弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人伊神喜弘の上告趣意のうち,原判決が被告人の自白の任意性を認めたこと
について判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件
に適切でなく,憲法38条違反をいう点は,記録を調査しても,被告人の自白の任
意性を疑わせる証跡は認められないから,前提を欠き,その余は,憲法違反,判例
違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であっ
て,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,職権で判断する。
1原判決が是認する第1審判示第1及び第2の事実の要旨は,次のとおりであ
る。
被告人は,愛知食肉卸売市場協同組合の組合員で,食肉等の販売等を営むA社取
締役として同社の牛肉買い付け及び在庫把握等を統括し,かつ,食肉等の輸入販売
等の事業を営むB社の代表取締役として同社の業務全般を統括掌理していたもので
あるが,C会(以下「C会」という。)理事であり,C会の傘下組合であるD組合
(以下「D組合」という。)の実質的統括者としてその業務全般を統括掌理し,A
社及びB社の代表取締役として両社の業務全般を統括掌理するなどしていたEらと
共謀の上,(1)と畜された牛のすべてについて牛海綿状脳症(BSE)検査が実
施されることになった平成13年10月18日以前にと畜・解体処理された国産牛
肉を市場から隔離して一定期間保管するという牛肉在庫緊急保管対策事業(以下
「保管事業」という。)を悪用し,真実は,少なくとも45万6805.61㎏は
保管事業対象外の輸入牛肉等であったか又は実在しないものであったにもかかわら
ず,D組合がF(以下「F」という。)に保管事業の対象となる牛肉合計84万9
839.8㎏を保管していると偽って,平成13年10月29日ころから同年11
月13日までの間に,農畜産業振興事業団(以下「事業団」という。)に対し,保
管事業の実施主体であるG会(以下「G会」という。)から同事業の委託を受けた
C会及びG会を介して,2回にわたり補助金交付申請するという不正の手段によ
り,事業団から合計4億8066万9390円の補助金の交付を受け,(2)保管
事業により市場から隔離された牛肉を焼却処分し,再び市場に流通することのない
ようにする市場隔離牛肉緊急処分事業(以下「処分事業」という。)を悪用し,真
実は,少なくとも45万6805.61㎏は処分事業対象外の輸入牛肉等であった
か又は実在しないものであったにもかかわらず,D組合がFに保管している処分事
業の対象となる牛肉合計124万6389.89㎏を焼却処分したと偽って,平成
14年3月15日ころから平成15年1月10日までの間に,事業団に対し,処分
事業の実施主体であるG会から同事業の委託を受けたC会及びG会を介して,2回
にわたり補助金交付申請するという不正の手段により,事業団から合計9億036
7万7720円の補助金の交付を受けた。
2第1審判決は,交付を受けた補助金全額につき,補助金等に係る予算の執行
の適正化に関する法律29条1項違反の罪(以下「補助金等不正受交付罪」とい
う。)が成立するとし,原判決もこれを是認した。
3所論は,補助金等不正受交付罪は,現にFに保管していた保管事業又は処分
事業の対象となる牛肉(以下「対象牛肉」という。)に対応する補助金の受交付部
分については成立しないにもかかわらず,その部分についても同罪の成立を認めた
のは誤りである旨主張する。
そこで検討すると,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項
の文理及び趣旨に照らせば,補助金等不正受交付罪は,不正の手段と因果関係のあ
る受交付額について成立するものと解するのを相当とする。
そして,因果関係については,不正の手段の態様,補助金交付の目的,条件,交
付額の算定方法等を考慮して判断することが相当である。
これを本件についてみると,上記事実関係によれば,本件補助金は,対象牛肉を
市場から隔離するため,これを保管又は処分した場合に,その量に応じて交付され
るものであるところ,被告人らは,対象牛肉に加え,それ以外の又は実在しない牛
肉につき,これらが対象牛肉であってその保管又は処分をしたと偽って,これを上
乗せした合計量に対する補助金の交付を申請し,これに対する補助金の交付を受け
たというのである。そうすると,不正の手段と因果関係のある受交付額は,対象牛
肉以外の又は実在しない牛肉に係る受交付額であり,補助金等不正受交付罪はその
受交付額について成立するというべきであって,第1審判決及びこれを是認した原
判決は,交付を受けた補助金全額について補助金等不正受交付罪の成立を認めた点
において,法令の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない。しかしながら,上記
の誤りは同罪の成否には影響を及ぼさない上,原判決の認定判示したその余の量刑
事情に照らすと,その誤りを是正し検討しても,原判決が是認した第1審判決の宣
告刑は不当であるとはいえないから,本件につき,いまだ刑訴法411条を適用す
べきものとは認められない。
よって,同法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主
文のとおり決定する。
(裁判長裁判官中川了滋裁判官今井功裁判官古田佑紀裁判官
竹内行夫)

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