弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用及び被告補助参加人らの参加によつて生じた費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
 「特許庁が昭和五五年審判第一四九〇八号事件について昭和五七年一一月二四日
にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
 主文第一項同旨の判決及び「訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和四七年八月二三日、一九七一年八月二四日及び一九七二年三月一六
日アメリカ合衆国においてした各特許出願、並びに同年八月一日イギリス国におい
てした特許出願に基づく優先権を主張して特許出願(昭和四七年特許願第八三七九
五号、以下「原出願」という。)をし、次いで昭和四九年一二月一三日、名称を
「テクスチヤヤーンの製造法」とする発明について特許法第四四条第一項の規定に
より右特許出願に基づく分割出願(昭和四九年特許願第一四二六三八号、以下「本
件出願」という。)をした(以下、右分割出願に係る発明を「本願発明」とい
う。)ところ、昭和五五年三月二八日拒絶査定があつたので、同年八月一九日審判
を請求し、昭和五五年審判第一四九〇八号事件として審理された結果、昭和五七年
一一月二四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本
は昭和五八年一月二六日原告に送達された。なお、出訴期間として三か月が附加さ
れた。
二 本願発明の要旨
 エチレンテレフタレート単位を主なる繰返し単位として含有する合成線状ポリエ
ステルを少なくとも約三〇〇〇ヤード/分(約二七四三メータ/分)の引取り速度
で適度の冷却雰囲気中に溶融紡糸し、この際該紡糸に先立つて表面改質剤を該ポリ
エステル中に含有せしめるか、及び/又は該紡糸後仕上げ剤を該紡出糸に塗布する
ことによつて結晶化度が三〇%より低く、
且つ七〇度Cで測定されたフイラメント間摩擦係数が〇・三七以下である配向した
未延伸のポリエステルマルチフイラメント供給糸を形成し、
 該未延伸供給糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦して、ここで
一・三倍乃至二・〇倍の延伸倍率で延伸し、そして二〇〇度Cより高い温度で撚り
をセツトする
ことを特徴とするテクスチヤヤーンの製造法。
(別紙図面(一)参照)
三 審決の理由の要点
1 本願は、昭和四九年一二月一三日(そ及出願日昭和四七年八月二三日・優先権
主張、イギリス国一九七二年八月一日((アメリカ合衆国の優先権主張は後記の理
由により認めない。)))の出願であつて、本願発明の要旨は、前項記載のとおり
である。
 アメリカ合衆国(一九七一年八月二四日と一九七二年三月一六日)の優先権主張
を認めない理由は、これらの優先権主張の基礎となつた、アメリカ合衆国へ出願し
た当初の明細書のいずれにも、本願発明の構成要件の一部である「七〇度Cで測定
されたフイラメント間摩擦係数(以下「fs70」という。)の値が〇・三七以下
である。」点が記載されていないためである。
2 これに対し、当審の拒絶理由通知書で引用した昭和三七年特許出願公告第三九
一〇号公報(以下「引用例(イ)」という。)には、「ポリエチレン・テレフタレ
ートから製造された合成線状重合体繊維(本願発明のエチレンテレフタレート単位
を主なる繰返し単位として含有する合成線状ポリエステルに相当する。)を溶融紡
糸して得た未延伸糸を制止ピン4、加熱された板5、仮り撚糸装置9、延伸ロール
7の順に通過させポピン13に巻き取る(本願発明の同時的ドロー・トイスト・テ
クスチヤ化工程に相当する。)ことにより潜在的に嵩張つた糸(本願発明のテクス
チヤヤーンに相当する。)を連続製造する方法」が、また、加熱された板の温度
(本願発明の撚りをセツトする温度に相当する。)について「熱板は一五〇~二〇
〇度Cの温度を有する。」こと、及び、「延伸倍率についてポリエチレン・テレフ
タレート繊維の場合は四対一程度とすることができる。」とそれぞれ記載されてい
る(別紙図面(二)参照)。
 同じく、米国特許第三、五四九、五九七号明細書(以下「引用例(ロ)」とい
う。)には、「実施例10の表Ⅶに、紡糸速度三〇〇〇ヤード/分のものに、密度
が一・三四四〇、複屈折率が〇・〇四〇二;紡糸速度三五〇〇ヤード/分のもの
に、密度が一・三四八四、複屈折率が〇・〇四九八であること。」が記載されてい
る。
 また、同じく、【A】原著、【B】外一名訳「ポリエステル繊維」(以下「引用
例(ハ)」という。)第一三〇頁、第一三一頁には、「最大延伸倍率、自然延伸倍
率は、いずれも引取り速度を大きくすると減少することが見いだされた。」とあ
り、図5・29には、「二七四三m/分(三〇〇〇ヤード/分)の引取り速度のと
きの七〇度Cの自然延伸倍率が約二倍であること。」が、また、「引取り速度が三
〇〇〇~四〇〇〇m/minになると、前配向が多くなり、あまり延びなくなつて
明瞭な流動域は見られなくなる。」ことがそれぞれ記載されている(別紙図面
(三)参照)。
 さらに、同じく、昭和四一年特許出願公告第六六一号公報(以下「引用例
(二)」という。)には、「延伸中のフイラメント切断の主要原因は大部分フイラ
メント間の摩擦よる」こと、さらに、これを防止する目的で「延伸前に其のヤーン
に色々の摩擦防止の調整剤(本願発明の仕上げ剤に相当する。)を加えることによ
つて低減出来る。」ことが、それぞれ記載されている。
3 そこで、本願発明と引用例(イ)記載の方法とを比較すると、両者は、「エチ
レンテレフタレート単位を主なる繰返し単位として含有する合成線状ポリエステル
を溶融紡糸した未延伸のポリエステルマルチフイラメント供給糸を同時的ドロー・
トイスト・テクスチヤ化工程に賦してテクスチヤヤーンを製造する方法」である点
で一致し、左記の点で相違しているものと認める。
(一)供給糸の形成手段に関して、本願発明は、少なくとも約三〇〇〇ヤード/分
の引取り速度で適度の冷却雰囲気中に溶融紡糸して、結晶化度が三〇%より低い配
向した状態に形成するのに対して、引用例(イ)記載の形成方法は明らかでない
点。
(二)本願発明は、紡糸に先立つて表面改質剤をポリエステル中に含有せしめる
か、及び/又は紡糸後仕上げ剤を紡出糸に塗布することによつて、fs70の値を
〇・三七以下とするのに対して、引用例(イ)記載の方法はfs70について、な
んら限定がない点。
(三)同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程の加工条件に関して、本願発明
は、延伸倍率が一・三~二・〇倍、撚りのセツト温度が二〇〇度C以上であるのに
対して、引用例(イ)記載の方法は、延伸倍率が四倍、加熱板の温度が一五〇~二
〇〇度Cである点。
 次に、これらの相違点について検討する。
 相違点(一)については、「三〇〇〇ヤード/分以上の引取り速度で溶融紡糸す
ることによつて、結晶化度が三〇%より低い供給糸を形成する点」は、引用例
(ロ)に、「紡糸速度(本願発明の引取り速度に相当する。)が三〇〇〇ヤード/
分と三五〇〇ヤード/分の時に密度がそれぞれ一・三四四〇と一・三四八四(結晶
化度に換算するとそれぞれ一〇・二%と一三・七%に相当する。)である糸が形成
されること」が記載されているように公知の技術手段である。
 なお、「適度の冷却雰囲気中に溶融紡糸する」点は、溶融紡糸手段としてごく普
通に行われている周知の技術手段であり、「配向した」点は、三〇〇〇ヤード/分
以上の引取り速度で溶融紡糸して製造した糸(以下「高速紡糸の未延伸糸」とい
う。)が当然有する物性を単に表現したにすぎない。
 ところで、ポリエステルのテクスチヤヤーンの製造において、通常の紡糸速度で
溶融紡糸した未延伸糸(以下「従前の未延伸糸」という。なお、引用例(イ)に
は、紡糸速度は記載されていないが、通常の紡糸速度で行うものと解される。)を
同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦することは引用例(イ)により本
願出願前公知であり、本願発明は、前記検討した公知の高速紡糸の未延伸糸を、同
時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦するものであつて、同時的ドロー・
トイスト・テクスチヤ化工程に賦するに当たり、供給糸は何も処理は施さず、その
まま供給されるものであり、また、工程操作上及び製造されたテクスチヤヤーンに
おいても格別顕著な効果は認められないから、従来の未延伸糸に代えて公知の高速
紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦することは、当
業者において容易に選択できるところである。
 この点に関して、請求人(原告)は、本願発明は生産効率の向上、装置の簡単
化、捲縮性能、染色均一性、貯蔵安定性等において優れた効果を有する旨主張する
が、これらはいずれもポリエステルを高速紡糸した未延伸糸が有する物性に起因す
るもので、当業者の当然予測されるところの効果にすぎない。
 相違点(二)については、一般にフイラメント間の摩擦を減少させるために紡糸
後仕上げ剤を紡出糸に塗布することは普通のことであり、その場合仕上げ剤の種
類・量を適宜選択してフイラメント間の摩擦を必要な値に調節することも普通であ
る。そして延伸中のフイラメントの切断がフイラメント間の摩擦によることは引用
例(二)に記載されているごとく公知のことであるから、本願発明が、フイラメン
トの破断を防止するためにfs70の値を〇.三七以下の摩擦係数の低い範囲に選
択することは当業者の必要に応じて容易になし得るところである。また、fs70
の値の上限を〇・三七に限定した点は、当業者の実施にあたつて、フイラメントの
破断の多い範囲を除くことにより容易になし得ることである。なお、七〇度Cで摩
擦係数を測定するようにした点は、ポリエステルの延伸を有効になし得る最低温度
である二次転移点(ポリエステルの場合約七〇度C)よりみて容易に考えられるこ
とである。
 相違点(三)については、一・三倍二・〇倍の延伸倍率の点は、引用例(ハ)に
記載されている事項、特に図5・29から、高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・
トイスト・テクスチヤ化工程に賦する際の延伸倍率を一・三~二・〇倍と選定する
ことは、当業者が容易に考えられるところである。また、撚りのセツト温度の点
は、高速紡糸の未延伸糸が従来の未延伸糸に比べ耐熱性に優れていることがよく知
られているので、高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工
程に賦する際、引用例(イ)の加熱板の温度一五〇~二〇〇度Cよりも高い二〇〇
度C以上の温度で行うように選定することも、当業者が容易に考えられるところで
ある。
4 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例(イ)、(ロ)、(ハ)、
(ニ)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法
第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。
四 審決の取消事由
 審決は、本件出願について当然に適用されるべき優先権主張を認めなかつた点に
おいて違法であり、また、引用例(イ)及び(ロ)には、審決認定の技術内容が記
載されていること、本願発明と引用例(イ)記載の方法とは、審決認定の相違点
(一)ないし(三)において相違していることは認めるが、審決は、右各相違点に
ついて判断するに当たり、相違点(一)に関し、従来の未延伸糸に代えて、公知の
高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程の供給糸として
使用することは、当業者が容易に選択できるものと誤つて判断し、かつ本願発明の
奏する顕著な作用効果を看過、誤認したものであり、相違点(二)に関し、本願発
明のfs70の制御に関する技術的意義及び引用例(ニ)記載の技術内容を誤認し
た結果、本願発明においてfs70の値を〇・三七以下とすることは当業者が容易
になし得ることと誤つて判断し、相違点(三)に関し、引用例(ハ)記載の技術内
容を誤認した結果、高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化
工程に賦する際の延伸倍率を一・三~二・〇倍と選定することは容易であると誤つ
て判断し、かつその際二〇〇度C以上の撚りのセツト温度にすることはよく知られ
ていたことと誤って判断したものであり、さらに、前記各相違点についての判断を
示すに際し理由不備の違法を犯したものであるから、違法として取り消されるべき
である。
1 優先権主張についての判断の誤り
 本件出願は、原告が工業所有権の保護に関する一八八三年三月二〇日のパリ条約
(以下「パリ条約」という。)第四条の規定に従つて、
(1)一九七一年八月二四日アメリカ合衆国においてした特許出願(出願番号第一
七四、四三〇号)、
(2)一九七二年三月一六日アメリカ合衆国においてした特許出願(出願番号第二
三五、三〇九号)
(3)一九七二年八月一日イギリス国においてした特許出願(出願番号第三五九五
〇/一九七二号)
に基づく優先権(以下、(1)の出願に基づく優先権を「第一優先権」、その出願
の日を「第一優先権主張日」といい、(2)の出願に基づく優先権を「第二優先
権」、その出願の日を「第二優先権主張日」といい、(3)の出願に基づく優先権
を「第三優先権」、その出願の日を「第三優先権主張日」という。)を主張して昭
和四七年八月二三日になした原出願の分割出願である。
 原出願の発明は、(a)エチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とする
合成線状ポリエステル(以下「PET」という。)を、(b)少くとも約三〇〇〇
ヤード/分(約二七四三メータ/分)の引取り速度で適度の冷却雰囲気中に溶融紡
糸して、(c)結晶化度が三〇%より低く、(d)配向した未延伸のマルチフイラ
メント供給糸を形成することから構成される第一工程と、(e)右配向した未延伸
供給糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦すること、(f)右同時
的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程において一・三倍~二・〇倍の延伸倍率で
延伸すること、(g)テクスチヤ化工程で供給糸に与えられた撚りを二〇〇度Cよ
り高い温度のヒーターでセツトすることから構成される第二工程から成るテクスチ
ヤヤーンの製法を要旨とするものである。
 一方、本願発明は、原出願の発明の第一工程において、(h)PETの紡糸に先
立つて表面改質剤をPET中に含有せしめるか、及び/又は該紡糸後仕上げ剤を該
紡出糸に塗布することにより、該供給糸の七〇度Cで測定されたフイラメント間摩
擦係数、すなわちfs70値を〇・三七以下ならしめることを構成要件として付加
した、構成要件(a)ないし(d)及び(h)から構成される第一工程と、構成要
件(e)ないし(g)から構成される第二工程から成るテクスチヤヤーンの製法を
要旨とするものであつて、原出願の発明に構成要件(h)が結合されても、原出願
の発明の一体性又は同一性はそのまま本願発明に継続して維持されており、これに
よつて異質の発明に変換したものではない。
 そして、本願発明の前記構成要件のうち、(a)ないし(d)及び(e)ないし
(g)の構成要件は、第一優先権主張の基礎となる米国特許出願の明細書に明確に
記載されており、構成要件(h)についても、同明細書には、潤滑剤の使用につい
て、「従来の仮撚りテクスチヤ化法におけると同様に、ドロー・テクスチヤ化操作
を容易にするために潤滑性仕上げ剤を供給糸に塗布すべきである」(第一一頁第二
八行ないし第三〇行)と記載されており、構成要件(h)は、この記載事項を基礎
とし、これにフイラメント間摩擦係数の七〇度Cで測定した特定値を〇・三七以下
とするという改良を加えたものである。また、第二優先権主張の基礎となる米国特
許出願の明細書には、fs70値について、〇・二〇~〇・三四の範囲を記載し、
第三優先権主張の基礎となる英国特許出願の明細書には、構成要件(a)ないし
(g)に併せて構成要件(h)が開示されている。
 したがつて、本願発明の構成要件(a)ないし(d)及び(e)ないし(g)に
ついては第一優先権主張日が、また、構成要件(h)のうち、fs70の値が〇・
二〇~〇・三四の範囲については第二優先権主張日が、〇・三七以下の特定値のう
ち右範囲以外の範囲については第三優先権主張日がそれぞれ適用されるべきであ
る。けだし、パリ条約第四条F項の規定により、同盟国の法令上発明の単一性が認
められる限り一出願に二以上の優先権が主張されたことを理由として、又は優先権
を主張して行つた特許出願が優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかつた
構成部分を含むことを理由として当該優先権を否認することができないところ、本
願発明の構成要件(a)ないし(h)からなるテクスチヤヤーンの製法の発明に
は、前述のとおり我が国の特許法上発明の単一性が認められ、かつ該発明の構成部
分がそれぞれ前記のとおり優先権主張の基礎となる特許出願の明細書に記載されて
おり、優先権主張の要件を満たすことが明らかだからである。
 しかるに、審決が前記構成要件(h)が第一及び第二優先権主張の基礎となる各
米国特許出願の当初の明細書のいずれにも記載されていないとの理由で、本件出願
については第一、第二優先権主張は認められず、優先権は第三優先権主張について
のみ容認すべきであるとしたのは、前記条項の解釈を誤つたものである。
2 相違点(一)についての判断の誤り
審決は、本願発明と引用例(イ)記載の方法との相違点(一)について判断するに
当たり、
A ポリニステルのテクスチヤヤーンの製造において、従来の未延伸糸を同時的ド
ロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦することは、引用例(イ)により本願出願
前(その趣旨は、本件出願については第三優先権主張に基づいて判断すべきものと
した審決の趣旨に照らし、第三優先権主張日である一九七二年八月一日前を意味す
るものと解される。)公知である。
B 高速紡糸の未延伸糸は、引用例(ロ)により公知である。
C 本願発明は、高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工
程に賦するものであつて、その際、(c’)供給糸は何も処理は施さず、そのまま
供給されるものであり、(c”)また、工程操作上及び製造されたテクスチヤヤー
ンにおいても格別顕著な効果は認められない。
D したがつて、従来の未延伸糸に代えて公知の高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロ
ー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦することは、当業者において容易に選択でき
るところである。
E 請求人(原告)の主張する本願発明の効果(生産効率の向上、装置の簡単化、
捲縮性能、染色均一性、貯蔵安定性等)は、いずれもポリエステルを高速紡糸した
未延伸糸が有する物性に起因するもので、当業者の当然予測されるところの効果に
すぎない。
と説示した。
 審決の前記説示のうち、A及びBならびにCは認めるが、容易推考に関するD、
作用効果に関するC”及びEの説示は誤りであつて、以下、その理由を詳述する。
(一)容易推考について
(1) 本願発明は、PETの仮撚嵩高加工糸(トイスト・テクスチヤヤーン)の
製法に関するものであるが、第一優先権主張日当時、PETの溶融紡糸技術におい
て、三〇〇〇ヤード/分以上のような高速で紡出糸を引取るような高速紡糸は以前
から技術的に達成可能ではあつたが、その製品はきわめて特殊であり、きわめて特
殊な目的に対し示唆され、あるいは単たる好奇心により研究された以外には使用さ
れていなかつたのである。
 PETのトイスト・テクスチヤヤーンの製法において、紡糸工程は別工程のまま
とし、延伸工程と仮撚工程とを組み合わせ、両工程を同時に行う延伸同時仮撚加工
(以下「同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工」という。)は、引用例(イ)
に開示されているように、第一優先権主張日当時公知であつたが、テクスチヤリン
グ加工は、PET製造業者とは別個の仮撚加工業者によつて通常行われているとこ
ろ、PETの未延伸糸は、延伸糸とは異なつて不安定で、長期間貯蔵することがで
きず、貯蔵中に急速に、しかも非定常的な劣化が起るため、同時的ドロー・トイス
ト・テクスチヤ化操作が不安定ものになつてしまうという問題があるとともに、通
常の未延伸のPETのマルチフイラメントヤーンは、同時的ドロー・トイスト・テ
クスチヤ化装置に供給するための糸がけをする度に、撚られた糸を充分熱セツトす
るに必要な高温の熱板に接触すると溶融してしまい、実際の工業生産上、糸がけが
しばしば困難となり、また、たとえ糸がけができたとしても十分な延伸に必要な張
力下では、通常フイラメントの著しい切断が起こり、良質のテクスチヤヤーンを得
ることが実際上困難を伴うという難点があつた。
 本願発明は、高速紡糸の未延伸糸であつて、三〇%より低い結晶化度を有する配
向したPETのマルチフイラメント糸を供給糸として使用するならば、この供給糸
は未延伸であるにもかかわらず従来技術における糸がけの困難性及び貯蔵中の糸の
劣化の間題を克服し、二〇〇度Cより高いヒートセツト温度に耐え、同時的ドロ
ー・トイスト・テクスチヤ加工を行うことができることを明らかにしたものであ
る。
 ところで、引用例(ロ)記載のPETの糸は、加熱により伸長するというきわめ
て特異な性質(自発伸長性)を有する高速紡糸の未延伸糸であつて、引用例(ロ)
には、この糸を縫糸に用いれば縫合せ箇所がしわになり難い縫製品が得られると記
載されている(第一欄第二〇行ないし第二五行、第三七行ないし第四〇行)が、こ
の糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程の供給糸として使用できるであ
ろうことは、記載も示唆もされていない。
 引用例(ロ)記載の糸は二工程を必要とし、その第一段階において糸は実質的に
無定形の配向した状態に作られることが必要であり、次にこの実質的に無定形の配
向した糸を熱水に短時間浸漬することによつて作られる(第二欄第一二行ないし第
二三行)。この実質的に無定形の配向した糸は延伸あるいは高速巻取り(すなわち
高速紡糸)によつて作られる(第四欄第二九行ないし第四一行)が、この高速紡糸
した糸はドロー・テクスチヤ加工されるのではなくて、自発伸長性という特異の性
質を有する所望の糸を作るために少なくとも六五度Cに加熱し、かつ五%収縮させ
られるのであり(第六欄第四行ないし第一三行)、この収縮した糸の配向度は著し
く低下している。
 当業者は、このようなきわめて特異な性質と使用形態を有し、その製造方法もま
た特殊である引用例(ロ)記載の第一段階の糸を、同時的ドロー・トイスト・テク
スチヤ化工程の供給糸という全く別な特定の用途に用いることはもちろん、汎用の
糸として用いることさえ予期し得ないことである。
 一方、引用例(イ)は、従来の未延伸糸の使用しか開示してなく、しかも本来そ
の供給糸については全く無関心であり、PETの未延伸糸の糸がけの困難性につい
ても何らの関心も示していない。このような引用例(イ)がその同時的ドロー・ト
イスト・テクスチヤ化工程の供給糸として引用例(ロ)の高速紡糸の未延伸糸を使
用することを類推、子期せしめることはできないことは明らかである。
 それゆえ、引用例(イ)により提案されたPETの未延伸糸を同時的ドロー・ト
イスト・テクスチヤ化工程に賦するテクスチヤヤーンの製法において、従来の未延
伸糸に代え、引用例(ロ)により公知の高速紡糸の未延伸糸を供給糸として用いる
ことは当業者が容易に選択できるといい得るためには、従来の未延伸糸の貯蔵及び
糸がけの問題を、PETの高速紡糸の未延伸糸を用いることによつて解決すること
ができ、同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工の方法によりテクスチヤヤーン
を得る方法が実現可能となることを示唆する何らかの公知資料がなくてはならない
道理である。しかるに、引用例(イ)には勿論、引用例(ロ)にもそのような示唆
は何らなされておらず、他にそのようなことを示唆した公知資料は存しない。
 そもそも、引用例(イ)により、PETの未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・
テクスチヤ加工する方法が提案され公知となつたのは、第一優先権主張日より約一
五年前であり、一方米国特許第二、六〇四、六八九号明細書(甲第一一号証)によ
りPETの高速紡糸が公知になつたのはそれ以前であるのにかかわらず、第一優先
権主張日に原出願における第一優先権主張の基礎となつたアメリカ合衆国に対する
特許出願がなされるまで当業者のだれもPETの高速紡糸した未延伸糸を同時的ド
ロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦してテクスチヤヤーンを得る方法を提案し
ていないのであつて、このことは本願発明が当業者にとつて容易に選択できないこ
とを示している。
 したがつて、審決がこれらの点について何ら考慮することなく従来の未延伸糸に
代えて引用例(ロ)により公知の高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・
テクスチヤ化工程に賦することは当業者に容易に選択できるとした点は誤りであ
る。
(2) 被告は、引用例(イ)記載の方法においては、未延伸糸の一態様である高
速紡糸の未延伸糸の使用を排除するものではない旨主張する。
 しかしながら、審決が認定しているとおり、引用例(イ)は、同時的ドロー・ト
イスト・テクスチヤ化工程に賦する供給糸として延伸比が四倍というような従来の
未延伸糸の使用しか考慮していないのであつて、このような従来の未延伸糸による
同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工は、未延伸糸の貯蔵に伴う劣化及び糸が
けの困難性のために工業的に不適当なものとして多年にわたつて実現されなかつた
ものであるから、引用例(イ)の開示からは高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・
トイスト・テクスチヤ化工程の供給糸として使用することについて何らの示唆も得
られないのである。
 また、被告は、引用例(イ)及び(ロ)の組合せの容易推考性を論ずるために、
後記「テクスタイル・インダストリーズ」一九七〇年三月号(乙第五号証)、「繊
維工学」一九七一年九月号(乙第六号証)及び「SW4S SW4R紡糸延伸装
置」のカタログTex32(乙第七号証の一)、「FK5C FK5S自動捲縮装
置」のカタログTex30(同号証の二)ならびに供述書(同号証の三)を援用し
て、従来の未延伸糸に代えて高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テク
スチヤ加工に供することは、当業者が必要に応じて容易になし得る程度のことであ
ると主張している。
 しかしながら、これらの刊行物のうち、乙第五号証及び第七号証の一、二は本願
に対する拒絶理由通知書では引用されたが、請求人(原告)が意見書により反論し
た結果、審決においては、本願を拒絶に導く引用例として不適当なものとして採用
されなかつたものであり、乙第六号証及び第七号証の三は、特許庁における審査、
審判の段階では全く引用されなかつた刊行物であつて、後者はその記載内容におい
ても信用し難いものである。
 しかも、乙第五号証には、第一一七頁の被告引用箇所の記述に続いて、右記述は
ナイロンの未延伸糸についてなされたものであつて、PETに関するものでないこ
と、及び高速紡糸の未延伸糸の仮撚加工は乙第五号証が発行された一九七〇年三月
当時未解決の課題であつて、空想の域を出ないものであることを示す記述があり、
また、第一二七頁の被告引用箇所にも、被告指摘の事項はナイロンについて単なる
条件付の推測を述べたにすぎないことを示す記述があり、むしろ乙第五号証の記載
事項を詳細に検討すれば、PETの高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・トイス
ト・テクスチヤ加工に供することは、実際問題として到底考えられないことであつ
たことが明らかである。
 また、乙第七号証の一に記載されている技術は、従来のカツプルド紡糸-延伸プ
ロセスによる延伸フイラメントの製造に適する紡糸―延伸装置と高速巻取機の改良
に関するものであつて、それに関連して該延伸糸のテクスチヤ加工あるいはトウイ
スタ加工が述べられているにすぎず、このようなカツプルド紡糸―延伸装置あるい
は巻取機が、特定の高速紡糸によつて得られたPETの高配向延伸糸を供給糸と
し、特定の条件で同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工を行う本願発明とはあ
らゆる点で相違することは明白である。同刊行物には、高速紡糸によつて得られた
PETの高配向未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工することにつ
いては何らの記載も示唆もせず、また、PETに関する記載すらない。バーマーク
社が一九七二年二月一日ドイツ連邦共和国にした特許出願(出願番号第二、二〇
四、五三五号)に基づく優先権を主張してイギリス国にした特許出願に係る同国特
許第一、三七五、一五一号明細書(甲第二四号証)によれば、バーマーク社は、ド
イツ連邦共和国にした右特許出願において初めて、ポリエステルの高速紡糸の未延
伸糸を特定条件で延伸し、該延伸中にテクスチヤ化処理にかけ、得られた延伸フイ
ラメントをパツケージすること等を要旨とするポリエステルフイラメントの製法を
開示したこと、同社の「SW4S SW4R」シリーズの巻取機の一九七三年版の
新しいカタログ(甲第二五号証)には、乙第七号証の一のカタログにはなかつた高
速紡糸とそれに続くドロー・テクスチヤリングについての記載がみられること、同
様なことは、同社の「インフオーメーションサービス」一九七一年版(甲第二六号
証)と一九七三年版(甲第二七号証)との間にもみられることからも明らかであ
る。
 次に、乙第七号証の二には、乙第七号証の一の延伸紡糸した糸を同時的ドロー・
トイスト・テクスチヤ化することは何らの記載も示唆もなく、また、それらの紡糸
あるいは加工技術をポリエステルに適用するということは何ら教示されていない。
同刊行物に記載された仮撚機のうち「FK5C」が単なる仮撚機にすぎないこと
は、「モダーン・テクスタイル誌」一九七二年七月号(甲第二八号証)に、バーマ
ーク社の仮撚機のうち「FK5CS」には延伸仮撚加工装置(draw-text
uring machine)の表示があるのに、「FK5C」にはこの表示がな
いことからも明らかである。
 本願発明は、いかにすれば、PETの未延伸糸を用いて二〇〇度C以上の高温の
ヒーターにより同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工を実際上可能ならしめる
ことができるかを技術課題とし、この課題を本願発明の構成要件の第一工程によつ
て得られるPETの特定の未延伸糸を供給糸として用いることにより解決したもの
であつて、PETの未延伸糸の加工についても、同時的ドロー・トイスト・テクス
チヤ加工について何らの記載も示唆もしていない乙第七号証の一と二とを併せて
も、本願発明の前記技術課題の解決に対し、何らの教示も与えることはできず、こ
れによつて本願発明を想到し得るものではない。
(二) 作用効果について
(1) 審決は、(c”)において、本願発明は工程操作上及び製造されたテクス
チヤヤーンにおいても格別顕著な効果は認められないと説示している。
 しかしながら、本願発明は、前記(一)において詳述したとおり、高速紡糸した
特定のPETの未延伸糸を供給糸とすることにより、従来のPETの未延伸糸の糸
かけの困難性及び貯蔵中の糸の劣化の問題を克服し、従来実現できなかつたPET
の未延伸糸の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工を実現し得るという工程操
作上の顕著な作用効果を奏するものであり、また、本願発明の方法によれば従来の
機械にほんの僅かの修正を施しただけの機械を用いてPETの未延伸糸を同時的ド
ロー・トイスト・テクスチヤ加工することができるという利点を有する。
 さらに、本願発明は、製造されたテクスチヤヤーンにおいても、従来のPETの
未延伸糸に比べ貯蔵安定性が優れており、従来の未延伸糸が通常貯蔵中にかなりの
劣化が起こり、同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工に不適当なものとなつた
のに対し、本願発明の高速紡糸した特定のPETの未延伸糸は六〇日以上の貯蔵後
においても、同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化性能に格別劣化を生じない。
また、PETの延伸糸をテクスチヤ加工して作つたテクスチヤヤーンに比べ捲縮性
能及び染色の均一性において優れている。
 したがつて、審決の前記説示は誤りである。
 また、審決は、Eにおいて、請求人(原告)主張の効果(生産効率の向上、装置
の簡単化、捲縮性能、染色均一性、貯蔵定性等)は、いずれもポリエステルを高速
紡糸した未延伸糸が有する物性に起因するもので、当業者の当然予測し得るところ
の効果にすぎない旨説示している。
 しかしながら、本願発明による生産効率の向上、装置の簡単化及び製造コストの
低下は、本願発明に規定する特定の高速紡糸の未延伸糸を供給糸として使用するこ
とにより従来の未延伸糸の糸がけの困難性の問題が解決され、同時的ドロー・トイ
スト・テクスチヤ加工が実現できたことによつて得られる作用効果である。この作
用効果を予期させるような記載は、引用例(イ)、(ロ)及び(ハ)のいずれに
も、また、その他のいかなる公知文献にも存ぜず、これが当業者において予測でき
なかつた作用効果であることは明らかである。また、本願発明の奏するテクスチヤ
ヤーンの捲縮性能、染色均一性及び貯蔵安定性の作用効果についても、引用例
(イ)、(ロ)及び(ハ)いずれにも、また、その他のいかなる公知文献にもこれ
を予測できるような記載は何もなされていない。
 したがつて、審決の前記説示は誤りである。
 本願発明が、原告主張の点において顕著な作用効果を奏するものであり、このこ
とは当業界において広く認められ、高い評価を受けていることは、「ドロー・テク
スチヤード、ヤーン・テクノロジー」一九七四年モンサント・テクスタイル・カン
パニー発行(甲第一五号証)に、PETのテクスチヤ加工において、同時的ドロ
ー・テクスチヤ加工法が逐次的ドロー・テクスチヤ加工法及び延伸糸のテクスチヤ
加工法に比べ生産性及び経済性において有利な優れた方法であること、低速紡糸し
た未延伸糸は保存寿命が短かく、周囲条件の変化に対し不安定であり、耐熱性に劣
り糸がけが困難である等の難点を有し、同時的ドロー・テクスチヤ加工をするのに
適しないこと、高速紡糸したPOY(部分配向糸)を用いることにより右の難点は
解消され、ほとんどすべてのテクスチヤ加工機で同時的ドロー・テクスチヤ加工を
することが可能となつたこと、高速紡糸したPOYを用いる同時的ドロー・テクス
チヤ加工方法は、高い生産性、大きな効率、及び経済性、優れた染色性、感触等、
工程操作上及び製品の性能のいずれにおいても優れた作用効果を奏することが記載
されていることからも明らかである。
(2)被告の糸がけの容易性に関する議論は、前掲「ドロー・テクスチヤード・ヤ
ーン・テクノロジー」の記載事項から明らかなように、本願発明を知つた上で初め
ていえる議論であつで失当である。被告は、昭和三一年特許出願公告第六七六八号
公報(乙第一〇号証)及び米国特許第三、〇九一、五一〇号明細書(乙第一一号
証)に言及しているが、これらの記載事項からは、本願発明に規定された特定の高
速紡糸の未延伸糸の二〇〇度C以上の高温に加熱されたヒーターに対する糸がけの
容易性について、何らの教示も示唆も得られない。また、被告は、紡糸速度三〇〇
〇ヤード/分を境にして糸がけの難易が顕著に変化することはないと主張するが、
本願明細書には、第六七項表Ⅰに、比較実施例Ⅰ-C及びⅡ-Cの場合、紡糸速度
が二七〇〇ヤード/分のPETの未延伸糸は二一六度Cのヒーターに接触した時に
溶融し、糸がけが非常な困難を伴つたのに対し、実施例I-a、I-b、実施例Ⅱ
-a、Ⅱ-b、及び実施例Ⅲ、Ⅵのように紡糸覆が三一〇〇ヤード/分以上のPE
Tの未延伸糸には右箸のごとき糸がけの困難はなかつたことが示されている。
 また、貯蔵安定性については、本願発明の高速紡糸した特定のPETの未延伸糸
が六〇日以上の貯蔵後においても同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化性能に格
別劣化を生じないことは、引用例(イ)、(ロ)及び(ハ)のいずれにも、またそ
の他のいかなる公知文献にも記載も示唆もされていない。被告が援用する後記「合
成繊維」(乙第九号証)の記載事項からは、いかなる速度で高速紡糸したPETが
同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工の供給糸として実用に耐え得る貯蔵安定
性を有するかについては全く不明であり、本願発明における貯蔵安定性を予測する
ことはきわめて困難である。
 また、従来の機械の僅かな修正で加工可能の点について、被告は、引用例(イ)
の記載事項を援用して自明の作用効果であると主張するが、引用例(イ)記載の方
法は、従来の未延伸糸の保存寿命が短いこと、雰囲気条件の変化に対して過敏であ
ること、熱に対して過敏で糸がけが困難であること等の欠点により、工業的実施に
は不適当な方法として、第一優先権主張日前に放棄されたものであるから、右記載
事項を根拠に本願発明の前記作用効果が当業者の予期できたものということはでき
ない。
 次に、捲縮発現性については、本願明細書の実施例Ⅶの表2、及び実施例Ⅷの表
3には、本願発明に規定する特定の高速紡糸の未延伸糸が同時的ドロー・トイス
ト・テクスチヤ加工したテクスチヤヤーンの捲縮発現性において、従来の未延伸糸
又は部分的に延伸したPETの捲縮加工糸に比べて優れた捲縮発現性を有すること
が示されており、他方被告の指摘する本願明細書第二一頁記載の二二-〇・〇五D
という式で示される捲縮発現が適用されるのは、実施例Ⅶ及びⅧにおけるようなシ
ングルヒーターの態様であつて、実施例ⅠないしⅥにおけるようなダブルヒーター
を用いて熱安定化処理を行つたテクスチヤヤーンについてではないから、この式を
実施例1ないしⅥに示されている加工糸に適用して比較することは意味がない。
 また、本願発明の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工によつて得られるテ
クスチヤヤーンが事実として優れた均染性及び良好な染料浸透性を有し、さわやか
な心地よい手ざわりを有することは、前掲「ドロー・テクスチヤード・ヤーン・テ
クノロジー」の第一五頁左欄第一五行ないし第一七頁に記載されているとおりであ
る。
 被告は、生産効率の向上、装置の簡単化、コストの低下についても、引用例
(イ)の記載事項を援用して自明の作用効果であると主張するが、引用例(イ)記
載の方法が工業化されるに至らず放棄されたことは前述のとおりであつて、この記
載事項をもつて自明の作用効果であるとする被告の主張には根拠がない。
3 相違点(二)についての判断の誤り
(一)本願発明は、原出願の発明の第一工程において、供給糸のfs70値を〇・
三七以下に制御するならば、第二工程の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工
程において生じる破断フイラメント数を飛躍的に減少させることができ、このfs
70値が〇・三七以下の供給糸は表面改質剤を紡糸前にPET中に含有させるか及
び/又は紡糸後仕上げ剤を紡出糸に塗布することにより得ることができるとの知見
に基づいて、原出願の発明の前記構成要件(a)ないし(d)から構成される第一
工程に前記構成要件(h)を付加した発明である。
 従来、PET・ナイロンその他の合成ポリマーから作つたフイラメントを延伸
し、あるいは嵩高化のために仮撚りするような加工を施す際過度の摩擦が生じるの
を防ぐために、摩擦を軽減する油剤あるいは仕上げ剤でフイラメントを処理するこ
とは知られている。また、引用例(ニ)には、延伸中のフイラノントの切断の主要
原因は、大部分フイラメント間の摩擦により、また、ピン装置が使用された場合に
はヤーンが延伸ピンを通過する際の過剰の摩擦の発生により、順次に強められるヤ
ーンの過剰張力の積垂ねによること(第一頁右欄第四〇行ないし第二頁左欄第一
行)が記載されている。
 しかしながら、本願発明におけるfs70値の制御に関し重要なことは、制御す
べき摩擦係数がフイラメントとスピンドルその他の装置の金属表面との摩擦係数で
はなくて、フイラメント間の摩擦係数であるとともに七〇度Cで測定したフイラメ
ント間摩擦係数であるということ、及び前記構成要件(a)ないし(d)から成る
特定の高速紡糸した未延伸のポリエステルマルチフイラメントを供給糸とし、これ
を前記構成要件(e)ないし(g)から成る同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ
加工する際における該供給糸に対するfs70値の制御であること、並びに該供給
糸に対しfs70値を〇・三七以下に制御することによつて、前記同時的ドロー・
トイスト・テクスチヤ加工の際の破断フイラメント数がそのような制御をしなかつ
た場合に比べ飛躍的に減少するということである。
 引用例(ニ)には、本願発明におけるfs70値の制御に関するこれらの重要事
項について何らの教示もなされていない。
 すなわち、引用例(ニ)が開示するのは、通常の低い紡糸速度で紡糸したポリエ
ステルフイラメントを表面活性物質で処理してエージソグ又はラツギングする方法
であつて、引用例(ニ)記載の発明は、未延伸ポリエステルフイラメントの脆性及
びそのフイラメントを延伸する際の過剰のヤーン張力の蓄積を低減する特定の非イ
オン性表面活性物質の水性乳剤を提供するものであり(第二頁左欄下から第三行な
いし第二頁右欄第一三行)、引用例(ニ)には、フイラメント間の摩擦に関して
は、前記のとおり、延伸中におけるフイラメント間の摩擦と、フイラメントが延伸
ピンを通過する時に発生する過剰の摩擦との二つの型の摩擦が糸の過剰張力の蓄積
に寄与しており、それが延伸中のフイラメントの切断の主要原因であることが記載
されているのみであり、引用例(ニ)の右記載は要するに延伸中のフイラメントの
切断の主要原因は過剰張力であるということを述べているにすぎず、右二つの型の
摩擦あるいはこのいずれか自体がフイラメントの切断の主要な原因であるというこ
とを述べているのではない。
 したがつて、審決が延伸中のフイラメントの切断がフイラメント間の摩擦による
ことは引用例(ニ)に記載されているごとく公知のことであるとしたのは、誤りで
ある。
 さらに、本願発明に規定する同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工する場
合、破断フイラメント数と密接な関係があるのは七〇度Cで測定したfs70値で
あつて、驚くべきことに、これ以外の摩擦係数、例えば二五度Cで測定したフイラ
メント間摩擦係数、あるいは糸と装置の金属表面との間のハイドロダイナミツク摩
擦係数は右破断フイラメント数に対し有意性がある関連を示さない。
 審決は、「七〇度Cで摩擦係数を決定するようにした点は、ポリエステルの延伸
を有効になし得る最低温度である二次転移点(ポリエステルの場合約七〇度C)よ
りみて容易に考えられることである。」と認定しているが、PETの二次転移点は
必ずしも七〇度Cではなく、考慮の対象となつている特定のPET、殊にその固有
粘度及び結晶化度によつて異なる(米国特許第二、五五六、二九五号明細書((甲
第一二号証))第六欄第一行ないし第四〇行参照)。
 従来、フイラメント間摩擦係数は、例えば昭和四四年特許出願公告第三二七〇号
公報(甲第一三号証)第三頁第二表の下左欄第一行ないし第五行及び第四頁第三表
の注3に記載されているように二〇~二五度Cの室温で測定するのが通常であり、
七〇度Cでの測定を示す公知資料は存在せず、まして七〇度Cで測定したfs70
値のみがドロー・テクスチヤリングにおいて破断フイラメント数と密接な関係があ
ることを記載あるいは示唆する公知資料は存在しない。
 したがつて、審決の前記認定は誤りである。
 このように、fs70値は破断フイラメント数と明確な相関関係を有し、破断フ
イラメント数と明確に関連するパラメーターはfs70値のみであることは、
【C】の宣誓供述書(甲第一四号証)から明らかである。すなわち、右宜誓供述書
によれば二五〇デニール、三四フイラメントのポリエチレンテレフタレートマルチ
フイラメントを三三四〇~三四二〇ヤード/分の引取り速度で溶融紡糸し、これに
七〇度F(二一度C)の空気を直角方向にあてて急却し、一・七倍の延伸倍率で二
一〇度Cの第一ヒーター及び二一三度Cの第二ヒーターを用いてドロー・トイス
ト・テクスチヤ加工を行つた場合のfs70値及びその他の各種摩擦係数と破断フ
イラメント数の関係を試験した結果、破断フイラメント数と明瞭に有意義のある関
係を示しているのはfs70値と破断フイラメント数(BFC)との関係(添付資
料二)だけであり、しかも添付資料二のfs70値BFC曲線は、fs70値〇・
三七を境としてfs70値がこれより大になるとBFCの値が急激に増加すること
を示し、また、添付質料七のfs70―BFCのグラフはfs70値とBFCの間
に明瞭な対応関係があることを示している。このようなfs70値とBFCとの対
応関係は本願発明によつて初めて見いだされたものである。
(二) 被告は、fs70値が〇・三七以下の未延伸ポリエステルマルチフイラメ
ント供給糸が新規のものでないことは、後記実験報告書(乙第四号証)から明らか
である旨主張する。
 しかしながら、乙第四号証の表3には、二酸化チタンを含まないPETのマルチ
フイラメントヤーン(ブライトヤーンB)に対していずれも公知の九種の油剤を付
与してフイラメント間摩擦係数を測定した場合には、九種の油剤のうち〇・三七よ
り低いfs70値を与えるのは僅か三種だけであつて、他の五種の油剤は〇・三七
より高いfs70値を示し、残りの一種の油剤b′は付着量〇・六二%の場合は
〇・三七、付着量〇・六六%の場合は〇・三九という値を示しているから、公知の
油剤のうちごく限られた少数の油剤のみが本願発明に規定する〇・三七以下のfs
70値を与えるにすぎないことは明らかである。
 また、前掲宣誓供述書(甲第一四号証)の添付資料二から明らかなように、破断
フイラメント数(BFC)ができるだけ少ないPETのテクスチヤヤーンを得るに
はfs70値を〇・三七よりも更に小さい値にすることが必要であるが、本願明細
書には、fs70値を〇・三四以下とすることが一層好ましい旨、また、トイスト
されるヤーンがスピンドル上で滑りを起こし、その結果テクスチヤヤーン製品が不
均一になることを回避するためにfs70値は〇・二より大であることが好ましい
旨記載されている(第二六頁第一二行ないし第二七頁第五行)。しかるに乙第四号
証の第3に示されているとおり、二酸化チタンを含有するPETのマルチフイラメ
ント(ヤーンA)に前記九種の油剤を付与してフイラメント間摩擦係数を測定した
場合においても、本願発明の教示する〇・三四以下のfs70値を与えるものは九
種の油剤のうち僅か一種の油剤にすぎない。
 以上の理由により、本願発明のfs70値が教示する著大な有用性が明らかであ
る。
 さらに、乙第四号証の表3のヤーンAについて、比較的多くの油剤が〇・三七以
下のfs70値を示したのは、二酸化チタンが配合されたことによりヤーンの表面
特性が改善されたことによるものである。したがつて、この事実から、単に仕上げ
剤のみによつて必ずしもfs70値を〇・三七以下に調節できるのではなく、フイ
ラメントの表面特性の適当な改質とあいまつてこそ、好適な仕上げ剤の選択がfs
70値を確実に〇・三七以下に減少させるという結論が導かれる。この意味におい
て、本願明細書に記載されたカオリナイトやポリエチレングリコールは、好適なフ
イラメント表面の改質をもたらすものであり、このフイラメント表面の適当な改質
と良好な仕上げ剤の選択との組合せが、初めてfs70値を〇・三七以下にするこ
とを可能にするのである。
4 相違点(三)についての判断の誤り
(一)延伸倍率について
(1) 審決は、引用例(ハ)の図5・29には「二七四三m/分(三〇〇〇ヤー
ド/分)の引取り速度のときの七〇度Cの自然延伸倍率が約二倍であること」が記
載されていると認定した上で、「一・三倍~二・〇倍の延伸倍率の点は、引用例
(ハ)に記載されている事項、特に図5・29から、高速紡糸の未延伸糸を同時的
ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦する際の延伸倍率を一・三~二・〇倍と
選定することは、当業者が容易に考えられるところである」と説示している。
 しかしながら、引用例(ハ)の図5・29には、審決認定の前記記載は存しな
い。
 また、本願発明において特定される延伸倍率は、本願発明に規定する特定の高速
紡糸したPETの未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工する際優れ
た性能のテクスチヤヤーンを与えるに必要な実際的延伸倍率である。
 これに対し、引用例(ハ)の図5・29は、単に引取り速度と最大延伸倍率及び
自然延伸倍率との関係についての学術的研究実験の結果を示す図であり、例えば、
撚糸のフアクターは含まれていないなどその実験条件は、実際の同時的ドロー・ト
イスト・テクスチヤ加工における操作条件とは一致しない。
 したがつて、引用例(ハ)の図5・29は、本願発明の同時的ドロートイスト・
テクスチヤ化工程における延伸倍率の限定を何ら示唆するものではなく、審決の前
記認定は誤りである。
(2) 審決の認定した引用例(ハ)の技術内容のうち、前記「自然延伸倍率」が
被告の認めるとおり「最大延伸倍率」の誤りであつたとしても、本願発明に規定す
る延伸倍率一・三倍~二・〇倍は、引用例(ハ)の記載事項に基づいて当業者が容
易に考えられるものではない。
本願発明の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程における延伸倍率は、PE
Tの溶融紡糸の引取り速度が三〇〇〇ヤード/分以上という特定の高速度の紡糸に
よる未延伸糸に適用されるものとして定められたものであり、したがつて、対象で
あるこの高速紡糸の未延伸糸が同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程の供給
糸として実用上満足し得る性能を有し、従来の未延伸糸が有する貯蔵中の糸の劣化
や糸がけの困難性をも解決することができるものであるという認識なくしては、選
択することはできない。
 しかるに、引用例(ハ)はもちろんのこと、引用例(イ)及び(ロ)のいずれに
も、このことについて何らの教示も示唆も存しないのであるから、引用例(ハ)の
図5・29に、単に紡糸速度が二七四三m/分のときの最大延伸倍率が約二倍にな
ると記載されているだけでは、本願発明の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化
工程における一・三倍~二・〇倍という延伸倍率を予測することは不可能である。
しかも、従来PETの延伸糸はやや過剰供給(一倍未満の延伸倍率)でテクスチヤ
加工を行つているが、これは加工に際して延伸糸に仮撚りによる張力が加わるから
に他ならない。他方、本願発明の対象とする同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ
加工の場合には、延伸による張力と同時に仮撚りによる張力が供給糸に加わること
はいうまでもない。しかるに、引用例(ハ)の図5・29は、この加工の際に未延
伸糸に加わる仮撚りによる張力の影響について何らの教示も示唆も与えていない。
これが前記(1)において図5・29の実験では撚糸のフアクターは含まれていな
いと指摘した理由である。
 したがつて、引用例(ハ)の図5・29の引取り速度と最大延伸倍率の記載のみ
から、本願発明の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程における延伸倍率を
予測することはできない。
(二) 撚りのセツト温度について
 審決は、「撚りのセツト温度の点は、高速紡糸の未延伸糸が従来の未延伸糸に比
べ耐熱性に優れていることがよく知られているので、高速紡糸の未延伸糸を同時的
ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦する際、引用例(イ)の加熱板の温度一
五〇~二〇〇度Cよりも高い二〇〇度C以上の温度で行うように選定することも、
当業者が容易に考えられるところである。」と説示している。
 しかしながら、第一優先権主張日前、本願発明に規定する高速紡糸の未延伸糸が
従来の未延伸糸に比べ耐熱性に優れていることがよく知られていたという事実はな
く、これをよく知られていたとするのは、審決の理由のない独断であるといわざる
を得ない。
 被告の採用する米国特許第三、〇九一、五一〇号明細書(乙第一一号証)には、
本願発明の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦する際の撚りのセツト
温度を二〇〇度Cよりも高い温度に設定することについては何らの教示も示唆も存
しない。
 したがつて、審決の前記説示は誤りである。
5 理由不備の違法
(一) 本願発明において使用する供給糸は、「少くとも約三〇〇〇ヤード/分の
引取り速度で溶解紡糸することによつて形成せられる結晶化度が三〇%より低い供
給糸」であり、かつfs70値が〇,三七以下に制御されたものであること、この
供給糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦する際の延伸倍率が一・
三倍二・〇倍であること及び撚りのセツト温度が二〇〇度Cより高い温度であるこ
とは、本願発明の必須要件であり、これらの要件の全部が満たされる場合におい
て、初めて本願発明の効果が達成せられるのであり、また、これら要件中のそれぞ
れの数値は、それぞれ重要な意味をもつて選定されているものである。
 審決は、これらの数値条件をもつて、挙示の各公知例の記載から、公知であり、
あるいは当業者が容易に選択できるものであると判断したが、仮に各公知例にこれ
らの数値を含み、あるいはこれを示唆するような一般的記載があつたとしても、本
願発明の意図する特定の目的のために、その一般的記載のうちのどの具体的な数値
が有効であるかの教示がない限り、その特定の数値について、各公知例の記載から
公知であり、あるいは当業者が容易に選択することができるものであると判断する
ことは許されない。それゆえ、各公知例に前記教示が存することを確定しないで、
右のようた判断をした審決には理由不備の違法がある。
(二) また、審決は、前記2、Eにおいて、本願発明が生産効率の向上、装置の
簡単化、捲縮性能、染色均一性、貯蔵安定性等において優れた効果を有するという
ことは、いずれもポリエステルを高速紡糸した未延伸糸が有する物性に起因するも
ので、当業者の当然予測し得るところの効果にすぎないと判断したが、そもそもポ
リエステルを高速紡糸した未延伸糸の物性として、いかなる点が当業者の認識にあ
つたか、また、それからどのような理由で前記のような多種多様の効果が予測され
るべきであつたかを認定しないで、右のような判断をすることはできない。それゆ
え、右の点を認定することなく、前記のような理由で本願発明の作用効果を当業者
が当然予測し得るものとした審決には、理由不備の違法がある。
第三 被告の答弁及び主張
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。
二 同四の審決の取消事由1のうち、本件出願は原告がその主張のような優先権を
主張してなした原出願の分割出願であること、原出願の発明が原告主張の構成要件
(a)ないし(d)から構成される第一工程と、構成要件(e)ないし(g)から
構成される第二工程から成るテクスチヤヤーンの製法を要旨とするものであるこ
と、本願発明は原出願の発明の第一工程に構成要件(h)を付加し、構成要件
(a)ないし(d)及び(h)から構成される第一工程と、構成要件(e)ないし
(g)から構成される第二工程から成るテクスチヤヤーンの製法を要旨とするもの
であること、同2のうち、引用例(イ)及び(ロ)の技術内容が審決認定のとおり
であること、本願発明は、高速紡糸の末延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクス
チヤ化工程に賦するものであつて、その際供給糸は何も処理は施さず、そのまま供
給されるものであることは認め、その余は争う。
 審決の認定、判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法はない。
1 第一優先権主張の基礎とされた米国特許出願の明細書には、前記構成要件
(a)ないし(g)についての記載はあるが、fs70値に関する構成要件(h)
については全く記載がなく(原告主張の潤滑剤使用に関する記載は、単にポリエス
テル繊維の溶融紡糸における常套手段を記載したにすぎない。)、第二優先権主張
の基礎とされた米国特許出願の明細書には、「fs70の値が〇・二〇~〇・三
四」である供給糸と記載され、本願発明の構成要件(h)に規定しているfs70
値〇・三七以下という範囲の一部しか記載がない。そして、本願発明の全構成要件
が完全に記載されているのは、第三優先権主張の基礎とされた英国特許出願の明細
書だけであるから、本件出願の優先権主張が完全に認められるのは、第三優先権に
係るもののみである。
 原告は、本願発明の構成要件(a)ないし(g)については第一優先権主張日
が、構成要件(h)のうちfs70値〇・二〇~〇・三四の範囲については第二優
先権主張日が、〇・三七以下の特定値のうち右範囲以外の範囲については第三優先
権主張日がそれぞれ適用されるべきである主張するが、本願発明は構成要件(a)
ないし(g)にフイラメント間摩擦係数に関する構成要件(h)が結合して発明と
して成り立つているものであるから、構成要件を個々に分離して各要件ごとに優先
権主張日がそれぞれ適用されるべきものではない。
 原告は、パリ条約第四条F項を根拠に、本願発明の構成要件(a)ないし(g)
について第一優先権主張日が適用されるべきであり、構成要件(h)が第一優先権
主張の基礎とされた米国特許出願の明細書に記載されていないという理由で第一優
先権主張は認められないとした審決は同項の規定の解釈を誤つたものである旨主張
するが前段で述べた理由により構成要件(a)ないし(g)についての第一優先権
主張は認められない。パリ条約第四条の規定は原告主張の十分な理由にならない。
 本願発明においては、第二優先権は一部について認められるだけであり、本願発
明の優先権が完全に認められるのは、第三優先権に係る出願のみであることは、全
く議論の余地のないところである(以下被告の主張においては、本願発明に係る方
法のうちfs70の値〇・二〇~〇・三四の範囲については第二優先権主張日を、
その余の要件についてはすべて第三優先権主張日をそれぞれ基準として特許要件を
判断すべきであるとの趣旨で「本件優先権主張日」という一括した表現を用いる。
ただし、別段の表現を用いることを要する場合を除く。)。
2(一) 引用例(イ)には、高速紡糸の未延伸糸を供給糸として使用することが
明示的に記載されていないことは、審決認定のとおりであるが、引用例(イ)記載
の方法においては、供給糸として使用するPETの未延伸糸の紡糸速度は限定され
ておらず、未延伸糸の一態様である高速紡糸の未延伸糸の使用を排除するものでは
ない。
 また、引用例(ロ)には、PETの高速紡糸の未延伸糸を次の加工・処理工程へ
の供給糸として使用することが開示されており、本願発明の同時的ドロー・トイス
ト・テクスチヤ化工程の供給糸として使用するPETの末延伸糸は、引用例(ロ)
において自発伸長性繊維製造のための供給糸として使用する高速紡糸の未延伸糸と
全く同一のものである。
 審決は、従来の未延伸糸に代えて引用例(ロ)により公知の高速紡糸の未延伸糸
を引用例(イ)により公知の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦する
ことは、当業者において容易に選択できるところであるとしたが、以下に述べる本
件優先権主張日当時の合成繊維分野における技術水準に照らすと、右判断は正当と
すべきである。
 引用例(イ)の方法に係る発明が出願された後、PETの紡糸技術(特に、紡糸
巻取装置)の発達に伴つて工業的に採用される紡糸速度も次第に高速化し、本件優
先権主張日当時、既に高速紡糸に適した紡糸巻取装置が開発され、高速紡糸の実用
化段階を迎えていた。そして、高速紡糸が実用化段階に入れば、従来に比べ、より
高い生産性で紡糸できるようになるため、得られた未延伸糸を同時的ドロー・トイ
スト・テクスチヤ加工の供給糸として使用すれば、一層効率的・経済的に捲縮加工
糸(テクスチヤヤーン)を製造し得ることは、当業者ならば誰しも想到し得るとこ
ろである。このことは、「テクスタイル・インダストリーズ」W・R・Cスミス 
パブリシング カンパニー発行一九七〇年三月号(乙第五号証)には、一九六九年
一二月にフランス国リヨン市で開催された捲縮加工糸製造業者の技術集会の内容が
「ヨーロツパにおける捲縮加工糸(テクスチヤード ヤーンズ)」として紹介され
ているが、その第一一七頁の「未延伸糸の捲縮加工(テクスチヤリング アンドラ
ウン ヤーンズ)」と題する欄は、仮撚加工工程に供せられる素材として、従来の
延伸工程を経た糸に代わつて紡糸段階で形成された未延伸糸が使用されるであろう
ことを教示し、第一二七頁には、高速紡糸が実用化されれば、仮撚加工業者が高速
紡糸の未延伸糸を購入して、自ら同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工を行う
時代の到来することを予言する記載があることからも明らかである。
 高速紡糸及び未延伸糸の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工がそれぞれ古
くから提案されていたにかかわらず、具体的に、一九七〇年初めまで本格的に実施
されなかつたのは、工業的に実用性(生産性、操作性、安全性、耐久性等)に優
れ、かつ妥当な価格で入手し得る高速紡糸装置(特に、高速紡糸用の紡糸巻取装
置)及び同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工装置が提供されなかつたからで
ある。ところが、一九七〇年頃、実用的な同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加
工装置が開発され、
まず紡糸引取り速度が毎分一〇〇〇~二〇〇〇m程度の通常の未延伸糸を用いて同
時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工が実用化され、さらに、一九七一年六月二
二日から同年七月一日までフランス国パリ市で開催された第六回国際繊維機械見本
市(以下「ITMA’71」という。)において、実用的な高速紡糸装置及び同時
的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工に適した仮撚加工装置が発表されるに及ん
で、高速紡糸及び同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工が、経済的に有利な技
術として当業者に広く認識されるところとなり、本格的な実用段階に入つたのであ
る。
 このITMA’71には、我が国からも多数の繊維業界関係者が訪れたが、この
ことは、「繊維工学」社団法人日本繊維機械学会一九七一年九月号(乙第六号証)
に紹介されている。このⅠTMA’71おいて、なかでも当業者の関心を集めたの
は、西ドイツ国の繊維機械メーカーであるバーマーク社が高速紡糸→同時的ドロ
ー・トイスト・テクスチヤ加工の技術を示した刊行物、すなわち、高速巻取装置に
関する「SW4S SW4R紡糸延伸装置」のカタログTex32(乙第七号証の
一)及び仮撚加工装置に関する「FK5C FK5S自動捲縮装置」のカタログT
ex30(同号証の二)を不特定多数の者に頒布し、高速紡糸の未延伸糸を同時的
ドロー・トイスト・テクスチヤ加工して撚縮加工糸を製造する時代の到来すること
を明らかにしたことであつて、その具体的内容は、次のとおりである。
 カタログTex32には、「私どもの選んだこの考え方は、完全又は部分的な配
向を持つ糸を延伸紡糸するためにも適用できる」(第二項右欄第八行ないし第一〇
行)と記載され、高速巻取装置「SW4S SW4R」が延伸紡糸(Streck
pinnen)すなわち高速紡糸によつて完全若しくは部分的に配向し糸条を製造
する場合に適用できることが明記されている。そして、同カタログの第五項の表に
は、「SW4S」を用いた最高巻速度四〇〇〇m/分で高速紡糸することによる高
配向未延伸糸の製造が開示され、また、第三頁の図には、「SW4S→仮撚加工装
置→」のフローチヤートが図示され、第一一項右欄下写真説明の欄には、同頁に掲
載された写真上について、「上図は、SW4Sで得られた糸をバーマーク社の仮撚
加工装置FK5Cにかけていることを示し」と記載され、いずれも高速巻取装置
「SW4S」によつて巻取つた糸条を仮撚加工装置「FK5C」に直接共給して捲
縮加工糸を製造することを示している。一方、カタログTex30の第六頁第一行
ないし第五行には、仮撚加工装置「FK5C」に供給される糸として「延伸紡糸に
よつて得られる糸条」が用いられること、換言すれば、右仮撚加工装置への供給糸
として高速紡糸によつて得られた高配向未延伸糸を用い得ることが示されている
が、この「FK5C FK5S」による同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工
程第六頁、第七頁に記載されており、右記載によれば、糸条保管部から供給される
糸は、第六頁図面のローラ⑤、加熱ボツクス⑩、仮撚部⑫、ローラ⑧の順に走行
し、その間、加熱ボツクス⑩において撚りがセツトされ、仮撚部⑫によつて仮撚加
工されるが、ローラ⑤、⑧の速度は、主駆動装置において段階的に調節可能である
(同頁第四九行、第五〇行)から、⑤と⑧の速度を異なるものとすることによつ
て、その間において糸の延伸が可能であることを意味している。以上の技術的事項
は、カタログTex32及びTex30の記載から明らかであるが、バーマーク社
の技術者である【D】供述書(乙第七号証の三)によつてこれを裏付けることがで
きる。
 このように、高速紡糸と同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工との組合せ
は、ⅠTMA’71を機に我が国の当業者の広く知るところとなり、高速紡糸に適
した高速巻取装置と同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工に適した仮撚加工装
置とが現実に入手可能となつたことから、我が国の当業者においても、高速紡糸の
未延伸糸の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工による捲縮加工糸製造技術の
工業化に向つて進んでいたのである。すなわち、本件優先権主張日前に、PETの
高速紡糸→同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工の組合わせが時代の趨勢とな
つており、これが当時の合成繊維分野における技術水準であつたのである。
 したがつて、引用例(イ)には、従来の未延伸糸の同時的ドロー・トイスト・テ
クスチヤ加工について記載されているにとどまり、また、引用例(ロ)には、高速
紡糸の未延伸糸の製造について記載されているにとどまり、いずれも両者の組合わ
せについて明示的な記載がないとしても、以上に述べたような本件優先権主張日当
時の技術水準を考えると、引用例(イ)記載の方法において、供給糸として引用例
(ロ)やその他の公知資料に記載された高速紡糸の未延伸糸を使用することは、当
業者が必要に応じて容易になし得る程度のことといわざるを得ない。
 原告は、あたかも引用例(イ)記載の方法は実施不能であり、高速紡糸の未延伸
糸の使用によつて初めて同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工が実現可能とな
つたかの如き主張をするが、かかる主張は事実を歪曲するものである。すなわち、
従来の未延伸糸は、長期間放置すると次第に脆化して以降の延伸が困難になるとい
う一般的性質を有するが、該未延伸糸を紡糸後数日内に使用すれば、脆化の問題は
全くなく、現に、当業者は長年にわたり未延伸糸を紡糸後数日以内に延伸するよう
管理することによつて問題なく延伸を実施し、同様の方法により該未延伸糸を同時
的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工することも実施してきたのであつて、引用例
(イ)記載の方法が実現不能であつたとする原告の前記主張は誤りである。
(二) 原告は、第二、四、2、(二)おいて、審決が、本願発明は工程操作上及
び製造されたテクスチヤヤーンにおいても格別顕著な効果は認められないとした点
及び請求人(原告)主張の効果(生産効率、装置の簡単化、捲縮性能、染色均一
性、貯蔵安定性等)は、いずれも当業者の当然予測し得るところの効果にすぎない
とした点は誤りである旨主張する。
 しかしながら、原告が主張する本願発明の奏する作用効果のうち、まず糸がけの
容易性については、それをもたらす熱に対する安定性は分子配向の進んだPETそ
れ自体の性質であつて、PETを同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工に適し
たことによる作用効果ではない。しかも、高速紡糸したPETが熱に対し安定であ
ることは、昭和三一年特許出願公告第六七六八号公報(乙第一〇号証)及び米国特
許第三、〇九一、五一〇号明細書(乙第一一号証)に、該PETを二〇〇度Cで収
縮熱処理し得ることが示されている事実によつても明らかである。また、本願発明
に規定する紡糸引取り速度三〇〇〇ヤード/分を境にして糸がけの難易が顕著に変
化するという事実はなく、紡糸引取り速度一〇〇〇~二〇〇〇m/分程度のPET
の未延伸糸は、糸がけ時に高温のヒーター面に直接触れると融断することがある
が、この点は該PETをヒーター面から僅かに離して糸がけし、同時的ドロー・ト
イスト・テクスチヤ加工の開始後に糸をヒーター面に接触させるという公知の技術
的手段により解決されている。また、供給糸の貯蔵安定性は、分子配向の進んだP
ETそれ自体の固有の性質にすぎず、その後の加工・処理方法とは全く無関係であ
る。また、【E】他二名編「合成繊維」朝倉書店昭和三九年一〇月一〇日発行(乙
第九号証)第三二四頁下から第五行ないし第二行が教示するように、紡糸速度を大
きくすれば、貯蔵安定性が優れたものとなることは、古くから当業者が熟知すると
ころである。更に、従来の機会の僅かな修正で加工可能な点は、引用例(イ)に、
「ポリエチレン・テレフタレートとして知られた合成線状ポリエステルの繊糸の延
伸に於ては繊糸を一組の供給ロールから熱制止ピンを廻り次で熱板を超えて延伸ロ
ールに到るのが常道である。斯る方法は熱板と延伸ロールとの間に仮り撚糸装置を
介在せしめることにより本発明の方法による嵩張つた糸を得るように容易に変形す
ることができることが認められるであろう。」(第一頁右欄第一三行ないし第一九
行)と記載されていることから明らかなように、従来の機械にほんの僅かの修正を
施しただけの機械を用いてPETの未延伸糸の同時的ドロー・トイスト・テクスチ
ヤ加工ができることも、本件優先権主張目前公知の自明の作用効果にすぎない。
 次に、原告が主張する本願発明の奏するテクスチヤヤーンの作用効果のうち、貯
蔵安定性については、前述のとおりであり、捲縮発現性については、本願明細書に
は、本願発明がこの点に格別の効果が存するとの記載はなく、かえつて実施例Ⅶの
表に従来例として挙げられている市販品のCD25値は二五であつて、本願発明の
実施例Ⅰ~Ⅵよりはるかにすぐれているという矛盾した結果になつている。また、
染色均一性については、本願明細書には、単にテクスチヤヤーンの染色の均一性が
良好であると抽象的に述べられているのみで、実験データに基づく説明は全くな
く、従来のものに比してどれだけ優れているのか明確ではない。
 最後に、生産効率の向上、装置の簡単化及び製造コストの低下等の作用効果は、
引用例(イ)に、「従来は織糸の捲縮は唯延伸された糸のみについて行われたもの
であるが、撚糸工程と繊糸の延伸とを組合せることにより非常に安定な捲縮を得る
のみでなく装置及生産費の節約が得られるのである。」(第二頁左欄第六行ないし
第九行)と記載されていることから明らかなように、延伸と同時に仮撚加工すれば
生産効率が向上し、装置が簡単化され、コストが低下することは、本件優先権主張
日前、一般に認識されていた同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工の採用に伴
う自明の作用効果である。
 原告は、原出願後に刊行された前掲「ドロー・テクスチヤード・テクノロジー」
を挙げて本願発明の奏する作用効果が優れたものであると主張するが、原告主張の
作用効果は、前述のとおり、自明か、若しくはその作用効果自体疑わしいものであ
つて、右刊行物が本願発明をもつて当業者が予期し得ない程の作用効果を奏するも
のと述べたともいえないので、これをもつて本願発明の進歩性の判断を左右するこ
とはできない。
3 fs70という物性値は、原告が創作した特殊パラメーターであるが、実質上
は、ごくありきたりの紡糸油剤を付与したポリエステル未延伸糸の摩擦特性をfs
70という特殊パラメーターで表現したものに他ならない。
 すなわち、合成繊維の溶融紡糸工程において、紡糸口金より押出後冷却風によつ
て冷却固化した糸条に、オイリング・ローラ等により油剤(本願発明でいう「仕上
げ剤」)を付与した後巻取るのが常套手段であり、工業的な溶融紡糸では油剤を付
与することなく巻取ることはあり得ない。かかる油剤は、本来、紡出糸条に平滑性
等を与えるために付与されるものであつて、フイラメント相互間、フイラメントと
金属間の摩擦係数を調整する機能を有するものである。
 そして、当該技術分野においては、フイラメント間の摩擦係数を減少させること
は、当然のこととして行われてきたことにすぎない。
 原告は、fs70値を〇・三七以下の低い範囲に選択することは容易ではない旨
主張するが、fs70値が〇・三七以下の未延伸ポリエステルマルチフイラメント
供給糸は、新規のものではない。このことは、原告が原出願に関して特許庁へ提出
した昭和四九年一二月一三日付意見書に添付されている原告作成の実験報告書(乙
第四号証)によると、特許庁審査官によつて追試実験を求められた公知の繊維用油
剤九種を、周知の二酸化チタンを含有するポリエステルマルチフイラメントに単に
付与することによつて得られたものは、驚くべきことに、九種のうち七種の油剤を
付与したフイラメントのfs70値が〇・三七以下であつたとされていることから
明らかである。すなわち、本願発明に規定するfs70値〇・三七以下の未延伸ポ
リエステルマルチフイラメント供給糸は、通常の油剤を付与した公知の多くのポリ
エステルマルチフイラメントを包含するものである。
 原告は、引用例(二)には、フイラメント切断の主要原因は過剰張力であると記
載されているのであつて、これを延伸中のフイラメントの切断がフイラメント間の
摩擦によることが記載されているとした審決の認定は誤りである旨主張する。
 しかしながら、引用例(二)には、「延伸中のフイラメント切断の主要原因は、
大部分フイラメント間の摩擦により」(第一頁右欄第四〇行、第四一行)と明記さ
れているように、それがフイラメント間の摩擦によるものであることが開示されて
いる。
 また、原告は、fs70値における七〇度Cこそが、フイラメント切断数との相
関において意義がある旨主張するが、前掲実験報告書の記載事項によれば、任意の
公知の繊維用油剤を周知のポリエステルマルチフイラメントに適用したとき、多く
の場合、たちどころにfs70値が〇・三七以下になつたことから明らかなよう
に、本願発明におけるfs70という表現は表現法としては新規であるかも知れな
いが、その実態は通常の油剤を付与した公知のポリエステルマルチフイラメントを
単に表現を変えて構成要件として規定したにすぎない。
 また、本願発明において限定したfs70値の上限〇・三七に臨界性がないこと
は、第一優先権主張の基礎となる米国特許出願の明細書ではfs70値について一
切言及されておらず、また、第二優先権主張の基礎となる米国特許出願の明細書で
はfs70値は〇・二〇~〇・三四であることが要件とされ、第三優先権主張の基
礎となる英国出願の明細書ではfs70値は〇・四二以下であるべきものとされて
いること、加えて本件出願においても当初fs70値を〇・四二以下と限定してい
たのを〇・三七以下に補正したことなどから明らかであり、さらにfs70値を
〇・三七以下にすることによつて原告主張のような格別の効果を奏するものともい
えないことは、前述の、任意の公知の繊維用油剤を公知のポリエステルマルチフイ
ラメントに適用した時、その多くの場合fs70値が〇・三七以下になつたことか
ら明らかである。
 原告が援用する宣誓供述書(甲第一四号証)には、紡糸速度、冷却条件、油剤の
付着量、延伸倍率及び加工湿度が記載されているのみで、ポリエチレン・テレフタ
レートの表面改質剤含有の有無、油剤の組成、そして仮撚加工においては不可欠の
設定条件である仮撚装置の機種、仮撚数、加工速度、加工張力など当業者が右実験
を追試するに十分な要件が示されていないから実験報告書としては不備なものであ
り、その内容は信用するに値しない。仮に、右実験データを認めるとしても、その
添付資料三は二五度Cにおけるフイラメント間摩擦係数もBFCと関連しているこ
と(fs25値が〇・二二以下の範囲では、BFCが減少する。)を示しており、
fs70値のみがBFCと関連し、fs70値を制御することによつてBFCを減
少させることができるとは認められない。
4(一) 引用例(ハ)には、「最大延伸倍率、自然延伸倍率はいずれも引取り速
度を大きくすると減少することが見いだされた(図5・29)」(第一三〇頁本文
下から第二行、第一行)と記載され、第一三一項の図5・29には、PETの未延
伸糸の「最大および自然延伸倍率と引取り速度の関係」が示されている。ここで最
大延伸倍率とは、これ以上延伸すると糸が切断してしまう延伸倍率であり、自然延
伸倍率とは、これ以下の延伸倍率では糸条に未延伸部分が残り、繊維製品として実
用に供せられない下限の延伸倍率のことであつて、延伸は、必然的に最大延伸倍率
と自然延伸倍率との間の倍率で行われることになる。
 引用例(ハ)の図5・29から明らかなように、紡糸速度の増大に従つて、延伸
可能な延伸倍率は小さくなり、本願発明のごとく紡糸速度が二七四三m/分のとき
の最大延伸倍率は約二倍になる。このように、紡糸速度が決まれば、延伸可能な延
伸倍率は自動的に決まつてくるものである。なお、審決は、引用例(ハ)の図5・
29に二七四三m/分(三〇〇〇ヤード/分)の引取り速度のときの七〇度Cの自
然延伸倍率が約二倍であることが記載されていると認定しているが、この自然延伸
倍率は最大延伸倍率の誤りであり、このことは図5・29から明らかである。
したがつて、引用例(ハ)に記載されている事項、特に図5・29から高速紡糸の
未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦する際の延伸倍率を
一・三倍~二・〇倍と選定することは当業者が容易に行えることである。
 原告は、引用例(ハ)の図5・29は、学術的研究実験の結果を示すものであ
り、また、図5・29には撚糸のフアクターが含まれていないから、本願発明に規
定する延伸倍率の限定を何ら示唆するものでない旨主張するが、前者の延伸倍率が
どの程度本願発明と相違するから本願発明の延伸倍率を示唆しないとするのか、ま
た、撚糸のフアクターが含まれると、
延伸倍率がどの程度影響されるため本願発明の延伸倍率を示唆しないとするのか、
その具体的理由について何も述べていない以上、原告の右主張は根拠がない。
(二) 本願発明に規定する特定の高速紡糸の未延伸糸が従来の未延伸糸に比べ耐
熱性に優れていることは公知である。すなわち、耐熱性は、分子配向の進んだPE
Tそれ自体の性質であり、また、延伸糸や高速紡糸の未延伸糸は、分子配向が従来
の未延伸糸に比べてより進んでいることは前掲「合成繊維」第三二四頁にも明らか
にされている。また、前掲米国特許第三、〇九一、五一〇号明細書の第四欄第四六
行ないし第四八行には、高速紡糸の未延伸糸を二〇〇度C又はそれ以上の温度で熱
処理することが記載されており、該未延伸糸は耐熱性があることが示されている。
また、乙第一二号証(英国特許第一、二〇七、八一一号明細書第三頁第七一、第七
二行)及び乙第一三号証(ドイツ連邦共和国特許出願公開第一九一五八二一号明細
書第二二頁第六行ないし第八行)には、それぞれポリエステル未延伸糸の同時的ド
ロー・トイスト・テクスチヤ加工において二〇〇度Cより高い温度で撚りをセツト
する例が示されているから、本願発明のごとく撚りセツト温度を二〇〇度Cより高
い温度に設定することに格別困難はない。
5(一) 原告は、本願発明の意図する特定の目的のために各公知例の記載のうち
のどの具体的数値が有効であるかについての教示が存することを確定しないで、本
願発明の数値条件をもつて、各公知例の記載により公知であり、あるいは当業者が
容易に選択できるものであると判断した審決には理由不備の違法があると主張する
が、審決は、本願発明の目的、引取り速度、結晶化度、フイラメント間摩擦係数、
延伸倍率及びセツト温度等の数値・要件を含む構成及び作用効果のすべてを十分勘
案し、各数値要件に言及した上で、「本願発明は、引用例(イ)、(ロ)、(ハ)
及び(ニ)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。」と判断したも
のであり、審決には右の点に関する理由不備の違法はない。
(二)また、原告は、審決は原告の主張する多種多様の効果がどのような理由で予
測されるべきであつたかの認定を欠いているから、審決には理由不備の違法がある
と主張するが、本願発明の奏する作用効果が当業者の当然予測されるところの作用
効果にすぎないことは、前記2(二)において述べたとおりであり、審決において
このような作用効果について個々にその根拠を具体的に摘示する必要はなく、仮に
本願発明の効果の予測可能性についての審決の摘示がやや抽象的であるとしても、
これをもつて審決に理由不備の違法があるとはいえない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)、三(審
決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 本件出願は原告がその主張のような優先権を主張してなした原出願の分割出願
であること、原出願の発明は、(a) PETを、(b) 少くとも約三〇〇〇ヤ
ード/分(約二七四三メータ/分)の引取り速度で適度の冷却雰囲気中に溶融紡糸
して、(c) 結晶化度が三〇%より低く、(d) 配向した未延伸のマルチフイ
ラメント供給糸を形成することから構成される第一工程と、(e) 右配向した未
延伸供給糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦すること、(f) 
右同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程において一・三倍~二・〇倍の延伸
倍率で延伸すること、(g) テクスチヤ化工程で供給糸に与えられた撚りを二〇
〇度Cより高い温度のヒーターでセツトすることから構成される第二工程から成る
テクスチヤヤーンの製法を要旨とするものであること、本願発明は、原出願の発明
の第一工程において、(h) PETの紡糸に先立つて表面改質剤を該ポリエステ
ル中に含有せしめるか、及び/又は該紡糸後仕上げ剤を該紡出糸に塗布することに
より、該供給糸の七〇度Cで測定されたフイラメント摩擦係数、すなわちfs70
値を〇・三七以下とすることを要件として付加した構成要件(a)ないし(d)及
び(h)から構成される第一工程と、構成要件(e)ないし(g)から構成される
第二工程から成るテクスチヤヤーンの製法を要旨とするものであることは、当事者
間に争いがない。
 右の事実によれば、本願発明は、原出願の発明の構成要件(a)ないし(g)
に、他に構成要件(h)を結合させたものであり、各構成要件は一体不可分のもの
として本願発明を成り立たせているものと認められる。
 原告は、本願発明の前記構成要件のうち、(a)ないし(g)の要件について
は、第一優先権主張日が、また、要件(h)のうち、fs70の値が〇・二〇~
〇・三四の範囲については第二優先権主張日が、〇・三七以下の特定値のうち右範
囲以外の範囲については第三優先権主張日がそれぞれ適用されるべきである旨主張
する。
 本願発明の前記構成要件のうち、(a)ないし(g)の要件は、第一優先権主張
の根拠とされた米国特許出願(出願番号第一七四、四三〇号)の明細書に記載さ
れ、(h)の要件のうちfs70の値が〇・二〇~〇・三四の範囲は第二優先権主
張の基礎とされた米国特許出願(出願番号第二三五、三〇九号)の明細書に記載さ
れ、(h)の要件全部が第三優先権主張の基礎とされた英国特許出願(出願番号第
三五九五〇/一九七二号)の明細書に記載されていることは、当事者間に争いがな
い(もつとも、原告は、要件(h)は、第一優先権主張の基礎とされた米国特許出
願の明細書に、潤滑剤の使用について、「従来の仮撚りテクスチヤ化法におけると
同様に、ドロー・テクスチヤ化操作を容易にするために潤滑性仕上げ剤を供給糸に
塗布すべきである。」と記載されていることを基礎として、これに改良を加えたも
のである旨主張する。右主張が原告の優先権に関する主張の全体の中で占める意義
はやや明瞭を欠くが、ポリエステルの溶融紡糸に際し潤滑性仕上げ剤を供給糸に塗
布することは、後記三認定のとおり、第一優先権主張日当時、当業者が通常用いた
技術的手段であり、それが右明細書に記載されているにすぎず、右記載事項は要件
(h)の具体的内容を記載するものではないから、原告の右主張は理由がな
い。)。
 しかしながら、本願発明は、原出願の発明と同一の、第一優先権主張の基礎とさ
れた米国特許出願に係る発明の構成要件(a)ないし(g)により構成された部分
に他の構成要件(h)を結合させたものであり、各構成要件は一体不可分のものと
して本願発明を成り立たせているものであるから、本願発明を(a)ないし(g)
の要件により構成された部分と、(h)の要件により構成された部分に分離して、
各構成部分にそれぞれ対応する第一国出願に基づく優先権を主張することを容認す
ることはできない。
 原告がその主張の根拠として援用するパリ条約第四条F項は、「いずれの同盟国
も、特許出願人が二以上の優先権(二以上の国においてされた出願に基づくものを
含む。)を主張することを理由として、又は優先権を主張して行つた特許出願が優
先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかつた構成部分を含むことを理由とし
て、当該優先権を否認し、又は当該特許出願について拒絶の処分をすることができ
ない。ただし、当該同盟国の法令上発明の単一性がある場合に限る。優先権主張の
基礎となる出願に含まれていなかつた構成部分については、通常の条件に従い、後
の出願が優先権を生じさせる。」旨規定し、発明の単一性を要件として、いわゆる
複合優先を認め、同一国又は二以上の国に対する二以上の出願に基づく優先権の利
益を享受できるとするとともに、いわゆる部分優先を認め、第二国への特許出願
に、優先権主張の基礎となる出願に含まれなかつた構成部分を含む場合において
も、優先権主張の基礎となる出願に含まれていた部分については優先権の利益を享
受できるとし(前段)、また、第二国への特許出願に含まれた構成部分で、優先権
主張の基礎となる出願に含まれなかつたものについても、第二国への特許出願の後
になされる出願に当たつては、優先権を主張することができる(後段)ことを明ら
かにしたものであるが、この規定が原告の主張を完全に理由づけるものとは考えら
れない。すなわち、パリ条約第四条所定の優先権は第一国出願の対象である発明に
ついて発生するものであるから、優先権の利益を享受すべき第二国出願と第一国出
願とは全部的に同一の対象に係るものであることを本則とするが、同条F項は特許
出願について特に規定を設け、前記のようないわゆる複合優先及び部分優先を認め
たものである。しかしながら、まず複合優先の場合、二以上の優先権主張を伴う我
が国への特許出願に係る発明がそれぞれの第一国出願に係る発明に基づく事項を含
んでいても、我が国への特許出願に係る発明がこれらの事項を一体不可分のものと
して結合することを要旨とするものであるときは、この点を要旨としない第一国出
願に基づく優先権の主張を容認することは、単一の時点の技術水準に基づき一体的
にのみ特許要件の判断を受けるべき当該発明の性質に背馳し、許されないし、ま
た、部分優先の場合も、我が国への特許出願に係る発明が第一国出願に含まれてい
る構成部分(A)に他の構成要件ないし構成部分(B)(これは第一国出願に含ま
れていない。)を一体不可分のものとして結合するものであるときは、前同様の理
由から構成部分(A)について優先権の主張を容認すべきでない。ただ、我が国へ
の特許出願に係る発明のうち第一国出願に含まれていない構成部分(B)と第一国
出願に含まれている構成部分(A)の両者がそれぞれ独立して発明を構成するとき
に限り、第一国出腰に含まれている構成部分(A)につき優先権の主張を容認する
ことができるものと解するのが相当である。
 これを本件出願についてみると、本願発明の構成要件のうち、(a)ないし
(g)の要件は、第一優先権主張の基礎とされた米国特許出願の明細書に記載さ
れ、(h)の要件のうち、fs70の値が〇・二〇~〇・三四の範囲が第二優先権
主張の基礎とされた米国特許出願の明細書に記載され、(h)の要件全部が第三優
先権主張の基礎とされた英国特許出願の明細書に記載されているところ、本願発明
は、構成要件(a)ないし(g)により構成された部分に他の構成要件(h)を一
体不可分のものとして結合させたものであること前述のとおりであり、構成要件
(a)ないし(g)及び(h)が完全に含まれるに至つたのは第三優先権主張の基
礎とされた英国特許出願に係る発明であることは当事者間に争いがないから、本願
発明の結合された構成要件のうちから要件(a)ないし(g)を分離し、右要件か
ら構成される部分につき複合優先権を主張するものである第一優先権の主張は採用
できない。次に第二優先権の主張についてみると、第二優先権の主張は、複合優先
権の主張である第三優先権の主張の対象である構成要件(h)のうちfs70の値
が〇・二〇~〇・三四の範囲について部分優先権を主張する趣旨のものと解される
ところ、構成要件(h)の規定するfs70の特定値〇・三七以下には、第二優先
権主張の基礎とされた米国特許出願に係る発明に含まれる〇・二〇~〇・三四の範
囲とその他の範囲とを含んでいるものであり、かつfs70の値が〇・二〇~〇・
三四の範囲と(h)中のその他の範囲の両者はそれぞれ独立して発明を構成するも
のであることは明らかであるから、第三優先権主張の対象とされた構成要件(h)
のうち、fs70の値が〇・二〇~〇・三四の範囲については第二優先権主張日を
基準として判断すべきである。
 結局、本件出願における優先権の主張は、本願発明の構成要件(h)のうちfs
70の値が〇・二〇~〇・三四の範囲については、第二優先権主張日を、その余の
要件については第三優先権主張日を基準として判断すべきものとする限度において
容認することができる。
 しかるに、審決が、アメリカ合衆国へ出願した当初の明細書のいずれにも、本願
発明の構成要件の一部であるfs70の値が〇・三七以下である点が記載されてい
ないとして、本願発明について第二優先権の適用を認めなかつたのは、優先権の適
用に関する判断を誤つたものというべきであるが、成立に争いのない甲第一ないし
第四号証によれば、審決が本願を拒絶すべきものとした判断の資料である引用例
(イ)ないし(ニ)は、すべて第一優先権主張日前に頒布された刊行物であると認
められるから、審決の右判断の誤りは審決の結論に何ら影響するものでないことが
明らかである。
(以下判決理由においては、本願発明に係る方法のうちfs70の値〇・二〇~
〇・三四の範囲については第二優先権主張日を、その余の要件については第三優先
権主張日をそれぞれ基準として特許要件を判断すべきであるとの趣旨で「本件優先
権主張日」という一括した表現を用いる。ただし、別段の表現を用いることを要す
る場合を除く。)。
2 そこで、まず、相違点(一)に対する判断の誤りをいう主張について検討す
る。
成立に争いのない甲第五号証、第六号証の一ないし三によれば、本願発明は、ドロ
ー・トイスト・テクスチヤ化されたポリエステルヤーンの製造の改良法に関するも
のであること(本願明細書第二頁第一〇行ないし末行)、衣料用のポリエステルヤ
ーンを製造する通常の方法は、PETを溶融紡糸してフイラメントとなし、そのフ
イラメントを冷却し、延伸して所望の機械的性質を付与する工程から成つている
が、製品の嵩高さと良好な触感を与えるため、通常捲縮工程が付加され、その場合
ヤーンをトイスト・テクスチヤ化する方法(右方法においては、通常ヤーンは仮撚
りスピンドルでトイスト((仮撚り))され、トイストされた形態でヒートセツト
され、次いで撚り戻しが行われる。)がよく用いられること(同第三頁第一行ない
し第四頁第四行)、フイラメントの生産速度の最大値は一般に材料である溶融ポリ
マーが紡糸口金から送り出され得る速度と、押し出されたフイラメントがパツケー
ジに巻き取られる速度とによつて制限をうける(同第四頁第八行ないし第一三行)
ので、この速度制限の影響を軽減し、全体としての生産性を増加せしめるために、
従来、前述のフイラメントの延伸を仮撚りテクスチヤ化工程と結合させるもの、す
なわち同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程が提案されているが、トイスト
されたヤーンを十分にヒートセツトするのに必要なヒーター温度ではヤーン過熱さ
れ、切断するか溶融してしまうため、機械の糸がけを行うことが困難であり、ま
た、糸がけが可能であつたとしても、十分な延伸のために必要な張力下では、通常
著しいフイラメントの切断が起こるという欠点があり、さらに、あらかじめ調製し
た未延伸又は部分的に延伸したポリエステルヤーンを使用し、この方法によつて製
造した製品は、通常の十分に延伸したポリエステルヤーンをテクスチヤ化する時に
達成される捲縮の発現と染色の均一性に比べて品質が劣るという欠点があつたこと
(本願明細書第七頁第三行ないし第九頁第五行)、本願発明の発明者は、このよう
な知見に基づき、エチレンテレフタレート重合体又は共重合体を三〇〇〇ヤード/
分(二七四三m/分)以上の引取り速度で冷却雰囲気中に溶融紡糸して作つた三〇
%より少ない結晶化度を有する配向したポリエステルフイラメントヤーンを供給糸
として使用するならば、この供給糸は未延伸のままで従来技術における糸がけの困
難性や貯蔵中の糸の劣化等の問題を克服し二〇〇度C以上のヒートセツト温度に耐
え、仮撚りテクスチヤ加工と延伸を同時に施す同時的ドロー・トイスト・テクスチ
ヤリングを行うことができ、その際供給糸のfs70の値が〇・三七以下になるよ
うに制御するならば、テクスチヤリング工程における破断フイラメント数を著しく
減少させ得ることを見いだし、また、右工程における延伸倍率は一・三倍~二・〇
倍とすべきことを見いだし(昭和五七年五月一二日付手続補正書第二頁第二行ない
し第三頁第一二行)、本願発明のような構成を採択したものであることが認められ
る(なお、本願発明にいう「テクスチヤヤーン」について、原告が「仮撚嵩高加工
糸(トイスト・テクスチヤヤーン)といつたり、被告が「捲縮加工糸(テクスチヤ
ヤーン)」といつたりして呼称が一致しないが、実質的に相違がない。理由中では
別段の表示を必要とする場合を除き「テクスチヤヤーン」の語を用いる。)
 ところで、引用例(イ)には、通常の紡糸速度でPETを溶融紡糸した未延伸の
ポリエステルマルチフイラメント供給糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化
工程に賦してテクスチヤヤーンを製造する方法が開示されていること、引用例
(ロ)には、紡糸速度が三〇〇〇ヤード/分と三五〇〇ヤード/分の時に密度がそ
れぞれ一・三四四〇と一・三四八四である糸が形成されることが記載されている
が、引用例(ロ)にいう紡糸速度は本願発明の引取り速度に相当し、密度一・三四
四〇と一・三四八四は本願発明における結晶化度に換算するとそれぞれ一〇・二%
と一三・七%に相当すること、及び本願発明は高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロ
ー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦するに当たり、供給糸は何も処理を施さず、
そのまま供給されるものであることは、当事者間に争いがない。
 そして、供給糸を形成するに際し、適度の冷却雰囲気中にPETを溶融紡糸する
ことが、ごく普通に行われている周知の技術手段であることは、前記認定の本願明
細書の記載事項から明らかであり、また、高速紡糸の未延伸糸が配向したものであ
ることは、その糸が当然有する物性であることは技術的に自明のことである。
 したがつて、審決が本願発明と引用例(イ)記載の方法とを対比して、相違点
(一)とした点、すなわち、供給糸の形成手段に関して、本願発明は、少なくとも
約三〇〇〇ヤード/分の引取り速度で適度の冷却雰囲気中に溶融紡糸して、結晶化
度が三〇%より低い配向した状態に形成するのに対し、引用例(イ)記載の形成方
法は明らかでないとの点についてした判断の当否を検討するに当たつては、本願発
明の方法において採用した技術的手段のうち技術的に自明な事項(供給糸の配向
性)及び周知事項(冷却雰囲気中の処理)を除くと、引用例(イ)記載の方法にお
いて、従来の未延伸糸に代えて引用例(ロ)記載の糸を使用することが当業者にお
いて容易に選択できるところであるか、また、この構成を採択したことによる作用
効果が当業者の当然予測し得るところであるかということが中心的な問題となるの
である。
(一) まず、容易推考性について判断する。
 前掲甲第一号証によれば、引用例(イ)の特許請求の範囲には、「繊糸の延伸は
供給ロールと延伸ロールの前に於ける仮撚糸帯域との間に位置される抑止帯域に位
置し、繊糸は抑止帯域と仮撚糸帯域との間に介在せられる加熱帯域に於て同時に晶
化し且撚り固定し、その間に繊糸は少くとも二〇〇%延伸され且加熱固定仮り撚り
を結晶化した繊糸からそれが巻かれる前に除却することを特徴とするポリエチレ
ン・テレフタレートの潜在的に捲縮可能な連続繊糸から造られる潜在的に嵩張つた
糸の連続製造法」(第二頁右欄第九行ないし第一六行)と記載され、また、発明の
詳細な説明には、「従来は繊糸の捲縮(「捲捲縮」は「捲縮」の誤記と認める。)
は唯延伸された糸のみについて行われたものであるが、撚糸工程と繊糸の延伸とを
組合せることにより非常に安定な捲縮を得るのみでなく、装置及び生産費の節約を
得れるのである」(同頁左欄第六行ないし第九行)と記載されていることが認めら
れるから、引用例(イ)にはPETの未延伸糸高時的ドロー・トイスト・テクスチ
ヤ加工することは、非常に安定な捲縮を得るのみでなく、装置及び生産費を節約し
て捲縮糸を得られることが開示されている。
 また、前掲甲第二号証によれば、引用例(ロ)は、自発伸長可能なPETの発明
に関し、加熱すると、収縮するのではなくて長手方向に自発的に長さが増大すると
いう特異な性質を有する繊維を開示するものであるが、審決が引用例(ロ)の記載
から引用したのは、その実施例一〇の表Ⅶに比較試料番号x20、及びx21とし
て記載されている技術事項であつて、紡糸速度三、〇〇〇ヤード/分のものの密度
が一・三四四〇(x20)、紡糸速度三、五〇〇ヤード/分のものの密度が一・三
四八四(x21)であることを開示する部分であり(右紡糸速度は本願発明の引取
り速度に相当し、また、右密度を本願発明における結晶化度に換算するとそれぞれ
一〇・二%と一三・七%に相当するものであることは前述した。)、同表記載の糸
は、引用例(ロ)記載の発明の範囲外のものであつて、自発伸長度がいずれも負の
値となつており、引用例(ロ)記載の発明の特徴とする自発伸長性よりもむしろ収
縮を示していることが認められるから、本願発明の容易推考性を判断するについて
引用例(ロ)の実施例一〇の表Ⅶの記載を資料とすることは、引用例(ロ)記載の
発明そのものが自発伸長性という特異な性質を有する繊維に係るものであるからと
いつて、何ら妨げられないものというべきである。
 原告は、引用例(ロ)記載のPETの糸は、前記のような特異な性質を有するも
のであつて、その製造方法も特殊であり、一方引用例(イ)には、従来の未延伸糸
の使用しか開示してなく、しかも本来その供給糸及びPETの未延伸糸の糸がけの
困難性については何らの関心も示しておらず、また、引用例(イ)に開示されてい
るような従来の未延伸糸による同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工は、貯蔵
に伴う劣化及び糸がけの困難性のために工業的に不適当なものとして多年にわたつ
て実現されなかつたものであるから、引用例(イ)記載の方法において、従来の未
延伸糸に代えて引用例(ロ)記載の糸を供給糸として同時的ドロー・トイスト・テ
クスチヤ化工程に賦することによりテクスチヤヤーンを得ることは当業者にとつて
容易に選択し得るところではない旨主張する。
 しかしながら、引用例(イ)がPETの未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テ
クスチヤ加工することが有用であるとの技術的思想を開示し、引用例(ロ)が高速
紡糸のPETの未延伸糸を開示している以上、両者を紐み合わせて本願発明に規定
する高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦するこ
とが当業者にとつて容易であるかは、本件優先権主張日当時における当該工程につ
いての技術専門家の平均的技術水準に基づいて判断すべきであつて、原告主張の事
実(なお、従来の未延伸糸による同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工が工業
的に不適当なものとして多年にわたつて実現されなかつたことを認めるに足りる証
拠はない。)から直ちに両者の組合せが当業者にとつて困難であるとすることはで
きない。
 そこで、次に、右技術水準がどのようなものであつたかについて検討する。
 成立に争いのない乙第六号証、第七号証の一ないし三によれば、一九七一年(昭
和四六年)六月二二日より同年七月一日まで、フランス国パリ市においてITMA
71が開催され、我が国からも多数の当業者がこの見本市を視察したが、同会場に
おいてドイツ連邦共和国レムシヤイト レネツプ市所在のバーマーク社(正式名称
バーマーク バーマー マシンネンフアブリツク株式会社)は、SW4S SW4
R高速巻取装置及びFK5C FK5S仮撚加工装置を展示するとともに、この装
置についての資料として「SW4S SW4R紡糸延伸装置」のカタログTex3
2(乙第七号証の一)及び「FX5C FK5S自動捲宿装置」のカタログTex
30(乙第七号証の二)を不特定多数の参加者に頒布したことが認められ、当業者
は、このカタログTex32及びTex30から次のような技術内容を理解するこ
とができる。
 前掲乙第七号証の一によれば、カタログTex32には、合成繊維の製造におい
て紡糸と延伸を一つの機械で連続プロセスとして行う紡糸延伸法を実現するための
必要条件の一つは、非連続法の紡糸巻取装置に比べてはるかに高速の巻取装置を開
発することであるが、「巻取り速度が高くなれば必然的に、トラバース速度が高く
なるという問題が生じる。バーマーク社は、長年にわたつてこの問題の解決に携つ
てきたが、その一つの回答としてSW4―シリーズの紡糸延伸装置と巻取ユニツト
を発表したが、この二つは、紡糸延伸法に要求される製品の高い生産率、性能、品
質という三つの条件をいずれも満している。私どもの選んだこの考え方は、完全又
は部分的な配向を持つ糸を延伸紡糸するためにも適用できる。このような汎用性を
備えていることが、新しい化学繊維に対してSW4Sを使用することを容易化して
いる。」(第一頁左欄第三一行ないし右欄第一一行)と記載され、このカタログT
ex32記載のものは、紡糸延伸装置とこれに使用する高速巻取装置に関するもの
であることが示されているが、カタログTex32には、右に摘記したとおり、
「私どもの選んだこの考え方は、完全又は部分的な配向を持つ糸を延伸紡糸(St
reckspinnen)するためにも適用できる」(第一頁右欄第八行ないし第
一〇行)と記載され、さらに第三頁に、「紡糸延伸装置の上部構造」というタイト
ルの下に、A、B、C、Dの各図が示されているが、A、B、Cの各図記載の装置
は、各図に「紡糸延伸」と記載され、それぞれ延伸のための二個のゴデッドローラ
が図示されているのに対し、D図記載の装置は、「延伸紡糸」と記載され、かつD
図に引取りゴデツドローラを一個しか有しないものが図示されていることが認めら
れ、右記載によれば、A、B、Cの各図記載の装置は紡糸延伸装置であることは明
ちかであるが、D図記載の装置は延伸工程が存在しないものであつて、しかも、そ
れが高速巻取装置と連動するものであることは疑いのないところであることからす
れば、D図記載の装置は高速紡糸に関する装置であると解されるのである(したが
つて、カタログTex32において「延伸紡糸」とは高速紡糸を意味するものと認
められる。)。そして、前掲乙第七号証の一によれば、カタログTex32の第四
頁の表にはSW4S及びSW4Rの各タイプの最高巻取り速度は、三〇〇〇~四〇
〇〇m/分であることが示されていることが認められるから、結局、カタログTe
x32は、バーマーク社が開発した巻取ユニツトSW4Sを、延伸紡糸、すなわち
高速紡糸方法に適用することを開示しているものというべきであり、この方法にお
いては巻取速度三〇〇〇~四〇〇〇m/分で高速紡糸するものと理解される。
 原告は、乙第七号証の一に記載されている技術は、従来のカツプルド紡糸-延伸
プロセスによる延伸フイラメントの製造に適する紡糸-延伸装置と高速巻取機の改
良に関するものであつて、本願発明の技術とは相違する旨主張する。
しかしながら、前掲乙第七号証の一によれば、カタログTex32は、カツプルド
紡糸-延伸装置を一つの主題にするものであつても、同時に、前記認定のとおり高
速巻取ユニツトSW4Sを利用して四〇〇〇m/分程度で巻取りを行う高速度紡糸
装置をも開示するものと認められ、また、成立に争いのない乙第一四号証(「ドロ
ー・テクスチアード・ヤーン・テクノロジー」モンサント テクスタイルカンパニ
ー九七四年発行)によれば、本件優先権主張日以前の年度である一九七一年には、
アメリカ合衆国の仮撚加工業者及び繊維製造業者によるポリエステル捲縮加工糸の
消費実績は五億五八〇〇万ポンドに達していること(第五頁表5)が認められるよ
うに、ポリエステルは捲縮加工糸用の素材として代表的なものであること、成立に
争いのない甲第一五号証(前同)によれば、「一九七〇年頃まで、セット・テクス
チヤード・ポリエステルヤーンの製造において用いられる主なルートは、第九表の
方法1及び方法2に記載されたバツチ方法であつた。」(第八頁左欄第一九行ない
し第二二行)、「行程の経済性ならびに糸の品質を改善するのに熱心な一部の繊維
製造業者(一九六〇年代)は、第九表の方法2に記載されるスピン・ドロー(紡糸
-延伸)法に切り変え始めた。」(同頁左欄第三四行ないし右欄第二行)と記載さ
れていることが認められるから、テクスチヤードヤーンの製造において」紡糸延伸
したPETを用いることは一九七〇年当時広く行われていたこと等に鑑みれば、前
記カタログTex32にはPETについて触れるところがないとしても、PETを
高速巻取ユニツトSW4Sを利用した高速紡糸装置を使用して紡糸延伸あるいは延
伸紡糸(高速紡糸)することが開示されているというべきであつて、原告の前記主
張は採用できない。
 さらに、前掲乙第七号証の一によれば、カタログTex32に記載された装置
は、「バーマーク杜紡糸延伸及び延伸紡糸装置と撚糸ライン及び仮撚加工装置」
(第二頁)と記載され、紡糸延伸あるいは延伸紡糸ユニツトからの糸を仮撚加工装
置あるいはコード撚糸機に供給するものであること、第一〇頁には、「上図は、S
W4Sで得られた糸をバーマーク社の仮撚加工装置FK5Cにかけていることを示
し、下の写真は、バーマーク社のダブル撚糸ウイスパーツイスターHD2へのSW
4S糸を供給するときの前部を示す。」(第一〇頁第一七行ないし第二一行)と記
載されていることが認められ、前掲乙第七号証の二によれば、カタログTex30
には、FK5CFK5S自動捲縮装置の特徴として、「糸条保管部(1)は、スチ
ール製であり、装置の側面に配置されている。その糸状保管部には、一スピンドル
当たり、二つのドローツイスタ パツケージ又は円筒形ドローワインダーパツケー
ジ又は紡糸延伸糸条又は延伸紡糸によつて得られる糸条(draw-spinpa
ckages)を各々収容することができ、それらは調節自在な旋回マンドレル
(2)によつてセットされる。」(第六頁第一行ないし第六行。なお、乙第七号証
の二は表紙を第一頁とする。)と記載されており、これらの記載に照らしてみて
も、紡糸延伸によつて得られた糸条と並んで延伸紡糸で得られた糸条も仮撚加工装
置FK5Cへの供給糸として用いられることが認められる。
 原告は、乙第七号証の一には、本願発明に規定された高速紡糸によつて得られた
PETの高配向未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工をすることに
ついては何らの記載も示唆も存しないとし、このことは、甲第二四号証ないし第二
七号証の記載事項から明らかである旨主張する。
 しかしながら、成立に争いのない甲第二四号証(英国特許第一、三七五、一五一
号明細書)によれば、右明細書は、原告主張のとおり、バーマーク社が一九七二年
二月一日ドイツ連邦共和国にした特許出願に基づく優先権を主張してイギリス国に
した特許出願に係るものであり、右明細書には、特許請求の範囲1として、「ポリ
エステル組成物を溶融し、ノズルを通して押出し、このようにして生成したフイラ
メントのストランドを三〇〇〇m/分以上の引取り速度で予備ドローイング操作に
付し、そして冷却し、次いで一対一・八ないし一対一・三のドロー比で残余のドロ
ーイングを行い、このドローイングの期間中フイラメントは一つだけの加熱ユニッ
トによつて加熱にさらされ、そして得られるドローされたフイラメントをパツケー
ジすることより成る、ポリエステル組成物からフイラメントを製造するための溶融
紡糸及びドローイング方法」(第三頁第九〇行ないし第一〇三行)と記載されてい
ることが認められるが、右記載のものはポリエステルの紡糸と延伸とを逐次的に単
一の機械で中断することなく連続操業化し得る技術であつて、カツプルド紡糸延伸
方法の一種であり、バーマーク社が一九七二年になつて右発明について初めて特許
出願したからといつて、これとは別個の技術である高速紡糸の未延伸糸を仮撚加工
することが一九七一年に頒布された前記カタログTex32及び30において認
識、開示されていなかつたと断定することはできない。また、成立に争いのない甲
第二五号証(バーマーク社「SW4S SW4R紡糸延伸装置」のカタログTex
32/2)、第二六号証(同社「インフオーメイシヨンサービス」一九七一年五月
号)、第二七号証(同一九七三年七月号)によつても、バーマーク社の前記カタロ
グTex32とTex32/2(原告の主張によれば一九七三年版)との間でSW
4S SW4Rの装置の構造に格別の差異があるとは認められず、かえつてカタロ
グTex32/2の「四〇〇〇m/分までの引取り速度に対してSW4Sシリーズ
のバーマーク高速引取りヘツドはこれにおいて決定的な役割を演じる。完全にドロ
ーされたフイラメントは紡糸ドローイング方法による連続プロセスにおいて製造さ
れるが、高速紡糸は、紡糸速度の増加に伴なう分子配向の増加、したがつて部分ド
ローイングの増加を利用する。この方法はその後のドローテクスチヤ化にとつて特
に関心を集めている。SW4Sシリーズのバーマーク高速引取りヘツドは大きいプ
ラントにおいて両プロセスに対して数千の引取位置に関して成功裏に使用されてい
る。」(第一頁中欄第八行ないし第二二行)との記載内容は、前記カタログTex
32について認定した、紡糸延伸法に使用するために開発した高速巻取ユニツトを
紡糸延伸法と同様に高速紡糸法にも使用できるという内容と一致していることが認
められ、また、「インフオーメイシヨンサービス」の一九七一年版と一九七三年版
を対比しても、高速紡糸に関する記載の具体性に差異があるにすぎないものと認め
られ、これらの書証によつて原告の前記主張を裏付けることはできない。
 また、原告は、乙第七号証の二には、乙第七号証の一の延伸紡糸した糸を同時的
ドロー・トイスト・テクスチヤ化することは何らの記載も示唆もなく、また、それ
らの紡糸あるいは加工技術をポリエステルに適用するということは何ら教示されて
いない旨主張する。
 前掲乙第七号証の二によれば、カタログTex30には、同時的ドロー・トイス
ト・テクスチヤ加工についての具体的記載は認められない。しかしながら、前掲乙
第一四号証によれば、前記「ドロー・テクスチヤード・ヤーンテクノロジー」に
は、第一二七頁に、「バーマークFK5C及びFK5CS延伸捲縮加工機」という
表題の下に、「題記二つの機械は、高度な設計思想を盛込んだ二一六錘のダブルヒ
ーター型延伸同時捲縮加工機で、FK5CS機にはある小さな改善、改良や改革を
幾つか取入れてはいるものの、両機は実質上同一である。両機が登場したのは一九
七一年で、幾つかの技術革新の成果が取り入れられており」(左欄第一行ないし第
一〇行)と記載されていることが認められるから、当業者であるモンサント社は一
九七一年に登場したFK5Cを延伸同時捲縮加工機と認めていることが明らかであ
り、前掲乙第七号証の二(第二頁第一四行ないし第二〇行)によれば、バーマーク
社の捲縮加工機FK4CはFK5Cの改良前の機種であると認められるが、前掲甲
第一五号証(第一四頁第一〇表、特に「機械」欄第四行)によれば、このFK4C
ですら、同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工が可能な機種であると解されて
いることが認められ、さらに成立に争いのない乙第一五号証(【F】の宣誓供述
書)によれば、合成繊維の技術専門家である【F】は、ドイツ連邦共和国エストリ
ンゲン市所在のⅠCIヨーロツパフアイバース有限会社の工場で、同工場のプロセ
ス開発部門の統括として、一九七〇年より紡糸速度九〇〇m/分前後で紡糸したP
ETの未延伸糸を用いて、「スラツグCS12」、「バーマークFK4C」の両仮
撚加工装置により、ヒーター温度一八〇~二〇〇度C、延伸倍率三倍以上の条件で
同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工を行い、同会社はこれをテリレン五五三
型として市販していたことが認められるから、前記FK4Cの改良機種であるFK
5Cが同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工が可能な構造を有することは明ら
かである。
 原告は、甲第二八号証(「モダーン・テクスタル誌」一九七二年七月号)に、
「FK5CS」には、延伸仮撚加工装置と表示されているのに、「FK5C」に
は、この表示がない旨主張するが、右表示がないというだけで、延伸仮撚加工装置
でないといえないことは、前記認定の諸事実から明らかである。
 そして、成立に争いのない甲第三五号証(【G】の宣誓供述書)の記載事項は、
前掲各書証に照らし措信し難く、その他の甲号各証を検討しても、カタログTex
32及びTex30から前記認定の技術内容が理解されることを左右するに足りる
証拠はない。
 前記認定事実によれば、PETをSW4Sの装置を使用し三〇〇〇~四〇〇〇m
/分程度で高速紡糸して得た糸を、FK5Cの装置を使用して仮撚加工すること
は、一九七一年六月二二日から同年七月一日までフランス国パリ市において開催さ
れたITMA,71おいて、前記カタログTex32及び30が頒布され、右SW
4S及びFK5Cと称される装置が公開されたことにより広く当業者に知られると
ころとなつたものというべきである。
 これに加えて、成立に争いのない乙第五号証(「テクスタル・インダストリー
ズ」一九七〇年三月号)によれば、【H】著「ヨーロツパにおける捲縮加工糸」と
題する論文中には、フイラメントヤーンの延伸及び仮撚加工の問題について、「加
工業者による延伸あるいはその逆についての討論は最終的に一つのもつともな議論
により粉砕されたようであり、それは未延伸糸をある一定期間以上放置すると結晶
化からの劣化という深刻な危険性があるというものであつた。しかし、おそらく、
この問題は、高速紡糸技術が出現すれば適当な延伸が未延伸糸に生じるように紡糸
され、次いで延伸フレームに移送するという段階に究極的に到達し、かくして製造
系列に自然の分離を生じる。もしこうなれば、フイラメントヤーン加工業者から未
延伸糸を用いるシステムを求めて再びかん高い叫び声が上がることは疑いない」
(第一二七頁中欄第一二行ないし第三八行)と記載されていることが認められるか
ら、一九七〇年三月当時フイラメントヤーン加工業者においても高速紡糸した未延
伸糸が得られればそれを捲縮加工したいと考えており、その当時ポリエステル系は
捲縮加工に普通に使用されていたことは前述のとおりであるから、このフイラメン
トヤーン加工業者が捲縮加工したいと考えていた高速紡糸の未延伸糸には、当然ポ
リエステルのものも含まれていると解するのが相当である。
 なお、原告は、乙第五号証、第七号証の一、二は、本願に対する拒絶理由通知書
では引用されたが、審決では本願を拒絶に導く引用例として不適当なものとして採
用されなかつたものである旨主張するが、引用例(イ)及び(ロ)に基づく本願発
明の容易推考性を判断するについて、これらの書証を本件優先権主張日当時の技術
水準の認定資料とすることは、審決がこれらの書証を引用例としなかつた理由如何
にかかわらず何ら支障のないことである。
 以上の認定事実によれば、本件優先権主張日当時、PETを高速紡糸して得た未
延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工に使用するという技術的思想は
当業者に広く認識されていたというべきである。
 したがつて、たとえ引用例(イ)に供給糸及びその糸がけの困難性についての記
載がなく、また、引用例(ロ)に、引用例(ロ)記載の第一段階の糸が同時的ドロ
ー・トイスト・テクスチヤ化工程に賦する供給糸として用いられることを示唆する
記載がないとしても、前記認定の技術的思想について十分な知識を有する当業者が
引用例(イ)記載の方法において、従来の未延伸糸に代えて、引用例(ロ)に記載
された高速紡糸の未延伸糸を選択して本願発明におけるような供給糸として用いる
こととすることは容易に推考できたことというべきである。
 原告は、引用例(イ)及び甲第一一号証(米国特許第二、六〇四、六八九号明細
書)が公知となつた後、一五年同以上だれも本願発明の方法を提案していないこと
は、本願発明が当業者にとつて容易に選択できないことを示している旨主張し、成
立に争いのない甲第一一号証によれば、米国特許第二、六〇四、六八九号明細書
は、原告が「溶融紡糸法及び繊維」に関する発明についてアメリカ合衆国に一九五
〇年八月二三日に特許出願し、一九五二年七月二九日特許されたものに係り、右明
細書には、三、〇〇〇ヤード/分以上の高速度でPETを溶融紡糸する方法が記載
されているが、右明細書は、その高速紡糸した糸を同時的ドロー・トイスト・テク
スチヤ加工することについて何も記述していないことが認められるが、前記認定の
とおり、本件優先権主張日当時、既に高速紡糸して得た未延伸糸を同時的ドロー・
トイスト・テクスチヤ加工に使用するという技術的思想が当業者に広く認識されて
いた以上、原告主張のような提案(特許出願としての)がなかつたとしても、その
事実は、本願発明の容易推考性を判断するについて何ら影響するものではない。
 (二) 次に、相違点(一)に関して原告の主張する本願発明の奏する作用効果
について判断する。
 まず、原告は、本願発明は、高速紡糸した特定のPETの未延伸糸を供給糸とす
ることにより、従来実現できなかつたPETの未延伸糸の同時的ドロー・トイス
ト・テクスチヤ加工を実現し得るという工程操作上の顕著な作用効果を奏する旨主
張する。
 しかしながら、成立に争いのない乙第九号証によれば、前掲【E】他二名編「合
成繊維」には、「たとえば紡糸速度が大きくなると原糸の複屈折は大きくなり、そ
の結果強度の大きい、伸度の小さい、最高延伸倍率の低い原糸が得られる。また紡
糸原糸が放置後脆化することを防ぐ意味でも、ある程度複屈折を大きくすることが
有効であると考えられる。」(第三二四頁下から第五行ないし第二行)と記載され
ていることが認められるから、紡糸速疫が大きくなるに従い、PETの未延伸糸の
配向度が高まつて構造的に安定したものとなり、その結果、脆化がより小さくな
り、耐熱性も向上することは、本件優先権主張日当時既に当業者に知られていたと
ころであつて、当然に予期されるところであり、また、成立に争いのない乙第一〇
号証によれば、昭和三一年特許出願公告第六七六八号公報に記載された発明は、合
成ポリエステルの紡糸方法に関するものであるが、同公報には、「繊維が完全に凝
固した後に測定して毎分三〇〇〇~五二〇〇ヤードの紡糸速度で凝固繊維を次の工
程に巻上げたり前進させたりして紡糸繊維を細くし乍ら繊維に固化する迄紡出物質
を冷却することを特徴とする方法により達成される。」(第一項右欄二〇行ないし
第二五行)、「紡出繊条の状態で強靭な次の延伸工程を必要としないポリニチレ
ン・テレフタレートの繊維及び糸を紡糸する方法を提供することが本発明の目的で
ある。」(同欄第八行ないし第一一行)と記載されていることが認められるから、
PETを三〇〇〇~五〇〇〇ヤード/分で高速紡糸したものは少なくとも二〇〇度
Cの温度に耐え得るだけでなく、延伸工程が不必要な程度に高度に配向した強靱な
糸であることが知られていたというべきである。そして、前掲甲第五号証、第六号
証の一ないし三によれば、本願明細書の第六七頁表Iには、二一六度Cで紡糸速度
が三一〇〇ヤード/分以上のPETの未延伸糸は糸がけの困難はなかつたのに対
し、二七〇〇ヤード/分のPETの未延伸糸の糸がけは困難であつたこと(同脚註
7参照)が記載されていることが認められるが、このことから直ちに二〇〇度C以
上の温度において紡糸速度三〇〇〇ヤード/分を境にして糸がけの難易が顕著に変
化するということまでは理解できない。もつとも、前掲甲第一五号証によれば、
「ドローテクスチヤード・ヤーン・テクノロジー」の「未延伸糸のドロー・テクス
チヤ加工」の項には、「はじめは、未延伸ポリエステルヤーンを利用した同時的ド
ロー・テクスチヤ加工ルート(第九表、方法4A参照)が使用された。しかしなが
ら、高デニールの低速紡糸未延伸糸は、保存寿命が短いこと、大気条件の変化に対
し過敏なこと-1)管又は他の密閉型第一段ヒーターを備えた同時的ドロー・テク
スチヤ加工機の糸がけを不可能にし、そして2)特別な紐かけ装置を使用しなけれ
ばプレート型第一段ヒーターを備えた同時的ドロー・テクスチヤ加工機の糸がけを
非常に困難にする要因-を含む多くの欠点を有することがすぐ確かめられた。」
(第八頁右欄第二五行ないし第三四行、続いて第一一頁第一行ないし第六行)と記
載されていることから理解できるように、従来の低速紡糸未延伸糸は同時的ドロ
ー・トイスト・テクスチャ加工する場合には糸がけに困難が伴うが、本願発明のよ
うに高速紡糸の未延伸糸を使用する場合には、該未延伸糸は延伸を不必要とする程
度の性状を有し、耐熱性が向上することが知られていたことは前述のとおりである
から、前記糸がけの問題が解決されるであろうことは、その使用に伴つて当然に予
想される作用効果にすぎない。
 したがつて、本願発明に規定する三〇〇〇ヤード/分以上という高速紡糸により
得た未延伸糸が貯蔵保存性及び糸がけの容易性において優れていることは、当業者
の格別予測し得ない効果ということはできない。
 また、原告は、本願発明の方法によれば、従来の機械にほんの僅かの修正を施し
ただけの機械を用いてPETの未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加
工することができるという利点を有する旨主張する。
 しかしながら、前掲甲第一号証によれば、引用例(イ)には、「ポリエチレン・
テレフタレートとして知られた合成線状ポリエステルの繊糸の延伸に於ては繊糸を
一組の供給ロールから熱制止ピンを廻り次で熱板を超えて延伸ロールに到るのが常
道である。斯る方法は熱板と延伸ロールとの間に仮り撚糸装置を介在せしめること
により本発明の方法による嵩張つた糸を得るように容易に変形することができるこ
とが認められるだろう。」(第一頁右欄第一三行ないし第一九行)と記載されてい
ることが認められるから、同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ化装置は、PET
の延伸装置の熱板と延伸ロールとの間に仮撚装置を介在せしめることにより容易に
実施可能のものとすることができる。もつとも、前掲甲第一号証によれば、引用例
(イ)が具体的に開示する未延伸糸は、四倍程度の延伸を示す低速度紡糸によるも
のと認められるから、熱に対し過敏であり、糸がけの困難を伴うためこれを解消す
る手段が必要であるが、本願発明に規定する三〇〇〇ヤード/分以上の高速度で紡
糸したものは延伸が不必要な程度の性状のものであることは前述のとおりであるか
ら、糸がけの問題も配慮する必要がなく、装置が簡単かでき、従来の機械の僅かな
修正で加工に使用できることは当然当業者の予測し得る作用効果にすぎない。
 なお、原告は、作用効果についても、引用例(イ)記載の方法は、原告主張のよ
うな欠点により工業的実施には不適当な方法として、第一優先権主張日前に放棄さ
れたから、引用例(イ)の記載事項を根拠に本願発明の作用効果をもつて当業者の
予期できた作用効果ということはできない旨主張するが、原告主張の右事実を認め
るに足りる証拠の存しないことは前述のとおりであり、また、当業者が引用例
(イ)劇の記載事項から、そこに開示された技術的思想を理解するのに何らの支障
も存しないから、原告の前記主張は理由がない。
 次に、原告は、本願発明は、製造されたテクスチヤヤーンにおいても、貯蔵安定
性、捲縮性能及び染色の均一性、手ざわりにおいて優れている旨主張する。
 しかしながら、「本願発明の奏する貯蔵安定性の作用効果が当業者が予測し得る
ものにすぎないことは前述のとおりであり、前掲甲第五号証、第六号証の一ないし
三によれば、本願明細書には、「予じめ調製した未延伸又は部分的に延伸したポリ
エステルヤーンからこのような方法によつて製造した製品は、通常の充分に延伸し
たポリエステルヤーンをテクスチヤ化する時に達成される捲縮の発現と染色の均一
性の品質標準に対しては、比べものにならない位い低い品質しか得られない。」
(第八頁第一四行ないし第九頁第五行)と記載れていることが認められるが、右記
載事項は、その前に、「公知のドロー・トイスト・テクスチヤ化プロセスのある種
のものにおいてなされているような、延伸領域をテクスチヤ化領域から分離する方
法を行なつて見ても、ポリエステルヤーンに関する上記の糸がけとフイラメント切
断の問題に対しては、一般に何ら解決を与えるものではないことが判つた。」(第
八頁第八行ないし第一四行)と記載されていることからみて、延伸領域をテクスチ
ヤ化領域から分離する方法に関するものであつて、同時的ドロー・トイスト・テク
スチヤ加工に関するものでないことが明らかであり、その他本願明細書の記載事項
を検討しても同じ同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工である引用例(イ)記
載の方法に比べて、どの程度優れているのか明らかでなく、また、本願明細書に記
載された本願発明の各実施例、比較例からみて、両者の間にある程度の差異が認め
られるとしても、この程度のことは単なる効果の確認にすぎない。また、染色の均
一性については、本願明細書には、「本発明方法の他の利点は(中略)テクスチヤ
ヤーンの染色の均一性が良好である。」(第二三頁第二行ないし第五行)と記載さ
れているのみで、その具体的内容を示す記載はなく、また、手ざわりについては全
く記載はないから、これらの点について引用例(イ)記載の方法とどの程度相違す
るのか確認することができない。原告は、本願発明の奏する右作用効果は、甲第一
五号証の記載事項から明らかである旨主張するが、前掲甲第一五号証によれば、
「ドロー・テクスチヤード・ヤーンテクノロジー」には、「従来のテクスチヤード
ヤーンに比較して同時的ドロー・テクスチヤードヤーンの染色均一性をおそらく高
める他の要因は、その拡散係数がより高いことである(第二表参照)。糸の低規則
性構造に起因するこの高い拡散係数は、良好な染料浸透及び良好な均染性を意味す
る。」(第一五頁右欄第八行ないし第一七行)と記載されていることが認められる
が、第一五頁の第一一表には「染料拡散係数:同時的ドロー・テクスチヤード及び
従来のテクスチヤード・セツト・ポリエステルヤーン」と記載されていることから
みて、同表は延伸糸をテクスチャ加工した糸の染色性と同時的ドロー・テクスチヤ
ードヤーンの染色性を対比しているにすぎず、また、「さわやかな手ざわり 同時
的ドロー・テクスチヤード・セツト・ポリエステルヤーンからの編織布は従来の逐
次的ドローテクスチヤ加工ルートを経てテクスチャ加工された糸の布とは異なるさ
わやかな心地よい手ざわりを有する。-裏ぺージの布参照。この新たな手ざわり
は、従来の逐次的ドロー・テクスチヤードヤーンのフイラメントに比べて該ヤーン
を含むフイラメントの断面形の変形が大きいことに本質的に起因する。」(第一六
頁左欄第四行ないし右欄第八行)と記載されていることからみて、同時的ドロー・
テクスチヤードヤーンと逐次的ドロー・テクスチヤードヤーンの手ざわりを比較し
ているにすぎないから、前掲甲第一五号証の記載事項によつて原告主張の前記作用
効果を確認することはできない。
 さらに、原告は、本願発明による生産効率の向上、装置の簡単化及び製造コスト
の低下等の作用効果は、本願発明に規定する特定の高速紡糸の未延伸糸を供給糸と
して使用する同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工が実現できたことにより得
られる効果である旨主張する。
 しかしながら、本願発明に規定する高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・トイス
ト・テクスチヤ化工程に賦することは、当業者が容易に推考できることは前述のと
おりであり、延伸と同時に仮撚加工すれば、生産効率が向上し、装置が簡単化さ
れ、コストが低下することは、引用例(イ)に前記認定の「撚糸工程と織糸の延伸
とを組合せることにより非常に安定な捲縮を得るのみでなく装置及生産費の節約が
得られるのである。」と記載されていることから、当然に予測し得る効果にすぎな
い。
 原告は、ここでも引用例(イ)記載の方法が工業化されるに至らず放棄されたか
ら、その記載事項を根拠に本願発明の作用効果を自明のものということはできない
と主張するが、原告の右主張事実を認めるに足りる証拠がないことは前述のとおり
である。また、原告が前掲甲第一五号証を援用して右作用効果に言及している部分
は具体性に欠けており、採用するに値しない。
 そして、前掲甲第三五号証、成立に争いのない第三六号証その他甲号各証を検討
しても、本願発明の奏する作用効果についての前記認定を左右するに足りない。
 したがつて、本願発明の奏する作用効果は、通常当業者の予測し得る範囲を出る
ものではないから、審決が相違点(一)に関し、本願発明は工程操作上及び製造さ
れたテクスチヤヤーンにおいて格別顕著な効果は認められず、請求人(原告)の主
張する効果は、当業者の当然予測されるところの効果にすぎないと説示したことに
誤りはない。
3 前掲甲第五証、第六号証の一ないし三によれば、本願発明は、原出願の発明に
おける前記第一工程において、供給糸のfs70の値が〇・三七以下になるように
制御するならば前記第二工程における破断フイラメント数を著しく減少させること
ができ、このfs70値の制御は紡糸に先立つてポリエステル中に表面改質剤を含
有せしめるか及び/又は紡糸後の紡出糸に仕上げ剤を塗布することによつて行うこ
とができる(昭和五七年五月一二日付手続補正書第三頁第一行ないし第九行)との
知見に基づき、構成要件(h)を必須の要件としたものであり、本願発明の構成要
件(a)ないし(d)を具備する供給糸である実施例番号Ⅰ-a、Ⅰ-b、Ⅱ-
a、Ⅱ-b、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵのうち、Ⅰ-a、Ⅰ-b、Ⅵについては、紡糸後の紡
出糸に仕上げ剤を塗布し、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴについては、紡糸に先立つて表面改質剤を該
ポリエステル中に含有させ、かつ紡糸後の紡出糸に仕上げ剤を塗布し、以上の供給
糸のそれぞれのfs70値を〇・二二~〇・三四に制御したところ、その破断フイ
ラメントカウントは〇~一一であつたのに対し、Ⅱ-a、Ⅱ-bについては、紡出
後の紡出糸に仕上げ剤を塗布したが、そのfs70値を(h)の範囲外である〇・
四二に制御したところ、その破断フイラメントカウントは一四七及び一八五を示し
た(本願明細書第六七頁表Ⅰ参照)ことからみて、本願発明の構成要件(h)を具
備するものは、破断フイラメント数の減少に効果があるものと認められる。
 しかしながら、前掲甲第四号証によれば、引用例(ニ)記載の発明は、高分子量
合成線条ポリエステルから作られる物品を製造する方法に関するものであるが、引
用例(二)には、ポリエステル等の合成線状重合物からフイラメントヤーンを作る
場合、フイラメントの生成後これを延伸して分子配向を増大する技術によつて最終
製品の強度を増大することは既知である(第一項左欄下から第一〇行ないし第四
行)が、厄介な問題はこの延伸操作中にフイラメントの切断が生じることであり、
フイラメントの切断は労力の所要、生産性に関係するだけでなく製品の品質も劣化
させる(同頁右欄第三一行ないし第三九行)との記載に続き、「延伸中のフイラメ
ント切断の主要原因は、大部分フイラメント間の摩擦により、又ピン装置が使用さ
れた場合はヤーンが延伸ピンを通過する際の過剰の摩擦の発生により順次に強めら
れるヤーンの過剰張力の積重ねによるものである。延伸中に不当に高い又は変化す
る摩擦の生成から生ずる過剰のヤーン張力は其れを延伸する前の其のヤーンに色々
の摩擦防止の調整剤を加えることによつて低減できることは知られている。」(同
項右欄第四〇行ないし第二頁左欄第五行)と記載されていることが認められ、ま
た、成立に争いのない甲第一三号証によれば、昭和四四年特許出願公告第三二七〇
号公報記載の発明は、有効繊維処理剤による新規な合成繊維の減摩方法に関するも
のであるが、同公報には、「近年開発され、市場化されてきた合成繊維、例えばポ
リアミド繊維、ポリエステル繊維(中略)は元来木綿のような天然繊維のように天
然の脂質を表面に有しないために摩擦抵抗性が高く繊維製造工程、嵩高糸製造工
程、紡績糸製造工程、編織物製造工程、編織物仕上工程等の諸工程において好まし
くない種々の問題を惹起する。そのために合成繊維およびそれらの製品の製造工程
において繊維にいわゆる繊維用油剤、例えば紡糸延伸用油剤、紡績用油剤、編織用
油剤、コード用油剤、柔軟仕上剤などを表面に付着させるか、あるいは内部に練入
させるかなどの方法によりその摩擦抵抗性を減少せしめて、それらの好ましくない
諸問題を可能な限り解消せしめんとする努力がなされている。」(第一頁左欄第一
八行ないし第三二行)と記載され、第二頁の第一表に同公報記載の発明に係る組成
物と従来公知の油剤を用いた方法によつて得られた繊維-繊維間及び繊維-クロム
メッキ間の静摩擦係数と動摩擦係数の測定結果が記載されていることが認められ、
これらの記載事項を総合すると、本件優先権主張日当時、ポリエステル繊維は木綿
のような天然繊維と異なり、その表面の摩擦抵抗が大きいため、延伸中のフイラメ
ント切断を生じ易く、したがつて、繊維-繊維間及び繊維-延伸ピン等の金属表面
間の摩擦抵抗をできるだけ低下させる必要があることは、当業者が当然に認識して
いたところであり、また、その目的を達成するために、ポリエステル繊維を溶融紡
糸してテクスチヤヤーンを製造する工程において、本願発明における仕上げ剤に相
当する繊維用油剤を使用することは、当業者が普通に行つていたことが明らかであ
る。
 そして、成立に争いのない乙第四号証によれば、原告作成の実験報告書は、昭和
四九年七月八日付拒絶理由通知書において特許庁審査官から提出を要請された実験
データについての報告書であるが、右報告書には、周知のヤーンA(セミダル)及
びヤーンB(ブライト)の二種類の未延伸ポリエステルマルチフイラメントヤーン
を製造し、この二種類のヤーンに対して、公知の仕上げ剤(油剤)として、昭和四
一年特許出願公告第二九四号公報に記載の仕上げ剤を付与したa、a’、同年特許
出願公告第六六一四号公報に記載の仕上げ剤を付与したb、b’昭和四三年特許出
願公告第二三八六九号公報に記載の仕上げ剤を付与したd、d’、米国特許第三、
三三八、八三〇号明細書に記載の仕上げ剤を付与したe、昭和四一年特許出願公告
第一六一六〇号公報に記載の仕上げ剤を付与したf、昭和四四年特許出願公告第二
九五五六号公報に記載の仕上げ剤を付与したgについて、本願明細書第三五頁第七
行ないし第三七頁第四行(前掲甲第五号証)に記載された測定方法によつてフイラ
メント間摩擦係数を測定した結果、ヤーンAについては、九種のうち、a’、b、
b’、d、、d’、e及びgの七種、ヤーンBについては、九種のうち、b、e、
gの三種がfs値〇・三七以下(〇・三三~〇・三六)であつたことが記載されて
いることが認められ、右認定事実によれば、本件優先権主張日当時、本題発明の構
成要件(h)に規定するfs70値が〇・三七以下であるという要件を満足するP
ETの未延伸供給糸を形成することのできる仕上げ剤は数多く知られていたことが
明らかである。
 原告は、前掲乙第四号証の表3には、ブライトヤーン(ヤーンB)の場合、九種
の油剤のうち〇・三七より低いfs70値を与えるのは僅か三種であるから、公知
の油剤のうちでごく限られた少数の油剤のみが本願発明に規定する〇・三七以下の
fs70値を与えるにすぎないことが明らかである旨主張するが、本願発明におけ
るPETはブライトヤーンに限定されるものでなく、セミダブルヤーンをも含むこ
とは本願発明の要旨から明らかであり、このセミダルヤーンについては九種のうち
七種までが、ブライトヤーンについても九種のうち三種が油剤の付与によりfs7
0値〇・三七以下という要件を満足するものである以上、原告の主張するように公
知の油剤のうちごく限られた少数の油剤だけがこの要件を満足するものということ
はできない。
 また、原告は、本願発明において、fs70値は〇・三七より更に小さく〇・三
四以下で〇・二〇より大であることが好ましいところ、前掲乙第四号証に示された
セミダルヤーン(ヤーンA)の場合においても、〇・三四以下のfs70値を与え
るものは九種の油剤のうち僅一種にすぎない旨主張するが、本願発明の構成要件
(h)が原告主張のように〇・三四以下、〇・二〇以上と限定されていないことは
本願発明の要旨から明らかであるから、右主張はその前提において失当といわなけ
ればならない。
 さらに、原告は、乙第四号証の表三のヤーンAについて、比較的多くの油剤が
〇・三七以下のfs70値を示したのは、二酸化チタンが配合されたことによりヤ
ーンの表面が改善されたことによるものであり、このように、単に仕上げ剤のみに
よつて必ずしもfs70値を〇・三七以下に調節できるのではなく、フイラメント
の表面特性の適当な改質とあいまつてfs70値を〇・三七以下に減少させること
を可能にする旨主張するが、本願発明は、特定のフイラメント表面の改質と仕上げ
剤の具体的な組合せを要旨とするものではないから、右主張は本願発明におけるf
s70値の設定につき格別の技術的意義を付与するものとも認められない。
 そうであれば、本件優先権主張日当時、ポリエステル繊維についてはフイラメン
ト切断防止のため繊維-繊維間及び繊維-金属表面間の摩擦抵抗をできるだけ低下
させる必要があることを認識し、その目的達成のために仕上げ剤(油剤)を使用し
てきた当業者が、PETの未延伸糸のfs70値が〇・三七以下である要件を満足
させるような仕上げ剤の種類と量を選択することは容易に行い得ることというべき
であり、これによつて奏する作用効果も当業者が通常予測し得る範囲を出るもので
はない。
 原告は、本願発明におけるfs70値の制御に関し重要なことは、制御すべき摩
擦係数がフイラメント間の摩擦係数であるとともに七〇度Cで測定したフイラメン
ト間摩擦係数であること、及び本願発明の前記構成要件(a)ないし(d)から成
る供給糸を前記構成要件(e)ないし(g)からなる同時的ドロー・トイスト・テ
クスチヤ加工する際の該特定の供給糸に対するfs70値の制御であること、並び
にこのfs70値を〇・三七以下に制御することによつて破断フイラメント数を飛
躍的に減少させることにあり、引用例(ニ)はこれらの事項を開示するものではな
い旨主張する。
 しかしながら、fs70値という表現が新規な物性値を示すものであるとして
も、fs70値〇・三七以下であるという要件を満足させる仕上げ剤の選択が当業
者にとつて容易であり、これによる作用効果も当業者の通常予測し得る範囲を出な
いこと、前述のとおりであるから、引用例(ニ)に原告主張の事項が開示されてい
ないからといつて、この要件を満足させるような仕上げ剤の選択が当業者にとつて
容易でないということはできない。
 また、原告は、審決が延伸中のフイラメントの切断がフイラメント間の摩擦によ
ることは引用例(ニ)に記載されているごとく公知であるとしたのは、誤りである
旨主張するが、右主張の理由のないことは、さきに認定した引用例(ニ)の記載に
より明らかである。
 また、原告はfs70破断フイラメント数と明確な相関関係を有し、破断フイラ
メント数と明確に関連するパラメータはfs70値のみであつて、このことは
【C】の宣誓供述書(甲第一四号証)から明らかである旨主張する。
 成立に争いのない甲第一四号証によれば、右宣誓供述書の添付資料二及び七に
は、fs70値と破断フイラメント数(BFC)とは明瞭な対応関係を示す記載が
存することが認められるが、そのことから本願発明の構成条件(h)の選択が当業
者にとつて容易でないといえないことは前述のとおりであり、かえつて前掲甲第一
四号証によれば、fs70値と破断フイラメント数との間には明瞭な対応関係があ
つても、fs70値〇・三七を境にして破断フイラメント数が急激に減少している
とはいえないから、〇・三七という値に臨界的意義があるとは認め難く、さらに添
付資料三はfs25値も〇・二二以下の範囲では破断フイラメント数と対応関係を
示すものと認められることからみると、fs70値のみが破断フイラメント数と明
確に関連するパラメーターであるとは認め難く、その他の甲号各証を検討しても、
以上の認定を左右するに足りない。そうであれば、ポリエステルの二次転移点が七
〇度Cであるか否かに拘らず、七〇度Cで摩擦係数を測定するようにした点にも格
別の技術的意義を認めることはできない。
 したがつて、本願発明の構成要件(h)に規定するfs70値を〇・三七以下の
範囲にすることは、破断フイラメント数を減少させるために公知の仕上げ剤(油
剤)の種類と量を適宜選択することにより当業者が容易になし得ることであつて、
相違点(ニ)についての審決の判断には誤りがない。
4(一) 前掲甲第三号証によれば、引用例(ハ)には、「引取り速度の影響を調
べるには引取り速度に合わせて吐出量も変え、
末延伸糸繊度やドラフトが常に一定になるよう配慮する(表5・1、表5・2)。
ここでは二七〇度Cの密度を約一・二g/cm3としてドラフトを計算している。
結果は図5・27および図5・28に示した。後者では一五〇〇~四〇〇〇m/m
inの高速引取りのため細物で実験を行なつた。この未延伸糸について七〇度Cで
五〇mm/minの速度で張力伸長曲線を測定し、最大延伸倍率、自然延伸倍率は
いずれも引取り速度を大きくすると減少することが見いだされた(図5・2
9)。」(第一三〇頁第六行ないし第一二行)と記載され、第一三一頁には図5・
29「最大および自然延伸倍率と引取り速度の関係」が図示されているが、図5・
29によると七〇度Cにおける二七四三m/分以上の引取り速度の最大延伸倍率
(審決が「自然延伸倍率」と認定したのは、「最大延伸倍率」の誤りである。)は
約二倍であること、また、「引取り速度が三〇〇〇~四〇〇〇m/minになると
繊糸の前配向が多くなり、あまり延びなくなつて明瞭な流動域は見られなくな
る。」(第一三一頁下から第三行ないし第一行)、「前配向が非常に大きい場合に
は、収縮率は逆に減少する。しかし引取り速度四〇〇〇m/minで紡糸し事実上
延伸できないポリエステル繊糸でも(中略)高収縮糸として用いられる。」(第一
三五頁第一九行ないし第二一行)と記載されていることが認められ、引用例(ハ)
のこれらの記載事項によれば、本願発明のように少なくとも約三〇〇〇ヤード/分
の引取り速度で紡糸した未延伸糸を延伸した場合には必然的に本願発明に規定する
程度の延伸倍率すなわち一・三倍~二・〇倍の延伸倍率になることは明らかであ
る。
 原告は、引用例(ハ)の図5・29は、単に引取り速度と最大延伸倍率及び自然
延伸倍率との関係についての学術的研究実験の結果を示す図であり、例えば、撚糸
のフアクター、特に仮撚りによる張力の影響は含まれていないなど、その実験条件
は、実際の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工における操作条件とは一致し
ない旨主張する。
 しかしながら、引用例(ハ)が学術的研究実験の結果であつても、その実験の結
果の信憑性を疑うべき証拠は存せず、また、仮撚りによる張力が実験の結果の数値
に影響を及ぼすものと認むべき証拠も存しないから、この実験結果から三〇〇〇~
四〇〇〇m/分になると必然的に右延伸倍率の程度しか延伸できないことが明らか
である以上、たとえ延伸倍率の設定範囲について引用例(イ)及び(ロ)のいずれ
も直接に教示若しくは示唆するところがないとしても、約三〇〇〇ヤード/分の引
取り速度で高速紡糸したPETの未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ
化工程に賦するに際し、引用例(ハ)記載のものに基づき右延伸倍率を右の範囲に
設定することは当業者が容易に行い得ることというべきである。
(二)前掲甲第一号証によれば、引用例(イ)には、撚りのセット温度について、
「抑止帯域は七〇乃至一〇〇度Cの温度で、次の組合された結晶化及び撚り固定帯
域の温度は一五〇乃至(「一五〇乃」は「一五〇乃至」の誤記と認める。)二〇〇
度Cの温度である特許請求の範囲記載の方法」(第二頁右欄第一八行ないし第二〇
行)と記載されていることが認められるが、二〇〇度Cよりも高い温度に設定する
ことについては何らの記載も存しない。
 しかしながら、成立に争いのない乙第一二号証(英国特許第一、二〇七、八一一
号明細書)及び乙第一三号証(ドイツ連邦共和国特許出願公開第一九一五八二一号
明細書)によれば、前者の実施例4には二一五度C、後者の実施例4には二一〇度
CでそれぞれPETの未延伸糸の同時的ドロー・トイスト・テクスチヤ加工におけ
る撚りのセットをすることが記載されており、右記載事項によれば、撚りのセツト
温度を二〇〇度Cより高い温度とすることは本件優先権主張日当時、当業者によく
知られていたというべきであるから、この点についての審決の認定に誤りはなく、
したがつて、本願発明に規定する高速紡糸の未延伸糸を同時的ドロー・トイスト・
テクスチヤ化工程に賦する際の撚りのセツト温度を二〇〇度Cより高い温度にする
ことは当業者に容易に選択し得ることというべきである。
5 原告は、本顧発明の必須要件中のそれぞれの数値条件について、仮に公知例に
これらの数値を含み、あるいはこれを示唆する一般的記載があつたとしても、本願
発明の意図する特定の目的のために、その一般的な記載のうちのどの具体的な数値
が有効であるかの教示がない限り、その特定の数値について、各公知例の記載から
公知であり、あるいは当業者が容易に選択することができるものであると判断する
ことは許されないのに、審決は、各公知例に前示教示が存することを確定しないで
右のように判断したものであるから、審決には理由不備の違法があると主張する。
 しかしながら、一定の発明が公知例に記載、開示された技術的事項に基づいて容
易に発明することができたものであるかどうかは、当該技術分野において通常の知
識を有する者、すなわち当業者が公知例に記載、開示された技術的事項ないしその
基本に存する技術的思想あるいは出願当時の技術水準に照らし公知例の記載、開示
する技術的事項の示唆する範囲に含まれると認められるものに基づいて、当該発明
をすることができたかどうかという形で判断をするものであるが、右判断に当たつ
て、当該発明の目的(技術課題)を参酌する必要はあるが、公知例に開示された数
値条件が当該発明の意図する特定の目的のために有効であることを教示するもので
なければ、その数値条件を選択することができないという理由はない。けだし、公
知例たる技術的手段の目的と当該発明の目的とが異なり、公知例の技術的手段の一
部を成す数値条件自体は直接には当該発明の目的を達成する手段としての意義を持
たないものであつても、当業者において、公知例の数値条件の技術的合理性、汎用
性などにかんがみその数値条件の規定から示唆を得、所要の設計を実施して、これ
を特定の目的を持つた当該発明の構成の一部として取り込むのにさして困難があつ
たとは認められない場合には、当該発明は容易に推考し得たものとするのが相当だ
からである。そして、本件審決の理由の要点は、事実欄第二、三摘示のとおりであ
つて、審決は本願発明の要旨を本願発明の特許請求の範囲記載のとおり認定した
上、引用例(イ)の技術内容を右摘示のとおり認定し、両者について供給糸たるP
ETの引取り速度、結晶化度、fs70値、及び同時的ドロー・トイスト・テクス
チャ化工程における延伸倍率、撚りのセット温度等の数値条件を含めて、具体的構
成について対比判断した上、一致点、相違点を摘示し、相違点について引用例
(ロ)、(ハ)、(ニ)の技術内容及び周知事項を援用して、具体的に当業者が容
易に想到し得るものであると説示したものであつて、審決にはいささかの理由不備
も存しない。
 また、原告は、審決が、請求人(原告)の主張する本願発明の生産効率の向上、
装置の簡単化、捲縮性能、染色均一性、貯蔵安定性等の効果について、いずれもポ
リエステルを高速紡糸して未延伸糸が有する物性に起因するもので当業者の当然予
測されるところの効果にすぎないとのみ説示した点に関し、ポリエステルを高速紡
糸した末延伸糸の物性としていかなる点が当業者の認識にあつたか、また、それか
らどのような理由で多種多様の効果が予測されるかの認定を欠く審決には理由不備
の違法がある旨主張する。
 しかしながら、審決において記載することを要する理由(特許法第一五七条第二
項第四号)は、その結論に達するまでの、事実認定を含む判断過程であつて、その
結論が合理的であることを理解させるものであることを要するとともに、それをも
つて足りるものであり、必ずしもその結論に達するまでの判断過程のすべてを逐一
詳細に説示しなければならないものではない。本件において、審決が原告主張のよ
うな点まで説示しなければならなかつたものとは認められず、本願発明の作用効果
に関する審決の説示に理由不備の違法は存しない。
6 以上の次第であつて、優先権についての審決の判断には一部誤りがあるが、そ
の誤りは審決の結論に影響がなく、また、本願発明と引用例(イ)記載の方法との
相違点(一)、(二)、及び(三)に関する審決の認定、判断は正当であり、かつ
審決には原告の主張する理由不備の違法は存しない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として
これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び参加によつて生じた費用ならびに上
告のための附加期間について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九四
条後段、第一五八条第二項の各規定を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 蕪山嚴 竹田稔 濱崎浩一)
別紙図面(一)
<12648-001>
別紙図面(二)
<12648-002>
別紙図面(三)
<12648-003>

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