八月二八日付けで被告に対し、配達枚数、集荷枚数等の不当計上が宇
治店店長である原告の指示によるものであった旨の記載のある理由書を、また、原
告も、同日付けで被告に対し、本件不正受給に係る前記(三)の各事実のうち
(1)が原告の指示によるものであったこと並びに(2)が原告のAらに対する説
明不足により生じたものであることを認める旨の始末書を、それぞれ提出した(乙
第二号証、第三号証の二から四まで、証人Eの証言、原告本人尋問の結果)。
(六) 被告の賞罰委員会は、本件不正受給について審議をした結果、原告がAら
に対し配達枚数を過当に計上するよう指示し、Aらの賃金違算を放置したことによ
り、賃金過払いを発生せしめたことは、被告の就業規則第一四二条第八号に該当す
るとして、平成四年九月五日懲戒解雇が相当である旨の決定をした。
(七) 被告は、平成四年九月九日付けで、原告を、被告の就業規則第一四二条第
八号所定の事由に該当する事由があるとして、懲戒解雇に付した(当事者間に争い
がない。以下これを「本件懲戒解雇」という。)。
4(一) 原告は、宇治店店長当時、同店に学生アルバイトとして勤務していたF
(以下「F」という。)に対し、平成四年三月、五月及び六月の各月分の賃金を支
給するに当たり、Fの出勤日数を過当計上し、賃金台帳にFに対する実際の支給額
を上回る金額を記入することにより、右支給額を上回る金額をも現実にFに支給し
たかのような会計処理を行い、被告に対し、右支給額を上回る分につき、水増し請
求を行った(当事者間に争いがない。)。
(二) 右(一)の事実は、Fの住所地が所在する伏見区の区役所から同人に対
し、平成四年度の同人の現実の所得額を上回る額に基づく市・府民税の納税通知書
が送付され、Fがその旨を同区役所に及び被告に申し出たため、被告において調査
したことにより発覚したものである(乙一三、一四、一五号証、証人Eの証言)。
(三) 被告は、平成五年九月二一日付け準備書面をもって、前記(一)に係る被
告の行為が就業規則第一四二条第四号及び第八号所定の事由に該当し、右行為によ
り被告の名誉や社会的信用が失墜したとして、原告に対し、予備的に懲戒解雇を行
う旨の意思表示をし(以下これを「本件予備的懲戒解雇」という。)、原告は、同
日右準備書面を受領した(本件記録上明らかである。)。
5 被告の就業規則では、懲戒解雇の場合には退職金を支給しないものとされてい
るが、被告における退職金に係る規則により、仮に本件懲戒解雇時点で原告が任意
退職したとして原告が受けるべき退職金額を算定すると、自己都合による退職であ
れば金七一六万二七〇〇円、会社都合による退職であれば金八四一万七一〇〇円と
なる(乙四号証、証人E証言)。
6(一) 本件懲戒解雇直前の原告の給料の月額は、基本給金三七万九〇〇〇円及
び家族手当金一万九五〇〇円の合計金三九万八五〇〇円であり、前月一六日から当
月一五日までの分につき、毎月二五日に支給されていた(当事者間に争いがな
い。)。
(二) 被告においては、賞与が年二回支給されるところ、平成三年度下期実績に
照らせば、原告につき何ら懲戒の対象となる事由が存せず勤務を継続した場合、原
告が平成四年一二月一〇日に同年度下期の賞与として支給を受けたであろう金額
は、約六一万円である(当事者間に争いがない。)。
(三) 被告は、本件懲戒解雇が有効であるとして、原告に対し、平成四年一〇月
分以降の給料及び同年度下期の賞与の支払をしない(当事者間に争いがない。)。
二 争点
1 原告の主張は、次のとおりである。
(一) 本件懲戒解雇は、以下の理由から無効である。
(1) 原告には、懲戒解雇事由に該当する事実がない。
 前記一3(三)(1)の事実につき、原告がAらに対して配達枚数の過当計上を
指示した事実も、故意に放任していた事実もない。なお、原告が作成し、被告に提
出した始末書(乙二号証、以下「本件始末書」という。)は、被告による示唆と指
示により、原告が、自身が解雇されるなどの重大な問題には至らないとの確信に基
づき、あえて原告一人が全責任を被る形で事態の収拾を図ることを了承して作成し
たものであり、その記載内容は、事実とは異なる。
 原告は、本件不正受給につき、それが被告に判明した平成四年八月まで、一切認
識していなかったものであり、原告には、宇治店店長として、従業員であるAらに
よる配達枚数の過当計上等を発見、防止できなかったことについての監督上の過失
があるにとどまる。被告の就業規則第一四二条第八号にいう「幇助」は、幇助者の
故意を要件とすると解すべきであるが、原告にはその故意が存しなかった。
(2) 本件懲戒解雇は、不公正な手続により行われたものである。
ア 被告は、本件懲戒解雇について、労働基準法第二〇条第三項及び被告の就業規
則第一四〇条第七項が要求する「行政官庁の認定」を受けていない。
イ 被告における賞罰委員会は、原告が平成四年八月二八日付けで本件始末書を提
出した後、一回ないし二回の会合をもったのみで、同年九月五日には原告の懲戒解
雇を決定しているが、右委員会の構成員は被告の本社役員のみであり、慎重な実質
的審理がされた形跡はなく、また、事前に原告本人に弁明の機会も与えられていな
い。
(3) 次のような事情に照らせば、原告に対する懲戒解雇は過酷に失し、本件懲
戒解雇には合理性がない。
ア 原告は、本件不正受給に関し、全く利得を得ていない。
イ 本件不正受給により、被告に発生した損害金合計金一六四万〇〇四〇円につい
ては、被告は、既にAらから全額回収済みである。
ウ 被告は、本件不正受給に関し、Aらに対しては何らの軽微な処分も行っていな
い。
エ 原告が宇治店店長であった当時、同店には、店長を補佐する中間管理職が置か
れておらず、店長が一人で営業、経理、労務管理、対外的な苦情処理等の一切を処
理するという経営体制がとられており、原告は、過重な労働と責任を負わされてい
た。加えて、平成四年五月から八月までの間には、運転手の欠員に伴い、原告自ら
が週二、三回の割合で運転手としての業務にも従事せざるを得ない状態であった。
オ 原告は、宇治店店長に在任中、得意先の維持等のため、贈答品代として、約金
八〇万円を自費で負担しているほか、暴力団絡みの示談処理のため、少なくとも約
金六〇万円を自ら支払い、解決を図っている。
カ 本件懲戒解雇の結果、原告は、前記金額の退職金支払請求権を失うこととなっ
た。
(二) 本件予備的懲戒解雇も、次のような事情等に照らせば、著しく不合理であ
り、無効である。
(1) 前記一4(一)の事実により、原告が被告に対して行った水増し請求の総
額は、金四〇万円から金五〇万円にとどまる。
(2) 右水増し請求の目的は、原告自身の利得のためではなく、Fが宇治店での
アルバイト中に起こした事故の賠償金及び車両の修理代金に流用し、事故の責任か
らFをかばうとともに、事故に関する紛争の早期解決を図るなどのためであって、
被告には、右水増し請求によって何ら実損は発生していない。
(3) 被告は、原告に対し、右水増し請求よりもはるかに重大な違法行為であ
る、架空の事故報告書に基づく保険金詐取への加担を強要していた。
(三) よって、原告は、被告に対し、雇用契約上の地位の確認を求めるととも
に、平成四年一〇月及び一一月分の給料並びに同年度下期の賞与相当額合計金一四
〇万七〇〇〇円の支払と、平成一二月分以降の給料月額金三九万八五〇〇円の支払
を求める。
2 被告の主張は、次のとおりである。
(一) 本件懲戒解雇について
 原告の被告における職歴、宇治店店長としての勤務年数や職務の内容等に照らせ
ば、原告が本件不正受給に係る事実を認識していたことは明らかである。
 また、本件不正受給の過当計上や賃金違算の項目が多岐にわたっていること、そ
の金額が総額についても、運転手一人当たりについても極めて多額であること、そ
の期間が長期にわたっていること、会社秩序に対する侵害の重大性等を考慮すれ
ば、本件懲戒解雇には合理性がある。なお、被告は、本件不正受給に関し、Aらか
ら合計金一六四万〇〇四〇円の返還を受けているが、右金額は、宇治店に保管され
ていた書類上確定し得た不正受給額であるにとどまり、右金額の返還によって被告
の損害が全額賠償されたわけではない。
(二) 本件予備的懲戒解雇について
 原告は、本件予備的懲戒解雇に係る水増し請求に類する不正行為を、以前から常
習的に行っていた。また、所定の手続に従わない事故処理による企業秩序の紊乱、
被告に対する社会的評価の低下、さらには営業展開の必要上広範な権限が与えられ
ている店長による不正行為が被告の業務体制に与える影響の大きさを考慮すると、
本件懲戒解雇には合理性がある。
第三 争点に対する判断
一 本件懲戒解雇に係る懲戒解雇事由の存否について
 (乙二号証、三号証の一から四まで、六、一一、一二、二一号証、証人Eの証
言)によれば、本件不正受給に係る各事実のうち、前記第二の一3(三)(1)に
ついては原告の指示によってAらがこれを行い、同(2)についてはAらの行為を
原告が知りながらあえて放置していたものと認めることができ、本件不正受給に係
るこれらの原告の行為は、被告の就業規則第一四二条第八号所定の懲戒解雇事由に
該当するものと認めるのが相当である。
 原告は、本件始末書(乙二号証)の記載内容は事実と異なる旨主張し、原告本人
尋問の結果及び(甲八号証の1証拠略)の中には、右主張に沿う部分もあるが、本
件始末書の作成経緯に関する原告の供述ないし記載内容ははなはだ曖昧で、原告の
主張どおりの事実関係であるとすればなぜ事実に反する記載を原告が行う必要があ
ったのか、それは誰の意向によるもので、いつ誰からその具体的指示を受けたの
か、どのようにして始末書の文案が確定したのか等の点について、ほとんど合理的
な内容の説明がされておらず、原告の右供述ないし記載部分を採用することはでき
ない。なお、原告は、右主張の証左の一つとして、C及びBが平成四年八月二八日
付けで被告に提出した前記各理由書に、同人らの名義で平成五年二月付けで「上記
店長指示の指示と記載致しましたが真実でない為削除下さい申し訳けありません」
との記載がそれぞれ追加された書面(甲一、二号証)を提出するが、両書面とも、
それぞれ追加された記載文言が右のとおり明らかに誤りと思われる部分まで一字一
句異ならないことからみて、いずれも元となった同一の文書が書き写されたものと
推認され、その記載の信用性には疑いを差し挟まざるを得ず、前掲各証拠に照らす
と、ただちに採用することはできない。
 また、原告は、本件不正受給が被告に判明した平成四年八月まで、その事実を一
切認識していなかった旨主張し、本人尋問の結果中には、右主張に沿う供述部分も
ある。しかしながら、前記のとおり、原告は約三〇年間も被告に在職し、特に宇治
店店長としての在任期間が四年半以上であったこと、宇治店に所属していた運転手
全員がいずれも同様の方法をもって本件不正受給を行っていたことが認められるこ
とに加え、(甲四号証、乙六、七、八号証、九号証の一から三まで、一〇号証の一
から四まで証人Eの証言、)及び原告本人尋問の結果により、Aらによる配達枚数
及び集荷枚数の過当計上は本来の枚数の二倍ないし三倍にも及んでおり、賃金の不
正受給額も平成四年七月には約九万七〇〇〇円、同年八月には約一四万円に及んで
いたこと、原告は宇治店店長として同店の営業、経理、労務管理等の一切を一人で
担当し、運転手らが毎日作成し、提出する作業日報等に基づき、自ら月報を作成す
る作業を行っており、その作業に際して各運転手に係る毎日の配達枚数等の数字に
接し、その多寡を把握し得る立場にあったこと等の事実が認められることをも考え
合わせると、本件不正受給に係る各事実を一切認識していなかった旨の原告の供述
部分は、にわかに採用することができない。
二 本件懲戒解雇の手続について
1 原告は、本件懲戒解雇の手続上の瑕疵として、被告が「行政官庁の認定」を受
けていない点を指摘するところ、確かに、弁論の全趣旨によれば、本件懲戒解雇に
当たり、被告が労働基準法第二〇条第三項の「行政官庁の認定」を受けていないこ
とが認められる。しかしらながら、同項については、「行政官庁の認定」を得るこ
とを即時解雇の有効要件とする趣旨の規定ではなく、「行政官庁の認定」の有無
は、懲戒解雇の効力には影響を及ぼさないものと解すべきであるし、また、(乙四
号証)によれば、被告の就業規則には、「懲戒解雇は原則として行政官庁の認定を
うけ、予告せず解雇……する。」との定めがあることが認められるものの、その文
言に照らせば、右の定めは、懲戒解雇の効力を「行政官庁の認定」の有無に係らし
めることにより、被告の懲戒解雇権の行使に自律的制限を加える趣旨のものではな
く、単に労働基準法第二〇条第三項の規定の趣旨を引き写したにすぎないものと解
するのが相当である。
 よって、この点に関する原告の主張には理由がない。
2 また、原告は、被告における賞罰委員会が慎重な実質的審理をせず、事前に原
告本人に弁明の機会を与えないまま、本件懲戒解雇を決定したなどとして、その手
続が不公正であると主張するが、本件全証拠に照らしても、賞罰委員会が右決定を
するに至るについて、被告の就業規則等に定められた手続を欠いたことを認めるこ
とはできず、また、賞罰委員会の構成員の顔触れ、本件始末書の提出から賞罰委員
会の右決定までの日数やその間の賞罰委員会の会合の開催数、原告に事前の弁明の
機会が与えられなかったことなど、原告の主張に係る事実を総合しても、本件懲戒
解雇について、それを無効ならしめる程度に重大な手続上の瑕疵があるとみること
はできない。
 よって、この点に関する原告の主張にも理由がない。
三 本件懲戒解雇に係る合理性の有無について
 弁論の全趣旨によれば、被告は、いわゆる宅配貨物の取扱業務等を行う必要上、
ミニ店と呼ばれる宇治店と同規模で、同店と同様の管理体制をとる小店補を多数展
開していることが認められるところ、Aら宇治店所属の運転手四名全員が常習的に
多岐にわたる方法で配達枚数等の不正計上を行っていたこと、Aらがそのような方
法により賃金の不正受給を行うことを同店の店長である原告が指示し、又は知りな
がらあえて放置したことなど、前記認定の本件不正受給の態様及びそれに対する原
告の関与の態様に照らせば、それが被告の会社秩序、業務体制に与えた影響は相当
大きいものといわざるを得ず、原告が主張する各事情を最大限参酌しても、本件不
正受給に関し、原告を懲戒解雇にすることには合理性があるものと評価せざるを得
ない。
四 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由
がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

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