弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人後藤正三の上告趣意について。
 記録によれば、被告人の控訴申立により記録が原審に受理されたのは昭和二四年
一一月二九日(記録七九丁)で、原番は控訴趣意書提出最終日を同二五年一月六日
と指定して、右指定書と弁護人選任についての被告人に対する照会書とを同封して、
被告人A宛で同二四年一二月二日に送達している(同八〇丁、八一丁)ことが明ら
かであるから、被告人に対する控訴趣意書提出最終日の通知は適法になされている
ものといわなければならぬ(刑訴規則二三六条)。ところで、被告人は同月一七日
附で原審に対し弁護人の選任を請求する旨の回答書を原審に提出し(記録八二丁)、
原審は同月二二日弁護士藤原吉備彦を弁護人に選任し、同人は同日弁議人選任を受
諾し(同八四丁)ていることも記録上明らかなところであるから、原審の弁護人選
任手続にもいささかの違法のかども存しない。ところが、同弁護人は同二五年一月
一六日附控訴趣意書を、被告人は同月五日附控訴趣意書を、それぞれ、同月一六日
に原審に提出していることが記録上明らかである。されば右控訴趣意書は、いずれ
も、控訴趣意書提出最終日たる一月六日後に原審に提出されたもので、不適法のも
のといわなければならぬから、原審はかかる控訴趣意書のいずれについても判断を
示すことなく刑訴三八六条一項一号に従つて控訴を棄却すべき筋合であるといわな
くてはならぬ。しかるに原審が弁護人の控訴趣意について判断を示したのは刑訴規
則二三八条によつて同控訴趣書提出の遅延がやむを得ない事情に基くものと認め、
期間内に差出したものとして審判したものと推断する外はない。そして控訴趣意書
提出の遅延がやむを得ない事情に基くかいなか、従つて期間内に差出したものとし
て審判するかいなかは原審の裁量に属するところと解すべきであるから、原審が被
告人の控訴趣意書については期間内に提出したものとして審判をしなかつたからと
いつて原判決を違法ということはできない。されば原判決は所論に引用の当裁判所
の判例に反する判断をしていないのであるし、また所論のような判断遺脱の訴訟法
違反の違法あるものでもないといわなければならぬ。論旨は結局名を判例違反に藉
りその実原判決に対して理由なき訴訟法違反を主張するに帰し、明らかに、刑訴四
〇五条第二号の事由にあたらないし、また、同四一一条を適用すべきものとも認め
られない。
 被告人の上告趣意について。
 論旨は原判決の是認した第一審判決の採証を違法であるとし、その判示事実の認
定を不当というに帰するから、明らかに刑訴四〇五条に定むる上告適法の事由にあ
たらない。そして記録を精査するに所論の違法も、事実誤認もこれを認めることが
できないから、同四一一条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反する
ものとはいえない。
 よつて刑訴四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項に従い裁判官全員一致の
意見で主文のとおり決定する。
  昭和二六年三月二二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    眞   野       毅
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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