弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
被告人を懲役1年に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,A,B及びCと共謀して,金品を窃取する目的で,平成13年8月21
日午前2時40分ころ,神戸市a区b通c丁目d番地所在の株式会社E代表取締役E
が看守する同社事務所内に,1階玄関の施錠を開けて侵入した上,同所において,
同人が管理する現金約8万円及びノートパソコン1台等3点(物品時価合計16万
5000円相当)を盗んだ。
(証拠)括弧内の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
省略
(事実認定の補足説明)
 弁護人は,被告人の本件行為は,幇助にとどまる旨主張する。
 関係各証拠によれば,被告人は,平成13年ころ,本件共犯者ら窃盗グループに
参加して盗みに入る場所を物色・下見するなどの行動に加わるようになり,本件以
前にも,三宮付近のマンションで,A,B及びC(以下「D」という。)らの窃盗グ
ループによる盗みの際に,これに加わって見張りを行い,分け前をもらったこと,
本件時においても,当初から,被告人は,本件共犯者らが窃盗に及ぶことを十分に
予測しながら行動を共にし,本件共犯者らが,侵入盗に及んだ場合には,見張りを
行い,分け前をもらうことにしていたこと,そのことは,本件共犯者間の暗黙の了
解とされていたこと,本件共犯者らが侵入盗ができそうな場所を探しに行った場
合,可能であれば,そのまま侵入盗に及ぶことがあることを被告人は十分に認識し
ていたこと,そして
,本件時においても,A,Bが車を降りて犯行現場に向かうときから,被告人は,
Dと共に車内で現場付近の様子を見張り,その後,Dが,前記2名から呼ばれて犯
行現場に行った後も,引き続いて車内から現場付近を見張り,いつでも携帯電話で
共犯者に連絡が取れるようにしていたこと,さらに,共犯者らが金庫を破壊してい
る際にも,共犯者から,ちゃんと見張りをしているか確認の電話がされているこ
と,本件においては,犯行現場に侵入後,金庫を破壊するまでに相当の時間を要
し,また,金庫の破壊の際には相当の音が発生していることから,実行行為に及ん
だその他の共犯者も,被告人による見張りが必要不可欠であり,それを被告人に委
ねていたことなどの事実が認められる。
 以上の事実関係からすれば,被告人は,A,B及びDが住居ないし建造物に侵入
して窃盗に及ぶことを認識しながら,見張りを行い,何か異変があれば直ちに同人
らに知らせるつもりで車内において待機していたものであり,同人らも,残った被
告人に見張り役を委ねて,安心して実行行為に及んでいたのであるから,被告人と
A,B及びDは,それぞれ,互いにその行為を利用する意思で,本件犯行に及んだ
ものであることが認められ,被告人の役割の重要性を考え合わせると,被告人の行
為が見張りに止まるとしても,被告人が共同正犯としての罪責を負うことにつきこ
れを左右するものではない。
 よって,弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
罰       条
建造物侵入の点 刑法60条,130条前段
窃盗の点    刑法60条,235条
科刑上一罪の処理  刑法54条1項後段,10条(重い窃盗罪の刑で処断)
刑の執行猶予  刑法25条1項
(量刑の理由)
 本件は,共犯者らが深夜に会社事務所に侵入し,金庫を破壊するなどして,金品
を窃取した際に,被告人が見張り役を果たしたという事案である。被告人は,分け
前を期待して,安易に犯行に加わっており,その動機は自己中心的で短絡的であ
り,酌量の余地はない。被告人の果たした役割は,見張り行為ではあるが,本件犯
行においては,必要不可欠な役割を果たしており,その責任をことさら低く見積も
ることはできない。被告人が参加していた窃盗グループは,盗みに入るための下見
をし,実行犯役と見張り役の役割分担をした上で,ピッキング道具を用いて建物内
に侵入し,手当たり次第に金目の物や金庫を盗み,または,金庫をバールでこじ開
けてその中の金品を手に入れ,グループ内で盗品を分配していたものであり,被告
人自身もこれまでに相
当回数下見に参加した上,実際に犯行に及んだこともあり,その上で,本件犯行に
及んだものであり,その犯行は,組織的・計画的であり,その態様も悪質である。
本件における被害額は,決して少額とはいえない上,金庫を破壊されたり,鍵を取
り換えたりするための費用の支出も余儀なくされており,被害者の処罰感情が厳し
いのも当然であるところ,これまで,何らの被害回復の措置もなされていない。ピ
ッキングなどによる窃盗の被害が社会問題化している昨今において,近隣の住民等
に与えた不安感も小さくはなく,被告人のこれまでの交友関係等から考えれば,再
犯のおそれも否定できず,被告人の刑事責任は重大である。
 しかしながら,被告人は,捜査段階から事実関係を認めて反省の態度を示してい
ること,被告人は,Dに追従して窃盗グループに参加したものといえ,窃盗グルー
プ内でも末端の地位にいたにすぎず,結果的に,本件犯行で被告人本人が利得した
ものはないこと,被告人は,1か月余りの間,身柄拘束を受けていたこと,今後の
稼働先も確保できる見込みであること,被告人は,いまだ若年である上,これまで
に前科もないこと,被告人の家族が今後の監督を約束していること,被告人自身,
二度と同様な犯行に及ばないことを誓約していることなど,被告人のために酌むべ
き事情も認められる。
 そこで,これら被告人に有利・不利な事情を総合考慮した結果,被告人に対して
は,主文の刑に処してその刑事責任を明らかにした上,その刑の執行を猶予するの
が相当であると判断した。
 よって,主文のとおりの判決をする。
(求刑・懲役1年6月)
平成15年5月13日
神戸地方裁判所第12刑事係乙
裁  判  官  川   上       宏

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