弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人A、同B、同C、同D、同E及び同Fに対する原判決を破棄する。
     右被告人等に対する本件を福岡高等裁判所に差戻す。
     被告人Gの本件上告を棄却する。
         理    由
 職権によつて調査するに、被告人B、同C、同D及び同Eに対する本件公職選挙
法違反の各公訴事実、被告人Aに対する本件公職選挙法違反の公訴事実中同人に対
する起訴状記載の公訴事実第一の(二)、(四)の(1)乃至(7)及び(五)の
(1)乃至(5)並びに被告人Fに対する本件公職選挙法違反の公訴事実中同人に
対する起訴状記載の公訴事実第二の(一)乃至(三)については、第一審裁判所は
公訴事実はいずれもこれを認めるに足る証拠がないとして無罪の言渡をした。これ
に対し検察官から右判決は事実を誤認したものであるとして控訴の申立があり、原
審は検察官の右控訴趣意を容れ、第一審判決を破棄し、自ら何ら事実の取調をする
ことなく、ただ訴訟記録及び第一審裁判所が取り調べた証拠のみによつて、直に被
告人B、同C、同D及び同E及び同Fに対する前記各公訴事実、並びに被告人Aに
対する前記公訴事実中第一の(四)の(1)及び(7)を除く爾余の事実につきそ
れぞれ有罪の認定をして有罪の判決を言渡したものであることは、本件記録に徴し
明らかである。
 しかし、本件の如く第一審判決が公訴事実の全部又は一部について犯罪の証明な
しとして、犯罪事実を確定せずに無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を
破棄し、何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた
証拠だけで、直ちに右無罪の言渡のあつた部分の全部又は一部について犯罪事実の
存在を確定し有罪の判決をすることは、刑訴四〇〇条但書の許さないところである
ことは、昭和二六年(あ)第二四三六号同三一年七月一八日言渡大法廷判決の示す
ところである。従つて右被告人等に対する原判決には、弁護人の上告趣意に対する
判断をまつまでもなく、判決に影響を及ぼすこと明らかな訴訟手続の法令違反があ
り、これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわねばならない。
 弁護人田中実の被告人Gに関する上告趣意について。
 第一点は違憲を主張するけれども、公職選挙法二五二条の規定が所論の憲法の規
定に違反するものでないことは、昭和二九年(あ)第四三九号昭和三〇年二月九日
言渡大法廷判決の趣旨に徴し明らかであつて所論は理由がない。第二点は量刑不当
の主張で刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同被告人に対し
て同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて被告人A、同B、同C、同D、同E及び同Fに対しては同四一一条一号四
一三条、被告人Gに対しては、同四一四条三九六条により主文のとおり判決する。
 この判決は刑訴四〇〇条但書の解釈及び公職選挙法二五二条一項の合憲性につき
裁判官池田克の反対意見がある外全員一致の意見によるものである。
 裁判官池田克の刑訴四〇〇条但書の解釈に関する反対意見は、昭和二七年(あ)
第五八七七号同三一年九月二六日言渡大法廷判決記載の同裁判官の反対意見及び前
記刑訴四〇〇条但書の解釈に関する大法廷判決記載の裁判官田中耕太郎、同斎藤悠
輔、及び同本村善太郎の反対意見のとおりであり、公職選挙法二五二条一項の合憲
性についての反対意見は昭和二九年(あ)第三〇四五号同三〇年五月一三日言渡第
二小法廷判決記載(刑集九巻六号一〇二七頁)の同裁判官の反対意見のとおりであ
る。
 検察官 長部謹吾関与
  昭和三一年一一月一六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
 裁判官 谷村唯一郎は退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重

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