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平成18年(行ケ)第10440号審決取消請求事件
平成19年7月25日判決言渡,平成19年7月9日口頭弁論終結
判決
原告株式会社東京精密
訴訟代理人弁理士松浦憲三,八幡宏之
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人二宮千久,中村直行,森川元嗣,大場義則
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2003−16846号事件について平成18年8月22日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本判決においては,「ねじ」と「ネジ」の表記について,本願発明の表記に従い,書証等を
引用する場合を含め,「ねじ」で統一した。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成11年4月9日,発明の名称を「ねじ穴有効深さ測定方法」とする
発明について特許出願(以下「本件出願」という。)をしたが(甲1),平成15
年8月1日付けで拒絶の査定を受けたので,同年9月1日,拒絶査定不服審判を請
求した(不服2003−16846号事件として係属)。特許庁は,平成18年8
月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年9月1日に
その謄本を原告に送達した。
2平成14年12月2日付け手続補正書により補正された明細書(甲1,9。
以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の要旨
【請求項1】被測定物の寸法や形状を測定する座標測定機を用いて被測定物に加
工されているねじ穴の有効深さを測定するねじ穴有効深さ測定方法に於いて,
ねじ穴の下穴の半径を,加工されたねじ部の方向へ向かって多点測定し,引き続
いてねじ穴半径を多点測定する測定工程と,
前記測定工程における測定点の座標値が,予め入力されている測定中断深さを越
えていないか否かを判断する測定中断深さの判断工程と,
前記測定された半径が予め入力されているねじ穴半径の閾値に達したことを判断
する判断工程と,
前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値に達した測定点の深さを,ねじ穴有
効深さと決定する決定工程と
から成ることを特徴とするねじ穴有効深さ測定方法。(以下「本願発明」とい
う。)
3審決の理由
()審決は,別紙審決のとおり,本願発明が特許法29条2項の規定により特許1
を受けることができないとした。
()審決の認定判断の要点2
ア特開平4−9702号公報(甲2。以下「引用刊行物」という。)には,次
の技術が記載されている。
「ねじ穴検査測定装置を用いて予め加工されたねじ穴の有効ねじ部のねじ深さの
測定方法において,
ねじ下穴部に測定ヘッド10の接触子11に接触させ,その半径方向の変位量を
検出して測定ヘッド10から出力信号Sを出力し,測定ヘッド10の接触子111
をねじ穴の入口方向に移動して測定を繰り返し,
測定ヘッド10の出力信号Sが設定値j以上と判断された場合に,ねじ穴の不1
完全ねじ部から有効ねじ部へと移行する位置(有効ねじ部の開始位置)として測長
ゲージ20からの出力信号Sを記憶し,2
接触子11がねじ穴から外れた際,入り口部の位置を基点として有効ねじ部の開
始位置が所定の深さ未満の場合に不良と判定する,有効ねじ部のねじ深さの測定方
法。」(以下「引用発明」という。)
イ本願発明と引用発明との対比
(ア)一致点
「被測定物の寸法や形状を測定する測定機を用いて被測定物に加工されているね
じ穴の有効深さを測定するねじ穴有効深さ測定方法に於いて,ねじ穴の下穴の半径
方向の形状値を,加工されたねじ部の方向へ向かって測定し,引き続いてねじ穴の
半径方向の形状値を測定する測定工程と,前記測定された半径方向の形状値が予め
入力されている閾値に達したことを判断する判断工程と,前記測定された半径方向
の形状値が前記閾値に達した測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程
と,ねじ穴有効深さが存在するか否かを判定するための工程と,から成ることを特
徴とするねじ穴有効深さ測定方法。」
(イ)相違点
a「前者(本願発明)が,座標測定器を用い,また,多点測定により半径を求
めているのに対し,後者(引用発明)には,このような記載がない点」(以下「相
違点1」という。)
b「前者が,測定工程における測定点の座標値が,予め入力されている測定中
断深さを越えていないか否かを判断する測定中断深さの判断工程を設けているのに
対し,後者には,このような記載がない点。」(以下「相違点2」という。)
ウ相違点についての認定判断
(ア)相違点1について
「三次元測定器を用いて多点測定により孔径を求めることは従来周知であり(例
えば,特開平4−74903号公報〔甲5。以下「甲5公報」という。〕の2ペー
ジ左下欄3行∼9行に「現状の三次元測定器では,例えば孔径を測定する場合,孔
の内面の3箇所にプローブの先端を当接させ,演算によりその内径を求めている。
この3点接触による測定では,内径寸法の他に,孔中心位置の測定等も行える反面,
1回での測定ではないため,極めて効率が悪いという問題点がある。」との記載が
ある。),また,三次元測定器を用いてねじ孔の有効径や深さを測定することも周
知である(例えば,特開平9−311035号公報〔甲6。以下「甲6公報」とい
う。〕,特開平10−103905号公報〔甲7。以下「甲7公報」という。〕参
照。)から,上記相違点1に係る構成に格別のものは認められない。」
(イ)相違点2について
「測定範囲を指定するとともに,被測定物の測定位置を移動させながら測定を行
い,被測定物の位置データと該測定範囲とを比較して,該位置データが該測定範囲
を外れた際に,測定を終了して合否判定等の処理に移るようにした測定手法は周知
(例えば,特開平6−147834号公報〔甲8。以下「甲8公報」という。〕参
照。)であり,本願発明の相違点2に係る構成も格別のものということはできな
い。」
第3原告の主張
審決は,引用発明の認定を誤った結果,本願発明と引用発明との相違点を看過し
(取消事由1),相違点1及び2についての判断を誤り(取消事由2,3),また,
本願発明の有する顕著な効果を看過した(取消事由4)ものであって,違法である
から取り消されるべきものである。
1取消事由1(引用発明の誤認と相違点の看過)
()審決は,引用発明が本願発明の「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾1
値に達した測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程」を具備しており,
この点において両者が一致する旨認定したが,誤りである。
()引用刊行物には,「測長ゲージ20の先端部21の反対側には磁気目盛りで2
あるマグネスケール23が一体的に配設されている。そして,マグネスケール23
の移動量は測長ゲージ20の本体側に配設された磁気ヘッドを有する検出部24に
より読み取られる。」(3頁右上欄最終段落∼左下欄1行目),「ステップ104
では測定ヘッド10の出力信号Sによりねじ穴の不完全ねじ部から有効ねじ部へ1
と移行する位置として測長ゲージ20からの出力信号Sを読み込む。そして,ス2
テップ106に移行し,ステップ104で読み込んだ測長ゲージ20からの出力信
号Sをℓとして記憶する。」(同頁右下欄第3∼第4段落),「ステップ11221
では測定ヘッド10の出力信号Sによりねじ穴の有効ねじ部から入口部へと移行1
する位置として測長ゲージ20からの出力信号Sを読み込む。そして,ステップ2
2114に移行し,ステップ112で読み込んだ測長ゲージ20からの出力信号S
をℓとして記憶する。」(4頁左上欄下から第2段落∼右上欄1行目),「次に2
ステップ116に移行して,ステップ106で記憶されたℓとステップ114で1
212記憶されたℓとから有効ねじ部のねじ深さℓを次式にて求める。ℓ=|ℓ−ℓ
|」(同頁右上欄第2段落)と記載されている。ここで,平成10年11月18日
株式会社工業調査会発行の「はじめてのセンサ技術」(甲3)によれば,「マグネ
スケール」の原理とは,「磁気テープや磁性体棒あるいは薄板に一定周波数fの信
号を一定速度vで記録しておく。この磁気信号の変化を磁気ヘッドで検出すればλ
=vfの幅の直動距離が求められる。」(47頁)というものである。上記引用/
刊行物の記載によれば,引用発明においては,有効ねじ部のねじ深さℓを求めるた
めには,ℓのみならず,ℓをも測定しなければならないのであり,ここにℓを測122
定するということは,ねじ穴に形成されたねじ部の全長を測定しなければならない
ということである。
そうすると,引用発明においては,測定ヘッド10の出力信号Sが設定値j以1
上となった時点(被告が述べる有効ねじ部の開始位置を取得した時点)で,測定開
始位置から有効ねじ部の開始位置までの長さℓを記憶するのみであり,測定ヘッ1
ド10の出力信号Sが設定値j以上となった時点で,ねじ穴有効深さと決定して1
いるわけではないから,本願発明の「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値
に達した測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程」を具備していると
はいえない。
()被告は,引用発明の測定開始位置は,測定ヘッド10の初期位置であり,ヘ3
ッド駆動部30によりその初期位置の設定がされることから,ねじ穴の入口から測
定開始位置までの長さは,初期位置の設定の段階で決定されている旨主張する。
しかし,引用発明では,測定中,常に測長ゲージ20の先端部21が工作物Wの
ねじ穴の入口近傍に当接して,接触子11との相対移動量を測定しているから,初
期設定の必要性はなく,その旨の記載も示唆もないから,被告の上記主張は失当で
ある。
()以上のとおり,審決は,引用発明を誤認したものであって,違法である。4
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
()審決は,相違点1について,「三次元測定器を用いて多点測定により孔径を1
求めること」及び「三次元測定器を用いてねじ孔の有効径や深さを測定すること」
が本件出願時に周知であるとし,これを根拠にして,当業者が容易に相違点1に係
る本願発明の構成に想到し得ると判断したが,誤りである。
()本願発明は,相違点1に係る「座標測定器を用い,また,多点測定により半2
径を求めている」構成であり,「座標測定機」を用いる発明である。
昭和62年4月15日社団法人日本機械学会発行の「機械工学便覧」(甲4)に
は,「座標測定器」について,「X,Y,Z軸方向にそれぞれ独立の測長スケール
を持った三次元座標測定器」(B2−194頁)と記載されているから,本願発明
の座標測定機は,座標系,例えば,X,Y,Z軸からなる座標系を持つこと,座標
測定機の測定値は,その座標系における座標値として得られることが理解される。
したがって,本願発明が備える測定工程により多点測定された「測定点の座標値」
は,座標系における座標値のことであり,同様に,本願発明が備える判断工程の
「予め入力されている測定中断深さ」及び決定工程の「測定点の深さ」は,それぞ
れ,座標系における「予め入力されている測定中断深さ」,及び,座標系における
「測定点の深さ」のことである。
上記のとおり,本願発明は,座標測定機を用い,座標系における「予め入力され
ている測定中断深さ」及び「測定点の深さ」を測定するので,ねじ穴に形成された
ねじ部のうち途中のねじ部まで測定するだけで「前記測定工程における測定点の座
標値が,予め入力されている測定中断深さを越えていないか否かを判断する」こと,
すなわち,ねじ穴に形成されたねじ部のうち途中のねじ部まで測定するだけで「前
記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値に達した測定点の深さを,ねじ穴有効深
さと決定する」ことが可能である。
一方,引用発明は,座標測定機(器)ではなく,座標値を用いていないから,座
標系における「予め入力されている測定中断深さ」,及び,座標系における「測定
点の深さ」を測定する工程を備えた本願発明のような機能・作用を有するものとは
ならない。
審決の摘示する甲5公報ないし甲7公報を考慮しても,三次元測定器でねじ穴の
有効径や深さの測定等をすることが周知であることを示しているにすぎないから,
座標系における「予め入力されている測定中断深さ」及び「測定点の深さ」を備え
た本願発明の上記のような機能・作用を有するものにはならないことは,上記と同
様である。
()被告は,本願発明にいう「多点測定」が「半径方向に複数回測定する」こと3
であると主張しているが,誤解である。本願発明の多点測定は,本願発明に係る特
許請求の範囲に,「ねじ穴の下穴の半径を,加工されたねじ部の方向へ向って多点
測定し」と記載されているとおり,「ねじ穴の下穴の半径を,加工されたねじ部の
方向へ向って多点測定する」ことを意味し,被告が主張する「半径方向に複数回測
定する」ことではない。
()したがって,審決は,本願発明と引用発明との相違点についての判断を誤っ4
たものである。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
()審決は,相違点2について,「測定範囲を指定するとともに,被測定物の測1
定位置を移動させながら測定を行い,被測定物の位置データと該測定範囲とを比較
して,該位置データが該測定範囲を外れた際に,測定を終了して合否判定等の処理
に移るようにした測定手法」が本件出願時に周知であるとし,これを根拠として,
当業者が容易に相違点2に係る本願発明の構成に想到し得ると判断したが,誤りで
ある。
審決の摘示する甲8公報には,「そこで本発明は,ねじ関連製品のねじ部の測定
及び合否の判定を非接触で且つ自動で行うことが可能なねじ判別装置を提供するこ
とを目的とする」(段落【0008】)と記載されているが,ねじ自体に関する技
術であって,ねじ穴に関する無駄な測定,例えば,ねじ穴に形成されたねじ部が全
て不完全ねじ部である場合にそのねじ部の全長を測定することを防止しようとする
相違点2に係る本願発明の構成は,開示されていない。
()被告は,測定点の座標値が予め入力されている測定中断深さを越えているか2
いないかを判断することは,測定位置の移動範囲を指定して被測定物の位置データ
(測定点の位置)と指定された測定範囲とを比較することに相応する旨主張する。
しかし,測定中断深さを判断することは,測定を中断すること,すなわち,測定
を全長にわたって行わないことであり,被測定物の位置データ(測定点の位置)と
指定された測定範囲とを比較することと異なるのであり,被告の上記主張は,失当
である。
()したがって,審決は,本願発明と引用発明との相違点2についての判断を誤3
ったものであって,違法であるから,取り消されるべきである。
4取消事由4(顕著な作用効果の看過)
()審決は,「本願発明による効果も,引用刊行物の記載及び周知事項から当業1
者が予測し得る範囲内のものにすぎない。したがって,本願発明は,引用発明及び
周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」(7頁
第3段落∼第4段落)と判断したが,誤りである。
()本願発明では,座標系における座標値を測定点として得るための「多点測2
定」を行っているので,ねじ穴に形成されたねじ部のうち途中のねじ部まで測定す
るだけで,相違点2に係る構成により,「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の
閾値に達した測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する」ことを可能とするもの
である。
一方,引用発明においては,「ねじ下穴部に測定ヘッド10の接触子11に接触
させ,その半径方向の変位量を検出して測定ヘッド10から出力信号Sを出力し,1
測定ヘッド10の接触子11をねじ穴の入口方向に移動して,測定を繰り返し」と
いう構成であって,「半径方向の変位量」を検出しているにすぎず,座標系におけ
る座標値を測定点として得るための測定である「多点測定」を行っていない。
()本願発明では,前記1のとおり審決が看過した「前記測定された半径が前記3
ねじ穴半径の閾値に達した測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程」
を備えており,相違点2に係る「前記測定工程における測定点の座標値が,予め入
力されている測定中断深さを越えていないか否かを判断する測定中断深さの判断工
程」と相まって,前記測定工程における測定点の座標値が,予め入力されている測
定中断深さを越えた場合には,測定を中断することを可能とするものであり,例え
ば,ねじ穴に形成されたねじ部が全て不完全ねじ部であるとき,そのねじ部の全長
を測定しなくてもよい,すなわち,測定中断深さまで測定すればよく,無駄な測定
を行わなくてもよいというものである。
()以上のように,審決は,本願発明の有する顕著な効果を看過したものであっ4
て,違法であるから,取り消されるべきである。
第4被告の主張
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(引用発明の誤認と相違点の看過)に対して
原告は,引用発明においては,有効ねじ部のねじ深さℓを求めるためには,ℓの1
みならず,ℓをも測定しなければならないのであり,ここにℓを測定するという22
ことは,ねじ穴に形成されたねじ部の全長を測定しなければならないということで
あるから,引用発明は,「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値に達した測
定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程」を具備していない旨主張する。
しかし,引用発明において,測定開始位置から有効ねじ部の開始位置までの長さ
は未知の値であるのに対し,ねじ穴に入口から測定開始位置までの長さは既知の値
であるから,本質的に意味が異なるものである。つまり,引用発明の測定開始位置
は,測定ヘッド10の初期位置であり,ヘッド駆動部30によりその初期位置の設
定がされることから,ねじ穴の入口から測定開始位置までの長さは,初期位置の設
定の段階で決定されている。一方,有効ねじ部の開始位置は,各ねじ毎に測定して
初めて得られる未知の位置であって,有効ねじ部の開始位置を取得した時点で,有
効ねじ部のねじ深さが実質上決定しているということができる。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対して
甲7公報によれば,三次元測定機において座標値により演算を行う技術は,本件
出願時に周知であったと認められるところ,甲5公報には,同一面上の3点の測定
により,3点から成る三角形に内接する円が一義的に決定されることから,演算に
よりその内接円の径を求めるという,本願発明の「多点測定」に相当する3点の測
定を行うという周知の技術が開示されており,実質的に座標系における座標値の取
得によって孔の内径を演算で求めるものであると理解することができるから,これ
らの「三次元測定器」に係る周知技術を参酌することによって,容易に相違点1に
係る,すなわち,「座標測定器を用い,また,多点測定により半径を求めている」
という本願発明の構成に,当業者が容易に想到し得るものということができる。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)に対して
原告は,甲8公報は,ねじ自体に関するものであって,ねじ穴に関する無駄な測
定,例えば,ねじ穴に形成されたねじ部が全て不完全ねじ部である場合にそのねじ
部の全長を測定することを防止しようとする相違点2に係る本願発明の構成は開示
されていない旨主張する。
しかし,本願発明の「測定工程における測定点の座標値」とは,測定中断深さと
対比される座標値なのであるから,本願発明の実施例でみれば,測定点のZ軸方向
の座標値を意味するものであり,測定点の座標値が予め入力されている測定中断深
さを越えているか否かを判断することは,測定位置の移動範囲を指定して被測定物
の位置データ(測定点の位置)と指定された測定範囲とを比較することに相応する
ものである。
甲8公報には,「移動テーブル16は・・・被測定ねじ4に対しレーザ光線6の
進行方向Cと交差する方向への平行移動Eと,両方向を含む面内での旋回Dとを与
えるものであり,」(段落【0014】∼【0015】),「被測定ねじ4のねじ
長さ等に基づいて移動テーブル16の移動量Eを本装置の使用者(オペレータ)が
決め,これをCPU31に入力してやる。CPU31はデジタルスケール21の変
位量E’をテーブル移動量信号用ケーブル25により取込み,テーブル移動制御信
号用ケーブル24を介してステッピングモータ19の回転を制御することにより,
指定された移動量Eを満足するまで制御を繰返す。このテーブル移動制御の時,C
PU31はレーザ光受光位置信号用ケーブル22を介して投影位置データFを取込
みレーザ光線6を遮断する被測定ねじ4のねじ山数αを観測することにより,被測
定ねじ4のピッチPをP=移動量E’/山数α・・・の演算を行って求める。」
(段落【0020】),「CPU31は記憶装置37に記憶した前述の測定データ
M,Tと同じ記憶装置37に記憶してある該当ねじの規格とを項目毎に比較照合し,
公差内に入っているか否かを判定し,その判定結果を測定データとともにCRT3
8及びプリンタ39に与え,画像表示させると共に検査成績書を印刷させる。」
(段落【0028】)との記載があるから,ねじ穴判別装置に関して,ねじ形状を
測定するレーザ光線6の照射方向と交差する方向に,移動テーブル16を移動させ
ることにより被測定ねじ4を移動させて形状を測定する際,被測定ねじ4のねじ長
さ等に基づいて使用者(オペレータ)が測定範囲を指定し,CPU31により,移
動テーブル16の位置データEが指定された測定範囲内にあるか否かを判定し,'
位置データEが指定範囲の限界に至るまで移動テーブル16を移動して被測定ね'
じ4の測定を行い,また,測定終了後に記憶された測定値に基づき被測定ねじの良
否の判定を行う技術が開示されている。
上記技術を参酌すれば,「ねじ穴」の上位概念である「ねじ」についての測定方
法として,甲8公報には,「測定範囲を指定するとともに,被測定物の測定位置を
移動させながら測定を行い,被測定物の位置データと該測定範囲とを比較して,該
位置データが該測定範囲を外れた際に,測定を終了して合否判定等の処理に移るよ
うにした測定手法」が記載されているものと理解することができるから,原告の主
張は,失当である。
4取消事由4(顕著な作用効果の看過)に対して
原告は,相違点2に係る本願発明の「前記測定工程における測定点の座標値が,
予め入力されている測定中断深さを越えていないか否かを判断する測定中断深さの
判断工程」は,前記測定工程における測定点の座標値が,予め入力されている測定
中断深さを越えた場合には,測定を中断することを可能とするものである旨主張す
る。
しかし,本願発明をみても,「測定中断深さ」は,測定点の座標値を判定するた
めの閾値であるに止まり,その閾値を越えた際にどのような制御がされるかについ
ては,何の記載もない。仮に,「測定中断深さ」が測定範囲を指定する予め入力さ
れた値であって,指定された測定範囲の測定点の座標データのみを取得し,その範
囲外の座標データは取得しないように設定するものであると解しても,上記のとお
り,被測定ねじ4のねじ長さ等に基づいて使用者(オペレータ)が測定範囲を指定
した上で,被測定ねじ4の測定を行い,その良否の判定を行うのであるから,指定
された範囲外の無駄な測定は行われないようにしていることは,本願発明と同様で
ある。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(引用発明の誤認と相違点の看過)について
()審決は,引用発明が,「測定ヘッド10の出力信号Sが設定値j以上と判11
断された場合に,ねじ穴の不完全ねじ部から有効ねじ部へと移行する位置(有効ね
じ部の開始位置)として測長ゲージ20からの出力信号Sを記憶し」の構成を有2
し,この構成において,本願発明の「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値
に達した測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程」と一致すると認定
したのに対し,原告は,これを争うので,検討する。
()本願発明にいう「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値に達した測定2
点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程」の記載は,文字どおり,「前記
測定された半径」が「前記ねじ穴半径の閾値」に達した場合に,その測定点の深さ
を「ねじ穴有効深さ」と決定するという意味であることは理解できるが,それ以上
に具体的な構成についての記載はなく,「前記測定された半径」から「前記ねじ穴
半径の閾値に達した測定点の深さ」を,どのような方法で,またどのような手順で
「決定する」かについての限定がされておらず,また,「測定半径が閾値に達した
かを判断する工程」についても,どのような方法で,またどのような手順で「判断
する」かについての限定もされていない,いわゆる機能的記載というべきものであ
る。したがって,「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値に達した測定点の
深さを,ねじ穴有効深さと決定する」ものであれば,どのような工程であっても差
し支えがないものと解するほかない。
()引用刊行物には,次の記載がある。3
ア「【作用】予め加工されたねじ穴のねじ山の形状に沿って先端に配設された
接触子が変位する測定ヘッドによりねじ穴のねじ山の形状に対応してその半径方向
の変位量が検出され,その信号が出力される。又,測長部により上記測定ヘッドの
接触子のねじ穴の深さ方向の移動量が検出され,その信号が出力される。ヘッド駆
動部により測定ヘッドの接触子をねじ穴に挿入した後,測定ヘッドがねじ穴の深さ
方向に駆動される。そして,信号演算処理部には測定ヘッドと測長部とから出力さ
れた信号が入力され,ねじ穴の有効ねじ部のねじ深さ等が算出される。」(2頁左
下欄第2段落∼下から第2段落)
イ「ステップ100で測定ヘッド10からの出力信号Sを読み込む。次にス1
テップ102に移行して,ステップ100で読み込まれた測定ヘッド10の出力信
号Sが有効ねじ部の変位量の下限値として予め設定された設定値j以上であるか1
否かが判定される。ここで,第5図()で示されたねじ穴検査測定開始直後においa
ては,ねじ下穴部に測定ヘッド10の接触子11は接触しており,変位をしないの
で測定ヘッド10の出力信号Sは設定値j以下であり,ステップ102の判定は1
NOであり,ステップ100に戻り,上述の処理を繰り返す。」(3頁左下欄第3
段落∼末行)
ウ「測定ヘッド10の接触子11はヘッド駆動部30によりねじ穴の入口方向
へ移動されるに従って,ねじ穴のねじ下穴部から不完全ねじ部へ,更に,不完全ね
じ部から有効ねじ部へと移動される。すると,測定ヘッド10の出力信号Sは不1
完全ねじ部から有効ねじ部へと移行する位置で設定値j以上となり,ステップ10
2の判定はYESとなり,ステップ104に移行する。ステップ104では測定ヘ
ッド10の出力信号Sによりねじ穴の不完全ねじ部から有効ねじ部へと移行する1
位置として測長ゲージ20からの出力信号Sを読み込む。そして,ステップ102
216に移行し,ステップ104で読み込んだ測長ゲージ20からの出力信号Sをℓ
として記憶する。」(同頁右下欄第1段落∼第4段落)
エ「次にステップ108に移行して,再度,測定ヘッド10からの出力信号S
を読み込む。次にステップ110に移行して,ステップ108で読み込まれた測1
定ヘッド10の出力信号Sが有効ねじ部の変位量の上限値として予め設定された1
設定値k以上であるか否かが判定される。ここで,第5図()で示された有効ねじa
部に沿って測定ヘッド10の接触子11が接触している間は設定値k以下であり,
ステップ110の判定はNOであり,ステップ108に戻り,上述の処理を繰り返
す。」(同頁右下欄下から第2段落∼4頁左上欄第2段落)
オ「測定ヘッド10の接触子11はヘッド駆動部30により更に,ねじ穴の入
口方向へ移動される。すると,測定ヘッド10の出力信号Sはねじ穴の有効ねじ1
部から入口部へと移行する位置で測定ヘッド10の接触子11がねじ穴から外れて
大きく変位するため設定値k以上となり,ステップ110の判定はYESとなり,
ステップ112に移行する。ステップ112では測定ヘッド10の出力信号Sに1
よりねじ穴の有効ねじ部から入口部へと移行する位置として測長ゲージ20からの
出力信号Sを読み込む。そして,ステップ114に移行し,ステップ112で読2
み込んだ測長ゲージ20からの出力信号Sをℓとして記憶する。」(4頁左上欄22
第3段落∼右上欄1行目)
カ「次にステップ116に移行して,ステップ106で記憶されたℓとステ1
ップ114で記憶されたℓとから有効ねじ部のねじ深さℓを次式にて求める。ℓ2
=|ℓ−ℓ|」(同頁右上欄第2段落)12
キ「次にステップ118に移行して,ステップ116で算出された工作物Wの
ねじ穴の有効ねじ部のねじ深さℓがねじ深さの許容値として予め設定された設定値
L以上であるか否かが判定される。ステップ118の判定は,工作物Wのねじ穴の
有効ねじ部のねじ深さℓが設定値L以上であるとYESであり,ステップ120に
移行し,OK表示を表示器52に出力し,設定値L未満であるとNOであり,ステ
ップ122に移行し,NG表示を表示器52に出力して,本プログラムを終了す
る。」(同頁右上欄第3段落∼下から第2段落)
()引用刊行物の上記記載によれば,「ステップ104では測定ヘッド10の出4
力信号Sによりねじ穴の不完全ねじ部から有効ねじ部へと移行する位置として測1
長ゲージ20からの出力信号S2を読み込む。そして,ステップ106に移行し,
ステップ104で読み込んだ測長ゲージ20からの出力信号Sをℓとして記憶す21
る。」(上記ウ),「ステップ112では測定ヘッド10の出力信号Sによりね1
じ穴の有効ねじ部から入口部へと移行する位置として測長ゲージ20からの出力信
号Sを読み込む。そして,ステップ114に移行し,ステップ112で読み込ん2
だ測長ゲージ20からの出力信号Sをℓとして記憶する。」(上記オ),「ステ21
ップ106で記憶されたℓとステップ114で記憶されたℓとから有効ねじ部の12
ねじ深さℓを次式にて求める。ℓ=|ℓ−ℓ|」(上記カ)のであるから,引用12
発明においては,上記()ウ,オの工程を経て,カの工程において,測定された半3
径方向の形状値が閾値に達した測定点の深さをねじ穴有効深さと決定するものであ
る。
したがって,引用発明は,本願発明にいう「前記測定された半径が前記ねじ穴半
径の閾値に達した測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程」を有して
いることが明らかである。
()原告は,引用発明においては,測定ヘッド10の出力信号Sが設定値j以51
上となった時点で,ねじ穴有効深さと決定しているわけではないから,本願発明の
「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値に達した測定点の深さを,ねじ穴有
効深さと決定する決定工程」を具備しているとはいえない旨主張する。
しかし,上記()のとおり,「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値に達2
した測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する」という機能を有するものであれ
ば,どのような工程であっても差し支えがないものであり,原告主張のように,ね
じ穴に形成されたねじ部のうち途中のねじ部まで測定するだけでねじ穴有効深さを
決定できるという場合もあり得るし,引用発明のように,ねじ穴の不完全ねじ部か
ら有効ねじ部へと移行する位置に対応する出力信号と,ねじ穴の有効ねじ部から入
口部へと移行する位置に対応する出力信号の差から有効ねじ部のねじ深さを算出す
る場合もあり得るから,本願発明の「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値
に達した測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する」の意味を前者に限定した上
で,後者を排斥しようとする原告の主張は,失当というほかない。
()そうすると,本願発明と引用発明とが「前記測定された半径が前記ねじ穴半6
径の閾値に達した測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程」において
一致するとした審決の認定に誤りはない。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
()原告は,本願発明は,座標系における「予め入力されている測定中断深さ」1
及び「測定点の深さ」を測定するので,ねじ穴に形成されたねじ部のうち途中のね
じ部まで測定するだけで「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値に達した測
定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する」ことが可能であるのに対し,引用発明
のねじ穴検査測定装置は,座標値を用いていないので,甲5ないし7の特許公報を
考慮しても,上記のような本願発明の機能・作用を有することにならない旨主張す
る。
しかし,引用発明は,ねじ穴の半径方向の変位量を測定するものであって,ねじ
下穴の表面を基準にそこからの変位量が所定量j以上となった点をℓの位置とす1
るものであるから,上記周知の三次元の座標測定器を用いてねじ穴の半径を測定す
ることによっても,ℓの位置を測定することは可能であることが明らかである。1
そして,上記1()のとおり,本願発明にいう「前記測定された半径が前記ねじ穴4
半径の閾値に達した測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程」を有し
ているのであるから,これを有していないことを前提とする原告の上記主張は,前
提において既に誤っており,採用の限りでない。
()三次元測定器でねじ穴の有効径や深さの測定等をすることが本件出願時に周2
知の技術であることは,当事者間に争いがない。そして,この「三次元測定器」に
ついて,甲7公報の【背景技術】欄において,「三次元測定機では,被測定物とタ
ッチ信号プローブとを,互いに直交する3軸方向(X,Y,Z軸方向)に相対移動
させながら,タッチ信号プローブを被測定物の測定部位に当接させ,タッチ信号プ
ローブからタッチ信号が発せられたときの各軸方向の座標値を読み取り,これらの
座標値から測定部位の形状や寸法などを演算するものであるから,被測定物の各種
形状を測定することができる。ところで,三次元測定機を用いて,被測定物の孔の
直径(内径)を測定する場合,被測定物とタッチ信号プローブとを相対移動させな
がら,タッチ信号プローブを被測定物の孔内に位置させたのち,その孔内の3点に
接触させ,そのときの座標値を読み取り,これらの座標値から孔の直径を演算で求
めていた。」(段落【0002】)との記載がある。
引用発明は,ねじ穴の半径方向の変位量を測定するものであって,ねじ下穴の表
面を基準にそこからの変位量が所定量j以上となった点をℓの位置とするもので1
あるから,上記周知の三次元の座標測定器を用いてねじ穴の半径を測定することに
よっても,ℓの位置を測定することは可能であることが明らかである。1
そして,甲7公報記載の技術は,「三次元測定器を用いて,孔または軸の直径,
あるいは,ねじ孔の有効径又は深さを測定する測定方法」(段落【0001】)に
関するものであって,引用発明とは共通の技術分野である。そして,引用発明にお
いて,「ねじ穴の下穴の半径方向の形状値を,加工されたねじ部の方向へ向かって
測定し,引き続いてねじ穴の半径方向の形状値を測定する測定工程」を有する以上,
当然に,いかなる手段で,ねじ穴の半径方向の形状値を測定するかが技術課題とな
るものであるが,上記のとおり,甲7公報には,その技術課題に対する解決策が開
示されているから,甲7公報記載の技術を引用発明に適用することを当業者が容易
に想到し得ることが明らかである。
したがって,相違点1について,引用発明の測定方法を座標測定器を用いて,半
径を測定する技術を引用発明に適用することが格別のものでないとした審決の認定
判断に誤りはない。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
()まず,本願発明の「前記測定工程における測定点の座標値が,予め入力され1
ている測定中断深さを越えていないか否かを判断する測定中断深さの判断工程」は,
前記1()と同様の機能的な記載であって,上記工程について,どのような方法で,2
またどのような手順で「測定中断深さを越えていないか否かを判断する」かについ
ての記載がないから,「前記測定工程における測定点の座標値が,予め入力されて
いる測定中断深さを越えていないか否かを判断する」という機能を有するものであ
れば,どのような工程であっても差し支えがないと解するほかない。しかも,特許
請求の範囲には,上記判断工程の後,測定を中断する工程についての記載もない。
()引用刊行物には,「尚,上述のプログラムでは,工作物Wのねじ穴の有効ね2
じ部のねじ深さℓのみを判定し,その結果を表示するようにしているが,予め適当
な設定値を設定し,その設定値と測定ヘッド10又は測長ゲージ20からの出力信
号とを比較することによりねじ下穴部の深さの測定及びねじ下穴部の不良判定や不
完全ねじ部の深さの測定も実行可能であることは明らかである。又,信号演算処理
部40のメモリ47に判定したいねじ穴に対応したモデルパターンの変位量を予め
記憶しておき,ヘッド駆動部30と同期させてそのモデルパターンと測定ヘッド1
0から読み込んだ出力信号を比較することによりねじ穴の形状判定を行うことも可
能となる。この場合,ねじ穴のモデルパターンに対して,その判定境界パターンを
適当に設定することにより,下穴不良によるねじ不良やタップ摩耗等のタップ不良
によるねじ不良の判別,更に,ゴミや切粉等異物の付着の発見が容易となり,ねじ
品質に関する検査測定まで行うことが可能となる。」(4頁右上欄最終段落∼左下
欄第3段落)との記載がある。
上記記載によれば,引用刊行物には,「ねじ下穴部の深さの測定及びねじ下穴部
の不良判定や不完全ねじ部の深さの測定」についての技術が記載され,また,「ね
じ穴のモデルパターンに対してその判定境界パターンを適当に設定する」ことによ
り,「下穴不良によるねじ不良」,「タップ摩耗等のタップ不良によるねじ不良」
を判別するのであるから,判定境界パターンによって下穴の形成不良とねじ穴の形
成不良を区別して検出することが明らかである。下穴の形成不良とねじ穴の形成不
良を区別するためには,その前提として,下穴とねじ穴の境界である有効ねじ穴開
始位置に測定位置が達したか否かを判定する必要がある。
()ところで,甲8公報には,次の記載がある。3
ア「そこで本発明は,ねじ関連製品のねじ部の測定及び合否の判定を非接触で
且つ自動で行うことが可能なねじ判別装置を提供することを目的とする。」(段落
【0008】)
イ「【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明のねじ判別装置
は,被測定ねじを支持し回転及びスライドさせる可動支持装置と,可動支持装置の
回転量及びスライド量を検出するセンサと,被測定ねじにレーザ光を照射し投影像
により外形を測定するレーザ外形測定器と,可動支持装置を制御すると共にレーザ
外形測定器から投影位置データを入力し,この投影位置データ,可動支持装置の回
転量及びスライド量よりねじ測定の演算を行い,規格との照合を行う演算制御装置
とを具備することを特徴とする。」(段落【0009】)
ウ「可動支持装置5は・・・回転軸14上に設置された固定テーブル15に対
し移動する移動テーブル16と,移動テーブル16上に設置された回転センター台
17と,回転センター台17に対向した移動センター台18とからなり,被測定ね
じ4は回転センター台17のセンター17Aと移動センター台18のセンター18
Aとの間にセンター穴を利用して取付けられる。移動テーブル16は・・・被測定
ねじ4に対しレーザ光線6の進行方向Cと交差する方向への平行移動Eと,両方向
を含む面内での旋回Dとを与えるものであり,ステッピングモータ19の回転をテ
ーブル送りねじ20を介して固定テーブル15に伝えることによりE方向に移動し,
回転軸14の駆動によりD方向に旋回する。移動量Eの制御はデジタルスケール2
1で検出した変位量を用いて行われ,旋回量Dの制御はロータリエンコーダAで検
出した回転量を用いて行われる。」(段落【0014】∼【0015】)
エ「被測定ねじ4のねじ長さ等に基づいて移動テーブル16の移動量Eを本装
置の使用者(オペレータ)が決め,これをCPU31に入力してやる。CPU31
はデジタルスケール21の変位量E’をテーブル移動量信号用ケーブル25により
取込み,テーブル移動制御信号用ケーブル24を介してステッピングモータ19の
回転を制御することにより,指定された移動量Eを満足するまで制御を繰返す。こ
のテーブル移動制御の時,CPU31はレーザ光受光位置信号用ケーブル22を介
して投影位置データFを取込みレーザ光線6を遮断する被測定ねじ4のねじ山数α
を観測することにより,被測定ねじ4のピッチPをP=移動量E’/山数α・・
・の演算を行って求める。」(段落【0020】)
オ「CPU31は記憶装置37に記憶した前述の測定データM,Tと同じ記憶
装置37に記憶してある該当ねじの規格とを項目毎に比較照合し,公差内に入って
いるか否かを判定し,その判定結果を測定データとともにCRT38及びプリンタ
39に与え,画像表示させると共に検査成績書を印刷させる。」(段落【002
8】)
()甲8公報の上記記載によれば,被測定ねじ4を支持し回転及びスライドさせ4
る可動支持装置5を,被測定ねじ4のねじ長さ等に基づいて移動テーブル16の移
動量Eを満足するまで,レーザ光線6の進行方向Cと交差する方向に移動させ,被
測定ねじ4にレーザ光線6を照射し投影像により外形を測定し,この投影位置デー
タと可動支持装置の回転量及びスライド量を基に演算を行い,規格との照合を行い,
被測定ねじ4の良否の判定を行う技術が開示されているから,測定装置において,
測定位置が,予め定めた位置に達したか否かを判断する判断工程を有し,当該位置
に達したと判断した場合に測定を終了するようにすることは,本件出願時において
周知慣用の技術であったと認められる。
()甲8公報に記載の上記周知慣用の技術は,ねじ形状の判別をする装置に関す5
るものであって,引用発明とは技術分野を共通にし,かつ,前者は「ねじ」のねじ
山の形状を測定するのに対し,引用発明では「ねじ穴」のねじ山の形状を測定する
点で厳密にいえば対象を異にするが,極めて近接したものであることが明らかであ
る。そして,引用発明において,ねじ穴有効深さが存在するか否かを判定した後の
工程をどうするかが技術課題となるのが当然であり,一方,測定装置において,測
定位置が,予め定めた位置に達したか否かを判断する判断工程を有し,当該位置に
達したと判断した場合に測定を終了するようにすることは,周知慣用の技術として
存在するのであるから,この技術を引用発明に適用することを,当業者が容易に想
到し得ることが明らかである。
したがって,相違点2について,甲8公報に記載の技術を引用発明に適用するこ
とが格別のものでないとした審決の認定判断に誤りはない。
()原告は,測定中断深さを判断することは,測定を中断すること,すなわち,6
測定を全長にわたって行わないことであり,被測定物の位置データ(測定点の位
置)と指定された測定範囲とを比較することと異なるとし,引用刊行物に測定中断
深さを判断する構成が存在しない旨主張する。
しかし,前記のとおり,本願発明は,「前記測定工程における測定点の座標値が,
予め入力されている測定中断深さを越えていないか否かを判断する」という機能を
有するものであれば,どのような工程であっても差し支えがないものであり,しか
も,特許請求の範囲には,上記判断工程の後,測定を中断する工程についての記載
もないのであるから,上記測定中断深さを判断する工程から,直ちに,測定を中断
する工程を同視することはできない。
したがって,原告の上記主張は,その前提において失当であって,その余の点に
ついて検討するまでもなく,採用することができない。
4取消事由4(顕著な作用効果の看過)について
()本件明細書の発明の詳細な説明の【発明の効果】欄には,「本発明に係るね1
じ穴有効深さ測定方法によれば,ねじ穴の下穴半径を加工されたねじ部の方向へ向
かって多点測定し,測定された半径が予め入力されているねじ穴半径の閾値に達し
たことを判断するとともに,前記閾値に達した測定点の深さをねじ穴有効深さと決
定するようにしたので,従来手動で限界ゲージを螺入していた測定が,座標測定機
を用いて容易に測定可能となり,ねじ穴の測定工数や検査工数を低減することがで
きる。」(段落【0037】)との記載がある。
上記記載によれば,本願発明の構成により「従来手動で限界ゲージを螺入してい
た測定が,座標測定機を用いて容易に測定可能となり,ねじ穴の測定工数や検査工
数を低減することができる。」という効果を奏するというものであるが,このよう
な効果は,本願発明の構成から,当業者が容易に想到し得るものであって,格別の
ものということはできない。
()原告は,本願発明の「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値に達した2
測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程」により,ねじ穴に形成され
たねじ部のうち途中のねじ部まで測定するだけでねじ穴有効深さを決定できる旨主
張する。
しかし,本願発明にいう「前記測定された半径が前記ねじ穴半径の閾値に達した
測定点の深さを,ねじ穴有効深さと決定する決定工程」は,上記のとおり,ねじ穴
に形成されたねじ部のうち途中のねじ部まで測定するだけでねじ穴有効深さを決定
できるという場合もあり得るし,ねじ穴の不完全ねじ部から有効ねじ部へと移行す
る位置に対応する出力信号と,ねじ穴の有効ねじ部から入口部へと移行する位置に
対応する出力信号の差から有効ねじ部のねじ深さを算出する場合もあり得るのであ
るから,その前者に限定して,ねじ穴に形成されたねじ部のうち途中のねじ部まで
測定するだけでねじ穴有効深さを決定できるのが本願発明の効果であるとする原告
の主張は,前提を誤っているものであって,採用の限りでない。
()原告は,本願発明においては,前記測定工程における測定点の座標値が,予3
め入力されている測定中断深さを越えた場合には,測定を中断することを可能とす
るものである旨主張する。
しかし,そもそも,特許請求の範囲には,「前記測定工程における測定点の座標
値が,予め入力されている測定中断深さを越えていないか否かを判断する測定中断
深さの判断工程」と記載されているものの,測定を中断する工程については何の記
載もない。むろん,測定中断深さの判断工程がある以上,測定を中断する工程が存
在することは,当然に予想されるところであるが,一方,前記のとおり,引用刊行
物にも,「入り口部の位置を基点とした有効ねじ部の開始位置が所定の深さ未満の
場合に不良と判定する点の開示があ」り,不良と判定する以上,更に測定すること
は無意味であるから,測定を中断する工程が存在することは明らかであり,本願発
明と変わりがない。
5以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄
却を免れない。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官塚原朋一
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

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