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裁判例


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       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求の趣旨
 被告が別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について、平成一
○年七月三日付けで原告に対してした平成一〇年度固定資産課税台帳登録価格に関
する審査申出を却下する旨の決定(以下「本件決定」という。)を取り消す。
第二 事案の概要
一 争いのない事実等
1 当事者
(一) 原告
(1) 訴外亡Aは、本件土地の所有名義人であったが、同人は昭和六三年二月二
六日死亡した(甲一、弁論の全趣旨)。
(2) 原告は、訴外Bと共にAの相続人として同人の権利義務を承継し、かつ本
件土地の納税義務者となっている(甲一、弁論の全趣旨)。
(二) 被告
 被告は、固定資産課税台帳の登録事項(土地登記簿又は建物登記簿に登記された
事項を除く。)に関する不服を審査決定するため、地方税法(以下「法」とい
う。)四二三条一項、鹿児島市税条例(乙一)第六二条に基づき設置された委員会
である。
2 本件処分に至る経緯
(一) 本件土地の地目は、平成六年度(基準年度)には「畑」と認定されていた
が、平成八年度に「宅地」と評価替えされ、平成九年度(基準年度)も「宅地」と
認定された。
(二) 原告は、平成九年四月四日、鹿児島市役所α支所で本件土地の固定資産課
税台帳を縦覧した(鹿児島市の縦覧期間は毎年四月一日から同月二〇日まで。)
が、審査申出期間内に審査申出をせず、これによって、基準年度(平成九年度)の
価格が決定した。
(三) 原告は、平成一〇年四月七日、鹿児島市役所α支所で固定資産課税台帳を
縦覧したうえ、同月二四日、被告に対し、審査申出(以下「本件審査申出」とい
う。)をした。
(四) 被告の職員は、原告に対し、平成一〇年度(第二年度)に審査申出を受け
るには平成九年度中に用途の変更による現況地目の変更が生じたこと、あるいは、
同年度中に地下下落があったのに評価に反映されていない等の理由が要件となる旨
教示し、審査申出理由の変更(補正)を行う意思がないか確認したところ、原告は
申出理由を変更する意思はないとの態度を示した(乙九、証人C)。
(五) そこで、被告は、平成一〇年七月三日付けで、別紙「決定理由」記載の理
由により、本件審査申出を却下する旨の決定(本件決定。甲二)をした。
第三 争点
 原告は、「本件土地は、平成六年以前か
ら一部に農小屋、墓地があるものの、その余は茶畑として利用され、固定資産課税
台帳上も平成七年度まで市街化区域内の畑として登録されていた。ところが、平成
八年度に突然宅地と評価替えされたため、原告が平成八年五月二八日付け訴外鹿児
島市長宛て内容証明郵便で抗議したにもかかわらず、市当局は事実調査をせず、漫
然と、平成九年度、平成一〇年度と引き続き宅地と認定した。原告は、右市長に対
する抗議により平成九年度の基準年度には本件土地の固定資産評価は当然是正され
ていると信じて縦覧期間を徒過したため、改めて平成一〇年度に審査申出(本件審
査申出)したところ、本件決定がされた。」として、①本件土地は、鹿児島市当局
の怠慢過誤によって誤った評価(地目認定)がされた以上、第二年度の評価是正に
ついて定める法四三二条一項ただし書所定の法三四九条二項一号の「地目の変換、
家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」がある場合に当たるにもか
かわらず、かかる事由の存否を審理判断することなく本件審査申出を却下した本件
決定は違法である、②本件審査申出には、異議事由として、右「特別の事情」を主
張しているが、仮にそのように見ることができないとすれば、被告は、原告に対し
審査申出の趣旨を釈明し、かつ評価の根拠となった事実や計算方法を了知させる措
置を採るべきであるところ、かかる釈明をすることなくした本件決定は公正を欠き
違法である、③本件決定には被告代表者の明示がなく無効である、と主張する。
 これに対し、被告は、①本件審査申出には前記「特別の事情」の指摘がない、②
地目の誤認はない。仮にあるとしても基準年度内に主張されるべきであり、基準年
度の「特別の事情」がそのまま第二年度の新たな「特別の事情」になるわけではな
い、③本件決定書(甲二)には作成年月日及び被告の名称が記載され、かつ被告の
印章が押印されており、文書の作成様式に何ら違法はない(法四三一条二項、鹿児
島市税条例六四条(乙一)、鹿児島市固定資産評価審査委員会規程一三条及び一五
条(乙二))、と反論する。
 本件の主たる争点は、以下のとおりである。
1 土地の納税者が、固定資産課税台帳の登録事項(地目の認定)に関する不服に
つき、基準年度にその是正を求めることを懈怠し、基準年度の翌年度(第二年度)
に同じ事由で是正を求めてきた場合、かかる事情は法三四九条二項一号に掲げる
「特別の事情
」に当たるか。
2 当たるとした場合、本件審査申出に「特別の事情」の指摘はあるか。また、そ
の指摘がなければ、被告は原告に対し補正を命ずべきか。
3 本件決定書の様式に瑕疵はあるか。
第四 当裁判所の判断
一 固定資産の評価等に関する不服制度の概観
1 評価の据置制度
土地及び家屋等の固定資産の価格等の決定は、法四一〇条及び法四一七条に定める
条文により市町村長が行うが、市町村長は、右価格等の決定のため、固定資産評価
員又は固定資産評価補助員をして毎年少なくとも一回実地調査をさせなければなら
ない(法四〇八条)。ところで、固定資産評価のうち、土地の評価は、基準年度
(昭和三一年度及び昭和三三年度並びに昭和三三年度から起算して三年度又は三の
倍数の年度を経過したごとの年度をいう。法三四一条六号)ごとに行われ、その評
価額は次の基準年度の前年度まで据え置かれる(法四一一条二項)。したがって、
土地の評価に関する限り、第二年度(法三四一条七号)及び第三年度(法三四一条
八号)の評価は行われないのが原則である。なお、固定資産税の賦課期日は、当該
年度の初日の属する年の一月一日とされ(法三五九条)、固定資産の価格等の決定
は右賦課期日(一月一日)を基準に判断される。土地の評価については、三年ごと
に到来する基準年度の賦課期日が基準時となる。
2 不服の手続
(一) 固定資産税の納税者は、納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産
について、固定資産課税台帳に登録された事項(土地登記簿又は建物登記簿に登記
された事項を除く。)に不服があるときは、法四一五条一項に定める縦覧期間の初
日からその末日後一〇日までの間において、文書をもって、固定資産評価審査委員
会に審査の申出をすることができる(法四三二条一項)。
 地目の認定の誤りは、それが土地登記簿に登記された事項である以上、不動産登
記法の定めるところに従い不服の処理がなされるべきであるが、固定資産の価格は
登記事項でないため、右地目の誤りを理由として固定資産の価格の決定を争うとき
は、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることが可能である(これに引換
え、地目の誤認を理由として固定資産税賦課決定処分の取消しを求めることはでき
ないと解される。)。なお、市町村長は、登記簿に登録された地目の認定に誤りが
あるため課税上支障があると認めるときは、登記所に是正措置を採るよう申し出る
ことができ
、当該登記所は、その申出を相当と認めるときは、遅滞なく、右是正措置を採るこ
とになる(法三八一条七項)。
(二) 固定資産税の納税者が基準年度の審査申出期間を徒過した場合、市町村長
は、固定資産課税台帳に登録された価格等に「重大な錯誤があることを発見した場
合」(法四一七条一項)に限り、自らその修正決定をする。しかし、市町村長が右
事由の存在を認めないときは、当該納税者は、第二年度及び第三年度の固定資産賦
課処分の基礎となる評価等に関する不服を述べ得ないのが原則である(法四三二条
一項本文)。
(三) しかしながら、法四三二条一項ただし書は、例外として、法四一一条二項
の規定によって土地の価格の据置きが行われている場合(すなわち、第二年度又は
第三年度において基準年度の土地に対して課する固定資産税の課税標準について基
準年度の価格による場合にあっては、土地課税台帳に登録されている基準年度の価
格をもって第二年度又は第三年度において土地課税台帳に登録された価格とみなす
場合)には、当該土地について法三四九条二項一号に掲げる事情(地目の変
換、・・・その他これらに類する特別の事情)があるため据え置かれた価格によら
ないで同条同項ただし書の規定の適用を受けるべきものであることを申し立てる場
合に限り、固定資産評価審査委員会に対し審査の申出をすることができると規定し
ている。
(四) 以上によると、土地の納税者は、法四一一条二項の規定によって土地の価
格の据置きが行われている場合、法四三二条一項ただし書に基づき法三四九条二項
一号所定の「特別事情」があることを理由とするときに限り、固定資産評価審査委
員会に対し審査の申出をすることができることになる。
二 法三四九条二項一号所定の「特別事情」
1 法三四九条二項一号の「地目の変換、・・・その他これらに類する特別の事
情」とは、当該土地、家屋自体以外の要因による価格変動事情を含まず、当該土
地、家屋自体について生じた変化のうちで価格に著しく影響するものを指すと解さ
れ、具体的には、土地の場合、用途の変更による地目の変更、浸水、土砂の流入、
隆起、陥没、地すべり、埋没等によって、区画・形質に著しい変化があった場合な
どが考えられる。
2 ところで、法四三二条一項本文は、前述のとおり、審査申出期間を縦覧期間の
初日からその末日後一○日までに限定しているため、右期間を徒過した土地の納税
者は、基準年度に次ぐ第二年度及び第三年度に同じ理由で不服を申し立てることは
原則としてできない(納税者は、第二年度及び第三年度とも基準年度の価格を甘受
せざるを得ない。)ところ、これは、基準年度の土地については、基準年度に価格
の不服に関して審査申出の機会が与えられたため、右審査申出期間を徒過した納税
者は、いわば不服をいう権利を自ら放棄したものとして、第二年度及び第三年度に
ついては、基準年度の賦課期日と実情を異にする例外的な場合に限り審査の申出を
することができる(いわば違法性の承継は認めない。)とする趣旨に解することが
できる。
三 争点1について
1 以上に検討した法の趣旨に照らすと、法三四九条二項一号に掲げる「特別の事
情」とは、価格据置制度をとる土地の場合に限れば、基準年度にいったん評価が確
定した後、新たに当該土地自体について価格の評価に関する著しい変更事情が発生
した場合を指すというべく、本件のように、基準年度に価格の是正を求めることを
懈怠した土地の納税者が、基準年度の翌年度(第二年度)に同じ事由をもって是正
を求めることまで含む趣旨ではないと解するのが相当である。
2 審査申出期間を基準年度の縦覧期間後一〇日に限定する法の建前は、基準年度
に価格の是正を求めることを懈怠した土地の納税者を犠牲にしてまで貫かれるべき
要請といえるか、一応検討の余地がないではないが、さりとて、かかる場合に法三
四九条二項一号にいう「特別の事情」を具備すると解すれば、価格据置制度をとる
土地の課税実務上の法的安定性を著しく害することは必定というべく、また、固定
資産評価審査委員会に対する審査申出が認められないとしても、他の救済手段、例
えば市町村長に対して法四一七条の職権発動を求めること(あるいは、土地登記簿
上の地目の登録が誤っていれば不動産登記法上の訂正手続を求めること)まで否定
されるわけではないから、固定資産評価審査委員会に対する救済手続としては、前
記1のとおり、基準年度に価格の是正を求めることを懈怠した土地の納税者が、基
準年度の翌年度(第二年度)に同じ事由をもって是正を求めることは、法三四九条
二項一号にいう「特別の事情」には当たらないと解するのが相当である。
3 原告は、本件土地の評価はもともと平成八年度及び基準年度である平成九年度
に鹿児島市当局の怠慢過誤によって誤った評価(農地を宅地と誤認)をされたもの
であるか
ら、第二年度における「特別の事情」も市当局の怠慢過誤等による処分との相関に
おいて定められるべきであると主張する。
 しかしながら、証拠(甲三・四の各2、六、七の1ないし5、八の1ないし4、
乙九、一〇、証人C)によると、原告は、平成七年に自宅を新築したが、平成八年
三月二二日の鹿児島市当局による家屋調査の際、右自宅の敷地は本件土地と申告し
ており、鹿児島市当局(資産税課)はかかる事情も考慮して本件土地の地目を農地
(畑)ではなく宅地と認定していることがうかがえる。そうすると、本件土地の地
目が原告の主張するように鹿児島市当局の怠慢過誤によって宅地と誤認されたと
は、本件証拠上、いまだ容易に推認しがたい。
4 以上によると、原告の本件審査申出に記載された事情は第二年度において許さ
れる「特別の事情」には当たらず、かつ被告は、本件審査申出に際して、原告に対
し、審査申出理由の補正を促し、原告にその意思がないことを確認したうえで本件
決定をしており(事案の概要一2(四)・(五)参照)、補正手続上の瑕疵もうか
がえない。
四 争点3について
 原告は、本件決定書(甲二)には被告代表者の明示がなく無効であると主張する
が、被告の作成する審査決定書の様式は、法四三三条四項、鹿児島市税条例(乙
一)六四条、鹿児島市固定資産評価審査委員会規程(乙二)一三条一項及び一五条
一項によって、作成年月日及び被告の名称を記載し、かつ被告の印章を押印するを
もって足りると規定されており、被告代表者の明示まで要求してはいない。しかし
て、本件決定書には、作成年月日及び被告の名称が記載され、かつ被告の印章が押
印されているから、作成様式に違法は認められない。
五 以上のとおり、その余の争点につき判断するまでもなく、本件決定には何らの
違法も認められないから、本件決定の取消を求める原告の請求は理由がない。
 よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用について行政事件訴訟法
七条、民事訴訟法六一条により、主文のとおり判決する。
鹿児島地方裁判所民事第一部
裁判長裁判官 榎下義康
裁判官 牧真千子
裁判官 冨田敦史

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