弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各控訴をいずれも棄却する
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第1控訴の趣旨
1原判決主文第2項及び第3項を取り消す。
2主位的請求
内閣総理大臣が昭和63年8月10日付けでP1株式会社に対してしたP2
ウラン濃縮工場核燃料物質加工事業許可処分が無効であることを確認する。
3予備的請求
内閣総理大臣が昭和63年8月10日付けでP1株式会社に対してしたP2
ウラン濃縮工場核燃料物質加工事業許可処分を取り消す。
4訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,P1株式会社が,青森県上北郡α1内にウラン濃縮工場(以下「本
件施設」という)を建設するためにした核原料物質,核燃料物質及び原子炉。
の規制に関する法律(特に明記しない限り昭和63年法律第69号による改正
前のもの。以下「規制法」という)13条に基づく核燃料物質の加工事業許。
可申請(以下「本件許可申請」という)に対して内閣総理大臣が昭和63年。
8月10日付けでした加工事業許可処分(以下「本件許可処分」という)に。
ついて,全国各地に居住する控訴人ら77名を含む172名が,内閣総理大臣
に対して,主位的には,ウラン濃縮事業が加工事業に該当しないことや核燃料
施設の設置が憲法13条等に違反することなどを理由に上記処分の無効確認を
求め,予備的には,P1が規制法14条1項2号の経理的基礎・技術的基礎を
欠いていることや本件施設が基本的立地条件又は施設自体において規制法14
条1項3号の許可の基準に適合しないことなどを理由に上記処分の取消しを求
めて,行政訴訟を提起した事案である。
ウランには,ウラン238,ウラン235,ウラン234の3種類の同位体
があるが,天然ウランには核分裂性が高いウラン235が約0.72%しか含
まれておらず,核分裂性が極めて低いウラン238が約99.27%を占めて
いるところ,本件許可処分の対象となった加工事業とは,天然ウランを原料と
して作られたウランとフッ素の化合物である六フッ化ウランのガスを遠心分離
機にかけることにより,ウラン中のウラン235の濃度を発電用原子炉の燃料
として使用し得る程度(約2ないし4%)に濃縮する事業である。
原審においては原告適格のほかウラン濃縮が規制法13条1項にいう加,,「
工」に当たるか否か,P1のした本件許可申請が規制法14条1項2号及び3
号の許可の基準を充たしているか否かなどが争われた。
2原審は,上記172名のうち原審原告P3(当事者番号60番。当事者番号
は原判決別紙当事者目録のそれによる。以下,当事者番号については数字のみ
を示す)については,同人死亡による訴訟終了宣言をし,原告適格が認めら。
れるとした,上北郡α1内及び隣接する同郡α2内に居住する控訴人P4(5
3,同P5(64,同P6(65,同P7(66,同P8(67,同P)))))
9(69,同P10(70)及び同P11(73)ら8名並びに原審原告P)
12ら6名(52,63,68,71,72,74)の合計14名を除く15
7名については,いずれも原告適格を有しないとしてこれら157名の主位的
請求,予備的請求に係る訴えをいずれも却下し,原告適格を認めた上記14名
については,本件許可処分に無効事由及び取消事由はないとして,14名の主
位的請求及び予備的請求をいずれも棄却した。
この判決に対して,控訴人ら及び取下前控訴人のP13(74)の78名が
控訴をしたが,上記P13は,平成14年8月31日に控訴を取り下げた。
なお,原審係属中に中央省庁等改革関係法施行法(平成11年法律第160
号)により規制法が一部改正され,加工事業許可の許可権者が内閣総理大臣か
ら経済産業大臣に変更され,内閣総理大臣が行った処分は経済産業大臣が行っ
たものとみなされることとなったため,被控訴人経済産業大臣が本件訴訟を承
継した。また,P1は,平成4年7月,合併に伴って商号がP14株式会社に
変更された。
3そのほかの事案の概要は,別紙1「原判決の訂正等(前提事実等・当事者の
主張」のとおり原判決の訂正等があり,第3のとおり当審における当事者の)
(),「」主張要旨があるほかは原判決の事実及び理由欄の第一部前提事実等
(原判決3頁2行目から同38頁5行目まで)及び「第二部当事者の主張」
(原判決38頁6行目から同541頁11行目まで)に記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
なお,以下において本判決が用いる略語は,原判決が用いた略語と同一であ
る。ただし,略語を用いず正式の用語を用いる場合もある。
第3当審における当事者の主張(要旨)
1控訴人らの主張
(1)原告適格について
本件施設で処理されるウランは,人体に対し強度の放射性毒性及び化学的
毒性を有するところ,本件施設には最大で2400t(トン)を超えるウラ
ンが使用,貯蔵される。また,本件施設には同様に人体に有害なウランの崩
壊生成物も大量に存在する。被控訴人は,本件施設で取り扱われる六フッ化
ウランが不燃性であり,爆発性もない化合物であり,濃縮工程においては常
,,,,に未臨界の状態でかつ化学変化はないため安全性が高いと主張するが
P15の臨界事故からも明らかなように原子炉施設のみならず原子力施設一
般の潜在的危険性は極めて大きいものである。
控訴人らは,本件施設からの日常的な放射能の放出により生命身体等に直
,,接的かつ重大な被害を被る危険性にさらされているほか本件施設には地震
航空機事故,火災・爆発等による施設破壊の危険性があり,ひとたびこのよ
うな事態が発生すれば,その影響は広範囲にわたり,控訴人らが本件施設か
ら大量に放出される放射性物質及び放射性降下物によってその生命,身体を
侵害されるおそれがある。すなわち,本件施設で事故が発生した場合に放出
されるウランの量は,控えめに見積もって,施設全体のウランの貯蔵能力で
ある2400t余り(濃縮ウラン85t,天然ウラン510t,劣化ウラン
1810t)のうち,濃縮ウラン10tと想定される。ウランは,まずは六
フッ化ウランの形で放出され,これがフッ化ウラニルに変化するが,環境中
では更に二酸化ウランないしは八酸化三ウランに変化すると考えられる。ま
た,環境中に放出された放射性物質がどのようにして大気中に拡散され,人
体に摂取されて被曝をもたらすかは,いわゆる拡散式(粒子の大きさや天候
状態,大気安定度により左右される拡散の状況を一定の仮定の下に計算する
もの)と摂取モデルによって推定される。拡散式として,気象指針(発電「
用原子炉施設の安全解析に関する気象指針について(昭和57年1月28」
日原子力安全委員会決定)に従ってパスキルの計算式を用い,大気安定度)
をF(大気に逆転層ができ,放射性物質が上空にまで上がらず遠くにまで影
響を与える場合)と仮定し,風速を2m/s(メートル毎秒,ウランは地上)
0mからミスト状の小さな粒子となって放出拡散したとの条件で試算を行う
と,現在年間1mSv(ミリシーベルト)と定められている一般公衆の被曝限
度を超える範囲は200㎞を超え,また,被曝範囲自体は1500㎞を超え
て広がる。さらに,地震,航空機事故,火災・爆発等による施設破壊によっ
て本件施設に内蔵されるウラン全量が放出する潜在的危険性もあり,600
t相当分のウランが放出された場合には,東京都での被爆線量は0.38mSv
となり,約800㎞離れた松本市,名古屋でも0.06mSvである。なお,本
件施設は,数度の加工事業変更許可を得て,現在,内蔵されるウラン量の合
計は1万2862tに及んでいる。これらのことからすれば,ひとたび本件
施設で事故が生じた場合,控訴人らすべてが放射能による被害を受けること
は明らかである。
また,規制法14条1項2号所定の経理的基礎の趣旨は,加工施設の災害
防止を資金面から担保し,もって個々人の生命,身体等の安全を保護する趣
旨である。加工事業がその経理的基礎を欠けば,加工施設の災害防止に支障
を来し,その結果,個々人の生命,身体等の安全をも害する結果となる。な
ぜならば,安全設計に則った施設の建設から機器の設置に至る加工事業の安
全確保は,経理的基礎があって初めて実現されるものであるし,加工事業に
関わる人的資源の質的・量的確保,保安規定の遵守,施設や機器類の保守,
修繕,維持,管理等もすべて経理的基礎なくしてはあり得ないところ,事業
,,,者は採算性の確保を前提として工場の建設費運転コストを見積もるから
安全性の確保はコストの制約を受けることとなり,採算性を上げれば上げる
ほど安全性が保持できなくなるという関係にあるのであって,経理的基礎を
欠いた事業者は安全性を犠牲にして利益を追求することになるからである。
現行法上,加工事業の経理的基礎は,規制法14条1項2号においてのみ審
査の対象とされるところ,加工事業許可処分について無効確認訴訟又は取消
訴訟を提起することができる法律上保護された利益から経理的基礎を除くな
,,,,らば安全な設計さえしていればその設計に則った施設を設置し維持し
そして管理する資金力さえないような事業者に対しても加工事業許可がなさ
れることになり,そしてその場合にだれ一人として無効確認訴訟又は取消訴
訟を提起することができないという不合理な結果をもたらすことになる。
したがって,控訴人らにはすべて原告適格があるものというべきであり,
原告適格を判断するに当たっては,規制法14条1項2号の経理的基礎も勘
案して判断すべきである。
(2)ウラン濃縮と規制法13条1項の「加工」について
規制法2条6項(現行法同条7項)は「加工」とは「核燃料物質を原子,
炉に燃料として使用できる形状又は組成とするために,これを物理的又は化
学的方法により処理すること」と定義付けている。これを文字通りに読むな
らば,ウラン燃料の場合,物理的に燃料を焼き固めて形状を変える,いわゆ
る「成形加工」と化学的に酸化ウランを六フッ化ウランに組成を「転換ない
し再転換」する工程を指していることは明らかである。これに対して,ウラ
ン濃縮は「核燃料物質自体の同位体比を高める操作」というべきで「濃,,
」,「」,「」。縮は核燃料物質の形状の処理ではないし組成の処理でもない
原判決は,遠心分離法をもって「組成」についての物理的な処理であるとい
うが,このような用語の使用方法は,科学的な用語法に反するものである。
「化学」の用語として「組成」の処理とは分子的な配列を変換することであ
り,同一物質の同位体の含有比率を変えることは「組成」の処理とはいえな
い。また「加工」がその文理において「濃縮」を含まないことは明らかで,
ある。
また,文理解釈のみならず,規制法の立法者も,規制法13条1項の「加
工」にはウラン濃縮は含まれないと考えていた。すなわち,規制法の立法過
程の中で「加工」にウラン濃縮が含まれるとの説明は一切なかった。また,
ウラン濃縮はウラン製原子爆弾の,再処理はプルトニウム製原子爆弾の製造
技術の一環としてそれぞれ開発されたものであり,この両技術は,本質的に
軍事技術として国家的な統制の下に置かれ,今日においても世界的にそのよ
うな位置付けがされている。このようなウラン濃縮が仮に「加工」に含まれ
るとしたら「加工」についての規制も,再処理並みに厳しくされ,民間の,
事業者が自由に行えるような緩やかなものにはならなかったはずであり,当
時の我が国が置かれた国際的な地位からもそのような立法をすることは絶対
になかったのである。現に規制法の立法過程におけるP16政府委員の答弁
からも,ウラン濃縮は基礎研究から始めようとする段階であり,天然ウラン
の製錬と加工が事業化の段階であるとされていたのであり,ウラン濃縮とウ
ランの製錬・加工とが別個の段階にあるものとして述べられていた。また,
P16委員は,昭和32年5月8日の衆議院科学技術振興対策特別委員会に
おいて,日本の技術水準で製錬,加工,再処理がどの程度できるかとの質問
に答えて「こういう加工は,必ずしも金属会社,金属製錬会社のみに限っ,
たのではございません。むしろ化学工業に属する分野も非常に多々ございま
す。そういう関係で,相当広くこの問題を助成しておりますが,ご承知のよ
うに,日本の金属加工という点に関しましては,技術水準は世界的に見まし
ても相当高い段階になっておりますので,外国で機密資料をいただかなけれ
ば,この問題は解決できないというふうにはただいまの段階では考えており
ません」と述べているが,この答弁からも「加工」が金属加工と化学処理。
を指し,ウラン濃縮のような国家機密に属する技術を含まないことが明らか
といえる。したがって,規制法の制定当時,日本国内でウラン濃縮を事業と
して実施することは具体的に計画されていなかっただけでなく,これを実施
する場合には法律の改正を必要とするとの前提で規制法が制定されたものと
いうべきである。現にP17新聞の昭和57年5月20日付け記事(甲31
6)からも,政府も一定時期までは,上記のような見解に立ち,ウラン濃縮
の事業化には規制法の改正が必要と考えていたことがうかがわれるのであ
る。
しかるに,本件許可処分は,必要な規制法の改正が行われないまま「加,
」「」,工に当たらないウラン濃縮が加工に当たるとしてされたものであって
法律上の根拠を欠き,明らかに違法であり,無効というべきである。
(3)規制法14条1項2号の経理的基礎について
ア行訴法10条1項の趣旨
行訴法10条1項の規定は,取消訴訟も国民の権利保護に仕える主観訴
訟であるとの理念を表すために,その効果を深く考えることなく,いわば
不用意に立法された規定であって,立法者も,取消訴訟での審理対象を純
然たる私益保護条項の違反だけに厳格に限定しようとする意図は有してい
なかったというべきである。なぜなら,取消訴訟は主観訴訟ではあるけれ
ども,同時に公権力の統制にも資する客観訴訟性を併せ持っている以上,
取消訴訟での審理対象は,純然たる私益保護要件の定めだけでなく,処分
に関連するすべての規定,さらには法の一般原則などの不文法も含めて広
。,く包括的にあらゆる違法事由に及ぶというべきだからであるしたがって
行訴法10条1項の規定は,いかなる意味でも原告の利益と関係のない,
特異な違法事由の主張を排除しようとする趣旨であると解するのが相当で
ある。
そして,規制法14条1項2号所定の経理的基礎の趣旨は,加工施設の
災害防止を資金面から担保し,もって個々人の生命,身体等の安全を保護
する趣旨である。そうすると,事業者が経理的基礎を有しているか否かは
付近住民の法律上の利益に関係があるものというべきである。また,経理
,,的基礎とは資金計画だけに限られるべきものではなく広く事業の経済性
採算性をも含むと解釈すべきである。すなわち,事業の経済性,採算性と
安全性とは表裏一体の関係にあるところ,本件施設は,P14の商業用施
設であり,採算を度外視して稼働できるものではないからである。
イ本件施設の経理的基礎の欠如
(ア)アメリカ,P18社(ドイツ,イギリス,オランダの合弁会社,)
旧ソ連ないしロシア,フランスなどのウラン濃縮事業によって濃縮ウラ
ンの世界的供給過剰が恒常化する中で,P14のウラン濃縮事業が採算
ベースに乗ることは極めて困難であり,将来的にもその経理的基礎の充
実を期待することは全くできない。恒常的な赤字企業が,住民の生命,
身体に甚大な被害をもたらす危険のある事業を営むことは許されるべき
ものではない。P14の累積未処理損失金は増加を続け,平成7年3月
31日現在(第16期末)における有価証券報告書上の累積未処理損失
金は284億7900万円に達したまた平成8年3月31日時点第。,(
17期末)では,上記額は227億4300万円に減少してはいるもの
の,これは,当期中の高レベル放射性廃棄物のガラス固化体受入れによ
る収入103億1500万円が計上されたことによるものであり,この
収入を除外すれば,第17期においては,上半期だけで約92億円もの
営業損失が生じていることになる。
経済産業省の試算結果によれば海外のウラン濃縮コストはkgSWU分,(
離作業単位)当たり125ドルとされているが,これに対して,国内の
ウラン濃縮コストはkgSWU当たり2万3000円とされており,両者の
。,,間には実に2倍弱程度のコスト差があるそして本件施設においては
7系列工程中3系列の濃縮工程が平成12年以降濃縮率の低下に伴い徐
々に停止されるなど停止台数が増えており,今後も生産量が減少してい
くことが予想され,本件施設のウラン濃縮事業が飛躍的に経済効率を上
げることは考え難く,財政基盤の弱いP14の経営を圧迫している。
また,P1と電力会社9社,P19株式会社との間で結ばれた「低レ
ベル廃棄物の埋設事業における発生費用の負担に関する文書では埋」,「
。」,,設事業における発生費用を負担するとされP14と電力会社9社
P19との間で結ばれた「高レベルの廃棄物管理事業における発生費用
の負担に関する文書」では「廃棄物の最終的な処分がされるまでの間,
当該事業において発生する費用を負担する」とされているなどP14。
の負担を軽減させる契約がされているのに対し,本件施設では上記のよ
うな文書はないので,上記のような文書は取り交わされていないと考え
られるところ,ここにおいてもP14の経理的基礎の不安定さが裏付け
られる。
ウラン濃縮役務供給契約の実際をみると,濃縮ウランは,少なくとも
平成12年過ぎまでは海外との長期契約によって確保されていた。すな
わち,原子力委員会は,原子力白書(平成2年版)において「米国から
,()現在約3000tSWU/年の供給を受けており2000年平成12年
頃には約4000tSWU/年,また国際合弁企業P20社及びP21社か
ら,2000年まで合計約1600tSWU/年の供給契約を有しているこ
と,世界の濃縮役務の需給バランスは緩和傾向にあり,米国エネルギー
(),省DOEと欧州の濃縮事業者は激しい価格競争を展開するとともに
一層の低廉化を目指してレーザー法等の技術開発を進めている」と述。
べている。この白書では,ウラン濃縮役務の供給量を最小値で表現して
いるが,実際はDOEから年間約3000ないし6000tSWUの輸入
が可能とされている。そして,総出力3000万kW(キロワット)程度
の原発を稼動するには,年間約3000ないし4000tSWUで十分で
あり,DOEの供給量にフランスその他からの供給量を加算すれば,平
成12年過ぎまで濃縮ウランの供給に何ら支障を来すことはなかった。
一方,本件施設が目標とする生産規模は最大でも1500tSWU/年であ
るが,これは100万KW級原子力発電所での取替燃料の11.5基分を
賄うだけであり,結局のところは濃縮ウラン燃料のほとんどを外国から
の輸入に頼らざるを得ない。そして,電力自由化が進んでいく中でP1
4の高額なウランを買い続ける電力会社があるかは疑問である。P14
の総株式の20%を有するP22でさえ,ロシアから濃縮ウランを購入
する契約をしているのである。
そして,原子力関係の専門誌による平成元年ないし平成2年ころにお
ける平成12年までのウラン濃縮役務に関する需給予測では,圧倒的な
買手市場が予想されており,我が国が独自にウラン濃縮を行う必要性は
全くなかったのである。また,最近のウラン濃縮役務価格をめぐる情勢
は,自国の軍事分野における需要が減少し,原発の閉鎖も相次ぎ需要の
伸びも計画を大きく下回っている旧ソ連ないしはロシアの濃縮ウランの
叩き売り等の影響もあって,濃縮ウラン供給能力過剰現象が予測をもは
るかに超えた水準で進行しつつあり,近時の世界市場におけるウラン濃
縮役務価格に関する今後の長期的見通しは価格の下落を示唆している。
したがって,各電力会社は,必要とあれば,短期契約と長期契約とを問
わず,任意の量の濃縮ウランを任意の価格で調達可能な状況にある。
IAEA(国際原子力機関)によると,平成6年現在のウラン濃縮設
備容量の合計は約4万5000tSWU/年であり,一方,同年の需要は約
3万tであり,供給能力が需要を大幅に上回っている。また,IAEA
イヤーブック(96年版)によると,世界のウラン濃縮施設は依然とし
て需要を約30%余り上回っていること,ロシアの核弾頭用高濃縮ウラ
ンが濃縮度4.4%の低濃縮ウランに転換されて,今後約20年間にわ
たって米国に大量に輸出されることが明らかとなっている。経済産業省
の認識でも,ウラン濃縮役務については中期的に供給過剰状態であると
されている。したがって,平成8年現在の我が国の原子炉50基の総出
力約4135万KWを稼働するに必要な約4000ないし5000tSWU/
年の確保には国内でウラン濃縮を行わなくても何ら支障がない。
(イ)遠心分離法によるウラン濃縮技術の破綻
昭和63年8月1日付けの「原子力委員会ウラン濃縮懇談会新素材高
性能遠心分離機技術開発検討ワーキング・グループ中間報告書」は,世
界的なウラン濃縮役務の供給能力の過剰及び急激な円高の進行に対応し
た我が国のウラン濃縮事業の経済性向上を訴える一方で,本件施設で採
用された遠心分離法については,技術的に見て完成の域に達したもので
あり,将来的にこれ以上の飛躍的な技術的進歩を期待し難く,回転胴に
高価な素材を用いていることからコストダウンにも限界があるとしてい
た。遠心分離法は,米国が条件の困難性から断念をした技術であり,国
と動燃事業団の過去20年間にわたる遠心分離法の開発は,今や経済的
には全く意味を失っている。
そして,平成4年3月に最初に操業を開始した本件施設のRE−1A
系列は,4244台の遠心分離機が停止したため,10年間メンテナン
スフリーで稼働する予定であったにもかかわらず,平成12年に8年間
で操業を中止した。濃縮比の少ないものならば製造し得るということか
ら,廃棄措置は取られていないが,再操業の見込みはなく,また,新規
導入予定の濃縮比の高い新型機の開発も断念され,平成12年,今後は
次々世代の新型機の開発に取り組むとされているが,その開発の見込み
も期待できない。
こうした中で,現在,レーザー法や化学交換法といった経済性におい
て遠心分離法よりも格段に優れたウラン濃縮技術について研究開発が進
められており,これらの新技術が世界の主流となっていくことが予想さ
れる。
ウまとめ
以上のとおり,本件施設での遠心分離法による濃縮ウランの製造は,全
,,く経済性がなく本件施設の経理的基礎の欠如は明らかというべきであり
本件許可処分にはこの点の判断を誤った瑕疵があるというべきである。
(4)行政審査資料(一次資料)の不提出について
ア行政審査資料について
原審で控訴人らが申し立てた文書送付嘱託に基づいて被控訴人が任意に
提出した本件安全審査(内閣総理大臣及び原子力安全委員会が規制法14
条1項3号の要件適合性についてした審査)に関する資料は,原子力安全
委員会,核燃料安全専門審査会(以下「燃安審」という,同審査会第。)
23部会(以下「第23部会」という)での審査(以下「安全審査」と。
いう)に供された資料(以下「安全審査資料」という)のみであり,。。
行政庁での審査(以下「行政庁審査」という。原判決で「一次審査」とし
ているもの)に供された資料(以下「行政審査資料」という)は提出。。
されなかった。行政庁審査は,所轄行政庁が個別に委嘱する安全技術顧問
の意見を聴きながら行われるものであり,原子力安全委員会,燃安審にお
ける安全審査と共に実質的審査であり,昭和62年5月26日に本件許可
申請書が内閣総理大臣に提出されてから同年12月16日に内閣総理大臣
から原子力安全委員会に諮問されるまでの間に行われた。
イ行政審査資料の存在
次の点から見て,本件施設の行政審査資料は現在も存在していることが
確実である。
(ア)平成13年春青森地方裁判所平成○年(行ウ)第○号○請求事件以,(
下「低レベル事件」という)及び同裁判所平成○年(行ウ)第○号○請。
求事件(以下「高レベル事件」という)において,被控訴人から,省。
庁再編による旧科学技術庁の移転作業中に発見されたとして,5㎝厚フ
ァイル18冊にも及ぶ低レベル廃棄物埋設施設及び高レベル廃棄物貯蔵
。,施設に関する行政審査資料が文書送付嘱託に応じて提出されたそして
高レベル廃棄物貯蔵施設の行政審査資料の中には再処理施設と共通する
と思われる資料も存在していた。そうすると,もし本件施設の行政審査
資料がないとするならば,核燃料サイクルの4施設のうち,本件施設の
行政審査資料だけが現存していないということになるが,旧科学技術庁
の原子力関係部局という同一部局の中でこのような取扱いの差が生じる
はずはない。
(イ)被控訴人は,当初,安全審査資料は存在しないとし,次に,平成5
年3月1日付けで原子力安全委員会の本会議に提出された資料のみを提
出した上で,同月12日の原審第15回口頭弁論期日においてはそれ以
外の資料はないとしていたものの,同年11月26日付けで第23部会
の審査に供された資料を追加提出してきている。
(ウ)被控訴人の行政審査資料の存在に関する弁明は微妙に相違してい
る。すなわち,被控訴人は,行政庁審査の議事録は「存在しない」と。
断言する一方で,議事録以外の資料については「文書送付嘱託当時整,
理された形で保存されていなかった」とか「旧科学技術庁から経済。,
産業省に移管された文書の中からは発見されていない」などと表現を。
使い分けている。要するに,議事録は「存在しない」が,資料は「存。
在しないとは言えない」ということであり,本件施設の行政審査資料。
は被控訴人が現在も保有している。
ウ行政審査資料の重要性
被控訴人が原審で本件安全審査の適法性を立証するとして申請し,証人
(,,),(,尋問が実施された3名P23P24P25のうち2名P24
P25)は行政庁審査に関係した人物である。そして,被控訴人が本件許
可処分の適法性を主張,立証するため行政庁審査に関係した人物を証人と
したことからみても,行政庁審査で検討される資料は高い証拠価値を持っ
ており,行政審査資料を除外して本件許可処分の適否を判断することはで
きないというべきである。例えば,再処理施設に関する行政審査資料の中
には,本件安全審査で想定された航空機事故の衝突速度(150m/s)が現実
に起こりうる衝突速度(215m/s∼340m/s)から見て過小評価であることが
認識されたこと,しかし,そのような想定をすると設計の見直しで時間が
かかりコストも増加すること,また,再処理施設の安全審査において衝突
速度を現実にあり得る衝突速度にすれば本件安全審査で150m/sを想定
して審査したことが不合理であったことが露見してしまって社会問題とな
ること,したがって,再処理施設の安全審査においても,本件安全審査に
合わせた衝突速度とするよう決定したことなどを明らかにする資料が存在
していた。そして,再処理施設の航空機墜落事故の想定でこのような画策
がなされたのに,本件施設の行政庁審査では同様な画策が行われなかった
とは考え難く,行政審査資料中には本件許可処分の違法性を立証する資料
が含まれていると推認される。
エ不提出の効果
以上のとおり,行政審査資料を被控訴人が保有していることは合理的に
推認でき,その証拠価値は高いものであるにもかかわらず,被控訴人が行
政審査資料を開示,提出しないということは,被控訴人がその立証責任を
懈怠しているということである。
伊方最高裁判決は「被告行政庁の側において,まず,その依拠した前,
記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等,被告行政庁の判断
に不合理な点のないことを相当の根拠,資料に基づき主張,立証する必要
があり,被告行政庁が右主張,立証を尽さない場合には,被告行政庁がし
た右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきであ
る」と判示している。行政審査資料もまた司法判断の対象としての「具。
体的審査基準」と「調査審議及び判断の過程」の合理性を証するための訴
訟資料であって,被控訴人があえて行政審査資料を開示,提出しないこと
は,被控訴人がその立証責任を懈怠しているということであり,本件許可
処分を適法とした被控訴人の判断に不合理な点があることが事実上推認さ
れる関係にある場合であるというべきであるから,本件許可処分はそのこ
とのみで違法というべきである。
(5)本件施設の危険性その1(地震による危険)について
ア活断層の評価
(ア)活断層について
地質学では,活断層は「第四紀に活動したことがあるとみなされる,
断層」を指す。しかし,第四紀の始期は,約100万年前とも約60万
年前ともいわれ,国によって,また,研究者によって見解が異なってい
る。1961年ころから,第四紀の始期は約180万年前ないし約16
0万年前とする見解が支配的になり,国立天文台編「理科年表」は,平
成9年版から第四紀の始期を165万年前としている。
したがって,活断層とは「第四紀,すなわち,約165万年前から,
現在までの間に活動したことがあるとみなされる断層」を指すものとな
る「新編日本の活断層」も「一般に,最近の地質時代にくりかえし,。,
将来も活動することが推定される断層を,活断層という。活断層という
言葉から受ける第一印象では,動きつつある断層であると考えられがち
であるが,たとえば毎年動いている断層は,日本では知られていない。
したがって,活断層とはいつか再び動くであろうと判断されるものを呼
ぶのであって,現実に活動しつつあるわけではない。その判断の目安に
なる第一のことは,近い過去に活動したかどうかである。近い過去とは
一口にいっても,それを何万年前まで遡らせるべきであるかは,研究者
によって多少の相違がある。約50万年前,約100万年前などの意見
もあるが,本書では,地質年代の区切りである第四紀,つまり約200
万年前から現在までの間に,動いたとみなされる断層を,活断層として
扱った」と定義付けてほぼ同様の見解をとり「耐震設計教本」も同。,
様の見解に立っている。
(イ)調査の必要性
加工施設指針は,ウラン加工施設について敷地及びその周辺地域にお
ける過去の記録及び現地調査によって最も適切と考えられる地震力を判
断するという方法を定めている。しかしながら,今日の地震学において
は,過去の地震記録ではたかだか1000年程度しかさかのぼれないた
め,その地域に最大規模でどの程度の地震が発生し得るかを判断する上
では,活断層の評価が決定的に重要であるとされている。内陸直下型地
震の大部分は,大陸プレートの内部に存在する活断層の再活動によって
引き起こされるものであり,内陸直下型地震の震央の地下には活断層が
存在しているものと考えることができるとともに,活断層が存在する場
所は,将来,内陸直下型地震が発生する危険性を常にはらんでいること
。,,になるしたがって本件施設が地震災害防止上支障がないかどうかは
本件敷地周辺において最大でどの程度の地震動が起こり得るのかという
ことを付近の活断層を調査することによって判定することが不可欠であ
り,その調査結果によって判明した地震動に対応した耐震設計が本件施
設になされているかどうかを検討しなければならない。
(ウ)地表の断層の長さと地震規模
地表に長い活断層が現れている地点は,明らかに大規模な地震が発生
する可能性のある地点であって危険であるが,地表に断層が現れていな
くても,あるいは,現れている部分が短くても大規模な地震が発生する
可能性は決して否定できない。例えば,石橋克彦教授は「重要なこと,
は,ほとんどの場合地表地震断層は震源断層の一部が現れるにすぎない
ので,それが累積した活断層は地下の大地震の姿を正しく反映していな
いことである。例えば,43年鳥取地震(M7.2,死者1083人)の
場合,震源断層の長さは35㎞程度であるのに,地表地震断層は長さ8
㎞しか現れておらず,現在活断層と認定されているのも8㎞だけであ
る「気まぐれに現れるといっていい地表地震断層(とその累積の活。」,
断層)の長さを,マグニチュードと厳密に関係づけること自体意味がな
い」と述べている。。
したがって,震源断層と地表地震断層とが比例しない場合があるので
あり,このような最新の科学的知見からすれば「地表に活断層として,
現れているところでしか大規模な地震が発生しない」とか「地震の。,
規模が地表に現れている活断層の距離に規定される」などという見解。
は誤りである。
(エ)断層の活動性
「日本の活断層」では,断層の活動性を陸域では確実度Ⅰ,Ⅱ及びⅢ
に分類している。確かに,確実度の高いとされた活断層について強く警
戒することは正しいが,確実度が低いとされた活断層が原因となって重
大な地震を引き起こすことも珍しくないのであり,確実度が低いとされ
た活断層を防災上無視することは正しい態度ではない。例えば,158
6年1月18日に発生した天正地震は,日本で3番目の内陸巨大地震で
あって,マグニチュードは7.8に達しているが,この起震断層とされ
ている御母衣断層は長さ70㎞であるものの,そのほとんどの部分が確
実度Ⅱ及びⅢとされており,確実度Ⅰの部分はごくわずかである。
(オ)活動の連続性
活断層の評価に当たっては,従来,活断層一つ一つを切り離し,それ
ぞれの断層が別々に活動するものと考えられてきた。そして,断層が切
断されているかどうかが地震規模を決める際の重大な争点となってき
た。しかし,近時の地震学の進歩によりこのような見解は誤っているこ
とが明らかになった。例えば,阪神淡路大地震の際には,複数の活断層
が次々に活動するということが起きた。すなわち,地表では別々に見え
,,,る断層も地下ではつながっている可能性があるのでありしたがって
地表では雁行する複数の別々の断層が同一の機会に活動するということ
は,ある意味では当然のことといえる。
(カ)震央距離と断層距離
活断層の評価に当たって減衰式を用いる際には「震央距離(断層,」
中央からの距離)ではなく「断層距離(断層の最近接部からの距離),」
を用いるべきである。地震は,活断層の運動に沿って帯状に被害域が広
がるのが通常であり,阪神淡路大地震でもこのことは顕著であった。
(キ)地震規模
P26式(平成7年に東京大学地震研究所のP26博士が提案した経
験式)は,内陸直下型地震の発生に際して,震源断層となった活断層が
再活動した部分の延長距離(L:㎞)と,発生した地震の規模(M:マ
グニチュード)との間に,logL=0.6M−2.9という関係が成り立
つとするものである。このP26式をそのまま適用することは著しく妥
当性を欠くものの,仮にこの式を適用した場合,例えば,本件施設の敷
地から150㎞離れた場所に総延長が80㎞の活断層が走っているとす
ると,その活断層が全面的に再活動した場合には,計算上,M(マグニ
チュード)≒8.0の地震が起こり,被害が生じる震央距離が300な
いし400㎞内外にまで達することがあり得る。ところが,本件敷地か
ら100㎞以内にある活断層の調査だけでは,このM≒8.0の地震の
震源断層となる活断層は調査対象から外れてしまい,この地震が敷地に
及ぼす影響については全く検討しないままに終わることになる。そうす
ると,敷地がM8内外の地震によっていかなる影響を被るかを検討する
ためには,活断層の調査範囲を敷地から300ないし400㎞内外離れ
た場所にまで広げ,その範囲内に存在するすべての活断層について,詳
細な調査・研究を行うことが必要になる。
イ陸域の活断層
(ア)津軽山地西縁断層帯と津軽湾海底断層
「日本の活断層」には津軽山地西縁断層帯(長さ30㎞,確実度I∼
Ⅱ,活動度B)が記載されているが,本件許可申請書では,確実度Ⅰの
部分だけを抜き出したために,この断層がわずか7㎞となってしまって
いる。この断層と津軽海峡の海底断層の構造がつながっており,断層が
切れた部分には伏在断層が存在する可能性があり,この断層がつながっ
ているとすれば,それは全長60㎞にも達する大活断層である。
(イ)「日本の活断層」にある活断層
「新編日本の活断層」には,①横浜断層(長さ4㎞,確実度Ⅱ,活動
度C,②野辺地断層(長さ7㎞,確実度Ⅱ,活動度B,③上原子断))
層(長さ2㎞,確実度Ⅱ,活動度C,④天間林断層(長さ9㎞,確実)
度Ⅱ,活動度B,⑤折爪断層(長さ44㎞,確実度Ⅱ,活動度B)が)
活断層として記載されている。
(ウ)後川―土場川沿いの断層
この断層は「新編日本の活断層」には記載されていない断層である,
が,活断層であるとの指摘を受けている。この指摘は,昭和55年新潟
大災害研年報(№2)に「P27石油備蓄基地建設予定地』における『
“”」,,活断層問題と題する論文でされているがこの論文を要約すると
後川−土場川沿いに南北方向に走る長さ約14㎞の断層群が存在し,断
層群の中には国家石油備蓄基地の直下を横断する可能性が強いものがあ
る,断層群は第四紀更新世(洪積世)前半期の野辺地層を切って発達し
ているため活断層と認定できる,断層の発生時期は,12ないし14万
年前から1万3000年前の間と推定される,というものである。
これに対して,再処理施設の安全審査書は,上記「文献で第四紀の野
辺地層としている地層は,地層の分布状況及び地質構造並びに地質層序
等から,第三紀鮮新世の砂子又層に属するもので,当該露頭で見られる
断層は第四紀層を切るものではないと考えられる。したがって,少なく
ともその活動が第四紀後期に及んでいないとしていることは妥当なもの
と判断する」と判定し,活断層ではないとした。。
大方の地質学者の見解は,砂子又層を第三紀鮮新世とし,再処理施設
の安全申請書も本件安全審査も,こうした見解をそのまま踏襲し,砂子
又層の年代を第三紀鮮新世としている。
しかしながら,砂子又層が第三紀であるとの見解は必ずしも定説では
ない。砂子又層は,北海道南西部地方に分布する海成層である瀬棚層に
対比されるものとする見解が有力で,日本原子力船研究開発事業団もこ
うした見解を採っているが,従来,多くの地質学者によって第三紀鮮新
(),世新期あるいは鮮新洪積世に属するものとみなされていた瀬棚層は
最近では第四紀洪積世古期のものとする見解が有力になってきている。
また,瀬棚層からは,多数の軟体動物などの化石を産するが,下部産の
ものには寒流系種が卓越しているのに対して,上部産のものには温暖水
種が混入していることから,同層の少なくとも下部は,第三紀鮮新世新
期ではなく,第四紀洪積世古期に属するものとみなすべきである。地質
学者の中には,瀬棚層は第四紀洪積世古期,砂子又層は第三紀鮮新世と
みなしている向きもあるが,砂子又層産の化石にも寒流系種が卓越して
,。いるのであるから同層も第四紀洪積世古期のものとみなすべきである
(エ)吹越烏帽子岳付近に発達する断層
国家石油備蓄基地の北北東4km先付近から更に北北東に向って発達
し,吹越烏帽子岳をほぼ北北東から南南西方向へ,下北半島を縦断する
形の約10kmの長さにわたる断層が存在している。この断層は,青森県
がP27開発計画の際作成した「土地分類基本調査陸奥横浜5万分の
1」添付「表層地質図」に記載がある。
前述のとおり,後川−土場川断層に活動性が認められるところ,上記
断層は,後川―土場川沿いの断層の北方向への延長線上に存在している
から,上記吹越烏帽子岳付近の断層は発達方向から見て後川−土場川沿
いの断層と連続したものと判断するのが合理的であり,そうすると活断
層と推定される。
(オ)中小断層の同時活動
一切山東方断層(長さ7㎞,確実度Ⅲ,出戸西方断層(長さ4㎞,)
確実度Ⅲ,横浜断層(長さ4㎞,確実度Ⅱ,野辺地断層(長さ7㎞,))
確実度Ⅱ)など「日本の活断層」には多くの中小活断層が存在している
ほか,名前の付けられた断層に平行して名前も付けられていない断層が
何本も走向している。これらの断層は,本件施設に隣接する低レベル廃
棄物埋設施設内のf−a断層,f−b断層,同再処理施設の敷地内のf
−1断層,f−2断層とその走向方向が極めてよく一致し,さらに,こ
れらの走向方向は,下記の下北半島沖合の海底活断層の走向方向とも一
致している。そうすると,これらの断層は,地下の構造でつながってい
て,同時に活動する可能性がある。
ウ海域の活断層
(ア)活断層の存在
「日本の活断層(旧版,新編)には,下北半島の沖合に崖の高さが」
200m以上,長さ約84㎞の東落ちの活断層が記載されている。さら
に,その北には活撓曲が記載されている。これらの構造はつながってい
るとみることができるが,その長さを足し合わせると全長は120㎞に
達する。
(イ)活断層の活動性
海底探査の専門家であり,活断層研究会のメンバーでもあるP28東
大教授は,平成9年1月,原子力施設周辺の地質・地盤に係る安全性チ
ェック・検討会に出席し,次のような説明を行った。
「下北半島東岸沖には大陸棚斜面,大陸棚を変位・変形させている一
連の構造がある。これらの構造(背斜・向斜,撓曲,断層)には,地
層・地形の累積的な変位が認められるので,活構造と判定される。活
構造の最新活動時期を示す直接的な資料はなく私見であるが,変位・
,()変形している地層と地形の推定年代からみて最終氷期約2万年前
以降も活動している可能性が高い。北方海域(恵山沖)では,大陸棚
,,から陸棚斜面は最終氷期以降も堆積の場にあり音波探査記録からは
海底面を構成している表層の一部が変形を受けていると認められるの
で,最終氷期以降も活動が継続していると考えている」。
これに対して,事業者(P14及びP29)が原子力施設周辺の地質
・地盤に係る安全性チェック・検討会において主張した見解は,①一般
に地震に伴って地表に現れる断層の多くは活断層に沿っており,内陸で
は地殻上部(深さ0∼20㎞)で発生する大規模な地震(M7前後かそ
れ以上)であれば地表に現れる可能性が高いとされている,②長さ80
㎞に及ぶ活断層が,地質学的に古い時代から比較的新しい時代に至るま
でに,大規模な地震を引き起こしながら継続的に活動しているとするな
らば,海底面近くの比較的新しく堆積した地層にまで累積した変異・変
形が及ぶものと考えられる,③下北半島東方沖の大陸棚外縁部に関する
いずれの音波探査記録を参照しても,それを示唆する変位・変形は認め
られない,④したがって,長さ80㎞に及ぶ活断層が過去に継続的に活
動しているとは考えられない,というものである。しかしながら,事業
者の見解は,①M7.2程度の地震であっても,地表に活断層が現れな
い例があり,内陸で地表に断層が現れるのは震源の深さが10㎞程度の
浅い地震に限られ,深さ20㎞ではそのような例がないこと,②海底に
あっては,海底の流れ(ボトムカーレット)があり,また,地層が水を
大量に含んで柔らかいために,海底表面まで断層が出現することは難し
いこと,③阪神淡路大地震の震源の深さは17.9㎞とされているとこ
ろ,この地震では,地上だけでなく海底でも多くの断層が活動したもの
の,淡路島を除いて,断層が現実に運動しているのにもかかわらず神戸
側や大阪湾では地表にも海底にも断層地形が現れていないことなどから
すれば,前提を誤っているものというべきである。
また,旧通商産業省工業技術院地質調査所のレポートは,上記活断層
,,の北側中部から北部の19.5㎞に活動性があることを認めその上で
「長さ20㎞を超える活断層は存在しない」としている。しかしなが。
ら,活動性のある部分の規模が小さいから地震の規模も小さくなるとい
うことにはならない。平行した連続性のある活断層は同時に活動する可
能性があり,断層を細切れに評価することは誤っている。そもそも,大
きな断層構造を海底面の音波探査だけから,海底下で連続しているかど
うかを論ずること自体が無理なのである。安全側に立って判断するなら
ば,この断層の南北の全体が同時に活動するものと評価しなければなら
ない。
そして,日本原子力船研究開発事業団は「下北半島東方沖に規模の,
大きな断層の存在が『日本の活断層』により報告されている。しかしな
がら,この下北半島東方沖の断層は調査資料を検討した結果,活断層と
考えられるものは認められなかった」と述べている。同事業団によれ。
ば,下北半島東側海域に分布する地層は,新しいものから古いものの順
に,A層(沖積層,B層(洪積層,C層(砂子又層)およびD層(中))
新統)に4大別され「大陸斜面のD層にB層又はC層が滑らかにアバ,
ットしており,その箇所において海底地形の異常,又は層内の乱れが認
められないので活断層構造の存在は考えられない」としているのであ。
るが,①崖高200m以上という高い海崖がなぜ形成され,そのような
海崖がなぜ84km以上にもわたって連続しているのかを考えるなら
ば,ごく常識的には,この崖は活断層の疑いが濃厚といえ,また,②海
底下に発達する未凝固ないし半凝固状態の地層にあっては,その地層が
仮にある時期に断層で切られ,層内に乱れが生じたとしても,その地層
の含水比が高く,地層を構成する堆積物の粒子が動きやすい状態になっ
ていれば,あとで粒子の再配列によって乱れが消える場合もあり得るの
で,D層にB層又はC層がアバットしている箇所に層内の乱れが認めら
れないとしても,そのことから当該箇所に活断層が存在しないと結論す
ることはできない。
昭和63年10月28日にP30放映に係る「朝まで生テレビ!徹底
討論・原発第二弾」における上記活断層の活動性の有無についてのP3
1株式会社取締役調査部長P32と控訴人P33との間でなされた激論
の結果,上記P32は「それは(昭和53年5月16日発生の青森県,
東岸の地震)海底から10㎞くらいのところに逆断層が起きまして,そ
れで起きた地震です。そのことは,我々も知っています」と述べてい。
る。
仮に海底の構造からはこの活断層の近時の活動性が認められないとい
うことを認めたとしても,このことは震源の深さが20㎞よりも浅いこ
とを前提としている。断層構造が存在すること自体は認められているの
であるから,この断層が繰り返し活動しているとしても,その震源の深
さが20㎞よりも深ければ,その活動に伴う断層は海底表面に達しない
こととなる。そうすると,たとえ海底表面に活動性の徴表が見られない
としても,断層の活動性を否定することはできないはずである。実際に
は,震源の深さが10㎞程度でも,海底という条件においては,海底表
面まで断層地形が現れないことは十分にあり得ると考えられる。
(ウ)地震活動
昭和53年5月16日,青森県東岸にM5.8(二つ,震源の深さ)
10㎞程度の地震が発生した。この地震は「理科年表」の「日本付近,
の被害地震年代表」にも記載されていないが,本件施設の敷地の東方約
10ないし11㎞の太平洋海底の上記断層の南端付近に震央位置があ
り,α1にやや顕著な被害をもたらした。また「新編日本被害地震総,
覧」には「この地震の主震(二つ)の震央はα1東方の太平洋海底に,
あったが,余震の震央は海底から陸地にまたがっており,核燃料サイク
ル施設の敷地にごく近い場所にも点々と存在している」と記載されて。
いる。この地震の震源の位置と上記活断層の位置とは完全に一致してい
るから,上記活断層を起震断層とするものである。
(エ)マグニチュード・地震動
本件許可申請書には,上記活断層の断層中央から本件敷地までの距離
は42㎞とされているが,断層中央からの距離には意味がなく,断層か
らの鉛直距離が被害を決定付けるものであるところ,本件敷地から上記
活断層に鉛直線を下ろすと約10㎞である。
この断層の活動による地震の規模をP26式によって求めると,80
㎞の断層が同時に動いた場合の推定マグニチュードは8に達する可能性
。,,,があるそして断層までの距離は10㎞しかないからその場合には
本件敷地において震度7に達する地震動が発生することは避けられな
い。仮にこの活断層のうち半分以下の30㎞が活動したとしても,その
推定マグニチュードは7を超え,この場合の本件敷地における地震動は
震度6に達する。
平成7年に発生した阪神淡路大地震を契機として制定された地震防災
対策特別措置法(平成7年法律第111号)に基づき総理府(現在は文
部科学省)に設置された地震調査研究推進本部は,平成16年5月21
日,三陸沖北部の地震を想定した強震度評価において,近い将来に相当
程度の確率でα1内に震度6の揺れを生じさせるような地震が起こるこ
とを発表した。これは,三陸沖北部においてプレート境界型地震が発生
する場合において,過去の地震から最も起こりそうな位置と地震調査委
員会(地震調査研究推進本部の下部機関)が評価した場所で,過去の地
震から見て推定される規模のM8.0の地震が発生するとして,各種の
パラメータを最も起こりやすいモデルで想定して各地に生じる地震動の
震度・最大加速度等を評価したものである。したがって,これは本件敷
地に最大の被害をもたらし得るという地震という観点での想定ではない
し,本件敷地よりもはるかに遠いところで地震が起きた場合を想定した
ものである。それにもかかわらず,この強震度評価によれば,α1内の
多くの場所で震度6の地震動が生じるとしているのである。そして,こ
のタイプの地震の発生確率は平成14年の段階で今後50年間で10%
ないし30%と評価されている。そうすると,地震調査委員会の評価に
従ってもかなり高い確率で本件敷地に本件安全審査の想定を超える地震
動が生じることが想定されているのである。
エ安全性の判断基準
本件敷地周辺でこれまでに行われてきた活断層についての調査・研究
は,必ずしも十分なものとはいい難く,現に本件敷地周辺で多数の活断層
が発見されている。そして,これまでに刊行された地質図や活断層図には
存在が示されていない場所にも活断層が発見されるに至ることは決してま
れでなく,これまで死断層とされていたものが,その後の調査・研究によ
って活断層と認定されるようなこともしばしば見受けられる。本件安全審
査は,過去の資料を基にした調査にすぎず,積極的に本件敷地周辺の現地
踏査をして活断層の調査をしたわけではないから,なおのこと新たな活断
層が発見される可能性は否定できない。
伊方最高裁判決は,安全性の判断の基準は最新の科学的知見であり,訴
訟法的には事実審口頭弁論終結時の科学的な知見に基づいて安全性の判断
をすべきとしている。したがって,本件訴訟に顕れた証拠関係を基に控訴
審口頭弁論終結時の科学的な知見に基づいて判断をすべきである。
本件施設は,一般の工場とは異なって大量の放射能を取り扱う施設であ
り,再処理施設あるいは原子炉との対比でその潜在的危険性に大小の区別
があるわけではない。前記までのことからすると,本件敷地周辺で発生す
る可能性のある地震が震度5程度までであって,これに耐えられる耐震設
計によって本件施設の安全性が確保できるとした本件安全審査の調査審議
及び判断の過程には看過し難い過誤,欠落が存する。
(6)本件施設の危険性その2(国家石油備蓄基地による危険)について
ア国家石油備蓄基地について
本件施設に近接する約240ha(ヘクタール)の敷地にある国家石油備
蓄基地には,浮屋根式構造の直径81.5m,高さ24m,容量約11.2
万kl(キロリットル)の原油タンクが51基設置されており,その総容量
は約570万klに達する。
本件敷地は,国家石油備蓄基地から最短で2.3㎞の距離にある。
イ石油流出事故の例
国家石油備蓄基地において,昭和58年12月24日,B工区の加温パ
イプラインのバルブから,約15ないし20klの原油が漏出し,一部が排
水溝を伝わり尾駮沼に流出する事故が発生したことがある。気化ガスへの
引火は免れたものの,事故が野辺地地区消防本部に連絡されたのは事故発
生から丸1日半後のことであった。
ウタンク火災の例
平成15年9月26日に発生した十勝沖地震(M8.0)では,苫小牧
市にあるP34で原油貯蔵タンク,ナフサ貯蔵タンクに2度にわたって火
災が発生し,2基目のナフサ貯蔵タンクは,ナフサ2万6000klが燃え
尽きるまで約44時間もの間炎上を続け,タンクが倒壊してようやく鎮火
に至った。
2基目の火災の原因は,浮き屋根が沈み,ナフサの表面蒸発が始まり,
余熱が冷めぬままに気化ガスに引火して,全面火災になったと推定されて
いる。
エ全面的火災事故発生の可能性
被控訴人は,国家石油備蓄基地が本件施設から約4㎞と十分に離れた位
置にあるため,国家石油備蓄基地において火災が発生しても類焼の影響は
ないとし,また,タンク1基が火災を呈したケースのみを想定し,その場
合の類焼火災の影響範囲は380mとする資料を提出している。
しかしながら,M8.0クラスの地震が本件敷地周辺で起きた場合,①
国家石油備蓄基地の直下に断層があり,これが震源となり,あるいは別の
震源からの地震でこの断層が動く確率が高いこと,②国家石油備蓄基地の
地盤は,軟弱な粘性土層であり,サンドコンパクションパイル工法等を取
り入れて地盤改良工事を行ったにもかかわらず不同沈下を起こすなど脆弱
な地耐力しかないこと,③青森県東方沖に少なくても約80kmに及ぶ海底
活断層があること,④国家石油備蓄基地の盛土された地盤が液状化現象を
起こす可能性があること,⑤国家石油備蓄基地の地盤が地震に弱いサンド
イッチ構造であること,⑥地震の長周期振動によるスロッシング現象によ
って,国家石油備蓄基地の浮屋根構造のタンクが破損する可能性があるこ
,,と⑦国家石油備蓄基地に航空機等が墜落する可能性があることなどから
国家石油備蓄基地においてタンクの破壊事故や火災事故等が引き起こされ
る可能性がある。そして,その場合,国家石油備蓄基地の複数のタンクが
地震の振動で共振してスロッシング現象を起こし,原油がオーバーフロー
してスパーリングすれば,各防油堤ごとに火災が発生して複合的な大火災
,。が招来されることになり隣接している本件施設への類焼は避けられない
上記十勝沖地震でも,何らかの損害のあったタンクは56基に及び,その
うちで油漏れが確認されたものは43基,その中で引火の危険性の高いタ
ンクが4基あった。その上,引火の危険性の高いタンクから油を抜き取る
のに約1か月の期間を要したが,その間,継続して引火の危険にされされ
ていた。また,火災の鎮火までの長時間の消火作業のために,周辺での交
通は遮断され,風下にいた住民たちはタンクの消化作業に伴う刺激臭を含
む黒煙と消火に使用された大量の泡等の飛散で大きな生活被害を受けた。
オまとめ
したがって,国家石油備蓄基地が本件施設から約4㎞と十分に離れた位
置にあるので国家石油備蓄基地において火災が発生しても類焼の影響はな
いとした本件安全審査の調査審議及び判断の過程には看過し難い過誤,欠
落が存する。
(7)本件施設の危険性その3(航空機の墜落事故)について
ア航空機墜落等確率の評価の誤り
本件安全審査で採用された航空機事故の発生確率は,航空機事故に対す
る防護設計が不要な程度になるほど小さいものとはいえず,したがって,
航空機墜落事故の安全評価は,念のために評価したとの位置付けになるも
のではない。
,,「,例えばアメリカの原子力施設の安全性評価基準をみると軍事施設
その他サイトに影響を与えるもので射爆撃場のようなものについては,サ
イトから20mile(マイル)までを対象とする必要がある「軍用機に。」,
関しては,頻度の低い訓練ルートについては航路から5mile以上離れてい
ればよい。ただし,1000fl/年以上の場合を除く(fl:飛行回数)。」
などとされており,射爆撃場や頻度の高い訓練ルートについては特に危険
性が高いことから,相当離れたところまで事故の評価をする必要があると
されている。しかるところ,本件施設は,約10km離れた位置に軍事施設
である射爆撃場があり,年間数万回の訓練飛行がなされている。また,フ
ランスの原子力施設の安全性評価基準をみると,航空機事故により許容値
以上の放射能の放出を生じる確率は10−7回/年以下とされている。し
かるところ,本件安全審査で採用された発生確率1.7×10−6回/年,
,。,到達確率1.4×10−6回/年という数値はこれを超えているさらに
ドイツ(西独)の原子力施設の安全性評価基準も,平均墜落確率が10−
6回/年が一つの基準となっている。本件安全審査で採用された航空機墜
落確率は上記のとおりであるから,この基準も超えている。
,,したがって本件安全審査で採用された本件施設への航空機墜落確率は
諸外国でも防護設計を要すると考えられる墜落確率を超えているのである
から,防護設計をしなくてもよいとはいえないのである。
イ対象機種選定の誤り
(ア)民間旅客機
民間旅客機の重量は戦闘機とは比較にならないほど大きいから,民間
,,旅客機を対象機種として選定した場合どのような計算手法をとっても
民間旅客機が発回均質棟に衝突すれば,発回均質棟の全体破壊は避けら
れない。
(イ)F4EJ改戦闘機
本件安全審査では,α3基地に実際に配備されているF4EJ改戦闘
機の墜落について全く評価していない。同戦闘機が発回均質棟に墜落す
,。,,,ればその局部破壊が生じるまたこの場合コンクリート圧縮強度
壁・天井厚も大幅に高い再処理施設ですらようやく全体破壊が避けられ
るのであるから,F4EJ改戦闘機が衝突すれば,発回均質棟の全体破
壊も避けられない。
ウ衝突速度(150m/s)の誤り
(ア)最良滑空速度計算の条件
本件安全審査においては,航空機が墜落した場合の本件施設への衝突
速度について,エンジン推力を失った状態で衝突するという前提で,①
滑空状態のまま最良滑空速度(飛行物体の揚力及び坑力と重力が吊り合
う状態における滑空速度)で直接本件施設に衝突する場合,②角度をも
って訓練コースを外れ,本件施設の上空まで滑空した後自由落下して本
件施設に衝突する場合,の2つの類型を想定し,そのいずれの衝突速度
も150m/s以下であるとしている。
その最良滑空速度の計算式は次のとおりである。
揚力L=ρ÷2×Cl×S×V2
抗力D=ρ÷2×CD×S×V2
吊合いLcosθ+Dsinθ=W
(Lcosθ+Dcos(90°-θ)=W)
ρ:空気密度=1.1/9.8㎏・sec2/m4
Cl:揚力係数=0.3
CD:抵抗係数=0.03
S:主翼面積=28㎡
W:機体重量(㎏)
V:滑空速度(m/s)
θ:tanθ=0.1(垂直距離/水平距離。滑空率Cd=10)
本件安全審査では,F16戦闘機について,当初は航空機の総重量を
10.2tとして,最良滑空速度を約147m/sと計算し,自由落下の場
合の衝突速度も約145m/sであることから,本件施設への衝突速度は
余裕を見て150m/sとした。
ところが,その後の安全審査の途中において,F16戦闘機の総重量
が訓練時の装備を含めると16tであることから,重量を16tで評価
することになった。それにもかかわらず,衝突速度は150m/sのまま
とされている。
しかし,上記計算式を整理すると次のようになる。
(ρ÷2×Cl×S×V2)cosθ+(ρ÷2×CD×S×V2)sinθ=W
ρ÷2×S×V2(Clcosθ+CDsinθ)=W
V2(Clcosθ+CDsinθ)=W÷ρ×2÷S
V2=W÷ρ×2÷S÷(Clcosθ+CDsinθ)
V=2W÷ρ÷S÷(Clcosθ+CDsinθ)
,,空気密度ρは定数であり衝突角度θは水平飛行距離と高度で決まり
主翼面積S,揚力係数Cl及び抵抗係数CDは翼の形状(機種)と迎え
角(滑空角度)で決まるから,同じ機種が同じコースをとって滑空する
,。場合最良滑空速度は総重量Wの平方根に比例して増加することになる
したがって,F16戦闘機の総重量を10.2tから16tに増加させ
ると,総重量は1.57倍となるから,衝突速度(最良滑空速度)は1.
25倍になっているはずである。その場合の衝突速度(最良滑空速度)
は約184m/sである。
,,また本件安全審査では自由落下の場合の衝突速度も計算しているが
,,この計算条件は自由落下高さを最も低く計算するものでありその結果
自由落下による衝突速度も最も小さく計算していることになる。
(イ)航空機自爆テロ
航空機を利用した自爆テロの場合,テロリストが速度を落として撃突
,。するとは考えられず少なくとも巡航速度前後で衝突すると考えられる
我が国で現在運航されている民間航空機の巡航速度は,国土交通省の回
答によれば,おおむね250m/s(900㎞/h)前後である。また,α
3基地に配備されている戦闘機の巡航速度はおおむね500m/s前後,
遅いものでも200m/sを優に超えている。そうすると,我が国で運行
している民間航空機やα3基地に配備されている戦闘機を用いた自爆テ
ロが行われた場合,発回均質棟の壁・天井を貫通することは明らかであ
り,発回均質棟については全体破壊が生じ,ウラン貯蔵庫については製
品シリンダの大半が破壊されて大量の燃料油による火災が相当時間継続
し,膨大な量のウランが放出される。
(ウ)エンジン停止以外の墜落
米国空軍発行の「FlyingSafetyMagazine」によると,1983年か
ら1989年までの「クラスA事故(100万ドル以上の修理費等の」
損害を要する事故又は死亡事故)の全体の件数は237件であるが,エ
ンジンに原因のある墜落事故はわずか47件(19%)にすぎない。エ
ンジン推力喪失を前提とした事故評価は明らかに恣意的である。
本件安全審査は,訓練機の射爆撃訓練は1機ごとに地上の目標に対し
波状攻撃を加えるものであるから,他機と衝突(接触)することはない
という前提に立っていると思われるが,この前提は軍用機の飛行実態を
無視している。すなわち,訓練機は,地上攻撃時は上述のような飛行形
態になるであろうが,訓練の前後は,数機又は最低2機が編隊飛行を行
なうことが多い。α3基地を飛び立ってα4射爆撃場へ向う途中,ある
いは訓練終了後帰投する際も,数機(2機ないし4機)が編隊を組んで
飛行するのが通常である。そして,空中衝突による場合には,エンジン
推力が維持されたまま墜落する。
地表衝突の要因としては,加重による意識喪失,高度認識喪失,空間
識失調などが考えられているが,その中でも空間識失調が事故発生の高
い確率を占めているといわれている。α4射爆撃場での訓練は,視覚条
件の良好な時しか実施しないわけではなく,むしろ,軍事訓練は悪条件
下でこそ実施する必要性が強く,実際,夜間訓練も行われているから,
この原因による事故の発生も十分あり得るのである。そして,空間識失
調等による場合には,エンジン推力が維持されたまま墜落する。
そして,操縦系,燃料系,油圧・空気圧系,電気系に故障が発生して
もエンジン推力は喪失されず,機体は飛行を継続する。空中衝突におい
ても,機体破損の部位,程度いかんによっては,緊急着陸地点を探索中
若しくは帰投途中に墜落する可能性がある。したがって,α4射爆撃場
での訓練機も,パイロットが操縦不能に陥り,あるいは編隊飛行中の訓
練機が空中衝突した後も直ちに墜落するとは限らない。
本件施設上空の制限空域を半径3海里(5.5㎞)とし,訓練機が制限
飛行空域(東西12㎞,南北4.5㎞)を忠実に遵守した場合でも,訓練機
が左旋回して制限空域と最も近接したときの距離はわずか約5.5km
になるから,故障・事故の際の機体の位置関係(方位,高度,衝突角)
度,落下速度,落下角度次第では,故障・事故機が本件施設に墜落する
可能性は大いにあり得る。
エ発回均質棟の局部破壊評価の誤り
(ア)Adeli&Amin式の排斥
本件安全審査に先立ち,旧科学技術庁は,本件施設を含むα1核燃料
サイクル施設に対する航空機墜落の衝突影響評価手法を確立するため
に,財団法人P35センター・P36に調査検討を委託し,P36は,
東京大学工学部原子力工学科教授P37,P38研究所原子炉安全工学
部部長P39らで構成する核燃料施設部会外部事象検討分科会以下外(「
部事象検討分科会」という)においてこれを検討した。。
外部事象検討分科会は,航空機のエンジンの衝突による局部破壊の評
価式として「貫通限界厚さの評価については・・・・・。中型(10,,
㎏)以上かつ中速度(50m/s)以上の飛来物実験結果と比較的一致度が
良い式は,Degen,Chang,CEA−EDF,およびAdeli&Amin等の式である
ことが示された」と結論付けた。。
ところが,本件安全審査に際しては,上記4つの評価式のうち,Adel
i&Amin式について「Adeli&Amin式は全体的に貫通限界厚さを過大に,
評価する傾向が認められた。Adeli&Amin式は,重量の非常に小さいも
のまで包含しようとしているため,低速度領域で他の評価式とかなり異
なった傾向を示すことになり,模型実験結果との適合性が良くない結果
となっている」として,これを採用しなかった。しかし,上記の「低。
速度領域で他の評価式とかなり異なった傾向」とは,100m/s以下の
領域であり,150m/s以上の衝突速度を評価するに当たっては関係が
ないことである。かえって「大型飛来物」と「中速」の組合せについ,
ては,Adeli&Amin式も「実験結果と比較的適合する式」と評価されて
いる。また,上記の「全体的に貫通限界厚さを過大に評価する傾向」が
あるとするのは,外部事象検討分科会の結論を無視している。
このように,本件安全審査においては外部事象検討分科会が推奨した
Adeli&Amin式がさしたる理由もなく排斥されている。
Adeli&Amin式を用いて,本件安全審査での他の条件(衝突速度150m/
,),s飛来物形状係数0.72をそのままにして貫通限界厚さを算定すると
本件安全審査での評価対象であるF16戦闘機の貫通限界厚さは90㎝
を超え,発回均質棟の壁・天井を貫通することになる。
(イ)Degen式の適用範囲
,(),Degen式は飛来物の重量が15ないし340kgfキログラムエフ
同直径が10ないし31㎝で,コンクリート圧縮強度が290ないし4
40kgf/㎝2である場合が適用範囲内である。航空機のエンジンの重量
は1000㎏以上,同エンジン直径は100㎝以上であり,本件施設の
コンクリート圧縮強度は240kgf/㎝2であるから,いずれの点につい
てもDegen式の適用範囲外である。そして,Degen式をその適用範囲外に
適用するに当たって裏付けとして行われた衝突実験は,大型(1500㎏)
について2,中型(100㎏)について4,小型(3.6㎏)については,剛
飛来物が9で,柔飛来物が12とわずかであり,しかも,大型について
も直径76㎝に止まり,また,小型,中型については,この結果を大型
に引き直すに当たって,貫通限界厚さを直径に比例させるという科学的
根拠のない操作をしている。
(ウ)柔飛来物低減係数
本件安全審査では,航空機のエンジンを柔飛来物とし,柔飛来物には
貫通限界厚さについて一律に0.25の低減があるものとしている。
しかし,このような手法自体世界初であり,外部事象検討分科会の報
告書でも「ハードミサイルとソフトミサイルの限界厚さに関する比較,
実験は行われていない「今後,ハード・ソフトミサイルの比較実験。」,
等により定量的な限界厚さの低減率を求める必要がある」とされてい。
るにすぎない。このための実験数も,上記のとおり,直径10㎝の小型
についての剛飛来物9と柔飛来物12にすぎないし,そもそもこの実験
によっては貫通する数値までは特定することまではできないものであっ
た。
この低減をしなければ,Degen式を用いて,本件安全審査で用いられ
たほかの条件(衝突速度150m/s,飛来物形状係数0.72)をそのままにし
て貫通限界厚さを算定しても,本件安全審査での評価対象であるF16
戦闘機の貫通限界厚さは90㎝を超え,発回均質棟の壁・天井を貫通す
ることになる。
(エ)飛来物形状係数
本件安全審査では,航空機のエンジンの形状について「平坦」とし,
飛来物形状係数を0.72として計算している。
しかし,航空機のエンジン前面の形状は平坦といえないし,仮に吸気
口の形状が平坦と考えるとしても,衝突する角度が垂直でない限り衝突
。,「」する部分は平坦にはなり得ないしたがってエンジンの形状を平坦
とするのは明らかに不合理である。
オ発回均質棟の全体破壊評価の誤り
(ア)塑性率
外部事象検討分科会は,全体破壊についての基準として,コンクリー
ト版の変形について,塑性率(静的加力において鉄筋が初めて降伏した
ときの鉄筋コンクリート版の変形に対する,動的応答におけるコンクリ
ート版の最大変形の比)を8以下に収めることを推奨していた。本件安
全審査においても当初はこの塑性率8以下を基準としていた。そして,
この基準を前提として,F16戦闘機による静的加力時鉄筋初降伏変位
が3.08㎝である一方,動的応答最大変位は22.4㎝であって7.3
倍であるから「外部事象検討分科会で提案された設計クライテリアの,
8以下である」とし,さらに「設計許容値」も,静的加力時鉄筋初。,
降伏変位の8倍の24.6㎝としていた。
ところが,F16戦闘機の機体重量を当初設定された10.2tでは
なく16tと設定することになった後の本件安全審査の部会審査に提出
された資料では,上記塑性率8以下の基準にまったく言及されるところ
はなく,最大変位は28.4cmであるが「コンクリートの最大圧縮,
歪は6500×10−6以下であり・・・・・ゆえに,本建屋は全体,
破壊することはない」としている。。
F16戦闘機の機体重量を16tと設定すれば外部事象検討分科会が
推奨した塑性率8以下を満たせなかったこと(28.4㎝÷3.08㎝>8)は
明らかである。
(イ)コンクリート圧縮強度
本件安全審査では,全体破壊の評価に当たって,コンクリート圧縮強
度を300㎏f/㎝2とし,これに「ひずみ速度による強度増加率」とし
て1.25を乗じている。
しかし,本件施設の設計では,コンクリート圧縮強度は240㎏f/㎝
,。,2であるから300㎏f/㎝2という実強度は保証されていないまた
ひずみ速度による強度増加率についても,外部事象検討分科会の報告書
では「高ひずみ速度におけるコンクリートの圧縮強度,引張強度,応,
力−ひずみ特性に関するデータは少ない。ひずみ速度依存するコンクリ
ートの材料データは少なく,計算においては控えめなデータを用いるこ
とが考えられる」とされており,また,実験されているのもひずみ速。
度が1ないし2m/s,あるいはせいぜい数m/sとなる衝突にとどまってい
る。
カまとめ
以上のように本件安全審査における航空機墜落を想定した評価には多く
の誤りがあり,本件安全審査の調査審議及び判断の過程には看過し難い過
誤,欠落がある。
2被控訴人の主張
(1)原告適格について
本件施設で取り扱われる六フッ化ウランは,不燃性であり,爆発性もない
化合物であり,その濃縮工程では常に未臨界の状態で,かつ,化学変化はな
く,比較的低温でほとんどが大気圧以下で取り扱われるなど,その工程は単
純で,かつ,本来的にも安全性が高いものである。また,本件施設において
その最大貯蔵量のウランが貯蔵されるとしても,その放射能量は2000Ci
(キュリー)程度であり,原子力施設としては放射能量が最も小さい施設の
一つであり,しかも,原子炉のようなエネルギー生産施設ではないので熱の
発生がなく,内包するエネルギーも小さいものである。控訴人らは,本件施
設におけるウラン貯蔵量が増加すれば核燃料物質による災害の潜在的危険性
の程度は極めて大きくなると主張するが,潜在的危険性の程度はウランの貯
蔵量のみに着眼すべきではなく,上記のように最大貯蔵量のウランが貯蔵さ
れたとしても,本件施設は原子力施設としては放射能量が最も少ないものの
一つであることや六フッ化ウランを扱う工程における安全性が高いことから
すれば,本件施設の潜在的危険性が低いことは明らかというべきである。な
お,控訴人らは,本件許可処分の後にされた変更許可処分後のウラン貯蔵量
についても言及するが,変更許可処分は本件訴訟の審理の対象ではない。
控訴人らは,いずれも,社会通念上,本件施設の放射能汚染事故により直
接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるとはいえない地域
に居住するものであるから,本件許可処分の無効確認及び処分取消を求める
法律上の利益を有する者には当たらず,原告適格を欠くものというべきであ
る。
なお,控訴人は,経理的基礎の面からも原告適格を判断すべきである旨主
張するが,規制法14条1項2号に経理的基礎の要件が定められている趣旨
は,加工事業には多額の資金を要することにかんがみ,主として加工事業に
よる災害の防止を加工事業者の資金的な面から担保し,もって公共の安全を
,,図ろうとするものにほかならず専ら公益の実現を目的とするものであって
加工施設の周辺住民等の個人的利益の保護を目的とするものではない。した
がって,経理的基礎に係る違法事由については,控訴人らの法律上の利益に
関係がないものというべきである。
(2)ウラン濃縮と規制法13条1項の「加工」について
本件施設におけるウラン濃縮は,核燃料物質であるウランを原子炉である
軽水型原子炉に燃料として使用できる組成とするために,ウラン235とウ
ラン238との質量の違いを利用し,遠心分離法という物理的方法によって
六フッ化ウラン中のウラン235の割合を高める処理をするものであるか
ら,これが規制法2条6項(現行法の同条7項)にいう「加工」に当たるこ
とは明らかである。
控訴人らは「加工」の意義を限定的にとらえ「物理的」にウラン燃料,,
の「形状」を変えること,又は「化学的」にウラン燃料の「組成」を転換な
いし再転換することをいうとするが,同条項は,その法文を見れば明らかな
とおり,あくまで核燃料物質を原子炉に燃料として使用できる「形状」又は
「組成」とするために「物理的方法」又は「化学的方法」を用いてこれを,
処理することをもって「加工」と定めたにすぎない。本件施設におけるウラ
ン濃縮は,上記のように,核燃料物質であるウランを原子炉である軽水型原
子炉に燃料として使用できる組成とするために,遠心分離法という物理的方
法によって処理をするものであるから「加工」に当たるのである。なお,控
訴人らの援用する科学的な用語法によっても「組成」とはある物質の構成,
比という意味を含むものであるところ,ウラン濃縮は,ウランの同位体の構
成比を変える処理であるから,規制法にいう「組成」の処理に該当するとい
うべきである。そもそも,規制法の対象である核燃料物質については,核分
裂を起こしやすいものであるかどうかが重要な意味を有するのであるから,
核燃料物質の「組成」という場合には,核分裂を起こしやすい同位体の構成
比という意味を含むと解するのが当然である。
(3)規制法14条1項2号の経理的基礎について
ア行訴法10条1項の適用
規制法14条1項2号にいう経理的基礎が定められた趣旨は,上記(1)
のとおり,加工事業には多額の資金を要することにかんがみ,主として加
工事業による災害の防止を加工事業者の資金的な面から担保し,もって公
共の安全を図ろうとするものにほかならず,専ら公益の実現を目的とする
ものであって,加工施設の周辺住民等の個人的利益の保護を目的とするも
のではない。したがって,経理的基礎に係る違法事由については,控訴人
らの法律上の利益に関係がないものというべきであるから,行訴法10条
1項の適用により,取消訴訟の審理の対象とならないものというべきであ
る。
イP1の経理的基礎
仮に経理的基礎に係る事由が審理の対象となるとしても,P1がした本
件許可申請が規制法14条1項2号が規定する事業を適確に遂行するに足
りる経理的基礎があるという要件に適合するか否かについての審査は,主
として本件許可申請書に添付された書類のうち,事業計画書,貸借対照表
及び損益計算書等に基づき,事業を遂行するために必要な設備資金,運転
資金等の見積りが適切なものであるかどうか,その調達能力があるかどう
か等によって判断するものである。
P1は,事業を遂行するために必要とされる資金を自己資金及び借入金
により賄う計画であり,その返済等についての計画も妥当なものであり,
顧客となる電力会社の経営は安定しており,収入も確実であることから,
内閣総理大臣はP1に経理的基礎があるものと判断したものである。した
がって,本件許可申請は,規制法14条1項2号の経理的基礎の要件に適
合していた。
(4)行政審査資料(一次資料)の不提出について
ア行政審査資料
行政庁審査の対象となる資料は,本件許可申請書及びその添付書類であ
り,本件許可申請に係る審査の対象として必要な情報はすべてこれら文書
に含まれている。行政庁審査に際し,行政庁が必要に応じて専門技術的見
地から顧問に意見を聴取することがあるが,これは法令上規定された手続
ではなく,顧問会も行政庁が顧問から意見を聴取するために適宜開かれる
にすぎない。
イ行政審査資料の不存在
(ア)本件における加工・使用安全技術顧問会においては,議事録の作成
や保存が義務付けられていたものではなく,また実際に議事録は存在し
ない。現在までの調査によれば,旧科学技術庁から経済産業省に移管さ
れた文書の中に,行政審査資料として追加送付すべき文書は発見されて
いない。
(イ)顧問会から意見を聴取するに際して,行政庁の担当者によりメモそ
の他の非公式文書が作成されることがあるが,これらも法令上作成や保
管が義務付けられていたものではなく,原審での文書送付嘱託当時,整
理した形では保存されていなかった。
(ウ)行政庁審査において,申請者から行政庁の担当者に対し,説明の便
宜のために参考資料を提出することがあり,行政庁がこの資料により説
明を受けたことはあるが,その資料等は保存する必要がないものと取り
扱った。
(エ)安全審査の対象となる資料は,本件許可申請書及びその添付書類並
びに行政庁審査の結果に関する文書(乙69の2の別紙の別添。乙69
の5・8によって一部修正されている。以下「審査書」という)があ。
り,そのほか安全審査において配布される資料として議事概要案等があ
るが,これらは原審での文書送付嘱託に応じて平成5年3月1日付けで
原審に送付している。
これらの資料のほか,第23部会の審査に際して,行政庁の担当者か
ら同部会に対し,本件許可申請書及びその添付書類並びに審査書につい
ての説明の便宜のため,メモ類(以下「燃安審メモ」という)が配布。
されたことはあるが,このような過程で提出,配布されるメモ類につい
ても法令上作成や保管が義務付けられているものではない。この燃安審
メモについては,説明の便宜のための参考資料にすぎず,審査の対象と
なる資料ではないから,原審での文書送付嘱託に掲げる文書に該当しな
いとして,当初は原審に送付しなかった。しかしながら,原審の意向等
もあったことを踏まえ,訴訟の進行に資するため,平成5年11月26
日付けで原審に送付することとした。なお,被控訴人は,控訴人らのい
う安全審査資料等が何を意味するか明確でないと対応していたのであっ
て,安全審査資料あるいは燃安審メモが存在しないなどと言っていたこ
とはない。
(オ)低レベル事件や高レベル事件で追加送付された文書は,中央省庁再
編に伴い旧科学技術庁から経済産業省に移管された資料を整理していた
ところ,上記各事件の文書送付嘱託に該当すると思われる文書が発見さ
れ,調査の結果,事業者から旧科学技術庁の担当者が提出を受けた参考
。,資料であることが判明したことから送付した文書であるこれら文書は
法令上作成や保管が義務付けられているものではなく,保管が必要な行
政文書として旧科学技術庁放射性廃棄物規制室において保管していたも
のではないが,たまたま該当すると思われるものが発見され,かつ,参
考資料であることが判明したため,追加送付をしたものである。
ウ行政審査資料の不提出の効果
控訴人らの主張は争う。本件訴訟において主張,立証に必要な文書は既
に原審において提出しており,控訴人らが提出がないとする行政審査資料
は,法令上保管の必要のない説明の便宜のための参考資料であり,被控訴
人の主張,立証には必要のないものである。したがって,行政審査資料の
提出がないからといって被控訴人がすべき主張,立証がされていないとい
うことはできない。
(5)本件施設の危険性その1(地震による危険)について
ア耐震設計に関する安全審査
本件安全審査においては,立地条件に係る加工施設指針1に基づき,自
然環境(地震)について検討し,敷地及びその周辺地域における過去の地
震記録等から地震による敷地への影響度が適切に評価されていることとの
観点に立って,以下の点を確認した。すなわち,①本件許可申請において
は,本件敷地周辺における過去の地震記録の調査に当たり,過去の地震被
害について調査・研究した文献である「宇佐美カタログ(1979」及)
びその他の文献に基づき,本件敷地から半径200㎞以内で発生した被害
地震が取りまとめられた。そして,これらの地震による敷地への影響度を
評価するために,地震のマグニチュードと震央距離との関係から影響度を
「」推定する経験式を基にした敷地周辺の地震のマグニチュード−震央距離
を参考として,過去の被害地震による本件敷地への影響度は,最大でも気
象庁震度階級の震度5程度であると評価された。また,②本件安全審査に
おいては,上記①のことに加え「新編日本被害地震総覧(1987」,)
等の文献をも基にし,さらに,震央距離が200㎞を超える地震について
も十分検討し,また,敷地周辺における過去の被害地震による本件施設へ
の影響度の評価に当たっては,上記「敷地周辺の地震のマグニチュード−
震央距離」及び公表されている他の文献等も参考にして総合的に検討した
結果,最大でも気象庁震度階級による震度5程度であるという評価は妥当
であると判断された。
さらに,本件安全審査においては,加工施設指針13に基づき,地震に
対する考慮に関し,安全上重要な施設について,耐震設計上の重要度分類
が行われていること,敷地及びその周辺地域における過去の記録,現地調
査等を参照して,最も適切と考えられる設計地震力に十分耐える設計であ
ることについて,以下の点が確認された。すなわち,①本件施設の耐震設
計における重要度分類に関し,本件施設の安全上重要な設備・機器及び建
物・構築物は,加工施設指針13に従い,地震により発生する可能性のあ
るウランによる環境への影響の観点から,重要度に応じて第1類,第2類
及び第3類に分類され,所要の耐震設計を行うこととされており,適切に
耐震設計上の重要度分類がされている。②本件施設の建物・構築物の耐震
設計に関し,建物・構築物の耐震設計法については,各類とも静的設計法
を基本とし,かつ,建築基準法等関係法令により行うとされている。そし
て,第1類及び第2類の建物・構築物については,それぞれ耐震設計上の
静的地震力として,建築基準法施行令88条から定まる最小地震力に割増
係数(第1類が1.3,第2類が1.1)を乗じたものを用い,また,同
法施行令82条の3第1号による場合には,上記割増係数を乗じたものを
用い,同条第2号による場合には,上記割増係数で除したものを用いると
されている。そこで,本件施設の建物・構築物の耐震設計は,加工施設指
,。針13を満たしており施設の安全性は確保されているものと判断された
③本件施設の設備・機器の耐震設計に関し,設備・機器の耐震設計法につ
いては,原則として静的設計法とするとされ,また,設計に当たっては剛
構造となることを基本とし,これが困難な場合にはその他適切な方法によ
。,り行うとされている重要度分類の各類において一次設計を行うものとし
この一次設計に用いる静的地震力は,最小地震力に,重要度分類に応じて
割増係数(第1類が1.5,第2類が1.4,第3類が1.2)を乗じた
ものを用いるとされている。さらに,第1類の設備・機器については,一
次設計に加え二次設計を行うこととし,この二次設計に用いる静的地震力
は,一次設計に用いる地震力に更に割増係数1.5を乗じたもの又はそれ
と同等以上の地震力とするとされている。そこで,本件施設の設備・機器
の耐震設計は,加工施設指針13を満たしていると判断された。また,割
増係数については,一次設計では最小地震力に最小の割増係数(第1類が
1.5,第2類が1.4,第3類が1.2)を採用すること,第1類につ
いては二次設計において更に最小の割増係数(1.5)を採用することで
本件施設の設備・機器の基本設計ないし基本的設計方針において安全確保
の目的を達すると判断された。以上のような本件安全審査の内容に不合理
な点はない。
なお,加工施設指針13は,核燃料施設における安全上重要な施設は,
その重要度により耐震設計上の区分がなされるとともに,敷地及びその周
辺地域における過去の記録,現地調査等を参照して,最も適切と考えられ
る設計地震力に十分耐える設計とすることにより,その安全確保の目的を
達するとしているが,これは,本件施設を含むウラン加工施設が,原子炉
施設や再処理施設と比べ,内蔵するエネルギーが小さく,また,臨界状態
での核分裂反応を制御する必要性もないことなど,その潜在的危険性が極
めて小さいことによるものであり,十分に合理性を有するものである。
イ控訴人らの主張に対する反論
(ア)控訴人らは,本件施設も原子炉施設や再処理施設と同等の耐震設計
をすべきであるとの前提に立った上で,文部科学省地震調査研究推進本
部の発表資料(三陸沖北部の地震を想定した強震動評価)によれば「」
将来本件敷地周辺において過去に記録された規模を超える震度6弱の地
震が発生する可能性があると評価されていることを根拠に本件施設の耐
震設計に係る安全審査が不合理である旨主張する。
しかしながら,控訴人らの上記主張は,原子力施設における耐震設計
は当該施設の有する特質,潜在的危険性に応じ,その施設の安全確保の
観点から合目的的に決せられているということを正解しないまま,本件
敷地周辺において過去に記録された規模を超える地震が発生する可能性
があると評価されたことのみをもって,抽象的に本件施設の耐震設計が
不十分であるというにすぎず,本件施設の耐震設計に係る安全審査に過
誤があるということはできない。控訴人らの主張は,理由がないという
べきである。
(イ)控訴人らは,本件敷地周辺に陸域活断層,海域活断層があり,本件
安全審査においてはこれを除外した過誤がある旨るる主張する。
しかしながら,本件安全審査においては,基本的立地条件としての地
盤の安定性を評価するという観点から,文献調査,地表地質調査及びボ
ーリング調査により,本件敷地においては施設に影響を与えるような断
層の存在が認められないことを確認している。
また,そもそも,加工施設指針13は,ウラン加工施設の耐震設計に
つき地震の原因としての活断層に対する評価を行うことは要求しておら
ず,そのため敷地外の断層については評価されていないが,このような
加工施設指針には,加工施設の潜在的危険性の小ささからみて,十分な
合理性があるのである。控訴人らの主張は,施設も審査内容も異なる再
処理施設についての主張をそのまま手を加えずに本件において主張する
ものにすぎない。
(6)本件施設の危険性その2(国家石油備蓄基地による危険)について
,,本件施設は控訴人が主張する国家石油備蓄基地から約4㎞も離れており
類焼の危険はない。このことは,青森県石油コンビナート等防災本部が作成
した「青森県石油コンビナート等防災計画(昭和52年3月」が,仮に石)
油備蓄基地の最大容量タンクからの原油の流出・防油堤内全面火災を想定し
ても,その輻射熱による影響(木材等の有機物が有炎火の粉があるときの引
)。火の限界値が及ぶ範囲は380mと予測していることからも明らかである
なお,本件敷地と国家石油備蓄基地との距離は最短で2.3㎞であるとの控
訴人らの主張は,敷地境界と石油備蓄基地との最短距離を指しているものと
思われるが,火災の影響を考えるなら敷地境界との距離は意味がなく,本件
施設との距離を考えるべきである。
(7)本件施設の危険性その3(航空機の墜落事故)について
ア飛行規制等
本件施設から南方向約28㎞離れた位置にα3空港が,西方向約10㎞
離れた上空に「V11」と呼ばれる定期航空路が,南方向約10㎞離れた
位置に防衛庁等の訓練区域(α3対地訓練区域)があるが,本件施設から
いずれも十分に離れている。
本件施設を含む原子力施設付近上空の航空機の飛行規制については,自
衛隊機を含む我が国の航空機の場合航空法99条により国土交通大臣当,(
時は運輸大臣。以下同じ)により航空機乗組員に対して提供される情報。
(航空情報)の一つとして,国土交通省(当時は運輸省。以下同じ)が。
発行する「航空路誌(AIP)に「航空機による原子力施設に対する災」
害を防止するため,下記の施設付近の上空の飛行は,できる限り避けるこ
」,ととの指導事項及び原子力施設の位置等が掲載・公示されることにより
航空機乗組員に対して原子力施設付近上空の飛行規制が周知されている。
また,米軍機については航空法等の適用は受けないが,一般国際法上,あ
る国の軍隊は,他国に駐留する場合,駐留国における公共の安全に妥当な
考慮を払って活動すべきものであるとされている上,従来より政府から米
軍に対して「航空路誌」に係る情報が事実上提供されるとともに,原子力
。,施設付近上空の飛行規制について徹底するよう要請してきているそして
この点については,昭和63年6月30日に開催された日米合同委員会に
おいて,米国側代表より「原子力施設付近の上空の飛行については在日,
米軍としては従来より日本側の規則を遵守してきたが・・・改めて在日,
米軍内に右を徹底するよう措置する」との回答を得ている。飛行規制は,
飛行禁止等の絶対的な規制ではないが,米軍機及び自衛隊機を含めこれま
で実際上遵守されてきている。また,上記の飛行規制のほかにも,国土交
通省通達により,国土交通省令で定める最低安全高度以下の高度での飛行
を許可する航空法81条ただし書の許可は原子力施設付近の上空について
は行わないこととされ,航空機の姿勢を頻繁に変更する飛行等を許可する
航空法92条1項ただし書の許可は本件施設を中心とする半径2海里の空
域のうち対地2000フィート以下の空域では行わないよう運用されてい
るなど,航空機による原子力施設に対する災害を防止するため各種の措置
が講じられている。
このようなことから,本件安全審査においては,航空機が本件施設に墜
落する可能性は極めて小さいと判断された。
イ航空機墜落の影響
(ア)評価条件
本件安全審査においては,訓練中の航空機が万一本件施設の安全上重
要な施設に墜落したとしても,一般公衆に対する影響は小さいことを確
。,認した訓練中の航空機の墜落の影響を評価する上で設定された条件は
次のとおりである。
航空機の機種は,α3対地訓練区域で射爆撃訓練を実施している航空
機のうちα3基地に最も多く配属されている防衛庁のF1戦闘機及び米
軍のF16戦闘機とする。航空機の墜落の影響を評価する施設は,安全
上重要な施設のうち取り扱うウランの性状及びウラン保有量を考慮し
て,ウラン濃縮建屋のうちの発回均質棟及びカスケード棟並びにウラン
貯蔵建屋のうちウラン貯蔵庫とする。航空機は,東西12㎞,南北4.
5㎞の訓練コース上を飛行中,エンジン故障等によりコースを外れ本件
施設まで滑空し衝突するものとして,衝突速度を150m/s(540㎞/
h)とする。墜落を想定する航空機の重量は,F1戦闘機,F16戦闘
機の通常想定される訓練時の重量に余裕をみて16tとする。航空機の
。,墜落時には燃料油による火災が発生するものとして評価する燃料油は
F1戦闘機に比べ機内燃料油の多いF16戦闘機の機内燃料油全量約4
m3とする。なお,外部燃料タンク中の燃料及び翼中の燃料は施設への
衝突時に建屋外で飛散するものと考えられる。
(イ)発回均質棟の安全性
ウラン濃縮建屋のうち発回均質棟については,約90㎝の屋根・壁厚
を有する鉄筋コンクリート構造となっているため,次のような評価結果
に基づき,仮に航空機が発回均質棟に衝突しても貫通せず,また,鉄筋
コンクリート版が破壊することもないので,その健全性は確保されるも
のと判断した。すなわち,鉄筋コンクリート構造部の貫通限界厚さ(飛
来物が衝突対象となる構造物に衝突した際の貫通しない限界の版厚)の
評価では,機体に比べ剛性の高いエンジンを対象とし,その評価方式と
してDegen式を用いる。この評価方式は,剛飛来物(飛来物が衝突する
構造物に比較して相対的に堅く変形しにくい飛来物)に対する評価式で
あるため,エンジンの柔性を考慮した衝突実験から求めた柔飛来物(飛
来物が衝突する構造物に比較して相対的に柔らかく変形しやすい飛来
物)の低減効果を考慮したところ,貫通限界厚さは約80㎝となり,エ
ンジンが鉄筋コンクリートの構造部を貫通することはない。また,発回
均質棟の屋根・壁厚を90㎝とした場合について,航空機墜落時の衝撃
荷重に対する有限要素法(連続体を有限個の要素の集合体に理想化して
未知量を求める,構造解析等に使われる解析方法)による応答解析を行
った結果,衝突部のコンクリート圧縮破壊及び鉄筋破断による鉄筋コン
クリート版の破壊はない。
(ウ)ウラン貯蔵庫のウラン漏洩量と被曝線量
ウラン貯蔵建屋のうちウラン貯蔵庫については,航空機が衝突した場
,,合には建屋を貫通しその健全性は失われるものと判断されることから
安全審査上,進んで事故の際の六フッ化ウランの漏洩量を検討する必要
があるが,漏洩量の算定に当たって前提とした条件は,おおむね次のと
おりである。すなわち,ウラン貯蔵庫は鉄筋コンクリート構造のため,
航空機が墜落した場合,機体の翼部等は衝突面で飛散するので,胴体部
が建屋を貫通するものとした。貫通した胴体部によりシリンダは損傷す
るが,シリンダは厚い鋼製であることから大きな損傷はないと考えられ
る。シリンダの損傷本数は,衝突部周辺への波及も考慮し,安全側に余
裕をもたせるため,翼部等を含む機体の平面全投影面積に安全余裕を見
込んだ約90㎡の範囲の製品シリンダの全数である15本とする。航空
機は,屋根又は壁にある程度の角度をもって衝突すると考えられるが,
安全側に余裕をもたせるため,直角に衝突するものとする。航空機の墜
落時に燃料油は霧状に飛散し,建屋衝突面で瞬時に爆燃し,火災は短時
間で終了するが,安全余裕を見込んで,機内保有燃料油全量が建屋内の
,。傾斜した床面に流出し燃焼するものとして火災の継続時間を評価する
火災継続時間は,燃料油の床面の拡がりと燃料油の燃焼速度を考慮する
と約3分程度と評価されるが,余裕をみて約6分とする。火災継続時間
中の火炎からの放射熱は約2万5000kcal/㎡h(キロカロリー毎平方
メートル時)であり,すべての放射熱を床面上の損傷シリンダが全表面
で受けるものとする。
上記の条件に基づいて解析すると,シリンダ内の六フッ化ウランの温
度が昇華温度56.5度に至り,その後六フッ化ウランが昇華漏洩する
こととなり,その結果,漏洩量は約3Ciとなる。また,漏洩した六フッ
化ウランは,空気中の水分と反応して,固体状のフッ化ウラニルとなる
が,この大部分は重力による沈降及び壁等への付着により建屋内に残留
すると考えられること,及び建屋の破損の程度は小さいことから,ウラ
ン貯蔵庫の建屋外への漏洩量は,シリンダから漏洩した六フッ化ウラン
の10分の1の約0.3Ciとなる。
次に,一般公衆に対する被曝線量の評価に当たっては,以下のような
方法を用いた。すなわち,建屋外に漏洩したフッ化ウラニルは,本来,
重力による沈降を伴いながら敷地内に拡散するが,安全余裕を見込んで
この重力による沈降を考慮に入れないで,気象指針に準拠し,本件許可
申請書の添付書類3に記載された気象データを用いてフッ化ウラニルの
拡散を評価した。その結果,敷地の境界における最大相対濃度は5.7
2×10−8h/m3(時毎立方メートル)となり,さらにこれを用いて
一般公衆に対する被曝線量を評価した結果,約0.06rem(レム)とな
った。この一般公衆に対する被曝線量は,ウランの濃縮度を5%とし,
ICRP(国際放射線防護委員会)のPub.30に基づく線量換算係
数2.7×106rem/Ci(レム毎キュリー,ICRPのPub.23に)
基づく標準人の呼吸率1.2m3/h(立方メートル毎時)を用いて算定し
た。この0.06remという値は,本件許可処分時における一般公衆の一
人当たりの許容被曝線量である年間0.5rem(5mSv)及び現在の一般
公衆の線量当量限度である一人当たりの被曝線量(線量当量)である年
間0.1rem(1mCv)と比べても小さい値であり,一般公衆への被曝に
よる影響は小さく,健康に障害をもたらすことはない。
理由
第1当裁判所の判断の概要
当裁判所は,原審が原告適格を認めた控訴人P4(53,同P5(64,))
同P6(65,同P7(66,同P8(67,同P9(69,同P10(7))))
0及び同P1173の8名のほか控訴人P4048及び同P415)(),()(
8)の両名も原告適格を有するが,その余の控訴人らは,本件許可処分の無効確
認ないし取消しを求めるにつき原告適格を有しないからその訴えは不適法として
いずれも却下するのが相当と判断し,また,原告適格を有する者の本件許可処分
の無効確認請求及び取消請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものと
判断する。
その理由は,原判決543頁9行目から同561頁5行目まで及び同571頁
2行目から同9行目まで(原告適格の部分)を次の第2のとおり改め,原判決の
「()」,その余の部分について別紙2原判決の訂正等判断のとおり訂正等を行い
第3以下に当審における当事者の主張(原告適格を除く)に対する当裁判所の。
判断を加えるほかは,原判決の事実及び理由欄の「第三部主位的請求に対する
判断(原判決542頁1行目から同570頁11行目まで)及び「第四部予」
備的請求に対する判断(原判決571頁1行目から同972頁11行目まで)」
に記載のとおりであるから,これを引用する。
第2原告適格について
1行訴法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当
該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分に
より自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害
されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定
多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それ
が帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含
むと解される場合には,かかる利益もここにいう法律上保護された利益に当た
,,り当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は
当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無
を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによる
ことなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利
益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考
慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその
趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,
当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利
益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものであ
る(最高裁判所平成17年12月7日大法廷判決・裁判所時報1401号2頁
参照。)
,,,また行訴法36条は無効等確認の訴えの原告適格につき規定しているが
同条にいう当該処分等の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する
者」の意義についても,上記の取消訴訟の原告適格の場合と同義に解される。
2かかる見地に立って,本件許可処分の無効確認ないし取消しを求める原告適
格についてみるに,規制法は,原子力基本法の精神にのっとり,核原料物質,
核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計
画的に行われることを確保し,あわせてこれらによる災害を防止して公共の安
全を図るために,製錬,加工,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び
運転等に関する必要な規制を行うことなどを目的として制定されたものである
(規制法1条。)
そして,規制法13条1項に基づく加工事業の許可申請に対する許可権者で
ある内閣総理大臣(現在は経済産業大臣)は,許可申請が同法14条1項各号
に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならず,また,上記許可
をする場合においては,あらかじめ,同項1号及び2号(経理的基礎に係る部
分に限る)に規定する基準の適用については原子力委員会,同項2号(技術。
的能力に係る部分に限る)及び同項3号に規定する基準の適用については,。
核燃料物質及び原子炉に関する安全の確保のための規制等を所管事項とする原
子力安全委員会の意見を聴き,これを十分に尊重してしなければならないもの
とされている(規制法14条2項。なお,平成11年法律第160号による改
正により,同条2項は単に「意見を聴かなければならない」とされたが,そ。
の実質が変更されたものではないと解される。また,同法14条1項各号。)
所定の許可基準のうち,2号(技術的能力に係る部分に限る)は,当該申請。
者が加工事業を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かにつき,ま
た,3号は,当該申請に係る加工施設の位置,構造及び設備が核燃料物質によ
る災害の防止上支障がないものであるか否かにつき,審査を行うベきものと定
めている。
加工事業許可の基準として,上記の2号(技術的能力に係る部分に限る)。
及び3号が設けられた趣旨は,加工施設が,原子核分裂の過程において高エネ
ルギーを放出するウラン等の核燃料物質を多量に内部に保有し,これを原子炉
に燃料として使用できる形状又は組成とするために物理的又は化学的方法によ
り処理する施設であって,加工事業を行おうとする者がその事業を適確に遂行
するに足りる技術的能力を欠くとき又は加工施設の安全性が確保されないとき
は,当該加工施設の従業員のみならず,その周辺住民等の生命,身体に重大な
危害を及ぼし,周辺の環境を放射性物質によって汚染するなど,深刻な災害を
引き起こすおそれがあることにかんがみ,このような災害が起こらないように
するため,加工事業許可の段階で,加工事業を行おうとする者の上記技術的能
力の有無並びに申請に係る加工施設の位置,構造及び設備の安全性につき十分
な審査をし,上記の者において所定の技術的能力があり,かつ,加工施設の位
置,構造及び設備が上記災害の防止上支障がないものであると認められる場合
でない限り,内閣総理大臣は加工事業許可処分をしてはならないとした点にあ
る。
そして,規制法14条1項2号所定の技術的能力の有無及び3号所定の安全
性に関する各審査に過誤,欠落があり,その結果,事業を行う者が所定の技術
的能力を欠き,又は加工施設が安全性を欠くものとなった場合には,臨界事故
や核燃料物質の漏出等の重大な事故が起こる可能性があり,そのような事故が
起こったときは加工施設に近い住民ほど被害を受ける蓋然性が高く,しかも,
その被害の程度は,より直接的かつ重大なものとなるのであって,特に,加工
施設の近くに居住する者はその生命,身体に直接的かつ重大な被害を受けるも
のと想定されるのであり,規制法14条1項2号の技術的能力の規定や同項3
号の規定は,このような加工施設の事故がもたらす災害による被害の性質を考
慮した上で,事業者の技術的能力及び加工施設の安全性を要求しているものと
。(。)解されるこのような規制法14条1項2号技術的能力に係る部分に限る
及び3号の規定の趣旨やこれらの規定が想定しているとみられる被害の性質等
にかんがみると,これらの規定は,単に公衆の生命,身体の安全,環境上の利
益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず,上記事故がもたらす災
害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命,
身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含む
と解するのが相当である(最高裁判所平成4年9月22日第三小法廷判決・民
集46巻6号571頁(もんじゅ最高裁判決)参照。)
したがって,本件施設について想定される事故によって直接的かつ重大な被
害を受けることが想定される範囲の住民は,本件許可処分の無効確認ないしは
取消しを求めることにつき原告適格を有するものというべきである。
なお,控訴人らは,加工事業がその経理的基礎を欠けば安全設計に則った施
設の建設から機器の設置に至る加工事業の安全確保は実現されず,また,加工
事業に関わる人的資源の質的・量的確保,保安規定の遵守,施設や機器類の保
守,修繕,維持,管理等も十分に図れないこととなり,結果として加工施設の
災害防止に支障を来すことになるなどとして,本件の原告適格を判断するに当
,。たっては規制法14条1項2号の経理的基礎も勘案すべきであると主張する
そこで,規制法14条1項1号及び2号(経理的基礎に係る部分に限る)の。
規定についてみるに,同法13条1項に基づく加工事業の許可申請に対する許
可権者である内閣総理大臣は,許可申請が同法14条1項各号に適合している
と認めるときでなければ許可をしてはならず,また,上記許可をする場合にお
いては,あらかじめ,同項1号及び2号(経理的基礎に係る部分に限る)に。
規定する基準の適用については核燃料物質及び原子力に関する規制のうち安全
確保のためのもの以外の事項等を所管事項とする原子力委員会の意見を聴くこ
ととされている。そして,同条1項1号は,当該申請に対し許可をすることに
よって加工の能力が著しく過大にならないか否かについて,2号(経理的基礎
に係る部分に限る)は,当該申請につき加工事業を適確に遂行するに足りる。
経理的基礎を有するか否かについて,審査を行うベきものと定めている。この
,,1号が設けられた趣旨は我が国の原子力事業が専ら平和目的にのみ利用され
その範囲内で行われることを確保することによって,将来におけるエネルギー
資源の確保を図りつつ人類の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することにあ
ると解され,また,2号(経理的基礎に係る部分に限る)が設けられた趣旨。
は,加工事業者につき事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎を要求するこ
とによって,多額の資金を要する加工事業の円滑な遂行の確保,すなわち,災
害を防止し,公共の安全を図りつつ,国家的かつ長期的視野に立ったエネルギ
。,ー資源の確保を図ることにあると解されるこのような規定の趣旨に照らすと
1号については加工施設周辺の住民の個別的利益を保護する趣旨を含まないこ
とは明らかであるし,2号(経理的基礎に係る部分に限る)についても,加。
工事業の円滑な遂行という一般的公益を保護しようとするにとどまり,それ以
上に,加工施設周辺の個々の住民の生命,身体の安全その他の利益を個々人の
個別的利益として直接的に保護する趣旨の規定ではないと解される。また,仮
,,に本件許可処分に経理的基礎の要件を誤った違法があるとしても原告適格は
根拠となる法令に対して処分がどのような形で違反するにせよ結局は害される
こととなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度を勘案して
判断されるべきものであるところ,経理的基礎を欠くがために起こり得る本件
施設の事故と事業を適確に遂行するに足りる技術的能力を欠き,又は加工施設
の安全性が確保されないために起こり得る本件施設の事故との間に被害の態様
・程度に相違があるものということもできないから,原告適格の判断の実質に
影響を及ぼすものでもない。したがって,原告適格を判断するに当たっては,
規制法14条1項2号の経理的基礎の有無を勘案することは要しないものとい
うべきである。
3次に,控訴人らが本件施設において想定される事故によって直接的かつ重大
な被害を受けることが想定される範囲の住民に当たるといえるか否かについて
みるに,この点については,本件施設の種類,構造,規模等の本件施設に関す
る具体的な諸条件を考慮に入れた上で,控訴人らの居住する地域と本件施設の
位置との距離関係を中心として,社会通念に照らし,合理的に判断すべきもの
と解するのが相当である(もんじゅ最高裁判決参照。そこで,これらの点に)
ついてみるに,前記前提事実等(特に原判決11頁5行目から同38頁5行目
まで)に証拠(甲2,3,97,477,乙1,7ないし9,75)及び弁論
の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(1)本件施設について
ア本件施設の事業
ウランには,ウラン238,ウラン235,ウラン234の3種類の同
位体があるが天然ウランは核分裂性が極めて低いウラン238が99.,,
27%を占めており,核分裂性が高いウラン235は約0.72%を占め
ているにすぎないところ,本件施設は,天然ウランとフッ素の化合物であ
る六フッ化ウランを原料とし,遠心分離法を用いてウラン235の濃度を
発電用原子炉の燃料として使用し得る程度(2%ないし4%)に濃縮する
事業を行うための施設である。
実際にウラン鉱石を原子炉用燃料にまでするには,①ウラン鉱石からウ
ランを取り出して精製を行い,イエローケーキと呼ばれる八酸化三ウラン
のウラン精鉱にする「製錬」の工程,②八酸化三ウラン等のウラン化合物
を六フッ化ウランにする「転換」の工程,③六フッ化ウラン中のウラン2
35の占める割合を高める「濃縮」の工程,④濃縮された六フッ化ウラン
を成形加工するために粉末状の二酸化ウランにする「再転換」の工程,⑤
粉末状の二酸化ウランを焼き固め,ペレットと呼ばれる状態にし,これを
金属製の被覆管に封じ込め,原子炉に装荷するための燃料集合体として組
み立てる成形加工の工程などがあるが本件施設はこのうち③の濃「」,,「
縮」の工程のみを行うものであり,その他の工程は行わない。
イ本件施設での具体的作業
本件施設には,中央操作棟,発回均質棟(発生回収室と均質室)及びカ
スケード棟のあるウラン濃縮建屋,ウラン貯蔵庫及び搬出入棟のあるウラ
ン貯蔵建屋,ウラン濃縮廃棄物建屋,ディーゼル発電機室のある補助建屋
があるところ,ウラン濃縮の原料となる六フッ化ウラン(原料六フッ化ウ
ラン)は,原料シリンダと呼ばれる鋼鉄製容器(長さ約3.7m,胴径約
1.2m,板厚約1.6㎝,最大充填量約1万2500㎏)に入れられて外
部から搬入され,本件施設内のウラン貯蔵庫で一時保管される。
その後,原料六フッ化ウランの入った原料シリンダを発生回収室にある
発生槽に装着し,シリンダ内の圧力及び発生槽内の温度を測定して原料六
フッ化ウランの純度を調べ,純度が低い場合は必要に応じてシリンダ内の
不純ガスを含む気体を排出する脱気を行い,原料六フッ化ウランの純度を
高める。
次に,発生槽に装着した原料シリンダを温水で加熱することにより原料
六フッ化ウランを気化し,六フッ化ウランガスにする。この六フッ化ウラ
ンガスは,配管によりカスケード設備に送られ,多数の遠心分離機にかけ
られることによりウラン235の占める割合が大きくなった六フッ化ウラ
ンガス(製品六フッ化ウランガス)とウラン235の割合が減少した六フ
ッ化ウランガス(廃品六フッ化ウランガス)に分離される。なお,カスケ
ード設備内では,六フッ化ウランガスは大気圧以下で取り扱われ,遠心分
離機も真空気密性能が保たれ,六フッ化ウランガスが外部に漏洩すること
はない構造になっている。
カスケード設備で分離された製品六フッ化ウランガスは,コールドトラ
ップ(六フッ化ウランガスを冷却し凝固させて捕集する設備)により製品
六フッ化ウランとして捕集される。捕集された製品六フッ化ウランは,コ
ールドトラップを加熱することにより再び気化された後,冷却した,中間
製品容器と呼ばれる鋼鉄製容器に入れられる。また,コールドトラップで
捕集されなかった微量の六フッ化ウランは,排気系統においてケミカルト
ラップにより捕集される。他方,カスケード設備で分離された廃品六フッ
化ウランガスは,廃品コンプレッサで昇圧された後,冷却した,廃品シリ
ンダと呼ばれる鋼鉄製容器(長さ約3.7m,胴径約1.2m,板厚0.8
㎝,最大充填量約1万2700㎏)に移送され,回収される。
製品六フッ化ウランの入った中間製品容器を均質槽に装着し,加圧しな
,,。がら加熱することにより製品六フッ化ウランを液化し均質化がされる
この液体状態の製品六フッ化ウランの一部をサンプルシリンダに抜き出す
等して濃縮度や純度の測定を行う。製品六フッ化ウランの均質処理がされ
た中間製品容器は再び冷却される。この均質処理の工程は,本件施設内に
おける最も高温高圧の条件下で六フッ化ウランを取り扱うものであり,最
高使用温度は94℃,その場合の六フッ化ウランの飽和蒸気圧は1㎝2当
たり2.7㎏重,すなわち約2.6気圧になる。
均質処理及び濃縮度測定が終わった製品六フッ化ウランは,必要に応じ
て他の六フッ化ウランと混合する方法によりウラン235の混合割合が5
%未満の一定の濃縮度になるよう濃縮度調整を行い,この濃縮度調整を終
えた六フッ化ウランの入った中間製品容器については再度均質処理及び濃
縮度測定を行い,均質処理及び濃縮度測定が終わった製品六フッ化ウラン
は,中間製品容器に入れられたまま加熱され,気化されて製品六フッ化ウ
ランガスになり,冷却された,製品シリンダと呼ばれる鋼鉄製容器(長さ
約1.9m,胴径約76㎝,板厚約1.3㎝,最大充填容量2277㎏)に
充填される。
上記のような遠心分離法によるウラン濃縮技術は,各種の試験研究や技
術開発を経て実用化されており,本件施設は,それらの研究開発の成果を
踏まえて建設された商業プラントである。
ウ六フッ化ウランの性質等
,,本件施設においては濃縮ウランとは製品六フッ化ウランのことであり
劣化ウランとは廃品六フッ化ウランのことであり,天然ウランとは原料六
フッ化ウランのことであって,正常な工程中における本件施設内のウラン
はいずれも六フッ化ウランの形で存在する。
六フッ化ウランは,ウランとフッ素の化合物の一つであり,不燃性で爆
発性もないが,腐食性を有する放射性物質である。大気圧下では,常温で
は白色の固体であり,56.5℃で昇華するが,加圧して加熱すると液化
する。また,水と反応してフッ化水素とフッ化ウラニルという物質を生ず
る。
ウラン等の放射性物質は,アルファ線,ベータ線,中性子線及びガンマ
線等の放射線を発するが,これらの放射線を外部被曝(体外にある放射性
)()物質による被曝や内部被曝体内に取り込まれた放射性物質による被曝
の形で被曝すると,人体に様々な悪影響があり,特に,短期間に高レベル
の線量の放射線を被曝すると急性障害を来たし,時には造血組織の障害等
により死に至ることがある。また,急性障害を来さない場合でも長期間経
過後に白血病やその他のがんを発症させることがあり,また,生殖細胞中
にある遺伝子に変化を来すこともある。なお,アルファ線やベータ線は,
空気中でも透過力は弱く,数㎝ないし数m程度しか透過することができな
いが,中性子線やガンマ線は透過力が強く,条件によっては数㎞程度の距
離に達することがある。透過力の弱いアルファ線等も内部被曝の場合は人
体に様々な悪影響を及ぼす。
核分裂反応が連鎖的に生じる臨界状態になると,膨大な熱エネルギーと
共に放射線を大量に放出し,極めて危険な状態となる。ウラン235の占
める割合が小さな原料六フッ化ウランや廃品六フッ化ウランでは臨界状態
(,になることはないがウラン235の占める割合が0.95%以下の場合
いかなる条件下でも臨界にならない,製品六フッ化ウランや濃縮過程。)
にある六フッ化ウランは,濃縮割合が0.95%を超えるため,所与の条
件下では臨界状態になり得る。しかし,本件施設において想定された作業
工程自体によっては臨界状態になることはない。
本件許可申請書における本件施設のウランの最大貯蔵能力は,濃縮ウラ
ン162t(貯蔵専用区域85t,加工工程内77t,天然ウラン51)
0t,劣化ウラン1810tである。
エ本件施設において想定され得る事故
本件許可申請書においては,一般公衆に対して最も被害をもたらす事故
として,製品六フッ化ウランの入った中間製品容器を均質槽に装着し,加
圧しながら加熱する過程で均質槽外部の緊急遮断弁に接続している配管が
破損し,ここから製品六フッ化ウランが漏出する事故が想定されている。
加圧されているため,配管等の機器が破損すると濃縮後の六フッ化ウラン
が周囲に飛散し,発回均質棟の外に漏出する可能性がある。臨界事故が発
生した場合,大量の放射線が放出されるが,透過力の強い中性子線やガン
,。マ線も距離のほぼ二乗に反比例して減衰するためその影響は限定される
(2)控訴人らの住居等
本件施設から10㎞以内にある町村としては,青森県上北郡α1,同郡α
2,同郡α5,同郡α6がある。また,控訴人らの住所地と本件施設との距
,(),離をみると青森県上北郡α7に居住する控訴人P564が約1.5㎞
同村α8に居住する控訴人P10(70)が約6.5㎞,同村α9に居住す
(),(),る控訴人P766が約9㎞同村α10に居住する控訴人P665
同P8(67,同P9(69)及び同P11(73)が約13ないし14.)
5㎞,青森県上北郡α11に居住する控訴人P4(53)が約15.5㎞,
青森県上北郡α12に居住する控訴人P40(48)が約22㎞,青森県上
北郡α13に居住する控訴人P41(58)が約23.5㎞であって,その
余の控訴人らの住所地は,上記10名の控訴人らよりも本件施設からの距離
が離れている。
4上記3の事実に基づいて勘案するに,本件施設で加工貯蔵される製品六フッ
化ウランは,天然ウランと比較すれば核分裂性の高いウラン235の占める割
合が大きいこと,ウラン等の放射性物質から発せられる放射線は人体に極めて
有害であり,被曝すると死に至ることがあり,死に至らないまでも急性障害や
がん等の疾患を発病させたり,遺伝子に変異をもたらす危険があること,本件
施設内の均質処理工程の設備・機器が破損すると六フッ化ウランが本件施設の
。,,内外に漏出する可能性があることが認められるしたがって他の外部的要因
例えば航空機の落下等によって発回均質棟が破壊されるとともに,均質処理の
設備・機器等が破壊され,これに航空機燃料の爆燃が加わるような事故を想定
すると,かなり広い範囲に六フッ化ウランないしフッ化ウラニルなどの放射性
物質が飛散する可能性があるものと思われる。
他方,本件施設で生産される製品六フッ化ウランでも,その濃縮度は5%未
満であり,六フッ化ウランそれ自体は,常温で固体であり,不燃性で爆発性も
ないこと,本件施設は,原子力エネルギーを発生利用する施設ではなく,構造
設備はむしろ一般の工業プラントに類するもので,六フッ化ウランを未臨界の
状態のまま加熱,遠心分離,冷却固化,圧縮及び液化するのみの,さほど複雑
とはいえない工程のものであり,その作業工程自体では臨界状態が生ずるおそ
れはないこと,仮に臨界状態になったとしても放出される中性子線やガンマ線
の達する距離は数㎞程度であり,しかも,これらの放射線は距離のほぼ二乗に
反比例して減衰すること,遠心分離法によるウラン濃縮技術は,各種の試験研
究や技術開発を経て実用化されており,本件施設はそれらの研究開発の成果を
踏まえて建設された商業プラントであることなどが認められる。これらのこと
を勘案すると,もともと臨界状態を生じさせることにより膨大な原子力エネル
ギーを発生させることを目的としている原子炉施設において想定される事故の
被害と比較すると,本件施設で想定される事故の被害は格段に小さいものとい
える。航空機燃料が発回均質棟内で爆燃するというような希有な事態を想定し
ても,六フッ化ウラン自体は不燃性で爆発性もないことからすると,放射性物
質の直接的な飛散は限られた範囲にとどまるものというべきである。
上記のような本件施設の種類,構造,規模等の本件施設に関する具体的な諸
条件を考慮すると,本件施設において想定される事故によって直接的かつ重大
な被害を受けることが想定されるのは,最大でも本件施設から20㎞前後の範
囲内に居住する住民に限られるものというべきである。
したがって,本件許可処分を行うに当たって規制法14条1項2号所定の技
術的能力の有無及び3号所定の安全性に関する各審査に過誤,欠落がある場合
に発生すると考えられる事故によって,直接的かつ重大な被害を受けるものと
想定され,それゆえ,本件許可処分の無効確認,取消しを求めるにつき原告適
格を有するものは,控訴人らのうち,本件施設から20㎞前後の範囲内に居住
する控訴人P4(53,同P5(64,同P6(65,同P7(66,))))
同P8(67,同P9(69,同P10(70)及び同P11(73)並))
びに控訴人P40(48)及び同P41(58)の10名に限られ,上記範囲
内に居住していないその余の控訴人らは,本件許可処分の無効確認,取消しを
求めるにつき原告適格を有しないものというべきである。
5被控訴人は,規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る)及び。
3号の保護利益に関し,本件施設の周辺住民の居住する地域が加工施設の事故
等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であ
るか否かについて,本件施設の潜在的危険性は原子炉施設と比較すると比べよ
うのないほど小さいとして,上北郡α1内も含め控訴人らの居住する地域はい
ずれも本件施設の放射能汚染事故により直接的かつ重大な被害を受けるものと
想定されるとはいえない旨を主張する。
しかしながら,原告適格を判定するに当たって想定すべき事故は,本件施設
において加工事業を行おうとする者が所定の技術的能力を欠き又は加工施設に
安全性の基準が確保されていないとした場合に社会通念上の観点から本件施設
に発生すると想定すべき事故であって,それら技術的能力や安全性の基準が満
たされていることを前提に技術上の観点から本件施設に発生すると想定される
事故ではない。それゆえ加工施設の種類,構造,規模等と住民の居住する地域
と加工施設の位置との距離関係を中心として,社会通念に照らして合理性の見
地から判断されるものであり,それで足りるのである。前記3で認定した事実
関係を踏まえて検討する限り,被控訴人が主張するように本件施設の潜在的危
険性が原子炉施設に比して格段に小さいといえるにしても,なお,六フッ化ウ
ランないしフッ化ウラニルなどの放射性物質が本件施設外に漏出する可能性自
体は否定し難いのであり,本件施設から20㎞前後の範囲内に居住している住
民について放射性物質の被曝を受ける事故が想定し得ないとはいえない。した
がって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
6控訴人らは,規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る)及び。
3号の保護利益に関し,本件施設の事故等による災害により直接的かつ重大な
被害を受けるものと想定される地域は,放射性物質の大気中への拡散式と摂取
モデルにより算出した被曝量を根拠に,本件施設から半径600㎞以上の範囲
にも及ぶと主張する。
しかしながら,上記の算定及びその妥当性の裏付けとなるに的確な証拠はな
いというべきである控訴人らが提出する原子力資料情報室上澤千尋作成のP。「
14・P2ウラン濃縮工場の大規模放射能漏えい事故時の災害評価」と題する
書面(甲660)は,航空機が貯蔵建屋に墜落し15本の製品シリンダ(鋼鉄
製)内の34tの六フッ化ウラン全量が建屋内に漏出するとするが,どのよう
な航空機事故によってそのようなことが発生するのか定かではなく,また,六
フッ化ウラン(UF6)が空気中の水分と反応して生じるフッ化ウラニル(U
O2F2)全量が当然に二酸化ウラン(UO2)に変化し霧状になって大気中
に拡散するとするが,どのような機序でそのような変化が生じるのかも定かで
はなく,さらに,発生した二酸化ウランのおおよそ半分が建屋外に漏出すると
するが,その的確な算定根拠も示されていない。したがって,上記書面の内容
は採用し難い。なお,時間の長短,量の多寡等の一切を問わないとすれば,何
らかの事故によって本件施設から放出された微量の放射性物質が長い年月をか
けて周辺に広範囲に拡散するということも考えられないわけではないが,この
ようなことは,直接的かつ重大な被害ということはできないのであり,このこ
とをもって規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る)及び3号。
の保護利益との関係で個々人の個別的利益として保護されるものということは
できない。
,,(。)また控訴人らは規制法14条1項2号経理的基礎に係る部分に限る
が,加工施設の災害防止を資金面から担保し,もって周辺住民個々人の利益を
,,も保護する趣旨のものであると主張するが原告適格を判断するに当たっては
経理的基礎の有無を勘案することを要しないことは,前記2のとおりである。
したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。
第3ウラン濃縮と規制法13条1項の「加工」について
1控訴人らは,ウラン濃縮は規制法13条1項にいう「加工」に当たらず,本
件許可処分は何ら法令の根拠がないにもかかわらずされた無効な処分である旨
主張する。
そこで勘案するに,規制法2条6項(現在の同条7項)は「加工」を「核,
燃料物質を原子炉に燃料として使用できる形状又は組成とするために,これを
。」。,物理的又は化学的方法により処理することをいうと定義しているそして
,,,同条2項は核燃料物質につき原子力基本法3条2号に規定する核燃料物質
すなわち「ウラン,トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出
する物質であって,政令で定めるもの」と定義し,上記政令の定めである核燃
料物質,核原料物質,原子炉及び放射線の定義に関する政令(昭和32年政令
第325号)1条は,1号として「ウラン235のウラン238に対する比率
が天然の混合率であるウラン及びその化合物」を掲げている。
しかるところ,前記前提事実等によれば,本件施設は,ウラン235のウラ
ン238に対する比率が天然の混合率であるウランの化合物である六フッ化ウ
ランという核燃料物質を取り扱う施設で,その事業目的は,軽水炉の燃料とし
て使用できるようにウラン中のウラン235の存在比率を天然ウランより高め
た濃縮ウランを製造することにあり,そこで用いられる濃縮方法は,高速で回
転する円筒中に働く遠心力という物理作用を利用してウラン238とは質量数
の異なるウラン235を円筒の内側に多く集め取り出す遠心分離法である。
そうすると,本件施設で行われるウラン濃縮は,核燃料物質である六フッ化
ウランを,原子炉である軽水炉で燃料として使用できるウラン235の高い組
成の濃縮ウランとするために,遠心分離法という物理的方法により処理するも
のということができるから,文理解釈上,規制法2条6項にいう「加工」に該
当するものというべきである。
2控訴人らは,濃縮とは「核燃料物質に含まれる特定の同位体の比率を変える
」,「」,操作であって核燃料物質の形状や組成を変えることには含まれないし
また「操作」は処理とはいえない旨主張する。,
しかしながら,規制法は,ウラン等の「核燃料物質」を濃縮ウラン等を使用
する「原子炉」に燃料として使用できるような「組成」とすることを加工と定
義しているのであるから,ここにいう組成が,同位体の比率を変える濃縮をも
含むことは当然に予定されているというべきであるし,同位体の比率を変える
ことを「処理」というのも何ら不自然なことではない。
また,控訴人らは,ウラン濃縮技術には軍事転用の危険性があるところ,規
制法24条が原子炉設置の許可基準として,同44条の2が再処理事業者の指
定基準として,いずれも「平和の目的以外に利用されるおそれがないこと」を
掲げているのに対して,加工事業ないし加工事業者の許可基準として平和利用
の要件を要求していないということは「加工」には濃縮が含まれないことを,
当然の前提としたものである旨を主張する。
しかしながら「原子炉」や「再処理」については,その定義中にその利用,
目的が定められていないところ(規制法2条4項,7項参照「加工」につ),
いては,その定義中に既に「原子炉に燃料として使用できる形状又は組成とす
るために」とされ,そして,原子炉の設置許可基準には平和利用目的が要求さ
れているのであるから「加工」についてはその定義だけで平和利用目的のた,
めのものであることが明記されているというべきであって,加工事業について
改めて平和利用目的に限定する許可基準がないからといって「加工」に濃縮,
が含まれていないことの根拠にはならない。そのほか控訴人らが文理解釈とし
て主張するところもいずれも採用し難い。
,,,3次に控訴人らは規制法の立法者は国内での濃縮を想定していなかったし
政府もそのことを認めていた旨を主張する。
しかるところ,証拠(甲317の1)によれば,規制法は,昭和32年6月
10日成立したものであるところ,昭和32年5月6日,第26回国会衆議院
科学技術振興対策特別委員会の,ウラン燃料入手の見通しに対する参考人P4
2原子力委員会委員の説明内容は「燃料の中に天然ウランと濃縮ウランとあ,
るわけでありますが,おそらく濃縮ウランは国際原子力機関等を通じて得られ
ると思いますけど,これは発足して間もないことでございますし,かりにもう
2,3年待たないとはっきりしないと思います。これに反しまして天然ウラン
,,,の方はこれは今の趨勢から申しますと外国から輸入するにいたしましても
鉱石ならばこれを輸入することは比較的楽になるような世界情勢になるのでは
なかろうか,こういうふうに実は考えております」とし,同P43原子力委。
員会委員の説明内容は「アメリカは,もし一般協定をやりまして,日本が炉,
を買うような場合におきましては,10年でも20年でも保証するということ
を申しております・・・・,来年あつらえればいい炉を,2,3年先にあつ。
らえるということになりますと,今度は濃縮ウランなら濃縮ウランをもらう時
期が非常に短くなる,それでは困るという話をしましたら,それは保障すると
いうことを言っておりました」というものであったことが認められ,これら。
によれば,規制法制定当時,濃縮ウランを専ら外国又は国際機関より入手する
ことを前提とした説明がされていたものといえる。
しかしながら,証拠(甲632,653,乙18)によれば,我が国におい
ては昭和31年ころにウラン濃縮の基礎研究が始まり,昭和34年までには理
科学研究所で遠心分離法によるウラン濃縮1号機が試作されていたことが認め
られ,上記P42参考人やP43参考人の説明は,その質問の趣旨にかんがみ
れば,当時の濃縮ウランの入手の見通しを述べたにすぎず,そのような説明が
あったからといって,国内においてウラン濃縮を行うつもりがなかったことを
裏付けるものということはできない。
また,証拠(甲317の2,乙18)によれば,昭和32年5月18日の参
議院商工委員会における,P16政府委員による規制法の内容説明は「2番,
目は加工に関する規制,加工と申しますのは,天然ウラン等を実際に燃料とし
て原子炉に挿入する場合に,あるいはこれを液体化したり,あるいはアルミニ
ウム等をかぶせましてこれを燃焼しやすいようにするとか,あるいはいろいろ
形を変えまして,板状にするとか,あるいはアングル形態にするとかといった
ようなのが,加工事業に関する内容でございます」というものであり,旧科。
学技術庁の核燃料物質についての研究進行段階に対するP16政府委員の答弁
は「核燃料物質に関しましては,ただいまの段階では主として,天然ウラン,
の精錬,あるいは加工までの段階を中心にいたしまして研究試験所,あるいは
科研,あるいはP44の工業試験所等に依頼いたしまして2年以来研究を進め
ておるのでございます。ただ,いまではそういう成果を集大成する段階に至っ
ておりますので,原子燃料公社を中心にいたしまして過去の鍛えました技術を
。」アッセンブルいたしまして精錬工場を作りたいという段階に達しております
というものであったことが認められ,当時の時点において,研究の成果を集大
成して精錬工場を作る段階にあるという説明になっているといえる。
しかしながら,証拠(乙18)によれば,P16政府委員は,前記の説明の
直後に「それからもう1つは,濃縮ウランの問題でございますけれども,これ
は御承知のように非常に多額の費用と電気を要する事業でございまして,日本
ではなかなかすぐその段階に飛び込むにはむずかしいのでございますから,昨
年度,31年度からこれに対する基礎研究を始めようというので,東京の工業
大学に依頼いたしまして,その方面の研究をさしてございます」と説明して。
いることが認められるのであり,文脈を見る限り,積極的に濃縮が加工に入っ
ているとの説明をしてはいないものの,加工の中に濃縮が含まれないと説明し
たとみることはできない。
次に,証拠(甲596)によれば,昭和59年2月27日付けP45新聞に
掲載されたP46原子力委員会委員(当時)の「ウラン濃縮雑感」と題する文
章中には「歴史を振り返って1956年わが国最初の長期計画をみると,F,
BRが『わが国の国情に適するもの』として開発目標に取り上げられたのに反
し,ウラン濃縮については一言も触れられていない。それは隔膜法の事しか伝
え聞いていなかった当時,莫大な電力を必要とする濃縮ウランによって発電を
行うことは日本の国情に適わしくないと考えられたからであった・・・・・。
・・国の燃料対策も専ら米国との交渉によって如何に円滑に濃縮ウランを確保
するかと言うことにあった」と記載されていることが認められる。。
,,(),しかしながら上記記載も昭和31年1956年当時の我が国の国情
すなわち経済的,技術的事情に照らして,当面の開発目標として膨大な電力を
必要とするウラン濃縮は取り上げられなかったことをいうものにすぎず,我が
国においてウラン濃縮を行うことが経済的,技術的事情以外の理由で否定され
ていたということを示すものではないことは明らかである。現に,証拠(乙1
9)によれば,原子力委員会は,昭和31年9月6日付けで「原子力開発利用
長期基本計画」を内定し,その後,この内定計画を具体的な長期計画にするた
め種々の検討を加えた結果,発電用原子炉の研究開発に関する部分の長期計画
として昭和33年12月18日付けで「発電用原子炉開発のための長期計画」
を決定したこと,しかし,原子力委員会は,核燃料に関しては,昭和33年1
2月の時点においては技術的にも経済的にもまだ不確実な要素が多く定量的な
長期計画を決定するには至らないものの,核燃料開発に対する同委員会の考え
方を取りまとめることは必要であるとの考えから,同月24日付けで「核燃料
開発に対する考え方」を決定したこと,この決定は,核燃料開発の具体的な長
期計画を定めるための前提となる考え方を定めたものであるが,この中で「低
濃縮ウラン燃料を使用する動力炉の将来性にかんがみ,わが国においてもウラ
ン濃縮の技術を開発する必要がある。しかしながら,在来方式によるものは経
済性の見地からわが国情には必ずしも適するとは考えられないので,濃縮に有
利な性質をもった新ウラン化合物,新しい濃縮法等わが国に適した濃縮技術の
。」。,研究を強力に促進するとされたことが認められるのであるこれによれば
原子力委員会は,昭和31年9月に内定した「原子力開発利用長期基本計画」
を具体的な長期計画にするため種々の検討を加え,その結果,発電用原子炉の
開発については昭和33年12月18日付けで「発電用原子炉開発のための長
期計画」を決定し,核燃料開発については,同月24日付けの「核燃料開発に
対する考え方」を決定し,その中でウラン濃縮技術の開発を目指すことを明ら
かにしたといえ,この経過に照らせば,当時,原子力委員会が我が国において
ウラン濃縮を行うことは許されないとの考えを持っていなかったことは明らか
というべきである。
また,証拠(乙20)によれば,昭和59年8月2日に開催された衆議院科
学技術委員会における質疑の中で,P47政府委員(当時の科学技術庁原子力
安全局長)は,規制法の提案理由中で加工の中に濃縮を含むとの説明がなされ
たかと問われたのに対し「私,ただいま改めて見ておりませんのではっきり,
いたしませんが,今聞きましたところ,積極的にそういう説明はしておらない
ということでございます」と答弁したことが認められる。。
しかしながら,P47政府委員の上記答弁は,規制法の提案理由の中で積極
的に加工の中に濃縮が含まれる旨の説明はしなかったというものにすぎず,そ
のことから規制法制定時に濃縮を除外する趣旨であったということはできな
い。また,前記証拠によれば,P47政府委員も前記委員会において,従前は
ウラン濃縮のパイロットプラントが規制法52条以下の「使用」として規制さ
れていたのに新たに加工事業としてウラン濃縮を規制したことについて私,,「
ども最近になって先ほど述べた解釈を変えたわけではございませんで,事業の
実態が出てきたので具体的な対象事業が出てきたということで考えておりま
す」と,加工事業規則に濃縮施設の規定を入れる改正をしたことについて,。
「これは,ウラン濃縮が加工の業に含まれるか否かという議論ではなくて,我
々の考えといたしましては,具体的に動燃における事業が加工の業として考え
た方が適当であるという事態に進展してまいった,そういう規制する対象の事
業が具体的にあらわれてきたのでここに入れたのであるという考え方でござい
ます」とそれぞれ答弁していることが認められる。。
以上のことを総合すると,規制法制定当時においては,我が国の経済的,技
術的事情に照らして,当面はウラン濃縮を国内において事業として行うことが
予定されていなかったことから,規制法の制定過程においてもウラン濃縮につ
いての議論がされず,専ら濃縮ウランの輸入の可否という一面が浮き彫りにな
,,,「」って議論されてはいたものの政府ひいては立法者がウラン濃縮が加工
に含まれないとの前提に立っていたものとは認め難いものというべきである。
したがって,規制法の立法者は国内での濃縮を想定していなかったし,政府も
そのことを認めていた旨の控訴人らの主張は,採用することができない。
4以上の次第であるから,ウラン濃縮が規制法13条1項の「加工」に該当し
ないことを前提にして本件許可処分には法律上の根拠がないとする控訴人らの
主張は,その前提を欠き,理由がないものといわざるを得ない。
第4規制法14条1項2号の経理的基礎について
1控訴人らは,本件許可処分の取消訴訟においては規制法14条1項2号の経
理的基礎も審理の対象となるべきである旨主張する。
しかしながら,取消訴訟においては,自己の法律上の利益に関係のない違法
を取消事由として主張することはできないところ(行訴法10条1項,行訴)
法10条1項にいう「法律上の利益」とは,行訴法9条の原告適格の基礎とな
る「法律上の利益」と同義であると解される。そして,前記第2のとおり,規
制法14条1項2号(経理的基礎に係る部分に限る)の規定が設けられた趣。
旨は,加工事業者に事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎を要求すること
によって,多額の資金を要する加工事業の円滑な遂行,すなわち,災害を防止
し,公共の安全を図りつつ,国家的かつ長期的視野に立ったエネルギー資源の
確保を図ることにあるものと解され,そうだとすると,同号の経理的基礎の規
定は,一般的公益を保護しようとするものにとどまり,それ以上に,加工施設
周辺の個々の住民の生命,身体その他の利益を個々人の個別的利益として直接
的に保護する規定ではないと解すべきである。控訴人らの主張するように,経
理的基礎を欠く者が事業を行えば経済的に無理をする余り十分な安全対策を怠
るということもあり得ないではないが,いかに加工事業者に経済的な問題が生
じたとしても,加工施設の保全等保安のために必要な措置を講じなければ事業
(,,の継続はできないとされているのであるから規制法20条2項21条の2
同条の3,22条。なお,現行規制法16条の5,20条2項,21条の2,
同条の3,22条参照,そのような問題は,結局は加工事業者の技術的能力)
や安全性の基準適合性等に帰せられることであって,経理的基礎それ自体につ
いては,十分な安全対策を含めて加工事業の円滑な遂行を図るという一般的公
益の中に含まれていると解されるのであり,そのことによって守られる周辺住
民の利益は,一般的公益の実現によって得られる反射的な利益にすぎないもの
というべきである。
また,控訴人らは,行訴法10条1項の規定は,取消訴訟も国民の権利保護
に仕える主観訴訟であるとの理念を表すために,その効果を深く考えることな
く,いわば不用意に立法された規定であり,立法者も,取消訴訟での審理対象
を純然たる私益保護条項の違反だけに厳格に限定しようとする意図は有してい
なかったというべきであるから,上記規定は,いかなる意味でも原告の利益と
関係のない,特異な違法事由の主張を排斥しようとする趣旨の規定と解すべき
であると主張するが,そのように解すべき理由はない。
以上のとおりであるから,控訴人らは,規制法14条1項2号の経理的基礎
の要件を欠くことを理由に本件許可処分の取消しを求めることはできないもの
というべきである。
2また,仮に経理的基礎についても控訴人らの利益に関するものとして審理の
対象とし得るとしても,P1の経理的基礎の欠如は明らかであって内閣総理大
臣の経理的基礎に関する判断には明らかな誤りがあるとする控訴人らの主張
は,採用することができない。その理由は,以下のとおりである。
(1)規制法14条1項2号の経理的基礎に係る部分は,加工事業が適確に遂
行されることを当該加工事業者の資金的な面から担保しようとするための規
定と解される。すなわち,核燃料物質の加工事業を行うためには,人体に有
害な放射性物質を扱うというその事業の性質上,安全対策の見地から,安全
上十分な施設,設備・機器等や一定の技術的能力を有した人材の確保が必要
となり,これを行うためには多額の資金を要することから,当該加工事業者
に資金的な裏付けがあることが必要とされたものである。十分な資金がなけ
れば,安全上十分な施設,設備・機器,技術的能力を有した人材の確保が覚
束ないからである。
(2)しかるところ,証拠(甲337,338,585,587の1∼3,乙
75)及び弁論の全趣旨によれば,P1は,P22やP48を始めとする我
が国の電力会社各社が中心になって出資し,ウランの濃縮,低レベル廃棄物
の埋設,ウラン及び低レベル廃棄物の輸送等の事業を行うために資本金10
0億円で設立された会社であること,昭和63年3月31日当時,P1の資
本金は300億円であり,この資本金のほか借入金による151億円をもっ
て加工事業開始の準備(土地の取得や建物の建築等)がされていたこと,本
件施設で行う加工事業は,原料を電力会社から支給され,製品となった濃縮
ウランを電力会社が買い受けるというものであって仕入れ先や顧客が定まっ
,,,ており専ら電力会社のための事業であること本件許可申請書においては
工事資金等は自己資金,借入金で賄うとされ,その調達計画(増資及び借入
れ)が掲げられ,また,加工事業の開始予定時期は昭和66(平成3)年と
されて,昭和66年以降5年間の資金計画(増資及び借入れ)及び事業収支
(売上見込額,経費見込額等)の見積りがされていたことが認められる。
(3)そして,本件許可申請における経理的基礎に係る事項につき内閣総理大
臣から諮問を受けた原子力委員会は,昭和63年7月22日,内閣総理大臣
に対して,規制法14条1項2号(経理的基礎に係る部分に限る)に規定。
する基準の適用については妥当なものと認める旨の答申をしたのであるが,
その答申は,本件許可申請書に記載されたP1の資金計画が妥当なものであ
り,P1には増資や借入金による資金調達能力もあって,P1の資金的な面
からみると加工事業の適確な遂行を行うにつきに支障はないものと判断した
ことによるものとうかがわれる。
しかるところ,上記(2)で認定したところによれば,P1の主たる出資者
はP22,P48を始めとする電力会社各社であり,本件許可申請をした当
時資本金として300億円が出資されていたほか増資が予定されており,ま
た,借入金も151億円を借り入れていたほか追加借入れの予定もあったこ
と,P1の主たる出資者や顧客となる者は電力会社各社であること,また,
本件施設で行われる加工事業が専ら電力会社各社のための事業であることな
どが認められるのであって,これに我が国の電力会社各社はいずれも優良企
,,業であり我が国の経済の基幹をなす企業であることは公知の事実であって
増資の際の出資能力,濃縮ウラン購入の代金支払能力は十分にあるものと認
められることも併せ考えれば,P1が本件許可申請時に既に十分な資金を備
えていただけでなく,本件許可処分後のP1の増資や借入れによる資金調達
能力も優に認められるところであり,P1には加工事業を行う上で資金的な
問題はなかったものというべきである(なお,甲第585号証によると,合
併や増資の結果,平成5年3月の時点でP14の資本金は1400億円にな
ったが,この増資分も主として電力会社各社が引き受けていることが認めら
れる。そして,控訴人らも加工事業を始めるに当たってP1が資金調達。)
等につき問題を有していたことを具体的に主張,立証していない。
そうすると,原子力委員会の行った経理的基礎に係る事項についての調査
審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落はないものというべきである。
(4)控訴人らは,経理的基礎とは資金計画や資金調達能力等のみならず,事
業の経済性・採算性を含むものであるとして,濃縮ウランは生産過剰である
上,諸外国の生産コストは本件施設で行う加工事業のコストよりも低く,し
かも,本件施設で行っている遠心分離法によるウラン濃縮は既に時代遅れで
あって,採算の面からみて破綻しており赤字が累積している等,P1やP1
4のウラン濃縮事業の経済性・採算性についてるる主張する。そして,本件
許可処分がされた当時,我が国が核燃料の開発に関して先進的な地位を占め
ていたわけではないから,ウラン濃縮事業を行うについては国際的にみて生
産コストの面等で不利なところがあったことは容易にうかがわれるところで
はある。
しかしながら,証拠(甲330,331,596,597,602,60
3,乙23)によれば,我が国の電力会社各社は,コスト面での不利等ウラ
ン濃縮事業化の問題点を承知しつつも,原子力発電事業を円滑に行うため,
濃縮ウランの安定的供給の確保の見地から濃縮ウランの自主調達,国産化を
図る目的でP1を設立し,ウラン濃縮事業を行うことにし,事業を行う中で
国際競争に耐えられるよう,新素材の開発等,遠心分離法によるウラン濃縮
事業の効率化を企図していたことが認められるのである。そして,どのよう
に事業を運営し,採算性を確保していくかということは,直接的には加工事
業認可後のP1の企業努力や経営判断の問題であるのみならず,P1が設立
された上記のような特殊な経緯等からすれば,最終的にはP1の主たる出資
者である電力会社各社の,当面の経済性・採算性の問題を超えた,原子力発
電事業全体の将来までを見据えた高度な経営判断の問題であるというべきで
ある。このような事情に照らすと,本件許可処分時において,仮にウラン濃
縮事業を行うにつきコスト面等での問題があったとしても,そのことのゆえ
にP1に経理的基礎が欠けていたということはできないというべきである。
控訴人らの上記主張は採用することができない。
3したがって,控訴人らの経理的基礎に係る主張は,いずれにしても,採用す
ることができない。
第5行政審査資料(一次資料)の不提出について
1前記前提事実等のとおり,P1は,昭和62年5月26日,内閣総理大臣に
対して本件許可申請をし,内閣総理大臣は,同年12月16日,原子力委員会
及び原子力安全委員会にそれぞれ諮問をしたが,その間,所部の機関であった
(「」。),,旧科学技術庁以下科学技術庁というは内閣総理大臣の指揮の下に
本件許可申請について,規制法14条1項3号の許可要件への適合性等につい
て審査を行った。本件において行政庁審査(一次審査)というのは,科学技術
庁が行った規制法14条1項3号の許可要件適合性についての審査のことであ
るところ,証拠(甲445の14,乙9,69の2・5・8,証人P25,同
P24)及び弁論の全趣旨(当裁判所に顕著な事実を含む)によれば,次の。
事実が認められる。
ア行政庁審査は,上記昭和62年5月26日に本件許可申請書が提出されて
から同年12月16日に原子力安全委員会に諮問されるまでの期間に行われ
た。所管庁である科学技術庁核燃料規制課で申請者であるP1から説明を受
けるなどして審査をし,専門技術的見解が必要となる場合には,適宜,あら
かじめ委嘱したP49ほか21名(昭和62年12月現在)の地質・地盤,
原子力工学,耐震工学,材料工学等の専門家で構成される科学技術庁加工・
使用安全技術顧問会の顧問から個々に意見を聴取したり,あるいは,顧問で
構成される顧問会から意見を聴取したりしながら審査が進められた。
顧問会は,合計で8回程度開催されている(平成8年5月17日原審第2
7回口頭弁論の証人P25尋問調書8丁ないし10丁,平成9年2月14日
原審第30回口頭弁論の証人P25尋問調書68丁ないし72丁,平成9年
7月11日原審第31回口頭弁論の証人P24尋問調書5∼11頁,平成9
)。年9月12日原審第32回口頭弁論調書の証人P24尋問調書5∼13頁
行政庁審査の結果は,本件許可申請の一部補正として反映されていき,最終
的には審査書(乙9,69の2の別紙の別添。乙69の5・8によって一部
修正されたもの)に集約された。。
イこの行政庁審査の際に顧問ないし顧問会から意見を聴取するに当たって,
行政庁の担当者により説明用の文書が作成されたり,P1から行政庁の担当
者に対し,説明の便宜のために参考資料を提出したりすることがあり,その
ほか意見を聴取した際に行政庁の担当者がメモを作成したこともあった平,(
成9年2月14日原審第30回口頭弁論の証人P25尋問調書72∼75
丁,平成9年7月11日原審第31回口頭弁論の証人P24尋問調書102
∼104頁,平成9年11月28日原審第33回口頭弁論の証人P24尋問
調書68∼69頁。本件においてはこれら文書類のことを行政審査資料又)
は一次資料と呼んでいる。
ウ担当者の単なるメモはもちろんのこと,加工・使用安全技術顧問会の議事
録も作成が義務付けられているわけではなく,上記文書類について法令上,
その作成や保管が義務付けられているものではないため,事業者からの説明
資料も含めて,これら文書類が整理されて保存されたことはなく(平成9年
2月14日原審第30回口頭弁論の証人P25尋問調書72∼75丁,ど)
の資料が現存し,どの資料が現存していないのかは被控訴人自身も正確には
把握していない。もっとも,青森地方裁判所に係属中の低レベル事件及び高
レベル事件については,平成13年になって,5㎝厚ファイルに綴じられた
18冊の低レベル廃棄物埋設施設及び高レベル廃棄物貯蔵施設に関する行政
審査資料が同裁判所の文書送付嘱託に応じて提出されている(甲676の1
∼3。)
エ控訴人らは,平成2年4月20日の原審第3回口頭弁論期日に,被控訴人
に対し,本件許可申請書及びその添付資料等,原子力委員会での議事録及び
その審議に供された資料等,審査書及びその添付資料,原子力安全委員会で
の議事録及びその審議に供された資料,加工・使用安全技術顧問会での議事
録及びその添付資料,燃安審での議事録及びその審議に供された資料等並び
にこれらに付随する担当者メモ類一切とそのほかの文書を送付する旨の文書
送付嘱託の申立てをした。
被控訴人は,平成4年11月17日,既に提出した証拠中,審査における
,,,資料は乙第1ないし第4号証第9号証第12号証及び第13号証であり
そのほかにも資料は存在する旨を回答した(平成4年11月17日付け回答
書。原審は,平成4年12月18日,上記申立てを全部採用した。)
被控訴人は,平成5年3月1日付けで,原子力委員会での議事録等(乙7
8等,原子力安全委員会での議事録等(乙69の1∼13,燃安審での))
議事録等(乙62,70の1∼12,第23部会での議事録等(乙71の)
1∼15)を原審に送付し,同月12日の原審第15回口頭弁論期日におい
て,申請から許可に至るまでの審査過程で,審査に供された資料は,送付嘱
託により裁判所に送付した資料以外ない旨を回答した。これに対して,原審
裁判長は,これ以外に審査に供された資料の有無について調査し,その結果
を文書で報告することを求める旨の求釈明をした。
被控訴人は,平成5年6月11日,P1の担当者から行政庁の担当者に対
する説明の便宜のためのメモ類が提出されたり,行政庁の担当者から第23
部会に対する説明の便宜のためのメモ類が配布されたことがあった旨を明ら
かにし,平成5年11月26日付けで,第23部会の審査の際に配布された
資料(甲96,97,100ないし103,104の1・2,105ないし
110,374,434等)を,核不拡散上の機密事項,P14の企業機密
に属する事項及び自衛隊の能力に関する事項を伏せた上で原審に送付した。
2最高裁判所平成4年10月29日第一小法廷判決(伊方最高裁判決)は,原
子炉施設の設置許可処分の取消訴訟における主張,立証責任について「被告,
行政庁の側において,まず,その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審
,,議及び判断の過程等被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠
資料に基づき主張,立証する必要があり,被告行政庁が右主張,立証を尽さな
い場合には,被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認さ
れる」としている。本件は,原子炉施設設置の許可処分が争われている事件。
ではなく,加工施設の事業許可処分が争われているものであるが,加工施設の
事業許可処分もまた原子力安全委員会の高度な最新の科学的,専門技術的知見
に基づく意見を十分に尊重して行うものであり,加工施設の安全審査に関する
資料はすべて行政庁の側が保持しており,加工施設においても核分裂性を有す
る危険な核燃料物質を扱うものであるなど共通するところがあるというべきで
あるから,上記最高裁判決の判断枠組みは加工施設の事業許可処分を争う本件
についても妥当するものといえる。また,上記調査審議及び判断の過程の中に
当の行政庁が行った事前の審査が除かれる理由はないから,本件でいう行政庁
審査の手続も取消訴訟においてその是非が問題になる余地はあり得るものとい
うべきである。そして,その手続の過程において作成され,又は提出された文
書類についても,場合によっては行政庁が行った調査審議及び判断の合理性を
立証する資料にもなり得るものというべきである。
3ところで,規制法13条1項に基づく加工事業の許可申請に対して,内閣総
理大臣は,当該許可申請が同法14条1項各号に適合していると認めるときで
,,なければ許可をしてはならないとするところ上記許可をする場合においては
あらかじめ,同項2号(技術的能力に係る部分に限る)及び3号に規定する。
基準の適用については,核燃料物質及び原子炉に関する安全の確保のための規
制等を所管事項とする原子力安全委員会の意見を聴き,これを十分に尊重して
しなければならないものとされている(規制法14条。このようにされたの)
は,この技術的能力を含めた加工施設の安全性に関する審査は,当該加工施設
そのものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民及び周辺環境
への放射線の影響,事故時における周辺地域への影響等を,加工施設予定地の
地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該加工事業
者の技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討するものであ
り,しかも,上記審査の対象には将来の予測に係る事項も含まれているのであ
って,上記審査においては,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高
,,度な最新の科学的専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるところ
原子力安全委員会には,下部組織として学識経験のある者及び関係行政機関の
職員から任命される審査委員で組織される核燃料安全専門審査会(燃安審)が
置かれ,原子力安全委員会委員長の指示に基づき核燃料物質に係る安全性に関
(,,),する事項を調査審議することとされており設置法19条20条17条
加工施設の安全性に関する審査の特質を考慮した各専門分野の学識経験者等を
擁する原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見が十分に尊重
されるべきであるとしているからと解される。
したがって,本件許可申請に対する法適合性の司法審査の本質部分は,原子
力安全委員会での判断及び調査審議の過程に看過し難い過誤,欠落があるのか
否かという点にあるというべきであり,それに先立つ行政庁審査の調査審議の
過程があたかも安全審査の調査審議の過程よりも重要なものであるかのように
いうことはできない。そして,安全審査に先立つ行政庁審査については,その
判断の結果が補正された本件許可申請書及び添付資料並びに審査書として集約
されているのであり,これは既に原審で証拠として提出されているのである。
そうしてみると,安全審査に先立つ行政庁審査の調査審議の過程に関する行
政審査資料が提出されていないからといって,そのことから,直ちに本件許可
処分の判断に不合理のないことを明らかにする相当の根拠,資料が提出されて
いないとしてその判断及び調査審議の過程に看過し難い過誤,欠落があると推
認される関係にはないというべきである。なお,安全審査資料のほとんどが既
に文書送付嘱託に応じて原審に提出されたものと認められ,一方,行政審査資
料については,それがかつて存在したことは明らかであるものの,現在は散逸
しその存在の有無についても判明し難い状態であることがうかがわれ,事実と
してもその提出は困難であるものと認められる。
以上の次第であるから,控訴人らの行政審査資料に関する主張は,採用する
ことのできないものというべきである。
第6本件施設の危険性その1(地震による危険)について
1控訴人らは,本件安全審査においては,本件敷地周辺の活断層を考慮せず,
本件敷地周辺で発生する可能性のある地震が震度5程度までであるとし,これ
に耐えられる耐震設計によって本件施設の安全性が確保できるとしたが,その
調査審議及び判断の過程には看過し難い過誤,欠落がある旨主張する。
そこで検討するに,後掲の各証拠によれば,以下の事実を認めることができ
る。
(1)地震波を発生させた地下の断層を震源断層といい,震源断層に沿う岩盤
のずれが地表まで届いて地表にそのずれが現われた時に,その地表の断層を
地震断層というが,このような地震断層は,ほとんどすべての例で,過去に
も同様のずれを繰り返してきたことが分かっている。一般に,活断層とは,
地質学的には最近の期間として捉えられる第四紀に活動を繰り返していて今
後もまた活動すると考えられる断層のことをいい,地下の震源断層の位置や
過去の動きを示す徴表となっている(甲358の92頁)。
もっとも,第四紀といっても,その始期について必ずしも見解が一致して
いるわけではないところ(甲669の357頁,活断層研究会編「日本の)
活断層(乙26)及び同「新編日本の活断層(甲408,736)は,」」
第四紀の始期を約200万年前としている。
また,活断層については,その存在の確実さ(確実度)の点から,活断層
であることが確実であるものは確実度Ⅰと,活断層であることが推定される
ものは確実度Ⅱと,活断層の疑いのあるリニアメント(活断層の可能性があ
,,,,,るものの変位の向きが不明であったり他の原因例えば川や海の浸食
あるいは断層に沿う浸食作用による地形の疑いの残るもの。なお,リニアメ
ントとは地形的に続く線状模様のことである(乙26)は確実度Ⅲと分)。
類されている(以下,確実度Ⅱ,Ⅲの断層も「活断層」という用語で表すこ
とがある。また,活断層の活動の活発さ(活動度)は,当該活断層が長。)
期間にずれを累積してきた平均的な速さによって分けられ,1000年当た
りの平均的なずれの量が1m以上10m未満のものはA級と,1000年当
たりの平均的なずれの量が10㎝以上1m未満のものはB級と,1000年
当たりの平均的なずれの量が1㎝以上10㎝未満のものはC級と分類されて
いる(甲356の1,669の358頁。)
(2)本件許可申請書では,地震について,過去の地震記録として「資料日,
本被害地震総覧(宇佐美カタログ(1979「宇津カタログ(19」「)」),
82」及び「気象庁地震月報」の各資料に掲載された地震中,震央が本件)
敷地から半径200㎞以内にあり,かつ,一定規模以上のものを列挙し,こ
れらをマグニチュード及び震央距離と震度階との相関関係を示す相関図に当
てはめ,その結果として,地震が本件敷地に及ぼした影響は最大でも震度5
程度のものであることを示し,また,活断層として,活断層研究会編「日本
の活断層」に掲載された活断層中,本件敷地から100㎞以内にあり,長さ
が1㎞以上で,陸域では確実度Ⅰ,海域では崖高200m以上の活断層を掲
記している。
活断層として掲記されているのは,陸域については「青森」図(甲73,
6の108頁参照)に記載されている浪岡撓曲(長さ5.5㎞,本件敷地か
ら断層中央までの距離70㎞,大平断層(長さ5㎞,本件敷地から断層中)
央までの距離72㎞,津軽山地西縁断層帯(長さ7㎞,本件敷地から断層)
中央までの距離74㎞「弘前」図(甲362の106・107頁参照)),
に記載されている花輪東断層(長さ6㎞,本件敷地から断層中央までの距離
),(,),97㎞湯の沢断層長さ7㎞本件敷地から断層中央までの距離94㎞
追子森断層(長さ1㎞,本件敷地から断層中央までの距離95㎞,海域に)
ついては「海域−2」の断層(長さ84㎞,本件敷地から断層中央までの,
距離42㎞。以下「本件海域断層」という)ほか3つである。本件海域断。
層については「活断層である可能性は小さい」と記載されている(乙7。。
5の3−2頁・3−13∼3−16頁)
本件安全審査では,本件許可申請書が参照していない新しい資料や対象と
していない地震の調査検討も行った上で,過去の地震が本件敷地に及ぼした
影響を震度5程度のものであるとする本件許可申請書の内容を相当なものと
認め,過去の地震の本件敷地への影響は最大で震度5程度であるとし,地盤
条件を併せて総合的に評価した結果,本件敷地では震度5の地震を考えれば
十分であると判断したが,活断層については特に調査,検討した形跡はない
(乙9。)
(3)本件施設における建物・構築物の耐震設計法については,建築基準法等
の関係法令により行うとされている(乙75の5−16頁。建築基準法施)
行令に規定される建築物の耐震関係の構造計算は,一次設計と二次設計とに
分類され,一次設計は,震度5程度となる中程度の地震動(耐用年限中に数
度は遭遇する程度の地震動)により構造骨組に生じる応力度が材料の許容応
力度以下であること(建築物の性能を保持できること)を確認するものであ
り,二次設計は,層間変形角,剛性率,偏心率の確認及び震度6ないし7程
度となる大地震動(耐用年限中に一度遭遇するかも知れない程度の地震動)
に対し建築物の構造部材に部分的なひび割れ等の損傷が生じても建物全体又
は一部が崩壊しない状態であることを確認するものである(乙31,平成。
9年7月11日原審第31回口頭弁論の証人P24尋問調書77∼84頁,
平成9年9月12日原審第32回口頭弁論の証人P24尋問調書95∼96
頁)
加工施設指針13は,加工施設における建物・構築物の耐震設計法につい
ては静的設計法を基本とし,建築基準法等関係法令によることを求め,第1
類及び第2類の建物・構築物については,それぞれ耐震設計上の静的地震力
として,建築基準法施行令88条(地震力)によって定まる最小地震力に,
第1類のものについては1.3以上,第2類のものについては1・1以上の
割増係数を乗じたものを用いることとし,建築基準法施行令82条の3第1
号(剛性率)及び第3号(平成12年政令第211号による同条の改正によ
り,旧3号は廃止されたが,同条本文中に同旨の規定として引き継がれてい
る)については上記同様の割増係数を乗じたものを,同施行令82条の3。
第2号(偏心率)については上記同様の割増係数で除したもの(数式の構成
)()。,,のためを用いることを求めている乙15また加工施設指針13は
設備・機器(配管,ダクト等を含む)の耐震設計法について,静的設計法。
によるとともに剛構造とすることを基本とし,一次設計(当該設備・機器に
常時作用している荷重と一次地震力を組み合わせ,その結果発生する応力に
対する許容応力度を許容限界とする設計)の静的地震力(一次地震力)とし
て,最小地震力に,第1類のものについては1.5以上,第2類のものにつ
いては1.4以上,第3類のものについては1.2以上の割増係数を乗じたも
のを用いることを求め第1類の設備・機器についてはさらに二次設計常,,(
時作用している荷重と二次地震力を組み合せ,その結果発生する応力に対し
て,設備・機器の相当部分が降伏し,塑性変形する場合でも,過大な変形,
亀裂,破損等が生じ,その施設の安全機能に重大な影響を及ぼすことがない
設計)をすることとし,その静的地震力(二次地震力)として,一次地震力
に上記設備・機器についての割増係数を乗じたものを用いることを求めてい
る(甲374,乙15,乙83,平成9年7月11日原審第31回口頭弁。
論の証人P24尋問調書93∼97頁)
そして,本件許可申請書によれば,本件施設の建物・構築物については,
静的設計法により耐震設計を基本とし,かつ,建築基準法等関係法令により
行うとともに,耐震設計上の静的地震力については,最小地震力に,第1類
のものについては1.3,第2類のものについては1.1の割増係数を乗じた
ものを用いることとし,また,本件施設の設備・機器については,静的設計
法によるとともに剛構造とすることを基本とし,一次設計においては,最小
地震力に,第1類のものについては1.5,第2類のものについては1.4,
第3類のものについては1.2の割増係数を乗じたものを用いるとともに,
第1類のものの二次設計として,上記の一次地震力に上記の割増係数を乗じ
て算出したもの以上となる二次地震力を用い,この場合でも設備・機器の相
当部分が降伏し,塑性変形しても,過大な変形,亀裂,破損等が生じ,その
施設の安全機能に重大な影響が及ぼすことがない設計をするとしている(甲
374,乙75の5−17∼5−18頁。)
(4)本件安全審査では,上記のとおりに過去の地震の記録等を評価した結果
に照らして,本件施設の建物・構築物及び設備・機器の各一次設計における
設計地震力の前提となる最小地震力が震度5程度の地震を対象としているこ
と,そして,本件施設の建物・構築物及び設備・機器の一次設計,二次設計
において,この最小地震力に上記所定の割増係数を乗じ又は除することが,
いずれも妥当であると判断された(平成9年7月11日原審第31回口頭弁
論の証人P24尋問調書87・97頁,平成9年11月28日原審第33回
口頭弁論の証人P24尋問調書18∼21・29頁,平成10年2月6日原
審第34回口頭弁論の証人P24尋問調書17・31∼34頁。なお,加)
工施設指針はその地域における地震の危険性に応じて建物・構築物及び設備
・機器に対する割増係数を調整することを想定しているところ,本件安全審
査においては,本件施設の耐震設計について,想定される震度5の地震動と
いう点にかんがみて建築基準法施行令88条によって定まる最小地震力から
上記のとおりの割増しをすることで足りるとしたものであり,建築基準関係
法令自体,震度5を超える地震動で直ちに建築物が倒壊することを許容して
はいないのであって,本件施設は更に割増係数を乗じた地震力に耐えられる
設計にするというものであり,震度5を超える地震が発生したからといって
直ちに本件施設の建築・構築物及び設備・機器が破壊・損壊されると本件安
全審査において考えられていたわけではない設備・機器の二次設計は降(,「
伏し,塑性変形する場合でも過大な変形,亀裂,破損等は生じない」設計で
ある。。)
2ところで,核燃料施設基本指針及び加工施設指針は,加工施設について,指
針13「地震に対する考慮」として「敷地及びその周辺地域における過去の,
記録及び現地調査等を参照して,最も適切と考えられる設計地震力に十分耐え
る設計であること」という形で地震力を判断するという方法を定め「断層」,
については,指針1「基本的条件」の立地地点及びその周辺の「自然環境」の
検討として「地震」等のほかの「地盤,地耐力,断層等の地質及び地形等」,
の中に掲げるにとどまっている(乙14,15。)
他方,発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(昭和56年7月20日
原子力安全委員会決定。乙29。以下「原子炉耐震指針」という)は,基本。
方針として「発電用原子炉施設は想定されるいかなる地震力に対してもこれ,
が大きな事故の誘因とならないよう十分な耐震性を有していなければならな
い」とし,重要度の高い機器・施設等について,所定の静的地震力又は設計。
用最強地震力のうちより大きい方に耐えるとともに設計用限界地震力に対して
も安全機能が保持できることとし,その設計用最強地震としては「歴史的資料
から過去において敷地又はその近傍に影響を与えたと考えられる地震が再び起
こり,敷地及びその周辺に同様の影響を与えるおそれのある地震及び近い将来
敷地に影響を与えるおそれのある活動度の高い活断層による地震のうちから最
も影響の大きいものを想定する」とし,また,設計用限界地震としては「地。,
震学的見地に立脚し設計用最強地震を上回る地震について,過去の地震の発生
状況,敷地周辺の活断層の性質及び地震地体構造に基づき工学的見地からの検
討を加え,最も影響の大きいものを想定する」としており,地震の発生源と。
して活断層の状況を考慮することを求めるとともに,その解説部分において,
活断層の評価をするに際しての判断の基準の目安として,①設計用最強地震の
場合には,歴史資料により過去に地震を発生したと推定されるもの,A級活断
,,層に属し1万年前以降活動したもの又は地震の再来期間が1万年未満のもの
あるいは,微小地震の観測により,断層の現在の活動性が顕著に見られるもの
を,②設計用限界地震の場合には,上記のほかA級活断層に属するもの,B級
・C級活断層に属し,5万年前以降活動したもの又は地震の再来期間が5万年
未満のものをそれぞれ考慮することを求めている。また,再処理施設安全審査
指針(昭和61年2月20日原子力安全委員会決定。乙30)は,指針13の
地震に対する考慮として「再処理施設は,想定されるいかなる地震力に対し,
。」てもこれが大きな事故の誘因とならないよう十分な耐震性を有していること
とし,活断層に関する記述は特に見当たらないが,耐震設計評価法及び荷重の
組合せと許容限界については原子炉耐震指針の各該当項目を適用するとしてい
る。
上記によれば,加工施設指針と原子炉耐震指針,再処理施設安全審査指針と
は,施設の耐震設計につき明らかに異なる表現をしているものということがで
きるが,これは,加工施設が原子炉施設や再処理施設とはその危険性において
異なることを前提としたものと解される。すなわち,加工施設指針は,加工施
設の危険性の程度等を考慮して,加工施設における最も適切と考えられる設計
地震の検討を敷地及びその周辺地域における過去の記録,現地調査等を参照し
て行うこととし,断層は主として地質及び地形の観点から考慮すれば足り,地
震の原因あるいは地震力を考慮するに当たっての検討対象としてまでは位置付
けなかったものと解されるのである。
そして,加工施設指針のような手法で設計地震を検討することが必ずしも不
合理な手法であるとはいえないから,このような手法をとることとした加工施
設指針も不合理であるとはいい難く,そうすると,加工施設指針に従って,活
断層を地震の原因等と位置付けて検討しなかったことをとらえて,本件安全審
査の調査審議の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできないとい
うべきである。
3もっとも,加工施設指針の指針13が「最も適切と考えられる設計地震力に
十分耐える設計」としていることからすれば,地震に対する考慮方法から活断
層の評価をすることを積極的に排斥したとはいえず,上記指針は,手法のいか
んは問わず「地震」等の自然現象を検討し安全確保上支障がないことを確認,
することを求めているというべきであるから,安全審査を行うに当たっては,
その存在が明らかであって,かつ,活動性が高い活断層は当然これを考慮すべ
きものと解される。
したがって,現在の科学技術水準に照らして,その存在が明らかであって,
,(「」。)かつ活動性が高いといえる活断層以下当然考慮すべき活断層という
を考慮せず,当該活断層を評価した場合に想定される地震動に本件施設の耐震
設計が合理的に対応していないことが明らかであるならば,結果的には,本件
安全審査の調査審議及び判断の過程には看過し難い過誤,欠落があったことに
なるものというべきである。
上記のような見地に立って本件敷地周辺の活断層について検討すると,以下
のとおりである。
(1)陸域の活断層
ア津軽山地西縁断層帯と津軽湾海底断層
「」「」「」活断層研究会編日本の活断層ないし新編日本の活断層の青森
図には,津軽山地西縁断層帯(長さ30㎞,確実度Ⅰ∼Ⅱ,活動度B)が
記載されているが,同断層帯は,北部,中部及び南部の3つの部分に分け
られ,確実度Ⅰであるのは南部の長さ7㎞の部分に限られ,北部及び中部
はいずれも確実度Ⅱである(甲362の105・106頁,736,弁論
の全趣旨。)
控訴人らは,上記津軽山地西縁断層帯と活断層研究会編「日本の活断層
図に記載されている津軽海峡海底下にある崖高200m以下の活断層甲」(
356の1・2,372)とはつながっており,両活断層との間には伏在
断層が存在する可能性がある旨を主張し,控訴人P33の供述中にはこれ
に沿う部分もあるが(平成11年3月12日原審第39回口頭弁論の控訴
人P33本人尋問調書31∼33頁,その根拠はかなりあいまいなもの)
というほかなく(平成11年5月28日原審第40回口頭弁論の控訴人P
),。33本人尋問調書109頁以下参照これを裏付ける的確な証拠もない
したがって,控訴人らの上記主張は採用し難い。また,上記活断層の本件
敷地からの距離及び活動性等の点に照らして,本件施設がいかなる地震動
に対応すべきかについては,控訴人らの主張,立証するところではないか
ら,結局,上記断層は,本件安全審査において当然に考慮すべき活断層と
はいえない。
なお,控訴人らは,震源断層の長さと地表断層とが比例しない場合があ
ったり,地表断層がない場合でも地下に断層がないとはいえず,地表に断
層がなくても地震が当該場所で起こり得る旨を主張しこれに沿う証拠甲,(
358,408,411ないし413,419,420,440,641
等)を提出する。その指摘は,つまるところ,地下深くまで精査して当該
部分に活断層がないとの証明ができない以上活断層による地震が起こり得
るというに等しいものであるが,加工施設指針がそのようなことまでを求
めたものと解することはできない。
イ「日本の活断層」に記載された断層
活断層研究会編「日本の活断層」ないし「新編日本の活断層」の「野辺
」,,(,,地図には本件敷地周辺地域に一切山東方断層長さ7㎞確実度Ⅲ
活動度C,出戸西方断層(長さ4㎞,確実度Ⅲ,活動度B,横浜断層))
(長さ4㎞,確実度Ⅱ,活動度C,野辺地断層(長さ7㎞,確実度Ⅱ,)
活動度B,上原子断層(長さ2㎞,確実度Ⅱ,活動度C,天間林断層))
(長さ9㎞,確実度Ⅱ,活動度B)が活断層として記載されていることが
認められる(甲362の105・106頁,371,736。)
しかしながら,上記断層は,いずれも長さが2㎞から9㎞の確実度Ⅱ又
はⅢ,活動度B又はCの活断層であり,控訴人らも単にそれら活断層が記
載されている旨を指摘するに止まっており,上記活断層の本件敷地からの
距離及び活動性等の点において本件施設がいかなる地震動に対応すべきか
について主張,立証するところではないから,結局,上記の断層は,いず
れも本件安全審査において当然考慮すべき活断層とはいえない。
ウ後川−土場川沿いの断層
これは,活断層研究会編「日本の活断層」ないし「新編日本の活断層」
(,,),には記載されていないが甲362の105・106頁371736
再処理事業認定申請書の添付図面(甲370)には記載されているもので
あり,国家石油備蓄基地南方約4㎞付近に向かって南方から流れ東へ折れ
て鷹架沼へ注ぐ後川と,さらに,その南方の土場川とをつなぐ細長い構造
谷(断層,褶曲,層相差などが原因で生じた狭長な凹地)のことである。
この構造谷について,昭和55年新潟大災害研年報第2号の「P27『
石油備蓄基地建設予定地』における“活断層”問題」と題する論文(甲7
17,743)は,後川の断層の露頭に見られる断層群には第四紀更新世
(洪積世)前半期の野辺地層を切って発達しているものが見られるため活
断層と認定できる,この地点の第四紀更新世後半に降灰したローム層の発
達が悪く,どのような活動をしたのか検討できないため,同じ性格の断層
群である土場川西方の断層の露頭を検討したところ,第四紀更新世中後期
中部ローム層を切っているため,この地点の断層は14万年前から1万3
千年前のいずれかに活動した,としている。
しかしながら,上記構造谷は,上記のとおり活断層研究会編「日本の活
断層」ないし「新編日本の活断層」にも活断層として記載されていないも
のであるところ,上記論文自体が,野辺地層としている地層を第三紀中新
世鷹架層に所属のものではないかとの疑問も残るとしており,上記論文で
第四紀野辺地層としている地層は第三紀鮮新世砂子又層に属するとする見
解もあり(弁論の全趣旨,また,必ずしも上記論文が大方の地質学者の)
賛同を得たものとも認め難い(甲698,699。なお,砂子又層は,)
大方の地質学者はこれを第三紀鮮新世の地層とするものであり,砂子又層
(,が第四紀に属するとの見解が一般的な知見であるとは認め難い甲353
362の27∼29頁,403,434,713の221頁,744,7
45。)
したがって,少なくとも上記構造谷に活動性を認めるに足りる的確な証
拠はないというべきであり,そのほか,控訴人らにおいて上記構造谷の本
件敷地からの距離及び活動性等の点において本件施設がいかなる地震動に
対応すべきかについて主張,立証するところではないから,結局,上記構
造谷は,本件安全審査において当然考慮すべき活断層とはいえないという
べきである。
エ吹越烏帽子岳付近に発達する断層
この断層は,活断層研究会編「日本の活断層」ないし「新編日本の活断
層」には記載されていないが(甲362の105・106頁,371,7
36,再処理事業認定申請書の添付図面(甲370)や青森県の土地分)
(,,),類基本調査図には記載されているものであり甲717743745
国家石油備蓄基地の北数㎞先から吹越烏帽子岳の西側をほぼ北北東から南
南西方向に向かう断層である。
しかしながら,この断層が後川−土場川の構造谷の北にあってその走向
方向が似ているとは認められるが,そのほかこの断層が後川−土場川の構
造谷と連続していることを認めるに足りる的確な証拠はないというべきで
あるところ,控訴人らも後川−土場川沿いの構造谷に活動性があることを
前提にしてこの断層が記載されている旨を指摘するに止まっており,後川
−土場川沿いの構造谷に活動性が認められないことは上記のとおりであっ
て,そのほか上記断層の本件敷地からの距離及び活動性等の点において本
件施設がいかなる地震動に対応すべきかについて控訴人らの主張,立証す
るところではないから,結局,上記断層は,本件安全審査において当然考
慮すべき活断層ということはできない。
オ中小断層の同時活動
控訴人らは,上記一切山東方断層,出戸西方断層,横浜断層,野辺地断
層,上原子断層,天間林断層,そのほか確実度Ⅲに分類される小さな断層
と低レベル廃棄物廃棄施設の敷地内にあったf−a断層,f−b断層(甲
368,乙103,再処理施設の敷地内にあったf−1断層,f−2断)
層(甲370,392)とが同時に活動する可能性がある旨を主張すると
ころ,それら断層において個々的には走向方向が似ている断層もないでは
ないが,その全体を見通せば,その走向方向に一貫性があるとは認められ
ず,関連性の認め難い活断層の同時活動の可能性は極めて小さいと一般的
に考えられていることからすると,これら断層が同時に活動する可能性が
あると認めるに足りる証拠はないというべきである。
したがって,上記断層の同時活動の可能性は,本件安全審査において,
当然考慮すべき事柄であったとはいえないというべきである。
(2)海域の活断層
ア断層の存在について
「」(,),活断層研究会編日本の活断層図甲356の1・2372には
尾駮東方沖辺りから北海道恵山岬東方沖(尻屋崎北方沖)辺りにかけて,
崖高が200mを越え,最大傾斜30°程度(甲364,長さ約84㎞)
の東落ちの本件海域断層(前述の「海域−2」の断層)と,この断層から
北に若干距離を置いて北方向に走向する崖高が200mを越えない撓曲
(連続したままS字状に曲がっている地層)が記載されている。本件敷地
(),から本件海域断層の中央までの距離は42㎞であるが乙1の3-12頁
本件敷地から同断層の南端付近までの最短距離は約10㎞である(甲37
2。)
イ本件海域断層の活動性について
一般に地震に伴って地表に現れる断層の多くは活断層に沿っており,内
陸では地殻上部(深さ0∼20㎞)で発生する大規模な地震(M7前後か
),,それ以上であれば地表に現れる可能性が高いとされておりしたがって
内陸型の地殻構造の延長と見られる下北半島東方沖の大陸棚外縁部におい
ても,上記のとおり長さ80㎞を越える断層が,地質学的に古い時代から
比較的新しい時代に至るまでに,大規模な地震を引き起こしながら継続的
に活動しているとするならば,海底面近くの比較的新しく堆積した地層に
まで累積した変異・変形が及ぶものと考えられる(甲364の9頁。)
しかるところ,青森県は,本件海域断層について,平成3年度の原子力
燃料サイクル事業に係る安全性のチェック検討グループ会議での検討に引
き続いて,それ以降の新たな知見も踏まえて,地質・地盤及び地震の専門
家によるチェック・検討を「原子力施設周辺の地質・地盤に係る安全性チ
ェック・検討会(以下「検討会」という)に委嘱し,検討会は,平成」。
9年3月,報告(甲364)をとりまとめた。その内容は,海上保安庁水
路部,工業技術院地質調査所及び事業者(P29及びP22)が実施した
音波探査記録を検討した結果,①尾駮沖で確認された断層が第三紀中新世
(約2400万年前から約510万年前)に堆積した地層に変位を与えて
いるが,その直上の第四紀に堆積した地層(180万年ないし170万年
前以降)には変位・変形が及んでおらず,活動時期は古くいわゆる活断層
には該当しないこと,②崖をはい上がっている地層が完全にはつながって
いないように見える部分も浅部の地層が下位の地層にアバット(不整合の
一形式で,新規の地層の層理面が下位の地層の上限面に平行せず,著しい
角度で斜交している状態)していることが確認され,断層による変位・変
形は認められないこと,③第三紀鮮新世から第四紀更新世(洪積世)の地
層が西側に傾き下がり,深部ほど傾斜が急な累積性(構造運動が継続する
ことによってより古い地層に積み重なる変位・変動の度合い)の認められ
る構造になっている部分は,この地質構造が上位層のアバットないしラッ
ピング(海進・海退など相対的な海水準変動に伴い,下位層を覆うように
上位の地層が順次堆積している状態)であって断層活動によるものとは認
められないこと,④大陸斜面付近の局所的な変形がある部分は,深部に至
る変形の累積性は認められず,近接する地点との構造的な連続性が認めら
れないことなどから斜面崩壊によるものと考えられること,などから,仮
に音波探査記録の探査深度を超える海底下の深部に断層が存在するとして
も,第四紀前期更新世又はそれ以前の地層中の断層の存在は否定できない
ものの,少なくとも第四紀中期更新世以降(約70万年前以降)に活動し
た形跡は認められないとし,原子力施設の設計上考慮すべきであると考え
られる比較的新しい時代の断層運動は認められないと結論付けた。
これに対して,控訴人らは,活断層研究会のP28東大教授が,平成9
年1月に検討会に出席して,本件海域断層の活動時期について,沖積層が
形成された最終氷期(約2万年前)以降も活動を継続している可能性が高
いとの見解を示したとして,本件海域断層に活動性がある旨を主張する。
しかしながら,上記見解自体,活動時期を最終氷期以降とする直接の資料
はなく詳細な調査を希望するとしているのであり,その根拠としてはほか
の可能性もあり得るというものであるから(甲379の1・2,407の
1・2,724の1・2,上記見解があるからといって,前記の検討会)
の結論を覆すというのはいささか困難というほかない。
また,控訴人らは,地層の含水比が高く地層を構成する堆積物の粒子が
動きやすい状態になっていれば後で粒子の再配列によって乱れが消える場
合もあり得ること,M7.2程度の地震であっても,地表に活断層が現れ
ない例があることや,内陸でも地表に断層が現れるのは震源の深さが10
㎞程度の浅い地震に限られ深さ20㎞ではそのような例がないことから,
震源の深さが20㎞よりも深ければその活動に伴う断層は海底表面に達し
ていないことになる等主張し,控訴人P33はこれに沿う供述をし(平成
11年3月12日原審第39回口頭弁論期日の控訴人P33尋問調書70
∼75頁,82頁参照,たとえ海底表面に活動性の徴表が見られないと)
しても断層の活動性を否定できない旨を主張するが,いずれも積極的に活
動性を肯定するというものではなく,理論上あり得る可能性を述べるにと
どまるものである。
以上によれば,本件海域断層は,本件安全審査において当然考慮すべき
活断層とまではいえないというべきである。
控訴人らは,昭和53年5月16日に青森県東岸に発生した地震が本件
海域断層の南端部分を震源としている旨を主張するところ,証拠(甲36
2の59∼61頁)によれば,上記断層の南端と震源とが近接しているこ
とは認められるが,その限りであって,上記地震がこの断層を震源とする
直接的な証拠はなく(甲364の9頁,控訴人らの上記主張は採用する)
ことができない。なお,昭和63年10月にP31株式会社取締役調査部
(),長P32がテレビ放送でどのような発言をしたかにせよ甲409参照
上記結論は異ならない。
4以上によれば,現在の科学技術水準に照らしても,本件施設に関して,本件
安全審査において当然考慮すべき活断層があったとはいえないから,活断層に
ついて特に考慮しなかったとしても,本件安全審査の調査審議及び判断の過程
に看過し難い過誤,欠落はないというべきである。
5なお,平成16年5月21日,文部科学省地震調査研究推進本部の下部機関
である地震調査委員会は,三陸沖北部でM8の地震発生を想定した強震度評価
を行った結果として,α1は震度6弱の揺れに見舞われる旨の予測を発表した
が(甲668,725,控訴人らは,この発表をとらえ,本件安全審査が本)
件敷地周辺で発生する可能性のある地震が震度5程度までであるとしたのは誤
りであった旨主張する。
しかしながら,上記の評価は,三陸沖北部においてプレート境界型地震が発
生する場合において,過去の地震から最も起こりそうな位置と地震調査委員会
が評価した場所で過去の地震から見て推定される規模の地震が発生することを
前提に各種のパラメータを最も起こりやすいモデルで想定して各地に生じる地
震動の震度・最大加速度等を評価したものであることがうかがわれるところ
(甲725,弁論の全趣旨,上記の手法にはいまだ確立したとはいい難い部)
分があることは否定し難い。その上,α1は下北半島の南北に広がる総面積約
253㎞2の村であるところ(公知の事実,控訴人らが提出した,上記発表)
を報道した記事と共に掲載された震度予測図(甲725)をみると,α1全域
が震度6弱の揺れに見舞われる区域とはなっていないことは明らかであり,本
件施設付近が震度6弱の揺れに見舞われる区域に含まれているか否かは明らか
ではない。
そうしてみると,本件安全審査において,本件許可申請書が参照していない
新しい資料や対象としていない地震の調査検討も行った上で,過去の地震が本
件敷地に及ぼした影響を震度5程度のものであるとする本件許可申請書の内容
を相当なものと認め,過去の地震の本件敷地への影響は最大で震度5程度であ
るとしたことに看過し難い過誤,欠落があったとすることはできない。
6したがって,地震に関する控訴人らの主張は,採用し難いものといわざるを
得ない。
第7本件施設の危険性その2(国家石油備蓄基地)について
1控訴人らは,本件施設に近接して総容量約570万klの国家石油備蓄基地が
,,ありこれに火災が生ずると本件施設も類焼する可能性があるにもかかわらず
類焼の影響はないとした本件安全審査の調査審議及び判断の過程には看過し難
い過誤,欠落がある旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲654,乙9,97,検証)によれば,本件施
設から約4㎞離れた位置には約240haの敷地に国家石油備蓄基地(P50株
式会社α14事業所)があり,ここには浮き屋根式構造の直径81.5m,高
さ24m,容量約11.2万klの原油タンクが51基設置されていること,本
件施設から国家石油備蓄基地は目視不可であること,本件安全審査では,国家
石油備蓄基地と本件敷地との距離が十分離れていることから,これによって本
件施設の安全性が損なわれることはないと判断したこと「青森県石油コンビ,
ナート等防災計画(乙35)によれば,原油タンク1基の上端部油面火災が」
発生した場合の輻射熱が普通の服装の状態で安全が保たれる限界値である24
00kcal/㎡hとなる範囲は182mに止まり,防油提全面火災が発生した場合
の輻射熱が2400kcal/㎡hとなる影響範囲は803mに,その場合に木材等
の有機物が有炎火の粉があるときの引火の限界値である7000kcal/㎡hとな
る影響範囲は380mにそれぞれ止まることが認められる。
上記認定によれば,原油タンク1基が火災を呈した場合ではあるが,その火
災による輻射熱によって類焼の被害が及ぶ可能性のある範囲は,火災を起こし
たタンクから380m程度と推認される。
2控訴人らは,M8.0クラスの地震が本件施設敷地周辺で起きた場合には,
スロッシング現象等によって国家石油備蓄基地の複数のタンクの火災事故等が
引き起こされる可能性がある旨を主張し,これに沿う内容の証拠(甲691,
702,714,715,772等)を提出するところ,確かに,控訴人らが
主張するように,地震によってタンク火災が発生する可能性があり,火災を発
生するタンクが必ずしも1基だけとは限らないということはできる。
しかしながら,そのような火災が発生した場合に国家石油備蓄基地から約4
,,㎞も離れた本件施設にどのような被害が生じるかについては控訴人らの主張
立証によっても明らかとはいえず,そのほかの地理的状況等を踏まえてもなお
本件施設の安全性が損なわれるとする根拠を見出し難い。
そうすると,本件敷地との距離関係を理由として国家石油備蓄基地の存在に
よっても本件施設の安全性が損なわれることはないと判断した本件安全審査の
調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとすることはできない
というべきである。控訴人らの上記主張は,採用することができない。
第8本件施設の危険性その3(航空機の墜落事故)について
1控訴人らは,本件安全審査における航空機墜落を想定した評価には多くの誤
りがある旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲100ないし103,104の1・2,105
ないし110,347,348,乙36ないし43,62,71の1∼15,
証人P25)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件施設から南方向約28㎞離れた位置にα3空港が,西方向約10㎞
離れた上空に「V11」と呼ばれる定期航空路が,南方向約10㎞離れた位
「」(。置にα4射爆撃場を中心とする防衛庁等の訓練区域α3対地訓練区域
以下「本件訓練区域」という)がある。。
(2)本件施設を含む原子力施設付近上空の航空機の飛行規制については,自
衛隊機を含む我が国の航空機の場合,航空法99条により国土交通大臣によ
り航空機乗組員に対して提供される情報(航空情報)の一つとして,国土交
通省が発行する「航空路誌(AIP)に「航空機による原子力施設に対す」
る災害を防止するため,下記の施設付近の上空の飛行は,できる限り避ける
」,こととの指導事項及び原子力施設の位置等が掲載・公示されることにより
航空機乗組員に対して原子力施設付近上空の飛行規制が周知されている。米
軍機については航空法等の適用は受けないが,従来より政府から米軍に対し
て「航空路誌」に係る情報が事実上提供されるとともに,原子力施設付近上
空の飛行規制について徹底するよう要請してきており,昭和63年6月30
日に開催された日米合同委員会においても,米国側代表より「原子力施設,
付近の上空の飛行については在日米軍としては従来より日本側の規則を遵守
してきたが・・・改めて在日米軍内に右を徹底するよう措置する」との,。
回答を得るなど,在日米軍も飛行規制を尊重する態度をとっている。この飛
行規制は,飛行禁止等の絶対的な規制ではないが,米軍機及び自衛隊機を含
めこれまで実際上遵守されてきている。
(3)本件安全審査のうち,実際に規制法14条1項3号の許可要件適合性の
審査をした第23部会は,航空機は原則として原子力関係施設上空を飛行し
ないよう規制されているので本件施設への航空機墜落の確率は極めて小さい
と判断されるが,本件施設の近くに再処理施設が計画されていたことや,加
工施設指針には飛来物に係る事項は明記されていないが再処理施設安全審査
指針においては指針1の「基本的立地条件」の社会的環境の項目の中で「航
空機事故等による飛来物等」が掲げられており,地域住民の関心が高いこと
などから,念のため,本件施設に対する航空機墜落についても安全確保上問
題がないか確認することにした。
そして,第23部会は,α3空港や定期航空路が本件施設から十分離れて
いるためα3空港離着陸時の航空機の事故や定期航空路を巡航中の民間航空
機が本件施設へ墜落する確率は極めて小さいので検討する必要はないとした
上,本件施設に墜落する可能性があるのは本件施設の南方向約10㎞の位置
にある本件訓練区域で訓練している自衛隊機,米軍機が考えられるとし,こ
こで訓練を行っている自衛隊機,米軍機のうちF1戦闘機とF16戦闘機を
選定し,主としてより重量のあるF16戦闘機が訓練中に墜落した場合の影
。,。響評価をしたその評価の前提として事故の態様等を次のとおり想定した
すなわち,本件訓練区域は,陸上に設けられた射爆撃場の目標を空から攻撃
する訓練を行うためのものであり,訓練機は,射爆撃場の上空のレーストラ
ックパターンと呼ばれるレーストラック状の訓練コース(東西12㎞,南北
4.5㎞)を左周りに周回し,最高高度1800mから降下して射撃や爆撃
の訓練を行うようになっているため,事故機が訓練コースの最高高度180
0メートルで飛行する直線部分においてエンジンが停止し,訓練コースを外
れ,墜落する事故を想定した。また,事故の評価は,最短距離(9.5㎞)
,()を滑降し途中で自由落下して本件施設に衝突する場合と最長距離18㎞
を滑空したままの状態で本件施設に衝突する場合に分けて行った。いずれの
場合も,エンジンが停止した時に事故機のパイロットが機体を最良滑空状態
にすることを想定している。衝突対象建物としては,六フッ化ウランを比較
的大量に保有する機器及び設備を内蔵するため公衆に対する事故の影響が大
きいと思われるウラン貯蔵庫並びにウラン濃縮建屋のうちカスケード棟及び
発回均質棟を想定した。また,衝突の際の事故機の速度を150m/sと想定
したが,これは,世界航空機年鑑(1985度版)に基づいてF16戦闘機
の総重量を10.2tとし最良滑空速度を求めたところ147m/sと算定さ
れ,また,自由落下の場合の衝突時の速度も145m/sと算定されたことに
よる。なお,F16戦闘機の自重は6.8tであるが,武装し,爆弾を装着
した場合の全重量は10.2tないし14.97tになる。影響評価において
は,事故機は機体内部に全量である約4m3の航空機燃料を保有しているも
のとした。
第23部会は,上記のような事故を想定した場合,壁及び屋根が厚さ90
㎝の鉄筋コンクリートになっている発回均質棟は局部破壊も全体破壊も生じ
ないが,ウラン貯蔵庫及びカスケード棟は破壊され,機体が内部まで貫通す
るとし,保有ウラン量がカスケード棟より多いウラン貯蔵庫に事故機が衝突
した場合のウラン漏洩量を算定した。この算定に当たっては,機体の全投影
面積である約90㎡の範囲にある製品シリンダ15本が損傷して各製品シリ
ンダに1㎡の破口が生じ,また,事故機が墜落した際火災が発生し,事故機
が保有する航空機燃料全量が傾斜床面に流出して燃焼するものとし,傾斜路
における流体の流速に関するマニングの式と燃料の燃焼速度を考慮すると火
災は約3分間継続すると評価されるが安全側に余裕をみて約6分間継続する
とし,火災により生ずる放射熱2万5000kcal/㎡hを製品シリンダの全
表面で受け,56.5℃で昇華する六フッ化ウランガスが損傷したシリンダ
から漏洩するものとしてその量を1600㎏と計算し,その放射能量は約3
Ciとしたが,六フッ化ウランは空気中の水分と反応して固体のフッ化ウラニ
ルとなり,大部分は重力沈降したり,壁等に付着したりして建屋内に残り,
10分の1の0.3Ciが建屋外に漏洩するものとした。そしてこれによる一
「」般公衆に対する被曝線量を発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針
に準拠して大気拡散条件を考慮し,ウラン濃縮度を5%としてICRPのP
ub.30に基づく線量換算係数2.7×106rem/Ci及びICRPのPu
b.23に基づく標準人の呼吸率1.2m3/h(立方メートル毎時)を用いて
評価すると約0.06remとなり,その影響は小さいとした。なお,カスケー
ド棟に墜落した場合については,保有するウランの量がウラン貯蔵庫よりも
少ないことから漏洩量も少ないとして,格別の影響評価はされなかった。
,,,また第23部会では本件訓練区域で訓練中の軍用機が墜落する確率は
発回均質棟が3.1×10−7(回/年,ウラン貯蔵庫が5.1×10−7)
(回/年,カスケード棟が6.5×10−7(回/年,ウラン濃縮廃棄物建))
屋が9.2×10−8(回/年)と評価され,また,本件施設全体では1.6
×10−6(回/年)と評価された。
,,上記のような第23部会の評価及び判断は燃安審の評価及び判断となり
ひいては原子力安全委員会の評価及び判断となった。
(4)本件安全審査が行われる前,P35センターP36の核燃料施設部会外
部事象検討分科会(外部事象検討分科会)は,科学技術庁の委託を受けて,
本件施設及びその近傍に計画されていた再処理施設に関して,航空機墜落の
確率評価及び衝突影響評価について,国内,国外の評価手法の調査を行い,
昭和61年3月,その調査結果を提出した(甲347。外部事象検討分科)
会は,この調査の結果として,各国の例も参考にすると墜落確率評価は10
−7(1/年)オーダーに設定し,安全上重要な施設のうち特に重要と判断
される施設への航空機の墜落確率が10−7(1/年)オーダーなら発生頻
度が極めて少なく設計上考慮する必要はないが,これを超える場合は各施設
ごとに環境へ重大な影響を及ぼさないよう設計段階で建築的に防護すること
を基本的な考え方にするのが相当とした。
2上記認定によると,本件安全審査においては,航空機は原則として原子力関
係施設上空を飛行しないよう規制されていることや本件施設がα3空港や定期
航空路から十分離れていることから空港離着陸時の航空機の墜落や定期航空路
を飛行する航空機の墜落は考慮する必要はなく,また,本件訓練区域における
訓練中の航空機が本件施設に墜落する確率も極めて小さいことから,航空機に
対する防護設計は必ずしも必要ではないと判断されたが,念のためとして,航
空機が本件施設に墜落した場合の影響を評価し,仮に墜落したとしてもその一
般公衆に対する影響は小さいと評価されたものといえる。
本件施設のうち発回均質棟は壁や屋根が厚さ約90㎝の鉄筋コンクリートで
造られることとされていることからすると(乙75,発回均質棟は,外部事)
象検討分科会が航空機墜落に対する防護設計を要するとした「安全上重要な施
設のうち特に重要と判断される施設」の中に含まれるものと思われるが,上記
認定によれば,ここに訓練機が墜落する確率は3.3×10−7というのであ
るから,外部事象検討分科会がいう10−7(1/年)オーダーの範囲内にあ
り,そのため,本件安全審査では,航空機が墜落する確率が極めて小さいので
防護設計は必ずしも必要ではないと判断したものと思われる。
控訴人らは,諸外国の例を引き合いにして,本件安全審査が前提とした航空
機墜落の発生確率は防護設計を不要とする程度のものではない旨を主張する
が,諸外国においても10−7(1/年)オーダーとしている国があるばかり
ではなく,控訴人らが指摘するものは,すべて,原子炉について防護設計を不
要とすべきか否かについての墜落確率ないし条件であり,性質上,事故の際の
危険性が格段に異なる本件施設のようなウラン濃縮施設と直ちに対比できるも
のではない。かえって,証拠(甲347)によれば,諸外国においても,濃縮
施設に関しては,アメリカでは,空港5マイル(約8㎞)以内のサイトでは航
空機衝突の影響を評価することとなっているものの,それ以外では,半径15
マイル(約24㎞)以内の航空機飛行パターンとサイト位置との関係について
述べることとされているにとどまっていること,フランスでは,原子力発電所
以外の施設についての設計基準は作成中とのことであるが未だ公表されていな
いこと,西独では,原子力発電所への航空機落下に対する防護設計は濃縮施設
には適用されていないことなど,各国ともウラン濃縮施設についての航空機落
下に対する考え方はほとんど標準化されておらず,ケースバイケースで取り扱
われていることがうかがわれるのであり,控訴人らの主張は採用し難い。
3以上によれば,本件安全審査においては,本件訓練区域を使用する訓練中の
航空機が本件施設に墜落することも含めて,航空機が本件施設に墜落する可能
,,性は極めて小さいと評価・判断されそのような評価・判断をしたことにつき
本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはい
えないものであるから,たとえ,航空機墜落により生じる本件施設の影響評価
に誤りがあったとしても,それゆえに,直ちに本件安全審査の調査審議及び判
断の過程の看過し難い過誤,欠落になるとはいえないというべきである。
しかしながら,ごく限定的な条件の下とはいえ,本件安全審査においては,
航空機が本件施設に墜落した場合の影響評価を行っており,この影響評価が本
件安全審査の評価・判断に影響を及ぼした可能性もないではないから,以下に
おいて,本件安全審査における航空機墜落の影響評価についての控訴人らの主
張について検討することとする。
(1)控訴人らは,墜落を想定した航空機を本件訓練区域で訓練中の航空機に
限定したことは誤りであると主張するが,α3空港が本件施設から28㎞離
れていることからすると同空港を離着陸する際の航空機事故による本件施設
への影響は考え難いし,定期航空路を航行する民間航空機については,定期
航空路で安定した水平飛行を行っている巡航中の航空機が異常を起こすこと
はまれであることや,定期航空路の中心線は本件敷地から約10㎞離れてい
ることからすると定期航空路を飛行中の航空機が本件施設に墜落する可能性
。,は無視できるとした本件安全審査の判断が妥当性を欠くとはいえないまた
原子力施設上空の飛行が規制されていることからすると,訓練機以外の軍用
機が本件施設上空に至ることは原則としてないものということができる。そ
うすると,航空機墜落事故として,本件訓練区域での訓練中の航空機の墜落
を想定したこと自体に誤りがあるということはできない。
また,控訴人らは,F4EJ改戦闘機の墜落を想定しなかったのは誤りで
あると主張するが,証拠(甲100,102,305,306,311,3
22,345)によれば,F4EJ改戦闘機は,本件許可処分後の平成8年
以降にα3基地に配備されたものであって,本件安全審査当時,α3基地に
配備されていなかったことが認められるから,その余の点について検討する
までもなく,同機種を墜落評価に加えなかったことが本件安全審査の審議過
程及び判断の過程の看過し難い過誤,欠落ということはできないというべき
である。行政処分当時に存した事情を現在の知見の下において審理すること
と,行政処分当時に存しない事情を基礎に審理することとは区別されるべき
ものである。
(2)控訴人らは,航空機の墜落はエンジン停止に限られないから,エンジン
停止を前提に墜落する事故機の衝突時速度を150m/sと想定したのは誤り
である旨主張するところ,前記のとおり,本件安全審査では本件訓練区域を
使用する訓練中の航空機が何らかの原因によりエンジンを停止し,訓練コー
スを外れて滑空するなどして本件施設に墜落することを想定しているもので
あるが,航空機の墜落がエンジンの停止に限られないことは控訴人らの主張
のとおりである。しかしながら,上記の想定は,原子力施設上空の飛行が規
制されていて,しかも,本件施設と本件訓練区域とが約10㎞離れているこ
とから,エンジン停止以外の事由では訓練機が本件施設の上空に飛来するこ
とはまれであろうとの前提に立ったものと思われ,また,航空機の墜落原因
としてエンジンの停止は最も一般的なものの一つといえるから,上記のよう
な想定をしたことも不合理とはいえない。また,本件安全審査においては,
航空機墜落の確率は本件訓練区域で訓練する訓練機を含めて極めて小さいと
判断された上で,念のために影響評価を行ったものである。いわば参考のた
めの影響評価にすぎないものであって,そうだとすると,影響評価において
あらゆる事故を想定せず,衝突時の速度が150m/sを超える場合を想定し
なかったとしても,そのことから本件安全審査に誤りがあるということはで
きない。
また,証拠(甲103,104の2,乙62の添付資料2)によれば,本
件安全審査においては,発回均質棟の全体破壊(飛来物が衝突した直後に起
こる第一次応答よりやや遅れて起こり,構造物のより広い領域を巻き込んで
第一次応答よりは長時間発生する動的弾塑性挙動のことであり,建屋の全体
が破壊されるというものではない(甲347の74頁,348の16頁))。
を検討する際にはF16戦闘機の機体重量を16tとしながら,発回均質棟
の局部破壊(飛来物が衝突した直後,衝突位置近傍に極めて短時間に発生す
る構造物への貫入,裏面剥離,貫通及び破片の飛散などのこと(甲347,
348)を検討する際には同機の機体重量を10.2tとし,これを前提)。
として最良滑空速度を計算していることが認められる。これは,最良滑空速
,度を計算する際にはF16戦闘機の重量を10.2tとして計算したものの
全体破壊を検討する際には安全側に余裕をみて機体の重量を最も重い総重量
14.97tを前提にした16tとして計算したことによるものとも思われ
るが,統一がとれていないことは否定し難い。機体重量を16tと想定する
ならば,その他の係数が異ならない限り,最良滑空速度も147m/sではな
く,計算上は控訴人ら主張のとおり184m/sになるのであり,また,衝突
時の速度を150m/sとするならば,機体の重量も10.2tとして計算しな
。,,ければ平仄が合わないことになるしかしながら本件安全審査においては
あらゆる事故を想定したわけではないことは上記のとおりであり,資料に基
づいて事故機の重量を10.2tとして最良滑空速度を147m/sと計算し,
衝突時の速度を150m/sとした想定をしたこともあながち誤りとまではい
えない。資料に記載された重量10.2tには燃料は含まれていない可能性
があるものの,機体燃料が常に全量保持されているわけではないし,武装が
常に最大の装備状態になっているわけではないことからすると,機体重量を
10.2tとしたこともあり得ない条件を設定したとまではいえないからで
ある。もっとも,本件安全審査においては,機体の重量を16tとしただけ
でなく,航空燃料は全量の4m3を保有するものとしているのであって,想
定自体にそごがあることになるが,機体の重量を16tとしたことや保有す
る航空燃料は全量の4m3としたことは衝突の影響を評価するに当たってよ
り安全側にみたことによるものと解せないわけでもなく,上記のそごがある
とはいえ,これを看過し難い過誤とまでいうことはできない。なお,仮に事
故機の重量を16tとすると,最良滑空速度が184m/sと計算上なること
は前記のとおりであるが,その場合であっても,その他の係数が異ならない
ならば,本件安全審査で採用された破壊評価式(Degen式)による限り,貫
通限界厚さは90㎝を超えておらず,発回均質棟の局部破壊は生じないこと
がうかがわれる(甲350。なお,証人P25の証言によれば,本件施設の
設計及び施工の認可申請手続においては発回均質棟の壁厚は94㎝とされ,
実際にも94㎝で工事が行われたことが認められる。。)
(3)控訴人らは,本件施設に航空機による自爆テロ行為がなされる場合には
少なくとも巡航速度前後(甲347,672)で航空機は本件施設に衝突す
る旨を主張する。本件施設についてそのような具体的危険性があるかどうか
はともかくとして,自爆テロ行為がもしも奏功すれば,その目的・性質から
いって本件施設が破壊されるであろうことは容易に察し得る(甲347,6
72,674,675等。しかしながら,そのような第三者の外部からの)
意図的な破壊行為を設計のみによって防止することは不可能である上,原子
力施設の中では本件施設はその潜在的危険性が小さいことにもかんがみる
と,加工施設指針は,自爆テロ行為による破壊の防止までを予定していない
ものというべきであり,自爆テロ行為を審査の対象としなかったからといっ
て,本件安全審査に誤りがあるということはできない。このような行為の防
止は,外交,防衛,治安等の観点から国全体で対応して初めて可能となるこ
とであって,ひとり加工施設の基本設計のみで対応するような問題ではない
というべきである。
(4)控訴人らは,発回均質棟の局部破壊の評価について,本件安全審査にお
いては外部事象検討分科会が推奨したAdeli&Amin式がさしたる理由もなく
排斥された旨を主張し,確かに,外部事象検討分科会では,航空機のエンジ
ンの衝突による局部破壊の評価式として,中型(10㎏)以上かつ中速度(50
m/s)以上の飛来物実験結果と比較的一致度が良い式の一つとしてAdeli&Am
in式を挙げている(甲100,347,348。しかしながら,外部事象)
検討分科会は,Degen式もまた飛来物実験結果と比較的一致度が良い式とし
てこれを挙げているのであり,控訴人らがAdeli&Amin式を採用すべきと主
張するところも,要するに,Adeli&Amin式の方が貫通限界厚さの値が大き
くなるというにすぎず,Degen式が誤った方式であるというのではないし,
また,Degen式が誤った方式であると認めるに足りる証拠もないから,本件
安全審査においてDegen式を採用したことに看過し難い過誤,欠落があると
はいえない。
控訴人らは,航空機のエンジンによるコンクリートの貫通限界厚さを求め
。,るのはDegen式をその適用範囲外に用いるものである旨を主張する確かに
外部事象検討分科会の調査によれば,Degen式は,飛来物の重量が15ない
し340kgf,同直径が10ないし31㎝である場合を適用範囲内としてお
り(甲103,347,衝突の対象として選定されたF16戦闘機のエン)
ジンの重量や直径はこれを超えていることが認められる(甲347。しか)
しながら,控訴人らが適用すべきとするAdeli&Amin式も,飛来物の重量が
0.24ないし756lbf(重量ポンド(約0.1ないし342.9㎏,同))
直径が12in(インチ(約30.5㎝)以下を適用範囲内としており,F)
16戦闘機のエンジンの重量や直径はこれを超えているのであって(甲10
3,347,適用範囲の問題はDegen式に固有の問題ではないものといえ)
る。また,外部事象検討分科会が過去の実験結果との合致度が比較的良好で
あると選定したDegen式,Chang式,CEA-EDF式及びAdeli&Amin式について,
縮尺模型を使った衝突実験が行われたが,この結果では,Adeli&Amin式以
,,,,外のDegen式Chang式CEA-EDF式はほぼ実験結果とよい対応を示したが
Adeli&Amin式は全体的に貫通限界厚さを過大に評価する傾向が示されたた
め,Adeli&Amin式が選定から外されたことが認められる(甲103。上)
記模型実験の結果が実際の衝突事象につきどの程度正確に適用されるものか
については必ずしも判然としないものの,少なくとも,Adeli&Amin式を採
用せず,Degen式を採用したことが誤りであったとはいえない。
また,控訴人らは,航空機のエンジンを柔飛来物とし,貫通限界厚さを低
減することは妥当でない旨を主張し,証拠(甲103,348,乙62,1
00,証人P25)によれば,本件安全審査では,航空機のエンジンを柔飛
来物とし,柔飛来物には貫通限界厚さについて一律に0.25の低減(低減
係数0.75)があるものとしているところ,この試みは必ずしもごく一般
的といえるほど定立してはいないことが認められる。しかしながら,それゆ
え,上記の模型による衝突実験が行われ,その結果,速度215m/sの低減
率として0.7∼0.8(中央値0.75,速度150m/sの低減率として0.)
6∼0.72(中央値0.65)が得られたというのであり(甲103,そ)
の模型実験が不相当であると認めるに足りる証拠はない。したがって,本件
安全審査で柔飛来物低減係数0.75を使用したことに看過し難い過誤,欠
落があるとはいえない。
また,控訴人らは,航空機のエンジンの形状を平坦とし,飛来物形状係数
0.72を使用したことは妥当ではない旨を主張し,証拠(証人P25)に
よれば,本件安全審査では,航空機のエンジンの形状について飛来物形状係
数を0.72として計算していることが一応認められる。しかしながら,複
雑な実際の飛来物の形を踏まえた場合に,いかなる形状であれば「平坦0.
72(甲347の96頁)との飛来物形状係数を使用し,いかなる形状で」
あれば「若干丸い0.84(甲347の96頁)との飛来物形状係数を使」
用すべきかの点,あるいはF16戦闘機のエンジンの形状,また,それをど
ちらにおいて評価すべきかの点について,控訴人らにおいてこれらを明確に
しているものとはいい難い。もっとも,原理の同じジェットエンジンの形状
が機種ごとに全く似通った点がないとは考えられないところ,F16戦闘機
のものではないものの,他の航空機のエンジンを参酌してみると,エンジン
が言葉そのものの意味において「平坦」でないことは確かであるが(甲67
3の1・2参照,逆に,総じて見た場合に,その前面を平坦と見ることも)
できないわけではないし,本件安全審査でF16戦闘機が本件施設に衝突す
る前提とされたのは,ほぼ水平かほぼ垂直な場合であるから,エンジンが面
部で衝突するとしたとの想定で検討することも不合理とはいえない。したが
って,本件安全審査で柔飛来物低減係数0.72を使用したことに看過し難
い過誤,欠落があるとはいえない。
控訴人らは,発回均質棟の全体破壊の評価について,外部事象検討分科会
が推奨した塑性率8以下の基準をP1の都合に併せて変更した旨を主張す
る。そして,証拠(甲104の2,348,乙62)によれば,外部事象検
討分科会は,全体破壊についての評価基準として,コンクリート版の変形に
,,,ついて塑性率8以下という基準を提示しており本件安全審査においても
当初はこの塑性率8以下を満たすとして全体破壊がないとしていたが,その
後の本件安全審査では,コンクリートの最大圧縮歪6500×10−6以下
の基準に基づいて全体破壊がないとしていることが認められる。しかしなが
ら,上記塑性率の基準値については,外部事象検討分科会も,世界的に見て
資料に乏しく今後更なる検討が必要としていたものであり(甲348の42
頁,一方,コンクリート最大圧縮歪に基づいて全体破壊がないとすること)
も基準の1つであり,また,一般的なものであるとうかがわれるのであって
(証人P25,本件安全審査で塑性率8以下という基準が採用されなかっ)
たことに看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。
控訴人らは,全体破壊評価について,コンクリート圧縮強度を300㎏f/
㎝2としたこと及びこれにひずみ速度による強度増加率を乗じたことは妥当
ではない旨を主張する。そして,本件施設の設計ではコンクリートの設計基
準強度は240㎏f/㎝2となっているところ,本件安全審査では,実強度は
300㎏f/㎝2が見込まれるとして,さらに,ひずみ速度による強度増加率
1.25を乗じていることが認められる(甲104の2。しかしながら,)
コンクリートの圧縮強度に打設後増加が認められること,実強度は通常設計
基準強度を上回るものであること,そして,ひずみ速度による強度増加率が
あることはごく一般的な知見であるとうかがわれるところ(甲103,34
6,348,証人P25,上記数値が不相当であると認めるに足りる的確)
な証拠はないから,本件安全審査でコンクリート圧縮強度を300㎏f/㎝2
,,としひずみ速度による強度増加率1.25を乗じたことに看過し難い過誤
欠落があるとはいえない。
(5)以上によれば,本件安全審査で行われた航空機墜落についての影響評価
についても,看過し難い過誤,欠落があるとまではいえず,したがって,こ
の影響評価が航空機墜落に関する本件安全審査の評価・判断を誤らせたもの
ともいえない。
4以上の次第であるから,航空機墜落に関する本件安全審査に過誤,欠落があ
るとする控訴人らの主張は採用することができない。
第9結論
以上によれば,控訴人P4(53,同P5(64,同P6(65,同P7)))
(66,同P8(67,同P9(69,同P10(70)及び同P11(7)))
3)並びに控訴人P40(48)及び同P41(58)の10名以外の控訴人ら
については,本件許可処分の無効確認ないし取消しを求めるにつき原告適格を有
しないものであるから,同控訴人らのこれらの請求に係る訴えを不適法として却
下した原判決は相当である。また,原告適格を有する者の本件主位的請求及び予
備的請求はいずれも理由がないから,控訴人P4(53,同P5(64,同))
P6(65,同P7(66,同P8(67,同P9(69,同P10(7))))
0)及び同P11(73)の請求をいずれも棄却した原判決は相当である。控訴
人P40(48)及び同P41(58)の原告適格を否定し,上記両名の本件主
位的及び予備的請求に係る訴えを却下した原判決は不当であるが,上記各訴えに
係る各請求については,同一の請求をした共同訴訟人であり,かつ,原判決で原
告適格が認められた控訴人P4(53)ほか7名と被控訴人との間で既に主張,
立証が十分に尽くされているから原審に差し戻して更に弁論をする必要はないの
で,民事訴訟法307条ただし書に基づき原審に差し戻さず,各請求につき実体
判断をするのが相当であるところ,上記のとおり本件主位的請求及び予備的請求
,()()はいずれも理由がないのであるから控訴人P4048及び同P4158
の各請求についても請求棄却の判決をすべきである。しかし,原判決を控訴した
者の不利益に変更することはできないから(民事訴訟法304条,結局,控訴)
人P40(48)及び同P41(58)の控訴も棄却するほかはない。
よって,控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり判
決する。
仙台高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官大橋弘
裁判官鈴木桂子
裁判官中村恭
(別紙1)原判決の訂正等(前提事実等・当事者の主張)
※(旧)を(新)に改める。訂正等の箇所は下線部のとおりである。
1原判決7頁8行目から同10行目まで
(旧「⑧七月一三日核燃料安全専門審査会第二三部会)
は、一一回にわたる調査審議を経て結
論を出し、部会報告を決定した」。
(新「⑧7月13日核燃料安全専門審査会第23部会)
は,11回にわたる調査審議及び現地
調査を経て結論を出し,部会報告を決
定した」。
2原判決10頁1行目から同3行目まで
(旧「原告らは、近くは本件施設がある青森県上北郡α1、遠くは鹿児島県)
指宿市と、全国各地に居住する者であり、本件施設からその居住地ま
での距離は、約一・五キロメートルから一五〇〇キロメートル余りま
でと様々である」。
(新「控訴人らは,近くは本件施設がある青森県上北郡α1,遠くは福岡県)
と,全国各地に居住する者であり,本件施設からその居住地までの距
離は,約1.5㎞から1200㎞余りまでと様々である」。
3原判決22頁6行目から同10行目まで
(旧「さらに、動燃事業団は・・・・・・・商業プラントに先立って原型)、
プラントの建設を進め、昭和六三年四月にその第一期分が一〇〇トン
SWU/年の能力で操業を開始、翌平成元年五月にはその第二期分が
操業を開始している。」
(新「さらに,動燃事業団は・・・・・・・商業プラントに先立って原型),
プラントの建設を進め,昭和63年4月にその第1期分が100tSWU
/年の能力で操業を開始,翌平成元年5月にはその第二期分が操業を開
始したが,平成13年2月,その運転を終了した(甲653」)。
4原判決23頁10行目から同24頁3行目まで
(旧「本件施設は・・・・・・・その後のカスケード設備(配管により接)、
続された遠心分離機群)等の増設に伴う向上により、平成一〇年一〇
月以降は一〇五〇トンSWU/年となっている。」
(新「本件施設は・・・・・・・その後のカスケード設備(配管により接),
続された遠心分離機群)等の増設に伴う向上により,平成10年10
月以降は1050tSWU/年となったが,平成14年12月ころ,工程
の一部縮小により,750tSWU/年となった(甲682、683」)。
5原判決40頁5行目から同7行目まで
(旧「一原告らの訴状記載の住所地は、近くは本件施設の所在地である青)
森県α1から、遠くは関東地方の東京都・横浜市等、関西地方の大
阪市・京都市等、九州地方の福岡市・鹿児島県指宿市等にまで及ん
でいる」。
(新「一控訴人らの住所地は,近くは本件施設の所在地である青森県α1)
から,遠くは関東地方の東京都・横浜市等,関西地方の京都市等,
九州地方の福岡県にまで及んでいる」。
6原判決46頁4行目から同9行目まで
(旧「年間一〇〇ミリレム・・・・・・・と定められている一般公衆の被曝)
限度を超える範囲は、約七〇〇キロメートル風下の地域までに及ぶこ
ととなり、実際の地図上では、本件施設から六〇〇キロメートル程度
離れた東京都を含むことになる。」
(新「年間100mrem・・・・・・・と定められている一般公衆の被曝限度)
を超える範囲は,200㎞を超える範囲に及ぶ(甲660」)。
7原判決79頁10行目
(旧「法律上の利益を有する者(行訴法九条」)『』)
(新「法律上の利益を有する者(行訴法9条1項」)『』)
8原判決102頁10行目から同11行目まで
(旧「規制法一四条一項二号及び三号に係る許可要件適合性」)
(新「規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る)及び3号に)。
係る許可要件適合性」
9原判決144頁6行目から同7行目まで
(旧「P1は事業活動を行っておらず、損失はあっても収入(営業収入)は)
ない。」
(新「本件許可処分当時,P1は事業活動を行っておらず,損失はあっても)
収入(営業収入)はなかった。」
10原判決163頁7行目から同164頁2行目まで
(旧「不溶性の天然ウランが肺に年間五レムの被曝を与える放射能の量は、)
五・四二×一〇の二乗マイクロキュリーとされている。そして、一般
人の許容被曝線量は、許容被曝線量等を定める件で年間〇・五レムと
されているので、同量の被曝を与える放射能の量は、五・四二×一〇
の三乗マイクロキュリー、すなわち二・〇一×一〇の二乗ベクレルで
あり、これを天然ウランの量に換算すると約八ミリグラムとなる」。
(新「不溶性の天然ウランが肺に年間5remの被曝を与える放射能の量は,)
5.42×10−2μCiとされている。そして,一般人の許容被曝線
量は,許容被曝線量等を定める件で年間0.5remとされているので,
同量の被曝を与える放射能の量は,5.42×10−3μCi,すなわ
ち2.01×102Bqであり,これを天然ウランの量に換算すると約
8mgとなる」。
11原判決213頁5行目から同6行目まで
(旧「提出日は昭和六二年五月二七日」)()
(新「提出日は昭和62年5月26日(乙1)」)()
12原判決216頁10行目から同216頁11行目まで
(旧「一八五六年八月二三日の『日高の胆振・渡島・津軽・南部の地震』は)
五ないし五の強と推定(申請書では六の中間)されている」
(新「1856年8月23日の『日高の胆振・渡島・津軽・南部の地震』は)
5ないし5の強と推定(本件許可申請書では4の中間)されている」
13原判決287頁3行目から同5行目まで
(旧「現在の一般公衆の線量当量限度である一人当たりの被曝線量(線量当)
量)年間〇・一一レム(一・一ミリシーベルト)と比べても小さい値
であり」、
(新「現在の一般公衆の線量当量限度である1人当たりの被曝線量(線量当)
量)年間0.1rem(1mSv)と比べても小さい値であり」,
14原判決288頁5行目
(旧「推定で四九・五キロリットル」)
(新「推定で15ないし20kl(甲655)」)
15原判決303頁2行目
(旧「(2)Adeli&Ain式」)
(新「(2)Adeli&Amin式」)
16原判決303頁8行目から9行目まで
(旧「Adeli&Ain式」)
(新「Adeli&Amin式」)
17原判決304頁5行目から同6行目まで
(旧「Adeli&Ain式では、F一六についての貫通限界厚さは九〇セ)
ンチメトルを超える」。
(新「Adeli&Amin式では,F16についての貫通限界厚さは90㎝を超え)
る」。
18原判決305頁3行目
(旧「本件安全震災」)
(新「本件安全審査」)
19原判決305頁5行目から同6行目まで
(旧「一四・七m/S」)
(新「147m/s」)
20原判決307頁5行目から同9行目まで
(旧「内閣総理大臣の想定でも、中央操作棟については『貫通する。また、)、
航空機衝突によっても鉄筋コンクリートスラブが破壊され、全体破壊
が起こり得る』とされている(乙六二。にもかかわらず、このよう。)
な場合でも『大量のウランの放出が起き、周辺の公衆に放射能被爆、
を与えるということはない』とされている(証人P25の証言」。)。
(新「内閣総理大臣の想定でも,中央操作棟については,貫通し,また,航)
空機衝突によって鉄筋コンクリートスラブが破壊され,全体破壊が起
こり得るにもかかわらず,このような場合の大量のウランの放出や周
辺の公衆に対する放射能被爆について検討されていない(証人P2
5」)。
21原判決317頁2行目
(旧「航空法九二条一項三号ただし書」)
(新「航空法92条1項ただし書」)
22原判決343頁1行目から同2行目まで
(旧「第一類に分類される設備や機器(例えばシリンダ置台、遠心分離機」))
(新「第一類に分類される設備や機器(例えばシリンダ置台」))
23原判決459頁6行目から同8行目まで
(旧「このモニタが排気中の放射性物質の濃度限度以下になった場合に警報)
、。」を発するのみで自動排気停止装置を備えていないことが判明した
(新「このモニタが排気中の放射性物質の濃度限度以上になった場合に警報)
を発するのみで自動排気停止装置を備えていないことが判明した平,(
成5年9月30日付け被控訴人の検証申出補充書(指示説明(補充))
参照。」)
24原判決501頁7行目から同9行目まで
(旧「一段で九九・九パーセントの捕集効率の高性能エアフィルタ二段の捕)
集効率を九九・九九九パーセントと低く設定している」
(新「一段で99・9%以上(乙75の別14頁参照)の捕集効率の高性能)
エアフィルタ2段の捕集効率を99・999%と低く設定している」
以上
(別紙2)原判決の訂正等(判断)
※(旧)を(新)に改める。訂正等の箇所は下線部のとおりである。
1原判決561頁10行目から同11行目
(旧「最高裁判所昭和三六年三月七日第三小法廷判決・民集一五巻三号三)(
八一頁参照」)
(新「最高裁判所昭和36年3月7日第三小法廷判決・民集15巻3号3)(
81頁,同裁判所昭和42年4月7日第二小法廷判決・民集21巻3
号572頁参照」)
2原判決570頁1行目から同11行目まで
(旧「第五まとめ)
右のとおり、本件許可処分に重大かつ明白な瑕疵があるとはい
えないから、一四名の原告らの本件許可処分の無効確認を求める
主位的請求はいずれも理由がない。
第三章結論
以上によれば、本件訴訟のうち原告P3に関する部分について
は、死亡による終了宣言をすることとし、同原告を除く原告らの
うち、別紙当事者目録記載の番号五二、五三及び六三ないし七四
の合計一四名以外の原告らの本件許可処分の無効確認を求める主
位的請求に係る訴えは、いずれも原告適格を欠き不適法であるか
らこれを却下すべきものであり、その余の右一四名の原告らの主
位的請求は、いずれも理由がないから棄却を免れない」。
(新「第五まとめ)
上記のとおり,本件許可処分に重大かつ明白な瑕疵があるとは
いえないから,前記10名の控訴人らの本件許可処分の無効確認
を求める主位的請求はいずれも理由がない。
第三章結論
以上によれば,本件訴訟のうち、原判決別紙当事者目録記載の
番号48,53,58,64ないし67,69,70及び73の
合計10名以外の控訴人らの本件許可処分の無効確認を求める主
位的請求に係る訴えは、いずれも原告適格を欠き不適法であるか
らこれを却下すべきものであり,その余の上記10名の控訴人ら
の主位的請求は,いずれも理由がないから棄却を免れない」。
3原判決573頁9行目から同10行目まで
(旧「国際規制物質の使用(第六章の二」))
(新「国際規制物資の使用(第6章の2」))
4原判決573頁10行目
(旧「内閣総理大臣」)
(新「主務大臣」)
5原判決576頁6行目
(旧「規制法一六条一項、加工事業規則三条の二第一項」)
(新「規制法16条の2第1項,加工事業規則3条の2第1項」)
6原判決577頁6行目から同11行目まで
(旧「規制法一四条一項二号(技術的能力に係る部分に限る)及び三号所)。
定の基準の適合性が各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委
員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理
大臣の合理的な判断に委ねられていることからすれば、右判断に必要
な加工施設の基本設計の具体性の程度や判断の対象となる事項の取捨
選択も、同様に右の内閣総理大臣の合理的な判断に委ねられているも
のと解されるから、」
(新「規制法14条2項の趣旨が、同条1項2号(技術的能力に係る部分に)
限る)及び3号所定の基準の適合性について,各専門分野の学識経。
験者等を擁する原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく
意見を十分に尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねられて
いることからすれば,右判断に必要な加工施設の基本設計の具体性の
程度や判断の対象となる事項の取捨選択も,上記基準の適合性に関す
る判断を構成するものとして,同様に上記の内閣総理大臣の合理的な
判断に委ねられているものと解されるから(最高裁判所平成17年5
月30日第一小法廷判決・民集59巻4号671頁参照,」)
7原判決580頁8行目
(旧「原子力委員会」)
(新「原子力安全委員会」)
8原判決583頁11行目から同584頁1行目まで
(旧「最高裁判所昭和二七年一月二五日第二小法廷判決・民集六巻一号二)(
二頁参照」)
(新「最高裁判所昭和27年1月25日第二小法廷判決・民集6巻1号2)(
2頁,同裁判所昭和28年10月30日第二小法廷判決・行裁集4巻
10号2316頁参照」)
9原判決585頁10行目から同11行目まで
(旧「加工事業規則三条二項」)
(新「加工事業規則2条2項」)
10原判決587頁3行目から同6行目まで
(旧「本件施設の遠心分離装置については、複数の遠心分離機群で構成され)
るカスケード設備自体を主要な設備として捉えた上でその種類及び個
数について記載されているのであり加工事業規則二条一項一号ニ(ロ)、
の要請を満たしているといえる」。
(新「個々の遠心分離機それ自体では遠心分離の機能を果たすことはできな)
いのであり,本件施設の遠心分離装置については,複数の遠心分離機
群で構成されるカスケード設備自体を主要な設備として捉えた上でそ
の種類及び個数について記載されているのであり,加工事業規則2条
1項1号ニ(ロ)の要請を満たしているといえる」。
11原判決589頁10行目
(旧「原子力委員会」)
(新「原子力安全委員会」)
12原判決590頁4行目
(旧「原子力委員会」)
(新「原子力安全委員会」)
13原判決607頁3行目
(旧「昭和六三年七月一三日」)
(新「昭和63年7月21日」)
14原判決612頁7行目から同613頁4行目まで
(旧「右免状の保有者や原子力関係業務経験年数の長い者が、規範意識の鈍)
磨や作業上の慣れ、安全性への過信などが原因となって加工施設の安
全を損なう行為に出る危険性があるとしても、あるいは原告らが主張
するようにP15事故の発生に核燃料取扱主任者免状を有する者の行
為が何らかの寄与をしていたとしても、そのような危険は加工施設の
作業従事者に対する継続的な研修や教育、啓発で防止されるべき性質
のものであって、免状保有者の有無や人数、原子力関係業務の経験年
数といった資質を有する人的資源が、加工事業者の所定の技術的能力
の確保に全く資するところがないとまではいえない」。
(新「右免状の保有者や原子力関係業務経験年数の長い者が,規範意識の鈍)
磨や作業上の慣れ,安全性への過信などが原因となって加工施設の安
全を損なう行為に出る危険性がないとはいえないとしても,あるいは
控訴人らが主張するようにP15事故の発生に特定の核燃料取扱主任
者免状を有する者の行為が何らかの寄与をしていたとしても,そのよ
うな危険は加工施設の作業従事者に対する継続的な研修や教育,啓発
で防止されるべき性質のものであって,免状保有者の有無や人数,原
子力関係業務の経験年数といった資質を有する人的資源が,加工事業
者の所定の技術的能力の確保に全く資するところがないとはいえな
い」。
15原判決624頁9行目から同625頁3行目まで
(旧「放射線の人への影響は、確率的影響と非確率的影響とに分けて考える)
のが便利な場合もある。前者は線量当量に応じて放射線の影響が確率
的に現れるもので、がんや遺伝的障害の発生がその例である。後者は
影響の強さ(重篤度)が線量とともに変わるもので、そのためにその
線量以下では影響が現れないといった『しきい値』があり得るような
影響で、白内障、皮膚障害等がその例である」。
(新「放射線の人への影響は,確率的影響と非確率的影響とに分けて考える)
のが便利な場合もある。前者は線量当量の増加とともに放射線の影響
の発生確率が比例的に増加するとされているもので,がんや遺伝的障
害の発生がその例である。後者はある一定量の放射線量に達すると放
射線の影響が出るもので,そのためにその線量以下では影響が現れな
いといった『しきい値』があり得るような影響で,白内障,皮膚障害
等がその例である」。
16原判決640頁11行目から同642頁5行目まで
(旧「本件施設において問題となる六フッ化ウランに起因する災害の防止対)
策の適否を審査するに当たっては・・・・・・・も併せ考慮すると、、
右三号要件適合性に関する裁判所の審理判断は、しきい値の存在を前
提として行うのが相当であるというべきである」。
(新)削除
17原判決642頁6行目から同643頁3行目まで
(旧「ところで、加工施設に求められる安全性の程度、すなわち核燃料物)
質が有する潜在的危険の顕在化を防止すべき程度については、右のよ
うに放射線の人体に対する影響のうち一定のものにしきい値がないも
のとした場合、そのような非確率的影響をいかなる程度においても防
止しようとするならば、六フッ化ウランの漏洩や放射性廃棄物の排出
を皆無とし、臨界事故その他の事故発生の可能性も絶対的に零としな
ければならないことになる。しかし、証人P51の証言によれば、お
よそ人工の設備ないし機器は、万全の手当を講じたとしても、何らか
の破綻ないし事故が発生する可能性を必然的に有しており、これを絶
対的に零にすることは不可能であることが認められる。」
(新「加工施設に求められる安全性の程度,すなわち核燃料物質が有する)
潜在的危険の顕在化を防止すべき程度については,前記のように放射
線の人体に対する影響のうち一定のものにはしきい値がなく,線量当
量の増加とともに放射線の影響の発生確率が比例的に増加するものが
あるところ,そのような確率的影響をいかなる程度においても防止し
ようとするならば,六フッ化ウランの漏洩や放射性廃棄物の排出を皆
無とし,臨界事故その他の事故発生の可能性も絶対的に零としなけれ
ばならないことになる。しかし,およそ人工の設備ないし機器は,万
全の手当を講じたとしても,何らかの破綻ないし事故が発生する可能
性を必然的に有しており,これを絶対的に零にすることは不可能であ
ることは明らかである。」
18原判決653頁5行目
(旧「単一ユニットの臨界安全」)
(新「単一ユニットの臨界管理」)
19原判決653頁8行目
(旧「複数ユニットの臨界安全」)
(新「複数ユニットの臨界管理」)
20原判決657頁5行目から同6行目まで
(旧「米国国立標準協会(Americannationalstandardinstitute、略称A)
NSI」)
(新「米国国立標準協会(AmericanNationalStandardsInstitute,略称)
ANSI」)
21原判決671頁1行目
(旧「①近接工場等における火災、爆発」)
(新「①近接工場等における火災、爆発等」)
22原判決672頁3行目から同4行目まで
(旧「事業所の面積は三四〇平方メートル」)
(新「事業所の敷地面積は340万㎡」)
23原判決674頁4行目
(旧「落下」)
(新「自由落下(乙24)」)
24原判決675頁8行目から同9行目まで
(旧「本件施設の建物が鉄骨の二階建て程度のものであることを踏まえ」)、
(新「本件施設の建物が鉄骨ないし鉄筋コンクリート造りの2階建て程度の)
ものであることを踏まえ」,
25原判決688頁9行目から同10行目まで
(旧「鷹架層が軟岩に属するとの事実を認めることができる」)
(新「鷹架層の構成岩石が軟岩に属するとの事実を認めることができる」)
26原判決693頁2行目から同694頁5行目まで
(旧「本件許可申請書及びその添付書類では、ボーリング調査の結果として)
はN値の調査結果と土質のみが記載された地質断面図が示されたにと
どまり、本件安全審査でも右の各数値は確認されなかったことが認め
られる。
しかしながら、ボーリングの割れ目の状態はボーリングのコアを見
ればすぐ分かること(原告P33本人)及び・・・・・・・このこと
、、をもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤
欠落があるとまではいえない。」
(新「本件許可申請書及びその添付書類には、ボーリング調査の結果として)
はN値の調査結果と土質のみが記載された地質断面図が示されたにと
どまることが認められる(乙75の3−11・3−12頁。」)
しかしながら,証拠(甲434、乙1の3−1頁、乙2の7頁、乙
71の1・6,証人P24)及び弁論の全趣旨によれば,本件敷地に
ついては,合計51孔のボーリング調査,平板載荷試験,弾性波探査
観測等が実施され,2箇所についてのボーリング柱状図,敷地全体に
わたる地質平面図及び地質断面図など合計5枚の図面,平板戴荷試験
結果図等が第23部会の第1回会合に資料として提示され審査の対象
となったほか,耐震工学を専門とする旧科学技術庁の原子力安全技術
顧問のP24による現地でのコアの観察が実施され(平成9年7月1
1日原審第31回口頭弁論のP24証人尋問調書9頁以下,平成9年
9月12日原審第32回口頭弁論のP24証人尋問調書32頁以下参
照,さらに,第23部会において,昭和63年3月11日から同月)
12日にかけてされた現地調査でコアの観察が実施されていることが
認められるから(乙71の6,すべてのボーリング調査地点につい)
てのボーリング柱状図あるいはコアが本件安全審査において審査の対
象とならなかったとしても,地盤調査に不十分な点があったとはいい
難く,本件許可申請書にはボーリング調査の結果としてN値の調査結
果と土質のみが記載された地質断面図(ボーリング柱状図)のみが添
付されていることをもって,本件安全審査の調査審議及び判断の過程
に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。」
27原判決696頁2行目から同8行目まで
(旧「(4)このほか、原告らは、地耐力を十分と評価するためには地耐力)
の平均均値、標準偏差、最高値及び最低値を明らかにした上、最低
値の部分でも十分な余裕があることを示す必要があると主張し、甲
第三六二号証中には右主張と同旨の部分があるけれども、右書証の
該当箇所は原告P33本人が作成したものであって、他に右主張を
客観的に裏付ける証拠はない以上、右書証のみをもって本件安全審
査の調査審議の過程に看過し難い過誤、欠落があるとまでは認める
に足りない」。
(新「(4)このほか,控訴人らは,地耐力を十分と評価するためには地耐)
力の平均均値,標準偏差,最高値及び最低値を明らかにした上,最
低値の部分でも十分な余裕があることを示す必要があると主張する
が,本件敷地についてそのような計算をして地盤の支持力を調査す
べき必要性を認めるに足りる証拠はなく,そのような調査をしてい
、ないことをもって本件安全審査の調査審議の過程に看過し難い過誤
欠落があるとまでは認めるに足りない」。
28原判決717頁10行目から同718頁2行目まで
(旧「しかしながら、他方、右の認定事実によれば、マグニチュード―震央)
距離図は、震度不明の地震の震度階を推測する一応の機能を有してお
り、また、実際の震度階と齟齬を生じる場合があるにしても、実際の
震度階を過小の方向に偏って評価する性質のものではないことが認め
られる。」
(新「しかしながら,種々の仮定に基づいたモデル式が現実の事象をくまな)
く説明し尽くせると限らないことは,ある意味当然の理にすぎないと
いうべきところ,他方,右の認定事実によれば,マグニチュード―震
央距離図は,震度不明の地震の震度階を推測する一応の機能を有して
おり,また,実際の震度階と齟齬を生じる場合があるにしても,実際
の震度階を過小の方向のみに偏って評価する性質のものではないこと
が認められる。そもそも,科学的地震観測体制が行われるより前に起
きた歴史地震の震央や規模(マグニチュード)は何らかの形でこの種
モデル式を使用しなければ推定しようがないはずであり(甲362の
50頁参照,控訴人ら自身,このように推定される歴史地震の内容)
を当然の前提とする主張,立証をしているところである。」
29原判決722頁11行目から同723頁1行目まで
(旧「将来本件敷地において震度Ⅴを超える地震が絶対発生しないと断定す)
ることはできないけども、」
()「,,新その発生確率の僅少予測期間の長さをまったく問わないのであれば
将来本件敷地において震度5を超える地震が絶対発生しない,すなわ
ち発生確率がゼロと断定することは当然ながら現在の科学的知見の下
では不可能であり,現に,核燃料施設ではない一般の建築物であって
すら,どの場所においても,当該箇所に震度5を超える地震が絶対発
生しないなどという前提で建築することを許容されているわけではな
い。」
30原判決725頁11行目から同726頁6行目まで
(旧「活断層は、地質及び地形の観点から考慮されるのみで、地震の原因と)
しては検討対象として位置づけられていない。したがって、基本的立
地条件の審査としては、断層については施設に不同沈下等の影響を及
ぼすか否か等の観点から敷地内の断層を対象とした検討がされていれ
ば足り、それ以上に、敷地外の断層について、地震の原因として検討
対象とすることまでは必要がないというべきである。したがって、原
告らの主張は理由がない。」
(新「敷地外の断層ないし活断層を地震発生の原因として考慮すべきことを)
加工施設指針が義務付けているとは認め難いから,このような観点か
らの審査をしなかったからといって,それ自体では本件安全審査の調
,。査審議の過程に看過し難い過誤欠落があったとすることはできない
なお,控訴人らは,本件敷地周辺の海域が『地震空白地帯』であり巨
大地震発生の蓋然性がある旨を主張するが,地震が繰り返し周期的に
発生している地域にもかかわらず同規模の地震が長期間発生していな
いという意味においては地震空白地帯で地震発生の蓋然性が高いとは
いえるものの,巨大地震が起きていないから巨大地震の地震空白地帯
でありそれゆえその発生の蓋然性がある,などとする科学的根拠はな
いのであるから,控訴人らの上記主張は失当というほかない。」
31原判決728頁6行目から同729頁8行目まで
()「、、旧しかし本件施設のようなウラン加工施設を設置するに当たっては
・・・・・・・本件安全審査において、プレート間地震、殊に海洋プ
レート(スラブ)内地震といった地震学上の新たな知見を考慮しその
発生を想定していないとしても、この点に看過し難い欠落があるとま
ではいえない。」
(新「控訴人らのプレート間地震(プレート境界型地震)に係る主張は,)
要するに,プレート間地震はM8.5に達するような巨大地震が想定さ
れるから,プレート間地震を考慮するならば,本件敷地でも震度7の
地震動が生じ得ると想定すべきであったとの趣旨と解される。しかし
ながら,本件安全審査では,過去の地震が本件敷地に対してどのよう
な影響を与えたかという観点から「宇佐美カタログ(1979」及,)
びその新版「宇津カタログ(1982,気象庁地震月報及び昭和,)」
62年版の理科年表の各資料に掲載された地震中,震央が本件敷地か
ら半径200㎞以内にありかつ一定規模以上のものについて検討し,
震央が200㎞を超える地震についてもさらに検討した結果,地震が
今まで本件敷地に及ぼした影響は震度5程度のものであることを確認
したのであり,地震発生の機序に関する特定の知見を殊更に排除した
わけではなく,あるいは,特定の機序の地震を殊更検討の対象から外
したものではない。現に,控訴人らがプレート間地震の例として挙げ
る昭和43年5月16日発生の十勝沖地震も震央距離が本件敷地から
200㎞以内であったことから検討の対象になっている(乙75の3
−13頁。なお,本件許可処分後に発生した地震がおよそ検討の対象
とし得るものでなかったことは明らかである。控訴人らは,結局の。)
ところ,プレート境界型の巨大地震発生が発生して本件敷地に影響を
与えるというどの地域についてもいえる抽象的な可能性を述べるにと
どまるものというべきであり,採用し難いものというほかない。
また,控訴人らは,海洋プレート(スラブ)内地震の発生を想定し
た審査をしなかったという点において本件安全審査を論難するが,本
件安全審査において特定の機序の地震を殊更に排除したのでないこと
は前記説示のとおりであり,また,スラブ内地震の発生機序はまだ学
問的に解明されていないとうかがわれることにかんがみると(甲35
7の33頁,406の25頁,440の33頁,641の15頁,6
68の17頁参照,本件安全審査において,海洋プレート(スラブ))
内地震といった地震学上の新たな知見を考慮しなかったとしても,こ
の点に看過し難い過誤,欠落があるとまではいえない。したがって,
この点に関する控訴人らの主張も採用することができない。」
32原判決734頁1行目から同3行目まで
(旧「本件施設が建築基準法施行令所定の風速毎秒六〇メートル相当の風圧)
力に耐えるように設計されるものであること(乙一)を踏まえると」、
(新「本件施設が平成12年政令第211号による改正前の建築基準法施行)
令87条所定の風速毎秒60m相当の風圧力に耐えるように設計され
るものであることを踏まえると」,
33原判決741頁4行目から同6行目まで
(旧「その範囲は、α3対地訓練区域に係る飛行制限空域の大部分を含みな)
がらその北西方向から南西方向等にかけて下北半島の基部を横断する
区域の上空に及び」,
(新「その範囲は,α3対地訓練区域に係る飛行制限空域の大部分を含み,)
ほぼ長方形状に下北半島の基部を横断する区域の上空に及び」,
34原判決742頁6行目
(旧「聴取」)
(新「聴守」)
35原判決758頁7行目から同761頁4行目まで
(旧「(三)中央操作棟の安全性)
原告らは、内閣総理大臣の想定でも、中央操作棟については『貫
通する。また、航空機衝突によっても鉄筋コンクリートスラブが破
壊され、全体破壊が起こり得る』とされており(乙六二、この場。)
合本件施設の制御が不能となるのであって、どういうことが発生す
るか予想は不能であり、最大・最悪の事態を想定すべきであると主
張する。
しかし、そもそも乙第六二号証中には・・・・・・・想定される
数トンの量のウラン以上のウラン災害になる可能性が十分ある旨証
言する。
確かに・・・・・・・中央操作棟を選定しなかったとしても、、
そのことをもって、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過
し難い過誤、欠落があるとはいえない。」
(新「(三)中央操作棟の安全性)
控訴人らは,内閣総理大臣の想定でも,中央操作棟については,
貫通し,また,航空機衝突によって鉄筋コンクリートスラブが破壊
され,全体破壊が起こり得るところ,この場合本件施設の制御が不
,,能となるのであってどういうことが発生するか予想は不能であり
最大・最悪の事態を想定すべきであると主張するそして証拠乙。,(
75,検証)及び弁論の全趣旨によれば,中央操作棟は耐震重要度
分類が第2類に分類されている主構造が鉄骨造りの2階建建物であ
り,その中には,常用電源室,非常用電源室,中央制御室,排気室
等が設置されていることが認められるところ,中央操作棟の局部破
壊や全体破壊が生じた場合,上記各室のいずれか又は複数の部屋が
破壊されるおそれがあることになる。
しかしながら,本件安全審査での飛来物墜落時の影響評価は取り
扱うウラン性状及び保有量を考慮した上で発回均質棟,カスケード
棟及びウラン貯蔵建屋が選定されているのであるから,その面から
見た場合に中央操作等の排気室(第一種管理区域)が破壊された場
合の影響は低いとの前提からこの部分が評価の対象から外れたもの
と考えられるし(甲100の1頁、102の1頁、平成8年7月2
6日原審第28回口頭弁論のP25証人尋問調書25頁以下参照,)
中央制御室が破壊されても,それは『中央』制御ができなくなるの
であって,直ちに本件施設についていかなる制御も不能となること
を意味するものではなく,また,これによって直ちに六フッ化ウラ
ンが漏出する事態が発生するわけではない。次に常用電源室・非常
用電源室(これらは隣接しており,排気室とは建物反対側に位置し
ている)が破壊された場合に本件施設の外部電源が機能喪失をす。
るという事態を検討すべきであったか否かについてみるに,本件施
設では,外部電源が喪失した場合には,本件施設の各設備の内部か
らの排気を処理する4つの排気系は,空気作動弁が自動的に閉まる
構造となっていて,工程内の気体が外部へ流出しない仕組みとなっ
ており,また,外部電源の喪失によりコールドトラップ,製品回収
槽,廃品回収槽等の冷却能力が喪失されることになるものの(一方
では,発生槽,均質槽の加温機能も喪失されているわけである,。)
たとえ室温が摂氏40度としても,六フッ化ウランの飽和蒸気圧は
大気圧未満(約0.4気圧)であるため工程内の圧力が大気圧を超え
ることはないというのであるから(乙75の5−22・5−24・
5−30頁,やはり直ちに六フッ化ウランが漏出する事態が発生)
するわけではない。
そうすると,中央操作棟の局部破壊ないし全体破壊によってもた
らされる事態もまた憂慮すべきものではあるものの,六フッ化ウラ
ンの漏出という面において,仮に航空機が本件施設に墜落したとき
にどのような事態が生じるかとの事故評価の観点から見た場合にそ
の衝突対象として中央操作棟を選定しなかったとしても,そのこと
,,を不合理ということまではできないというべきでありしたがって
これをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い
過誤,欠落があるとはいえない。控訴人らの主張は採用することが
できない。」
36原判決762頁2行目
(旧「導体」)
(新「胴体」)
37原判決772頁4行目から同8行目まで
(旧「(一)核燃料施設基本指針一〇は、ウラン加工施設における単一ユニ)
ットの臨界安全について、技術的に想定されるいかなる場合でも、
単一ユニットの形状寸法、質量、溶液濃度の制限及び中性子吸収材
の使用等並びにこれらの組合せによって核的に制限することにより
臨界を防止する対策が講じられていることを定めている」。
(新「(一)核燃料施設基本指針10は,核燃料施設における単一ユニット)
の臨界安全について,技術的に想定されるいかなる場合でも,臨界
を防止する対策が講じられていることを定めている」。
38原判決774頁10行目から同775頁3行目まで
(旧「(二)核燃料施設基本指針一一は、核燃料施設内に単一ユニットが複)
数存在する場合のユニット相互間の中性子相互干渉を考慮して、複
数ユニットの配列について、技術的にみて想定されるいかなる場合
でもユニット相互間における間隔の維持又はユニット相互間におけ
る中性子遮へいの使用等により臨界を防止する対策が講じられてい
ることを定め、」
(新「(二)核燃料施設基本指針11は,核燃料施設内に単一ユニットが複)
数存在する場合のユニット相互間の中性子相互干渉を考慮して,技
術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じ
られていることを定め,」
39原判決778頁10行目
(旧「漏洩防止」)
(新「漏洩防止,放射線遮へい,臨界防止等」)
40原判決780頁8行目
(旧「許容被爆線量等を定める件」)
(新「許容被爆線量等を定める件等」)
41原判決780頁9行目
(旧「日本工業規格」)
(新「日本工業規格等」)
42原判決783頁6行目から同784頁5行目まで
(旧「(イ)第二類(六フッ化ウラン配管類、弁等を含む))。
(カスケード設備)
遠心分離機
(六フッ化ウラン処理設備)
捕集廃棄系ケミカルトラップ(アルミナ、一般パージ系ケミ)
カルトラップ(アルミナ、カスケード廃棄系ケミカルトラッ)
プ(アルミナ、アルミナ処理槽、廃品第一段コンプレッサ、)
廃品第二段コンプレッサ
(均質ブレンディング設備)
均質パージ系コールドトラップ、均質パージ系ケミカルトラッ
プ(アルミナ」)
(新「(イ)第2類(六フッ化ウラン配管類,弁等を含む))。
(カスケード設備)
遠心分離機
(六フッ化ウラン処理設備)
捕集排気系ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム,一般パー)
ジ系ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム,カスケード排気)
系ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム,フッ化ナトリウム)
処理槽,廃品第一段コンプレッサ,廃品第二段コンプレッサ
(均質ブレンディング設備)
均質パージ系コールドトラップ,均質パージ系ケミカルトラッ
プ(フッ化ナトリウム」)
43原判決785頁8行目から同11行目まで
(旧「(イ)第二類)
ウラン濃縮建屋のうち中央操作棟、カスケード棟
ウラン貯蔵建屋のうち搬出入棟
補助建屋」
(新「(イ)第2類)
ウラン濃縮建屋のうち中央操作棟、カスケード棟
ウラン貯蔵建屋のうち搬出入棟
ウラン濃縮廃棄物建屋
補助建屋」
44原判決786頁6行目から同787頁2行目まで
(旧「本件施設の設備・機器については、静的設計法によるとともに剛構造)
とすることを基本とし、これによることが困難な場合には、その他適
切な方法により耐震設計を行うとともに、建築基準法施行令八八条所
定の最小地震力及び第一類の設備・機器については一・五、第二類の
設備・機器については一・四、第三類の設備・機器については一・二
の各割増係数とから算出した一次地震力と、当該設備又は機器に常時
作用している荷重とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して許
容応力度を許容限界とする、いわゆる一次設計を行うこととされてい
る」。
(新「本件施設の設備・機器については,静的設計法によるとともに剛構造)
とすることを基本とし,これによることが困難な場合には,その他適
切な方法により耐震設計を行うこと,そして,建築基準法施行令88
条によって定まる最小地震力に第1類の設備・機器については1.5,
第2類の設備・機器については1.4,第3類の設備・機器については
1.2の各割増係数を乗じて算出した一次地震力と,当該設備又は機器
に常時作用している荷重とを組み合わせ,その結果発生する応力に対
して許容応力度を許容限界とする,いわゆる一次設計を行うこととさ
れている」。
45原判決788頁3行目から同9行目まで
(旧「(二)本件安全審査では、右の重要度分類や耐震設計上の方針、割増)
係数の定め方等が加工施設指針にのっとり、かつ適切であることを
確認するとともに、建物及び構築物と設備及び機器の各一次設計に
おける建築基準法施行令八八条所定の最小地震力が震度Ⅴ程度の地
震を対象として想定していることも、基本的立地条件に関して過去
の地震の記録等を評価した結果に照らし妥当であり、本件施設は、
耐震設計に関する限り、規制法一四条一項三号の基準に適合してい
ると判断した。」
(新「(二)本件安全審査では,上記の重要度分類や耐震設計上の方針,割)
増係数の定め方等が加工施設指針にのっとり,かつ適切であること
を確認するとともに,この場合の建物及び構築物と設備及び機器の
各一次設計における設計地震力の前提となる建築基準法施行令88
条によって定まる最小地震力が震度5程度の地震を対象として想定
していることも,基本的立地条件に関して過去の地震の記録等を評
価した結果に照らし妥当であり,本件施設は,耐震設計に関する限
り,規制法14条1項3号の基準に適合していると判断した(平成
,9年7月11日原審第31回口頭弁論のP24証人尋問調書77頁
平成9年11月28日原審第33回口頭弁論のP24証人尋問調書
18∼19頁参照)」。
46原判決793頁9行目から同794頁1行目まで
(旧「次に、五パーセントという核的制限値については、複数の遠心分離)
機から構成されるカスケード設備全体を単一ユニットとして扱い、モ
デル計算の条件としては、①容器(遠心分離機)を正方格子上に密着
して無限に配列し」、
(新「次に,カスケード設備の臨界安全性については,複数の遠心分離機か)
ら構成されるカスケード設備全体を単一ユニットとして扱い,モデル
計算の条件としては,①無限長円筒の容器を正方格子状に密着させて
無限に配列し」,
47原判決797頁7行目から同8行目まで
(旧「減速度は五・一となり、」)
(新「減速度は最大でも5.1(甲96の4頁,乙75の5−1頁以下参照))
となり,」
48原判決800頁4行目から同5行目まで
(旧「中性子実効増倍率が〇・九五となっていることを確認した」)。
(新「中性子実効増倍率が0.95以下(甲96の7∼8頁,乙75の5−)
1頁以下参照)となっていることを確認した」。
49原判決803頁1行目
(旧「九九・九パーセント」)
(新「99・9%以上」)
50原判決826頁2行目から3行目まで
(旧「第一類に分類される設備や機器(例えばシリンダ置台、遠心分離機」))
(新「第1類に分類される設備や機器(例えばシリンダ置台」))
51原判決826頁7行目から同11行目まで
(旧「しかしながら、本件安全審査において本件施設の主要な建物や設備)
の固有周期等について審査、検討がされなかったとしても、そのこと
により本件施設の建物や設備の耐震設計にいかなる影響を及ぼすのか
についての主張は何らされていないのであるから、右主張は具体性を
欠くものといわざるを得ない。」
(新「しかしながら,本件施設の主要な建物や設備の振動特性等は,それ)
を考慮する必要があるとしても,基本設計における重要度分類,耐震
設計上の方針,設計地震力等の枠組みの中で,その後の具体的・詳細
設計の段階において検討されるべき事項であり,その適否は規制法1
6条の2の設計及び工事の方法の認可手続において具体的に審査され
るべきものであって,そもそも加工事業許可手続における審査の対象
とはならないから,その内容の適否を本件安全審査の中で審査しない
としても不合理なものではなく,したがって,本件安全審査の調査審
議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。」
52原判決831頁6行目
(旧「設備及び工事の方法の認可手続」)
(新「設計及び工事の方法の認可手続」)
53原判決836頁8行目から同837頁11行目まで
(旧「そうすると、証人P51が証言するように・・・・・・・などと)、
いった事態は、加工施設指針が臨界防止対策の前提とする技術的に発
生が想定されるような事故であると解することはできない。したがっ
て、本件安全審査で臨界に関する安全設計を検討するに当たり、右の
ような事象を前提とした臨界事故の危険性について審査が行われてい
ないとしても、これをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程
に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない」。
(新「また,証拠(乙75の5−25,検証,平成12年2月25日原審)
第44回口頭弁論の証人P51尋問調書40頁以下参照)及び弁論の
全趣旨によれば,最終工程である中間製品容器から製品シリンダへの
六フッ化ウランの移送の際に中間製品容器側と製品シリンダ側の両方
について重量の計測が行われていて,この工程後の中間製品容器の重
量が洗缶前にも把握されていることも認められる。
したがって,中間製品容器側と製品シリンダ側の双方の重量計が同
時に故障し,それにもかかわらず重量計が所定の値を示しているため
に中間製品容器の本来の重量を誤認し,さらに,洗缶前の十分なパー
ジ(排気)を怠り,そして,中間製品容器に六フッ化ウランが充填さ
れていないことの確認手段として2回行うこととされている重量測定
を2度にわたって怠り,あるいは2度にわたって誤まり(あるいは重
量計が2度にわたって誤った所定の数値をとり,中間製品容器内に)
六フッ化ウランが充填されたまま容器の洗缶を行うなどといったほぼ
意図的ともいえる事態は,加工施設指針が臨界防止対策の前提とする
技術的に発生が想定されるような事故であると解することはできない
ものというべきである。そうすると,本件安全審査で臨界に関する安
全設計を検討するに当たり,右のような事象を前提とした臨界事故の
危険性について審査が行われていないとしても,これをもって本件安
全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとは
いえない」。
54原判決840頁1行目から同841頁3行目まで
(旧「しかしながら、ここでも、フール・プルーフの考え方を取り入れる)
などして・・・・・・といった多重連鎖の事象は、加工施設指針が臨
界防止対策の前提とする技術的に発生が想定されるような事故である
と解することはできない。
したがって、本件安全審査で臨界に関する安全設計を検討するに当
たり、右のような事象を前提とした臨界事故の危険性について審査が
行われていないとしても、これをもって本件安全審査の調査審議及び
判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない」。
(新「本件施設で六フッ化ウランが最高温度(摂氏94度)及び大気圧を)
超える圧力(約2.7㎏/㎝2G)となる均質操作時(液状化処理時)
においては,もともと六フッ化ウランの移送弁は閉の状態になってお
り,この場合でも中間製品容器が破裂することのないように設計強度
(摂氏121度,14㎏/㎝2G)が保たれることとなっているもので
あるところ(乙75の別20・5−18・5−21・5−22・7−
1頁以下参照,この場合,中間製品容器を所定の温度で所定の時間)
加熱を加えることとなっており,その温度及び圧力はいずれも監視さ
れているのであるから(甲97,その双方が同時に故障し,なおか)
つ,所定の値を示しているためこれに気付かず,あるいは,インター
ロックも働かないという事態は,加工施設指針が臨界防止対策の前提
とする技術的に発生が想定されるような事故であると解することは困
難というほかない。
また,控訴人らが主張するように,圧力計に接続される配管との接
続が失念されたにもかかわらず均質操作,濃縮度調整ないし製品シリ
ンダへの移送がなされようとしたとしても(そのようなことを可能に
する詳細設計がなされるとはいささか考えにくいが,中間製品容器。)
と製品シリンダ間での六フッ化ウランの移送については中間製品容器
側と製品シリンダ側の両方について重量の計測が行われているのであ
るから(乙75の5−25頁,検証,平成12年2月25日原審第4
4回口頭弁論の証人P51尋問調書40頁以下参照,その双方の重)
量計が同時に故障している中で圧力計につながる配管の接続も忘れ,
それにもかかわらず,重量計が所定の値を示しているために六フッ化
ウランが移送されていないことに気付かず,また,圧力計が所定の値
を示しているために配管の接続がされていないことに気付かず,加熱
を続けるという事態も,加工施設指針が臨界防止対策の前提とする技
術的に発生が想定されるような事故であると解することは困難という
ほかない。
なお,控訴人らは製品シリンダ槽の1つに加熱機能が持たされてい
る旨を主張し,本件許可申請書にも1基の製品シリンダ槽には加熱機
能が持たされる旨記載されており(乙75の別7頁参照,本件証拠)
上,製品シリンダからの六フッ化ウランの移送が行われるのは過充填
の場合以外にはうかがわれないが,一方では,過充填の場合には加熱
しないで移送するとされているから(乙75の5−25頁参照,こ)
,,の設備を設置しようとした意図は不明であるもののいずれにしても
過充填された製品シリンダを加熱することは意図的な行為となるとこ
ろ,このような事態は加工施設指針が臨界防止対策の前提とする技術
的に発生が想定されるような事故の前提とされるものとはいえず,後
続の保安規定の認可等の手続において規制されるべきところである。
したがって,本件安全審査で臨界に関する安全設計を検討するに当
たり,上記のような事象を前提とした臨界事故の危険性について審査
が行われていないとしても,これをもって本件安全審査の調査審議及
び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない」。
55原判決851頁1行目
(旧「はいえない」)。
(新「はいえない。)
(一〇)控訴人らは,カスケード設備についての単一ユニット臨界安全
性に係る臨界計算の条件の1つは,無限長円筒の容器を正方格子状に
密着させて無限に配列するというものであるにもかかわらず,本件施
設の遠心分離機は正方格子状(1個の円筒の周囲に8個の円筒が配置
される)ではなく,千鳥格子状(1個の円筒の周囲に6個の円筒が。
配置される)に配置されており,正方格子状に配置されることを前。
提に臨界計算をしたとしても,より安全側の論証にはなっていない旨
を主張する。
しかしながら,相互の間隔などに若干はっきりしないところはある
ものの,本件施設の遠心分離機は正方格子状に配置されていると認め
ることができるのであり(平成5年9月10日付け被控訴人検証申出
書添付写真14,検証調書添付写真18参照「正方」格子状である。
からといって見る方向にかかわらず常に「正方形」状に見えるわけで
はない,控訴人らの主張の前提を認めるに足りる証拠がないという。)
べきである。これをさておいても,正方格子状の場合と千鳥格子状の
,場合とでいずれが安全側となるのかを精査した結果は控訴人らの主張
立証するところではないから,いずれにしても,控訴人らの上記主張
は採用することができないものである。
(一一)また,控訴人らは,ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)移
動時のケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)間についての複数ユニ
ットの臨界安全性について,この場合に中性子実効増倍率が最も高く
なるにもかかわらず,ほかの場合の解析のように空間部の水密度を変
えた解析をしておらず,この点において本件安全審査に看過し難い過
誤,欠落がある旨を主張する。
そして,甲第96号証によると「表3−4(1/2)複数ユニッ、
トにおける臨界解析の条件及び結果」の「ユニット移動時」列の「解
析結果」欄には,製品コールドトラップ,中間製品容器及び製品シリ
ンダについては水密度g/㎝3が00.10.20.、()『』,『』,『』,『
5『0.75『1.0』などの場合についての解析結果が記載され』,』,
,(),ているのに対しケミカルトラップフッ化ナトリウムについては
ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)の位置に関して3例の解析結
果が記載されているが,水密度が異なった場合の解析結果は記載され
ていないことが認められる。
しかし,あらゆる水密度についての解析結果を記載することができ
ないのは明らかであり(無限にある,いずれにしても水密度と中性。)
子実効増倍率との相関関係の傾向を見るほかないところ,ケミカルト
ラップ(フッ化ナトリウム)については,ユニット間の相互干渉(非
移動時)について他の機器類とは違って水密度の増加とともに極端に
中性子実効増倍率が減少する傾向が記載されており,したがって,ケ
ミカルトラップ(フッ化ナトリウム)については,最も大きな値を示
した水密度でユニット移動時の解析結果を代表させたか,あるいは,
単に,解析はしたが欄が足りないので最も大きな数値を示す場合を記
載したかにすぎないと考えるのが自然である(平成8年2月2日原審
第26回口頭弁論のP23証人尋問調書42丁以下参照。これをさ)
ておいても,ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)のユニット移動
時に水密度によって中性子実効増倍率がどのようになるかは控訴人ら
の主張,立証するところではないから,いずれにしても,控訴人らの
上記主張は採用することができないものである。
したがって,本件安全審査において,この点についての解析結果が
検討対象とはされなかったからといって,その調査審議及び判断の過
程に看過し難い過誤,欠落があるとすることはできないというべきで
ある」。
56原判決854頁6行目
(旧「NaFトラップ」)
(新「ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム」))
57原判決863頁8行目から同864頁3行目まで
(旧「しかしながら、前記認定のとおり、本件施設のカスケード室に配置)
されるカスケード設備を構成する遠心分離機については、高速で回転
する内部の回転体が破損しても外筒(ケーシング)の真空気密性能が
、、十分保たれるように破損試験で確認された強度設計を行うとともに
回転体の回転速度が破損試験で安全性が確認された範囲を超えないよ
うに回転体を駆動する高周波電源の周波数を制限することが確認され
ているのであるから、原告らの主張は理由がない」。
(新「しかしながら,控訴人らが本件安全審査で開示されなかったとする)
データは,定格周速を超える場合のケーシングへの食い込み深さのデ
ータであり(甲97の23頁,乙49の67頁参照,第23部会に)
提出された資料である甲第97号証(メモ23−2−4)は定格周速
の場合にどのような結果となるかを示そうとしたものであって,こと
さらほかのデータを隠匿したものではない。そして,前記認定のとお
り,本件施設のカスケード室に配置されるカスケード設備を構成する
遠心分離機については,高速で回転する内部の回転体が破損しても外
筒(ケーシング)の真空気密性能が十分保たれるように,破損試験で
確認された強度設計を行うとともに,回転体の回転速度が破損試験で
安全性が確認された範囲を超えないように回転体を駆動する高周波電
源の周波数を制限することが確認されているのであるから,控訴人ら
の主張は理由がない」。
58原判決873頁6行目から同8行目まで
(旧「そのような実際に作製された機器の寸法形状が安全審査の審査対象で)
ないことはいうまでもなく、右主張は失当である」。
(新「そのような実際に作製された機器の寸法形状が安全審査の審査対象で)
ないことはいうまでもなく(そもそも,計測結果が正確であるか否か
も定かではない上に,核的制限値という観点からは外径の寸法には直
接の意味はない(乙96の6頁参照),右主張は失当である」)。。
59原判決880頁7行目から同8行目まで
(旧「(九)原告らは、原料シリンダの衝撃に対する強度がせいぜい〇・三)
メートルの高さからの落下に耐え得る程度であると主張するが、」
(新「(九)控訴人らは,原料シリンダの衝撃に対する強度がせいぜい0.)
3mの高さからの落下に耐え得る程度であると主張するが,これを
認めるに足りる証拠はなく(規格の共通する廃品シリンダの落下試
験結果(甲97)参照,そして,そもそも」)
60原判決881頁5行目
(旧「・・・・・・・,右主張は失当である」)。
(新「・・・・・・・,右主張は失当である。)
また,控訴人らは,本件施設の中間製品容器置場の中間製品容器の
置台並びにウラン貯蔵庫の製品シリンダ,原料シリンダ及び廃品シリ
ンダの置台は金属製の鋭角の突起を備えているところ,クリーン吊り
下げによる移動中にシリンダないし容器が突起物へ落下した場合には
損傷のおそれがあるにもかかわらず,この点を想定しなかった本件安
全審査には,その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落が
ある旨を主張する。
しかしながら,加工施設の基本設計に求められるのは,後続の加工
施設の具体的詳細な設計及び工事の方法について安全性を審査するた
めの規範ないし枠組みとしての機能であって,本件安全審査も基本設
計ないし基本設計方針の妥当性を審査するものであるから,実際に製
作された機器の寸法形状は審査の対象とはならないものであるし,ま
た,これを審査の対象としなかったことも不合理とはいえない。した
がって,控訴人らの主張は失当ということにはなるが,中間製品容器
置台やシリンダ置台は耐震設計上の重要度が第1類に分類される重要
な機器・設備であるから,以下,念のため検討する。
甲第75号証及び同第97号証によると,本件施設で使用される容
器ないしシリンダ類としては,製品シリンダ(30Bシリンダ。長さ
約1.9m胴径約76㎝最大充填量2277㎏原料シリンダ4、、),(
8Yシリンダ。長さ約3.7m,胴径約1.2m,最大充填量1万25
01㎏,廃品シリンダ(48Yシリンダ・48Gシリンダ相当。長)
さ約3.7m,胴径約1.2m,最大充填量1万2701㎏)及び中間
製品容器(最大充填量4500㎏)であるが,中間製品容器は均質室
内に,そのほかのシリンダは,ウラン貯蔵建屋内に保管され,直角三
角形状の鋼製支持板(置台)で両脇から支えられて固定されることが
認められる(平成5年9月10日付け被控訴人検証申出補充書添付写
,,,,)。真2539∼41検証調書添付写真314748∼53参照
もっとも,各置台とも,鋼製版の上に滑止めないし緩衝のためとうか
がわれる材が取り付けられており,また,重量の大きい原料シリンダ
と廃品シリンダについては置台の上先が丸められていることが認めら
れる。
控訴人らは,容器ないしシリンダがクレーンから落下した場合には
上記置台の上先部分に当たって容器ないしシリンダが破損する旨を述
べるところ,置台は傾斜しているとはいってもあくまで容器ないしシ
リンダとは面で衝突するものであるから,このことによって容器ない
しシリンダーが直ちに損傷するとは断言できないが,落ち方次第では
置台の鋭角部分に衝突する可能性も否定し難く,そのような場合の強
度試験がなされたことは本件証拠上はうかがわれない(ただし、置台
には落下対策がなされている可能性も否定できないが,具体的・詳細
設計の内容が争われているわけではない本件では,証拠上は不明とい
うほかない。。)
しかしながら,仮に容器ないしシリンダーが大きく損傷して六フッ
,,化ウランが漏出するような事態が生じるとしてもこの事故の性質上
必ず1個の容器ないしシリンダからのものにとどまるところ,均質室
はそもそも第1種管理区域であってもともと六フッ化ウランが密封さ
れている区域であり,また,ウラン貯蔵建屋は第2種管理区域である
ものの直ちに六フッ化ウランが建屋外に漏出するとはいえないし,そ
もそも,ウラン貯蔵建屋に航空機が墜落して同建屋内が破壊され,か
つ,15本の製品シリンダが破損し火災が発生した場合でも一般公衆
への影響は小さいとされているのであるから,シリンダの落下事故に
より建屋外に六フッ化ウランが漏出することがあるとしても,その影
響が上記事態よりもはるかに小さいことも明らかというべきである。
したがって,シリンダの置台への落下事故の発生の可能性をもって本
。」件施設に安全性の基準に適合しないところがあるとまではいえない
61原判決886頁6行目
(旧「バスダクト」)
(新「バスダクト(高周波インバータ装置への入力用電路及び高周波インバ)
ータ装置からの出力用電路として設置されている設備)」
62原判決906頁2行目から同3行目まで
(旧「回転数の低下等の異常を生じて廃品第一段コンプレッサが故障した。)

(新「回転体と振れを防止する部品等とが接触して通常よりも短時間で廃品)
第一段コンプレッサが降速停止する事態が生じた(甲45,46,7
4,75参照」)。
63原判決906頁9行目から同10行目まで
(旧「廃品第一段コンプレッサの故障が発生したものである。」)
(新「廃品第一段コンプレッサの一部が通常よりも短時間で停止したもので)
ある。」
64原判決926頁8行目から同927頁3行目まで
(旧「作業従事者の意図的な作業工程の不遵守といった杜撰な管理等によっ)
て起こり得る事故についても、加工事業許可申請の許否を審査する段
階でその発生を想定した臨界事故評価が行われる仕組みになるよう制
度の抜本的な見直しが検討され、右のような現行制度上技術的見地か
ら発生が予想されない臨界事故についても事前に審査する新たな制度
の実現が望まれるところである」。
(新「作業従事者の意図的な作業工程の不遵守といった杜撰な管理等によっ)
て起こり得る事故についても,その発生を想定した臨界事故評価が行
われる仕組みになるよう制度の見直しが検討され,右のような現行制
度上技術的見地から発生が予想されない臨界事故についても事前に審
査する新たな制度の実現が望まれるところである」。
65原判決958頁2行目
(旧「使用済洗浄用溶剤」)
(新「使用済洗浄用溶剤等の管理区域外で発生する排水以外の放射性液体廃)
棄物」
66原判決972頁6行目から同10行目まで
(旧「そうすると、原告P3を除く原告らのうち、別紙当事者目録記載の番)
号五二、五三及び六三ないし七四の合計一四名以外の原告らの本件許
可処分の取消しを求める予備的請求に係る訴えは、いずれも原告適格
を欠き不適法であるからこれを却下すべきものであり、その余の右一
四名の原告らの予備的請求は、いずれも理由がなく棄却を免れない」。
(新「そうすると、原判決別紙当事者目録記載の番号48,53,58,6)
4ないし67,69,70及び73の合計10名以外の控訴人らの本
件許可処分の取消しを求める予備的請求に係る訴えは,いずれも原告
適格を欠き不適法であるからこれを却下すべきものであり,その余の
上記10名の控訴人らの予備的請求は,いずれも理由がなく棄却を免
れない」。
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