弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 被告が、原告に対し、平成九年二月四日付けでした在留資格の変更を許可しない
旨の処分を取り消す。
第二 事案の概要
 本件は、大韓民国(以下「韓国」という。)国籍を有する外国人で、日本人男性
と婚姻関係にある原告が、出入国管理及び難民認定法(平成元年法律第七九号によ
る改正後のもの。以下、右改正前の出入国管理及び難民認定法を「旧法」といい、
右改正後の同法を「法」という。)二条の二及び別表第一の三所定の「短期滞在」
の在留資格をもって我が国に在留していたが、法二〇条に基づき、被告に対し、法
二条の二及び別表第二所定の「日本人の配偶者等」への在留資格の変更許可申請を
したところ、被告が、平成九年二月四日付けでこれを不許可としたため、原告が、
これを不服として、右処分の取消しを求めた事案である。
一 前提となる事実(以下の事実のうち、証拠を掲記したもの以外は、当事者間に
争いがない事実である。)
1 原告の国籍等
 原告は、昭和○年(一九××年)○月○日、韓国において出生した韓国国籍を有
する外国人女性である。
2 原告の韓国における婚姻状況等
 原告は、昭和五五年三月○日、韓国において、Aと婚姻し、昭和六三年三月○
日、離婚した(乙五九号証の三)。
3 原告がBと婚姻する以前の原告の出入国状況等
(一) 第一回目の入国
 原告は、昭和六三年一二月一三日、東京入国管理局成田支局入国審査官から、旧
法四条一項四号所定の在留資格(以下、「在留資格四-一-四」という。)、在留
期間三〇日とする上陸許可を受けて、本邦に上陸した。
 原告は、平成元年一月一〇日、東京入国管理局(以下「東京入管」という。)に
おいて、在留期間更新許可申請を行い、同日、在留期間九〇日とする更新許可を受
けた。
 原告は、平成元年五月二二日、東京入管において、右在留資格から、旧法四条一
項一六号及び平成二年法務省令一五号による改正前の出入国管理及び難民認定法施
行規則(以下、改正前のものを「旧規則」といい、改正後のものを「規則」とい
う。)二条三号所定の在留資格(以下、「在留資格四-一-一六-三」という。)
への在留資格変更許可申請を行い、同日、在留資格四-一-一六-三、在留期間六
月とする在留資格の変更許可を受けた。
 原告は、平成元年一〇月七
日、東京入管において、右在留資格四-一-一六-三での在留期間更新許可申請を
行い、同日、在留期間を三月とする更新許可を受けた。
 原告は、平成元年○月○日、鎌ヶ谷市長に対し、日本人C(昭和○年○月○日
生。)との婚姻届を提出し、同月一六日、東京入管において、在留資格四-一一六
-三から旧法四条一項一六号及び旧規則二条一号所定の在留資格(以下、「在留資
格四-一-一六-一」という。)への在留資格変更許可申請を行い、同日、在留資
格四-一-一六-一、在留期間六月とする在留資格の変更許可を受けた。
 原告は、平成元年一二月一八日、東京入管において、再入国許可期限を平成二年
六月一六日とする再入国許可を受けて、同月三一日、新東京国際空港から出国し
た。原告は、平成二年一月一〇日、右再入国許可により新東京国際空港から入国し
た。
 原告は、平成二年○月○日、鎌ヶ谷市長に対し、Cとの協議離婚届を提出した。
その後、原告は、同年○月○日、鎌ヶ谷市長に対し、再度、Cとの婚姻届を提出し
た。
 原告は、平成二年五月二九日、東京入管において、在留期間更新許可申請を行
い、同日、在留期間六月とする更新許可を受けた。
 原告は、平成二年一二月一四日、東京入管において、在留期間更新許可申請を行
い、また、同月○日、Cと再度離婚した。被告は、平成三年三月二五日、右申請を
不許可とした。
 原告は、平成三年八月五日、東京入管において、在留資格「短期滞在」への在留
資格変更許可申請を行い、同日、在留資格「短期滞在」、在留期間九〇日(同年三
月一六日までの分)とする在留資格の変更許可を受けた。さらに、原告は、同日、
同在留資格で、二回分の在留期間更新許可申請を行い、同日、それぞれ在留期間を
九〇日とする更新許可を受けた。これにより、原告の最終の在留期限は平成三年九
月一二日となった。
(二) 第二回目の入国
 原告は、平成三年一〇月一八日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期
滞在」、在留期間一五日)し、同年一一月三日、在留期間更新許可(在留資格「短
期滞在」、在留期間一五日)を受け、同日、新東京国際空港から出国した。
(三) 第三回目の入国
 原告は、平成三年一一月五日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期滞
在」、在留期間一五日)し、同月二〇日、新東京国際空港から出国した。
(四) 第四回目の入国
 原告は、平成三年一一月二八日、新東
京国際空港から新規入国(在留資格「短期滞在」、在留期間一五日)し、同年一二
月一三日、新東京国際空港から出国した。
(五) 第五回目の入国
 原告は、平成三年一二月一六日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期
滞在」、在留期間一五日)し、同月三一日、新東京国際空港から出国した。
(六) 第六回目の入国
 原告は、平成四年一月一三日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期滞
在」、在留期間一五日)し、同月二八日、新東京国際空港から出国した。
(七) 第七回目の入国
 原告は、平成四年二月一二日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期滞
在」、在留期間一五日)した。
(八) 第八回目の入国
 原告は、平成七年七月一八日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期滞
在」、在留期間一五日)し、同年八月二日、新東京国際空港から出国した。
(九) 第九回目の入国
 原告は、平成七年八月二二日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期滞
在」、在留期間一五日)し、同年九月六日、在留期間更新許可申請をし、同日、更
新許可を受け(在留資格「短期滞在」、在留期間一五日)、その後、同月二一日、
新東京国際空港から出国した。
(一〇) 第一〇回目の入国
 原告は、平成七年一〇月三日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期滞
在」、在留期間一五日)し、同月一八日、新東京国際空港から出国した。
(一一) 第一一回目の入国
 原告は、平成七年一〇月二三日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期
滞在」、在留期間九〇日)し、同年一一月一三日、居住地を東京都新宿区αとする
外国人登録をし、さらに、平成八年一月二三日、在留期間更新許可申請をし、同
日、更新許可を受け(在留資格「短期滞在」、在留期間一五日)、同日、新東京国
際空港から出国した。
(一二) 第一二回目の入国
 原告は、平成八年二月三日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期滞
在」、在留期間一五日)し、同月一八日、新東京国際空港から出国した。
(一三) 第一三回目の入国
 原告は、平成八年二月二一日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期滞
在」、在留期間一五日)し、同年三月七日、新東京国際空港から出国した。
(一四) 第一四回目の入国
 原告は、平成八年三月一〇日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短期滞
在」、在留期間一五日)し、同月二四日、新東京国際空港
から出国した。
4 原告とBの婚姻と原告のその後の出入国状況等
(一) 原告は、平成八年三月二六日、在留資格「短期滞在」、在留期間一五日と
して新東京国際空港から日本に入国した。
 その後、原告とBは、同年四月一〇日、世田谷区長に対し、婚姻の届出をした。
原告は、同日、新東京国際空港から出国した。なお、Bは、同日まで別の女性と婚
姻関係にあったものであるが、同日付けで、右女性との協議離婚届を届け出てい
る。
(二) 原告は、平成八年四月一八日、在留資格「短期滞在」、在留期間一五日と
して新東京国際空港から入国し、同年五月三日、新東京国際空港から出国した。
(三) 原告は、韓国においても、Bとの婚姻手続を行った(その時期には争いが
あり、原告は平成八年五月三日以降であると主張し、被告は、同年四月一二日であ
ると主張する。)。
(四) 原告は、平成八年五月一五日、在留資格「短期滞在」、在留期間九〇日と
して新東京国際空港から入国した。入国の際、原告は、外国人入国記録の日本滞在
先欄に「東京都新宿区α」、日本滞在予定期間欄に「九〇日」と記載して上陸許可
を申請し、在留資格「短期滞在」、在留期間九〇日とする上陸許可を受けて、本邦
に上陸した。
 なお、渡航目的欄には「こんやく」と記載されている(乙四)が、原告が記載し
たか否かについては争いがある。
(五) Bは、平成八年五月一七日、東京都新宿区βB方居宅において、覚せい剤
取締法違反の容疑で現行犯逮捕され、同罪名で同年六月五日、起訴され、その後、
同月二八日には、銃砲刀剣類所持等取締法違反で追起訴された。
 Bは、同年八月九日、東京地方裁判所において、覚せい剤取締法違反及び銃砲刀
剣類所持等取締法違反により懲役四年六月及び罰金一〇〇万円の判決の宣告を受
け、同判決は、同月二四日に確定した。現在Bは横浜刑務所に服役中である。
(六) Bは、平成八年四月三〇日、東京都世田谷区γから府中市δ地へ住民票を
異動していたが、その後、Bが勾留中の同年六月一三日に、府中市δから東京都新
宿区αへ住民票が異動された。
 そして、原告は、同月一四日、新宿区長に対し、居住地を「東京都新宿区α」、
世帯主の氏名を「B」、勤務所又は事務所の名称を「なし」と記載して外国人登録
申請を行い、同年七月一一日に右外国人登録に係る外国人登録証明書が交付され
た。
5 本件処分に至る経緯
 原告は、在留資格「短
期滞在」で日本に在留していたところ、平成八年八月一日、東京入管において、在
留資格変更許可申請書の「希望する在留資格」欄に「日本人配偶者」、「変更の理
由」欄に「同居」、「在日身元保証人又は連絡先」欄の「氏名」、「住所」、「職
業」欄にそれぞれ「B、新宿区α、私設秘書、営業」と記載して、Bが身元保証し
た日付のない身元保証書、Bの住民票、同年六月一〇日付けで世田谷区長が認証し
たBの戸籍謄本、同年四月一三日付けの原告の韓国の戸籍謄本、Bの平成七年分の
給与所得の源泉徴収票、Bの在職証明書、回答を記載した質問書を提出して在留資
格の変更許可申請をした(以下「本件申請」という。)。
 被告は、平成九年二月四日、原告の右申請に対し、在留資格の変更を適当と認め
るに足りる相当の理由がないとして在留資格変更許可申請を不許可とする処分(以
下「本件処分」という。)を行い、同月五日、同通知書を原告あてに送付した。
二 争点及びこれに対する当事者の主張
 本件の争点は、原告が「日本人の配偶者等」という在留資格に該当するかどうか
(争点1)、短期滞在の在留資格をもって在留する者が在留資格の変更の申請をし
た場合には、「やむを得ない特別の事情」に基づくものでなければ在留資格の変更
を許可しないものとされている(法二〇条三項ただし書)ところ、本件申請に「や
むを得ない特別の事情」があるかどうか(争点2)、本件処分に被告の裁量権の逸
脱があるかどうか(争点3)であり、各争点に関する当事者の主張は、次のとおり
である。
1 争点1(原告が「二本人の配偶者等」という在留資格に該当するかどうか)に
ついて
(被告の主張)
(一) 在留資格該当性と活動の要件との関係について
 法別表の在留資格は、それ自体が独立して存在するものではなく、その資格に基
づく活動と一体となって要件として定立されているものである。
 すなわち、法二条の二第二項で「在留資格は、別表第一又は第二の上欄に掲げる
とおりとし」と規定されているとともに、同項は、「別表第一の上欄の在留資格を
もって在留する者」については、「当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表
の下欄に掲げる活動」をも要件とし、また、同様に、「別表第二の上欄の在留資格
をもって在留する者」についても、「当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同
表の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動」を行うことができる

規定している。そして、別表第一の上欄の在留資格を付与されるためには、その行
う活動が「当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる活動」に
該当することが、また、別表第二の上欄の在留資格を付与されるためには、その者
が「当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる身分若しくは地
位を有する者としての活動」を行うことがそれぞれ必要である。
 また、法は、我が国にとって有益な外国人はできるだけ円滑にこれを受け入れる
が、他方、我が国にとって不都合なあるいは有害な外国人はこれを排除し、もって
我が国の利益を守るという趣旨に基づき、本来、無限に近い広がりを有する人の社
会生活上の活動を在留資格及びそれに基づく活動という類型化により、我が国社会
にとって有益な外国人と不都合あるいは有害な外国人とを振り分け、前者に限って
これを受け入れようとするものである。その場合に判断の要点となるのは、在留資
格がいかなるものかという観点とともに、当該在留資格に基づいて外国人が我が国
で行おうとする活動、すなわち、「その外国人が我が国で何をしようとしているの
か」ということが重要となることはいうまでもない。このような視点に立って、法
は、右のような法整備をしているのであり、かような出入国管理は、我が国に限っ
たことではなく、国際的には一般的に行われているものである。
 さらに、実務上も、空港等における入国審査官の入国審査を例にとると、単なる
形式的な身分、地位等を有することのみを基準として入国の可否を判断するなら
ば、当該外国人の入国の目的も入国後の活動内容も分からず、したがって、その必
要性も判断できないことから、国家としての外国人の出入国管理の用をなさないと
いうことになる。その典型は、国際的な窃盗組織の一員が犯罪行為を目的として入
国しようとする場合であり、その者がいかに一定の地位や身分を有していたとして
も、国家としては、その行おうとする活動が我が国社会の秩序や利益を害するおそ
れがある以上、その入国を拒否する必要があることはいうまでもない。
 右のような観点から、法二条の二第二項は、我が国に在留する外国人は、それぞ
れの在留資格が予定している一定の「活動」を行って我が国に在留するものである
ことを、法七条一項二号は、我が国に上陸しようとする外国人が上陸のための申請
を行う場合、入国審査官が審査しなければならない
上陸のための条件として「別表・・・に掲げる・・・活動のいずれかに該当」すべ
きことを規定しているのである。
(二) 在留資格「日本人の配偶者等」が認められるための「活動」の要件
(1) 以上の観点に立って、法二条の二及び法別表第二に基づく在留資格「日本
人の配偶者等」についてみれば、法律上の婚姻関係が存在することに加え、「日本
人の配偶者としての活動」、すなわち、日本人の配偶者である外国人が、民法七五
二条に基づき我が国においてその配偶者である日本人と同居し、互いに協力し、扶
助しあって社会通念上の夫婦共同生活を営むという活動実態が必要であると解すべ
きである。
 まず、法二条の二第二項において「日本人の配偶者」という資格についてのみ、
その身分又は地位を有する者としての「活動」が不要であるとする規定の構造には
なっていないことは右に述べたとおりである。
 また、法が「日本人の配偶者」という在留資格を認めたのは、日本人と婚姻した
外国人が、その配偶者である日本人と我が国において社会通念上夫婦としての共同
生活を営むために我が国に入国し在留することを可能にしようとするという行政目
的から設けられたものである。このことは、法六条二項の委任を受けた規則六条及
び別表第三が、「日本人の配偶者等」として入国・在留しようとする際には、上陸
の審査のために提出すべき書類として、「当該日本人の住民票の写し」及び「本邦
に居住する当該日本人の身元保証書」の提出を要求し、かつ、法二〇条二項の委任
を受けた規則二〇条二項及び別表第三が、「日本人の配偶者等」への在留資格変更
を申請する場合には、被告が変更を適当と認めるに足りる「相当の理由」があるか
否かを審査するために、当該外国人に対し、「当該日本人との婚姻を証する文書及
び住民票」、「当該外国人又はその配偶者の職業及び収入に関する証明書」及び
「本邦に居住する当該日本人の身元保証書」の提出を要求していることからも明ら
かである。
 そして、入国審査官も、上陸審査において、単に「日本人の配偶者」という身分
のみで審査することはしておらず、右各書類に基づき、その者が我が国において行
おうとする活動が「日本人の配偶者」の身分を有する者としての活動に該当するか
否かについても審査しており、右に述べた解釈は、入国審査の実務にもかなった取
扱いなのである。
 特に、近年における我が国の経済事情、なかんずく高
水準の円高や高賃金から、機会があれば我が国において就労活動に従事することを
希望する外国人は極めて多数に上る。しかしながら、そうした外国人の入国を無原
則・無制約に認めた場合には、我が国の労働市場のみならず、我が国社会の各方面
に様々な問題を惹起するであろうことは容易に推測でき、法も、前述のとおり、外
国人が法別表第一の下欄に掲げる活動以外の就労活動を行うことを認めていない。
そして、「日本人の配偶者等」については、法別表第二の上欄に掲げる在留資格で
あって、法別表第一の上欄に掲げる在留資格をもって在留する者とは異なり、その
活動につき特段の制限がなく、収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活
動を行うについて法一九条二項に規定する許可を要しないことから、日本人の配偶
者としての活動に加えて就労することも制限されない。この結果、昨今、本邦での
就労活動を行うことを目的とする外国人が、この在留資格を隠れみのとして悪用す
る例が後を絶たない状況にある。
 右状況下において、仮に、日本人との間に法律上の婚姻関係はあるが、社会通念
上の夫婦共同生活を営むという実態を欠いている外国人に対しても在留資格「日本
人の配偶者等」を付与しなければならないとすると、我が国での就労活動を目的と
する外国人がブローカーを介在させる等して日本人との婚姻を偽装し、あるいは、
短期間のうちに夫婦生活を放棄したり、もはや婚姻を継続する意思はないのに離婚
せず、形式的に法律上の婚姻関係を継続させたまま、専ら本邦での就労活動に従事
するという事例が大量に発生することを容認することとなる。そして、本件婚姻の
ように、いわゆる偽装婚か否かは事柄の性質上外見的には判別が困難である。
 このような事態は、前述のような、外国人の無制約な就労が日本人の労働市場を
侵害する等の不都合をもたらすこととなり、在留外国人に対する公正な管理という
重要な行政作用を阻害し、出入国管理秩序を根底から破壊するものであって、外国
人の出入国管理行政に責任を有する被告にとって到底容認できない事態といわなけ
ればならない。さらには、かかる事態は、その配偶者たる日本人が偽装婚によって
いわゆる「籍を貸す」といった行為を招来し、我が国の善良な婚姻秩序をびん乱す
ることにもつながるものといわなければならないのである。
(2) これに対し、原告は、別表第二で定められている「永住者」、「日本
人の配偶者等」、「定住者」等は、その活動内容に着目して付与される在留資格で
はなく、一定の身分又は地位に基づいて付与される在留資格であり、法も別表第一
に掲げられた在留資格と、これら法別表第二に掲げられた在留資格と峻別している
と主張する。
 しかし、法は、別表を規定するに際して、別表第一とともに別表第二においても
それぞれ下欄を定め、法二条の二第二項においても、前述のとおり、「別表第二の
上欄の・・・引用する・・・同表下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者として
の活動を行うことができる」と規定し、各表の下欄で各在留資格に伴う「活動」に
着目しているのである。
 なお、法が別表第一と同第二に分けて規定したのは、前述のとおり、別表第一に
ついては、上欄の在留資格が予定する活動に着目していることから、これを整理し
たものであり、別表第二においては上欄の在留資格の身分又は地位に着目して整理
したものであり、規定の整理という法制上の問題にすぎない。そして、前に述べた
とおり、別表第二の在留資格においても、「活動」が要件とされているのである。
 そして、原告も別表第一について活動内容を判断対象とする点を認める以上、別
表第二においても同様に、該当在留資格に基づき、法二条の二第二項に規定するよ
うに「同表下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動」を検討せざる
を得ないはずである。
 法二条の二第二項で「在留資格は、別表第一又は別表第二の上欄に掲げるとおり
とし」と規定されているのは、法が我が国にとって有益な外国人はできるだけ円滑
にこれを受け入れるものの、前に述べたとおり、我が国にとって不都合なあるいは
有害な外国人はこれを排除し、もって、我が国の利益を守るという趣旨に基づき、
在留資格は別表第一又は別表第二の上欄に掲げる場合にのみ許容し、別表第一又は
別表第二の上欄に掲げられなければ他の事由をもっても在留は認められないとい
う、いわば制限列挙であることを明らかにしたにすぎない。
 そして、法七条における入国審査においても、前に述べたとおり、同条一項二号
は、我が国に上陸しようとする外国人が上陸のための申請を行う場合、入国審査官
が「申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでな」いこと及び「別
表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位・・・を有する者としての活動のいずれか
に該当」することを審査すべきである旨規定して
おり、現にそのとおり入国審査がなされているのである。
 仮に、原告の右主張が正当であるならば、在留資格である各別表の上欄のみを規
定すれば足りるのであるし、また、あえて法二条の二第二項のような規定の仕方を
する必要もないはずである。
(3) 原告は、現在我が国で施行されている税法、社会福祉法等のあらゆる法制
の中で、「配偶者」に法律上有効に婚姻している者以上の意味内容を付している法
令は存在せず、また、所管官庁の解釈により、「配偶者」該当性を限定するような
取扱いもしていないにもかかわらず、入管行政においてのみ、「配偶者」該当性を
所管庁が判断できるような取扱いは、我が国法体系全体からみても、著しく不整合
であると主張する。
 しかし、在留資格としての「日本人の配偶者等」の要件としては、前に述べたと
おり、「法律上有効な婚姻関係が存すること」とともに、「日本人の配偶者として
の活動」が必要であり、前者の法律上の解釈には議論があるにしても、後者の要件
が必要であることには変わりがない。
 なお、「配偶者」の定義についても、社会保障法たる農林漁業団体職員共済組合
法二四条一項での遺族給付を受けるべき「配偶者」の解釈、国家公務員等共済組合
法二条一項における同様の解釈のように、各法令の趣旨、目的等に従って解釈され
るべきものである。
(4) 原告は、仮に「日本人の配偶者等」の在留資格について法律上有効な婚姻
関係があるだけでなく、当該外国人が本邦において行おうとする活動が必要だとし
ても、その活動内容は必ずしも同居を要するものではないと主張する。
 しかし、「日本人の配偶者としての活動」とは日本人の配偶者である外国人が、
民法七五二条に基づき、我が国においてその配偶者である日本人と同居し、互いに
協力し、扶助しあって社会通念上の夫婦共同生活を営むという活動実態をいうもの
である。
 すなわち、法二条の二第二項では、その身分又は地位に基づく活動の内容は明記
されていない。
 そして、通常配偶者は、同居して夫婦の共同生活を維持し家庭生活を継続してい
くものであり、同居は配偶者という身分又は地位に基づく活動の基礎となるもので
ある。このことは、民法七五二条においても、活動実態の基礎を夫婦の同居、相互
の協力、扶助に求められているところである。したがって、法二条の二第二項及び
別表第二の下欄が右のとおり日本人の配偶者という身分又は地位に基づ
く活動を具体的に規定しなかったのは、そうした活動の基礎として夫婦が同居して
生活することを前提にし、また、全法令体系の中でそのよりどころとなる民法の右
規定を当然に予定していたものということができるのである。
(三) 原告の場合
(1) 原告とBとの本件婚姻は、それが双方の真意に基づくものであるかは多大
の疑問が残るところであるが、この点をおくとしても、少なくとも、原告は、本件
申請時にBと同居することは不可能であったのである。したがって、「日本人の配
偶者」としての「活動」の重要な要件の一つである「同居」が実現していない以
上、夫婦共同生活の実現は不可能又は著しく困難であって、そもそも法二条の二第
二項に該当しない。それにもかかわらず、本件申請は、在留資格の変更を求めてい
るものであって、不適法であり、そのように取り扱った本件処分は適法である。
(2) 仮に、「日本人の配偶者」としての「活動」として認められるために「同
居」が必要とされない場合があり、配偶者として認められるそれ以外の活動があれ
ば、それで、足りると解するとしても、本件では、その程度の活動さえ存しないと
いうべきである。
 すなわち、「日本人の配偶者等」としての活動は、法がそれに基づき在留資格を
付与するという効果の観点から、それにふさわしい程度の活動が必要である。そし
て、本件をみると、原告は、Bとの面会、差し入れ及び手紙のやりとり、Bの持ち
物の保管、Bの知人からの連絡への対応等しかしていない。しかし、これらの行為
は、原告に「日本人の配偶者等」の在留資格を与えなければできないような活動で
はなく、原告自身が行わなければならない活動でもない。したがって、原告が主張
するような活動の程度では、原告が主張するような「配偶者としての活動」にも足
りないというべきである。
 なお、原告は、Pビルの契約更新の手続をしたり、家賃や公共料金を支払ったり
する活動も挙げている。しかし、Pビルは、Bとの婚姻以前から原告が自らのため
に賃借を継続してきたものであり、原告が現在我が国に残留するために使用してい
る住居にほかならない。家賃や公共料金の支払いについても、自らが居住している
ことに伴う費用にすぎない。
 また、原告は、「日本人の配偶者等」の活動として、Bが、原告の存在を支えに
して受刑していることをあげている。しかし、原告がそうした精神的支えになるこ
とが精神的
支援の域を超えて日本人の配偶者としての「活動」と直ちに結びつくものではない
し、また、そのこと自体が「日本人の配偶者等」の在留資格を取得させてまで認め
るべき活動ともいえない。
 したがって、原告の主張を前提にしても、「日本人の配偶者等」という在留資格
が認められるものではない。
(原告の主張)
(一) 日本人の配偶者としての活動が「日本人の配偶者等」の在留資格該当性の
要件とはならないこと
 法別表第二の「日本人の配偶者等」に該当するには、法律上有効な婚姻関係のみ
が存在すれば足り、被告が主張するような「日本人の配偶者としての活動」までを
も要するものではない。
 被告は、法別表第二に掲げられた「日本人の配偶者等」について、その在留資格
を付与されるためには、「『当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄
に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動』」がなければならないことの
根拠として、「法別表の在留資格はそれ自体が独立して存在するものではなく、そ
の資格に基づく活動と一体となって要件として定立されている」ということを挙げ
ている。
 しかし、法二条の二第二項は、単に「在留資格は、別表第一又は別表第二の上欄
に掲げるとおりとし」とするのみである。つまり、法別表第一、第二の上欄に該当
する者については、直ちに在留資格該当性が認められるのである。
 もっとも、法別表第一記載の在留資格については、本邦における活動内容に応じ
て付与されるものであるから、当該在留資格該当性を判断するに当たっては、その
活動内容を判断せざるを得ない。つまり、法別表第一記載の各在留資格は、本邦入
国後の活動内容に着目して、その内容に応じて付与される在留資格であって、これ
らでは、本邦での活動内容により在留資格の種類及びこれを付与するか否かが決定
される。
 これに対し、法別表第二で定められている「永住者」、「日本人の配偶者等」、
「定住者」等は、その活動内容に着目して付与される在留資格ではない。これら
は、一定の身分又は地位に基づいて付与される在留資格であり、だからこそ、法は
法別表第一に掲げられた在留資格と、これら法別表第二に掲げられた在留資格とを
峻別しているのである。
 よって、法別表第二の在留資格については、上欄に掲げられている身分又は地位
さえあれば、直ちに当該在留資格の該当性が認められるものである。そして、法は
法別表第二の「日本人の
配偶者等」につき、特に別途定義規定を置いているわけではないから、法律上の婚
姻関係さえあれば、「日本人の配偶者等」の在留資格該当性も認められると解すべ
きである。
 この点につき、現在我が国で施行されている税法、社会福祉法等のあらゆる法制
の中で、「配偶者」に法律上有効に婚姻している者以上の意味内容を付している法
令は存在せず、所管官庁の解釈により、「配偶者」該当性を限定するような取扱い
もしていないのであって、入管行政においてのみ、「配偶者」該当性を所管庁が判
断できるような取扱いは、我が国法体系全体からみても、著しく不整合であるとい
わざるを得ない。
 以上からすると、法別表第二の「日本人の配偶者等」に該当するには、法律上有
効な婚姻関係のみが存在すれば足り、法はそれ以上の要件を付加していないと解す
べきである。
 そして、本件では、原告はBの法律上有効な配偶者であり、この点は当事者間に
争いはないのであって、原告は「日本人の配偶者等」の在留資格に該当するという
べきである。
(二) 日本人の配偶者としての活動の内容について
 仮に、被告が主張するように、「日本人の配偶者等」の在留資格該当性につい
て、法律上有効な婚姻関係があるだけではなく、当該外国人が本邦において行おう
とする活動が、日本人の配偶者としての活動に該当することが必要だとしても、そ
の活動内容としては、必ずしも同居を要するものではない。
 すなわち、法が法別表第一の下欄に掲げる在留資格について、当該下欄に我が国
において行うことができる活動を個別具体的に規定しているのと異なり、法別表第
二の「日本人の配偶者等」の下欄には、我が国において有する身分又は地位とし
て、「日本人の配偶者」と規定するのみで、日本人の配偶者としての活動内容を個
別的・具体的に定めておらず、その他その活動の内容及び範囲を具体的に認識でき
るような規定も存在しない。そこで、「日本人の配偶者としての活動」について
も、社会通念に従って、その内容及び範囲を確定していくほかはないことになる
が、単に同居の事実がないからといって、社会通念上、「日本人の配偶者等」とし
ての活動に該当しないということはできない。例えば、夫が長期単身赴任している
ような場合に、留守宅を守っている戸籍上の妻を「配偶者ではない」というのが、
社会通念に反することは明らかである。
 この点、被告は、規則二〇条二項及び規則別表
第三が、「日本人の配偶者等」への在留資格変更を申請する場合に、「当該日本人
との婚姻を証する文書及び住民票」、「当該外国人又はその配偶者の職業及び収入
に関する証明書」、「本邦に居住する当該日本人の身元保証書」の提出を要求して
いることなどから、「日本人の配偶者としての活動」は、民法七五二条に基づき我
が国においてその配偶者である日本人と同居し、互いに協力し、扶助しあって社会
通念上の夫婦共同生活を営むという活動実態が必要であると主張する。しかし、こ
れらの手続要件は、在留資格の認定を適正に行うためのものであって、右の要件が
定められていることをもって、「日本人の配偶者等」の在留資格が認められるため
には、夫婦としての同居・協力・扶助の関係が現実に存在しなければならないもの
と限定的に解することは相当ではない。
 以上から、仮に「日本人の配偶者等」の在留資格該当性について、「日本人の配
偶者等」としての活動が必要だとしても、必ずしも同居を必要とするものではな
く、社会通念上、配偶者としての活動と認められるものがあればよい。
(三) これを本件についてみるに、以下に述べるとおり、原告は、日本人である
Bと実際に婚姻生活を営む意思で婚姻をし、かつ、現在も日本人の配偶者としての
活動を行っているので、原告は、日本人の配偶者等の在留資格に該当するといえ
る。
(1) 原告は、昭和六三年一二月、日本語を学ぶため来日し、翌平成元年より、
日本語学校に入学した。そして、原告は平成三年五月ころ、原告が電話ボックスに
忘れたハンドバッグをBが拾ったことがきっかけで、Bと知り合い、食事をした
り、電話で連絡を取り合うようになった。
 なお、原告はBと知り合う前に、Cと二度婚姻と離婚をしているが、本件処分か
ら七年も遡ることであって、本件処分の違法性を判断するに当たっては全く関連性
のないことである。
 原告はBと知り合った後、同人と交際をするようになった。原告は日本と韓国を
行き来しながら、日本滞在中はBと一緒に新宿御苑に行ったり、Bから日本の文化
を教わったり、Bの紹介で着物の教室に通ったりして、交際を深めていった。しか
しながら、当時Bが前妻と正式に離婚していなかったこと及び原告とBの年齢が離
れていることを理由に、原告の母親が結婚に反対したことから、原告とBは婚姻せ
ず、次第に両者の仲は疎遠になった。
(2) 原告はBとの交際が中断した後
、平成五年ころ、Dと知り合い、交際をするに至った。そして、同人と結婚をする
つもりで平成七年一月、原告が現在居住しているPビルのアパートを借りたが、D
は右Pビルから失踪し、同年四月自殺をしてしまった。そこで、原告はBに連絡を
し、相談をするうち、再度同人との交際が始まった。
(3) 原告はBとの交際が復活してから、短期滞在の在留資格の許可を受けつ
つ、日本と韓国を何度も行き来し、原告が日本に滞在している間は、右Pビルにお
いてBと生活をした。具体的には、Bは右αから仕事に出かけ、仕事が終わった後
の夜には同ビルに戻り夕食を一緒に食べ、同じベッドで眠りにつき、セックスもそ
こでするという生活だった。原告は、部屋の掃除、夕食の準備や後かたづけ、入浴
の準備等、一般家庭における日常家事を担当していた。当然のことながら、原告及
びBの着替えもすべて右αに置いてあった。そして、ときには近所のトンカツ屋に
外食に行ったり、休日にはドライブをしたり、新宿御苑、上野公園、明治神宮など
に遊びに行ったりもした。
 また、原告はBのことを「パパ」等と、Bは原告のことを「N」とお互いに呼び
合い、Pビルの家賃を含めた生活費や原告の渡航費はBが負担するなど、籍を入れ
ていないことを除けば、正に「夫婦」そのものの日常生活を行っていた。
 なお、Bは、平成八年四月、住民票をEの住所地に異動させている。これは、B
とEとの金銭的なトラブルから、場合によってはBがE宅に居住することを予定し
ていたためであるが、実際にBが右住所地に居住した事実はない。
 そして、平成八年四月一〇日、Bが前妻と正式に離婚できたことから、同日、原
告とBは婚姻届を提出した。
(4) 婚姻届を提出した日に、原告はいったん韓国に帰国し、平成八年四月一八
日来日して、再び同年五月三日には帰国し、その後同月一五日に短期滞在の在留資
格(在留期間九〇日間)で来日した。この点、原告が韓国で日本人の配偶者として
の在留資格証明書を取得せず、短期滞在の在留資格で来日したのは、短期滞在の在
留資格で来日した後、日本において在留資格の変更を行うことができるとの在韓日
本大使館職員のアドバイスを受けたからである。そして、原告の入国時にも、成田
空港で来日目的を結婚したBと生活をすることである旨入国審査官に説明したとこ
ろ、同審査官において入国記録の渡航目的欄に「こんやく」と記載した上で
、短期滞在の許可のスタンプをパスポートに押したのである。
(5) しかし、平成八年五月一七日、Bは逮捕され、同年八月九日に懲役四年六
月及び罰金一〇〇万円の判決を受け、同人は横浜刑務所で服役することとなった。
原告は、Bの妻として、Bの逮捕後現在に至るまで、拘置所及び刑務所に頻繁に面
会のために訪問したり、新聞等を差し入れたりするとともに、Bの罰金を立て替え
た者に対し、月三万円ないし五万円ずつを返済している。そして、原告は、Bの妻
として、同人の衣服、靴、パスポートや書類等、Bの所持品を前記のαにおいて現
在も保管し、同人が出所して家に戻ってくるのを待ち続けているのである。
 他方で、Bも原告に対し、頻繁に手紙を書いている。手紙の中で、Bは、自らの
所持品を原告に送付し、その管理、処分を依頼したり、原告及びBの住居の契約の
心配をしたり、差し入れの希望をしたり、Bが被害を受けた交通事故の示談手続を
依頼するなど、Bが刑務所に在監していることから行い得ないことを妻である原告
に依頼している。これらは、仮に原告が韓国に帰国していたとしたら到底なし得な
い日本人の配偶者としての活動である。また、原告が日本にいて、面会に度々訪れ
たことが、Bが受刑生活を送る上で最大の精神的支えになっていることを見て取る
ことができるし、Bは、出所後には原告とのコミュニケーションをより円滑に行う
べく、韓国語の勉強に励んでいるのである。さらに、Bが仮釈放されるためには、
身元保証人の存在が不可欠であるが、Bは他の家族とは疎遠になっており、妻であ
る原告が本邦に滞在して、身元保証人となることが必要なのである。
(6) このような受刑中のBを、物心共に支えている原告の活動が、社会通念
上、日本人の配偶者としての活動に該当することは明白である。
(四) 以上から、原告に「日本人の配偶者等」の在留資格が認められることは明
らかである。
2 争点2(原告の在留資格変更申請にやむを得ない特別の事情があるかどうか)
について
(被告の主張)
(一) 本件のように、在留資格を「短期滞在」から変更する場合には、法は、在
留資格の変更について、「短期滞在の在留資格をもって在留する者の申請について
は、やむを得ない特別の事情に基づくものでなければ許可しないものとする。」と
規定している(法二〇条三項ただし書)。
 この「やむを得ない特別の事情」とは、事柄の性質上、「短期
滞在」の在留資格を受けて入国した後あるいは「短期滞在」の在留資格で在留中
に、新たに在留資格の変更を必要とするような事情が発生し、かつ、当該申請者が
いったん出国してしまうと、その変更許可申請に係る在留目的で再度入国すること
が極めて困難である場合や人道上の必要性等がある場合等の特別の事情をいうと解
され、このような特別の事情が認められない場合には、やはり、在留資格の変更は
許可されないのである。
(二) 「短期滞在」の在留資格を有する者からの変更許可申請について、右のよ
うな特別の事情が要件とされるのは以下の理由によるものである。
 すなわち、「短期滞在」の在留資格は、「本邦に短期間滞在して行う観光、保
養、スポーツ、親族の訪問、見学、講習又は会合への参加、業務連絡その他これら
に類似する活動」(法別表第一の三の表)を行おうとする者に付与されるものであ
り、これらの者は、目的達成に要する期間が短期であり、その後速やかに本邦から
出国することが予定されていることからこそ、一般的には、査証の発給に当たって
も、在外公館限りで比較的容易に査証が発給され、簡便な入国手続により入国を認
めているのである。
 他方、外国人が長期在留を希望し、あるいは、職業活動に従事しようとするよう
な場合には、その者の入国が国内の経済・社会等に及ぼす影響が大きくなるので、
入国・上陸しようとする者がいかなる外国人であり、その者の入国や上陸後の活動
により我が国の経済・社会等に好ましくない影響を与えるおそれがないかどうかを
事前に十分に調査し把握する必要が高く、加えて、その判断を行うための情報や資
料はその外国人の本国や居住地でなければ収集困難であることを考慮して、入国・
上陸の前にあらかじめ外国人の本国等にある在外公館において査証を申請させ、そ
の外国人に関する情報や資料を当該在外公館において収集した上、その者の入国・
在留について問題がないかどうかを慎重に判断することとしている。そして、この
ことは、本邦に入国しようとする外国人の上陸の審査においても同様なのであっ
て、長期滞在や就職を目的とする場合には、特に慎重な審査を行っているのであ
る。
(三) このような趣旨から、法は、短期滞在のため入国した者の在留資格の変更
について、法務大臣に対して「やむを得ない特別の事情に基づくものでなければ許
可しないものとする」という制約を課しているのである。そ
して、「短期滞在」の在留資格で在留する者がその目的すなわち在留活動の変更
(在留資格の変更)を希望する場合には、当初から長期在留等を目的として入国し
ようとする者との公平を図り、また出入国管理上の秩序を維持するなどの見地か
ら、これらの者に対する入国審査と同じ審査を経させる必要があることになる。
 結局、「短期滞在」からの在留資格変更許可は、「やむを得ない特別の事情」が
ある場合に限ることと規定されているのは、このような「短期滞在」という在留資
格の性質から来る当然の制約ということができるのである。仮にこのような制限が
なければ、長期在留や就職、事業の経営等を真の目的とする外国人の多くは、まず
は「短期滞在」の在留資格で入国し、なし崩し的に既成事実を積み上げ、その後に
在留資格の変更を申請して許可を受けようとする事態を生ずるが、これが容認され
れば、外国人の公正な入国管理に重大な支障を及ぼすこととなるのは必至である。
(四) 原告は、申請書の記載欄・提出資料上「やむを得ない特別の事情」を記載
すべきことは求められていないこと、在留資格変更許可申請全体に対する不許可の
率は低いものであることから、「やむを得ない特別の事情」の有無は、実務上はほ
とんど審査されておらず、本件のみ「やむを得ない特別の事情」がないことを理由
に本件処分を行うことは平等原則に違反すると主張する。
 しかし、前述のように、「やむを得ない特別の事情」とは、「短期滞在」の在留
資格を受けて入国した後、あるいは「短期滞在」の在留資格で在留中に、新たに在
留資格の変更を必要とするような事情が発生し、かつ、当該申請者がいったん出国
してしまうと、その変更許可申請に係る在留目的で再度入国することが極めて困難
である場合や人道上の必要性等がある場合等の特別の事情をいうものである。そし
て、このような特別の事情の有無は、専ら申請人の主張に係る「変更の理由」につ
いて、そのような事情があるか否かに基づいて判断されるところ、申請書に「やむ
を得ない特別の事情」を記載する欄がなく、規則二〇条及び別表第三が提出書類と
して殊更に「やむを得ない特別の事情」を立証する資料を提出すべき旨定めていな
いからといって、被告が「やむを得ない特別の事情」の有無を考慮していないとい
うことはできない。
(五) なお、原告は、外国人が本邦在留中に婚姻し、同居生活のために本邦に引
き続き在留を
希望する場合や、当初から長期間本邦に滞在することを目的としていながら「短期
滞在」の在留資格で入国し、その後「日本人の配偶者等」の在留資格への在留資格
変更申請を行う日系二世の場合と比較して、本件処分が平等原則に違反する旨主張
するようである。しかし、これらはいずれも本件と比較する例としては失当であ
る。
 すなわち、原告は本邦入国以前から日本に長期間滞在することを予定していたも
のであると認められ、また、原告の本邦への出入国状況からも本来意図する在留目
的に適合する査証を本国で取得した上で長期滞在が可能な在留資格に基づき入国す
ることが可能であった者である。また、「やむを得ない特別の事情」の有無は、専
ら申請人の主張に係る「変更の理由」について審査されるところ、本件申請では、
変更の理由として「同居」とあるのみであり、この「同居」は、当面の間実現不可
能であったものである。このような本件の特殊性からすれば、原告が主張するよう
な日系二世との比較の対象とならないことは明らかであるし、そもそも平等原則に
違反するものではないのである。
(六) 本件における「やむを得ない特別の事情」の有無について
 原告は、「やむを得ない特別の事情」を考慮するものとしても、種々の事情を挙
げて、本件は当該要件に該当すると主張する。
 しかし、原告は、本来であるならば、在留資格認定証明書の交付をあらかじめ受
け、適切な査証を取得し「日本人の配偶者等」の在留資格をもって本邦に上陸する
ことも十分可能であったものであり、入国後、新たに「日本人の配偶者等」への在
留資格の変更を必要とするような事情が発生したものでもない。また、原告が、横
浜刑務所において同所職員の立会いの下に月一回認められるBとの面会を行いたい
というのであれば、在留資格「短期滞在」での在留で足り、Bが出所して同居が可
能となってからでも新規入国の手続をとれば十分足りるのであって、Bが受刑して
いる間、我が国に滞在する必要はないのである。また、いったん韓国に帰国して日
本人の配偶者として来日する場合、原告の主張するように入国までに手続に時間が
かかるとしても、そのことからBとの面会が不可能となるものではなく、原告にお
いて在留資格「短期滞在」で入国すれば面会は可能である。
 よって、原告に「やむを得ない特別の事情」は存在しない。
(原告の主張)
(一) 被告の解釈の不当性
(1) 被告は
、法二〇条三項ただし書にいう「やむを得ない特別の事情」とは、「『短期滞在』
の在留資格を受けて入国した後あるいは『短期滞在』の在留資格で在留中に、新た
に在留資格の変更を必要とするような事情が発生し、かつ、当該申請者がいったん
帰国してしまうと、その変更許可申請にかかる在留目的で再度入国することが極め
て困難である場合や人道上の必要性がある場合等」をいうと主張する。
 しかし、「やむを得ない特別の事情」が認められるためには、必ずしも、被告が
主張するように、短期滞在での入国若しくは在留中に、新たに在留資格の変更を必
要とするような事情が発生する必要はない。このことは、立法当時から予定されて
いたものである。
(2) また、右の要件は、実務においてはほとんど審査されておらず、形骸化若
しくは極めて緩やかに解釈されて運用されているのであり、右主張を不許可の理由
とすることは、著しく平等を失する。
 すなわち、そもそも「短期滞在」からの資格変更について、法二〇条三項ただし
書の制約を課している趣旨は、短期滞在においては、簡便な入国手続により入国を
認めているところ、長期滞在や就職を目的とする場合には、慎重な審査を行ってい
ることとの公平を図り、もって、適正な出入国管理を実現するなどの観点によるも
のとされる。しかし、短期滞在から他の在留資格への変更申請手続においても、変
更を希望する在留資格に該当するかどうかについて、最初からその資格で入国する
のと同様の慎重な審査がなされている。もし、法の趣旨に忠実になるのであれば、
「やむを得ない特別の事情」の存否のみを判断し、それが認められなければ、手間
と時間のかかる在留資格該当性の審査など経ずに、直ちに不許可の判断ができるは
ずであるのに、そのような取扱いはしていない。
 さらに、短期滞在からの変更許可申請書と、その他の在留資格からの変更許可申
請書とは区別がされていないことも、形骸化の現れの一つである。すなわち、この
変更申請書の書式には、「変更の理由」欄はあるものの、わずか一行半のスペース
があるのみで、その他、特に「やむを得ない特別の事情」を記載する欄は存在しな
い。原告が申請時に提出した質問書も同様であり、専ら在留資格該当性のみが審査
の対象となっているのである。また、規則二〇条も、規則別表第三も、短期滞在か
ら他の資格への変更を申請する際に、「やむを得ない特別の事情」を立証
するための資料の提出を殊更に求めていない。さらに、平成九年一月二九日に、入
国審査官が原告に電話をしたときにも、その質問内容は専らBの所在という、被告
が在留資格該当性の要件としてとらえている「日本人の配偶者としての活動」に関
することのみで、「やむを得ない特別の事情」については、一顧だにしていない。
(3) そして、平成八年中の在留資格変更に関する既済数は全国で七万三六五六
件、うち許可がされているのが七万一一七三件と実に九七パーセントにも上り、こ
の割合からしても、「やむを得ない特別の事情」については、形骸化若しくは実務
の運用上は極めて緩やかに解釈されていることが推測できる。
(4) このように、法の趣旨とは全く異なる取扱いがなされているのが現状なの
であって、原告に対してのみ、厳格な要件の具備を要するかのような主張をするこ
とは、平等原則に反する。原告についても、他の申請者と同様の基準によるべきで
ある。
(二) 「やむを得ない特別の事情」の存在
 また、仮に「やむを得ない特別の事情」を被告主張のごとく解するとしても、以
下のとおり、本件は右要件に該当する。
 すなわち、原告は平成八年四月一〇日、日本において婚姻届を提出し、同月一八
日、再度日本に入国して日本の戸籍謄本を入手し、同年五月三日、韓国に帰国し、
韓国において正規の婚姻手続を行った。その後、同月一五日、原告は日本に入国し
た。しかるに、同月一七日Bが逮捕され、身体を拘束された後、同年八月九日実刑
判決を受け横浜刑務所に服役した。
 この点、原告としては、在韓日本大使館の職員のアドバイスにより「短期滞在」
の資格で入国したものの、Bの身体が拘束されてしまったため、Bに面会・差し入
れをしたり、同人の身辺整理をしたり、あるいは同人の財産を管理したり、同人に
対する連絡を受け、それをBに伝える等の必要性が生じたのである。その意味で、
原告にとって、「短期滞在」の在留資格で在留中に、新たに在留資格の変更を必要
とするような事情が発生したというべきである。
 また、1(原告の主張)(三)で前述したごとく、原告がBの配偶者としての活
動をするためには、日本に在留し続けることが必要であり、かつそのことがBにと
って何ものにも代え難い、大きな精神的支えとなっているのである。
 さらに、原告につき、短期滞在から「日本人の配偶者等」への在留資格の変更が
認められないとすると、原告はいったん韓国に帰国し、日本人の配偶者として来日
するための在留資格認定証明書の交付を受けてから入国しなくてはならない。しか
し、右手続をとるには、長い時間と多大な労力が必要である。これにより原告の事
務的な負担や、旅費・交通費・通信費等の経済的負担が増加することとなる。
 以上の点からすると、本件においては、在留資格変更を認めるべき人道上の必要
性が高いというべきである。
(三) そして、本件は「やむを得ない特別の事情」が存する典型例とされる、日
本人の婚約者を訪問する目的で短期滞在の在留資格を取得して本邦に上陸した外国
人が本邦在留中にその日本人と正式に結婚し、日本人配偶者との同居生活を営むた
め引き続き本邦に在留することを希望する場合と、その実質において何ら差異はな
い。
 すなわち、原告は数年にわたり、実質的に日本人であるBの配偶者と同然の生活
を送っていた。このような者が婚姻成立後に短期滞在で来日し、その後「日本人の
配偶者等」への在留資格変更申請を行う場合と、右の典型例として挙げられている
場合を比べれば、法が懸念する適正な出入国管理の実現を阻害するような濫用の可
能性が高いのは、むしろ典型例としてあげられている場合の方である。
 よって、本件では、「やむを得ない特別の事情」を認めても、何ら法の趣旨に反
しない。
(四) 以上のとおり、本件においては、法二〇条三項ただし書の「やむを得ない
特別の事情」が存するものと解されるべきである。
3 争点3(本件処分に被告の裁量権の逸脱があるかどうか)について
(被告の主張)
 仮に、原告が主張するように、適法な婚姻関係さえ存すれば、あるいは、原告の
行っている程度の「活動」があれば、「日本人の配偶者」として在留資格が認めら
れるべきであるとしても、次のとおり、在留資格変更における被告の裁量権からし
て、本件においては、本件申請は認められるべきではない。
(一) 国家は、国際慣習法上、外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特
別の条約ないし取決めがない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、
これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定するこ
とができるのであり、憲法二二条も右とその考えを同じくするものである。したが
って、憲法上、外国人は我が国に入国する自由を保障されているものでないことは
もちろん、在留の権利ないし引き続き本邦に在留
することを要求する権利を保障されているものでもない。
 法もかかる原則を踏まえ、我が国に在留する外国人の在留資格の変更について、
被告がこれを適当と認めるに足りる相当の理由があると判断した場合に限り許可す
ることとし(法二〇条一項、三項)、在留資格の変更の許否を被告の広範な裁量に
かからしめているのである。
 そして、法二〇条三項に規定する在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の
理由が具備されているかどうかについては、外国人に対する出入国及び在留の公正
な管理を行う目的である国内の治安と善良な風俗の維持、保健・衛生の確保、労働
市場の安定など国益の保持の見地に立って、申請者の申請理由の当否のみならず、
当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情
勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情を総合的に勘案して的確に判断されるべき
ものである。このような多面的専門的知識を要し、かつ、政治的配慮も必要とする
判断は、事柄の性質上、国内及び国外の情勢について通暁し、常に出入国管理の衝
に当たる被告の裁量にゆだねられているものと解される。
 以上のような、法二〇条三項の在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理
由の有無についての判断についての被告の裁量権の性質にかんがみると、在留資格
の変更の許否の判断が違法となるのは、右判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通
念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限られるというべきである。し
たがって、裁判所は、被告の右判断について、それが違法となるかどうかを審理、
判断するに当たっては、右判断が被告の裁量権の行使としてなされたものであるこ
とを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右
判断が全く事実の基礎を欠き、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等
により右判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどう
かについて審理し、それらが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲を超え
又はその濫用があったものとして違法であるとすることができるものと解すべきで
ある。
 このように、被告は、出入国管理行政上の見地から、当該外国人の申請の理由の
みならず、生活状況、家族の状況、犯罪等善良な市民とは認められない行為の有
無、国益や外交関係等を総合的に考慮し、広範な裁量権に基づき、在留資格の変更
の許否を決定するこ
ととなるのである。
 したがって、仮に在留資格該当性が一応認められる場合でも、日本人の配偶者で
ある外国人がその配偶者と別居しているような場合には、仕事や家庭の都合で単身
赴任しているとか、病気で入院しているなど、別居していることに社会通念上合理
的な理由が認められる場合でない限り、合理的な理由がないのに別居しているとい
う事実を相当の理由があるか否かの判断に当たって重要な消極的要素として考慮す
ることも当然に裁量の範囲内とされるべきである。
(二) これを本件についてみると、被告の本件処分についての判断には事実の基
礎を欠くところはなく、また、社会通念上著しく妥当性を欠くところもないのであ
り、本件処分は適法である。
(原告の主張)
(一) 被告は、在留資格該当性が一応認められる場合でも、日本人の配偶者であ
る外国人がその配偶者と別居しているような場合には、社会通念上合理的理由がな
いのに別居しているという事実を相当の理由があるか否かの判断に当たって重要な
消極的要素として考慮することも当然に裁量の範囲内とされるべきであると主張す
る。
 しかし、被告の右主張は失当である。
(二) 国家の裁量権と被告の裁量権との混同
 被告が法二〇条一項、三項をもって被告に広範な裁量権が与えられていると主張
する根拠は、国家は、国際慣習法上、外国人を受け入れる義務を負うものではな
く、特別の条約ないし取決めがない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、
また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定
することができること、憲法上、外国人は、在留の権利ないし引き続き本邦に在留
することを要求する権利を保障されているものでもないことにあるとする。
 しかし、被告の主張は、国家の裁量権と、日本国の三権のうちの一つにすぎない
被告の裁量権とを混同するものである。すなわち、日本国憲法は国会を国権の最高
機関と定めており(憲法四一条)、国家の裁量権は第一義的に国会に属するものと
して、それは立法裁量に現れることになる。その立法裁量の結果として、特定の場
合には外国人に入国、在留を許可すべく行政庁に義務づけをすることもあり得る
し、また、行政庁に裁量を与えつつこれに制約を課すこともあり得るが、日本国憲
法の精神及び法律による行政の原則からすれば、何らの法律に基づかず、行政庁に
全くの自由裁量が付与されることなどあり得ない。一
定の裁量権が与えられたとしても、その根拠となる法律の目的及び趣旨等によっ
て、羈束裁量となるのである。しかも、後述のとおり、法改正を経て審査基準の明
確化が行われた現行法の下においては、法を執行する法務大臣の裁量は更に狭くな
っているのである。
 したがって、被告の主張は、日本国憲法及び法律による行政の原則を無視した主
張であり、国家の裁量権と法務大臣の裁量権とを混同した主張といわざるを得な
い。
(三) 裁量の制約
 さらに、被告は、広範な裁量権の根拠として、法もかかる原則を踏まえ、我が国
に在留する外国人の在留資格の変更について、被告がこれを適当と認めるに足りる
相当の理由があると判断した場合に限り許可することとしていること(法二〇条一
項、三項)を挙げている。
 しかし、仮に法二〇条三項が被告の裁量権を付与したものだとしても、当然のこ
とながら、その裁量権は法の目的及び法二〇条三項自体の趣旨に羈束されるもので
あって、その限度で認められるにすぎないものである。
 そして、法は「出入国の公平な管理」を目的としている(法一条)。この「出入
国の公平な管理」とは、具体的には国内の治安や労働市場の安定などの公益と、国
際的な公正、妥当性の実現、また憲法、条約、国際慣習、条理等により認められる
外国人の正当な利益の保護を意味する。法二〇条三項の趣旨も、この公益目的と外
国人の正当な権利・利益の調整を図ることにあり、同項が仮に被告に裁量権を付与
したとしても、右趣旨の範囲内での裁量権が認められるにすぎない。
 また、法は平成元年の法改正において、従前審査基準の省令による明示がなく、
審査自体が不透明で公正さに欠けると批判されていたものを各在留資格に関する審
査基準を省令で定めてこれを公布し、もって行政庁の裁量の幅を減少させ、審査の
公正を図っているのである。
 これらの点から、被告の裁量権は、決して広範なものではなく、この点からも、
被告の裁量に関する主張は失当である。
(四) 本件における裁量権の逸脱
 本件で被告が、いかなる点において裁量を問題とするのか、全く不明確である
が、仮に原告がBと同居していない事実をもって在留資格該当性がないと判断した
ことや、原告については「やむを得ない特別の事情が存在しない」と判断したこと
が、裁量権の範囲内であるという主張なのであれば、それは誤りである。
 右に述べたとおり、被告の裁量は公益目的と
外国人の正当な権利・利益の調整を図るという限度において認められる、極めて限
定的なものにすぎない。この点を本件について検討するに、原告はBの配偶者とし
て、物心両面において、刑務所に在監中のBを支えており、原告が本邦に在留する
必要性が極めて高いことは、前述のとおりである(1(原告の主張)(三)参
照)。これに対し、このような原告の正当な利益をはく奪してまで守るべき公益目
的がいかなるものであるのか、被告は何ら具体的に主張していないし、そのような
公益目的は存在しない。
 なお、前述のとおり(1(原告の主張)(三)(1))、原告とCとの関係は本
件と直接の関係がない。また、本件申請を行った一九九六年(平成八年)八月一日
の時点では、Bに対する判決の宣告は行われておらず、原告としてはBが早期に釈
放されると考えていた。したがって、変更の申請書等に、目的を「同居」と記載し
たことも、殊更に虚偽の申述をする意図があったわけではないのである。現に、一
九九七年(平成九年)一月二九日、入管職員から原告のもとにBの所在場所につい
て初めて問い合わせがあった際に、原告は何ら隠すことなく、Bが横浜刑務所に在
監していることを申告している。よって、この点も被告の裁量に逸脱があったこと
につき、何ら影響を及ぼすものではない。
 このように、本件処分は、何ら合理的な理由がないにもかかわらず、一方的に原
告の重大な利益を奪い、社会通念上著しく妥当性を欠く結果を生じさせることにな
る。よって、被告に裁量権があったとしても、その行使に逸脱があったことは明ら
かである。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(原告が「日本人の配偶者等」という在留資格に該当するかどうか)に
ついて
1(一) 本邦に在留する外国人の在留資格は、法別表第一又は第二に掲げられて
いるとおりであり、別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者は本邦において
同表の下欄に掲げる活動を行うことができ、別表第二の上欄の在留資格をもって在
留する者は本邦において同表の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての
活動を行うことができるとされている(法二条の二第二項)。また、上陸審査にお
いても、入国審査官は、当該外国人の申請に係る我が国において行おうとする活動
が虚偽のものではなく、法別表第一の下欄に掲げる活動又は法別表第二の下欄に掲
げる身分若しくは地位を有する者としての活動のいずれかに該当
することを審査すべきものとされている(法七条一項二号)。これらのことからす
ると、法は、個々の外国人が我が国で行おうとする具体的活動内容に着目し、一定
の在留活動を行おうとする者に対してのみ、その活動内容に応じた在留資格を与え
て、その入国及び在留を認めることとしているものということができ、日本人の配
偶者である外国人についてもこのことは同様に妥当するものというべきである。
 したがって、日本人と法律上婚姻した外国人が「日本人の配偶者等」の在留資格
によって我が国に在留するためには、単に、当該外国人が日本人と法律上有効な婚
姻関係にあるというだけでは不十分であって、さらに、当該外国人が我が国におい
て行おうとする活動が、日本人の配偶者としての活動に該当することが必要である
と解するのが相当である。
(二) もっとも、法がその別表第一の上欄に掲げる在留資格について、当該下欄
に我が国において行うことができる活動を個別具体的に規定しているのと異なり、
その別表第二の「日本人の配偶者等」の下欄には、我が国において有する身分又は
地位として「日本人の配偶者」と規定するのみで、日本人の配偶者としての活動内
容を個別的・具体的に定めておらず、その他その活動の内容及び範囲を具体的に認
識できるような規定も見当たらない。したがって、結局は、社会通念に従って、そ
の内容及び範囲を画するほかないというべきである。
 この点、婚姻は夫婦としての同居・協力・扶助の活動を中核とするものであるこ
とはいうまでもなく(民法七五二条)、右同居・協力・扶助の関係を前提としこれ
を維持しつつ行われる諸活動が右に該当することは疑いがない。しかしながら、同
居を伴わないすべての活動が配偶者としての活動に該当しないということはでき
ず、例えば、日本人の配偶者である外国人がその配偶者と別居しているとしても、
転勤の際に、子供の就学の関係上、夫婦の一方が単身で赴任し、その結果夫婦が別
居するに至る場合や、夫婦の一方が病気で入院している場合など、別居の合理的な
理由が認められれば、同居の事実がないとしても、社会通念上なお配偶者としての
活動と評価できる場合もあり得るのであり、その場合には、かかる外国人について
「日本人の配偶者等」の在留資格を認めることはできるというべきである。これに
対し、法律上有効な婚姻関係にあったとしても、婚姻関係が実体を失い、形骸化し
ているよ
うな場合には、当該外国人には、もはや社会通念上日本人の配偶者としての活動を
行う余地があるものとはいえないから、かかる外国人配偶者が我が国で行う活動
は、日本人の配偶者としての活動というよりも、就労など他の目的を持った活動と
みるべきであって、そのような者までを、単に日本人と法律上の婚姻関係にあると
いうだけで、日本人の配偶者としての活動を行う者に当たるということは困難であ
り、かかる外国人について、「日本人の配偶者等」の在留資格を認めることはでき
ないといわざるを得ない。
(三) なお、この点に関し、原告は、日本人と法律上有効な婚姻関係にある外国
人であれば、日本人の配偶者という身分を有することのみで、「日本人の配偶者
等」の在留資格を有するものであり、たとえ配偶者である日本人と同居していない
などの事情があったとしても、法律上有効な婚姻関係がある以上、それだけで「日
本人の配偶者等」の在留資格が認められるべきである旨主張する。
 しかし、前示のとおり、法は、個々の外国人が我が国で行おうとする活動内容に
着目し、一定の在留活動を行おうとする者に対してのみ、その活動内容に応じた在
留資格を与えることとした趣旨と解すべきであり、「日本人の配偶者等」の在留資
格も、当該外国人が、我が国でその身分を有する者としての活動として社会通念上
予想される活動を行うことに着目して、これを認めることとしたものとみるのが相
当である。
 したがって、原告の主張は法の趣旨に合致せず、採用することができない。
2 原告は、「日本人の配偶者等」の在留資格を認められるためには、日本人の配
偶者の身分を有する者としての活動が必要であるとしても、原告の在留は、日本人
の配偶者の身分を有する者としての活動のためのものであるといえる旨主張し、被
告はこれを争うので、次に原告の日本における在留状況、原告とBの婚姻関係等に
ついてみるに、前記第二の二記載の事実に証拠(原告本人、証人Bのほか、各文末
尾掲記の書証)を併せれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告は、昭和六一年三月一九日、韓国において、Aと婚姻し、昭和六三年
三月七日、離婚した。この間、一子をもうけたが、原告は、今回来日するに際し
て、原告の母親にこの子の養育を託した(乙五九の3)。
(二) 原告は、昭和六三年一二月一三日、東京入管成田支局入国審査官から、在
留資格四-一-四、在留期間三〇日とする
上陸許可を受けて、本邦に上陸した。原告は、平成元年一月一〇日、東京入管にお
いて、在留期間更新許可申請を行い、同日、在留期間九〇日とする更新許可を受け
た。
 原告は、同年五月二二日、東京入管において、右在留資格から、在留資格四-一
-一六-三への在留資格変更許可申請を行い、同日、在留資格四-一-一六-三、
在留期間六月とする在留資格の変更許可を受けた。原告は、同年一〇月七日、東京
入管において、右在留資格四-一-一六-三での在留期間更新許可申請を行い、同
日、在留期間を三月とする更新許可(在留期限平成二年一月一二日)を受けた。
 原告は、平成元年一月一〇日から同年一〇月九日までの間、明生外語アカデミー
に在籍していたが、卒業せずに、中途で退学した(甲七〇)。(三) 原告とCの
婚姻及び原告の出入国状況
(1) 原告は、平成元年一二月一一日、鎌ヶ谷市長に対し、日本人Cとの婚姻届
を提出し、同月一六日、東京入管において、在留資格四-一-一六-三から在留資
格四-一-一六-一への在留資格変更許可申請を行い、同日、在留資格四-一-一
六-一、在留期間六月とする在留資格の変更許可を受けた。
 原告は、同年一二月一八日、東京入管において、再入国許可期限を平成二年六月
一六日とする再入国許可を受けて、平成元年一二月三一日、新東京国際空港から出
国し、平成二年一月一〇日、右再入国許可により新東京国際空港から入国した。
 原告は、平成二年三月一二日、鎌ヶ谷市長に対し、Cとの協議離婚届を提出した
が、その後、同年四月一七日、鎌ヶ谷市長に対し、再度、Cとの婚姻届を提出し
た。
 原告は、同年五月二九日、東京入管において、在留期間更新許可申請を行い、同
日、在留期間六月とする更新許可を受け、さらに、同年一二月一四日、東京入管に
おいて在留期間更新許可申請を行ったが、被告は、平成三年三月二五日、右申請を
不許可とした。
 その間、原告は、平成二年一二月二八日、Cとの二回目の離婚届を提出してい
る。
(2) 原告とCが結婚している間、原告とCが同居した事実はない。原告は、当
時、東京都新宿区ζ(以下「ζ」という。)に居住していた。原告は、韓国のミョ
ンドン(明洞)においてブティックを経営しており、平成元年一〇月九日に明星外
語アカデミーをやめたあとは、韓国から洋服を通関手続をとらずに持ち込んで韓国
人のホステスや在日韓国人に洋服を売る仕事をしたり、スナ
ックでアルバイトをしたりして収入を得ていた。洋服を売る仕事では、月に平均し
て一五万円から二〇万円位の収入があった。
 また、原告が、Cと一度離婚して再度婚姻をした理由は、日本に滞在し続けたか
ったという気持ちがあったからである。
(3) 原告は、平成三年八月五日、東京入管において、在留資格「短期滞在」へ
の在留資格変更許可申請を行い、同日、在留資格「短期滞在」、在留期間九〇日
(同年三月一六日までの分)とする在留資格の変更許可を受けた。さらに、原告
は、同日、同在留資格で、二回分の在留期間更新許可申請を行い、同日、それぞれ
在留期間を九〇日とする更新許可を受けた。これにより、原告の最終の在留期限は
平成三年九月一二日となった。
(4) 右許可日から、平成三年一〇月一八日までの間の原告の出国に係る記録は
見当たらない(乙二四、四一の1、2)。
(四) 原告は、平成二年五月三〇日ころか又は平成三年五月三〇日ころ、原告が
εの公衆電話ボックスにハンドバッグを置き忘れて、それをBが拾ったことからB
と知り合った(甲五三、五四、乙一一)。
 原告がBと知り合った当時、BはFと婚姻していた(甲一)。
 原告とBは、知り合ってから、食事をしたり、電話で連絡を取り合ったりするよ
うになり、原告が韓国に戻っているときにBが韓国に観光旅行に来たり、原告が日
本に来たときにBから日本古来の文化を教えてもらうなどして、交際を深めたが、
BがFと離婚していなかったこと、原告とBは、年齢が一五歳以上も離れており、
原告の母親が結婚に反対していたことから、原告とBとの関係は次第に疎遠になっ
ていった(甲五三、五四)。
(五) その間の原告の出入国状況は、次のとおりである。なお、この間、原告
は、Cとの婚姻中から住んでいたζの賃借を継続しており、日本滞在中は、ζに滞
在していた。
(1) 原告は、平成三年一〇月一八日、新東京国際空港から新規入国(在留資格
「短期滞在」、在留期間一五日)し、同年一一月三日、東京入管成田空港支局にお
いて在留期間更新許可(在留資格「短期滞在」、在留期間一五日)を受け、同日、
新東京国際空港から出国した。
(2) 原告は、平成三年一一月五日、新東京国際空港から新規入国(在留資格
「短期滞在」、在留期間一五日)し、同月二〇日、新東京国際空港から出国した。
(3) 原告は、平成三年一一月二八日、新東京国際空港から新規入国(在留資格

短期滞在」、在留期間一五日)し、同年一二月一三日、新東京国際空港から出国し
た。
(4) 原告は、平成三年一二月一六日、新東京国際空港から新規入国(在留資格
「短期滞在」、在留期間一五日)し、同月三一日、新東京国際空港から出国した。
(5) 原告は、平成四年一月一三日、新東京国際空港から新規入国(在留資格
「短期滞在」、在留期間一五日)し、同月二八日、新東京国際空港から出国した。
(6) 原告は、平成四年二月一二日、新東京国際空港から新規入国(在留資格
「短期滞在」、在留期間一五日)した。
 原告の在留期限は、同年二月二七日であったが、右入国日から、次に入国する平
成七年七月一八日までの間の原告の出国に係る記録は見当たらない(乙二四、四
七)。
(六) 原告は、平成五年ころDと知り合い、結婚を前提として、交際を始めた。
このころも、原告は、ζの賃借を継続しており、日本に滞在するときには、ζに滞
在していた。Dは、原告と結婚した後の生活場所とするため、平成七年一月一七日
に、現在原告が居住している東京都新宿区α(以下「α」という。)を借りた。し
かし、Dは、平成七年四月○日に死亡したため、原告とDは結婚できず、したがっ
て、αで同人と同居するまでに至らなかった。原告は、Dが死亡したことを韓国で
知った(甲四九、五一、五三、乙六六、六七)。
(七) 原告は、Dが死亡したころから、Bと再び交際を始めた(甲五三、五
四)。
 なお、Bは、平成七年五月一一日に韓国へ出国し、同月一四日に韓国から帰国し
ている(乙六三)。
 原告は、平成七年以降、以下のとおり出入国を繰り返している。
(1) 原告は、平成七年七月一八日、新東京国際空港から新規入国(在留資格
「短期滞在」、在留期間一五日)し、同年八月二日、新東京国際空港から出国し
た。
(2) 原告は、平成七年八月二二日、新東京国際空港から新規入国(在留資格
「短期滞在」、在留期間一五日)し、同年九月六日、東京入管において在留期間更
新許可申請をし、同日、更新許可を受け(在留資格「短期滞在」、在留期間一五
日)、その後、同月二一日、新東京国際空港から出国した。
(3) 原告は、平成七年一〇月三日、新東京国際空港から新規入国(在留資格
「短期滞在」、在留期間一五日)し、同月一八日、新東京国際空港から出国した。
(4) 原告は、平成七年一〇月二三日、新東京国際空港から新規入国(在留資格
「短期滞在
」、在留期間九〇日)し、同年一一月一三日、居住地を東京都新宿区αとする外国
人登録をし、さらに、平成八年一月二三日、東京入管成田空港支局において、在留
期間更新許可申請をし、同日、更新許可を受け(在留資格「短期滞在」、在留期間
一五日)、同日、新東京国際空港から出国した。
(5) 原告は、平成八年二月三日、新東京国際空港から新規入国(在留資格「短
期滞在」、在留期間一五日)し、同月一八日、新東京国際空港から出国した。
(6) 原告は、平成八年二月二一日、新東京国際空港から新規入国(在留資格
「短期滞在」、在留期間一五日)し、同年三月七日、新東京国際空港から出国し
た。
(7) 原告は、平成八年三月一〇日、新東京国際空港から新規入国(在留資格
「短期滞在」、在留期間一五日)し、同月二四日、新東京国際空港から出国した。
(八) 原告は、この間、αを賃借し続け、日本に滞在中は、αに滞在した。αに
は、原告とともに、Gが間借りして生活していた。他方、Bは、従前渋谷区に居住
していたが、平成八年二月ころから、東京都新宿区β(以下「β」という。)に居
住するようになった。そして、原告が日本に滞在し、αに滞在しているときには、
Bは、原告のいるαへ行ったこともあったが、Bは、原告が日本に滞在していない
ときは、αへは行かずに、βに居住し続けた。
(九) 原告とBは交際をするうち、婚約をして、原告が、平成八年三月二六日、
在留資格「短期滞在」、在留期間一五日として新東京国際空港から我が国に入国し
た後、同年四月一〇日に、原告とBは、世田谷区長に対し、婚姻の届出をした。原
告は、同日、新東京国際空港から出国した。なお、Bは、同日までFと婚姻関係に
あったものであるが、同日付けで、Fとの協議離婚届を届け出ている。
 原告は、韓国においてもBとの婚姻手続をとるべく、平成八年四月一二日に韓国
においてその旨役所に届けたところ、書類の不備があったため、再度原告は、平成
八年四月一八日、新東京国際空港から入国し(在留資格「短期滞在」、在留期間一
五日)、日本の区役所において証明書を入手して、同年五月三日、新東京国際空港
から出国し、韓国においてもBとの婚姻手続をとった(甲五三)。
(一〇) 原告は、平成八年五月一五日、在留資格「短期滞在」、在留期間九〇日
として新東京国際空港から入国した。入国の際、原告は、外国人入国記録の日本滞
在先欄に
「東京都新宿区α」、日本滞在予定期間欄に「九〇日」、渡航目的欄には「こんや
く」と記載して上陸許可を申請し、在留資格「短期滞在」、在留期間九〇日とする
上陸許可を受けて本邦に上陸した。
 右の入国の際、原告は、既にBと婚姻関係にあったのであるから、「日本人の配
偶者等」という在留資格で入国することもできたのであるが、「日本人の配偶者
等」という在留資格では上陸申請をしなかった。原告は、後から「日本人の配偶者
等」へ在留資格を変更するつもりで、「短期滞在」の在留資格で入国したものであ
る。
(二) Bは、平成八年五月一七日、β居宅において、覚せい剤取締法違反の容疑
で現行犯逮捕され、同罪名で同年六月五日起訴され、その後、同月二八日には、銃
砲刀剣類所持等取締法違反で追起訴された。
 Bは、同年八月九日、東京地方裁判所において、覚せい剤取締法違反及び銃砲刀
剣類所持等取締法違反により懲役四年六月及び罰金一〇〇万円の判決の宣告を受
け、同判決は、同月二四日に確定した。現在、Bは横浜刑務所に服役中である。
 Bは、平成八年四月三〇日、東京都世田谷区γから府中市δへ住民票を異動して
いたが、その後、Bが勾留中の同年六月一三日に、府中市δからαへ住民票が異動
された。
 原告は、同月一四日、新宿区長に対し、居住地を「東京都新宿区α」、世帯主の
氏名を「B」、勤務所又は事務所の名称を「なし」と記載して外国人登録申請を行
い、同年七月一一日に右外国人登録に係る外国人登録証明書が交付された。
(一二) 原告は、平成八年八月一日、東京入管において、在留資格変更許可申請
書の「希望する在留資格」欄に「日本人配偶者」、「変更の理由」欄に「同居」、
「在日身元保証人又は連絡先」欄の「氏名」、「住所」、「職業」欄にそれぞれ
「B、新宿区α、私設秘書、営業」と記載して、Bが身元保証した日付のない身元
保証書、Bの住民票、同年六月一〇日付けで世田谷区長が認証したBの戸籍謄本、
同年四月一三日付けの原告の韓国の戸籍謄本、Bの平成七年分の給与所得の源泉徴
収票、Bの在職証明書、回答を記載した質問書を提出して在留資格の変更許可申請
(本件申請)をした。
(一三) 原告は、現在、Bへ金銭及び新聞の差し入れを行い、月に一回の割合で
Bの収監されている横浜刑務所へ面会に行き、Bから頻繁に手紙をもらっている。
また、原告は、Bの所持品をαにおいて保管し、Dの名義で賃借していたαの賃貸
借契約が平成九年一月一七日をもって満了することから、原告を借主として同室の
賃貸借契約を更新するなど、αの留守宅の維持管理を行っている。原告は、現在
は、αに、原告の弟のHと一緒に住んでいる(甲四の1、2、五ないし七、八ない
し一一の各1、2、一二、一三ないし二八の各1、2、三〇ないし四七の各1、
2、四八の1ないし4、五〇、五三、五四、五八、五九、六〇ないし六七の各1、
2、六八、乙七三)。
(一四) 原告は、日本において、韓国から持ち込んだ洋服を売る仕事を継続して
いたが、現在では居酒屋でも働いており、洋服を売る仕事の収入は月に一五万円か
ら二〇万円程度、居酒屋からの収入は月に二五万円程度である。
 また、原告は、新宿でホステスをしていたこともある。
3 以上の事実からすれば、原告がBと有効に婚姻したこと、原告とBは正式に同
居したことはないが、αにおいて同居する予定であったこと、原告が平成八年五月
一五日に入国してからわずか二日後の同月一七日にBが覚せい剤取締法違反により
逮捕され、その後覚せい剤取締法違反等の罪で有罪判決を受けて横浜刑務所に収監
されたため、原告とBは同居してないこと、Bが横浜刑務所に収監されているた
め、原告はBから扶養を受けられないこと、原告は現在、Bへ新聞等の差し入れを
行い、月に一回の割合で面会に行っていること、Bは原告に対し頻繁に手紙を書い
ていること、原告は、Bの所持品をαで保管し、αの留守宅を守っていることが認
められる。
 そうすると、原告とBが同居をすることができず、原告がBに扶養されることが
できないとしても、それは、Bが覚せい剤取締法違反等の罪で逮捕・勾留され、実
刑判決を受けて刑務所に収監されたからであって、原告とBが同居しないこと等に
ついては合理的な理由があるものといわざるを得ない。右のように、原告は、Bに
新聞等を差し入れ、面会に行き、手紙等をもらい、また、留守宅を守ることは、夫
婦としての協力の関係ということができるのであって、かかる活動が社会通念上配
偶者としての活動に該当しないということはできない。
 この点、被告は、日本人の配偶者等としての活動の重要な要件の一つである同居
が実現していない以上、夫婦共同生活の実現は不可能又は著しく困難であるから、
原告には日本人の配偶者等としての在留資格該当性がないと主張する。しかし、前
述したよう
に、同居を伴わないすべての活動が配偶者としての活動に該当しないということは
できず、例えば、日本人の配偶者である外国人がその配偶者と別居しているとして
も、転勤の際に、子供の就学の関係上、夫婦の一方が単身で赴任し、その結果夫婦
が別居するに至る場合や、夫婦の一方が病気で入院している場合など、別居の合理
的な理由が認められれば、同居の事実がないとしても、社会通念上なお配偶者とし
ての活動と評価できる場合もあり得るのであり、その場合には、かかる外国人につ
いて「日本人の配偶者等」の在留資格を認めることができるというべきであるか
ら、被告の主張は失当である。
 また、被告は、右のような原告の行為は原告に「日本人の配偶者等」の在留資格
を与えなければできないような活動ではないし、原告自身が行わなければならない
活動でもないと主張するが、前示のとおり「日本人の配偶者等」の在留資格に該当
する活動は、社会通念に従ってその範囲を画する必要があるところ、仮に「日本人
の配偶者等」の在留資格がなくても事実上行える活動であったとしても、それが社
会通念上配偶者としての活動である場合には、「日本人の配偶者等」の在留資格該
当性があるといえるのである。しかして、刑務所に収監された者のため、差し入
れ、面会等を行い、留守宅を守ることは、その配偶者、その他の親族等が行うのが
通常であり、その者とゆかりのない他人が、右のような活動を奉仕として行うこと
は一般に考えにくいのであって、右のような活動は、社会通念上配偶者としての活
動であるというべきであり、被告の主張は失当であるといわざるを得ない。
 したがって、原告が、「日本人の配偶者等」の在留資格に該当するものではない
ということはできない。
二 争点3(本件処分に被告の裁量権の逸脱があるかどうか)について
 そこで、進んで、本件処分に被告の裁量権の逸脱又はその濫用があるかどうかに
ついて検討する。
1 法二〇条三項によると、被告は在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の
理由があるときに限り、これを許可することができるものとされているところ、在
留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかの判断は、国内の
治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定等の国益の保持の見
地に立って、在留資格変更申請の理由の当否のみならず、当該外国人の在留中の一
切の行状や国内外の政治・経済・
社会等の情勢等、諸般の事情を総合的にしんしゃくして行われる被告の裁量にゆだ
ねられているのであって、このような被告の裁量の性質にかんがみると、この点に
関する被告の判断は、事実の基礎を全く欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くこ
とが明らかである場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったものと
して、違法となると解すべきである。
2 そこで、前記一2で認定した事実に基づき、本件において、在留資格の変更を
適当と認めるに足りる相当の理由がないとした被告の判断に裁量権の逸脱又はその
濫用があったかどうかについて検討する。
(一) 前記一2で認定した事実によると、原告は頻繁に入出国を繰り返し、しか
も、出国記録がないものが存在すること、右の出国記録の不存在について、原告か
ら合理的な説明がなされていないこと、原告は、短期滞在の在留資格で滞在中、居
酒屋で働いたり、韓国から洋服を通関手続きをとらずに持ちこんで販売するなどの
営業活動を行っており、資格外活動を継続していたことが認められる。しかも、原
告がDと交際していた平成五年から平成七年四月ころまで、原告は在留資格を有し
ていなかったのであるから、その期間中、原告は我が国に不法残留ないし不法入国
した事実があると推認せざるを得ない。
(二) また、前記一2で認定した事実によると、原告とCは平成元年一二月一一
日に婚姻し、平成二年三月一二日に離婚し、その後同年四月一七日に再び婚姻し、
同年一二月二八日に二回目の離婚をしているが、その間、原告とCは一度も同居し
たことがなく、原告がCとの離婚後わずか一か月後に再び同人と婚姻した理由は、
日本に滞在し続けたかったという気持ちがあったからというのである。
 また、証拠(乙五九の1、六〇の1、六二の1、六四、六五の1ないし3)によ
れば、原告がCと一回目に婚姻した際の婚姻届に記載されている連絡先電話番号
(○○○○-○○-○○○○番)は、婚姻届が提出された平成元年一二月一一日当
時I名義で設置されており、設置場所も神奈川県相模原市という原告らの住所地と
された千葉県鎌ヶ谷市とは遠く離れたところであること、右婚姻届に証人として署
名押印のあるJ及びKは、該当する人物が住所地である横浜市泉区役所、戸塚区役
所の戸籍謄本、除籍謄本、住民票、住民票除票のいずれによっても見当たらないこ
と、右婚姻届に証人として署名押印のあるJは、本籍地とさ
れている千葉県千葉市花見川区役所保管の記録によっても該当する人物が見当たら
ないこと、原告とCの一回目の離婚届に証人として署名押印のあるLは、住所地及
び本籍地とされている千葉県千葉市花見川区役所保管の記録によっても該当する人
物が見当たらないこと、原告とCの第二回目の離婚届に証人として署名押印のある
Mは、その住所地及び本籍地とされている千葉県印旛郡白井町役場保管の記録によ
っても該当する人物が見当たらないことが認められる。
 さらに、C自身も東京入管入国審査官から受けた事情聴取において、原告との婚
姻は真正なものではないとの趣旨の供述をしている(乙五八)のであって、右の各
事実に照らすならば、原告とCとの婚姻は、原告が日本に滞在すべく在留資格を得
るための方便としてなされた偽装の婚姻であると認めるほかはない。
(三) 前記一2で認定したとおり、Bは原告が韓国にいる間は専らβで生活して
いたものであり、原告とBが結婚する約三か月前である平成八年二月ころ、原告が
αに住んでいるにもかかわらず、Bは、βに移転していることなどからして、原告
とBが、婚姻前、事実上の夫婦関係ないし同せい状態にあったとは認められないと
ころであり、また、婚姻後においても、原告が今回入国してからわずか二日後にB
が逮捕され、その後現在に至るまで逮捕・勾留、収監され、そのため、Bと原告は
同居して夫婦共同生活を送るに至らず今日に至っているものである。
 そして、Bは服役中なので原告と同居し原告を扶養することはできない状況にあ
るところ、Bは、原告から金銭や新聞の差し入れをしてもらい、原告と手紙のやり
とりをし、原告が月一回程度面会に来てくれることが心の支えになっており、仮出
所を認められるためには身元引受人が必要であるが、身元引受人になってくれるの
は原告をおいてほかにないようにいうが(証人B)、Bは前議員の私設秘書をし、
あるいは株式会社御所野の相談役として建設関係の折衝等の仕事をしていたという
のであり(証人B)、仕事その他の関係での知人は多くいるものと推認され、差し
入れをし、身元引受人になってくれる人が原告の他に存在しないとは到底認められ
ないし、また、既に認定したところから明らかなとおり、Bは、懲役四年六月の刑
に処せられ収監されてから既に三年以上が経過しており、刑期を終えあるいは仮出
所するのもそれほど遠い先のことではないから、原告と
面会できないなどは受忍できる範囲内のことと考えられる。
 他方、原告は従前から何度も日本と韓国の間を行き来しており、Bが出所後に再
度在留資格を得て日本に入国して夫婦生活を営むことは可能であると考えられ、原
告は、韓国においてブティックを経営しており、また、原告には一四歳位の子供が
韓国にいることからすれば、原告がどうしても日本に在留しなければならないよう
な事情はなく、原告について、在留資格の変更を認めなければ酷な結果になるとは
断じ難い。さらに、Bの留守宅についても、原告は元々出入国を繰り返しながら、
ζやαを継続して賃借していたものであり、しかも、現在、αには、原告ととも
に、原告の弟のHが居住しているのであるから、原告について在留資格の変更を認
めなければ、Bの留守宅を維持管理することができないということはない。
(四) 右の諸事情、とりわけ右に指摘した原告の本邦における在留・活動に法に
抵触する部分があったこと、虚偽の婚姻により在留資格を得ていたこと、Bが服役
中であり、現在においては通常夫婦間で行われる同居・協力・扶助の活動ができな
いこと等にかんがみると、本件において、在留資格の変更を適当と認めるに足りる
相当の理由がないとした被告の判断が事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当
性を欠くものとは認められない。
 したがって、本件処分において、被告の裁量権の逸脱又はその濫用があるという
ことはできない。
三 以上からすると、原告について在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当な
理由がなかったとの被告の判断に違法はなく、その余の点について判断するまでも
なく、本件処分は適法である。
第四 結論
 よって、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用
の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第三部
裁判長裁判官 青栁馨
裁判官 谷口豊
裁判官 加藤聡

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