弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人轡田寛治の上告理由第一点、第四点ないし第六点について。
 原審が、上告人は、被上告人B1(以下、被上告人B1という。)に対し、本件
建物中同被上告人の占有部分を自己に明け渡すべきことを請求しているが、そのた
めには、上告人自身がいかなる権利を有するかを主張し、立証することを要すると
ころ、上告人はこの点について何も主張しないから、右請求は主張自体失当であつ
て理由がない旨説示し、上告人の控訴を棄却したのは正当である。本件記録によつ
ても、上告人が、原審において、被上告人B1に対し右明渡を求める請求の原因と
して、所論賃借権の主張をしたものとは認められず、また、上告理由第五点におい
て引用する昭和四三年九月二六日付準備書面は原審の口頭弁論期日に陳述されてい
ないのである。所論引用の諸判例は、本件と事案を異にするか、または、原判決が
これと相反する判断をしているものではないと認められる。原判決に所論の違法は
なく、論旨は、その指摘する各主張が原審において提出されたことを前提として原
判決を非難するものであつて、採用することができない。
 同第二点について。
 被上告人B2(以下、被上告人B2という。)と上告人との間の本件建物の贈与
について、民法七〇八条にいう給付があつたものとは認められないとして、同条の
適用を否定した原審の判断が正当であることは、上告理由第三点について説示する
とおりである。そして、所論(ロ)の原判示は、上告人の第一審相被告Dに対する
請求に関し、原判示上告人に対する権利移転の各附記登記は、無効な贈与を前提と
するものであつて、実体上の権利移転を伴わない無効のものである旨を説示したに
過ぎないものであるから、原判決に所論のような理由そごの違法はない。それゆえ、
論旨は、採用することができない。
 同第三点について。
 原判決の確定したところによれば、上告人は、東京aのバー「E」に勤めていた
頃、客としてきていた被上告人B2と知り合い、昭和三八年一一月頃から情交関係
を生ずるにいたつたが、その前後頃から被上告人B2より上告人に対し、自分が上
告人の面倒を見てやる、本件建物はまだ被上告人B1の所有であるが、自分は同被
上告人に金を貸しており、右建物を取得したうえ上告人に贈与するから、これに転
住してもらいたい等と原判示のようにいつて、被上告人B2と上告人との間に、い
わゆる妾関係継続維持の合意がなされるとともに、その目的で本件建物につき贈与
契約が成立し、上告人は昭和三九年二月頃右建物に転居したところ、被上告人B2
において、昭和四〇年六月七日被上告人B1から代物弁済として本件建物の所有権
の譲渡を受け、同年七月一五日その所有権移転登記を経由したというのである。か
ような事実関係のもとにおいては、右贈与は、民法七〇八条にいう不法の原因に基
づくものというべきである。
 しかし、原判決によれば、本件建物は既登記のものであつたことが窺われるので
あるが、本件においては、右贈与契約当時、上告人は被上告人B2から本件建物の
引渡を受けたことを認めうるにとどまり、被上告人B2は、その後、本件建物の所
有権を取得し、かつ、自己のためその所有権移転登記を経由しながら、上告人のた
めの所有権移転登記手続は履行しなかつたというのであるから、これをもつて民法
七〇八条にいう給付があつたと解するのは相当でないというべきである。贈与が有
効な場合、特段の事情のないかぎり、所有権の移転のために登記を経ることを要し
ないことは、所論のとおりであるが、贈与が不法の原因に基づくものであり、同条
にいう給付があつたとして贈与者の返還請求を拒みうるとするためには、本件のよ
うな既登記の建物にあつては、その占有の移転のみでは足りず、所有権移転登記手
続が履践されていることをも要するものと解するのが妥当と認められるからである。
原審が、右と同趣旨の見解のもとに、本件につき民法七〇八条の適用を否定した判
断は、正当として是認することができる。したがつて、論旨は採用するに足りない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一

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