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       主   文
一 被告が大阪府地方労働委員会平成二年(不)第三七号不当労働行為救済申立事
件について、平成三年一一月一五日付けでした命令の主文第一項を取り消す。
二 訴訟費用は被告及び被告補助参加人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一項と同旨。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告補助参加人(以下「補助参加人組合」という。)は、平成二年九月二〇
日、原告を被申立人として、被告に対し、救済申立てをした。被告は、平成三年一
一月一五日付けで別紙のとおりの命令を発し、同日、右命令書を原告に交付した。
2 しかし、右命令の主文第一項(以下「本件救済命令」という。)は、事実認定
及び法律の適用を誤った違法なものであるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認否
 請求原因事実は認める。
三 抗弁
 本件救済命令は、適法な手続によって発せられた適法な命令であり、事実認定及
び判断は別紙命令書理由欄記載のとおりである。
四 抗弁に対する原告の反論
1 補助参加人組合は、平成二年九月三日、原告に対し、日本国有鉄道(以下「国
鉄」という。)が昭和五八年九月三〇日に同組合の組合員であるa(以下「a」と
いう。)を臨時雇用員五九名のうちの一人として雇止めしたことに関して、次の事
項についての団体交渉を申し入れてきた。
① aの不当解雇について
② aの在職時の扱いについて
③ aの解雇時の諸条件について
④ その他関連事項について
 原告は、aの雇止め後すでに約七年もの長期間が経過しており、当時aが提起し
ていた従業員地位確認等請求訴訟(以下「別件地位確認訴訟」という。)の第一審
判決がa敗訴となり、第二審係属中であったこと、すでに国鉄労働組合(以下「国
労」という。)との団体交渉で協議が尽くされていたことなどから、右団体交渉申
入れを断った。
2 被告は、右団体交渉要求事項②、③、すなわちaの退職手当算定にかかわる問
題については、原告が改めて団体交渉に応じるべきであったのに、右団体交渉を拒
否したことにつき正当な理由があったものとはいえないとして本件救済命令を発し
た。
3 右結論に導いた被告の事実認定の中心は、「退職手当算定に係わる問題につい
ては、一〇回団交等において雇用保険支給問題、退職手当算定問題等について一定
の協議・説明がなされたものの、臨時雇用員に対する退職手当算定方式は国労分会
及び臨時雇用員に対して示されないまま一〇回団交は終了し、aはa解雇後のa訴
訟において清算事業団から臨時雇用員に対する退職手当算定方式が示されたことに
よって、平成二年八月に監督署及び安定所に調査に行き、その適用の仕方に疑義が
ある旨の説明を受けたものであるから、a解雇時とは異なる事情が生じているも
の」というにある。
 しかし、国鉄は、国労との団体交渉の際に臨時雇用員に対する退職手当について
協議し、交渉を行っている。すなわち、右の退職手当金算定方式については、昭和
五八年八月二五日、本件雇止めをめぐる第七回団体交渉で、国労からの「退職する
者については、退職条件について最大限の処置を講ずるとともに退職金等はすみや
かに支払うこと」という要求事項に応じて交渉が行われた。この算定方式は、国鉄
の内部規定等によって定められたものであるところ、同日の団体交渉において、国
労側から「規定である以上、地方権限の枠を超えるものであり、残念であるが、ど
うにもならないと思うが、こういったことがらがあるということは本社に伝えても
らいたい。」との要請があり、結局それ以上の進展はなく、当該退職手当金算定方
式に関する問題については決着した。同年九月一九日発行の組合ニュース(乙第四
四号証)の記載は、右退職金等の要求事項については、組合自身、第七回の団体交
渉で十分交渉がなされたとみなしていたことを物語っており、国鉄側作成の第七な
いし第一〇回の団交記録(丙第一号証の7ないし10)を見ても同様の経過となっ
ている。したがって、退職金算定問題については、交渉は終了しているものといわ
なければならない。
 このような団体交渉の結果を踏まえて、退職手当金の算定については法に準拠し
た国鉄の内部規則に基づく算定方式に従って、aの退職手当金を含め五九名の退職
手当金が計算され支払われたのである。現にaを除く臨時雇用員五八名が一定の算
定方式に基づいて算定された退職手当金を受領しており、退職手当金について異議
があると申し出た者はいない。
 また、被告が「aは、a解雇後の昭和五九年二月三日に提起した従業員の地位確
認等請求訴訟において清算事業団から臨時雇用員に対する退職手当金算定方式が示
された」と認定する点についても、国鉄は、第七回団体交渉の際にも臨時雇用員に
対する説明会の際にも十分説明しているし、仮にaが右従業員の地位確認等請求訴
訟(別件地位確認訴訟)において初めて知ったというなら、それは昭和五九年五月
一八日の第二回口頭弁論となり、それを知って五年後の平成二年八月に労基署及び
職業安定所へ調査に行ったというのが被告認定の筋書きとならざるをえないが、こ
のようなことはありえないことである。
4 臨時雇用員の退職手当の算定方式は、「臨時雇用員の退職手当について(事務
連絡)」(以下「事務連絡」という。)を含む「日本国有鉄道退職手当支給事務基
準規程」(以下「規程」という。)及びその根拠となる国家公務員等退職手当法
(以下「法」という。)、同法施行令(以下「施行令」という。)、同法の解釈及
び運用方針(以下「解釈運用方針」という。)によって示されている。
 規則、法令で定まっている退職手当算定方式については、aら臨時雇用員の雇止
め当時、改変を求める提案がなく、退職金の支給事務が終了した後一〇年もたった
現時点において算定方式に関する団体交渉をすべき理由は全くない。法令等の運
用、適用問題等のルールを変更したければ、支給時期以前に交渉がなされるべきで
あり、その時期を徒過して支払手続が行われてしまった場合は、今更団体交渉を求
めることができないことは明らかである。
 また、右のような規程、法令等は、国鉄において法令の改正等にあわせて「退職
手当関係法規令達集」という小冊子にまとめて発行していた。国鉄当局であって
も、国労であっても、必要であれば、この小冊子を入手して退職金の算定方式を明
確に知ることができたのである。
 そもそも、規則、法令というものは、国民ないし関係者に公布など告知行為があ
れば、特定の個人がこれを知らなくても、有効なものとして存在しているのであ
る。そういうものを知らないということが、適用に関して抗弁とはならない。関係
者はその内容を知るべきであり、特定個人に示す示さないなどというようなことは
何ら問題となる余地はない。退職手当は、退職の際、支払われることは誰しも知っ
ていることであるから、国鉄の計算に任せず、自らその内容を知りたければ、規
則、法令を自分の努力で調査をすれば、容易に知ることができたものである。
5 aは、当時退職手当算定方式を知らなかったかのごとく主張するが、a発行の
国労大阪工事局婦人部ビラ(乙第四一号証)には、「臨時雇用員という差別雇用の
中で当然職員並みの退職金がでるわけもなく、まして、その計算方法は複雑なもの
になっています。」との記載がある。計算方法を知らなければ、これを複雑である
などといえないことは明らかであるので、同人は複雑な計算方法を知っていたとい
うべきである。
 また、国鉄は、昭和五八年九月一六、一七日と退職予定者を集めて退職手当及び
雇用保険関係の説明会(以下「説明会」という。)を開催し、aも九月一六日に出
席していたことから、同人が当時退職手当算定方式を知っていたことは明らかであ
り、仮に退職手当算定方式について疑問があれば、aはその時点で解明できたはず
である。
6 なお、特定個人がその退職手当の算定方式に関して、規則、法令の解釈適用に
疑義があるとし、退職手当支給者が全くその疑義の点について解釈適用を変える意
思を有していない場合は、もはや交渉の問題ではなくて、司法においてその解釈、
適用の正当性の判断を受ける問題となる。
 現にaは、この解釈、適用をめぐって訴えを提起しているのであるから、その場
においてどちらの見解が正しいかの判断が示されることになり、この問題について
団体交渉を行うべき必要性も理由もない。
7 退職手当の算定方式についての原告の解釈は次のとおりである。
(一) aら臨時雇用員五九名の退職手当金は、
 基本日額×〇・八×二五×(自己都合退職の支給率)
という計算方式によって計算され、このとおり支給された。
(二) 自己都合退職の支給率であることについて(規程一〇条二項の適用)
(1) 国鉄が昭和五八年九月三〇日付けで行った、aを含む五九名の雇止めに、
多額の負債を抱えた国鉄の財政破綻、業務量の減少等を原因とする人員整理的要素
があったことは事実である。しかし、国鉄と臨時雇用員との雇用関係は、二か月の
期間を定めたいわゆる期間雇用であったので、前記期限に期間満了をもって雇止め
したものである。
(2) aは、事務連絡に規定するところの一か月二二日以上の勤務の継続性に一
時期欠けるところがあったため、aの退職手当の支給対象勤続期間は分断され、二
年と六年になる。したがって、長期勤続後の退職者を対象とする規程一一条の適用
はない。また、本件は、実情として整理解雇的要素はあるものの、右に述べたよう
に二か月間の期間雇用であるため、職員の整理退職の場合に適用される可能性のあ
る規程一二条の適用もない。臨時雇用員の退職手当について規程一二条の適用がな
いことは、事務連絡二項二号において明示している。
(3) 本件を仮に勧奨により退職したものであるとみても、勤続二〇年未満の者
については、勧奨退職の制度は法上も規程上も存在しないので、勧奨により退職し
た場合でも規程一〇条の退職として取り扱うこととされている。
(4) 結局、aの退職の場合は、規程一〇条が適用されることとなる。
 同条の一項は、勤続期間一一年以上の者についての支給率を規定し、二項は、一
〇年以下の者についての支給率を規定している。二項は、「本人の都合により退職
(傷病または死亡の場合を除く)したもの」に適用があるとされているが、本条
は、いわゆる普通退職と自己都合退職とを峻別したものではなく、普通退職にあっ
ても勤続年数の長短によって支給率に差異を設けた趣旨と解すべきである。したが
って、臨時雇用員の一〇年未満の雇止めであるaの場合には、同条二項の定める支
給率、すなわち自己都合退職の支給率と同じ支給率が適用される。
 国鉄では、長年にわたり、同条二項の勤続期間一〇年以下の者の退職手当につい
ては、右のように取り扱ってきたものである。
(三) 俸給月額について(解釈運用方針第三条関係一項ハ号(2)Bの適用)
(1) 退職手当計算の基礎となる俸給は、解釈運用方針第三条関係一項イ号で、
一般の職員の給与等に関する法律の適用を受ける者にあっては法五条に規定する俸
給とされており、それによると「俸給は(同法)第一四条に規定する勤務時間によ
る勤務に対する報酬であって、この法律に定める俸給の特別調整額、初任給調整手
当、扶養手当……を除いた全額とする。」と定められている。
(2) 職員の給与には、基本給のほか、扶養手当、都市手当等の手当があり、こ
れらの諸手当を除いた全額、すなわち基本給を俸給月額として退職金が計算され支
給される。
(3) 一方、aのような有期雇用にかかる臨時雇用員については、日給月給(日
給を一か月単位で計算し、これを一か月分まとめて支給する形)で賃金が支払われ
ており、職員のような諸手当は特になく(通勤手当については支給されてい
る。)、賃金のうち俸給に相当する分の額が明確でないため、解釈運用方針第三条
関係一項ハ号(2)Bを適用して、賃金月額の八割に相当する額の二五倍に相当す
る額を俸給月額として算出し、退職金を計算し支給したものである。
五 原告の反論に対する補助参加人組合の再反論
1 臨時雇用員の退職金算定方式・根拠についての説明の不存在
(一) 退職金算定根拠に関する労使間の認識の不一致
 国鉄大阪工事局は、昭和五八年九月三〇日付け臨時雇用員の解雇に際し、退職金
算定に関わる問題については、退職金算定方式・算定根拠を一切示していない。
 原告は、「退職手当金の算定方式が全て当時の国鉄の部内規定によって定められ
ていた。」とし、右「部内規定」とは事務連絡であるとする。一方、国労は、a解
雇当時より現在に至るまで、臨時雇用員の退職手当も職員同様、規程に基づくもの
と考えている。かかる認識の食い違いが存在すること自体が、臨時雇用員の解雇に
際し、退職金に関わる問題については、退職金算定方式・算定根拠が一切示されて
いない何よりの証拠である。
(二) 退職金算定方式・根拠の不明確性とその原因
 労働者に対し、退職金算定根拠を明示して算定方式を説明する義務は、断じて使
用者にある(労基法八九条一項三号の二、九〇条)。
 ところが、国鉄大阪工事局は、労基法に反し就業規則に退職金に関する規定を記
載せず、労基署への就業規則の届出さえ怠っていたのである。このことこそが、退
職金算定方式・根拠が今日においてさえ不明確なことの原因である。
(三) 組合ビラについて
 原告は、国労大阪工事局分会婦人部の昭和五八年八月一〇日付け「辞めても沢山
退職金が入るやろ! と安易に言うが!」というタイトルの組合ビラ(乙第四一号
証)及びaがその当時婦人部長であったことから、当時の国労分会及びaを含む組
合員は臨時雇用員の退職手当金の算定方式を知っていたことは明白であると主張し
ている。
 しかし、右記事は、解雇を提案されたという緊迫した状況のもとで、臨時雇用員
にも多額の退職手当金が支払われるので解雇による不利益はほとんどない等の虚偽
の情報が流され、解雇に反対しようとする動きを封じようとする風潮が一部にみら
れたために、これに反論するために作成されたものである。しかも、右記事は国鉄
から説明を受けて記載したものでないために、退職手当金算定方式がどのように複
雑なのかを論じておらず、「支給率は職員と同率ですが」等と明らかに事実と異な
る等不正確な内容となっている。また、婦人部長といっても、団体交渉の正式メン
バーにさえされておらず、当局から直接資料等を入手しあるいは当局と交渉しうる
立場にはなかったのである。したがって、右記事は、事務連絡を始めとする退職手
当金の算定方式を知って書かれたものでないことは明白である。
 そして何より、aが、自らの退職金算定方法を知るために労基署を始めとして様
々な機関に幾度となく足を運び、多大な時間と労力を費やしたにもかかわらず、現
在においてさえ明確な算定方法、根拠を知りえていない事実こそが、aが右算定方
法を解雇当時知らされていなかった何よりの証拠である。
(四) 退職金説明会について
 原告は、加えて、昭和五八年九月一六、一七日の両日にわたり、臨時雇用員を対
象に「臨時雇用員退職予定に伴う社会保険関係等説明会」(説明会)を開催し、退
職手当金算定等について説明を行い、aも九月一六日の説明会に出席していたので
あるから、解雇当時退職金算定方式を知っていたと主張している。
 しかし、aは、説明会に出席していないのであるから、退職手当金算定等につい
て説明を受けていない。また、仮に出席していたとしても、説明会では、臨時雇用
員に対し社会保険関係の事務的な説明をしただけで、退職金規程の説明や具体的な
算定方法については何一つ説明をしていないから、aが退職手当金算定等について
説明されたことはないのである。説明会開催後も、課長から個人的に、だいたいこ
れぐらいだと計算された額だけを聞いたにすぎず、どのような計算方法によるもの
かは、全然説明を受けていない。
(五) 別件地位確認訴訟での説明について
 aは、昭和五九年五月、別件地位確認訴訟の中において、国鉄から、臨時雇用員
に対する退職金の計算として、
 基本日額×〇・八×二五×(自己都合退職の支給率)
という計算式のみを示された。しかし、なぜ基本日額×〇・八とされるのか、なぜ
自己都合とされるのかは一切説明されず、その根拠規定も示されなかった。
 また、もとより解雇無効を主張しての裁判係争中であり、解雇を前提とする退職
金の協議を行うことはできなかった。
2 国鉄による退職金算定方式・根拠の違法性
(一) 退職金算定方式の違法性
 aは、「職員以外の者で、その勤務形態が職員に準ずるもの」といいうるから、
法、施行令及び解釈運用方針(昭和六〇年改正前のもの)が適用される。そして、
右法令を基礎に、労使間の協約に基づき、規程が定められており、aら臨時雇用員
の退職金算定も右規程に基づいて行われる必要がある。
 ところが、国鉄大阪工事局は、国鉄内部の事務連絡に過ぎない文書である事務連
絡を根拠に、退職金算定基礎となる勤続期間、退職金算定の基礎とされる俸給月
額、退職事由別乗率等において、右法令や規程に反する違法な算定を行った。
 これらの違法な算定方法の結果、aら臨時雇用員の全員が、本来支給されるべき
退職金額の半額にも満たない額しか退職金の支給を受けていないのである。
(二) 事務連絡による退職金算定の違法性
 事務連絡は、国鉄内の各文書の効力を規定する「規程等管理規程・文書管理規
程」に何ら記載されていないことからも明白なように、担当部署に対し業務遂行に
当たって具体的な事務作業を指示するために出す、文字どおり事務連絡に過ぎない
文書であって、法令や規程に実質的に反するような定めをすることはできず、仮に
定めても無効であることは当然である。
 また、事務連絡がその性格上、労使間の協定合意に基づくものでないことは明白
である。aを始めとする臨時雇用員自身も国労も、その内容を知ることはできなか
った。退職金の算定方法が労使間の交渉事項であることは当然であり、このこと
は、退職金算定方法が就業規則記載事項であり、就業規則の作成変更に組合との協
議を行うべきことが労基法上義務付けられていることからも明らかである。規程の
制定や改変に際しては、労使間の協議が尽くされていた。この点から考えても、一
片の事務連絡に基づいて、右規程に反した退職金算定をすることは違法である。
 以上のとおり、aら臨時雇用員に適用されるべき退職金規定は、法等の法令であ
り、右法令を基礎に労使間の協約に基づき定められた規程である。事務連絡は、そ
の性格からも、本来適用すべき規定に反した内容からも、労使協議を経ない一方的
不利益変更であるという点からも、aら臨時雇用員の退職金算定の根拠とはなりえ
ない。かかる事務連絡に基づく退職金算定は違法であり到底許されない。
(三) 以下、aの退職金算定方式の違法性を具体的に指摘する。
(1) 退職金算定の基礎となる勤続期間
 退職金算定の基礎となる勤続期間は、職員となった日の属する月(昭和四七年三
月)から退職した日の属する月(昭和五八年九月)までの月数である一一年六か月
である(法七条二項)。
 国鉄は、昭和四九年六月から昭和五一年九月までの二年間及び昭和五二年八月か
ら昭和五八年九月までの六年間の合計八年間しか勤続期間に含めていない。しか
し、まず、昭和四七年三月(採用)から昭和四八年九月(出産のための「退職」)
までの期間については、これを勤続期間として通算しなければならない。次に、昭
和四八年九月から昭和四九年一月までの「産休期間」も勤続期間に含めなければな
らない(解釈運用方針第二条関係二項ロ号)。期間二か月の臨時雇用員であっても
一年六か月も継続して雇用する以上常用扱いすべきであるから、産休を理由に解
雇・退職扱いすることは労基法六五条、一九条違反である。さらに、昭和四九年一
月から同年五月まで及び昭和五一年一二月から昭和五二年二月までの期間につい
て、国鉄は、「常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日が二二日
以上ある月が引き続いて一二月を超えない」として勤続期間から除いているが、何
らの根拠のない不当な扱いである。
(2) 退職金算定の基礎とされる俸給額
ア 昭和五一年九月における退職扱いについて
 退職金算定の基礎とされる俸給額は、「退職の日における」その者の俸給月額
(俸給が日額で定められているものについては、俸給の日額の二五日分相当額)と
される(法三条)から、aの退職時の日額賃金(四八三〇円)の二五日分をもって
退職金算定の基礎とされる俸給額とすべきである。ところが、国鉄は、aを昭和五
一年九月に一度退職扱いとし、その時点での退職金として当時の日額賃金(三一三
〇円)を基礎に退職金算定の基礎とされる俸給額を算定している。
 かかる退職扱いが不当であるのは前述のとおりであるが、仮に退職扱いするので
あれば、退職扱いするその時点で退職金を支給すべきである。
イ 俸給月額について
国鉄は、aの日額賃金、手当のうち「俸給に相当する部分の額」が明らかでないと
して、退職時の「日額の八割に相当する額の二五倍に相当する額」をもって「俸給
に相当する部分」であるとしている(解釈運用方針第三条関係一項八号(2)
B)。しかし、aは、通勤手当以外に手当の支給を受けておらず、通勤手当の額も
明らかであるから、右記載上明らかな俸給日額(賃金日額に同じ。)の二五倍に相
当する額をもって俸給月額とすべきなのである(解釈運用方針第三条関係一項ハ号
(1))。
ウ 乗率(法三条)について
 aの解雇は、整理解雇であるから、通常の退職より有利な乗率が適用されてしか
るべきである(法五条。ただし、施行令一条二項二号)。少なくとも、「その者の
都合により退職した者」(法三条二項)に当たらないことは明らかである。したが
って、原則的規定である法三条一項を適用すべきである。解釈運用方針において
も、「その者の都合により退職した者」には、「法令で定める任期満了等により退
職した者は含まれない」としている(解釈運用方針第三条関係二項)。
 ところが、国鉄は、aを「その者の都合により退職した者」扱いとして法三条二
項を適用し、低い乗率を掛けている。私傷病による退職の場合でさえ、「自己都
合」による退職扱いとはしないにもかかわらず(法三条二項)、整理解雇に当たる
本件解雇における退職金算定を「自己都合」による退職扱いとしたのは許しがたい
扱いである。なお、国鉄大阪工事局は、国家公務員等退職票には、退職理由として
「業務量の減少のための解雇」と記載し、かつ、就業規則によれば、aの解雇は明
確に「退職」ではなく「解雇」条項に該当する。また、同工事局は、普通退職とい
いながら、退職金の算定に当たっては自己都合退職を適用している。
 国鉄による右の扱いを規定づけた規程や法律はなく、全く違法かつ不当な適用で
ある。
3 退職金算定方法・根拠についての団体交渉の必要性
(一) 団体協議の不存在
 原告は、一〇回の団体交渉において、退職金についてはすでに十分協議済みとい
う。
 しかし、右団体交渉のうち、退職金について協議がなされたのは第七回の団体交
渉であり、右団体交渉においても、組合側から「退職手当金算定方式は、規程であ
る以上、地方権限の枠を超えるものであり、どうにもならないが、こう言ったこと
がらがあるということを本社に伝えてほしい。」との要望があり、結局それ以上の
話合いはなかった。
 それは、本件解雇当時、退職金の算定方式及び根拠規定について、国鉄労使とも
に、「部内規定」により明確であると思い込んでいたためである。ところが、協議
の前提あるいは基礎ともいうべき「規定」を、国鉄当局は事務連絡とし、国労は規
程と考えていたのである。
 他方、当事者である臨時雇用員は、国に準じた機関である国鉄であるから、退職
金についても法律や規定に従い正しく支給されるものと信じて疑っていなかった。
また、aは、当時解雇撤回を強く求めており、退職金については念頭になかったの
である。
 かかる状況下において必然的に、退職金の算定方式・根拠について、労使協議に
おいてほとんど協議がなされなかったのである。
(二) 団体協議不存在の責任
 当時不十分な団体交渉しか行われなかったのは、国鉄当局の故意あるいは過失に
より、かかる違法な退職金算定の事実を知らされなかったからである。その責任
は、全て国鉄当局にある。
(三) 団体交渉の必要性
 退職金に関する事項は重要な労働条件の一つであり、それゆえに国鉄において
も、常に労使間で協議を尽くした上で、規程として成文化され、その解釈や改変に
ついても労使間で協議がなされてきた。それを、一片の事務連絡によって不利益変
更することなど許されず、このことは国鉄当局も十分知り尽くしているはずであ
る。
 国鉄当局は、違法な退職金算定を行い、それを故意あるいは過失により国労及び
当事者である臨時雇用員に知らせなかった。それゆえに、当時団体交渉による追及
を免れた国鉄が、今日まで団体交渉を免れた故をもって団体交渉を拒否しうるなど
ということは到底許されるべきではない。
4 その他の退職条件についての団体交渉の必要性
 本件解雇当時の団体交渉の場において、退職金以外の退職条件については、「規
定上、職員の整理解雇の準用はできない。」旨の回答以外一切示されず、「退職条
件については今後とも協議していきたい。」との確認にもかかわらず、その後も一
切協議がなされていない。
 退職条件につき、原告は、協議による上積みの余地はなく、団体交渉は無意味で
あるごとく主張している。しかし、職員の場合、年度末退職について毎年のように
労使協議に基づく通達によって割増率の適用等がなされていたし、労使協議により
昇格を遡らせることにより退職金算定の基礎となる俸給額を上げる等の措置がなさ
れていたのである。また、臨時雇用員の場合にも、昭和五四年の庁舎移転に伴う合
理化に際して、退職条件の上積みがなされてきたのである。
 退職条件の上積みの余地はあったし、整理解雇である本体解雇の場合、むしろ上
積みされてしかるべきであった。かかる退職条件について、解雇当時に協議が約束
されたにもかかわらず尽くされていないのであるから、団体交渉が行われるべきは
当然である。
5 結論
 平成元年一一月一三日、別件地位確認訴訟の第一審判決が言い渡され、不当にも
aが敗訴した。補助参加人組合は、分割民営化の過程での組織攻撃によってa解雇
問題への取組みが困難となっていた国労から原告との交渉を引き継ぎ、平成二年八
月、労基署及び職業安定所に調査に行き、aの退職金算定方法に違法の疑いがある
旨の説明を受け、この点について説明を受けるべく、同年九月三日、原告に対し団
体交渉を申し入れたのである。以上のとおり、原告が補助参加人組合との団体交渉
に速やかに応じるべきは当然であり、本件救済命令は適法である。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因事実(本件救済命令の発令)は当事者間に争いがない。
二 主たる争点の所在
 被告は、平成二年九月三日の補助参加人組合の本件団体交渉申入事項のうち、
「②aの在職時の扱い」はaの出産の際の産休の取扱いの問題であり、「③aの解
雇時の諸問題」はaの雇用保険支給問題及び退職手当算定問題であるとし、いずれ
もaの退職手当算定にかかわる問題であるとした上で、原告がこれらの交渉事項に
ついて団体交渉を拒否したことにつき正当な理由があったものとはいえず、原告の
右行為は、労働組合法七条二号の不当労働行為に該当する旨主張する。
 これに対し、原告は、退職手当算定にかかわる問題については、①すでに国鉄と
国労との間で団体交渉を尽くしていること、②臨時雇用員の退職手当の算定方式
は、退職手当関係法規令達集によって一般に明らかにされている規程等によって示
されているのであり、当時、aは右算定方式を知っていたこと、③特定個人に対す
る右算定方式の適用に疑義があり、退職手当支給者がその解釈適用を変更する意思
のない場合は、団体交渉でなく司法の判断によらざるを得ないこと等を理由に、原
告が団体交渉を拒否したことには正当な理由がある旨主張するので、以下この点に
ついて検討する。
三 主たる争点に対する判断
1 本件団体交渉申入れと拒否に至る経緯
 成立に争いのない甲第五号証、乙第一〇、一一号証、第一六、一七号証、第二五
号証、第二八ないし三五号証、第三八ないし四四号証、補助参加人組合との間では
成立に争いがなく、被告との間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認め
られる甲第二号証、証人aの証言、同証言により真正に成立したものと認められる
乙第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 当事者
 原告は、国鉄の分割民営化に伴い、日本国有鉄道改革法(昭和六一年法律第八七
号)及び日本国有鉄道清算事業団法(昭和六一年法律第九〇号)に基づき、昭和六
二年四月一日に設立され、肩書地に本社を、全国に支社等を置き、承継法人(国鉄
改革法一一条二項が規定する承継法人)が国鉄から承継しない資産、債務等の処理
等の業務を行っている。
 補助参加人組合は、主に大阪など関西地方の企業等で働く女性労働者によって組
織される労働組合であり、昭和六二年一一月に結成された。原告の従業員には補助
参加人組合に加入している者はいない。
(二) aの採用から雇止めまでの経緯
(1) aは、昭和四七年三月九日、国鉄大阪工事局の臨時雇用員の退職に伴う欠
員募集に応募して国鉄に採用され、その後、二か月ごとに雇用契約の更新を繰り返
した。採用から約一年六か月を経た昭和四八年九月三〇日、出産のため同工事局に
退職届を提出し、いったん退職したが、昭和四九年一月一〇日、再び臨時雇用員と
して同工事局に就職し、後述のとおり昭和五八年九月三〇日に雇止めされるまで、
従前と同様に勤務した。
(2) 国鉄大阪工事局は、昭和五八年六月二九日、aを含む臨時雇用員五九名全
員に対し、同年九月三〇日をもって雇止めすることを提案し、また、aら臨時雇用
員の所属する国労大阪工事局分会(以下「国労分会」という。)に対しても、同日
の団体交渉の場において、国鉄が膨大な赤字を抱えていること、大阪工事局におけ
る工事量が大幅に落ち込んでいること、業務量の減少に伴い臨時雇用員で対応して
きた波動業務を今後職員で対応することを理由として、臨時雇用員の削減を提案し
た。
(3) 国鉄大阪工事局と国労分会は、昭和五八年六月二九日から同年九月三〇日
までの間、臨時雇用員の雇止め及び雇止め時の諸条件について一〇回にわたる団体
交渉を行った。その中心的な交渉事項は、臨時雇用員の雇用継続及び再就職の斡旋
であった。右団体交渉の経過は、おおむね次のとおりである。
 同年六月二九日の第一回団体交渉の後、団体交渉が行われたのは、七月一四日、
同月二五日、八月三日、同月一〇日、同月一七日、同月二五日、九月一六日、同月
二七日、同月三〇日の合計一〇回であった。aは、当時国労分会の婦人部長を務め
ており、右団体交渉に出席していた。
 国労分会は、八月二四日、大阪工事局に対し、八項目にわたる要求を記載した申
入書を提出した。その第七項は、「退職をする者については、退職条件について最
大限の処置を講ずるとともに、退職金等は速やかに支払うこと」というものであっ
た。翌二五日の第七回団体交渉において、大阪工事局は、右の国労分会の申入れに
対し、再就職先の斡旋を行い、九月三〇日までに再就職先が決まるよう努力する、
退職手当、賃金は速やかに支払う、一〇月一日以降の雇用継続はできないので全員
について円満に解決できるよう最大限の努力をするなどの回答をした。この席で、
国労分会側から、退職手当支給と雇用保険給付との関係及び臨時雇用員の退職手当
算定方式について質問があった。
 八月二五日以降、大阪工事局は、国労分会の要望もあって、臨時雇用員全員に対
し、再就職の希望の有無、再就職先についての希望を聴取するとともに、求人会社
七十数社を斡旋した。aに対しても三社を斡旋したが、aは雇用の継続を希望し、
大阪工事局の示したいずれの再就職先をも拒否した。
 九月一六日と一七日、大阪工事局は、臨時雇用員を対象として社会保険関係等に
関し説明会を開催した。
 九月二〇日、大阪工事局は、臨時雇用員全員に対して、解雇予告書により、一〇
月一日以降雇用契約を締結しない旨の通知を行ったが、aは、解雇予告書及び解雇
予告手当の受取りを拒否し、雇用の継続を要求した。九月二六日、同工事局は、a
に対し、再度解雇予告書及び解雇予告手当の受取りを求めたが、aは、解雇予告書
を受け取ったものの解雇予告手当の受取りを拒否した。
 九月三〇日、大阪工事局は、同日限りで臨時雇用員全員を雇止めし、退職手当を
支給した。aを除く臨時雇用員は退職手当を受け取ったが、aは受取りを拒否し
た。同日、国労分会は、aの解雇が納得できないとして同工事局と団体交渉を行っ
たが、雇用継続はできないとする同工事局との間で主張が対立し、交渉は平行線の
まま終了した。
 大阪工事局は、後日、aの退職手当を供託し、aは、昭和五九年五月一〇日、そ
の還付請求をしてこれを受け取った。
(三) aの雇止めから本件団体交渉申入れに至る経緯
(1) aは、昭和五九年二月三日、国鉄を相手に、従業員の地位確認並びに未払
賃金及び将来の賃金の支払いを求める訴え(別件地位確認訴訟)を大阪地方裁判所
に提起した。原告は、昭和六二年の国鉄分割民営化時、右訴訟の被告の地位を承継
した。
(2) 国労分会は、aの雇止めの翌日である昭和五八年一〇月一日から昭和五九
年二月二日までの間、国鉄大阪工事局に対し、aの雇止めを撤回して雇用を継続す
るよう求める申入行動を継続的に行った。
 また、国労分会は、別件地位確認訴訟提起後毎月、大阪工事局に対し、aの雇止
め問題についての抗議の申入行動を行い、昭和六二年の国鉄の分割民営化以降は、
西日本旅客鉄道株式会社に対して同問題についての申入れを行った。
 aは、補助参加人組合が結成された昭和六二年一一月、国労分会に所属したまま
同組合に加入した。
 昭和六三年二月二二日、aの雇止めの撤回闘争を支える地域の支援団体として結
成された「国鉄臨時雇用員aさんの解雇を撤回させる会」(以下「撤回させる会」
という。)が、国労分会と話合いのうえ、原告に対し、aの雇止めについての抗議
の申入れ行動を行い、以後、撤回させる会は、別件地位確認訴訟の口頭弁論期日ご
とに同様の申入行動を行った。
(3) 大阪地方裁判所は、平成元年一一月一三日、別件地位確認訴訟の判決を言
い渡し、aの請求を棄却した。aは、これを不服として大阪高等裁判所に控訴し
た。
(4) 国鉄は、昭和五九年五月一八日の別件地位確認訴訟第二回口頭弁論期日に
おいて臨時雇用員に関する退職手当算定方式を明らかにしたが、aは、平成二年八
月、自分の退職手当の算定方法についての疑問を晴らすため、天満労基署及び天満
公共職業安定所に行き、自分の退職手当算定方式について説明を受けた。
(四) 本件団体交渉申入れ及びその拒否
 補助参加人組合は、平成二年九月三日、原告に対し、文書で「①aの不当解雇に
ついて、②aの在職時の扱いについて、③aの解雇時の諸条件について、④その他
関連事項」を交渉事項とする団体交渉を申し入れた(以下「本件団体交渉の申入
れ」という。)が、原告は、右文書の受取りを拒否した。そのため、補助参加人組
合は、同日、原告に対し、本件団体交渉の申入書を内容証明郵便で送付した。国労
分会でなく補助参加人組合が団体交渉を申し入れたのは、国労が重大な組織問題を
抱えていたこと、国労分会においてaの解雇問題に対する支援を別件地位確認訴訟
第一審判決までとする方針の決定があったこと等の事情を踏まえ、補助参加人組合
が国労分会と協議し、aの解雇撤回闘争を引き継ぐことを合意したためである。
 本件団体交渉申入れにおいて、補助参加人組合が交渉すべき内容としていたの
は、「②aの在職時の扱い」については、aの出産の際の産休の取り扱いの問題で
あり、「③aの解雇時の諸条件」については、aの雇用保険給付問題及び退職手当
算定問題であったが、「④その他関連事項」については特に予定されていなかっ
た。なお、すでに処理が終わっている産休の問題を交渉内容としたのは、労基法と
の関係において、その取り扱いが退職手当算定の基礎となる勤続期間の計算に影響
すると判断したからであった。
 原告は、同月五日、補助参加人組合に対し、本件団体交渉申入れについて、大阪
高裁で係争中であるのでその趣旨に添いかねる旨の回答書を内容証明郵便で送付
し、本件団体交渉を拒否した。
2 昭和五八年のaを含む臨時雇用員の雇止めに当たっての国鉄大阪工事局と国労
分会との間の団体交渉における退職手当についての交渉経過及びこれに関連する事

 昭和五八年六月二九日から同年九月三〇日の雇止めの当日まで、国鉄大阪工事局
と国労分会との間で、臨時雇用員の雇止めに関し一〇回の団体交渉が行われたこと
は、前記認定のとおりであるところ、退職手当算定にかかわる問題についての交渉
経過の詳細は以下のとおりである。
(一) 団体交渉
 前掲乙第一〇、一一号証、第二八ないし三一号証、第三四号証、第三九号証、成
立に争いのない丙第一号証の1ないし10、証人bの証言、同証言により真正に成
立したものと認められる甲第三号証によれば、次の事実を認めることができる。
 国鉄大阪工事局と国労分会との間の一〇回の団体交渉のうち、臨時雇用員の退職
手当についての交渉が行われたのは、昭和五八年八月二五日の第七回団体交渉であ
ったが、この第七回団体交渉は、国労分会がその前日に大阪工事局に対して交付し
た八項目にわたる申入書に対する大阪工事局の回答を軸に行われた。退職手当につ
いては、その第七項で、「退職をする者については、退職条件について最大限の処
置を講ずるとともに、退職金等は速やかに支払うこと」として要求され、大阪工事
局は、この要求に対し、結論として「退職金、賃金は速やかに支払う。」と回答し
たが、その具体的な交渉の過程では、次のようなやりとりがあった。すなわち、国
労分会側が、臨時雇用員は自分の都合で辞めるのではなく当局の都合で辞めるのだ
から、職員に準じて退職手当の支給率を割増せよ、と要求したのに対し、大阪工事
局側は、内部規定により、臨時雇用員については職員に準じた扱いはできない旨答
えた。また、大阪工事局側は、雇用保険と退職手当との関係についての質問に対し
ても、内部規定を援用して回答した。国労分会側は、大阪工事局がこのように内部
規定を援用して回答することに対し、「規定である以上、地方当局の権限の枠を超
えるものであり、残念である。どうにもならないと思うが、こういったことがらが
あるということは本社に伝えてもらいたい。」旨発言するとともに、「退職条件に
ついては、地方当局としてでき得る最大限の措置を講じられたい。」と申入れた。
大阪工事局側は、これに対し「退職条件については、今後とも協議していきた
い。」と答え、退職手当に関する交渉はこれで終了した。なお、その後同年九月三
〇日の雇止めの当日まで三回の団体交渉が行われたが、この団体交渉において、退
職手当の算定問題が協議されることはなかった。
 当時国労分会婦人部の部長であったaは、右第七回団体交渉に出席していた。
(二) 説明会
 前掲乙第三五号証、第三九号証、第四〇号証、証人b、同c(ただし、後記認定
に反する部分を除く。)の各証言によれば、次の事実を認めることができる。
 昭和五八年九月一六日と一七日、国鉄大阪工事局は、同月三〇日付けで退職予定
の臨時雇用員を対象として、退職に伴う退職手当と雇用保険の関係及びその他の社
会保険等についての説明会を開催し、退職予定者の多くが出席した。その内容は、
主に社会保険の給付手続についての説明であった。当時のaの職場であった停車場
第一課のd課長は、同月一四日、aに対し、右説明会が開かれる旨を伝え、aは、
同月一六日開催の右説明会に出席した。なお、証人c及び同aは、aが右説明会に
出席していないかどうかにつき、右認定に反する証言をするが、証人cの証言はa
が出席していなかった旨断言するものではないし、また、証人aは、自らが出席し
ていなかったとする根拠につき、同人が解雇を認められないと言っていたのである
から、解雇を前提とした退職金等の説明会には出席しないというのであるが、aが
在職中から退職金等の問題について関心をもっていたこと(証人aの証言)や、前
記認定のように、aが当時国労分会婦人部長の地位にあって、他の臨時雇用員の利
害に関することにも配慮しなければならない立場にあり、かつ、国鉄との団体交渉
に出席していたことに徴すると、証人c及び同aの各証言は、ただちに採用するこ
とはできない。
(三) 退職手当の支給に対する国労分会の態度
 前掲乙第一〇、一一号証、第二八ないし三一号証、第三四号証、第四二号証、第
四四号証、丙第一号証の1ないし10によれば、次の事実を認めることができる。
 国労分会は、一〇回にわたる団体交渉の当初は、あくまで雇止めの撤回と雇用の
継続を要求して譲歩の姿勢を示さなかったが、昭和五八年八月二四日に至り、前記
八項目の申入書によって、再就職斡旋の諸条件等についての申入れを行い、翌二五
日の第七回団体交渉において右申入事項についての団体交渉が行われ、その後の団
体交渉において、国労分会は、右申入事項第七項の退職手当等退職条件の問題につ
いては、国鉄大阪工事局に対し、それ以上の交渉を求めることはなかった。
(四) 国労分会婦人部の対応
 前掲乙第四一号証、第四三号証、証人c、同aの各証言によれば、次の事実を認
めることができる。
 第六回の団体交渉が行われた昭和五八年八月一〇日、国労分会婦人部は、臨時雇
用員の退職手当について、「臨時雇用員という差別雇用の中で、当然職員並みの退
職金が出るわけもなく、まして、その計算方法は複雑なものとなっています。支給
率は職員と同率ですが、その計算基礎となる日額賃金は職員の半分以下です。又、
ひと月を二十二日以上勤ムした月とみなされ、さらに計算時には継続で何年かによ
って退職手当率が出されるのです。」「このような中で、十年なら十年、二十年な
ら二十年、月に二十二日を切れる事なく働きつづける為には、並み大抵の苦労では
ありません。今回首切り提案を受けた五十九名の中には、出産で切られている人も
います。病気でわずかな日数が足らない為切られている人も多くいます。」などと
記載した婦人部ニュースを発行したが、これを作成したのはaであった。
 同婦人部は、前判示の同年八月二五日の第七回団体交渉の後である同年九月七
日、国労分会による八月二四日の申入書第七項の退職手当等退職条件の問題につい
ては、「一歩も譲ことはできない。」旨を記載したビラを発行した。
3 国鉄の他の工事局等における団体交渉について
 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証の1、第七号証
の1・2及び証人eの証言によれば、次の事実を認めることができる。
 昭和五八年当時、国鉄東京建築工事局でも臨時雇用員三十数名全員の雇止めが行
われた。その際、国鉄と国労同工事局分会との間で団体交渉が行われたが、大阪と
同様、国労側は、解雇撤回を主眼としており、退職手当については、規程に基づき
算定されるであろうという認識があっただけで、退職手当を上積みせよという要求
は行わなかった。
 同じく、当時、国鉄千葉鉄道管理局でも臨時雇用員の雇止めが行われ、その際、
国鉄と国労との間で団体交渉が行われたが、ここでも、国労側は、退職手当は規程
に基づき計算されるであろうという認識にとどまり、退職手当の上積みの交渉はな
されなかった。一方、国鉄側は、大阪工事局と同じ方法で臨時雇用員の退職手当を
算定し、支給した。
4 国鉄大阪工事局によるaの退職手当の算定と算定方式の周知
(一) 国鉄の内部規定による算定
 前掲乙第三八号証、成立に争いのない乙第三六号証、弁論の全趣旨により真正に
成立したものと認められる甲第四号証、第九ないし一一号証によれば、国鉄大阪工
事局は、昭和五八年九月三〇日のaの雇止めに当たって、次の方式により退職手当
を算定したものと認めることができる(なお、以下に挙げる国鉄の内部規定及び法
令は、昭和五八年九月三〇日当時のものである。)。
(1) 国鉄職員の退職手当については、法が適用されるところ(法二条一項二
号)、国鉄は、以下のように、解釈運用方針(昭和二八年九月三日蔵計第一八三二
号大蔵大臣通知。最終改正昭和四四年一二月一九日総人局第九三七号)に示された
解釈に基づき内部規定を定めており、国鉄及び原告は、右内部規定による退職手当
の算定方法を変更することは法及び施行令に違反するおそれがあると考えている。
ア まず、施行令一条一項二号により法の適用を受ける職員とみなされる者につい
ては、雇用関係が社会通念上継続していると認められる場合において、常勤職員に
ついて定められている勤務時間以上勤務した日が二二日以上ある月が引き続いて一
二月を超えるに至った者をいうと解し(解釈運用方針第二条関係及び施行令第一条
関係)、その旨の内部規定を制定している(事務連絡前文)。もっとも、右の「引
き続いて一二月を超える」という要件については、当分の間、これに該当しなくて
も、引き続いて六月を超える場合には、退職手当を支給するものとしている(事務
連絡四項)。
イ そして、法第三条にいう退職手当算定の基礎となる俸給月額とは、賃金又は手
当の額のうち俸給に相当する部分の額が賃金又は手当の額の算定上明らかである者
以外の者で賃金又は手当の額が日額で定められている者については、当該日額の八
割に相当する額の二五倍に相当する額をいうとする解釈を採った上(解釈運用方針
第三条関係)、退職手当の具体的算定方法について、法三条に基づき、以下のよう
な規程を定めている。
 「一〇条。次条第一項若しくは第二項又は第一二条第一項若しくは第二項の規定
に該当する場合を除くほか、退職した者に対する退職手当の額は、退職の日におけ
るその者の基本給月額に、その者の勤続期間を次の各号に掲げる区分により、当該
各号に掲げる割合を乗じて得た額の合計額とする。
① 一年以上一〇年以下の期間については、一年につき一〇〇分の一〇〇
② 一一年以上二〇年以下の期間については、一年につき一〇〇分の一一〇
③ 二一年以上二四年以下の期間については、一年につき一〇〇分の一二〇
2 前項に規定する者のうち、本人の都合により退職(傷病又は死亡の場合を除
く。)したもので、次の各号の一に該当するものの退職手当の額は、同項の規定に
かかわらず、同項の規定により算定した額に当該各号に掲げる割合を乗じて得た額
とする。
① 勤続期間一年以上五年以下の者一〇〇分の六〇
② 勤続期間六年以上一〇年以下の者一〇〇分の七五」
 なお、国鉄は、規程一〇条一項と二項の区別は、いわゆる普通退職と自己都合退
職の区別に対応するものではなく、勤続年数の長短によって支給率に差異を設けた
趣旨であり、いわゆる普通退職をした者についても勤続期間一〇年以下の者につい
ては同条二項を、勤続期間一一年以上の者については同条一項を適用すべきである
という解釈を採っていた。
(2) 以上に基づき、国鉄大阪工事局は、昭和五八年九月三〇日の退職時におけ
るaの退職手当を次のようにして算定し、その合計額を支給することとした。
ア 支給の要件となる勤続期間について、昭和四七年三月九日の採用から昭和四八
年九月三〇日の一回目の退職までの間は、勤務した日が二二日以上ある月が引き続
いて六月を超えるという要件に当てはまらない(したがって、昭和四八年九月三〇
日の退職時には国鉄はaに退職手当を支給していない。)。
 昭和四九年一月一〇日の再就職から昭和五八年九月三〇日の退職までの間につい
ては、勤務した日が二二日未満である月が、昭和四九年一月、二月、五月、昭和五
一年一〇月、一一月、昭和五二年三月、となるので(なお、昭和五二年四月ないし
七月の各月も、勤務した日が二二日未満であるが、産休制度により、分娩欠勤期間
である四月一八日から七月一〇日までが退職手当算定上は勤務したものとみなされ
た結果、各月とも、退職手当算定上の勤務日は二二日以上となった。)、①昭和四
九年六月から昭和五一年九月まで(二八か月)の二年間と、②昭和五二年四月から
昭和五八年九月まで(七八か月)の六年間の各期間が、退職手当支給の要件に当て
はまる勤続期間ということになる(法七条六項により、在職期間に一年未満の端数
がある場合には、その端数は切り捨てられる。)。
イ したがって、支給すべき退職手当の額は、以下のとおりである。
 昭和四九年六月から昭和五一年九月まで(二八か月=二年)の勤務に対する退職
手当
 三一三〇円(昭和五一年九月当時の賃金日額)×〇・八×二五×二×〇・六
 昭和五二年四月から昭和五八年九月まで(七八か月=六年)の勤務に対する退職
手当
 四八三〇円(昭和五八年九月当時の賃金日額)×〇・八×二五×六×〇・七五
(二) 国鉄による右退職手当算定方式の周知
 前掲甲第九ないし一一号証、成立に争いのない丙第三号証によれば、国鉄大阪工
事局は、その臨時雇用員の労働条件について就業規則を定めていたが、右就業規則
中に退職手当の定めはなく、国鉄は、「退職手当関係法規令達集」という小冊子を
発行しており、前記の法令、内部規定は、いずれも右小冊子に掲載されていたこと
を認めることができる。
5 不当労働行為の成否
(一) まず、補助参加人組合が原告との間の団体交渉の当事者になりうるかにつ
いて検討する。
 aが国鉄から雇止めをされた昭和五八年九月三〇日から平成二年九月三日の本件
団体交渉申入れまで、約六年一一か月という長期間が経過しているとはいえ、a
は、雇止めの後間もない昭和五九年二月三日に提起した別件地位確認訴訟において
右雇止めを争い、本件団体交渉申入れの時点においても、右訴訟は係属中であった
のであるから、国鉄を承継した原告とaとの間の労働関係は、昭和五八年九月三〇
日の雇止め及びその後の期間の経過のみをもって確定的に消滅したとまではいえ
ず、aは原告の「雇用する労働者」(労働組合法七条二号)に該当するというべき
である。
(二) すすんで、原告が補助参加人組合と団体交渉をすることを正当な理由がな
くて拒んだといえるかどうかについて判断する。
(1) 国鉄大阪工事局と国労分会との団体交渉について
ア 前記認定の事実によれば、aを含む臨時雇用員の退職手当については、同人も
出席した昭和五八年八月二五日の第七回団体交渉で交渉されたところ、その際、国
労分会側が職員に準じて退職手当の割増等を要求したのに対し、同工事局側は、内
部規定を援用して右割増要求に応じられないなどの回答をしたこと、右内部規定に
基づく退職手当の算定は、国鉄の確立した法令解釈に基づくものであり、同工事局
のみの判断でこれと異なる算定方法を採ることはできなかったこと、国労分会側
も、「規定である以上、地方の権限を超える。」と述べるなど、同工事局のこのよ
うな立場に理解を示し、退職手当に関する内部規定とその適用自体は争わない態度
を取ったこと、その後、同年九月三〇日の雇止めに至るまでの間に両者間で更に三
回の団体交渉が行われたが、臨時雇用員の退職手当に関する問題は取り上げられな
かったこと、前記の事務連絡、規程など退職手当算定に関する内部規定は、国鉄に
より「退職手当関係法規令達集」として発行されており、国労分会側もその内容を
容易に知り得たこと、昭和五八年当時、東京建築工事局及び千葉鉄道管理局も、臨
時雇用員の雇止めに関し国労側と団体交渉をしたが、右団体交渉においても、国労
側は、大阪工事局におけると同様、退職手当は規程に基づいて算定されると認識し
ており、国鉄側に退職手当の増額等を要求することがなかったことが認められ、こ
れらの事実関係からすると、同工事局は、右団体交渉の場において、4(一)で判
示した臨時雇用員に関する退職手当の算定方式をその算定根拠となる前記の内部規
定に言及して説明し、国労分会側も、その説明を了解し、これをもってこの問題を
決着させたという認識であったものと認められ、したがって、この問題について
は、右団体交渉の場において協議が尽くされたものというべきである。
 もっとも、aが部長を努める国労分会婦人部が、第七回団体交渉後、退職条件に
ついて譲歩すべきでないなどと記載したビラを発行した事実が認められるとはい
え、右認定の事実、とりわけ、国労分会の代表者が右団体交渉で前記のような態度
を取ったことに照らせば、右の事実をもって右認定の事実を左右するには足りず、
ほかにこれを覆すに足りる証拠はない。
イ 以上によれば、被告が本件救済命令中で、臨時雇用員の退職手当算定問題につ
いては協議が尽くされていなかったとした認定は、誤りであるといわざるを得な
い。
(2) aの雇止め後の事情
ア 前記認定の事実によれば、国鉄大阪工事局は、aの雇止めの後、aの退職手当
を供託し、aは、昭和五九年五月一〇日、その還付請求をしてこれを受け取ったこ
と、補助参加人組合が本件団体交渉を申し入れたのは、aの雇止めから約六年一一
か月後、aの同組合加入の約二年一〇か月後であったこと、その間、aは、昭和五
九年二月三日に別件地位確認訴訟を提起し、平成元年一一月一三日、同人の請求を
棄却する第一審判決が言い渡されたが、一方、国労分会は、昭和五八年一〇月一日
から昭和五九年二月二日まで、国鉄大阪工事局に対してaの雇止めの撤回を求める
申入れ行動をし、右訴訟提起後は、毎月、aの雇止め問題についての抗議の申入れ
をし、昭和六二年の国鉄分割民営化後は、西日本旅客鉄道株式会社に対し同様の申
入れ行動を行い、さらに、昭和六三年二月二二日以降は、「撤回させる会」が国労
分会と話し合いの上、右訴訟の口頭弁論期日ごとに原告に対し同様の申入れ行動を
行っており、以上の経緯によれば、aの所属した国労分会、補助参加人組合は、い
ずれも、雇止めにかかわる問題を団体交渉によって解決するという姿勢は示してい
なかったことを認めることができる。
イ もっとも、被告は、本件救済命令の理由中において、aは、別件地位確認訴訟
において退職手当算定方式を知り、平成二年八月に労基署及び職業安定所に調査に
行って、その適用に疑義がある旨の説明を受けたもので、雇止め時とは異なる事情
が生じている、と認定している。
 しかし、前記認定のとおり、aは、昭和五八年八月二五日の第七回団体交渉を含
む臨時雇用員の雇止めに当たっての一〇回の団体交渉及び同年九月一六日開催の説
明会に出席した上、同年八月一〇日に自らが作成した国労分会婦人部ニュースにお
いて、国鉄大阪工事局による退職手当算定方式について詳しい記載をしており、右
記載は、前記認定の同工事局による算定方式と大筋において一致していると認めら
れることからすると、当時、aは同工事局による退職手当算定方式を知っていたも
のと認めることができる。したがって、本件救済命令の右認定も誤りであるといわ
ざるを得ない。
(3) 本件団体交渉拒否に関する正当理由の有無について
 以上の認定説示のとおり、昭和五八年のaの雇止めの当時、国鉄大阪工事局と、
aが所属していた国労分会との間の団体交渉において、aを含む臨時雇用員の退職
手当の算定問題について協議が尽くされたこと、当時、aは、国鉄大阪工事局によ
る右退職手当算定方法を知っていたのであって、別件地位確認訴訟において初めて
知ったものではないこと、同工事局による臨時雇用員の退職手当の算定方法は、国
鉄による確立した法令解釈に基づき制定された国鉄の内部規定に基づくものであ
り、原告は、右算定方法が法令に基づくものであって、これを変更すると法令に違
反するおそれがあると考えていたのであるから、このような解釈の当否は裁判所に
ゆだねられるべきものであり(右解釈の当否は、現在、aと原告間の当裁判所平成
五年(ワ)第三六三七号事件で争点とされている。)、この問題について更に団体
交渉を重ねる必要がないと考えたとしても無理からぬものといえること、国鉄大阪
工事局は、aの雇止めの後、同人の退職手当を供託し、aは、昭和五九年五月一〇
日、その還付請求をしてこれを受け取ったこと、aの雇止めから本件団体交渉申入
れまでの約六年一一か月、aが補助参加人組合に加入してからも約二年一〇か月が
経過しており、この間いずれの組合もこの問題を団体交渉により解決するという姿
勢を示していなかったこと、原告と補助参加人組合との間には、aの雇止めの問題
を除いて団体交渉の対象となる事項は存在しないこと等の諸事情を総合考慮する
と、aの退職手当算定にかかわる問題についての本件団体交渉申入れを原告が拒否
したことをもって、正当な理由がない団体交渉の拒否ということはできないという
べきである。
四 結論
 以上の次第で、原告による本件団体交渉申入れの拒否が労働組合法七条二号に該
当するとした被告の判断は誤りであり、本件救済命令は違法として取り消すべきで
ある。
 よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につ
き行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松山恒昭 大竹たかし 倉地康弘)
(別紙)
命令書
 大阪市<以下略>
申立人 おんな労働組合(関西)
 代表者 執行委員長 f
 東京都千代田区<以下略>
被申立人 日本国有鉄道清算事業団
 代表者 理事長 g
 上記当事者間の平成2年(不)第37号事件について、当委員会は、平成3年1
0月23日の公益委員会議において合議を行った結果、次のとおり命令する。
       主   文
1 被申立人は、申立人から平成2年9月3日付けで申入れのあった事項のうち、
aの退職手当算定に係わる問題(「在職時の取扱い」及び「解雇時の諸条件」と題
する問題)に関する団体交渉に速やかに応じなければならない。
2 申立人のその他の申立ては、棄却する。
       理   由
第1 認定した事実
1 当事者
(1) 被申立人日本国有鉄道清算事業団(以下「清算事業団)という)は、日本
国有鉄道(以下「国鉄」という)の分割民営化に伴い、日本国有鉄道改革法(昭和
61年法律第87号、以下「改革法」という)及び日本国有鉄道清算事業団法(昭
和61年法律第90号)に基づき、昭和62年4月1日に設立された法人で、肩書
地に本社を、全国に支社等を置き国鉄から承継法人(改革法第11条第2項に規定
する承継法人をいう)に承継されない資産、債務等の処理業務等の業務を行ってお
り、その職員は本件審問終結時約2,500名である。
(2) 申立人おんな労働組合(関西)(以下「組合」という)は、大阪を主とす
る関西地方の企業等で働く女性労働者を主たる対象として組織する労働組合であ
り、その組合員数は本件審問終結時約50名である。
 なお、清算事業団にはその従業員で組織された国鉄労働組合、国鉄清算事業団労
働組合など4つの労働組合があり、従業員の中で組合に加入している者はいない。
2 aの採用から解雇に至るまでの経緯
(1) 昭和47年3月9日、aは(以下「a」という)は、国鉄大阪工事局(以
下「工事局」という)の臨時雇用員の退職に伴う欠員募集に応募して採用された。
その際、工事局採用担当者は、aに対して、「2か月契約になっているがそれで辞
めてくれということはない」旨述べた。
 その後、aは、工事局との間で2か月毎に雇用契約更新を繰り返し、採用から約
1年6か月を経た48年9月30日、長男出産のため工事局に退職届を提出し、一
旦退職したが、49年1月10日再就職し、58年9月30日に解雇されるまで勤
務した。なお、aの次男出産に伴う52年4月18日から7月10日までの産前産
後休暇(以下「産休」という)については、臨時雇用員に対しても産休制度が適用
されるようになったことにより、退職ではなく、欠勤として取り扱われた。
(2) 昭和58年6月29日、工事局は、aを含む臨時雇用員59名全員に対し
雇止めを提案するとともに、同人らの所属する国鉄労働組合大阪工事局分会(以下
「国労分会」という)との団体交渉(以下「団交」という)において、国労分会に
対し、臨時雇用員の削減を提案した。
 国労分会と工事局は、同日から同年9月30日までの間、臨時雇用員の解雇及び
解雇時の諸条件について10回にわたる団交(以下「10回団交」という)を行っ
た。aは、当時国労分会の婦人部長として、10回団交に出席していた。
(3) 昭和58年8月10日、国労分会婦人部は、臨時雇用員の退職手当につい
て、「①計算方法は複雑なものとなっている、②支給率は職員と同率であるが、計
算基礎となる賃金日額は職員の半分以下である、③1か月間に22日以上勤務した
月のみ1月として計算され、計算時には継続で何年かによって退職手当率が計算さ
れる、④今回首きり提案を受けた59名の中には、出産で切られている人、病気で
僅かな日数が足らないため切られている人もいる」旨などを記載した婦人部ニュー
スを発行した。
(4) 昭和58年8月24日、国労分会は、工事局に対し、「①再就職を希望す
る者については、全員当局が責任をもって9月30日までに再就職先企業のあっせ
んを行い、10月1日以降の生活が維持できるようにすること、②再就職を希望す
る者で、9月30日に至っても就職先が決まらない場合は、決まるまでの間、その
者の雇用を継続すること、③退職する者については、退職条件について最大限の処
置を講ずるとともに、退職手当等は速やかに支払うこと、④雇用の継続を希望する
者については、9月30日以降も雇用契約を継続し、一方的解雇は行わないこと」
など8項目にわたる申入書を提出した。
(5) 昭和58年8月25日、国労分会と工事局は第7回目の団交(以下「第7
回団交」という)を開催した。この席上、工事局は上記(4)記載の国労分会の申
入れに対して、「①再就職先については当局においてあっせんを行う、②10月1
日以降の雇用継続はできないので、9月30日までの間に再就職先が決定するよう
最善の努力をする、③退職手当、賃金は速やかに支払う、④10月1日以降の雇用
継続はできないので、あくまで全員と円満に解決できるよう最大限の努力をする」
旨などの回答を行った。また、この中で工事局は、国労分会から退職手当支給と雇
用保険支給との関係(以下「雇用保険支給問題」という)が質問されたことに対
し、「退職後、失業状態にあることが前提になるが、退職手当の額が雇用保険の額
より少ないと、その差額につき、退職手当の額を平均日額で除した日数を経た後、
雇用保険の失業給付として受け取れる」旨を、更に臨時雇用員の退職手当算定方法
(以下「退職手当算定問題」という)についての質問に対し、「雇用保険法の適用
除外に該当する」「規程上、職員の整理解雇の準用はできない」旨の回答を行っ
た。なお、10回団交における中心的な交渉事項は、臨時雇用員の雇用継続及び再
就職先のあっせんについてであり、退職手当に関する交渉は第7回団交を除いては
行われていない。
(6) 同日以降、工事局は、臨時雇用員全員に対し、再就職の希望の有無・再就
職先についての希望を聴取するとともに、求人会社70数社をあっせんし、aにつ
いても3社をあっせんしたが、aは雇用の継続を希望し、工事局の示した再就職先
をいずれも拒否した。
(7) 昭和58年9月16日と翌17日にかけて、工事局は臨時雇用員を対象と
して、社会保険関係等説明会を開催し、雇用保険支給問題等についての説明を行っ
た。
(8) 昭和58年9月20日、工事局は、臨時雇用員全員に対して、解雇予告書
により同年10月1日以降雇用契約を締結しない旨の通知を行ったが、aは解雇予
告書及び解雇予告手当の受取りを拒否し、雇用の継続を要求した。また、9月26
日、工事局は再度aに対し、解雇予告書及び解雇予告手当の受取りを求めたとこ
ろ、aは解雇予告書は受け取ったが、解雇予告手当は受取りを拒否した。
(9) 昭和58年9月30日、工事局は同日限りで臨時雇用員全員を解雇し、退
職手当を支給した。aを除く臨時雇用員は退職手当の受取りに応じたが、aは受取
りを拒否し、供託を要求したため、工事局は後日これを供託した。
 同日、国労分会は、「aの解雇には納得できない」として工事局と団交を行った
が、工事局は「雇用の継続はできない」として、双方の主張は対立し、平行線のま
ま終了した。
 なお、59年5月10日、aは供託されていた退職手当を還付請求し、未払い賃
金の一部として受け取った。
(10) 工事局は、臨時雇用員の退職手当について、国家公務員等退職手当法
(昭和28年法律第182号、以下「退手法」という)、同法施行令(昭和28年
政令第215号)、退手法の解釈及び運用方針(昭和44年12月19日付け総人
局第937号)、臨時雇用員の退職手当について(国鉄内部事務連絡)及び退職手
当支給事務基準規程に基くとして、以下のとおり算出した。
「①勤務した日が22日以上ある月が引き続いて12月を超えるに至った者につい
ては、これを職員とみなして退手法等を適用して、退職手当を支給するが、途中で
この要件が欠けた場合は、その時点でこの職員みなしは打ち切られる。
②退職手当は、退職時点の俸給月額に勤続年数及び退職理由に応じて定められた退
職手当率を乗じて計算される。なお、臨時雇用員の俸給月額は、退職時点の賃金日
額の8割に相当する額に25日を乗じて算出し、退職手当率については、本件は自
己都合による退職として取り扱われる。」
 上記算定方式に基づき、工事局はaの退職手当を、再就職した昭和49年1月以
降において、勤務した日が22日以上ある月が引き続き12月を超えている同年6
月から51年9月までの28月と52年4月から58年9月までの78月につい
て、勤続期間2年と6年とし、51年9月時点及び58年9月時点の賃金日額の8
割に相当する額に25日を乗じて俸給月額を算出して、これらに自己都合退職につ
いて定められているそれぞれの勤続期間に対応した退職手当率を乗じて算出した。
なお、上記算定方式は、10回団交において国労分会及び臨時雇用員に示されてい
ない。
3 aの解雇から本件団交申入れに至る経緯等
(1) a解雇の翌日である昭和58年10月1日から59年2月2日までの間、
国労分会は、工事局に対して、aの解雇を撤回して雇用継続をするよう求める申入
れ行動を継続的に行った。
(2) 昭和59年2月3日、aは、国鉄を被告として従業員の地位確認等を求め
る訴訟(以下「a訴訟」という)を大阪地方裁判所(以下「大阪地裁」という)に
提起した。なお、国鉄の分割民営化以降、a訴訟における被告の地位は清算事業団
に引き継がれている。
 a訴訟において、清算事業団が大阪地裁に臨時雇用員に関する退職手当算定方式
を提出したところ、aは自分の退職手当の額がその算定方式に基づいて試算した額
と合致しないことなどに疑問を持つようになった。
(3) a訴訟提起後、国労分会は毎月、工事局に対して、aの解雇問題について
の抗議の申入れ行動を行い、国鉄の分割民営化以降は、西日本旅客鉄道株式会社に
対して同問題についての申入れを行った。
(4) 昭和62年11月、aは、国労分会に所属したまま組合に加入した。
(5) 昭和63年2月22日、aの解雇撤回闘争を支える地域の支援団体として
結成された「国鉄臨時雇用員aさんの解雇を撤回させる会」(以下「撤回させる
会」という)は、国労分会と話合いの上、清算事業団に対し、aの解雇についての
抗議の申入れ行動を行い、以降a訴訟裁判期日毎に同様の申入れ行動を行うように
なった。
(6) 平成元年11月13日、大阪地裁はa訴訟について、請求を棄却した。
 同月15日、aはこれを不服として大阪高等裁判所(以下「大阪高裁」という)
に控訴し、同訴訟は本件審問終結時現在、同高裁に係属中である。
(7) 平成2年8月、aは退職手当算定問題等について天満労働基準監督署(以
下「監督署」という)及び天満公共職業安定所(以下「安定所」という)へ調査に
行き、監督署からは、長男出産の際の産休の退職としての取扱いについて、「2か
月雇用とはいえ1年6か月継続勤務しているので、産休を理由とした解雇、雇止め
は労働基準法(昭和22年法律第49号、以下「労基法」という)違反であり、仮
にその扱いを受けたとしても退職手当の支払いあるいは雇用保険の支給などの退職
に伴う事務が必要である」「退職手当の算定内容が分からないのはおかしい」旨の
説明を受け、安定所からは、「採用から長男の出産による退職までの1年6か月に
ついて、退職手当の支払いあるいは雇用保険の手続きがなされていないので、退職
手当の基礎となる勤続年数には1年6か月を加算して通算しなければならない」
「退職手当の額が雇用保険の額より下回る場合は、雇用保険の失業給付として差額
分が支給される」旨等の説明を受けた。
(8) 平成2年9月3日、組合は、清算事業団に対し、文書で「①aの不当解雇
について、②aの在職時の扱いについて、③aの解雇時の諸条件について、④その
他関連事項」を交渉事項とする団交(以下「本件団交」という)を申し入れたが、
清算事業団は、文書の受取りを拒否した。これに対し組合は、同日、清算事業団に
対して、上記の本件団交申入書を内容証明配達郵便で送付した。
 本件団交申入れにおいて、組合が交渉すべき内容としていたのは、「②aの在職
時の扱い」については、aの出産の際の産休の取扱いの問題(以下「産休問題」と
いう)であり、「③aの解雇時の諸条件」については、aの雇用保険支給問題及び
退職手当算定問題であったが、「④その他関連事項」については、特段予定されて
いなかった。なお、組合が既に処理が終わっている産休問題を交渉内容としたの
は、その取扱いが労基法との関係において退職手当算定における勤続期間の算定の
問題とかかわっていると判断したためであった。また、清算事業団に対し、国労分
会ではなく、組合が団交を申入れたのは、国労が重大な組織問題を抱えていたこ
と、国労分会において、aの解雇問題に対する支援を第一審判決までとする方針決
定があったこと等の事情を踏まえ、組合が国労分会と協議し、組合がaの解雇撤回
闘争を引き継ぐという合意ができたためであった。
(9) 平成2年9月5日、清算事業団は、組合に対して、上記(8)記載の団交
議題については「大阪高裁で係争中である」として本件団交を拒否する旨の回答書
を内容証明配達郵便で送付した。
(10) 平成3年3月13日、aは大阪府労働部(以下「労働部」という)へ工
事局によるaの退職手当の算定方法及び金額等に関して問合せを行ったところ、労
働部は清算事業団から事情聴取を行った上で、aに対し、退職手当算定にかかる勤
続期間、俸給月額、算定率及び算定方式についての根拠資料を送付した。
(11) なお、本件審問終結時まで、組合と清算事業団との間で団交は行われて
いない。
4 申立人の請求する救済内容
 申立人が請求する救済内容の要旨は、次のとおりである。
(1) 平成2年9月3日付けで申し入れたaの不当解雇、在職時の扱い、解雇時
の諸条件等を議題とした団交に誠意をもって応じること
(2) 上記事項に関して、正門前に謝罪文を掲示すること
第2 判断
1 当事者の主張要旨
(1) 組合は、次のとおり主張する。
ア、aの解雇については、10回団交で合意を見ないまま一方的に実施されてお
り、裁判においてももっぱら解雇の効力が争われてきたのであり、解雇問題全般
(解雇時の諸条件も含めて)については、なんら実質的な団交はなされてきておら
ず、協議は尽くされていない。
イ、特に、本件団交申入れについては、10回団交で協議がなされていない退職手
当算定問題等を新たにその団交議題として提起しているのであるから、団交を開催
する必要性は充分にある。
ウ、本件団交申入れは、a解雇後約7年経過した後提起されているが、①解雇に関
する問題は、労働者にとって最終的で最も重大な事項であり、その解決方法として
は様々な手段の行使が可能であること、②aは解雇後にa訴訟を提起し、また、国
労分会及び「撤回させる会」はa解雇後継続的に抗議の申入れ行動を実施するなど
一貫して解雇について争ってきており、組合は国労分会とも協議の上、aの解雇撤
回闘争を引き継いでいること、③国労への組織攻撃など厳しい状況、清算事業団の
組織変更等のため、退職手当算定問題等の事実調査が遅れた面もあるが、aが事実
調査を行い、問題点が明らかになった後、組合は速やかに団交を申し入れているの
であるから、組合が漫然とこれを放置していたものではなく、時期を失したものと
は言えない。
 以上、組合は正当な団交申入れを行ったにもかかわらず、清算事業団がこれに応
じていないのは労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
(2) 清算事業団は、次のとおり主張する。
ア、aの解雇については、aも出席の下行われた10回団交において、充分協議が
尽くされており、その後においても、大阪地裁においてa訴訟について請求が棄却
され、a解雇の正当性が認められたこと以外に新たな事情は発生していないのであ
るから、組合と団交を行わなければならない特別の事情は全く存在しない。
イ、組合が本件団交議題として申し入れた退職手当算定問題については、10回団
交等において、すでに協議・説明済みであり、昭和59年5月10日には、aも退
職手当を受け取っている。また、産休問題についても、17年も前にaが退職届を
提出し、一旦退職した後再就職することで既に処理済みであり、しかもこの退職届
提出に脱法行為があったか否かは事実の認定判断の問題であるから、裁判により判
断を求める以外なく、団交議題になじまないものである。
ウ、aは国労分会に加入しながら新たに組合にも加入したのであるから、国労分会
と充分な交渉が行われておれば、本件団交議題以外なんら懸案事項が存在しない組
合と重複して交渉する必要性はない。
エ、本件団交申入れは、a解雇後約7年もの長い期間が経過した後になされたもの
で、aが組合に加入してからも約3年が経過しているのであって、団交申入れの時
期を失している。しかも、この間、aはa訴訟を提起し、国労分会及び「撤回させ
る会」は街頭での抗議の申入れ行動等を行ってきているが、組合としてはaの組合
加入後から約3年後の本件団交申入れに至るまで団交申入れは行っていないのであ
るから、組合が団交によって解決を図る意思を持っていたとは認められない。
 以上のとおり、清算事業団が団交に応じなかったとしても、正当な理由があり、
労働組合法第7条第2項に該当する不当労働行為に当たらない。
よって、以下判断する。
2 不当労働行為の成否
(1) 前記第1.3(7)及び(8)認定からすれば、平成2年9月3日、組合
が清算事業団に対し申し入れた本件団交議題は、結局、①aの解雇問題(以下「身
分問題」という)、②雇用保険支給問題、産休問題を含むaの退職手当算定問題に
関連する問題(以下「退職手当算定に係わる問題」という)及び③その他関連事項
であったと判断される。
(2) 以下、これについて検討するに、
ア、身分問題について
(ア) 10回団交及びa解雇後の経緯について見ると、前記第1.2(2)、
(4)ないし(6)、(8)、(9)、3(1)、(2)、(4)ないし(6)及
び(8)認定によれば、①10回団交において、工事局が臨時雇用員の雇用の継続
はできないので、再就職のあっせんに応じるよう提案したのに対し、国労分会は再
就職を希望する者については、工事局の提案に応じたものの、aについては、あく
まで雇用の継続を要求し、双方の主張が対立し平行線のまま交渉は終了したこと、
②昭和59年2月3日、aは解雇を不服として大阪地裁にa訴訟を提起したが、平
成元年11月13日、同地裁は同訴訟について請求を棄却し、同月15日、aはこ
れを不服として大阪高裁に控訴し、同訴訟は本件審問終結時現在、同高裁に係属中
であること、③a解雇後、国労分会及び「撤回させる会」はaの解雇を争って継続
的に工事局あるいは清算事業団に対し、抗議の申入れ行動を繰り返していること、
④また、昭和62年11月、aは国労分会に加入しながら組合にも加入し、平成2
年9月3日、組合は国労分会とも協議の上、aの解雇撤回闘争を引き継ぎ、本件団
交申入れを行ったことがそれぞれ認められる。
(イ) 以上からすると、①臨時雇用員の解雇に際して、身分問題については労使
の主張が対立し平行線のままであったものの、工事局は国労分会の要求に応じて1
0回団交を開催し、誠意をもって協議に応じていると認められ、②a解雇後におい
て、aが組合に加入したという新たに生じた事情もあるものの、身分問題にかかる
組合との団交は、結局、清算事業団にとって国労分会と行った交渉と重複するもの
とならざるを得ないと考えられる。また、③a訴訟については、aの解雇を認容す
る判決が行われているのであるから、清算事業団が本件団交申入れに応じるべき特
段の事情が発生したものとも認められない。しかも、④本件団交申入れはa解雇後
約6年11か月が経過し、aの組合加入後も約2年10か月が経過しており、この
間、aはa訴訟を提起し、国労分会及び「撤回させる会」は抗議の申入れ行動を繰
り返してはいたが、団交によって身分問題を争うとの態度を示さなかったことが認
められ、これらを考え併せると、清算事業団が身分問題を裁判によって決着を図る
ものとして本件団交を拒否したとしても、正当な理由なく団交を拒否したとまで言
えない。
 よって、本件申立てにかかる事項のうち、身分問題についての組合の申立ては棄
却せざるを得ない。
イ、退職手当算定に係わる問題について
(ア) 10回団交及びa解雇後の経緯について見ると、前記第1.2(4)、
(5)、(7)、(9)、(10)、3(2)、(7)及び(8)認定によれば、
①国労分会が退職に当たっては、退職条件の最大限の処置を求めたことに対し、第
7回団交において、工事局は「退職手当、賃金は速やかに支払う」旨回答し、雇用
保険支給問題については、「退職後、失業状態にあることが前提になるが、退職手
当の額が雇用保険の額より少ないと、その差額につき、退職手当の額を平均日額で
除した日数を経た後、雇用保険の失業給付として受け取れる」旨、退職手当算定問
題については、「雇用保険法の適用除外に該当する」「規程上、職員の整理解雇の
準用はできない」旨回答していること、②昭和58年9月16日、17日には、工
事局は臨時雇用員を対象として、社会保険関係等説明会を開催し、雇用保険支給問
題等について説明を行っていること、③更に、工事局が同月30日付けで、臨時雇
用員全員を解雇し、退職手当を支給したところ、aを除く臨時雇用員は退職手当を
受領し、その額に異議を唱えた者はいなかったこと、④しかしながら、臨時雇用員
に対する退職手当算定方式は10回団交において国労分会及び臨時雇用員には示さ
れておらず、aが提起したa訴訟において清算事業団から示されたこと、⑤aは自
分の退職手当の額がその算定方式に基づいて算出した額と合致しないことに疑問を
持ち、平成2年8月監督署及び安定所へ調査に行き、退職手当算定に係わる問題に
疑義がある旨の説明を受けたことから、組合が国労分会とも協議の上、本件団交申
入れを行ったことがそれぞれ認められる。
 以上からすると、退職手当算定に係わる問題については、10回団交等において
雇用保険支給問題、退職手当算定問題等について一定の協議・説明がなされたもの
の、臨時雇用員に対する退職手当算定方式は国労分会及び臨時雇用員に対して示さ
れないまま10回団交は終了し、aはa解雇後のa訴訟において清算事業団から臨
時雇用員に対する退職手当算定方式が示されたことによって、平成2年8月に監督
署及び安定所に調査に行き、その適用の仕方に疑義がある旨の説明を受けたもので
あるから、a解雇時とは異なる事情が生じているものと言わざるを得ない。
(イ) そこで、清算事業団の主張イについて検討すると、確かに、上記(ア)判
断及び前記第1.2(3)認定のとおり,10回団交等において退職手当算定に係
わる問題についても、雇用保険支給問題及び退職手当算定問題等に関する一定の協
議・説明が行われ、また当時国労分会は臨時雇用員の退職手当算定方式についてあ
る程度の知識を持っていたとうかがわれる国労分会婦人部ニュースを発行している
ことは認められる。しかし、前記第1.2(5)、(10)及び3(2)認定によ
れば、退職手当算定方式については、a訴訟において示されたのであって、aはこ
れによって、少なくともその根拠となっている臨時雇用員の退職手当について(国
鉄内部事務連絡)等の存在や俸給月額が賃金日額の8割に相当する額に25日を乗
じて計算されることなどを知るに至ったものと認められ、また、第7回団交におい
ても、工事局は雇用保険支給問題について、「退職後、失業状態にあることが前提
になるが、退職手当の額が雇用保険の額より少ないと、その差額につき、退職手当
の額を平均日額で除した日数を経た後、雇用保険の失業給付として受け取れる」
旨、退職手当算定問題について、「雇用保険法の適用除外に該当する」「規程上、
職員の整理解雇の準用はできない」旨回答しているだけであって、退職手当に関す
る交渉は同団交を除いては行われておらず、国労分会と充分協議を尽くしたと認め
るに足る疎明はないのであるから、協議・説明済みであるとする清算事業団の主張
は採用できない。
 なお、清算事業団はaが退職手当を既に受け取っている旨主張するが、前記第
1.2(9)及び3(2)認定のとおり、aは解雇時において退職手当の受取りを
拒否し、a訴訟の係属中において、これを未払い賃金の一部として受け取ったもの
であるから、このことをもって団交を拒否する正当理由があるとは言えず、清算事
業団の主張は採用できない。
(ウ) 次に、清算事業団の、aの産休問題は約17年も前に既に処理済みで、し
かも退職届に脱法行為があったか否かは事実の認定判断の問題であるから、裁判に
より判断を求める外なく、団交議題になじまないとの主張について検討するに、前
記第1.2(1)認定によれば、産休問題については本件団交申入れの約17年前
の昭和48年9月30日にaが退職届を工事局に提出し、退職したものとして処理
がなされたものであるが、退職手当の算定に当たっては、勤続期間との関係におい
て在職時期及び在職時の取扱いを必然的に検討せざるを得ないのであって、前記第
1.3(7)及び(8)認定によれば、組合は、産休問題を労基法との関係におい
て退職手当算定の基礎となる勤続期間の算定とかかわっている点から団交の内容と
して提起しているのであるから、約17年も前のことであるといって団交を拒否す
ることはできないものというべきである。また、一定の事実についての法律適用上
の問題が争われているケースにおいても、団交による自主解決の道を探ることは否
定されるものではないから、退職手当算定方式とのかかわりにおいて団交事項と認
めることが相当である。従って、清算事業団の主張は採用できない。
(エ) 次に、清算事業団の主張ウについて検討するに、前記(ア)及び(イ)判
断のとおり、退職手当算定方式との関係では協議が尽くされていたとは認められな
いから、10回団交と重複するものではなく、清算事業団の主張は採用できない。
(オ) 清算事業団の主張エについて検討するに、前記第1.2(9)、3
(4)、(7)及び(8)認定によれば、組合の本件団交申入れはa解雇後約6年
11か月が経過し、aの組合加入後も約2年10か月が経過しているものの、少な
くとも退職手当算定に係わる問題については、aは平成2年8月監督署及び安定所
へ調査に行き、疑義があることを知ったのであり、組合は同年9月3日、速やかに
本件団交を申し入れているのであるから、本件団交申入れが時期を失したものとは
言えず、また、組合が団交により解決を図る意思を持っていたとは認められないと
の主張についても、上記申入れに至った経緯からすれば、清算事業団の主張は採用
できない。
 以上総合すると、退職手当算定に係わる問題については、清算事業団は改めて本
件団交に応じるべき事情があったと認められるところ、本件団交を拒否したことに
つき正当な理由があったものとは言えず、かかる清算事業団の行為は 労働組合法
第7条第2号に該当する不当労働行為であると言わざるをえない。
ウ、その他
(ア) 前記第1.3(8)認定によれば、本件団交議題のうち、その他関連事項
についてはその内容が特段予定されていなかったのであるから、交渉の必要性は認
められない。
(イ) 申立人は、陳謝文の掲示をも求めるが、主文1をもって十分救済の実を果
たし得るので、その必要を認めない。
 以上の事実認定及び判断に基づき、当委員会は、労働組合法第27条及び労働委
員会規則第43条により主文のとおり命令する。
 平成3年11月15日
 大阪府地方労働委員会
 会長 h 印

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