弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人奥村徹の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引
用するものであって,本件に適切でないか,実質において単なる法令違反の主張で
あり,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であっ
て,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,本件における組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等
に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)違反の罪について,職権で判
断する。
1記録によれば,本件組織的犯罪処罰法違反に係る事実関係は,次のとおりで
ある。
(1)被告人は,「18歳に満たない児童を相手方とする性交に係る児童の姿態
等を撮影し記録した児童ポルノであるDVDを不特定多数の者に有償で提供してい
たものであるが,別紙犯罪事実一覧表記載のとおり,平成18年10月16日ころ
から同年12月1日ころまでの間,9回にわたり,Aほか8名をして,犯罪収益で
ある前記DVDの提供代金合計22万8000円を,大阪府八尾市所在の甲銀行X
出張所ほか8か所から大阪市中央区所在の乙銀行Y支店に開設され被告人が管理す
る借名口座であるB名義の普通預金口座に振込入金させて同口座に預け入れ,もっ
て,犯罪収益等の取得につき事実を仮装した」旨の組織的犯罪処罰法違反の公訴事
実で起訴され,同公訴事実を記載した起訴状には,別紙として,購入者,提供価
格,代金振込日,振込元銀行名等を記載した「犯罪事実一覧表」が添付されてい
た。
(2)第1審判決は,被告人について,本件組織的犯罪処罰法違反に係る犯罪事
実として上記公訴事実を引用し,同法10条1項前段所定の犯罪収益等の取得につ
き事実を仮装した罪(以下「犯罪収益取得事実仮装罪」という。)の成立を認めた
上,併合審理していた児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等
に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反の事実も認定してこれらにつ
き関係法令を適用し,被告人を,懲役2年6月(保護観察付き執行猶予3年)及び
罰金100万円に処するとともに,22万8000円を被告人から追徴した。
(3)ところで,被告人は,上記Aらから注文を受けた児童ポルノであるDVD
の代金合計22万8000円を同人らをして上記借名口座に振込入金させた後,同
人らに対し当該DVDを送付して提供しているが,原判決が是認する第1審判決
は,この提供行為が児童ポルノ法7条4項前段所定の犯罪行為(以下「児童ポルノ
提供行為」という。)に該当するとし,上記(1)の22万8000円は組織的犯罪
処罰法の「犯罪収益」に当たる(同法別表59号)ところ,被告人から没収するこ
とができないとして同額を被告人から追徴したものであることが明らかである。
2(1)所論は,被告人が上記Aらをして児童ポルノであるDVDの代金を上記
借名口座に振込入金させたのは,被告人が犯罪収益の生じる前提となる犯罪(以下
「前提犯罪」という。)の実行に着手する前であって,その時点では,上記代金は
組織的犯罪処罰法2条2項の「犯罪収益」に当たらないから,「犯罪収益」の取得
につき事実を仮装したとはいえないのに,犯罪収益取得事実仮装罪の成立を認めた
第1審判決及びこれを是認した原判決には法令違反があり,また,原判決が是認す
る第1審判決が,罪となるべき事実として前提犯罪の内容を摘示していないことに
は理由不備の違法があるなどと主張する。
しかしながら,「犯罪収益」を定義する組織的犯罪処罰法2条2項にいう「犯罪
行為により得た財産」(同項1号)とは,その文理,同法の立法目的(1条)等に
も照らせば,当該犯罪行為によって取得した財産であればよく,その取得時期が当
該犯罪行為の成立時の前であると後であるとを問わないと解すべきであるから,前
提犯罪の実行に着手する前に取得した前払い代金等であっても後に前提犯罪が成立
する限り,「犯罪行為により得た財産」として「犯罪収益」に該当し,その取得に
つき事実を仮装すれば,犯罪収益取得事実仮装罪が成立するというべきである。そ
して,同罪の罪となるべき事実の摘示に当たっては,上記財産が同法所定の「犯罪
収益」であることを示せば足りると解すべきであるところ,原判決が是認する第1
審判決は,被告人が管理する借名口座に入金された合計22万8000円が,児童
ポルノ提供行為により得られた財産であることを示した上で,その財産の取得につ
き事実を仮装したことを示して犯罪収益取得事実仮装罪が成立するとしているので
あるから,同罪に係る罪となるべき事実の摘示として欠けるところがないことは明
らかである。
(2)所論は,被告人は,前記Aらから振込入金された代金のうち,1件につき
500円を同人らへのDVDの送料に充てているから,その分(9件分の合計45
00円)は追徴の対象とならないのに,22万8000円全額を被告人から追徴し
た第1審判決を是認した原判決には法令違反があるなどと主張する。
しかしながら,注文に応じて有償で児童ポルノを送付して提供する場合におい
て,提供者が注文者から当該児童ポルノの代金を送料込みで取得したときである
と,その代金とは別に送料を取得したときであるとを問わず,児童ポルノ提供行為
によって取得したと認められる金員の全額が「犯罪行為により得た財産」として
「犯罪収益」に該当するのであるから,提供者が現実に児童ポルノを提供するに際
して取得した金員の一部を送料として支出したとしても,その分を控除して追徴の
金額を算定すべきではないと解するのが相当である。
(3)以上の(1)及び(2)と同旨の原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官近藤崇晴裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平裁判官田原睦夫)

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