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平成一二年(ラ)第一三四号 各著作権仮処分命令申立却下決定に対する抗告申立事
件(原審・東京地方裁判所平成一一年(ヨ)第二二〇七九号・同年(ヨ)第二二一二九
号)(以下、原審の平成一一年(ヨ)第二二〇七九号を「原審甲事件」と、同年(ヨ)
第二二一二九号を「原審乙事件」と、両事件を併せて「原審両事件」という。)
          決      定
       抗告人(原審両事件債権者)    【A】
       抗告人(原審両事件債権者)    【B】
       抗告人(原審両事件債権者)    【C】
       抗告人(原審両事件債権者)    【D】
       抗告人(原審両事件債権者)    【E】こと【F】
       抗告人(原審両事件債権者)    【G】こと【H】
       抗告人(原審甲事件債権者)    【I】
       抗告人(原審乙事件債権者)    【J】
       抗告人(原審乙事件債権者)    【K】こと【L】
       右九名訴訟代理人弁護士      藤原宏高
       同                井奈波 朋 子
       同                堀籠佳典
同訴訟復代理人弁護士  九石拓也
       相手方(原審両事件債務者)    株式会社文溪堂
       右代表者代表取締役        【M】
       右訴訟代理人弁護士        石田英遠
       相手方(原審両事件債務者)    青葉出版株式会社
       右代表者代表取締役        【N】
      相手方(原審両事件債務者)    株式会社日本標準
       右代表者代表取締役        【O】
       相手方(原審両事件債務者)    株式会社教育同人社
       右代表者代表取締役        【P】
       相手方(原審両事件債務者)    株式会社新学社
       右代表者代表取締役        【Q】
       相手方(原審両事件債務者)    株式会社光文書院
       右代表者代表取締役        【R】
       右五名訴訟代理人弁護士      岡 邦俊
       同                近藤 夏
       同                前田哲男
       株式会社日本標準訴訟代理人弁護士斉藤義雄
       同              朝倉正幸
          主      文
   一 原決定を次のとおり変更する。
    1 各抗告人において、それぞれ、本決定告知の日から一〇日以内に、い
ずれかの相手方のために金一〇万円の保証を立てたときは、当該相手方は、別紙決
定作品目録一、二の当該抗告人に係る欄に記載された各著作物の文章の全部又は一
部を、上段枠内に抜粋して又は一部変更を加えて複製し、下段に上段枠内の文章を
題材とした設問と解答欄を設ける(解答欄に模範解答を記入しているものも含む)
形式により、平成一二年度二学期及び三学期小学校用国語副教材並びに平成一三年
度一学期、二学期及び三学期用小学校用国語副教材として、小学校において配布す
ることを目的として作成される文書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならな
い。
    2 抗告人らのその余の申立てをいずれも却下する。
   二 申立費用は、原審、抗告審を通じてこれを二分し、その一を抗告人ら
の、その余を相手方らの負担とする。
          理      由
第一 申立て
 一 抗告人ら
  1 原決定を取り消す。
  2(1) 相手方株式会社文溪堂は、原決定別紙副教材目録(以下、単に「別紙副
教材目録」という。)二記載の各副教材中、「債務者」欄に「文溪堂」との記載の
ある各副教材並びに原決定別紙文書目録(以下、単に「別紙文書目録」という。)
一、二記載の各文書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
   (2) 相手方青葉出版株式会社は、別紙副教材目録二記載の各副教材中、「債
務者」欄に「青葉出版」との記載のある各副教材並びに別紙文書目録一、二記載の
各文書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
   (3) 相手方株式会社日本標準は、別紙副教材目録二記載の各副教材中、「債
務者」欄に「日本標準」との記載のある各副教材並びに別紙文書目録一、二記載の
各文書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
   (4) 相手方株式会社教育同人杜は、別紙副教材目録二記載の各副教材中、
「債務者」欄に「教育同人」との記載のある各副教材並びに別紙文書目録一、二記
載の各文書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
   (5) 相手方株式会社新学杜は、別紙副教材目録二記載の各副教材中、「債務
者」欄に「新学社」との記載のある各副教材並びに別紙文書目録一、二記載の各文
書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
   (6) 相手方株式会社光文書院は、別紙副教材目録二記載の各副教材中、「債
務者」欄に「光文書院」との記載のある各副教材並びに別紙文書目録一、二記載の
各文書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
  3(1) 相手方株式会社文溪堂の、別紙副教材目録二記載の各副教材中、「債務
者」欄に「文溪堂」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京地方裁判
所執行官にその保管を命ずる。
   (2) 相手方青葉出版株式会社の、別紙副教材目録二記載の各副教材中、「債
務者」欄に「青葉出版」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京地方
裁判所執行官にその保管を命ずる。
   (3) 相手方株式会社日本標準の、別紙副教材目録二記載の各副教材中、「債
務者」欄に「日本標準」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京地方
裁判所執行官にその保管を命ずる。
   (4) 相手方株式会社教育同人杜の、別紙副教材目録二記載の各副教材中、
「債務者」欄に「教育同人」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京
地方裁判所執行官にその保管を命ずる。
   (5) 相手方株式会社新学杜の、別紙副教材目録二記載の各副教材中、「債務
者」欄に「新学社」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京地方裁判
所執行官にその保管を命ずる。
   (6) 相手方株式会社光文書院の、別紙副教材目録二記載の各副教材中、「債
務者」欄に「光文書院」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京地方
裁判所執行官にその保管を命ずる。
  4(1) 相手方株式会社文溪堂は、別紙副教材目録三記載の各副教材中、「債務
者」欄に「文溪堂」との記載のある各副教材並びに別紙文書目録三記載の各文書の
印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
   (2) 相手方青葉出版株式会社は、別紙副教材目録三記載の各副教材中、「債
務者」欄に「青葉出版」との記載のある各副教材並びに別紙文書目録三記載の各文
書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
   (3) 相手方株式会社日本標準は、別紙副教材目録三記載の各副教材中、「債
務者」欄に「日本標準」との記載のある各副教材並びに別紙文書目録三記載の各文
書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
   (4) 相手方株式会社教育同人杜は、別紙副教材目録三記載の各副教材中、
「債務者」欄に「教育同人」との記載のある各副教材並びに別紙文書目録三記載の
各文書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
   (5) 相手方株式会社新学杜は、別紙副教材目録三記載の各副教材中、「債務
者」欄に「新学社」との記載のある各副教材並びに別紙文書目録三記載の各文書の
印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
   (6) 相手方株式会社光文書院は、別紙副教材目録三記載の各副教材中、「債
務者」欄に「光文書院」との記載のある各副教材並びに別紙文書目録三記載の各文
書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。
  5(1) 相手方株式会社文溪堂の、別紙副教材目録三記載の各副教材中、「債務
者」欄に「文溪堂」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京地方裁判
所執行官にその保管を命ずる。
   (2) 相手方青葉出版株式会社の、別紙副教材目録三記載の各副教材中、「債
務者」欄に「青葉出版」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京地方
裁判所執行官にその保管を命ずる。
   (3) 相手方株式会社日本標準の、別紙副教材目録三記載の各副教材中、「債
務者」欄に「日本標準」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京地方
裁判所執行官にその保管を命ずる。
   (4) 相手方株式会社教育同人杜の、別紙副教材目録三記載の各副教材中、
「債務者」欄に「教育同人」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京
地方裁判所執行官にその保管を命ずる。
   (5) 相手方株式会社新学杜の、別紙副教材目録三記載の各副教材中、「債務
者」欄に「新学社」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京地方裁判
所執行官にその保管を命ずる。
   (6) 相手方株式会社光文書院の、別紙副教材目録三記載の各副教材中、「債
務者」欄に「光文書院」との記載のある各副教材に対する占有を解いて、東京地方
裁判所執行官にその保管を命ずる。
  6 申立費用は、原審、抗告審を通じて相手方らの負担とする。
 二 相手方ら
   本件抗告を棄却する。
   抗告費用は抗告人らの負担とする。
第二 事案の概要
    以下、本決定においては、抗告人のうち、【E】こと【F】を「【E】」
と、【G】こと【H】を「【G】」と、【K】こと【L】を「【K】」と表示し、
【S】こと【T】を「【S】」と表示する。
    また、原決定別紙著作物目録一の著作物番号5ー2に係る著作物名を「お
てがみ」に、同目録二の著作物番号2ー5、4ー5、6ー4、9ー2に係る各著作
物名を、順次「とうちゃんの凧」、「みすゞさがしの旅」、「わらぐつの中の神さ
ま」、「くま一ぴきぶんはねずみ百ぴきぶんか」に改めたうえ、右各目録記載の各
著作物を、各目録の著作物番号欄の番号に従って、「1ー1の著作物」等と表示す
る。
 一 本件は、小学校用国語教科書に掲載された各著作物の著作権者である抗告人
らが、教科書に準拠した国語テストを制作、販売する相手方らに対し、相手方ら
が、その制作、販売に係る国語テストの問題として、右各著作物を採録しているこ
とが、抗告人らの複製権を侵害するものであるとして、
  1 平成一一年度二学期用の国語テストの頒布等の差止め及びその執行官保管
  2 平成一一年度三学期用、平成一二年度一学期用、二学期用及び三学期用並
びに平成一三年度一学期用、二学期用及び三学期用の国語テストの頒布等の差止め
  を求める事案である(以下、相手方らが制作、販売する教科書に準拠した国語
テストを「本件国語テスト」という。)。
 二 争いのない事実等(疎明資料の摘記のない事実は当事者間に争いがない。)
  1 抗告人【A】は1ー1、1ー2、1ー6、1ー7、1ー8、1ー9、1ー
10、1ー11、1ー12の各著作物の、抗告人【B】は2ー1、2ー2、2ー3、2ー
5の各著作物の、抗告人【C】は3ー1、3ー2、3ー3の各著作物の、抗告人
【D】は4ー1、4ー2、4ー3、4ー5の各著作物の、抗告人【E】は5ー1、
5ー2、5ー3の各著作物の、抗告人【G】は6ー1、6ー2、6ー3、6ー4、
6ー5、6ー6の各著作物の、抗告人【J】は7ー2の著作物の、抗告人【K】
は、9ー2、9ー3、9ー4、9ー5、9ー6の各著作物の著作者であり、その著
作権者である。
    抗告人【I】は、8ー1の著作物の著作者、かつ、著作権者であった
【S】の相続人である。(同抗告人が【S】の相続人であることにつき原審甲事件
甲第三号証の一、二)
    相手方らは、教科書に準拠したテスト等の副教材の制作、販売を行う会社
である。
  2 右1に掲記した各著作物(以下「本件各著作物」という。)は、いずれも
詩又は短編童話その他の児童文学作品であり、原決定別紙教科書目録(以下、単に
「別紙教科書目録」という。)一ないし四記載のとおり、その全部又は一部(多く
の場合、その全部)が、平成八年度版及び平成一二年度版小学校用国語教科書に掲
載されている。
    なお、平成八年度版教科書は、平成八年度から平成一一年度まで用いら
れ、また、平成一二年度版教科書は、平成一二年度及び平成一三年度に用いられ
る。
  3 相手方らは、その制作した平成一一年度二学期用の本件国語テストに、本
件各著作物のうち、別紙副教材目録二記載のとおり、3ー2、5ー2の各著作物
を、また、同目録三記載のとおり、3ー3、4ー2、4ー3、5ー1、5ー3、6
ー3、6ー5、7ー2、9ー2、9ー3、9ー4の各著作物をそれぞれ採録し、こ
れを販売した。
 三 争点
  1 相手方らが、本件各著作物の全部又は一部を本件国語テストに採録するこ
とが、著作権法三二条一項所定の引用に当たるか。
  2 相手方らが、本件各著作物を本件国語テストに複製することが、著作権法
三六条一項所定の試験又は検定の問題としての複製に当たるか。
  3 相手方らによる本件各著作物の全部若しくは一部の引用又は試験若しくは
検定の問題としての複製が、抗告人らの著作者人格権を侵害するものであるか。
  4 本件申立てが権利の濫用に当たるか。
  5 本件申立てに保全の必要性があるか。
  6(相手方株式会社文溪堂との間において)
    抗告人らと相手方株式会社文溪堂との間に、同相手方による本件国語テス
トの制作、販売につき、教科書出版会社を抗告人らの代理人として、利用許諾契約
が成立したか。
    教科書出版会社に右利用許諾契約締結の代理権がなかったとしても、表見
代理によって、右利用許諾契約の効力が抗告人らに及ぶか。
第三 当裁判所の判断
 一 争点1について
  1 申立ての全趣旨によれば、別紙副教材目録二、三記載の平成一一年度二学
期用の本件国語テストについて、次の事実が一応認められる。
   (一) 別紙副教材目録二、三記載の平成一一年度二学期用の本件国語テスト
は、それぞれ、特定の教科書出版会社の制作した小学校用国語教科書のうちの、3
ー2若しくは5ー2の各著作物(以上は副教材目録二記載の各国語テスト)又は3
ー3、4ー2、4ー3、5ー1、5ー3、6ー3、6ー5、7ー2、9ー2、9ー
3若しくは9ー4の各著作物(以上は同目録三記載の国語テスト)が掲載された部
分(単元)に対応するものとして制作されたものであって、いずれも、一葉の用紙
の表裏二面をもって構成されている。その表面の上段には、「次の文章を読んで、
問題に答えなさい。」との文言、その他これと同旨の文言に続き、右各著作物のそ
れぞれ一部が収録掲載され(ただし、詩である4ー2の著作物についてはその全部
が収録されている。また、これを除き、右各著作物のうちの右国語テストに収録さ
れた部分は、当該教科書に掲載された部分の一部でもある。)、その収録部分を、
四角の枠で囲んで他の部分と区分してある。表面下段には、当該著作物の収録部分
に関する問題が記載され、その解答欄が設けてあり、裏面には、通常、当該著作物
の内容と直接関係のない、漢字の読み書きや文法等に関する問題とその解答欄が設
けられているが、当該著作物についての感想を記す欄、当該著作物の教科書に掲載
された部分であって、当該表面に採録された部分以外の部分の読解等を問う問題文
とその解答欄、当該著作物に関連した記事等の欄が含まれているものもある。
   (二) 表面上段の各著作物の収録部分は、前示のとおり、4ー2の著作物を
除き、その一部であり、字数にして概ね二〇〇字前後ないし五〇〇字前後であっ
て、その部分のみでは、各著作物である童話等の全体の構成や筋立てまでは把握し
きれないが、当該収録部分のみで表現される情景や登場人物(擬人化された動物等
を含む。以下同じ。)の言動、その気持ち・心理等を理解することは可能である。
表面下段の設問は、該収録部分に即した、いわゆる読解に係る問題が大部分であ
り、該収録部分中の語句を特定するなどして、情景や登場人物の言動等を正確に読
み取ることができるか、登場人物がある言動に至った理由や、その気持ち・心理等
を理解できるか等を問い、その解答を、直接記載させたり(該収録部分中の語句を
用いて記載することを指示するものもある。)、いわゆる穴埋め式により、解答文
に設けた空欄を埋めさせたり、選択肢から選ばせたりする形式の問題等で構成され
ている。その設問の数は、四問ないし九問程度である。
  2 ところで、公表された著作物を引用して利用することが許容されるために
は、その引用が公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的
上正当な範囲内で行われなければならないとされている(著作権法三二条一項)と
ころ、この規定の趣旨に照らし、ここでいう「引用」とは、一般に、報道、批評、
研究その他の目的で、自己の著作物中に、他人の著作物の原則として一部を採録す
るものであって、引用する著作物の表現形式上、引用する側の著作物と引用される
側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるとともに、両著作物間に、引
用する側の著作物が主であり、引用される側の著作物が従である関係が存する場合
をいうものと解すべきであって、本件国語テストと本件各著作物とに関しても、こ
れと別異に解すべき理由はない。
    しかるところ、前示認定のとおり、引用する著作物に当たる平成一一年度
二学期用の本件国語テストにおいて、引用される著作物に当たる前示各著作物の一
部又は全部は、四角の枠で囲んで他の部分と区分して収録されており、引用する著
作物の表現形式上、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別し
て認識することができるものと一応認めることができる。
    しかしながら、前示各著作物の収録部分(表面上段)と設問部分(表面下
段)とについて見ると、該各著作物(教科書に掲載された部分)からの国語テスト
に収録する部分の選定、設問部分における問題の設定及び解答の形式の選択(穴埋
め式の解答文や選択肢の設定を含む。)、その配列、問題数の選択等に、児童によ
る教科書の理解及びその理解度の測定等を目的とした、相手方らの創意工夫がある
ことは認められるものの、その場合における教科書の理解とは、具体的には、教科
書に掲載された前示各著作物に表現された思想、感情等の理解ということに他なら
ず、したがって、右問題の設定、配列等における相手方らの創意工夫も、直接に
は、児童に該各著作物の収録部分を読解させること、すなわち、前示各著作物の一
部又は全部に表現された内容それ自体をいかに正確に読み取らせ、また、それをい
かに的確に理解させるかという点に収斂するものであって、該各著作物の創作性を
度外視してはあり得ないものであると言わざるを得ない。そして、このことに、前
示各国語テストにおける前示各著作物の収録部分とそれ以外の部分(表面下段の設
問部分及び裏面の設問等の部分)との量的な割合等を併せ考慮した場合には、引用
される著作物の部分を、前示各国語テストにおける、各著作物の収録部分(表面上
段部分)に限ってみたとしても、引用する側の著作物が主であり、引用される側の
著作物が従であるという関係が存するものとは到底認めることができない。
    したがって、平成一一年度二学期用の本件国語テストに前示各著作物の一
部又は全部を採録したことが、著作権法三二条一項所定の引用に当たるとすること
はできない。
  3 前示第二の二の争いのない事実及び申立ての全趣旨によれば、平成一一年
度三学期用、平成一二年度一学期用、二学期用及び三学期用並びに平成一三年度一
学期用、二学期用及び三学期用の本件国語テストのうち、相手方らが既に制作、販
売したものの形式、構成、及び未だ制作、販売してないものについては、向後、制
作、販売するとした場合におけるその形式、構成が、右の平成一一年度二学期用の
本件国語テストとほぼ同じものであることが一応認められる。
    そうすると、右に述べたと同様、平成一一年度三学期用、平成一二年度一
学期用、二学期用及び三学期用並びに平成一三年度一学期用、二学期用及び三学期
用の本件国語テストに、本件各著作物の全部又は一部を採録することが、著作権法
三二条一項所定の引用に当たり、又は当たることになるものと認めることはできな
い。
 二 争点2について
  1 疎明資料(原審甲事件甲第五四号証、乙第二号証、第二一号証、第二二号
証の一ないし五、第三〇号証、第三五号証、丙第五号証)及び申立ての全趣旨によ
れば、本件国語テストにつき、次の事実が一応認められる。
   (一) 本件国語テストは、小学校において、教科用図書(教科書)とともに
使用することができるとされている「教科用図書以外の図書その他の教材で、有益
適切なもの」(学校教育法二一条二項、かかる教材を「図書教材」という。)とし
て用いられているものの一つであり、各小学校ごとに設けられる教材採択委員会等
において、特定の制作会社が制作したものが採択され、地方教育行政の組織及び運
営に関する法律三三条一項に基づいて制定された各教育委員会規則に従い、校長か
ら教育委員会に届出がなされたうえ、購入、使用されるものである。その購入代金
は、原則として児童の保護者が負担する。
     本件国語テストは、国語教科書の各単元に対応して一回分が制作されて
おり(それ以外に、各学期の「まとめのテスト」がある。)、通常、各学期に六、
七回、これを用いたテストが実施されるものであって、各回分ごとに、児童数に余
部一、二部を加えた部数がまとめられ、学期の初めに、その学期で実施される分が
各教師に届けられる。
   (二) 本件国語テストを用いたテストは、学習の進捗状況等に従い、通常は
国語教科書の各単元を終了する際に、当該単元に係る分が実施される(学期末、学
年末に実施されることもある。)ものであって、教師が、各学級の通常の授業時間
内に、一回分を各児童に配布して行わせる。そのため、同一の本件国語テストを用
いる同一の小学校の同一学年であっても、学級によって、その実施日、時間が異な
ることがむしろ通例である。
     実施した国語テストは、教師が回収して採点をした後、学習上のコメン
ト等を付すなどしたうえ、各児童に返還される。
   (三) 小学校において児童ごとに作成される指導要録(平成三年三月二〇日
文初小第一二四号の各都道府県教育委員会宛て文部省初等中等局長通知による改訂
後のもの)は、児童の学籍並びに指導の過程及び結果の要約を記録し、指導及び外
部に対する証明等に役立たせるための原簿としての性格を有するものである。そし
て、その「各教科の学習の記録」のうちの「観点別学習状況」欄には、小学校学習
指導要領に示す各教科の目標に照らして、その実現の状況を観点ごとに評価し、A
(十分満足できると判断されるもの)、B(おおむね満足できると判断されるも
の)、C(努力を要すると判断されるもの)の記号により、各学年ごとに記入する
ものとされており、国語については、「国語への関心・意欲・態度」、「表現の能
力」、「理解の能力」、「言語についての知識・理解・技能」の各観点が設定され
ている。また、「各教科の学習の記録」のうちの「評定」欄には、三学年以上の各
教科の学習の状況について、教科別に小学校学習指導要領に示す目標に照らし、学
級又は学年における位置付けを評価し、2(普通の程度のもの)、3(2より優れ
た程度のもの)、1(2よりはなはだしく劣る程度のもの)の三段階により、三学
年以上の各学年ごとに記入するものとされている。
     しかるところ、本件国語テストとともに教師に配布される各制作会社作
成の「得点集計表」等の名称が付された一覧表は、児童ごとに、特定の回の国語テ
ストの得点(又はそのうちのある部分の設問に対する得点)を集計することによ
り、その合計点数によって、「観点別学習状況」欄の各観点(少なくとも「国語へ
の関心・意欲・態度」を除く各観点)のA、B、Cの評価に割り振る仕組みとなっ
ており、また、総得点により「評定」欄の三段階の評価に割り振る基準が記載され
たものもある。
   ( ただし、教師が、右の「観点別学習状況」欄及び「評定」欄に、各児童
についての評価を実際に記入する際に、右「得点集計表」等が利用されているかど
うか、あるいはどのように利用されているかを認定するに足りる的確な疎明資料は
ない。)
  2 ところで、公表された著作物は、入学試験その他人の学識技能に関する試
験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題とし
て複製することができるとされ(著作権法三六条一項)、また、営利を目的とし
て、該複製を行うものは、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支
払わなければならない(同条二項)とされているところ、これらの規定は、入学試
験等の人の学識技能に関する試験又は検定にあっては、それを公正に実施するため
に、問題の内容等の事前の漏洩を防ぐ必要性があり、その問題として著作物を利用
する場合には、具体的な設問のみならず、いかなる著作物を利用するかということ
についても漏洩を避ける必要があることが通常であるから、試験、検定の問題とし
ての著作物の複製について、予め著作権者の許諾を受けることは困難であり、社会
的実情にも沿わないこと、及び著作物を右のような試験、検定の問題として利用し
たとしても、一般にその利用は著作物の通常の利用と競合しないと考えられるか
ら、その限度で著作権を制限しても不当ではないと認められることにより、試験、
検定の目的上必要と認められる限度で、著作物を試験、検定の問題として複製する
については、一律に著作権者の許諾を要しないとするとともに、その複製が、これ
を行う者の営利の目的による場合には、著作権者に対する補償を要するものとし
て、利益の均衡を図ることにした趣旨であると解される。
    そして、そうであれば、同条一項によって、著作権者の許諾を要せずに、
問題として著作物の複製をすることができる試験又は検定とは、公正な実施のため
に、試験、検定の問題として利用する著作物が何であるかということ自体を秘密に
する必要性があり、その故に、該著作物の複製につき、予め著作権者の許諾を受け
ることが困難であるような試験、検定をいうものであって、そのような困難性のな
いものについては、複製につき著作権者の許諾を不要とする根拠を欠くものであり
(前示の、試験等の問題として利用することが、著作物の通常の利用と競合しない
という点は、同条一項の規定との関係では、試験問題の漏洩防止等、著作物の複製
につき著作権者の許諾を不要としなければならない積極的な理由が存する場合に、
著作権者側の利益状況から見ても、そのような著作権の制限をすることが一般的に
不当であるとは言えないとの消極的な根拠となるにすぎないものであり、そのこと
のみで、著作物の複製に著作権者の許諾を不要とするための根拠となり得るもので
はない。)、同条一項にいう「試験又は検定」に当たらないものと解するのが相当
である。
    しかるところ、前示1の認定事実及び一の1の各認定事実に、別紙副教材
目録二、三記載の平成一一年度二学期用の本件国語テストの内容を併せ考えれば、
本件国語テストが、児童の学習の進捗状況に応じた適宜の段階において、教師が、
各児童ごとにその学力の到達度を把握するものとして利用するものであることが容
易に推認される。また、前示指導要録の「観点別学習状況」欄及び「評定」欄に、
各児童についての評価を実際に記入する際に、前示「得点集計表」等が利用されて
いるかどうか等を認定するに足りる的確な疎明資料がないとはいえ、本件国語テス
トの結果(得点)が、該各評価をする際の参考となり得るものであることも一応認
めることができる。
    しかしながら、前示のとおり、学級によって、本件国語テストを用いるテ
ストの実施日、時間が異なることがむしろ通例であることに鑑みると、本件国語テ
ストの問題の内容等の事前の漏洩を防ぐことには、全く意が払われていないと言わ
ざるを得ず、また、教科書に掲載されている本件著作物が本件国語テストに利用さ
れることは、当然のこととして予測されるものであるから、本件国語テストにつ
き、いかなる著作物を利用するかということについての秘密性も全く存在しない。
そうすると、そのような秘密性の故に、著作物の複製につき、予め著作権者の許諾
を受けることが困難であるような事情が存在すると言うことはできない。
    したがって、相手方らが、本件各著作物を本件国語テストに複製すること
が、著作権法三六条一項所定の試験又は検定の問題としての複製に当たるとするこ
とはできない。
 三 争点6について
   相手方株式会社文溪堂は、抗告人らと同相手方との間に、同相手方による本
件国語テストの制作、販売につき、教科書出版会社を抗告人らの代理人として、利
用許諾契約が成立したと主張するが、抗告人らが、いずれかの教科書出版会社に、
その旨の代理権を与えたことを認めるに足りる疎明資料は存在しない。
   また、相手方株式会社文溪堂は、表見代理によって、右利用許諾契約の効力
が抗告人らに及ぶとも主張するが、表見代理の類型に応じた、代理権授与の表示又
は基本代理権の発生原因に該当する具体的事実の存在を認めるに足りる疎明資料は
存在しない。
   したがって、相手方株式会社文溪堂の右主張を採用することはできない。
 四 争点4について
   相手方らは、①日本ビジュアル著作権協会との名称の団体が、本件仮処分事
件及び本案事件の提起前に、抗告人らとの著作権管理委託契約に基づき、相手方ら
に対し、出版差止等を求める訴訟の提起及び仮処分の申立てをした(請求の放棄及
び取下げにより終了)うえ、同協会又はその理事長を名乗る【U】が、相手方らの
本件国語テストの制作、出版を著作権侵害と決め付け、これを非難する文書を教育
委員会、小学校長等に大量に配布する等して、円満な業界秩序の形成を妨げている
ところ、抗告人らは、なお、本件仮処分申立事件の追行を【U】に一任しており、
本件仮処分申立ては、【U】が右目的で行っていること、②相手方らを含む図書教
材制作会社と教科書出版会社との間で、昭和四三年に、図書教材制作会社が、図書
教材の制作に関し、教科書出版会社に謝金を支払う内容の合意が成立し、相手方ら
は、右謝金が著作者に対する謝金を含んだものと信じて、その支払をしてきたとこ
ろ、その後約三〇年にわたり、教科書掲載の著作物の著作権者からこれに異論が唱
えられたことはなかったこと、③相手方ら及びその業界団体である社団法人日本図
書教材協会と、小学校国語教科書著作者の会、社団法人日本児童文学者協会及び社
団法人日本児童文芸家協会との間で、平成一一年九月三〇日に、小学校国語教科書
準拠教材における作品使用についての協定が締結されたこと、④小学校において教
科用図書(教科書)を使用しなければならない(学校教育法二一条一項)とされて
いる以上、図書教材である本件国語テストにおいて、教科書に掲載されている著作
物を利用することは必要不可欠であり、また、各教師が、児童の学習成果を測定、
評価するために自らテストを作成するに際して、著作物を複製する場合には、著作
権法三五条によって、著作権者の許諾や対価の支払いが不要であるところ、本件国
語テストは、このような教師の作成するテストと実質的な差異はなく、しかも、創
意工夫と経験の集積により、教師が個別に作成するテストよりも、合理的、効率的
な方法において国語教育に資するものとして、教育現場に浸透しており、その使用
ができなくなれば、教育現場に混乱を引き起こすこと、⑤本件国語テストが、著作
物の通常の利用(一般書籍における利用)に代替したり、これと競合したりするも
のではないこと、等を主張し、本件仮処分の申立てが権利の濫用に当たると主張す
る。
   しかしながら、本件仮処分申立事件前の日本ビジュアル著作権協会ないし
【U】の言動は格別、抗告人らが、それぞれ何らかの違法・不当な目的をもって、
本件仮処分申立事件の追行を同協会ないし【U】に一任していることを認めるに足
りる疎明資料は存在しない。
   また、仮に、相手方らが、教科書出版会社との合意に基づき、昭和四三年か
ら、図書教材の制作に関し、教科書出版会社に対する謝金の支払いを継続し、約三
〇年にわたって教科書掲載の著作物の著作権者からこれに異論が唱えられたことは
なかったとの事実が存在するとしても、相手方らが、本件国語テストに本件各著作
物を採録して出版することに係る、著作権者である抗告人らとの間の権利関係の処
理を、該合意に基づいて、教科書出版会社が行うべき義務を負担したこと、あるい
は相手方らにおいてそのように解することを相当とするような事情が存在すること
を認めるに足りる疎明資料はない。
   さらに、疎明資料(原審甲事件乙第一四号証の二)によれば、相手方ら及び
社団法人日本図書教材協会と、小学校国語教科書著作者の会、社団法人日本児童文
学者協会及び社団法人日本児童文芸家協会との間で、平成一一年九月三〇日に、
「小学校国語教科書準拠教材における作品使用についての協定書」が作成され、該
協定が締結されたこと、及び同年一〇月八日に、小学校国語教科書著作者の会と社
団法人日本図書教材協会との間で、その運用細則が定められたことが一応認められ
るが、該協定の効力が抗告人らに及ぶものと認めるべき疎明資料はなく、また、抗
告人らにおいて、該協定の効力が及ばないにもかかわらず、本件各著作物に係る著
作権の行使をこれに従ってしなければ、権利濫用となると解すべき事情の存在を認
めるに足りる疎明資料も存在しない。
   それのみならず、該協定によれば、図書教材制作会社が所定の出版教材に著
作物を使用する場合には、著作者及び著作権者の許諾を得なければならないとされ
ているから(前示協定書第2)、仮に、該協定を前提としたとしても、相手方ら
が、著作権者である抗告人らの許諾を得ずに、本件各著作物を本件国語テストに採
録して出版することは、右条項に反するものであり、これに対して、抗告人らが各
著作権に基づきその差止めを求めることが権利濫用となるものとは解されない。
   仮に、本件国語テストが、教師の作成するテストと国語教育上の意義や目的
を同じくし、あるいは、著作物の通常の利用(一般書籍における利用)に代替した
り、これと競合したりするものではないとしても、著作権法上、そのことに故に、
著作権者の許諾を要せずして、本件各著作物を本件国語テストに利用できるもので
はなく、相手方らが、本件国語テストを制作、出版するために、本件各著作物を利
用することが必要であれば、その著作権者である抗告人らから右の利用許諾を得る
ための真摯な対応をすべきものと言うべきところ、相手方らが、そのような真摯な
対応を経たことを認めるに足りる疎明資料はないから、右の事情の故に、本件仮処
分の申立てが権利濫用になるものとは言えない。なお、申立ての全趣旨によれば、
相手方らは、抗告人らの著作物を、抗告人らの許諾なく本件国語テストに利用する
ことが、抗告人らの該著作物に係る著作権を侵害するものでないとしていたことが
明らかであるところ、相手方らがそのような立場に立脚することが、それ自体とし
ては全く理由がないものとは言えないとしても、かかる立場に固執し、抗告人らと
の何らかの合意を経ないまま、本件国語テストに本件各著作物を利用した以上、抗
告人らからその差止めを求められるリスクを負担すべきものと言うべきである。
   また、主文一項1掲記の本件国語テストを使用することができなくなったと
しても、教育現場に混乱が生じることを認めるに足りる的確な疎明資料はない。
   したがって、相手方らの権利濫用の主張を採用することはできない。
 五 争点5について
  1 平成一一年度二学期用、三学期用及び平成一二年度一学期用の本件国語テ
ストについて
    現時点において、相手方らが、3ー2、5ー2の各著作物をそれぞれ採録
した平成一一年度二学期用の本件国語テスト(別紙副教材目録二記載の各副教材)
及び3ー3、4ー2、4ー3、5ー1、5ー3、6ー3、6ー5、7ー2、9ー
2、9ー3、9ー4の各著作物をそれぞれ採録した同学期用の本件国語テスト(別
紙副教材目録三記載の各副教材)を、向後、印刷、出版、販売又は頒布をするおそ
れがあることを認めるに足りる疎明資料はなく、したがって、右各国語テストにつ
き、右各行為の差止め及びその執行官保管の各仮処分を求める申立てについては、
保全の必要性の存在が認められない。
    また、相手方らが、平成一一年度三学期用及び平成一二年度一学期用の本
件国語テストに、本件各著作物を採録して販売したとしても、現時点において、相
手方らが、向後、右各国語テストを印刷、出版、販売又は頒布をするおそれがある
ことを認めるに足りる疎明資料はなく、したがって、右各国語テストにつき、右各
行為の差止めの各仮処分を求める申立てについても、保全の必要性の存在が認めら
れない。
  2 平成一二年度二学期用、三学期用及び平成一三年度一学期用、二学期用、
三学期用の本件国語テストについて
   (一) 相手方らが、平成一一年度二学期用の本件国語テストに、本件各著作
物のうち、3ー2、5ー2の各著作物、及び3ー3、4ー2、4ー3、5ー1、5
ー3、6ー3、6ー5、7ー2、9ー2、9ー3、9ー4の各著作物をそれぞれ採
録し、販売したこと、別紙教科書目録三記載のとおり、1ー1、1ー2、2ー1、
2ー2、2ー3、3ー1、3ー2、4ー1、5ー2、6ー1、6ー2、8ー1の各
著作物が、また、同目録四記載のとおり、1ー6、1ー7、1ー8、1ー9、1ー
10、1ー11、1ー12、2ー5、3ー3、4ー2、4ー5、5ー3、6ー3、6ー
4、6ー5、7ー2、9ー2、9ー3、9ー4、9ー5、9ー6の各著作物が、そ
れぞれ平成一二年度版小学校用国語教科書に掲載されていること、平成一二年度版
教科書は、平成一二年度及び平成一三年度に用いられることは当事者間に争いがな
い。
     右事実と申立ての全趣旨とを併せ考えれば、相手方らが、前示平成一一
年度二学期用の本件国語テストと同様の構成、形式により、平成一二年度版小学校
用国語教科書に掲載されている1ー1、1ー2、2ー1、2ー2、2ー3、3ー
1、3ー2、4ー1、5ー2、6ー1、6ー2、8ー1、1ー6、1ー7、1ー
8、1ー9、1ー10、1ー11、1ー12、2ー5、3ー3、4ー2、4ー5、5ー
3、6ー3、6ー4、6ー5、7ー2、9ー2、9ー3、9ー4、9ー5、9ー6
の各著作物の全部又は一部を、その著作権者である抗告人らの許諾を受けずに複製
した平成一二年度二学期用、三学期用又は平成一三年度一学期用、二学期用、三学
期用の本件国語テストを制作、販売(印刷、出版、販売又は頒布)する蓋然性が存
在することが一応認められ、そうであれば、右各国語テストにつき、印刷、出版、
販売又は頒布の差止めの仮処分を求める申立てについては、保全の必要性が認めら
れると言うべきである。
     なお、6ー6の著作物については、それが平成一二年度版小学校用国語
教科書に掲載されていることの主張、疎明がないから、右仮処分を求める申立てに
つき保全の必要性の存在が認められない。
   (二) 相手方らは、本件国語テストが、著作物の通常の利用(一般書籍にお
ける利用)に代替したり、これと競合したりするものではないから、抗告人らに、
前示各著作物を収録した一般書籍の売上減等による損害は生じないし、また、著作
権法三六条二項に基づく補償金の額が巨額となるわけではないから、本件仮処分が
認められなくとも、抗告人らに著しい損害が生じるとはいえないのに対し、本件仮
処分が認められた場合には、相手方らの事業活動に重大な影響を及ぼし、回復不能
な著しい損害が生じるのみならず、本件国語テストの使用ができなくなれば、教育
現場にも混乱が生じるとして、仮の地位を定める仮処分である本件仮処分の申立て
につき保全の必要性がないと主張するが、主文第一項1掲記の国語テストの頒布等
の差止めが認められた場合に、相手方らの事業活動に重大な影響を及ぼし、回復不
能な著しい損害が生じることを認めるに足りる的確、かつ、具体的な疎明資料は存
在せず、また、前示のとおり、右国語テストを使用することができなくなったとし
ても、教育現場に混乱が生じることを認めるに足りる疎明資料もないから、相手方
らの右主張を採用することもできない。
 六 以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、本件仮処分申立て
は、別紙決定作品目録一、二に各抗告人ごとに記載された著作物を複製した平成一
二年度二学期及び三学期用並びに平成一三年度一学期、二学期及び三学期用の本件
国語テスト(小学校用国語副教材)の印刷、出版、販売又は頒布の差止めを求める
限度で認容すべきところ、諸般の事情を考慮すると、各抗告人において、それぞ
れ、本決定告知の日から一〇日以内に、各相手方のため、いずれも金一〇万円の保
証を立てることを、当該抗告人の当該相手方に対する申立てを認容するための条件
とすることが相当である。
   よって、これと異なる原決定を右のように変更することとして、主文のとお
り決定する。
      平成一二年九月一一日
        東京高等裁判所第一三民事部
            裁判長裁判官   田 中 康 久
               裁判官   石 原 直 樹
               裁判官   長 沢 幸 男
別紙
 決定作品目録一 
 決定作品目録二 

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◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
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