弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
被告人を懲役4年6か月に処する。
未決勾留日数中650日をその刑に算入する。
理由
【罪となるべき事実】
第1(平成17年3月25日付け起訴)
被告人は,A1,A2ことA3及びA4と共謀の上,金品窃取の目的で,平
成15年10月30日午前零時45分ころ,甲地区陸運事業協同組合の購買部
課長であるB1が看守する富山県新湊市(現在の地名射水市)ab番地の同
協同組合乙店舗内に,A1及びA4が,その出入口から侵入し,同所において,
B1の管理する現金12万8265円及び黒色トレー1個(時価1000円相
当)を窃取した。
第2(平成17年5月23日付け起訴)
被告人は,平成15年10月30日午前1時46分ころ,富山県新湊市(現
在の地名射水市)cd番地のe付近道路において,法定の最高速度(60キ
ロメートル毎時)を86キロメートル超える146キロメートル毎時の速度で
普通乗用自動車を運転して進行した。
第3(平成17年6月15日付け起訴,平成17年6月27日付け訴因変更請求,
平成18年8月28日付け訴因変更請求)
1被告人は,C,D,E及びFが,共謀の上,平成16年11月28日午前6
時30分ころ,名古屋市中川区f町g丁目h番i号の丙駐車場棟屋上駐車場に
おいて,G(当時25歳)に対し,Gの両手足等を引っ張るなどして同所に停
車中の普通乗用自動車後部座席にGを引きずり込み,同車を発進させ,走行中
の同車内において,Gの顔面及び両足首に粘着テープを巻き付け,両手首に手
錠をかけるなどした上,Gを愛知県小牧市j町k番地の自動車修理加工工場丁
及び同市lm丁目n番地戊o号のF方等に連行し,同月29日午後零時ころ,
名古屋市北区pq丁目r番地sの己ビル東側路上でGを同車両から降車させる
までの間,約29時間30分にわたり,Gを同車内等から脱出することを不能
にさせて不法に監禁するにあたり,同月28日午後5時ころ,同工場にオート
バイを保管しているHが,同工場にオートバイを預けに来た際,同工場前にお
いて,Hよりオートバイを受け取り,Hが同工場内に入るのを阻止し,Cらの
犯行の発覚を防ぎ,もって,Cらの犯行を容易にさせてこれを幇助した。
2被告人は,Cと共謀の上,平成16年11月29日午後4時43分ころから
同月30日午後1時37分ころまでの間,岐阜市及びその周辺において,多数
回にわたり,Cらの暴行,脅迫,強姦等により畏怖したGに対し,電話で「I
’の部屋にも見張りを置く。お前が警察に言ったら,I’はお前と同じ運命を
たどるし,お前のこともまたさらってやるからな。警察に言ったら一生つきま
とってやるからな。」などと言って脅迫し,Gの反抗を抑圧した上,Gから現
金2000万円を強取しようとしたが,Gが警察に届け出たため,その目的を
遂げなかったが,被告人は,恐喝の犯意を有するに留まっていた。
第4(平成17年9月30日付け起訴)
被告人は,E,A5,A6,F,J及びA7と共謀の上,金品窃取の目的で,
1平成16年12月21日午前3時24分ころ,庚辛t店の店長であるB2が
看守する愛知県小牧市uq丁目v番地のeの同店事務所に,A5及びA6らが,
その事務所出入口ドアのガラス破損部分から施錠を解いて侵入した上,同事務
所内から据置金庫を運び出して窃取しようとしたが,同金庫が床に固定されて
いて運び出すことができなかったため,その目的を遂げなかった。
2同日午前3時57分ころ,庚壬w店の店長であるB3が看守する愛知県西春
日井郡x町大字y字zα番地の同店に,A5及びA6らが,その北側出入口自
動ドアをこじ開けて侵入した上,同店東側事務室内から据置金庫を運び出して
窃取しようとしたが,同金庫が鉄製の枠で固定されていて運び出すことができ
なかったため,その目的を遂げなかった。
第5(平成17年7月15日付け起訴)
被告人は,A6,A5,E,C,D,A8,A9及びA10ほか3名と共謀
の上,金品窃取の目的で,
1平成16年12月22日午前1時52分ころ,前記庚辛t店の店長であるB
2が看守する同店に,A6及びA5らが,その事務室出入口ドアから侵入した
上,同所において,B2の管理する現金162万4693円及び印鑑1個ほか
1点在中の金庫1個(時価合計11万円相当)を窃取した。
2同日午前2時29分ころ,前記庚壬w店の店長であるB3が看守する同店に,
A6及びA5らが,その北出入口ドアから侵入した上,同所において,B3の
管理する現金134万7640円及び手提げ金庫13個ほか50点在中の金庫
1個(時価合計13万7100円相当)を窃取した。
第6(平成17年11月17日付け起訴)
被告人は,F,E,A5及びA1ほか2名と共謀の上,金品窃取の目的で,
平成17年1月24日午前零時18分ころ,株式会社癸β店の店長であるB4
が看守する名古屋市北区γδ丁目ε番地の同店に,E及びA5らが,その2階
西側出入口ドアから侵入した上,同店の事務室において据置金庫を運び出して
窃取しようとしたが,同金庫がスチール製の枠で固定され,運び出すことがで
きなかったため,その目的を遂げなかった。
第7(平成17年4月28日付け起訴)
被告人は,E,F,A5及び通称A11と共謀の上,金品窃取の目的で,平
成17年2月25日午前4時ころ,有限会社子ζ店の店長であるB5が看守す
る愛知県春日井市ηθ丁目ι番地κの同店に,Eが,その休憩室の西側腰高窓
から侵入した上,その事務所において,机等を物色したものの,金品を発見で
きなかったため,その目的を遂げなかった。
【証拠の標目】
(略)
【争点に対する判断】
第1争点
1公訴事実
平成17年6月15日付け起訴,平成17年6月27日付け訴因変更請求,
平成18年8月28日付け訴因変更請求にかかる公訴事実は,以下のとおりで
ある。
「被告人は,C,D,E及びFと共謀の上,G(当時25年)を略取して自
己らの支配下に置き,同人から金品を強取しようと企て
1平成16年11月28日午前6時30分ころ,名古屋市中川区f町g丁
目h番i号丙駐車場棟屋上駐車場において,上記Gに対し,上記D及び上
記Fが,上記Gの両手足等を引っ張るなどして同所に停車中の普通乗用自
動車後部座席に同女を引きずり込み,同車を発進させ,走行中の同車内に
おいて,同女の顔面及び両足首に粘着テープを巻き付け,両手首に手錠を
かけ,その上半身を押さえつけるなどの暴行を加え,同女を逮捕して上記
Cらの支配下に置き,もって上記Gを営利の目的で略取するとともに,同
女を愛知県小牧市j町k番地自動車修理加工工場丁及び同市lm丁目n番
地戊o号上記F方等に連行し,同月29日午後零時ころ,名古屋市北区p
q丁目r番地s己ビル東側路上で同女を同車両から降車させるまでの間,
約29時間30分にわたり,同女を同車内等から脱出することを不能にさ
せて不法に逮捕監禁し,その際,上記一連の暴行により同女に加療約3週
間を要する両膝挫創,両手関節挫傷,右上腕打僕血腫等の傷害を負わせた
2同月28日午前6時30分ころ,上記丙駐車場棟屋上駐車場から上記丁
に至る走行中の上記車両内において,上記のとおり逮捕監禁し,上記暴行
によって畏怖状態にある上記Gに対し,こもごも,「お前助からないよ。
もう諦めろ。金出せるか。いくら出しても助からないよ。無理だから。」
などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧した上,同女所有の現金約10
万円及び財布1個ほか36点在中の手提げかばん1個ほか8点(時価合計
32万9,000円相当)を強取した
3上記Gを強姦することを企て,同日午前7時ころから同日午後8時30
分ころまでの間,上記丁工場内に駐車中の上記車両内において,上記のと
おり両目付近を粘着テープで緊縛され,両手首に手錠をかけられて,逮捕
監禁された上記Gに対し,上記Cが,「死ぬよりましだろう。」などと脅
迫して更にその反抗を抑圧し,同人,上記D及び上記Eが,順次,上記G
を強いて姦淫し,被告人が口淫させた
4上記3記載の日時ころ,上記丁工場内に駐車中の上記車両内において,
上記Gに対し,こもごも,「3000万円用意できるか。俺たちは組織で
やっている。俺たちは,2000万円で雇われている。ナンバーワンなん
だから3000万円くらいはあるだろう。依頼人がお前をめちゃくちゃに
してやりたい,顔をぐちゃぐちゃにし,腕を切り落として,夜の世界では,
仕事ができないようにしてやると言っているんだ。」,「お前のことは全
て知っているぞ。金を出さないのなら,お前を売って,家族や知り合いも
さらうぞ。お前の家族,彼氏や友人たちがどうなってもいいのか。」,
「何とか金を作る方法を考えろ。お前が金を作る方法を考えないと,何日
もお前を監禁しておかなきゃいかなくなるぞ。お前も早く帰りたいだろ。
じゃないと,ずっと俺たちに何日でも犯されるぞ。」などと,同月29日
午前4時ころ,岐阜県大垣市λμ丁目ν番地付近に停車中の上記自動車内
において,同女に対し,「店で仲が良いのは誰だ。そいつに電話しろ。お
前の自宅から銀行の通帳と印鑑,金目のものを持ってくるように指示しろ。
普段ならナイフで切り刻みながら言うことを聞かせるんだぞ。なんなら,
ここでやってやろうか。」などと語気鋭く申し向けて脅迫し,同女をして
I’ことIへ電話をかけさせ,情を知らない同女に上記丙ξ号当時の上記
G方から同女所有の通帳3通等を持ち出させた上,同日午前6時50分こ
ろ,名古屋市中村区πμ丁目ρ番丑中学校東側付近の公衆電話ボックス内
において,上記Iが同所に遺留した上記G所有の腕時計1個及び通帳3通
ほか2点(時価合計60万円相当)を持ち去って強取した
5同日午前9時45分ころ,上記F方において,上記のとおり逮捕監禁さ
れた上,一連の暴行,脅迫,強姦等によりその反抗を抑圧された上記Gに
対し,上記Eが口淫させ,上記Cが上記Gを強いて姦淫した
6そのころ,同所において,上記Gに対し,上記Cが,「I’を捕まえた
から,お前を解放する。お前がやるのは,金を下ろすことと,周りに一切,
余計なことを言わないことだ。約束を守れば,お前に一切手出しをしない
が,約束を破ったら,もう一回さらってやるからな。」などと語気鋭く申
し向けて脅迫し,更に上記Gの反抗を抑圧して,同女に,銀行及び信用金
庫に開設した同女名義の普通預金口座等から現金約3000万円を引き下
ろして,被告人らに交付するよう申し向け,
(1)同日午後零時ころ,上記己ビル東側路上において,上記Gを上記自動
車内から降車させ,同女をして,そのころ,名古屋市北区大曽根m丁目
ρ番号寅銀行σ支店において,同行τ支店に開設された同女名義の普ü
通預金口座から現金880万円を引き下ろさせた上,同日午後1時10
分ころ,同区φδ丁目ψ番ω号卯駐車場付近路上において,上記現金中,
870万円を遺留させ,そのころ,同所において,同現金を持ち去り強
取した
(2)同日午後4時43分ころから同月30日午後1時37分ころまでの間,
岐阜市及びその周辺において,多数回にわたり,被告人及び上記Cが,
上記一連の暴行,脅迫,強姦等により畏怖した上記Gに対し,電話で
「I’の部屋にも見張りを置く。お前が警察に言ったら,I’はお前と
同じ運命をたどるし,お前のこともまたさらってやるからな。警察に言
ったら一生つきまとってやるからな。」などと申し向けて脅迫し,同女
の反抗を抑圧した上,同女から現金2000万円を強取しようとしたが,
同女が警察に届け出たため,その目的を遂げなかった
ものである。」
2争点
以上の各公訴事実に関し,検察官は,①被告人は,謀議に加わり,犯行前に
被害者方の下見に同行し,事前に共犯者から本件への加担を誘われていたこと,
②被告人は,犯行当日,当初加担しなかったものの,明確に参加しない趣旨の
言葉は述べず,他の共犯者らは,被告人が仲間であるとの認識を抱いていたこ
と,③被告人は,共犯者らが実行に着手した後,共犯者らに対し,度々電話連
絡を取って状況を把握し,営利略取・逮捕監禁致傷・強盗強姦の事実を知って
いたこと,④被告人は,共犯者らが被害者に対し,営利略取・逮捕監禁致傷・
強盗強姦行為に及んだことを熟知しながら,監禁場所へ赴き,被害者に口淫さ
せたこと,⑤被告人は,監禁場所へ偶然来た来訪者と対応し,その際,監禁場
所内へ立ち入ることを制止したこと,⑥被告人は,共犯者らとともに犯行使用
車両を処分したこと,⑦被害者が解放された後の平成16年11月30日に,
被告人は,Cとともに被害者のいる岐阜県内まで行き,再度被害者を脅迫し,
金員の支払を要求したこと,⑧被告人は,11月30日に被害者から金員を受
け取る際,検挙を免れるために,第三者を利用することとし,その第三者を手
配したこと,⑨被告人は,被害者の時計を質入れし,換金したことなどの各事
実が証拠上認められると主張した上,上記各事実を前提とすれば,被告人には,
営利略取・逮捕監禁致傷・強盗強姦の共同正犯が成立すると主張する。
これに対し,弁護人は,被告人が,C・D・E・Fと営利略取・逮捕監禁致
傷・強盗強姦の共謀をした事実はなく,また,Cらの犯行を支援する何らの行
動もとっておらず,上記各公訴事実のうち,6(2)に恐喝未遂の限度で関与し
たに過ぎないと主張し,被告人もそれに沿う公判供述を行っている。
当裁判所は,検察官の主張する各事実のうち,以下に指摘する点以外につい
ては,おおむね認められるが,①のうち,被告人が謀議に加わったという点,
②のうち,他の共犯者らが被告人を仲間であると認識していた点,④のうち,
被告人が被害者に口淫させた点については,それを認めるには,合理的な疑い
が残ると判断した。
また,上記各公訴事実のうち,1ないし6⑴(11月28日にCらが被害者
を逮捕してから,29日に一旦解放し,870万円を遺留させるまで)に関し
ては,被告人と,C・D・E・Fとの共謀は認められず,検察官の指摘する⑤
来訪者の立入りを制止した行為が,被害者の監禁についての幇助に当たり,他
の事実については無罪であると判断した。
また,公訴事実6(2)(11月29日から30日にかけての岐阜県内での被
害者への強盗未遂)については,被告人は共同正犯の責任を負うが,その故意
は恐喝に留まると判断した。
以下,①当事者間に争いがなく,証拠から容易に認定できる事実を指摘し,
②当事者間に争いがある事実について,適宜,証拠評価を加えながら,上記の
認定をした理由を説明し,③以上の認定事実をもとに,上記の監禁幇助及び恐
喝未遂の各犯罪が成立すると判断した理由を説明する。
第2前提事実
C・D・E・Fが,上記各公訴事実の犯行(以下「本件犯行」ともいう。)に
及んだことは,被告人との共謀の有無を除き,当事者間に争いがない。そして,
関係各証拠から,以下の事実は明らかに認められる。
1被告人と共犯者らとの関係
被告人は,中学生のころ,暴走族グループ「辰」に所属しており,そこで,
他の暴走族グループである「巳」に所属していたEと顔を合わせたことがあっ
た。その後,平成13年10月ころ,被告人は,Eと再会し,そのころから,
頻繁に話をするようになった。
平成15年2月ころ,被告人は,Eの先輩であるCと知り合った。Eは,
「巳」が解散した後,自ら「午」という暴走族グループを新たに立ち上げ,
「午」のいわゆるケツ持ちをしていたのが,暴力団員であるCであった。被告
人は,Cがギャンブル好きであったことから意気投合し,Eも交えて,一緒に
カジノに行くなどして,親しく付き合うようになった。
Eは,Cに誘われて,暴力団に入った。そのため,Eにとって,Cは組の兄
貴分にあたり,EとCの間には,はっきりとした上下関係があった。それに対
し,被告人は,Cより年下であったが,Cのことを「C’」と呼び,敬語を使
わずに話すなど,被告人とCには,明確な上下関係はなかった。
平成16年2月ころ,被告人は,Eから,Eの後輩であるFを紹介された。
被告人は,Fが,自分よりも2歳年下で,Eの後輩ということから,使い走り
のように扱っていた。
被告人は,平成16年11月初めころから,E・Cとともに,盗みをするよ
うになった。そして,盗みの際に,CからDを紹介された。
211月28日の謀議に至る経緯
(1)認定事実
Cは,キャバクラで接客している女性従業員であれば,高価な金品や多額
の預貯金を有しているものと考え,そのような女性の中でもナンバーワンだ
と評されていた本件被害者を拉致し,金品を強奪することを計画し,平成1
6年11月上旬ころ,その計画をEに打ち明けた。Eは,分け前欲しさに,
その計画に加担することにした。
一方,被告人は,Cと盗みに行った際,Cから「金を持っている女がいる。
そいつをさらって,金を取る。」という話を聞いた。Cは,車を運転して,
被害者方のマンションまで被告人を連れて行った。
Cは,Dに対しても,上記の計画を打ち明け,Dも参加する旨の返答をし
た。そして,Cは,犯行に使用するための手錠やガムテープを用意した上,
通称「Pドコ」という発信装置を被害者の車に取り付けた。
Cが,被告人を被害者方のマンションに連れて行った数日後,被告人が,
C・E・Dと盗みに行った際,Cが「再度,狙っている女のマンションを見
に行く。」と言って,車を運転して,被害者方のマンションに行った。
Cは,その車内で,狙う相手について,未というキャバクラの「G’」と
いう女性であると具体的に説明した。
本件犯行の前日である11月27日,被告人とEが一緒にいたところ,被
告人の先輩であるKから,被告人に連絡があり,被告人らは,Kと午後10
時ころに合流した。同じころ,Eの先輩であるLからEに連絡があった。E
は,Lに呼ばれたため,被告人らは,Eを小牧市内にあるL方に送った。
被告人とKが,Eの用件が終わるのを車中で待っていると,CとDがグラ
ンビアに乗ってやって来た。しばらくして,EもL方から戻ってきた。
Cは,被告人に対し,「今日,G’,行くで。」と言ったが,被告人は断
り,被告人とKは,その場から離れた。その際,被告人は,Eに対し,「明
日電話するわ。」と言った。
(2)C供述の信用性
なお,以上の事実について,Cは,首謀者は自分ではなく,Eであり,手
錠・ガムテープの準備をしたり,「Pドコ」を取り付けたのは,Eだと思う
と供述しているが,以下の理由で信用できない。
すなわち,Dは,Cが首謀者であり,DとCにおいて,本件犯行後に,全
ての責任をEにかぶせることを口裏合わせしたと供述している。Dは,本件
犯行の共犯者ではあるが,自らが被害者に強姦した点も含め,自己に不利益
になる事実についても進んで供述しており,その信用性は高いものがある。
そして,Cらは,本件犯行の後,すぐに逮捕されたわけではなく,その後も,
共犯者同士で窃盗を行うなどしており,口裏合わせをする機会は十分にあっ
た。そうすると,Eが首謀者だとするC供述は,DとCとの間の口裏合わせ
にCが従っているものと考えられ,信用することができない。
また,手錠・ガムテープの準備や「Pドコ」を取り付けたりする行為が,
本件犯行の準備行為にあたることからすると,準備行為をEが率先して行っ
たとのC供述は,Eを首謀者とし,責任を転嫁しようとするCの供述態度か
らして,信用することができない。
よって,上記2⑴の事実が認定できる。
3Cらの営利略取・逮捕監禁致傷・強盗強姦の状況
(1)認定事実
被告人と別れたC・E・Dは,Fと合流し,4人で被害者を拉致すること
を決めた。
Cらは,11月28日午前6時ころ,グランビアに乗って,被害者のマン
ションの屋上駐車場に来た。午前6時30分ころに,被害者の乗っている車
が駐車場に止まり,被害者が車から降りた。DとFが,グランビアから降り,
被害者を羽交い締めにして,グランビアに連れ込んだ。
Dが,被害者の両眼にビニールテープを巻き,その上からタオルを巻き付
け,さらに,ニット帽2枚を被害者の頭の上からかぶせた。さらに,Fが,
両足のブーツを脱がせ,足首付近をビニールテープでグルグル巻きにした。
その後,Dが被害者の両手に手錠をかけた。
午前7時ころに,小牧市内にある丁という工場に到着した。Cらは,その
工場内にグランビアを入れ,駐車した。
その後,Fが,Cの使用車両であるセプターを,Cの自宅に取りに行き,
セプターに乗って戻ってきた。
次に,Cから,E・Fに被害者の車両に付けたままになっている「Pド
コ」の回収と,コンドームと弁当を買うように指示があった。午前8時ころ,
F・Eが,セプターに乗って,被害者のマンションに「Pドコ」などを取り
に行った。
午前8時30分ころ,Hが,丁に預けてあったオートバイを取りに来た。
Cが対応し,丁の中からHのオートバイを持ってきて,Hに渡した。
午前9時8分ころ,F・Eが,コンドームと弁当を買った。
Cは,被害者に対し「これから,おれたちにまわされる。」と言った。そ
の後,C,D,Eの順で,グランビアに交替で入り,被害者を強姦した。そ
の際,DとEは,コンドームを使用した。
(2)C供述・E供述の信用性
以上の事実に対し,C・Eは,被害者に対する強姦は行っていないと供述
しているが,以下の理由で信用できない。
ア被害者供述が信用できること
被害者は,丁に移動してから,リーダー格の男,がっちりした感じの男,
E’と呼ばせた男の3人に順番に強姦され,口淫されたと供述している。
被害者は,本件以外にCらとの関係はなく,虚偽供述を行う動機は認め
られない。そして,被害者の上記供述は,捜査段階から一貫しており,各
犯人の体格の違いや声の特徴などをもとに,リーダー格の男がC,がっち
りした感じの男がD,E’と呼ばせた男がE,他にF’と呼んでいた男が
Fであることを,具体的な根拠とともに識別している。
また,被害者は,3人に順番に強姦された状況について,詳細かつ具体
的に供述している。そして,被害者は,Eがコンドームを使用したと供述
しているが,Dも,Eがコンドームを持ってグランビアに入ったと供述し
ており,D供述と矛盾しない内容となっている。さらに,Cが強姦のこと
を言い出したという点も,被害者供述は,信用できるD供述と一致してい
る。
そうすると,3人に順番に強姦された状況に関する被害者供述は,信用
することができる。
イC供述・E供述が不自然なこと
これに対し,Cは,Eが強姦することを言い出したが,Eから最初にグ
ランビアに入るように言われたため,それに従ってグランビアに入ったが,
強姦はしなかったと供述している。Eが強姦を提案したのなら,なぜ,C
に対して,最初にグランビアに入るように言ったのか,不自然である。さ
らに,強姦する気のないCが,Eの言うことに従ってグランビアに入った
というのも,CがEの先輩であり,両者に明確な上下関係があったことか
らすれば,不可解である。
また,Eについては,捜査段階では,姦淫行為をしたことを認めている
が,公判になって,姦淫行為をしていないと供述を変遷した理由について
は,明らかではない。
さらに,上記のC供述とE供述は,信用できる被害者供述・D供述と,
明らかに矛盾する内容になっている。
ウ結論
そうすると,上記のC供述とE供述は信用できず,上記3⑴のとおりの
事実が認定できる。
4Cらと別れてからの被告人の行動
被告人は,11月28日未明,Cらと別れ,車でKを自宅まで送った後,交
際相手のMを,実家まで迎えに行った。被告人は,Mとともに,午前4時過ぎ
ころ,名古屋市内のラブホテルに行き,宿泊した。
被告人は,昼過ぎころ,目が覚めた。被告人は,Cらが女性をさらったのか,
気になり,午後1時46分,ホテルの部屋から,Eに携帯電話で連絡した。E
は,C・D・Fとともに,G’をさらい,強姦したことを被告人に話した。被
告人は,F・Dにも,携帯電話で連絡し,犯行の状況を確認した。
被告人は,午後3時過ぎころ,Mと一緒にホテルを出て,Mと別れた。そし
て,午後3時54分,Eに電話し,Eから「待っとるわ。」と言われた。
被告人は,丁に向かい,午後4時41分,丁前からEに携帯電話で連絡をし
た。その後の状況については争いがあるため,後に検討する。
5被告人と再び別れてからのCらの行動
11月28日の午後8時30分ころ,Cは,被害者の友人から金を持って来
させるという計画を被告人らに言った。被告人は,これ以上の関与を嫌い,C
らと別れた。
その後,Cらは,被害者の友人であるI’に連絡を取り,前記公訴事実4記
載のとおり,I’に被害者所有の腕時計や銀行通帳・印鑑などを遺留させ,C
らは,それを入手した。
そして,Cらは,遺留させた通帳と印鑑を使って,被害者の銀行口座から金
を引き下ろすことを計画し,そのために,被害者を解放することとした。その
準備として,F方に被害者を連行し,シャワーを浴びさせ,身なりを整えさせ
た。そして,F方において,前記公訴事実5記載のとおり,Cが被害者を強姦
した。
Cらは,被害者に対し,I’を拉致しているかのように装い,被害者がCら
の言うことを聞かなければ,I’を被害者と同じ目に遭わせると信じ込ませた。
そして,Cらは,被害者に携帯電話を渡し,指示どおりに動くように命じ,
前記公訴事実6(1)記載のとおり,被害者を一旦解放し,寅銀行σ支店に行か
せ,同行τ支店に開設された被害者名義の口座から,880万円を引き下ろさ
せた上,そのうち870万円を遺留させ,Cらが手に入れた。
Cは,上記の口座以外からも現金を引き下ろすように被害者に指示したが,
被害者の所持していた印鑑が,銀行に登録されていた印鑑と違ったため,現金
を引き下ろすことができなかった。そこで,被害者を,岐阜県内の被害者の実
家に帰し,翌日,銀行印を持って来させて,改めて,現金を引き下ろさせるこ
とを計画した。
被告人は,小牧市内の戌の駐車場において,Cらと合流した。Cらは,上記
の870万円をその駐車場で山分けしたが,被告人が分け前を得たかについて
は,供述に食い違いがあるため,後に検討する。
その後,C・E・F・被告人は,本件犯行に使用したグランビアをб町内の
人気のない路上で焼却した。
611月30日の脅迫
被告人は,Cらと別れ,11月30日午前10時ころまで,交際相手のMと
ホテルに宿泊していた。Cから被告人に電話があったので,被告人はホテルを
出て,Cと合流した。
Cは,被害者に対して,脅迫の電話を何度もかけ,被害者に銀行口座から現
金を引き下ろさせようとしていた。しかし,被害者は,前日のうちに,職場の
上司や交際相手に連絡をし,I’の無事を確認した上,警察に届け出ていた。
被害者は,警察の指示のもと,犯人らを捕まえるために,Cからの電話に応
対していた。
Cと被告人は,警察に捕まることをおそれ,パチンコ店で見付けた見ず知ら
ずの男性2名に,被害者から現金を受け取る役目を依頼した。しかし,依頼さ
れた男性2名は,被害者の所に現金を受け取りに来た際,警察に連行され,C
と被告人は,金を得られなかった。
また,被告人は,Cが被害者へかけていた電話を,一度だけ交替したことが
あった。
第3争いある事実
1被告人が被害者に口淫させたか
検察官は,被害者・F・Eの公判供述によれば,被告人が,11月28日に
丁に到着した後,被害者に口淫させたことは優に認定できると主張する。
そこで,各証人の公判供述及び被告人供述の信用性を検討する。
(1)被害者供述について
ア供述の要旨
私は,11月28日から30日にかけて,何人かの男に拉致された。被
害に遭っている間,目隠しをされていたので,犯人たちの顔は分からない。
しかし,犯人には,リーダー格の男,「E’」と呼ばせた男,「F’」と
名付けた男,一番最後に怒鳴った男,がっちりした感じの男の5人がいた
と思う。
それぞれの犯人の特徴について言うと,リーダー格の男は,大きくて太
っている感じで,声がちょっと高めだった。E’は,性器に真珠のような
ものを入れていた。F’は,強姦もせず,口淫もさせなかった。一番最後
に怒鳴った男は,解放後,11月30日にリーダー格の男と電話でやりと
りしているときに,突然,電話を替わり,怒鳴って脅してきた。がっちり
した感じの男は,余りしゃべらなかった。
私が,丁に駐車中の車内に監禁されていた時,右手が車の後部座席の手
すりに手錠でつながれていたことがあった。左手がタオルで手すりにくく
りつけられていたか,自由になっていたかは,覚えていない。
その状態の時に,F’が私にすり寄ってきた。そこに,一番最後に怒鳴
った男が,「どけ。」と言いながら入ってきた。そして,私の頭をつかん
で,「しっかりやれよ。」と言いながら,私に口淫をさせた。
5分ほど経って,その犯人は,私の口の中に射精した。
射精された精液を口の中にためていたところ,F’からティッシュをも
らって出した。その後,お茶か何かで口の中をゆすいだ。
その犯人は,F’に,「なんで,下着を履いてないの。」と言って,私
が下着を履いていないことを,F’に質問していた。そして,その犯人は,
「僕が下着を買ってきてあげるよ。」と言って,車から降りた。
私に口淫させた犯人は,性器がすごくフニャフニャで,勃起しきってい
ない状態で,ちょっと生臭いようなゴムっぽい臭いがした。その犯人は,
一番最後に怒鳴った犯人と同一人物であった。その理由は,私を脅したと
きの声が同じだったからである。
イ供述の証明力
(ア)利害関係,認識状況等
被害者は,本件以外に被告人や他の犯人との関係は認められず,故意
に,虚偽供述を行う動機は考えられない。しかし,被害者は,監禁中,
目隠しをされ,視覚以外に頼って犯人らを識別していたのであり,その
供述からどのような事実が認定できるかは,慎重に検討しなければなら
ない。
(イ)被害者供述から,被告人が犯人と直接認定できるか
被害者は,被告人が口淫させた犯人であると断定している。そこで,
この被害者供述により,被告人を犯人と直接認定することができるかを
検討する。
まず,被害者が,被告人が口淫させた犯人であるとする根拠は,口淫
させた犯人が脅した声と,被告人が電話で脅した声が同じだからという
ものである。
しかし,被害者は,口淫された際の声にしろ,電話越しの声にしろ,
短いフレーズを聞いただけに過ぎず,ある程度の時間にわたって会話し
たわけではない。そして,電話越しの声は,肉声とは異なる印象で聞こ
えることもあり得るものであるし,また,脅す際の声というのは,他人
の声であっても,ある程度,似るものと考えられる。さらに,被害者は,
被告人や口淫させた犯人の声の特徴について,質問されても,具体的な
特徴を挙げ得ていない。
そうすると,被害者が聞いたとする声が同一である旨の供述だけを根
拠に,被告人と口淫させた犯人が同一であると断言するには,その証明
が十分に尽くされたとは言い難いところがある。
(ウ)被害者供述に表れた,その他の犯人の特徴
被害者供述では,口淫させた犯人の特徴として,犯人の性器が,ちょ
っと生臭いようなゴムっぽい臭いがしたことが挙げられている。しかし,
被告人は,グランビア内で被害者を強姦していないと認められるから,
被告人はコンドームを使用していないと考えられる。そうすると,被害
者の供述する犯人は,被告人以外ではないかとの疑いが生じる。
また,被害者は,口淫させた犯人が,Fに対し,「なんで,下着履い
てないの。」と聞いたと供述している。被告人は,被害者が監禁されて
いるグランビアに乗り込んだ際に,被害者が下着を履いていないことに
気付き,グランビアの車内を探したが,見付からなかったと供述してい
る。両供述を総合すると,被告人と口淫させた犯人とが結びつくとも考
えられる。
しかし,被害者は,捜査段階において,強姦された3人くらいまでは
特徴を覚えるようにしていたが,それ以降は,相手のことを覚えるのを
やめたと供述している。被害者の供述は,突如,本件犯行に巻き込まれ,
数人の男から強姦された被害者の心情として,十分に理解できるもので
ある。現に,被害者は,C・D・Eに順番に強姦されたことについては,
その状況や,犯人の特徴について,詳細に供述しているが,それ以降に
強姦をされた状況などについては,捜査段階・公判においても,詳細な
供述はされていない。そうすると,被害者がC・D・Eに順番に強姦さ
れた状況を供述する部分は,前記のとおり,信用することができるが,
グランビア内で口淫された状況を供述する部分の証明力は,それと区別
して考えることができる。
そして,被告人が被害者に口淫させたとすると,11月28日の午後
5時以降と考えられ,被害者が監禁されてから,すでに10時間以上が
経過していたことになる。そうすると,上記のような心情の被害者が,
口淫させた犯人の特徴や,その直後の会話を正確に記憶できているかに
ついては,疑問が残る。被告人以外の別の犯人が被害者に口淫させた後,
多少の時間が過ぎてから,被告人が車内を訪れ,下着の話をした可能性
は否定できず,被告人が,被害者に口淫させたとするには,やはり,合
理的な疑いが残る。
そうすると,被害者供述から,被告人が口淫させた犯人であると認定
することはできない。
(2)E供述について
ア供述の要旨
11月28日に被害者を拉致し,丁に連れてきた。被告人が丁に来たの
は,28日の夕方であった。そのとき,私は丁工場内のベンチに座ってい
た。
被害者を閉じこめているグランビアに被告人が入っていったことがあっ
た。ベンチから見ていると,サンルーフから,被告人の頭が出ているのが
見えた。
グランビアの後部の窓ガラス越しに,被告人と被害者のシルエットが見
えた。立っている被告人の股間の辺りに,被害者の顔があり,被害者は膝
をついて立っていた。
その後,Fが,ティッシュを持って,車に入って行き,ティッシュを持
って出てきた。窓ガラス越しには,Fが被害者を介護しているように見え
た。
被告人は,28日の夕方,暗くなるまで丁にいた。
イ供述の信用性
(ア)利害関係・供述態度等
Eは,本件犯行の共犯者であり,被告人に罪責を負わせることで,自
らの罪責を軽くしうる立場にあり,虚偽供述の動機がないとはいえない。
さらに,本件犯行の共犯者は,本件犯行が行われた後,すぐに逮捕され
たわけではなく,その後も,同じメンバーで窃盗を行っていたのであり,
口裏合わせを行う機会が,十分にあったことにも,留意すべきである。
また,Eの供述態度には,以下のような重大な問題がある。すなわち,
Eは,証人として第7回公判に召喚されながら,留置場で柱にしがみつ
くなどして出頭を拒否し,第9回公判に証人として出頭したものの宣誓
を拒否した上,その理由について,一切明らかにしなかった。そして,
第10回公判において,ようやく証言するに至ったが,気に入らない質
問があると,理由なく供述を拒否するなどしており,真剣に供述しよう
とする態度は全く認めることができない。
以上のような被告人との関係や供述態度からすると,E供述の信用性
は,そもそも低く考えざるを得ない。
(イ)他の証拠との符合
aサンルーフの位置
次に,E供述の内容を見ると,Eは,被告人の頭がサンルーフから
出ているのを見たと供述している。しかし,Cは,グランビアのサン
ルーフのあった位置について,運転席と助手席の上であると供述して
いる。前記のとおり,Cは,自己の罪責を軽減するような供述に終始
しているが,サンルーフの位置にかかる供述は,Cの罪責と無関係で
あり,その信用性を区別して考えることができる。もっとも,Cが,
グランビアのサンルーフの位置を正確に覚えている根拠なども明らか
になっておらず,直ちに,C供述のとおりのサンルーフの位置が認定
できるとまではいえない。焼却後のグランビアの写真を見ても,後部
座席にサンルーフがあるかどうかは定かではない。
しかし,C供述が虚偽又は勘違いであるとする根拠もないため,後
部座席にサンルーフが設けられていない疑いは排除しきれない。
後部座席にサンルーフが設けられていないとすると,被告人が到着
したときには,被害者は後部座席の背もたれにもたれる体勢で,右手
を手錠で後部座席の手すりにつながれていたのであるから,その被害
者に口淫させた被告人の頭がサンルーフから出るとは考えられず,E
供述は客観的状況に合致しない疑いがある。
bグランビアの後部窓ガラスの状況
さらに,Eは,被告人と被害者のシルエットが後部窓ガラス越しに
見えたと供述している。しかし,グランビアの所有者であるQの捜査
段階の供述によれば,グランビアの後部の窓ガラスには,スモークが
貼られていたことが認められる。丁内の照明の程度は定かではないが,
11月28日の午後5時ころという屋外が暗い時間帯で,室内におい
て,スモーク越しにシルエットが見えるかどうかについては,疑いが
残る。
それに加え,同供述によれば,グランビアの後部窓ガラスには,電
動式のベージュ色のカーテンが備え付けられていたことが認められる。
被害者は,捜査段階において,グランビアが丁に着いた後,被害者が
犯人の隙をついて目隠しを外した際,後部の窓ガラスにベージュ色の
カーテンが掛かっていたのが見えたと思うと供述している。Eも,公
判廷において,後部のカーテンは閉まっていたと思うと供述している
し,他の共犯者の供述を見ても,閉まっているカーテンを開けたとの
供述はない。さらに,被害者が,目隠しを外して外の状況を見ようと
したことがあったことからしても,犯人達が,監禁している車のカー
テンをわざわざ開けることは不自然であり,グランビアの後部のカー
テンは閉まっていたと考えるのが合理的である。
すると,被告人と被害者のシルエットが後部窓ガラス越しに見えた
というE供述は,客観的状況に矛盾し,信用することができない。
(ウ)検察官の主張について
なお,検察官は,上記のE供述が,「被告人が口でやらしたけど,早
く出した。」という話をEから聞いたとするD供述によって補完されて
いるため,信用性が高いと主張する。確かに,先に検討したとおり,D
供述は,全体において信用性が高い。しかし,検察官の主張するD供述
は,Eからの伝聞に過ぎず,上記のとおり原供述であるE供述が信用で
きない以上,これを補完する関係にはない。
(エ)結論
以上からすれば,E供述を信用することはできない。
(3)F供述について
ア供述の要旨
11月28日に被害者を拉致し,丁に連れてきた。午後くらいに,被告
人がやってきたことがあった。被告人が来た時,私は,被害者のいるグラ
ンビアの中で寝ていた。
すると,被告人が車の中にやってきて,私に,「出てろ。」と言った。
私は,車内から出て,事務所に行った。5分ほどして,被告人が事務所に
やってきて,私に対し,「ティッシュを持って行ってやれ。」と言った。
私は,数枚のティッシュをつかみ,グランビアに戻った。被害者が,口
から精液を吐き出し,それをティッシュで受けた。
被告人が来て,被害者の口から精液を受けるまで,丁内にはEもいた。
被害者のパンティーを買ってきたのは,Cだと思うが,Cが,パンティ
ーを買ってきたいきさつについては,知らない。
イ供述の信用性
(ア)利害関係
Fは,本件犯行の共犯者であるため,抽象的には,共犯者の行為につ
いて虚偽を述べて自らの罪責を軽くしうる立場にあり,虚偽供述の動機
がないとはいえない。それに加え,Fは,Eの直接の後輩であるため,
Eをかばう目的で,虚偽供述をするおそれも考えられる。
また,Eと同様,本件犯行後,すぐに逮捕されたわけではなく,その
後も,本件犯行の共犯者と窃盗を行っており,口裏合わせを行う機会も
十分にあった。
以上からすると,F供述の信用性は,慎重に検討しなければならない。
(イ)他の証拠との符合
a被害者供述との符合
次に,F供述の内容について見ると,F供述は,被告人が車内に入
ってきて,Fにどくように指示し,その後,Fがティッシュで被害者
から精液を受けたとする点において,被害者供述とほぼ一致している。
しかし,被害者は,車内で,被告人がFに対し,被害者がなぜ下着
を履いていないかを尋ね,被告人が下着を買ってくると言ったと供述
している。これに対し,Fは,パンティーを買ってきたのは,Cであ
るが,Cがパンティーを買ってきたいきさつは知らないと供述してい
る。
先に検討したとおり,被害者供述において,被告人が口淫させた犯
人であることと結びつきうる点は,口淫させた犯人が,Fとの間で被
害者の下着について会話をしたという点である。
このような重要な部分について,被害者供述と齟齬のあるF供述に
ついては,信用性を低く見ざるを得ない。
bE供述との符合
また,Fは,「数枚のティッシュをつかみ,グランビアに行った。
被害者が,口から精液を吐き出し,それをティッシュで受けた。」と
供述し,Eは,「丁内のベンチに座っていると,Fが,ティッシュを
持って,車に入って行き,ティッシュを持って出て来るのが見えた。
窓ガラス越しには,Fが被害者を介護しているように見えた。」と供
述している。
両供述は,Fが,ティッシュをつかんで乗車し,被害者の口から精
液を受け取ったという点について,合致している。しかし,前記のと
おり,E供述には問題が多いため,E供述を信用することはできない。
そうすると,そのようなE供述と合致しているF供述についても,信
用性に疑問が生じることになる。
(ウ)供述内容の自然性
a丁到着までの被告人の行動との関係
加えて,F供述を前提とすると,被告人は,被害者が監禁されてい
るグランビアに乗り込み,Fと特段の会話もすることなく,直ちにF
をどかした上,被害者に口淫させたことになる。
被告人は,本件犯行の計画をCから聞いた際の心情について,警察
官調書では,「女をさらって金を取るというのは,盗みをするのとは
話が違う。女をさらうということ自体に抵抗を感じるから,自分は関
わらないようにしようと思った。」と供述し,検察官調書では,「被
害者であるG’が勤めている未というキャバクラは,私が元々所属し
ていた暴力団が面倒を見ているキャバクラであった。G’に手を出す
と,私のヤクザ関係からして,えらいことになると思い,身をかわさ
なきゃと思った。」と供述している。
両調書の内容は,詳細には一致しないが,要するに,被告人は,本
件犯行への参加について,消極的に考えていたという点では,一致し
ている。被告人の実際の行動を見ても,11月28日に,Cから,本
件犯行への参加を打診されながら,犯行には参加せず,その後も,E
・F・Dと電話連絡を取り,本件犯行の状況を聞いているが,直ちに
犯行現場に駆け付けたわけでもない。被告人の実際の行動からしても,
被告人が本件犯行への参加を消極的に考えていたことは,十分認めら
れる。
そうすると,F供述を前提とした被告人の行動は,グランビアに入
って来るなり,その場の状況について現場にいた者たちに確認するこ
ともなく,突然,被害者に口淫させたというものであり,それまでの
被告人の行動などからして,余りにかけ離れており,不自然な行動と
考えざるを得ない。
bFへの電話との関係
さらに,被告人は,「11月28日昼ころ,EからC・D・Fとと
もに,G’をさらったことを聞いたので,Fが心配になった。そして,
Fに電話をして,強姦に参加していないことを確認し,これ以上罪が
重くならないように『やるなよ。』と念を押した。」と供述している。
Fは,被告人からの電話の中で,「やるなよ。」と言われたかにつ
いては,記憶がないと供述している。しかし,被告人供述と矛盾する
わけでもなく,他に,被告人の上記供述の信用性を弾劾する証拠もな
いため,その旨の供述を直ちに排斥することはできない。
そうすると,Fに対して,心配し,罪が重くならないように助言し
ていた被告人が,Fと会ったにもかかわらず,何も会話をしていない
というのは不自然である。また,Fに対して,強姦するなと言ってい
た被告人が,丁に到着するなり,被害者への口淫に及ぶというのも,
不自然である。
(エ)供述の変遷
さらに,Fは,主尋問では,被告人が丁に来たのに気付いたのは,車
内で寝ていた時だと供述しながら,反対尋問においては,被告人が丁へ
来たときに,Eとともに事務所の中で雑談をしたと供述しており,変遷
が見られる。
このような供述部分は,Fが,丁に到着した被告人を,初めて認識し
たときの状況に関するものであり,その直後に口淫行為がなされたとさ
れていることからすると,重要な部分についての供述である。
このような重要部分について,なぜ変遷が起きたのか,合理的な説明
はなされていない。
(オ)結論
以上からすると,F供述は,被害者供述との齟齬を十分に説明できな
い上,その供述内容に表れている被告人の行動は不自然であり,F供述
の信用性を肯定することはできない。
(4)被告人供述について
ア被告人供述の要旨
私は,11月28日の未明に,Cらと別れた後,交際相手であるMと合
流し,ホテルに宿泊した。
11月28日の昼にホテルの中から携帯電話でE・D・Fに連絡を取り,
Cらが被害者を拉致し,丁に監禁していることを知った。また,Eから携
帯電話に連絡があり,「ゴムが破れた。」と突然言ってきたことがあった。
午後4時ころ,Mと別れ,Eと連絡を取った。Eから,丁に来てほしい
と言われたので,丁に向かった。丁に着いて,Eの携帯電話に連絡したと
ころ,Eが中から迎えてくれた。
Eに連れられて,丁内に駐車してあるグランビアの所まで行った。グラ
ンビアの車内には,最後尾の座席に,目隠しをされた被害者がいた。被害
者は,手すりに,右手を手錠でつながれていた。被害者の横には,Fがい
た。
イ被告人供述の信用性
被告人の供述は,丁に到着し,グランビアの車内の様子を見るまでの状
況についても,唐突な印象を受けるところはなく,自然な流れであり,特
段,不自然な点は認められない。
(5)結論
以上からすれば,被告人が被害者に口淫させたと認めるには,合理的な疑
いが残り,その旨の認定はできない。
2被告人が丁前でオートバイを受け取った状況
被告人は,11月28日に丁に行った際,丁前でオートバイを受け取ったこ
とを認めている。しかし,オートバイを預けたHの供述と,被告人の公判供述
では,若干違いが見られるので,それぞれの供述の信用性を検討する。
(1)供述の要旨
アH供述の要旨
私は,11月28日午前8時30分ころ,ツーリングに出掛けようとし
て,丁まで自分の車で行った。丁に着くと,Cが出てきて,「取り込んで
ますから。オートバイは僕が出します。」と言って,私を工場内に入れさ
せようとせず,Cがオートバイを持ってきた。
その後,ツーリングに出掛けたが,Cから,何時に帰ってくるかを確認
する電話が何度かかかってきた。
午後5時ころ,丁に戻ると,初めて見る男が事務所から出て来て,「ち
ょっと待って下さい。オートバイは入れておきます。」と言って,再び,
丁内に私を立ち入れさせようとしなかった。
丁内に人の気配がしたが,Cがヤクザであるため,意識的に関わりたく
ないとの思いから,丁内は見なかった。
警察で写真を見せられ,オートバイを受け取った男が被告人であること
が分かった。
イ被告人供述の要旨
11月28日に,丁に行った後,Eに車を貸した。
丁の外にいると,たまたまオートバイを持ってきた人がいたので,私が
対応した。オートバイを置いておいてと頼まれたので,そのとおりにした。
(2)供述の信用性
Hは,被告人とは全く面識がない上,Cとの関わり合いを避ける行動をと
っている。そうすると,Hには虚偽供述をする動機はない。
そして,関係者の携帯電話の使用状況に関する捜査報告書によれば,11
月28日には,Cの使用する携帯電話からHに3回の架電があり,H供述の
内容と符合する。
しかし,H供述は,被告人が事務所から出てきたとする部分は,被告人供
述と齟齬がある。H供述は,反対尋問にさらされていない上,その調書の記
載から,Cの行動に焦点を当てて聴取したものと考えられる。そうすると,
Hが丁に到着したときに,被告人が外にいたか,中から出てきたかについて
は,記載されているとおりの事実を認定できるかは,疑問が残る。
そうすると,H供述については,全体的に信用できるが,被告人が事務所
内から出てきたかどうかについては,被告人供述を排斥することができない。
3被告人が戌駐車場で金を受け取ったか
Eは,11月29日に,被害者を解放した後,小牧市内の戌の駐車場で,被
害者に遺留させた870万円をC・D・E・F・被告人で山分けし,被告人も
30万円くらいを受け取ったと供述している。
しかし,先に検討し,信用できると判断したD供述では,CがDにお金の分
配をして,それが終わったときに被告人が来たと述べられており,この供述と
矛盾する。
さらに,Cは,被告人に金を渡していないと供述し,Fは,捜査段階でグラ
ンビア内で金を分けたが,グランビアに被告人はいなかったと供述しており,
E供述は,いずれの供述とも矛盾する。
さらに,E供述については,その供述態度などからして,全体的に信用性を
低く考えざるを得ない点を合わせて考えれば,上記のE供述を信用することは
できない。
第4成立する犯罪
1共同正犯の成立について
以上の事実をもとに,被告人に共同正犯が成立するかを判断する。
検察官の指摘するとおり,被告人は,Cらと頻繁に携帯電話で連絡を取り,
Cらの行っている犯行について,状況を把握していたことが認められる。そし
て,被告人が,丁内で監禁されている被害者の状況を見に行った際にも,その
場にいたE・Fや,後から合流したC・Dに,その場から立ち去るように言わ
れておらず,また,被告人は,Cらの本件犯行を把握しながら,被害者を解放
したり,警察に通報したりもしていない。
以上の点は,Cらが,被告人を仲間であると考えていた表れとも見ることが
できる。しかし,Cらと被告人は,窃盗の仲間として,度重なる窃盗行為を行
ってきた関係にあり,被告人は,本件犯行当時,別の窃盗事件で警察に追われ
ていた。そうすると,被告人が,本件犯行の状況を把握したとしても,警察に
通報するなどということは,考えにくく,警察に通報していないことや,Cら
が被告人の丁内への立入りを制止していないことをもって,被告人との間で本
件犯行についての共謀関係が成立していたと認めることはできない。
さらに,窃盗と本件犯行のような営利略取等では,罪質などが全く異なり,
窃盗については,何度も共謀して実行してきており,容易に共謀が成立する被
告人とCらにおいても,本件犯行について,直ちに共謀が成立するとは考えら
れない。
そして,被告人は,Cらが戌において,被害者から得た870万円を山分け
する場面に遭遇しながら,金員を一切受け取っていない。このことも,Cらが,
被告人を本件犯行の仲間として扱っていなかったことの表れである。
さらに,手錠やガムテープを用意したり,「Pドコ」を設置したりするとい
う本件犯行の準備行為は,主にCによって行われており,被告人は,関与して
いない。Cらとともに,被害者方のマンションへの下見を行ってはいるが,車
から降りて,被害者方周辺の状況を確認したわけでもなく,Cが,計画を説明
する上で,被害者方のマンションを見せたとも考えられ,本件犯行の準備とし
て,一緒に下見をしたとまでは言えない。
そして,被告人は,本件公訴事実の1ないし6(1)について,オートバイを
丁前で受け取った行為以外については,Cらの犯行を容易にする何らの行為も
行っておらず,逆に,前記のとおり,本件犯行への関与を避けるように行動し
ている。
なお,被告人は,本件犯行に使用した車両の処分をCらとともに行い,被害
品の時計の質入れを行っているが,これらは,犯行後の行為であり,上記の被
告人の本件犯行への関与の程度を考えると,これらの行為をしたことをもって,
共謀が成立していたとは考えられない。
そうすると,被告人とCらの間において,共謀が成立していたとは認められ
ず,ましてや,被告人に正犯意思があったとも認められない。
よって,Cらとの共同正犯は成立しない。
2幇助の成立について
(1)認定事実と評価
前記のとおり,被告人が丁の外にいた際,Hがツーリングから帰ってきて,
オートバイを預けた事実が認められる。
被告人がオートバイを預からず,H自らが丁内にオートバイを預けること
を許せば,被害者から強取した物品が丁内の机に並べられていたことなどか
らすれば,Hが,丁内に駐車しているグランビアに被害者が監禁されている
ことに気付いた可能性も認められる。Hは,Cらと窃盗などを一緒に行って
きた被告人とは違い,丁内の異変に気付いた場合,警察への通報などの行動
に出る可能性が十分に認められる。
そうすると,被告人の行為は,客観的にCらの監禁の発覚を防ぐ行為とし
て,それ以降のCらの監禁行為の継続を容易にするものと認められる。
次に,被告人がオートバイを預かった行為について,Cらの本件犯行を容
易にするものであるという認識(幇助の故意)があったかについて,検討す
る。
被告人は,丁に到着する以前に,D・E・Fから,被害者を拉致したこと
や,被害者への強姦がなされたことなどについての情報を得ている。そして,
丁到着後,グランビア内に監禁されている被害者の様子を見ており,Cらが
被害者を監禁している状況について,十分,認識している。
そして,被告人が丁前にいたところ,Hがオートバイを持って現れたとい
うのであり,Hを丁内に入れれば,監禁の状況が発覚してしまうかもしれな
いことは,被告人が十分に認識したと認められる。
そうすると,被告人がオートバイを預かる行為が,Cらの本件犯行の発覚
を防ぎ,Cらの本件犯行を容易にすることについて,少なくとも,そのよう
な可能性は認識していたと見るのが自然であり,未必的な幇助の故意は認め
られる。
なお,被告人は,外にいるときに,オートバイを持ってきた人がいたので,
受け取っただけであり,中に入られるとまずいという気持ちはなかったと供
述している。被告人が,オートバイを預かった状況は,被告人が外にいると
きにHがオートバイを預けに来たので,受け取ったというものであり,積極
的に,Hを追い返そうとしたとまでは認められない。しかし,上記のとおり,
被告人には,未必的な幇助の故意は認められ,その意思は,他の意思と併存
していても構わないのであるから,上記の状況は,幇助の成立を妨げるもの
ではない。
次に,被告人の行為が,Cらのいかなる犯行を幇助したかを検討する。
本件の監禁は,Cらの営利略取・逮捕監禁致傷・強盗強姦の犯行の一環と
して行われたものであるが,営利略取,逮捕については,既に実行行為は終
了しており,事後的にこれらの犯行を幇助することはできない。また,致傷
の点については,逮捕の際に生じたものである可能性が高く,監禁中に生じ
たものであるとは言い切れない。そうすると,幇助行為以前に発生した結果
について,幇助犯がその責任を負わなければならないとは解されず,致傷の
結果についての責任を肯定することはできない。
さらに,強盗強姦については,被告人の幇助行為後,前記公訴事実4ない
し6(1)の各犯行がなされている。しかし,被告人の幇助行為時点で,被告
人が,これらの犯行が今後行われるであろうことを認識していたかについて
は,これを認定する証拠がない。そうすると,強盗強姦を幇助するとの故意
に欠けるものといわざるを得ない。
また,被告人の幇助行為後,丁内で,Cらのいずれかによって,被害者へ
の強姦がなされた可能性も否定できないが,認定するだけの証拠がない。そ
うすると,被告人の行為が,前記公訴事実3記載の強姦を幇助したものとも
いえない。
結局,被告人の行為は,前記公訴事実1のうち,監禁を幇助したものに留
まる。
(2)手続の検討
なお,当裁判所が認定した幇助の実行行為は,被告人が丁前でオートバイを
預かったというもの(以下,この事実を「本件事実」という。)であるが,
公訴事実には明記されていない。
しかし,以下に述べる本件の訴訟の進行状況からすれば,本件事実を幇助
として認定することは,訴因逸脱認定にはならず,また,被告人の防御権を
不当に侵害するものでもない。
すなわち,第3回公判において,弁護人から,被告人には共謀を支える実
行行為に近いどのような支援関係があったのか,具体的にされたいとの釈明
要求がなされ,検察官は,立証段階で明らかにすると釈明している上,同公
判で行われた検察官の冒頭陳述において,被告人の共謀を根拠付ける間接事
実又は共謀に基づいて被告人が分担した行為として,本件事実が具体的に述
べられている。
そうすると,本件事実は,訴因である共謀の補足又は訴因に準じたものと
して,実質的に審判の対象になっていると考えられ,本件事実を幇助として
認定することは,すでに争点になっている事実について,法的評価が異なる
に過ぎないといえる。
さらに,弁護人は,本件事実について,Hが供述した捜査段階の調書に同
意するなどしており,本件事実については,おおむね争っていない。また,
第18回公判において,弁護人は,本件事実などがCらを支援するものでは
ないと釈明している。
そうすると,本件訴訟において,本件事実の存在自体には,おおむね争い
がなく,それが共謀を根拠付ける事実といえるかが争点となっている。する
と,本件事実が幇助に当たるかどうかについては,本件事実が共謀を根拠付
ける事実といえるかどうかを主張する中で,あわせて防御できるものであり,
上記認定が,被告人の防御にとって,不意打ちになるとはいえない。
3強盗未遂の成否
次に,被告人が前記公訴事実6(2)の強盗未遂に関与した点については,弁
護人は恐喝未遂の責任に留まると主張するため,これを検討する。
11月29日に被害者が解放される段階で,被害者は,約29時間30分に
わたり監禁された上,その間に少なくとも3人の男から強姦の被害を受けてい
る。そして,Cらは,被害者を解放する際,I’を拉致した旨を告げ,言うと
おりにしなければ,I’を被害者と同じ目に遭わせ,被害者をもう1回さらう
と脅迫した上,銀行及び信用金庫から現金を引き下ろすように指示している。
なお,Cらは,I’を現実には拉致していなかった。
上記の状況は,Cらの支配下から被害者を解放しているものの,被害者が他
の人に助けを求めれば,I’を被害者と同様の目に遭わせると信じ込ませたと
いうものであり,被害者が他の人に助けを求めることは,到底,不可能である。
そうすると,被害者は解放されてはいるが,なお,反抗抑圧状態にあったと認
められる。
そして,Cらは,被害者に現金を引き下ろしに行かせた銀行において,銀行
印が合わなかったため,被害者に銀行印を取りに行かせることとし,被害者を
岐阜県内にある被害者の実家に帰している。
被害者が,単に一人でいる状態から,実家に帰り,家族とともにいる状態に
なったことにより,被害者は,家族などに救援を求めることが可能になったと
も考えられる。現に,被害者は,実家に帰ってから,勤務先の上司や交際相手
と相談し,警察へ届け出ている。そうすると,この段階で,被害者は,単に畏
怖していたに留まり,反抗を抑圧されていたとは言い難い。
しかし,被害者が警察などに相談できたのは,現実には,I’が監禁されて
いなかったからであると考えられ,被害者が,I’が監禁されていると信じ込
んでいれば,たとえ被害者が家族と一緒にいたとしても,救援を求めることが
できたかは疑わしい。
そうすると,被害者が実家に帰った11月29日の段階においても,Cらの
行った脅迫は,なお,被害者を反抗抑圧状態に至らせる程度のものであったと
いえる。強盗罪の成否については,脅迫の程度が一般人を反抗抑圧状態に至ら
せる程度のものであれば足り,実際に被害者が反抗抑圧状態にあったかどうか
は,無関係であり,客観的には,本件において,強盗未遂罪が成立している。
しかし,被害者は,Cから電話を替わった被告人から,「さっさと金出せば
いいんだよ。これから一生つきまとってやる,警察は24時間守ってくれない,
I’も同じような目に遭わせてやる。」などと言われたと供述している。以上
の被告人の言葉からすると,Cらが被害者に,I’を誘拐したと信じ込ませて
いた点を,被告人が認識していたかには疑問が残る。また,他の証拠によって
も,被告人が上記認識を有していたと認めることはできない。
そうすると,被告人には,被害者が反抗抑圧状態にあると認識しうるために
最も重要なI’の監禁という認識が欠けていたことになり,強盗未遂の故意が
欠けるものといわなければならない。
4結論
以上のとおり,前記各公訴事実については,監禁の幇助と6(2)について恐
喝未遂が成立し,その他の点については,無罪である。
なお,前記各公訴事実について,有罪であるとした場合にそれらは科刑上一
罪になると考えられるため,主文で無罪の言渡はしない。
【法令の適用】
罰条
判示第1,第5の1,2の各事実のうち
建造物侵入の点いずれも刑法60条,130条前段
窃盗の点いずれも刑法60条,平成18年法律第36号による
改正後の刑法235条(行為時においては前記改正前
の刑法235条に,裁判時においてはその改正後の刑
法235条に該当するが,これは犯罪後の法令によっ
て刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10
条により軽い裁判時法の刑による。)
判示第2の事実道路交通法118条1項1号,22条1項,同法施行
令11条
判示第3の1の事実刑法62条1項,平成17年法律第66号附則10条,
同法律による改正前の刑法220条
判示第3の2の事実刑法60条,250条,249条1項
判示第4の1,2,第6,第7の各事実のうち
建造物侵入の点いずれも刑法60条,130条前段
窃盗未遂の点いずれも刑法60条,243条,平成18年法律第3
6号による改正後の刑法235条(行為時においては
前記改正前の刑法235条に,裁判時においてはその
改正後の刑法235条に該当するが,これは犯罪後の
法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法
6条,10条により軽い裁判時法の刑による。)
科刑上一罪の処理
判示第1,第5の1,2の各事実
いずれも刑法54条1項後段,10条(各建造物侵入
と各窃盗との間にはそれぞれ手段結果の関係があるの
で,いずれも一罪として重い窃盗罪の刑で処断)
判示第4の1,2,第6,第7の各事実
いずれも刑法54条1項後段,10条(各建造物侵入
と各窃盗未遂との間にはそれぞれ手段結果の関係があ
るので,いずれも一罪として重い窃盗未遂罪の刑で処
断)
刑種の選択
判示第1,第2,第4の1,2,第5の1,2,第6,第7の各罪
いずれも懲役刑
法律上の減軽
判示第3の1の罪刑法63条,68条3号
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条により刑及び犯
情の最も重い判示第5の1の罪の刑に法定の加重(た
だし,短期は判示第3の1の罪の刑のそれによる)
未決勾留日数刑法21条(650日算入)
訴訟費用刑事訴訟法181条1項ただし書(被告人に負担させ
ない。)
【量刑の理由】
1事案の概要
本件は,被告人が共犯者3名ないし11名と共謀の上,夜間,店舗などに侵
入して起こした建造物侵入・窃盗3件(判示第1,第5の1,2の各事実),
同様の建造物侵入・窃盗未遂4件(判示第4の1,2,第6,第7の各事実),
窃盗の現場から逃走する際に法定の最高速度を超過して車両を運転した道路交
通法違反1件(第2の事実),Cら4名が被害者を監禁するに際し,無関係な
人間の監禁場所への立入りを阻止した監禁幇助(第3の1),Cと共謀の上,
同被害者に対して行った恐喝未遂(第3の2)の事案である。
2⑴建造物侵入,窃盗,窃盗未遂について
判示の建造物侵入,窃盗,窃盗未遂についてみると,被害は,現金合計3
10万0598円,物品時価合計24万8100円に及んでいる。被害額は
多額であり,発生した結果は重大である。
被告人らは,侵入に必要な懐中電灯やバール,発覚を防ぐための目出し帽,
手袋などの道具をそろえ,夜間,人気のない店舗などに侵入しており,計画
的な犯行である。そして,見張り役の者と,侵入した者との間で,携帯電話
で密接に連絡を取った上,侵入したことによる警報装置が作動し,警備員が
駆けつけるまでの数分間の間に各犯行を行っており,犯行の手口は,巧妙か
つ手慣れたものである。さらに,被告人らは,バールで扉をこじ開けた上,
固定されている据置金庫の接続部分を破壊し,据置金庫を外に運び出してお
り,大胆な手口である。
そして,判示第5の1,2については,設置された金庫を取り外すことが
できず,未遂に終わった各店舗に対し,その翌日,さらに仲間を集め,犯行
を遂行しており,悪質である。
また,各犯行における被告人の役割を見ると,被告人は,共犯者に連絡を
取り,窃盗に参加するように声をかけるなど重要な役割を果たし,各犯行に
おいては,直接の実行行為を行っていないが,逃走用の車両に残り,周囲の
見張りをするなどしており,犯行に必須の役割を果たしている。
さらに,被告人は,生活費や遊興費を稼ぐ手段として,一連の侵入窃盗を
行っていたのであり,常習的・職業的犯行の一環として,各犯行がなされた
ものである。
⑵道路交通法違反について
被告人は,一般道において,時速146キロメートルという高速度で車両
を運転しており,重大事故につながる可能性も考えられ,非常に危険である。
さらに,被告人は,警察車両から逃走する際に同犯行を敢行しており,悪
質である。
⑶監禁幇助について
被告人が幇助した監禁は,Cら4名が行った営利略取・逮捕監禁致傷・強
盗強姦の一環として行われたものである。
Cらの行った犯行は,被害者が多額の貯蓄を有しているとの情報を得たC
が,被害者を拉致し,金銭を奪うことを計画し,その計画通りに被害者を拉
致し,被害者の両手首に手錠をかけ,目隠しをし,両足首を緊縛するなどし
て,被害者の行動の自由を奪い,約29時間30分にわたって監禁した上,
C・D・Eにおいて被害者を強姦し,さらに,被害者の生命身体のみならず,
近親者に対しても,被害者同様に拉致をし,同じ目に遭わせるという脅迫を
行い,被害者から金品を強取したというものである。
このような卑劣かつ悪質極まりないCらの行為に対し,被告人は,未必的
とはいえ,その犯行の一部を幇助したものであり,被告人の行為は,厳しく
非難されるべきものである。
⑷恐喝未遂について
恐喝未遂については,上記⑶のCらの営利略取・逮捕監禁致傷・強盗強姦
により畏怖している被害者に対し,現金2000万円を要求したというもの
である。
被害者が警察に届け出ていたため,結果は発生しなかったものの,要求し
ている金額は,2000万円と非常に高額である。
そして,被告人は,丁内において,被害者の監禁されている様子を実際に
目にし,被害者がC・D・Eから強姦を受けたことを聞き知った上,脅迫行
為に及んでいる。さらに,被告人らは,警察の逮捕を免れるため,無関係な
者に声をかけ,金銭の受け取り役を依頼するなどしており,犯情は悪質であ
る。
また,被告人は,Cと電話を替わり,脅迫行為の一部を行ったほか,上記
の無関係な者への金銭の受け取り役をCとともに依頼するなどしており,犯
行に必須の役割を果たしている。
そして,被告人から,被害者に対する慰謝の措置は何ら取られていない。
⑸以上からすると,被告人の刑事責任は重い。
3一方,被告人から,窃盗・窃盗未遂の各被害者に対し,合計34万2000
円の被害弁償がなされていること,建造物侵入,窃盗,窃盗未遂,道路交通法
違反については,捜査段階から事実を認め,反省の態度を示していること,監
禁幇助,恐喝未遂についても,客観的事実はおおむね認めていること,被告人
の母及びNが被告人の更生への助力を公判廷で誓約していること,監禁幇助に
ついては,被告人は,自ら積極的にCらの犯行を幇助しようとしたとまでは認
められないこと,恐喝未遂については,被告人は,当初から犯行に参加する意
思ではなく,また,被告人が犯行への関与を始めた時点では,既に被害者が警
察に届け出ており,結果が発生する可能性は低かったこと,被告人は,各犯行
当時,21歳又は22歳と年が若く,前科がないことなど,被告人にとって酌
むことのできる事情も認められる。
4そこで,以上の事情を総合考慮し,主文の刑を定める。
(検察官児玉陽介,弁護人平野曜二(私選)各出席)
(求刑懲役10年)
平成19年3月12日
名古屋地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官伊藤納
裁判官大村泰平
裁判官棚村治邦

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