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裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 申立て
一 原告
被告は原告に対し三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四六年一月二三日から
右支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
仮執行の宣言
二 被告
主文同旨
担保を条件とする仮執行免脱の宣言
第二 主張
一 原告の請求原因
(一) 原告は、昭和四四年一一月一六日のいわゆる首相訪米阻止闘争に参加した
ため、同年一二月八日兇器準備集合、公務執行妨害の容疑で東京地方裁判所に起訴
され、起訴後小菅刑務所に勾留されていたが、昭和四五年二月二七日東京拘置所に
移監され、同年一二月一九日保釈されるまで同拘置所に勾留されていた。
ところで、この間、同年七月三一日原告の友人訴外Aは雑誌「闘争と弁護」一九七
〇年七月号(闘争と弁護刊行会編集発行、以下「本件雑誌」という。)を原告に差
し入れたが、訴外東京拘置所長Bは同年八月一一日原告に対し本件雑誌の閲読を許
可しない旨の処分を告知した(以下、「本件不許可処分」という。)。
(二) 本件不許可処分は違憲違法である。
1 勾留中の被告人は、刑事訴訟法六〇条により身柄確保および罪証隠滅防止のた
めに身柄を拘束されているものであるから、右目的による制限を受けるほか、憲法
が国民に保障する基本的人権のすべてを享有する。
2 図書閲読の自由は憲法一九条および二一条によつて保障されている。すなわ
ち、図書閲読の自由は、自己の思想の形成につき自由でなければならないことから
必然的に導き出される基本的人権であり、思想の自由と密接不可分のものとして同
法一九条により厚く保護されているものであり、また、同法二一条は言論出版等一
切の表現の自由を保障しているが、右自由の確保のためには表現される思想を受け
取る自由が保障されなければならないので、出版された図書を閲読する自由も同条
による保護を受けるのである。
3 本件雑誌は、(1)未決勾留、代用監獄、接見、懲罰等の問題に関するリポー
ト、(2)監獄法に関連する通達、訓令等の抜粋、(3)一〇・一一月闘争公判資
料から成つている。右のうち(2)の部分はいうまでもなく原告が拘置所内におい
て自己の権利を擁護するために不可欠のものである。すなわち、拘置所内において
違法不当に在監者の権利が侵害された場合、当該在監者自らがその違法不当を主張
し、権利の回復を求めることが権利回復のためにもつとも有効な方法であることは
いうまでもなく、そのことは単に当該在監者の権利の擁護にとどまらず、全体的な
憲法秩序の擁護ともなりうるのである。また、外部の人々との連絡の困難な在監者
においては特に自ら権利回復の手段をとる必要が大である。しかるに、もし在監者
が監獄法に関する知識を欠くとすれば、その権利の侵害は放置され、右に述べたい
ずれの効果をも期待することはできないのである。
次に、原告の刑事裁判は本件不許可処分当時裁判所の事務分配により第一六グルー
プとして東京地方裁判所刑事第八部に係属しており、一方原告は多数の被告人らと
ともに一〇・一一月闘争統一被告団を結成し、一〇・一一月闘争統一弁護団による
統一公判を要求していた。そして、本件雑誌のうち前記(3)の部分は、右統一被
告団のうち第一一グループとして東京地方裁判所刑事第二〇部に係属していた被告
人らについて昭和四五年五月三〇日に行なわれた第一回公判の経過を中心に右統一
弁護団の抗議声明、辞任の際の声明、弁護士会に対する申入書等から成つている。
したがつて、この部分は原告の刑事事件につき公判の進行を図るうえで必要不可欠
のものといわなければならず、この部分の閲読ができないことにより原告の刑事事
件における防禦権は著しく侵害された。
4 本件雑誌が、原告の罪証隠滅行為につながつたり、あるいは原告の拘置所から
の逃亡に役立つたりすることがないのは明らかである。また、本件雑誌の閲読を許
したからといつて拘置所の紀律を害することは一切考えられない。もし原告が本件
雑誌の閲読により監獄法に関する諸規程を知悉し、拘置所内における原告の権利侵
害に対する正当な抗議や申立てをすることをも拘置所の紀律を害する行為であると
し、これを防ぐために本件雑誌の閲読を禁止するというのであれば、それは国民の
権利無視もはなはだしい考えである。
5 以上のとおり、本件不許可処分は憲法一九条および二一条に違反し、また、拘
置所長に認められた裁量権の範囲を逸脱した違憲違法なものである。
(三) 1 原告は本件不許可処分により甚大な精神的苦痛を被つたが、これを慰
謝するには二五〇、〇〇〇円が相当である。
2 原告は、その代理人らに本件訴訟の提起を依頼するにつき弁護士費用として五
〇、〇〇〇円を支払う旨約した。これも本件不許可処分により原告の被つた損害で
ある。
(四) 東京拘置所長Bが本件不許可処分をするにあたつては、故意または過失が
あつた。
(五) よつて、原告は被告に対し右(三)の損害金の合計三〇〇、〇〇〇円とこ
れに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四六年一月二三日から右支払いずみま
で民法所定の年五分の割分による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する被告の答弁および主張
(一) 請求原因(一)の事実のうち、原告が起訴後小菅刑務所に勾留され、昭和
四五年二月二七日東京拘置所に移監されたとの点を除き、その余の事実は認める。
原告が東京拘置所に勾留されたのは昭和四四年一二月一三日以降である。同(二)
の主張は争う。もつとも、同(二)の3の事実のうち、本件雑誌が原告主張のよう
な構成から成つていることおよび原告の刑事裁判がいわゆる第一六グループとして
東京地方裁判所刑事第八部に係属していたことは認める。同(三)の1は争い、2
は知らない。同(四)は争う。
(二) 本件不許可処分の適法性について
1 拘置所は、刑事訴訟手続確保のために刑事被告人を拘禁する目的をもつて被告
が設置し、被告の意思によつて支配され運営されている営造物であるから、右営造
物に刑事被告人として拘禁されている者と営造物の主体である被告との間には、拘
置監収容という営造物使用関係が存在する。
そして、右営造物の管理運営を司る拘置所長と被拘禁者との間には、右拘置のため
に必要な範囲と限度において、拘置所長が被拘禁者を包括的に支配し、被拘禁者は
拘置所長に包括的に服従すべきいわゆる公法上の特別権力関係が成立しているので
ある。
2 拘置所長は、刑事被告人のいわゆる未決拘禁の目的を達するため、刑事訴訟手
続確保のための身柄確保、罪証隠滅防止という直接的な目的を阻害すべき被拘禁者
の逃走、自殺、通謀を防止するための措置を講じる義務を有することはもちろんの
こと、多数の被拘禁者を同時に収容する刑務所の管理運営権にもとづき、被拘禁者
らによる暴行、脅迫および暴動等に至る所内紀律の紊乱により所内秩序を破壊する
行為の発生を未然に防止し、施設の安全を厳に保持することまで強く要請されてい
るのである。
拘置所長が右の目的と義務を遂行するためにする処分は、それが被拘禁者の憲法上
の諸権利の行使の面において通常の一般人と異なる制限的な取扱いをせざるをえな
い結果になつたとしても、被拘禁者と拘置所長との間の特別権力関係による規制の
当然の帰結であつて、その取扱いが合理的であるかぎり違法とはいえないものであ
る。
3 ところで、拘置所は、常時多数の被拘禁者を擁し、限られた職員と予算をもつ
て管理運営されているものであり、また、被拘禁者は拘禁という特殊な環境下に置
かれているのでその心理状態も尋常でないことが多いことから、このような状況下
で拘禁の前記目的を遂行する拘置所の管理運営はきわめて専門的であり、技術的側
面を有し、その任にあたる拘置所長の管理運営権には裁量が認められているのであ
る。
4 拘置所長の裁量権限を被拘禁者の図書の閲読についてみると、監獄法三一条は
この閲読に関する制限を命令で定めるものとし、監獄法施行規則八六条は、閲読を
許可されるべき文書・図画は拘禁の目的に反せずかつ監獄の紀律に害なきものに限
られるものとしている。そして、その運用については、「収容者に閲読させる図
書、新聞紙等取扱規程」(昭和四一年一二月二二日矯正甲第一三〇七号法務大臣訓
令、以下、「本件取扱規程」という。)および「収容者に閲読させる図書、新聞紙
等取扱規程の運用について」(昭和四一年一二月二〇日矯正甲第一三三〇号矯正局
長依命通達、以下、「本件依命通達」という。)があり、具体的な許可基準を示し
ている。
5 ところで、本件雑誌には次に述べるように閲読を許すべきでない箇所がきわめ
て多い。
(1) 別紙目録記載地号1、4、5、8ないし38の記事
右は、刑務官の戒護方法、戒護権行使に関する適正な職務の遂行があたかも違法で
公務員の暴行陵虐にでもあたるかのような表現の記事ないし刑務官らが意図的に違
法不当な暴行を被拘禁者に加えていると一方的に主張している記事であるが、この
ような記事を被拘禁者に閲読させる場合には、心理的に不安定な被拘禁者は、これ
らの記事のみを無批判に受け入れ、ただちに抗議と称して「暴力反対」を叫んでわ
めき、大声を出して房壁を乱打し、ハンストを始めるなどして所内の全房を騒然と
させ、刑務官の指示に対しことさら反抗的態度を示して所内の紀律を乱す危険を秘
めているのである。この所内紀律の紊乱は、特にいわゆる公安事件関係の被拘禁者
が多数収容されているときには著しい現象としてあらわれるのである。
(2) 別紙目録記載番号2の記事
右は、静岡刑務所における不祥事件を取り扱つたものであるが、在監者の処遇につ
いていたずらに不信感を抱かしめ、また、ことさら抗争的口実を与えて紀律違反を
誘発するおそれのある記事であり、閲読を許すのは不適当である。
(3) 別紙目録記載番号3の記事
右は、事実に反し、在監者に無用の刺激を与えて紀律違反を誘発するおそれのある
記事であるから、閲読を許すのは不適当である。
(4) 別紙目録記載番号6の記事
右は、紀律違反に関する具体的な事例について氏名を明示して列記したものである
が、これを多数の被拘禁者に読ませた場合には、氏名をあげられた者の名誉を侵害
するばかりでなく、その方法をまねた紀律違反を誘発するおそれのある記事である
から、閲読を許すのは不適当である。
(5) 別紙目録記載番号7の記事
右は、本来被拘禁者に知らせるべきでない法廷戒護の方針、被告人の抵抗の状況等
に関するもので、これを閲読させることにより不測の事態を招来するおそれのある
記事であるから、閲読を許すのは不適当である。
(6) 別紙目録記載番号39の記事
右は、刑務当局者に向けられた内部通牒、通達等であつて、木来部外者に知らしめ
るべき性質のものではなく、一般に公布されているものではないところ、右(1)
において述べたように、本件雑誌の論調は公務員の職務執行行為があたかも暴行陵
虐にでもあたるかのような記事など意図的な内容を主体とするものであり、しか
も、この論調における主張内容をなす事実は右通牒、通達等と関係を有するものと
されているとみざるをえない。したがつて、右通牒、通達等の趣旨をも歪曲して伝
えることとなる危険性が強く、右通牒、通達等を被拘禁者に知らしめてことさらな
抗争的口実を与えることを意図しているとも判断されるので、所内秩序の素乱をあ
おり、そそのかすおそれがあり、閲読を許すことは不適当である。
6 本件雑誌には右5で述べたように閲読を許すべきでない箇所が随所にきわめて
多く、しかも、本件雑誌は原告を含めて一二七名もの多数のいわゆる公安事件関係
の未決拘禁者に対し同時に各一冊あて差し入れられていたので、閲読を許すべきで
ない箇所を抹消したりあるいは切り取るための事務量も莫大なものであり、また、
右抹消や切取りのため雑誌の内容、形状を著しくそこなうおそれがあつた。そこ
で、東京拘置所長は、本件雑誌の閲読を許可せずに原告の釈放時に同人に交付すべ
きものと判断し、本件不許可処分をしたものである。
7 以上のとおりであるから、本件不許可処分は監獄法三一条、監獄法施行規則八
六条、本件取扱規程三条一項三号、同条五項、本件依命通達二1(一)(3)、2
(二)・(三)に準拠しているものであり、かつ、東京拘置所長の裁量権の範囲内
における処分であつて、合憲かつ適法なものである。
よつて、被告は原告に対し損害賠償の責を負うものではない。
三 被告の主張に対する原告の答弁および反論
(一) 被告の主張(二)は争う。ただし、同(二)の6のうち、本件雑誌が原告
を含めて一二七名のいわゆる公安事件関係の未決拘禁者に対し同時に各一冊あて差
し入れられたことは認める。
(二) 1 拘置所長と被拘禁者との間には特別権力関係なるものが存しない。
被告の主張する特別権力関係という言葉が、法的にいかなる意味のものであり、憲
法のいかなる法条に根拠をもつものであるかは明らかでないが、もし右の言葉によ
り拘置所長が被拘禁者に対して法律の規定に依拠することなく義務または不利益を
課しあるいは権利を制限することができるということを主張するのであれば、その
ような主張は憲法の各人権保障規定および法律による行政の原理に反するものであ
り、認めることはできない。すなわち、被拘禁者は憲法、監獄法およびその委任を
受けた規則によつての人権利を奪われあるいは義務を課せられるのであつて、それ
以外に、すなわち憲法に根拠をおくことなくいわゆる特別権力関係の相手方として
の拘置所長からその命令によつて権利を奪われるようなことはありえないのであ
る。特別権力関係という言葉は絶対主義的な権力の下においてのみ存続しえたもの
であり、わが現行憲法の下ではもはや死語となつたのである。
2 被告と被拘禁者との間には営造物使用関係は存在しない。
営造物使用関係という言葉は通例特別権力関係の一態様を示す言葉として用いられ
ているところ、特別権力関係論自体成立しえないものであることは右1に述べたと
おりである。さらに、営造物使用関係という言葉は、第一に、被拘禁者は拘置所に
居住することを強制されているものであつて、拘置所を使用しているものではない
という点において不当であり、第二に、被告がここでいう営造物使用関係という言
葉は法的主体と人間の関係について物的側面を強調することにより人権の制限を合
理化しようとするものであり、何よりも国民の人権を保障しようとする憲法の下で
は不当であり使用を許されないのである。
(三) 監獄法三一条および監獄法施行規則八六条はいずれも憲法に違反する。
監獄内の文書・図画の閲読につき監獄法三一条はそのすべてを命令に委ねている。
しかし、わが憲法の要請する法律による行政の原理は単に行政庁の行為が法律に根
拠を有すれば足りるというものではなく、特に国民の権利を制限し義務を課する事
項については、その内容の概略は形式的な意味の法律によつて規定することを要求
しているものと解すべきである。それはすなわち、その内容の形成過程において国
会の審議を経ることによつて直接または間接に国民の意思が反映される必要がある
からである。しかるに、前記のとおり監獄法は在監者の知る権利と密接な関係を有
する事項につき法律では何らの原則さえ示さず、一切を行政庁の命令に一任してい
るのであつて、このこと自体著しく不当であり違憲の疑いの濃いものである。さら
に、監獄法施行規則八六条一項は「文書図画ノ閲読ハ拘禁ノ目的二反セズ且ツ監獄
ノ紀律二害ナキモノニ限リ之ヲ許ス」と定め、在監者には文書閲読の自由はなく、
原則的に禁止される旨を明言している。しかし、憲法一九条はすべての国民に対し
て「知る自由・読む自由」を保障しているものと解すべきであり、このことは受刑
者であれ勾留中の被告人であれ異なることはない。したがつて、受刑者あるいは勾
留中の被告人においても本質的には自由に図書を閲読できるのであつて、刑務所長
あるいは拘置所長の許可によつて初めて閲読できるようになるといつたものではな
い。加えて、勾留中の被告人については単に逃亡および罪証隠滅行為の防止のため
に身柄を拘束されているにすぎないのであるから、右の制約を除いては図書の閲読
を含めて一切の自由と権利が保障されなければならないのである。また、たとえ例
外的に右自由を制限すべき場合があるとしても(たとえば、拘置所から逃走する方
法を具体的に指示するような文書の場合)、厳格な要件を定めてそれをすべきであ
る。したがつて、一般的に在監者から図書閲読の自由を奪い、さらに「拘禁ノ目的
ニ反セズ」、かつ、「監獄ノ紀律二害ナキ」といつたきわめてあいまいな基準で右
の一般的禁止を解除しているところの監獄法施行規則八六条は憲法一九条に明らか
に違反する。
このように、監獄法施行規則八六条は、その規定自体において憲法に違反するが、
さらに新聞や手紙等を合理的根拠なしに大幅に抹消しているその運用の実態に照ら
しても憲法に違反するといわざるをえない。
(四) 別紙目録記載の閲読不適当箇所についての反論(以下、各箇所を別紙目録
の番号により、単に番号1、番号2というように記載することもある。)
1 番号2の記事について
右は、事実そのものであり、被告主張のように不祥事件といつたあいまいなもので
はなく、拘置所の法令を無視した取扱いの一端を示したものである。右記事を読ん
で一般市民のみならず在監者も拘置所の処遇について不信感を抱くのは当然であつ
て、そのこと自体は何ら非難の対象となるものではない。拘置所が自らに対する信
頼を回復するには自らの姿勢を改めれば足りることであつて、それを逆に居直つて
記事そのものを抹消するようなことは許されない。
2 番号6の記事について
右は、東京地方裁判所昭和四四年(行ク)第五五号執行停止申立事件の被申立人で
ある東京拘置所長が同事件の訴訟資料として提出したものであり、何ら秘密とすべ
きものではない。さらに、在監者の権利擁護の観点からいえば、懲罰のための調査
等その決定に至る手続はその結果を含めて在監者に公表されて然るべきものであ
り、また、具体的な懲罰の事例についてもいかなる行為が懲罰の対象となり、どの
程度の懲罰が課せられるかにつき在監者は知る権利を有するというのが法津による
行政の原理の帰結であるから、それを知らせるに何の不都合もない。被告は氏名を
あげられた者の名誉が害される旨主張するが、それは東京拘置所長が前記事件の訴
訟資料として提出したことによりすでに侵害したものであつて、今さら被告がその
ようなことを主張しうる筋合のものではなく、また、氏名を記載された者の名誉の
問題は同人らと本件雑誌の編集者との間の問題にすぎず、東京拘置所長の介入する
余地はないのである。そもそも東京拘置所の被拘禁者へ差し入れられた部分につい
てのみ名誉侵害を云々しても始まらないのである。
3 番号8ないし38の記事について
右は、昭和四五年五月二五日および同月三〇日にいわゆる一〇・一一月闘争事件に
ついて東京地方裁判所が行なつた分割公判の経過のうち看守の行為につき記述した
ものである。被告は右看守の行為はすべて適法な職務行為であつて本件雑誌の記述
はすべて虚偽であるかのような主張をしているが、まず第一に、右看守の暴行行為
は厳に存在したのである。また仮りに、被告の主張が本件雑誌記載の行為は事実と
しては存在したが適正な職務の執行であつたというのであるとすれば、それは存在
する事実につき統一弁護団および被告団と見解を異にするにすぎない。そして、右
見解の相違は然るべき法的手続の中で解消されるべきものであつて、拘置所長が自
らの一方的見解を相手方に押しつけることは許されないのである。
仮りに、本件雑誌の記述が拘置所内の紀律につき被告主張のような危険性をわずか
でも生むものであつたとしても、右看守の行為は、一〇・一一月闘争統一弁護団の
小長井・葉山両弁護士の撮影行為とこれに対する裁判所の制裁を経て同弁護団の辞
任に至る発端をなしたものであつて、統一被告団に属する原告が今後の公判の方針
をたてるにあたつて、あるいは具体的に自らの係属部で被告人としての防禦活動を
なすにあたつて、欠くべからざる知識であつたのである。他方、被告主張の紀律違
反の可能性は本件雑誌の記述とはきわめて低い因果関係しか有していなかつたこと
は明らかである。したがつて、右の事情を考慮すれば、番号8ないし38の記事の
抹消が許されないことは明らかである。
4 番号1、3ないし5の記事について
看守がその職務行為の過程であるいはそれに名を借りて在監者に暴力を振う事例は
数知れない。右記事にはいずれも根拠があり、被告がこれを虚偽として抹消するこ
とは許されない。
5 番号39の記事について
法律による行政の原理は、国民の権利を侵害しあるいは国民に義務を課する場合に
特に要請されるものである。そして、行政権力の恣意から国民の権利を擁護し、か
つ、法的な結果についてその予見可能性を保障するという右原理の目的に照らせ
ば、単に権利制限の根拠が法律によつて定められていればよいというものではな
く、具体的な事例につきいかなる取扱いがなされるのかという点(すなわち、要件
と効果)までが一般的な基準として定立され、かつ、権利の制限を受ける者自らに
知らされていなければならないのである。これを図書閲読の問題に即していえば、
在監者は本件取扱規程および本件依命通達を知ることにより初めて図書の閲読につ
きいかなる取扱いが正当なものとして定められているかを知ることができるのであ
り、本件取扱規程や本件依命通達を知らなければ、これに反する取扱いがなされて
も自らの権利を守ることができないのである。また、明治四一年制定以来ほとんど
改正のなかつた監獄法においては、法の実質的な運用が訓令・通達によつてなされ
ている部分が大きく、その点からも特に在監者にとつて右訓令・通達等を知る必要
があるのである。ことに、被告のような反戦派の労働者や学生の在監者に対して
は、拘置所長により違法な懲罰が課せられるなど数々の違法行為が行なわれたので
あり、このような違法行為に対して自らの権利を守るために訓令・通達を知る必要
性が現存したのである。
したがつて、実質的に国民の権利制限の基準を示す訓令・通達については、行政庁
はむしろ積振的にこれを国民に対して開示すべきであるが、仮りに開示義務がない
としても、特に右基準を知る必要のある者がそれを知りたいと希望した場合には、
これを阻む理由はまつたくないのである。番号39の記事(訓令・通達)はまさに
在監者である原告がそのように希望した場合なのである。
6 以上述べたように、本件雑誌中被告が閲読許可不適当として主張する箇所はい
ずれも閲読を許可すべきであるが、本件とほぼ時期を同じくして府中刑務所在監中
の反戦派の労働者および学生にも本件雑誌が差し入れられたが、府中刑務所長は若
干の抹消をしたうえその閲読を許可した。右抹消部分は本件で被告が閲読不適当箇
所として主張している部分よりも大幅に少なく、特に監獄法に関する訓令・通達等
に関しては一切抹消されていないのであつて、このことからも本件不許可処分が根
拠を欠く違法なものであることが明らかとなるのである。
第三 立証(省略)
○ 理由
一 請求原因(一)の事実は、原告が起訴後小菅刑務所に勾留され、昭和四五年二
月二七日に東京拘置所に移監されたのか、それとも昭和四四年一二月一三日以降東
京拘置所に勾留されていたのかという点を除き、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件不許可処分の違憲性・違法性の有無について判断する。
1 在監者の図書閲読につき、監獄法三一条は一項において「在監者文書、図画ノ
閲読ヲ請フトキハ之ヲ許ス」とし、二項において「文書、図画ノ閲読二関スル制限
ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」と規定し、これを受けて監獄法施行規則八六条一項は「文
書図書ノ閲読ハ拘禁ノ目的ニ反セズ且ツ監獄ノ紀律ニ害ナキモノニ限り之ヲ許ス」
と規定している。そして、成立に争いがない乙第一、二号証によれば、昭和四一年
一二月一三日法務大臣の訓令として本件取扱規程が定められたが、未決拘禁者に対
する文書図画の閲読の許可基準としては一二条一項において「未決拘禁者に閲読さ
せる図書、新聞紙その他の文書図画は、次の各号に該当するものでなければならな
い。一 罪証隠滅に資するおそれのないもの 二 身柄の確保を阻害するおそれの
ないもの 三 紀律を害するおそれのないもの」と規定され、同条五項において
「前四項の規定により収容者に閲読させることのできない図書、新聞紙その他の文
書図画であつても、所長において適当であると認めるときは、支障となる部分を抹
消し、又は切り取つたうえ、その閲読を許すことができる。」と規定されているこ
と、同月二〇日法務省矯正局長は本件取扱規程の運用について本件依命通達を発し
たが、未決拘禁者に対する文書図画閲読の許可基準については、二の1において
「(一)未決拘禁者に対しては、たとえば、 (1)当該施設に収容中の被疑者、
被告人が罪証隠滅に利用するおそれがあるもの (2)逃走、暴動等の刑務事故を
取り扱つたもの (3)所内の秩序びん乱をあおり、そそのかすおそれのあるもの
 (4)風俗上問題となるようなことを露骨に描写したもの (5)犯罪の手段、
方法等を詳細に伝えたもの (6)通信文又は削除し難い書込みのあるものあるい
は故意に工作を加えたもの(中略)などは、その閲読を許さないこと。」とされ、
二の2において「第五項により図書、新聞紙等の支障となる部分を抹消又は切取り
のうえ、その閲読の許否を決定するに当つては、抹消又は切り取りによつて生ずる
問題を十分に検討して行なうものとし、たとえば、(一)携有又は差入による比較
的高価な図書等について、本人の所有に属することが明らかでないため、抹消又は
切取りを行なうことによつて、後日紛糾を生ずるおそれがあるとき (二)抹消し
又は切り取るべき個所が著しく多いなどのため、閲読を許すうえで事務手続が煩雑
になるおそれがあるとき (三)抹消又は切取りを行なうことによつて、図書、新
聞紙等の形状及び内容を著しくそこなうおそれがあるときなどは、その閲読を許さ
ないこと。」とされていることが認められる。
2 原告は、監獄法三一条は在監者の文書図画閲読の制限をすべて命令に委ねてい
る点において憲法の要請する法律による行政の原理に違反する疑いが濃いのみなら
ず、右三一条および監獄法施行規則八六条は憲法一九条に違反する旨主張する。
なるほどわが国においても法律による行政の原理が要請されていることは憲法四一
条等の規定の趣旨からも窺われるところであるが、右原理といえども行政権限の根
拠・行使の基準・効果等行政作用のすべてにわたつてこれを形式的な意味での法律
により規定することを意味するものではなく、法律の委任にもとづきまたは法律を
実施するために一定の範囲で行政権により命令を制定することも認めているものと
解すべきである(憲法七三条六号や八一条にもその趣旨が窺われ、また、条理上も
そのように解すべきである。)。監獄法三一条二項は在監者に対する文書図画の閲
読を制限しうる旨を定めるとともにその制限の具体的内容を命令に委任しており、
これを受けて監獄法施行規則八六条が定められているのであつて、右委任は国会の
立法権を実質的に没却するような無制限な一般的・包括的委任ではなく、国会の立
法権の下に対在監者という一定の関係において文書図画閲読の制限の具体的内容と
いう一定の事項を委任したものと解すべきであるから、監獄法三一条二項は法律に
よる行政の原理に違反しないというべきである。
ところで、未決拘禁は、刑事訴訟法にもとづき逃走または罪証隠滅の防止を目的と
して被疑者または被告人の居住を監獄内に限定するものであるが、被拘禁者は社会
各般の階層から成り、しかも一般社会からその意に反して強制的に隔離収容された
という特殊な環境と被拘禁者の性格や心理状態等によつて精神の平衡を失いがちで
あるから、これらの被拘禁者を多数収容してこれを集団として管理するにあたつて
は、被拘禁者の生命・身体の安全の確保、衛生および健康の管理、施設内の平穏の
確保等その秩序を維持し正常な状態を保持するために、一般社会とはおのずから異
なつた配慮をする必要があるのである。そして、そのためには被拘禁者の身体の自
由を拘束するだけでは足りず、右に述べたような配慮に照らし、必要かつ合・理的
な限度において被拘禁者のその他の自由に対し制限を加えることもまたやむをえな
いものといわなければならない。そして、右の制限が必要かつ合理的なものである
かどうかは、制限の必要性の程度と制限される基本的人権の内容、これに加えられ
る具体的制限の態様との較量のうえに立つて決められるべきである。
そこで、未決拘禁者の図書閲読の自由の制限について考えるに、右自由は憲法一九
条の保障する思想および良心の自由ならびに同法二一条の保障する表現の自由に含
まれるものと解すべきであり、しかも右自由は民主主義社会を支える基本的原理の
一つとしてその価値は高く評価されるべきである。他方、未決拘禁者が閲読を希望
する図書が監獄からの逃走や自殺等を示唆するなど身柄の確保を阻害するおそれが
あつたり、あるいは罪証隠滅に資するおそれがある場合には、未決拘禁の目的に直
接反するものとして、図書閲読の自由が制限されてもそれは必要かつ合理的な制限
というべきである。次に、前記のような監獄内の秩序ないし紀律を維持するために
する未決拘禁者の図書閲読の自由の制限は、その制限の目的が未決拘禁の目的を直
接達成するために必然的に加えられるというものではなく、もつぱら身柄を収容さ
れる施設が前記のように特殊な環境であり、被拘禁者が特殊な心理状態等にあつて
これを集団的に管理するところからくるやむをえない結果であること、図書は兇器
や騒音を発する器具等のように直接紀律違反の手段となりうるものではなく、読者
の心理的影響を通じて間接に紀律違反を惹起する可能性を含むというものであるこ
と、一般社会から隔離された未決拘禁者にとつては図書閲読の自由は一般社会にお
けるよりもいつそう貴重な意味をもつものであることを考え合わせれば、結局、当
該未決拘禁者の性格、監獄内の一般的状況、看守の人員配置その他諸般の具体的状
況の下において、当該図書の閲読が監獄内の紀律を害する結果となる相当の蓋然性
が認められる場合にのみ、当該図書の閲読の制限が必要かつ合理的なものとして許
されると解するのが相当である。
監獄法三一条、監獄法施行規則八六条、本件取扱規程三条、本件依命通達二項も右
の観点に立つて解釈すべきであり、このように解釈するかぎり憲法一九条および二
一条に違反するものではないと考えるべきである。
3 そこで、これを本件雑誌についてみるに、本件雑誌が原告を含めて一二七名の
いわゆる公安事件関係の未決拘禁者に対し各一冊あて差し入れられたことは当事者
間に争いがなく、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認めら
れるので真正な公文書と推定すべき乙第五号証に証人Cおよび同Dの各証言を総合
すれば、昭和四五年四月一日現在において東京拘置所には合計一、六九五名が収容
されていたが、そのうち未決拘禁中の被告人が一、二七六名、懲役刑の執行を受け
ているものが三七七名、禁錮刑の執行を受けているものが一六名、労役場に留置さ
れているものが二二名、監置に処せられているものが四名おり、右未決拘禁中の被
告人のうちいわゆる公安事件関係者(いわゆる東大事件、一〇・二一反戦デー事
件、首相訪米阻止闘争事件等で逮捕され、兇器準備集合、公務執行妨害、建造物侵
入等の容疑で起訴された学生、労働者等の被告人を指す。)が三一八名いたこと、
右収容者の数や内訳は本件不許可処分当時においても大差なかつたこと、当時いわ
ゆる公安事件関係者は、塀外のデモやニユース放送に呼応したり、あるいは朝の点
検の際等何らかのきつかけを見つけては大声で叫んだり、シユプレヒコールを繰り
返したり、インターを高唱したり、拍手、足踏みをしたり、房扉、房壁を乱打した
り、点検拒否その他看守の指示に従わなかつたり、あるいは自己の要求を通すため
ハンストを始めるなどの紀律違反行為が多くみられたこと、しかもお互いの連帯感
ないし同調性が強く、一人が右のような紀律違反行為を始めると次々に相呼応して
他の者も同じような行為を行ない、舎房全体が騒然となることもあつたこと、原告
の場合も房扉を足で蹴つて騒いだため懲罰に処せられたことがあることが認めら
れ、これらの認定を覆えずに足りる証拠はない。
さて、被告は、本件雑誌中別紙目録記載の部分は閲読を許可するのが不適当な箇所
である旨主張するので、検討する。
(1) 番号8ないし38の記事について
成立に争いがない甲第一号証によれば、番号8ないし38の記事は、本件雑誌に
「一〇・一一月闘争公判関係資料(二)」として掲載されているいわゆる一〇・一
一月闘争統一弁護団の抗議声明や裁判所等への申入書、右統一弁護団所属の弁護士
に対する法廷等の秩序維持に関する法律にもとづく制裁の裁判に対する抗告申立書
等に含まれている記事であるが、いずれも昭和四五年五月二五日あるいは同月三〇
日に開かれた東京地方裁判所の刑事公判廷において看守らが被告人らに暴行陵虐を
働いたという趣旨の記事であることが認められる。
一般に監獄内に隔離収容されている未決拘禁者は、その特殊な環境の下にあつて特
殊な心理状態にあるので、看守らが被告人らに暴行陵虐を働いたという趣旨の記事
を読めば看守に対する強い不信感と不安感を抱くに至るであろうことは容易に推察
できるところ、未決拘禁者が前記のように連帯感ないし同調性をもつて紀律違反行
為を行なつていたいわゆる公安事件関係者(原告もその一人である。)の場合に
は、右不信感や不安感を単に自己の心中に留めておくにとどまらず、何らかのきつ
かけをみつけてはこれを看守に対して爆発させ、紀律違反行為を誘発する可能性が
相当あることは証人Cおよび同Dの各証言によつて認められる。そして、右紀律違
反行為が監獄の舎房内を騒然とさせる形で行なわれる場合には、逃走、自殺、通謀
等の発見や予防に支障となるばかりでなく、他の在監者に対する心理的な悪影響も
無視できず、監獄内の紀律ないし秩序を害するに至る相当の蓋然性が認められると
いうべきである。番号8ないし38の記事は、前記のとおりいわゆる一〇・一一月
闘争統一弁護団の抗議声明や申入書等の文章の一部を構成しているものであり、右
抗議声明や申入書等は、いわゆる一〇・一一月闘争統一被告団を構成していた原告
その他のいわゆる公安事件関係者にとつて、同人らの行なつていた統一公判要求運
動の実情を知るためにこれらを閲読する必要性が高かつたことは否定しえないが、
そのことにより番号8ないし38の記事のもつ前記のような効果を減殺するもので
はなく、このことは仮りに右記事が原告主張のように事実に合致するものであつた
としても同様である。
してみれば、東京拘置所長が番号8ないし38の記事の閲読を許可することは不適
当であると判断したことは、前記2で述べたような観点からみて、相当であるとい
わなければならない。
(2) 番号2の記事について
前掲甲第一号証によれば、番号2の記事は「監獄法の問題点--未決勾留について
のリポート--」と題するE(本件の原告訴訟代理人の一人)の文章の冒頭の記事
であり、静岡刑務所でF被告人が鍵のかかつていない部屋でステレオを聞きながら
包丁を使つて料理を楽しんでいるとき、多くの被告人たちはいわれのない冷遇を受
けているという趣旨のものである。
この記事も(1)で述べた番号8ないし38の記事と同様、一般に未決拘禁者がこ
れを読めば監獄ないし看守に対する強い不信感と不安感を抱くに至り、ことに原告
その他のいわゆる公安事件関係者がこれを読んだ場合には何らかのきつかけをみつ
けて右不信感や不安感を看守に対して爆発させ、紀律違反行為を誘発する可能性が
相当あり、したがつて、(1)に述べたのと同じ理由で監獄内の紀律ないし秩序を
害するに至る相当の蓋然性が認められるというべきである。このことは、(1)に
述べたのと同様番号2の記事が事実であるかどうかにより左右されないと考えるほ
かはない。
してみれば、東京拘置所長が番号2の記事の閲読を許可することは不適当であると
判断したことは、前記2で述べたような観点からみて相当であるといわなければな
らない。
(3) 番号1、3ないし5の記事について
前掲甲第一号証によれば、番号1の記事は「監獄法の今日的問題点」と題するG
(本件の原告訴訟代理人の一人)の文章中の記事であり、獄中闘争に対しては看守
による個別的リンチや所長による意図的懲罰という形で必らず報復が加えられると
いう趣旨のものであること、番号3の記事は前記「監獄法の問題点--未決勾留に
ついてのリポート--」と題する文章中の記事であり、保護房が懲罰の先取りとし
て使用されるというものであること、番号4の記事は「『懲罰』に対する闘い--
日弁連人権擁護委員会への申立書--」と題するH(本件の原告訴訟代理人の一
人)の文章中の冒頭の記事であり、監獄内においては何よりも裸の暴力が優先する
という趣旨のものであること、番号5の記事は「懲罰に関する部内関係資料」と題
する文章中のまえがき中の記事であり、看守が被告人におそいかかり、暴行を加え
つつ仮監に連行したという部分を含んでいるものであることがそれぞれ認められ
る。
これらの記事も(1)で述べた番号8ないし38の記事と同様、一般に未決拘禁者
がこれを読めば監獄ないし看守らに対する強い不信感と不安感を抱くに至り、こと
に原告その他のいわゆる公安事件関係者がこれを読んだ場合には何らかのきつかけ
をみつけて右不信感や不安感を看守に対して爆発させ、紀律違反行為を誘発する可
能性が相当あり、したがつて、(1)に述べたのと同じ理由で監獄内の紀律ないし
秩序を害するに至る相当の蓋然性が認められるというべきである。このことは、
(1)に述べたのと同様これらの記事が事実ないし事実にもとづいているかどうか
によつて左右されるものではないと考えるほかはない。
してみれば、東京拘置所長が番号1、3ないし5の記事の閲読を許可することは不
適法であると判断したことは、前記2で述べたような観点からみて相当であるとい
わなければならない。
(4) 番号6、7の記事について
前掲甲第一号証によれば、番号6の記事は前記「懲罰に関する部内関係資料」中の
記事であり、被告人の看守に対する暴行ないし指示違反等の具体的な紀律違反行為
の記述が含まれていること、番号7の記事は番号6の記事に続いて掲げられてお
り、そこにも紀律違反行為についての記述が含まれていることがそれぞれ認められ
る。
これらの記事を前記のとおり連帯感ないし同調性の強い原告その他のいわゆる公安
事件関係者が読んだ場合には、何らかのきつかけをみつけて同様の紀律違反行為を
行なうに至る可能性が相当あり、したがつて、(1)に述べたのと同じ理由で監獄
内の紀律ないし秩序を害するに至る相当の蓋然性が認められるというべきである。
弁論の全趣旨によれば、番号6、7の記事は未決拘禁者に対する懲罰の執行停止申
立事件において相手方である東京拘置所長が裁判所へ提出した疏明資料中からこれ
を転載したものであることが認められ、これに反する証拠はいが、そのことにより
右の結論が左右されるものではないと考えるほかはない。
してみれば、東京拘置所長が番号6、7の記事の閲読を許可することは適当である
と判断したことは、前記2で述べたような観点からみて相当であるといわなければ
ならない。
(5) 番号39の記事について
前掲甲第一号証によれば、番号39の記事はいずれも「監獄法(抜粋)」と題する
部分に収められた監獄法および監獄法施行規則の運用に関する通牒・通達類であ
り、主として収容者の処遇ないし取扱いに関するものであることが認められる。
なるほど右通牒・通達類は刑務行政の部内において上級行政庁より下級行政庁に対
し発せられたものであり、行政庁より未決拘禁者に対し積極的にこれを開示する義
務のないことは明らかであるが、このことと未決拘禁者の方で右通牒・通達類を入
手しこれを閲読しようとする場合にこれを制限できるかどうかという問題とは切り
離して考えるべきである。そして、右通牒・通達類は監獄における収容者の処遇な
いし取扱いの具体的基準等を示すものであり、これにより収容者の日常生活が現実
に規律されあるいは規律されるはずのものであるから、収容者がこれを知る必要性
ないし現実の利益を有することはいうまでもなく、他方、右通牒・通達類の存在を
原告その他のいわゆる公安事件関係者が閲読したとしても、それが逃亡や罪証隠滅
に役立つたり、あるいは紀律違反行為を示唆ないし誘発するほどのものとも考えら
れない。被告は、本件雑誌の論調は公務員の職務執行行為があたかも暴行陵虐にで
もあたるかのような記事など意図的な内容を主体とするものであり、このこととの
関連からすれば前記通牒・通達類の趣旨を歪曲して伝えることとなる危険性が強く
右通牒・通達類を被拘禁者に知らしめてことさらな抗争的口実を与えることを意図
しているとも判断されるので、所内秩序の紊乱をあおり、そそのかすおそれがある
旨主張するが、(1)ないし(4)において述べたように、被告が本件雑誌中公務
員の職務執行行為があたかも暴行陵虐にでもあたるかのような記事など意図的な内
容をもつている旨主張する番号1ないし38の記事についてはその閲読を許可する
ことが不適当であるとした東京拘置所長の判断が相当であり、したがつて、右記事
と番号39の記事とは切り離して考えるべきであり、また、被拘禁者が仮りに右通
牒・通達類に定められた基準を下回る処遇を受けた場合に、右基準に則つた処遇を
するよう要求すること自体は何ら違法視するに足りず、これをもつて紀律違反行為
とすべきではない。したがつて、被告の前記主張は理由がない。
してみれば、東京駒置所長が番号39の記事の閲読を許可することは不適当である
と判断したことは、前記2で述べたような観点からみて、不当であるといわなけれ
ばならない。
4 次に、前記1で述べたように、本件取扱規程三条五項によれば、閲読を許可す
ることが不適当な箇所を抹消しまたは切り取つたうえその余の部分の閲読を許可す
るという方法もあるところ、東京拘置所長はそのような方法をとらずに本件雑誌の
閲読を全体として不許可とする旨の処分(本件不許可処分)をしたものであるの
で、その適否について検討する。前項で検討したように、本件雑誌中閲読許可を不
適当とした東京拘置所長の判断を当裁判所が相当として是認すべきものとする箇所
は別紙目録記載の番号1ないし38の記事であり、前掲甲第一号証に照らせば右記
事は合計三三頁にわたつていることが認められ、また、本件雑誌が合計一二七名の
いわゆる公安事件関係者に各一冊あて差し入れられたものであることは前記のとお
り当事者間に争いがない。
そして、成立に争いがない乙第三号証に証人Cおよび同Dの各証言を総合すれば次
の事実が認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。
本件不許可処分当時東京拘置所には四〇〇名位の職員がいたが、そのうち教育課の
職員は課長も含めて五名であり、そのうち図書係は二名にすぎず、他の課より応援
を求めうるような状況にはなかつた。もつとも、受刑者中より五名ほどを図書夫と
して抹消事務を手伝わせていた。抹消の方法は、抹消すべき部分を切り抜いた枠を
ザラ紙や新聞の広告紙等で作り、その枠を当該図書の上に置き、謄写用インクで右
切り抜いた部分すなわち抹消すべき部分を塗りつぶすのであるが、一つの枠で三〇
部位に使用でき、それ以上は使用が困難となる。本件雑誌のような紙質の場合に
は、新聞紙やザラ紙の場合に比較してインクの吸湿性が悪く、乾くのに時間を要す
る。東京拘置所において昭和四五年八月中に検閲をした図書の数は、同一物を一件
として合計二八、九六二件、点数にして一二九、〇五六点にのぼる(これを一日あ
たり平均すれば一、〇五九件、一、四四七点になる。)。このうち、削除または抹
消した数は八、三二九点、閲読を不許可とした数は二七三点である。なお、本件雑
誌が原告その他のいわゆる公安事件関係者一二七名に差し入れられたのは昭和四五
年七月三一日であつたが、翌八月中にさらに一〇名のいわゆる公安事件関係者にも
各一冊あて差し入れられた。
以上認定の事実にもとづいて考えるに、東京拘置所長が本件不許可処分をするにあ
たつては番号39の記事についても閲読を許可するのが不適当であるとの判断に立
つていたものであるが、当裁判所は前記のとおり右判断を不当とするものであるか
ら、この点において東京拘置所長が本件不許可処分をするにあたり前提としてとつ
た判断の一部には誤りがあつたものといわなければならない。しかしながら、番号
39の記事を除いて考えても、右のように限られた数の職員をもつて著しく多数の
検閲すべき図書をかかえているという事情の下に、抹消すべき箇所が多く、しかも
抹消の方法が新聞紙等に比較して容易でない本件雑誌につき、東京拘置所長が本件
不許可処分をしたことは、前記のような未決拘禁者の図書閲読の自由との関係で必
らずしも望ましい方法とはいえないが、なお合理的な裁量権の範囲内の行為として
これを是認すべきである。
5 以上のとおりであるから、本件不許可処分は監獄法一三一条、監獄法施行規則
人六条に則つた適法なものであり、原告主張のような違憲性・違法性はないという
べきである。
三 のみならず、未決拘禁者の図書閲読の自由との関係でいかなる場合にある図書
が監獄内の紀律を害するものといえるかどうかは必らずしも一義的に明らかな問題
とはいえず、また、図書係職員の事務量との関係でいかなる場合に閲読許可不適当
箇所の削除ないし抹消という方法をとらないで当該図書全体の閲読を不許可とする
ことが許されるかどうかも必らずしも一義的に明らかな問題とはいえず、いずれも
解釈の微妙な法律問題であるから、東京拘置所長が別紙目録記載番号39の記事を
も含めて本件雑誌には閲読許可不適当箇所が著しく多く、右箇所を抹消してその余
の部分の閲読を許可することは著しく困難であるとして本件不許可処分をしたこと
には、仮りに同処分をしたことに違憲ないし違法の点があるとしても、少なくとも
故意はもとより過失もなかつたものと認めるのが相当である。
四 してみれば、その余の点を判断するまでもなく原告の本訴請求は理由がないの
で、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 高津 環 牧山市治 上田豊三)
別紙(閲読許可不適当箇所)目録
1 六頁上段七行目から同一二行目まで
看守による個別的リンチ、あるいは所長による意図的熱罰というようなかたちで、
必らず報復が加えられるのである。例えば、本年四月の日航機ハイジヤツクに関す
る新聞検閲事件では、東京拘置所女区の四四名の公安関係在監者中、のべ四〇名ほ
どの者が看守により暴行を受けており、さらに、その中の多数の者に対しては懲罰
が加えられた。
2 八頁上段一行目から同下段一三行目まで、
一 はじめに
長期勾留と実刑判決が日常化するに伴い、警察署、拘置所、さらには刑務所等にお
ける処遇が避けることのできぬ問題となつてきた。
静岡刑務所で、一人の被告人が、カギのかかつていない部屋でステレオを聞きなが
ら包丁を使つて料理を楽しんでいるとき、いかに多くの被告人がいわれのない苦し
みを味わされていることか。この静岡刑務所の事件を、マスコミは職員の綱紀のた
るみの問題にすりかえてしまつた。しかし、これがF弁護団の解任をねらつた権力
の陰謀であることは、(イ)刑務所側のF被告人に対する詳細な公判指導、(ロ)
弁護団解任の執拗な勧誘、そして(ハ)昭和四三年九月に一看守がF被告人をあま
りにも優遇しすぎているとして、具体的な事実をノート三冊に書いて上申書として
提出し、矯正局長はこれを読んでいた、という事実からも容易に推測できる。
この事件のもう一つの重要な問題点は、所長や保安課長や看守の一存でかくも「優
遇」が可能であるのならば、同じ人間がある在監者を「冷遇」したいと考えたとき
(そして一般にはこの場合の方が多いのであろうが)、どのようなことが起るのだ
ろうか、ということである。われわれが接見室で聞く在監者の訴えは殆んどが違
法、不当な「冷遇」なのである。裏表の関係にあるこの二つの問題は単なる職員の
綱紀の問題ではなく、制度自体の内にはらまれた矛盾といわねばならない。
このリポートでは監獄法のうち未決勾留の部分に限り、その矛盾のあらわれを二、
三指摘することにする。
(1) 第六三回衆議員内閣委員会議録第二二号(昭和四五年五月六日)三五頁以
下、同法湖委員会議録第二三号(昭和四五年五月六日)一頁以下参照(本文は、す
べてこれらの会議録によつた)。
もちろん、ここでは単なる優遇のしすぎが問題なのではなく、優遇までして一体何
を得ようとしたのかが追求されねばならない。そしてまた、本当に優遇といえるの
かどうかも(ことに爆薬、包丁)疑問である。
(2) この看守はその後懲戒免職とされた。
3 一〇頁上段二五行目から同中段一行目にかけて
(K) 保護房が懲罰の先取りとして使用される。
4 二四頁上段二行目から同五行目まで
ここでは、法律が憲法に優先し、政令が法律に優先し、通達が政令に優先し、そし
て何よりも裸の暴力が優先する。
5 三〇頁序文五行目から同一〇行目まで
退廷命令とともに一斉に看守が被告人におそいかかり、暴行を加えつつ仮監に連行
したのであるが、その際、看守が被告人に暴行されたとの不当な理由で、I、J両
被告人に、一カ月余の後の九月四日、一五日間の懲罰の言渡しが行なわれた。本資
料は、東京拘置所当局が、I、J両被告人に対する懲罰を科する過程でだされた部
内資料の一部である。
6 三〇頁下段二一行目から三四頁上段三行目まで懲罰の経緯(本件被告人に関す
る)
一 取調べの端緒
昭和四四年七月三〇日一六時四〇分東京地方裁判所七〇一号法廷において
1 被告人Iは、閉廷と同時に相被告人らとスクラムを組んで職員の退廷連行を拒
み、職員が実力をもつて専用通路に押し出したのちも廊下に座り込むなどして職員
の指示に従わず、仮監への連行を著しく困難にし、さらに仮監廊下においても座り
込んで入房を拒み、そのために仮監独居房に転房させられたが、直後独居房の扉を
三、四回続けて足蹴りにし、
2 被告人Jは、相被告人らとスクラムを組み、職員の退廷連行を拒み、さらに職
員が被告人に対し実カを行使してスクラムを分断し専用通路に連行しようとした
時、連行しようとした職員の右手前腕部に爪を立てて擦過傷を加え、又実力行使に
よつて専用通路に連れ出された後も、専用通路の壁にヘバリつき、両足を一杯に広
げるなどして抵抗した事例があつたとする出廷区長看守長給前正之および関係職員
の報告に基づき、警備隊において前記事実を懲罰事犯として調査することにした。
二 取調べの状況
当時他に懲罰事犯の取調べが山積みしていたことおよび公安関係被告人はほとんど
取調べに当たり事実を否認し、或いは黙秘する傾向があるところから、先ず客観的
な証拠固めをしなければならなかつた。さらに本件については、多数の関係職員か
ら事情を聴取する必要があつたこと等の事情から、本人等に対する取調べがやや延
びることになつたが、同年九月一日警備隊室にI、およびJを順次呼び出し、前記
懲罰事犯の客観事実を説明し、取調べることを告知したうえ、各人につき約一時間
半にわたり取調べに当たつたが、これに対しIは「公判廷であつた事実については
供述する気持はない」と事実の供述を拒否し、その後は頑として黙秘を続け、Jは
「公判廷で発生したことであるから供述したくない」と前記Iと異口同音に事実の
供述を徹底的に拒否した。そこでやむなく本人等に対し供述がなくとも他に証拠を
収集し事実が証明されたら懲罰を科することもあり得る旨告知し取調べを断念し
た。
これに対し本人等は何等の意志表示をもしなかつた。
関係職員の報告書等によつて本名等の各懲罰表記載の事実が証明されたので、同月
三日本人等を順次各別に四区事務室に呼び出し、四区長看守長Kの立会をえて前記
警備隊長の懲罰表記載の事実を読み聞かせた上、懲罰処分相当として申請すること
を告知し、これに対する弁明の機会を与えたが本人等は何等の意思表示をもしなか
つた。
三 懲罰審査委員会の審議
同月三日管理部長、保安部長、教育課長、警備隊および保安課各区長を構成委員と
する懲罰審査委員会において、本人等を含む八名の者の懲罰事犯を慎重に審議した
上、本人等に対し軽塀禁および文書図画閲読禁止各一五日併科を相当とする結論を
出した。
四 懲罰の決定
同月四日右懲罰審査の結果につき所長の決裁を得て、同日一三時三〇分頃、所長に
代わり管理部長Lが、両名を順次四区事務室に呼び出し、軽塀禁、文書図画閲読禁
止各一五日併科の言い渡しを行ない、その後執行に差し支えないとの医師の診断を
得てその懲罰の執行に着手した。
昭和四四年九月一〇日
警備隊長 看守長 M
公安関係被告人の出廷時における懲罰事犯例
(氏名)

(懲罰の種類)
軽塀禁七日 文書図画閲読禁止併科
(事例の概要)
昭和四四年四月八日一一時三〇分頃、地裁仮監独居四房の房壁に釘をもつて「東京
都練馬区<以下略>」「O、P、N」等と落書きした。
(氏名)

(懲罰の種類)
軽塀禁一〇日 文書図画
(事例の概要)
昭和四四年三月二八日一五時四〇分頃仮監より帰所するバス内において共犯者のイ
ンターを一緒になつて合唱し、職員が制止したところ「歌つてはいけない法的根拠
を説明せよ」等の暴言を吐き、数回の制止を無視して歌い続け、車内の静謐を著し
く乱した。
(氏名)

(懲罰の種類)
軽塀禁二〇日 文書図画閲読禁止併科
(事例の概要)
(イ) 昭和四四年三月二八日一三時四五分頃、東京地裁七〇一号法廷で退廷を命
ぜられ職員が直ちに退廷させようとしたところ反抗し、吉江看守の腹部を突き上げ
たり、釦をちぎる等の暴行をなし更に「馬鹿野郎はなせ」と暴言を吐いた。
(ロ) 同日一三時五〇分頃、仮監に還房後「裁判を受けさせろ」と怒鳴り職員の
制止を無視して戻扉を二〇回位蹴り続け、仮監の静謐を著しく害したので、転房措
置をとるも、なお引き続き房扉を蹴つた。
(ハ) 同日一五時四〇分仮監から帰所のバス内において連絆方法につき大声で執
拗に抗議したり更に共犯者に話しかけたりしたので職員が注意したところ「何が悪
いのだ、そんな根拠はどこにある理由を言つてみろ」とさわぎ出し共犯者のインタ
ー放歌に同調し、職員の制止を無視して約一五分間歌い続けバス内の秩序を著しく
乱した。
(氏名)

軽塀禁一五日 文書図画閲読禁止併科
(事例の概要)
(イ) 昭和四四年三月二八日一三時四五分、東京地裁第七〇一号法廷で退廷を命
ぜられ退廷する際、検察官横の机を足蹴りして倒した。
(ロ) 同日一五時四〇分頃、仮監から帰所するバス内において、相被告人のRが
単独連絆されたのを不服として執拗に抗議し或は前席のTに話しかけたため職員か
ら注意を受けたのに反抗して暴言を吐き、更に職員の制止を無視してインターを歌
い続け車内静謐を著しく乱した。
(氏名)

(懲罰の種類)
軽塀禁一五日 文書図画閲読禁止併科
(事例の概要)
昭和四四年六月二日一六時五分頃、東京地裁第三〇九号法廷において勾留理由開示
裁判の閉廷宣告があつたので、V看守が廊下に連れ出したが、法廷内に置き去りに
した草履を同看守がはかせようとしたところ「俺は東拘には帰らないぞ」とわめき
ながら右大腿部を足蹴りした。
(氏名)

(懲罰の種類)
軽塀禁一五日 文書図画閲読禁止併科
(事例の概要)
昭和四四年六月二六日公判を終り帰所するバス内において、革マル派デモ隊が機動
隊に規制されているのを目撃するや「異議なし機動隊ナンセンス」と大声を発し、
職員の注意を無視したので口を押さえ制止したところ「看守横暴」と叫び車内の秩
序を極度にみだした。
(氏名)

(懲罰の種類)
軽塀禁一五日 文書図画閲読禁止併科
(事例の概要)
昭和四四年六月二六日公判を終わり帰所するバス内において、革マル派デモ隊が機
動隊に規制されているのを目撃するや「頑張れ、安保粉砕」と声援し、職員の制止
に対し、「うあ-」と大きな奇声を発して手を叩く等、車内の秩序を極度にみだし
た。(氏名)

(懲罰の種類)
軽塀禁一〇日 文書図画閲読禁止併科
(事例の概要)
昭和四四年七月二日、ZがP1と授受した不正筆記メモ用紙を隠匿所持しているの
を発見取調べたところ、六月下旬頃・本人が学生の活動情報入手のため、P1を介
しZに依頼した不正連絡文書であることが判明した。
(氏名)

(懲罰の種類)
軽塀禁一〇日 文書図画閲読禁止併科
(事例の概要)
昭和四四年七月二日一三時頃、東京地裁法廷において、P1から不正連絡文を受け
取り、読んだ後その裏面に回答を書き送り、双方互いに通じあつた。
(氏名)
P1
(懲罰の種類)
軽塀禁一〇日 文書図画閲読禁止併科
(事例の概要)
昭和四四年七月二日一三時頃、東京地裁公判廷において六月下旬頃、Yから依頼さ
れたP1への伝言を思い出し、弁護人より貸与された筆記用具をもつてZ宛不正連
絡文書をかき渡した。
昭和四四年九月一〇日
作成者 保安課長 P2
公安関係被告人の受罰数
(自四三年一二月一九日 至四四年九月四日総数一一七件)
内訳
主な事犯名(件数)
器物破損(1)不正物品作製(1)落書(15)放歌(2)暴言(6)インク窃取
(1)房扉を足蹴り又は手で叩く(15)畳の上に脱
糞(1)大声(41)指示に従わない(5)職員に暴行(4)食事を窓に投げつけ
る(1)不正授受(1)拒食(20)不正連絡(3)
昭和四四年九月一〇日
作成者 保安課長 P2
7 三四頁上段四行目から三五頁下段二行目まで
法廷戒護に対する当所の方針等について
刑事法廷における戒護については過去裁判官、検察官、弁護人或は証人に対して危
害を及ぼした事例或は在宅被告人または傍聴人との不正連絡更には法廷からの逃走
といつた事例等にかんがみ、これらの事故防止を徹底し併せて訴訟の円滑な進行に
協力するため行政命令(昭和三一年一〇月一〇日刑事二一六七三事務次官通達、昭
和三一年一〇月一五日矯正甲一〇七五矯正局長通達、昭和三二年五月七日矯正甲三
九八矯正局長通達)及び、過去の種々の経験事実の蓄積から帰納された、職務上の
慣行に基づき一貫して適正かつ慎重に運用してきている。
とくに公安関件被告人の戒護については戒護力を増強する反面、被告人、弁護団お
よび傍聴人の三者に対する不必要な刺激をさけるため、行政命令(昭和三二年五月
七日矯正甲三九八矯正局長通達)に基づき通例としている「法廷内での戒具の使
用」をさけ、素早く身柄を専用通路に連れ出し、そこで戒具を使用するという配慮
もしている。
しかし、公安関係被告人の公判においては、本案の審理よりはなれ戒護者の人員、
位置、当所内における処遇の問題、出廷時の処置等が「法廷闘争」および「獄内闘
争」の手段として被告人或は弁護人によつて一方的に事実を誇張歪曲して公判廷に
持ち出され「迅速な審理」を妨害しているのみならず戒護職員の志気にも深刻な影
響を及ぼしている。
更に閉廷後としばしば戒護職員の退廷指示に従わず物理的抵抗を行ない混乱をまね
き、その傾向は被告人が、一〇人程度以上に及ぶ場合や、裁判所の要請により戒護
職員の間に被告人をはさむいわゆる「サンドウイツチ」方式の戒護ができない場合
に著しく増大激化している。
これらの場合止むなく実力を行使するに当たつては常に職員に対して沈静、冷静か
つ適正に実施するよう指導している。
ところで、現実の問題として被告人全員が「ガツチリ」とスクラムを組み頑強に抵
抗した場合、これを一人づつ解きはぐずことは非常に困難であり、まして傍聴人の
怒号の支援等を得て暴れたり、足蹴りしたり、身を突張つたりする者を制止しなが
ら退廷させ、戒具を使用して仮監に連行するという一連の状況下においては、必然
的に双方の力が衝突し、結果は双方に負傷者な生ずることになる。
しかし戒護職員は適正な範囲を堅持して実力を行使するが、被告人は見境いなく力
の限りをつくして抵抗するので、戒護職員は言語に絶する辛苦を味わつている。
にも拘らず被告人自ら混乱の原因をつくり紛争を激化させながら、その責任を公判
廷において発言権のない戒護職員に転嫁し、次回公判の「公判闘争」の手段として
いる。
なお出廷時における戒護に対する妨害により被害のあつた事例を次に掲げる。
〈日時〉三月二八日〈退廷状況〉三名退廷命令〈内容〉職員衣類破損一名、職員腹
部三回突かれる一名、法廷内の机を蹴倒す一名、仮監の房扉蹴る三名、帰途車中で
暴言大声三名、(パトカーの応援あり)
四月二二日午前、午後を通じて二〇名退廷命令 椅子二脚破損一名
五月一三日 職員に対する暴言一名(戒護職員の退席要求はしばしばあるがこの時
は「被告人の周囲にいる冷血動物を取り除け」というものであり、裁判長も注意し
たもの)
五月二八日 全員(一〇名)退廷命令 職員負傷(腕脚の打撲傷等)四名、被告負
傷(手指擦過傷)一名。
六月二日 一名退廷命令 職員負傷(手指裂傷脚打撲傷その他擦過傷)七名、被告
負傷(脚裂傷その他擦過傷)三名。
本年三月以降七月末までの間、退廷を命ぜられた者は実に七〇名を越え、ほとんど
何れも職員の連行行為に激しく抵抗し、次第に狂暴化の傾向をたどつており、出廷
時の戒護を著しく困難にしてきている。しかもこれらの「法廷闘争」は「獄中闘
争」(出廷拒否--五月以降七月まで累計三四〇名、ハンスト--二月以降八月ま
で延べ三二一名、一斉シユプレヒコール等の騒じよう行為で現認された者は二月以
降七月まで一五〇名)と一体として活動し、他の一般被告人にも影響を及ぼし、当
所の秩序維持を極度に困難な状況に落とし入れている。
従つて監獄内における規律違反は言うまでもなく出廷時における規律違反について
も、適正かつ厳格な懲罰を科して対処しない限り公安関係被告人を常時三〇〇名前
後、その他の収容者を一二〇〇名~一三〇〇名を収容している当所における秩序維
持は到底期待できない現況にある。
昭和四四年九月一〇日
作製者 保安課長 P2
8 七五頁下段二五行目から七六頁上段九行目まで
これを聞くや否や勾留中の九人の被告諸君の両脇を固めるように付添つていた看守
二三名が、待つていたとばかりに一斉に被告諸君におどりかかり、暴力的に被告諸
君を拉致し甚だしきは全く物を扱うように椅子ごと運び出すなど、正視に堪えない
乱暴を働いた。
この暴行を現認した弁護団は、一斉に看守、裁判長に抗議すると同時に後日の証拠
保全のため、裁判所に通告のうえ葉山弁護人が暴行を働いている現行犯人たる看守

9 七六頁上段一六行目
看守の暴行
1〇 七六頁中段九行目から同一二行目まで
弁護人らは午前中閉廷後に現実化した看守の暴行と、これまで何回となく豊告され
ている拘置所における懲罰に名を借りた暴行、虐待事案とを考えるとき、
11 七七頁上段五行目
拘置所看守の暴行
12 七八頁下段一行目から同六行目まで
看守が当日出廷した勾留中の九名の被告人諸君を退廷させるに際し、退廷を促すこ
となく、一斉にいきなり被告人諸君におどりかかり、殴る、蹴る等、数々の暴行陵
虐を加えこれを暴力的に拉致するのを現認し、特別公務員暴行陵虐罪の現行犯とし
13 七八頁下段一六行目から同一七行目にかけて
自己の面前で自己の依頼者が特別公務員によつて暴行陵虐を受けているとき、これ

14 八二頁下段二行目から同三行目にかけて
看守が被告人に暴行陵虐
15 八三頁上段一六行目から同一八行目まで
看守らの被告人らに対する暴行陵虐行為を現認したからであるが、右暴行行為の発

16 八三頁下段一五行目から八四頁下段二五行目まで
ところで、弁護人が公判開始前に、地裁仮監において在監被告人と接見した結果、
府中刑務所の看守が被告人に対し、「今日の公判廷で裁判長の命令に違反するとあ
とで問題になるからよく心得てもらいたい」という、被告が「問題になるとはどう
いうことか」と反問すると、 「懲罰をうけることがある」といつて、同人に恫喝
を加えた事実が明らかとなり、この事実並びに右恫喝を加えた看守が他の被告の隣
に在廷していることが恫悄をうけた被告人から公判廷において明らかにされた。ま
た、他の在監被告が立つて発言しようとした際、前記の如く隣に坐つている看守か
ら手で身体を抑えられて、発言を制止されたことがあり、この事実も牧裁判長に対
した訴えられた。このように看守が被告の身体に手を加えて発言を制止することは
本年五月二五日午後における東京地裁刑事第八部(柏井裁判長)の公判廷において
も起きたことで決して偶発的事態ではない。すでに最近新聞雑誌に報道されている
ように、小林法務大臣も自認する、時代後れの監獄法のもとにおいて、東京拘置
所、中野刑務所などに勾留中の反戦・学生被告に対し、非人道的処遇が加えられて
いる。国会においても追及されたが、右拘置所等において被告人が看守に少々口答
えしたとか、正当な要求をしたなどのことで直ちに懲罰をうけて、一〇日前後も入
浴、運動、面会、読書、ラジオ等が禁止されて非人間的生活を強いられているのが
ザラであり、したがつて被告人に対して右のような制裁を課するを常とする看守が
被告人の両脇に密着して在廷したならば、被告人に威圧を与え、被告人を萎縮さ
せ、被告人の訴訟追行権、防禦権を侵害するおそれあることは明らかである。ま
た、前述のような看守の配置では弁護人と被告人の打合わせすらできず、弁護権を
害することも甚だしいのである。しかも、前述のように同日の公判廷において、現
実に看守が被告人に恫喝を加えたり、被告人の発言を制止したりする事実が発生し
たのであつたから、被告人、弁護人はこもごも、右看守の配置が不当であり、法廷
は刑務所の延長であつてはならないことを力説し、看守を被告人の両脇から離し
て、公正なる審理の場を保障すべきことを要求した。しかるに裁判長は被告人、弁
護人の要求を拒否し、その理由の釈明を求められても一切、答えることなく、弁護
人らの発言を禁止し、或は弁護人を退廷せしめて更に手続を強行した。
(3) ところで、この間、在監被告は、右の如き裁判所の強権的訴訟指揮に抗議
し、発言を求めていたものであるが、午前一二時二分頃に至つて、裁判長は右被告
人らの要求を無視したまま、起訴状朗読に入つたので在監被告はこれに抗議する
や、裁判長は右在監被告九名全員に対し退廷を命じ、看守らは右命令を執行した。
ところが、右看守らの執行たるや、一名の被告に二、三名の看守がとびかかつて、
身体ごと外へ引ぎずり出そうとしたり、女性被告の髪の根元をつかんで、廷外に引
ずり出し、足であざが出る程蹴りつけるとか、法廷内で被告をおし倒して、声の出
なくなるまで首をしめ上げ、膝で腹部を強圧するなど機動隊そこのけの凄まじいも
のであり、被告人らは身体のあちこちに、内出血、挫傷、裂傷、などを加えられ、
仮監でマーキロをつけてもらうなど手当をうけたものである。
右のような看守らの行為は正当なる職務行為の範囲を越えたもので、人権じゆうり
んも甚だしい。看守らが退廷命令を執行するに当たつて、何も被告人らの首をしめ
たり、蹴とばしたり、何人掛りで荷物を引きずり出すように扱う必要はないのであ
る。看守らの行為は全く行過ぎであつて、特別公務員暴行りよう虐罪に該当するこ
とは明らかである。
しかも、右のような看守らの暴行りよう虐行為は裁判長の命令一下、日頃の訓練に
ものをいわせ、あつという間に起こつたのである。漫然看過すれば、台風一過、証
拠があとかたもなくなる状況にあつた。従つて、右のような差し迫つた状況にあつ
たから、小長井弁護士は裁判長に通告のうえ、自ら写真機をとり出して右暴行の実
状を撮影しようとしたのである。右は看守らによる暴行りよう虐という違法行
17 八五頁上段二一行目から同二四行目まで
本件のような看守の暴虐な違法行為の現場写真を撮影することの意義と必要性はい
くら強調しても強調しすぎることはない。18 八五頁中段五行目から同六行目に
かけて
看守らの乱暴極まる行為について
19 八七頁下段八行目から同二三行目まで
そしてこれに対し更に発言しようとする被告人に対し両脇の看守が暴力をもつて抑
制し、あまつさえ退廷命令の執行に際し、看守、裁判所警備員が被告人に対して、
五人がかりで体をひき蹴り、女性被告人の髪の毛をひつぱるなど刑法一九五条二項
にある暴行陵虐にあたると思料される事態を現出した。
しかも牧裁判長は被告・弁護団の抗議に拘わらずかかる看守・警備員の暴行陵虐を
制止しようとしなかつたので弁護人は右看守らによる暴行を看過することなく証拠
保全行為として、小長井良浩弁護人に於て(被告人の最善の利益と人権を守るべき
職責を有する弁護人のやむをえざる職務執行行為として)暴行の現場を写真機によ
り撮影せんとしたのである。
20 八八頁上段一四行目から同二三行目まで
看守たちの勾留被告諸君に対する暴行陵虐行為である。同弁護人の面前においてす
でに看守によつて、被告諸君に対し殴る蹴る髪の毛をつかむ等々の暴行、陵虐行為
が繰返され、特別公務員暴行陵虐罪の現行犯が行なわれていた。要するに、被写体
は正視に耐えない暴状であつた。
従つて、そこには看守たちの犯罪行為は存在していても、職務執行行為は一切存在
していなかつた。
21 九一頁上段一二行目から同一六行目まで
とたんに、看守が一せいに被告人諸君におそいかかり、あるいは座席もろとも投げ
飛ばし、あるいは首をしめ、殴る蹴るなどの暴行陵虐をほしいままにしていた。
22 九一頁中段二二行目から同下段八行目まで
それどころか、発言をしようとした被告人を看守が暴力を用いて制止するという事
態が、この法廷でも発生したので、被告団、弁護団が抗議し、看守を横にどけさせ
るよう要求したことに対し、一切理由を示さず拒絶し、これに抗議した在監被告人
に全員退廷の命令を下した。そうしてこの時も、看守が被告人らに対し、あるい
は、床に投げ倒して声の出なくなるよう喉を強圧し、あるいは女性被告人の髪をつ
かんで引きづり出した上床に二度にわたつてたたきつけるなどの暴行陵虐行為をほ
しいままにした。
23 九五頁上段一七行目から同二四行目まで
勾留中の被告人に対しては、看守が出廷前、監獄又は仮監において、法廷で訴訟追
行権を行使し、裁判所に異議をとなえたときには、閉廷後いかなる不利益を加えか
ねまじき勢威を示し、かつ法廷でも発言する被告人を実力をもつて制圧する事態が
続出している。閉廷時には勾留中の被告人に対し暴力を加えて退廷させている。
24 一〇一頁中段八行目から同下段一〇行目まで
(2) 次に、両法廷ともに看守および裁判所警備員の被告人、弁護人に対する暴
行が凄ましくとても防禦権、弁護権の行使できるような状態になかつたことを強調
したい。
拘置所の看守が勾留中の被告人に対し懲罰の名の下に加える嗜謔的な暴力の数々
は、五月に東拘でおきた、手錠のうえに皮手錠付のまま二四時間放置した例をはじ
め枚挙にいとまないほどの実例が報告されている。被告一名に付きその看守二名が
両脇に坐るだけで被告人の法廷活動が精神的に重大な圧迫を受けることは見易いと
ころであり、被告人自身の口から「入廷する前今一緒に坐つている看守から『法廷
で騒ぐと後で懲罰だ』とおどかされた、とてもこわいが懲罰を覚悟して発言してい
る」「今発言のため立ち上ろうとしたら脇の看守から手を抑えられた、このような
状態では発言できない」と裁判長に対し看守を被告人の脇から離すよう要請があつ
たのである。実際に行われた暴行は、発言を求めて立ち上る被告人を三、四人の看
守で椅子にたたきつけるように坐らせたのをはじめ、特にひどいのは閉廷命令後の
廷外への拉致の仕方であり、椅子ごと持ちあげる、髪をつかんで引つぱる、腕をね
じ上げる、床に倒して首を締める、足で蹴るなど正視に耐えない暴行が行われてい
る。この特別公務員暴行陵虐の現行犯の証拠を保全しようと
25 一〇一頁下段二二行目から同二四行目まで
(3) 傍聴人のいないいわば密室で看守の特別公務員暴行陵虐の現行犯を現認し
た弁護士が犯罪の証拠保全のために看守が被告人に暴行
26 一〇二頁上段一一行目から同一二行目にかけて
看守の被告人に対する暴行
27 一〇二頁下段一五行目から同一六行目にかけて
面前で看守の被告人に対する暴行が行われ
28 一〇二頁下段二四行目から一〇三頁上段一行目まで
看守の被告人に対する目を覆わしめるほどの暴行を眼前にしながら
29 一〇五頁中段三行目から同一五行目まで
6 これを聞くやいなや、勾留中の九人の被告諸君の両脇を固めるように付添つて
いた看守二三名が、まつていたとばかりに一斉に被告諸君におどりかかり、殴る、
蹴る、つき倒す等暴行陵虐を加え、はなはだしきは、全く物を扱うように被告人を
長いすごと持ち上げるなどの乱暴を働き、これを暴力的に拉致した。
7 この暴行を現認した弁護団は、一斉に柏井裁判長と看守に抗議したが同裁判長
は右暴行陵虐を制止しようとしなかつたので、裁判所に通知のうえ葉山弁護人が後
日の証拠保全のため、現行犯人たる看守の犯行現場写真を
30 一〇六頁下段一行目から同三行目まで
看守、警備員の前記暴行陵虐が各所において繰りひろげられ、混乱をきわめてい
た。
31 一〇七頁中段一行目から同二二行目まで
1 本件写真撮影の被写体は正視に耐えない暴状であつた。
右、第一の事実経過において明らかなように、葉山弁護人が撮影しようとした対象
は、看守たちの勾留被告諸君に対する暴行陵虐行為である。同弁護人の面前におい
て凄惨にくり広げられた、特別公務の犯罪行為そのものである。
従つて、そこには看守たちの犯罪行為は、存在していても、職務執行行為は一切存
在していなかつた。裁判所といえども特別公務員暴行陵虐行為をもつて、いかにし
ても職務の執行とすることはできない。現に原決定においても、本件行為をもつて
「裁判所の職務の執行を妨害し」たと判断することはできなかつたのである。
2 葉山弁護人の行為は正当職務行為である。弁護人が、自己の弁護すべき被告人
が暴行陵虐を受けているとき、この犯罪行為を制止し、又はこれを防禦すべき職責
を有することは当然であるが、この一端として、現に被告人に対して加えられてい
る暴行陵虐行為を
32 一一四頁上段二〇行目から同二三行目まで
在監被告に看守が暴行陵虐をほしいままにするのを黙認した上、これを制止せんと
する弁護人に退廷命令を発し
33 一一五頁下段四行目から同五行目にかけて
看守が勾留中の被告人に暴行陵虐の行為
34 一一五頁下段一二行目から同一五行目まで
看守が女性被告人の頭髪をつかんでひきずる、被告人に馬のりになつて首をしめる
などの暴行陵虐行為を行なうのを制止しないで
35 一一五頁下段二〇行目から同二一行目にかけて
看守の被告人に対する現行犯的状況を
36 一二一頁中段一五行目から同一七行目まで
そして公判廷での退廷後、看守の暴行に抗議すると懲罰を一〇日以上もうける。
37 一二二頁上段五行目から同六行目にかけて
看守、警備員に暴力行使させた。
38 一二四頁上段一五行目から同一七行目まで
そうしてその執行の際の看守のかつてみない暴行陵虐行為を顔色一つかえずに見守

39 三九頁から六五頁まで

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