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平成13年(ネ)第943号 特許権侵害差止請求控訴事件(平成13年12月2
0日口頭弁論終結。原審・東京地方裁判所平成11年(ワ)第9226号)
     判    決
 控訴人(原告) A
 訴訟代理人弁護士 伊東隆
 補佐人弁理士 久保司
 被控訴人(被告) ネクサス株式会社
 訴訟代理人弁護士 永野周志
     主    文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
「原判決を取り消す。
 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の写真付葉書の製造装置を製造、販売、頒
布してはならない。
 被控訴人は控訴人に対し、2194万7000円及びこれに対する平成11年5
月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。」
との判決。
第2 事案の概要
 控訴人は、特許権(発明の名称「写真付葉書の製造装置」)に基づき、被控訴人
の製造販売する装置が特許発明の技術的範囲に属し、製造販売が特許権を侵害する
と主張して、特許権に基づき製造販売行為の差止め並びに補償金及び損害賠償を求
めた。原判決は、本件特許は控訴人の冒認出願によるもので無効であって本訴請求
は権利の濫用に当たり、また、被控訴人には先使用による通常実施権が認められる
として、控訴人の請求を棄却した。
 事案の概要及び争点並びに争点に関する当事者の主張は、原判決事実及び理由の
第二に示されているとおりである。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も、控訴人による本件特許出願は、発明者でない者であってその発
明について特許を受ける権利を承継しないものによる出願であるから、本件特許に
は明らかな無効事由(特許法123条1項6号)が存し、本件特許権に基づく本訴
請求は権利の濫用に当たり許されないものと判断する。その前提となる認定事実及
び判断過程は、原判決事実及び理由の第三の二及び三の1に説示されているとおり
である。
 2 権利濫用該当性を認めた原判決理由に関する控訴理由は、本件特許発明が控
訴人の冒認出願に係るものであるとした原判決の認定、判断は誤りであるというに
あるが、その裏付けとして控訴人が種々主張するところ及び当審における証拠調べ
の結果をもってしても、原判決の上記事実認定及び判断過程を左右するに足りるも
のではない。
 (1) 原判決も認定するとおり、①本件特許発明(平成4年3月18日出願、平成9年
5月2日設定登録)における特徴的な構成は、その審査経過(拒絶理由通知に記載さ
れた引用例の構成、平成7年1月20日付け補正の内容)や本件特許発明の分野、課
題、実施例等に照らすと、構成要件Dの「跳ね上げ板」及び構成要件Eの「霧発生
器」であること、②被控訴人は、昭和62年ころから、写真付葉書製造装置の開発・
製作を続け、平成3年までの間に一連の関連特許出願をしていたものであるところ、
平成3年10月には、跳ね上げ板及び霧発生器を備えていないPCH4000プロトタイプ
(被告第9発明)を完成させ、同年11月13日、同機について特許出願をしたこと、③
その後も被控訴人の開発チームは改良を重ね、跳ね上げ板については、被控訴人の
従業員Cが中心となって平成4年1月11日ころまでに、偏芯カムに係合された跳ね上げ
板を設計、製作し、揺動ローラーに替えてこれをPCH4000プロトタイプに取り付けて
動作確認し、霧発生器については、被控訴人の従業員(現在の代表者)Bが中心とな
って遅くとも同年3月14日までに、蒸気発生器2号機を設計、製作し、これを
PCH4000プロトタイプに取り付け、被控訴人はこの蒸気発生器につき同年5月8日に特
許出願したこと、④当初のPCH4000プロトタイプ(被告第9発明)は、本件特許発明
の構成要件のうちAないしCを備えた写真付葉書製造装置であるところ、被控訴人の
開発チームは、これに、構成要件Dに該当する「跳ね上げ板」を取り付け、さらに構
成要件Eに該当する蒸気発生器を取り付けることにより、平成4年3月14日までに、本
件特許発明の構成要件をすべて備えたPCH4000実用機(被告製品)を完成したこと、
⑤控訴人は、平成2年4月ころから、被控訴人との嘱託契約に基づき被控訴人の写真
付葉書製造装置の開発・製作につき技術的指導、助言を行っており、平成4年3月
18日の本件特許出願当時もその地位にあったものであるが、本件特許発明の明細書
(原判決添付の本件特許公報参照)の図面1には跳ね上げ板が記載されておらず、霧
発生器については、明細書の発明の詳細な説明欄にも「霧発生器46を配設し」(5欄
43行)、「糊の塗布が終わり乾燥しかかった部分に霧発生器での噴霧で適度の湿り
気を与えることで糊の粘着性を回復することができる」旨の記載(5欄17~19行、7
欄9~14行)があるのみで、具体的な構成についての記載や具体的な構造を示す図面
はないこと、が認められる。
 (2) 以上のような認定事実を中心とする原判決説示の事実並びに当審における証
人Cの供述及び甲13号証を総合すると、次のように判断することができ、当審におい
て提出された控訴人の陳述書(甲18、20、21)及びその余の甲12、14ないし17、19
によっても、これを覆すことはできない。
 すなわち、本件特許発明の各構成要件の基本的技術思想は従前から存したもので
あって、控訴人もその発想を有していたものであることがうかがわれる。しかし、
控訴人は、本件特許発明の出願当時、嘱託契約に基づき被控訴人に技術指導を行っ
ていたのであり、被控訴人開発の技術に関しては共同してこれに当たっていたもの
である。そして、本件特許発明の出願及び被控訴人による一連の関連特許出願特許
出願は、基本的な技術的思想というよりはむしろ個々の具体的な構成要件のきめ細
かい改良及び組合せをしてその動作確認を経て出願されたという経過にあること
は、これら本件特許発明等の対象が多くの工程に係る装置から成る写真付葉書製造
装置であることからして自明のことである。また、本件特許発明の特徴的な構成で
ある跳ね上げ板及び霧発生器について具体的な設計、製作、動作確認は被控訴人の
従業員が行ったものであることは前示のとおりである。したがって、控訴人が各構
成要件に関する概括的な構想を有し、助言を与えたことがあったとしても、本件特
許発明の各構成要件の改良及び組合せは、開発チームとしての被控訴人が完成させ
たものと認めるのが自然である。しかも、控訴人は、本件特許発明の各構成要件の
改良及び組合せを完成させた時期につき具体的な主張立証を行っていないのであ
り、この点からしても、控訴人が独自に本件特許発明を完成させたものと認めるこ
とはできない。
 3 よって、原判決説示の先使用による通常実施権の存否について判断するまで
もなく、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当である。
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   永   井   紀   昭
            裁判官   塩   月   秀   平
            裁判官   橋   本   英   史

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