弁護士法人ITJ法律事務所

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○主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○事実
第一申立
一控訴人
1原判決を取消す。
2被控訴人が控訴人に対し、昭和五九年八月二〇日付でした原判決添付別紙目録記載の
道路損傷(以下「本件損傷」という)の復旧工事負担金を金五九万七五四七円とする負担
命令(以下「本件負担命令」という)を取り消す。
3訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二被控訴人
主文同旨
第二主張及び証拠関係
次のように訂正、付加するほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一原判決二枚目裏一一行目の「請求原因1」を「請求原因1の事実中、主張の日に主、

の自動車が主張の場所を通行中、同車荷台から出火し積荷であるピアノ、エレクトーンを
焼損し、本件損傷を生ずるに至つたこと」に、同三枚目裏二行目の「負担金負担命令」、

「負担金負担命令書」に、同四枚目裏五行目の「なされた」を「出された」に、一一行目
の「貸物自動車」を「貨物自動車」に各訂正する。
二同五枚目裏七行目の「を規定し」を「と規定し」に、同七枚目裏五行目の「1」、、

「一」に、六行目の「2」を「二」に、八行目の「3」を「三」に、同八枚目裏()()()

行目の「作用を」を「作用と」に、同一〇枚目表七行目の「本件」を「原、当番の訴訟」
に各訂正する。
三控訴人の主張
本件の出火原因としては(1)自動車のエンジンその他の発熱体の発熱(2)積荷自、、

の発熱(3)運転手、同乗者による着火したたばこ等の投棄(4)第三者による積荷、、

の放火(5)落雷による出火(6)走行中の第三者による着火したたばこ等の投棄な、、

が考えられる。
しかし前記(1)は、自動車荷台左側の中央よりやや前寄りの本件出火場所ないしその近
辺にエンジンその他自動車自体の発熱体が存在しないことから、同(2)は、本件積荷が
ピアノ、エレクトーンのみでありそれからの発熱が考えられないことから、同(3)は、
、()、運転手及び同乗助手ともたばこの持ち合わせがなく喫煙していないことから同4は
、()出火場所が阪神高速道路に進入し約二〇分経過後の走行中の車両であることから同5
は、当時の天候等に照らしいずれも出火原因とは認められないので、結局同(6)のみが
本件火災の原因と考えられ、本件事故の日の翌日の各新聞の報道によれば、
本件の出火原因に関する天満警察署の見解も同旨であつた。
○理由
一控訴人が、楽器類の運搬を業とする株式会社であること、控訴人の従業員である訴外
Aが、昭和五九年六月一八日午後八時五〇分頃、普通貨物自動車にピアノ、エレクトーン
を積載し、大阪府道高速大阪守口線の長柄出口附近を走行中、同車荷台から出火(本件出
火)し、同車両及び積荷であるピアノ、エレクトーンが燃え、そのため同日午後九時一一
分頃、原判決添付別紙目録記載の損傷(本件損傷)が生じたこと、被控訴人は、右損傷部
、、、、分の復旧工事をし同月二四日同工事を完了したことそこで被控訴人は控訴人に対し
道路整備特別措置法二一条によつて準用される道路法五八条一項に基づき、同年八月二日
付原因者工事施行通知書をもつて、本件損傷に対する復旧工事の被控訴人による施行及び
控訴人に原因者として費用を負担されたい旨通知したうえ、同月二〇日付原因者工事負担
金負担命令書をもつて、本件負担命令を発したこと、以上の事実は、当事者間に争いがな
く、成立に争いのない乙第五号証によれば、本件損傷の復旧工事に要した費用は、金五九
万七五四七円であることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠は存しない。
二前記事実によれば、本件損傷は、控訴人の被用者である訴外Aの運転する貨物自動車
の荷台から出火して同車両及び積荷であるピアノ、エレクトーンが燃え、これが原因とな
り本件損傷が生じたものであるから、本件出火による右車両等の燃焼と被控訴人の管理す
る道路の本件損傷との間には相当因果関係があり、又本件損傷は控訴人の被用者の事業の
執行中に生じたものであるから、控訴人は、民法の使用者責任ないし履行補助者の法理の
類推により、道路法五八条一項の責任を負う義務があるといわなければならない。
三ところで、道路法五八条一項の「道路管理者は、他の工事又は他の行為により必要を
生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については、その必要を生じた限度におい
て、他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一部を負担させるもの
とする」旨の規定に基づくいわゆる原因者負担金の制度は、道路が国民の日常生活に必。

不可欠で重要な公物であることに鑑み、道路管理に要する費用は、原則として道路管理者
が負担するが、
他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持に要する費用
は、他の工事又は他の行為がなければその必要が生じなかつた筈であり、その費用を道路
管理者に負担させるのは酷に過ぎるので、法は、道路に損傷が生じた場合に、その修理に
要した費用を公用負担となし、右損傷の原因を与えた工事者又は行為者に負担(損傷者負
担)させることとしたものである。
、()、、四したがつて右原因者損傷者負担金制度は私法上の不法行為の制度とは異なり
道路法五八条一項による羈束の下に、道路管理者(行政庁)に対して、優越的地位におけ
る行政上の裁量により道路に関する工事又は道路の維持の費用の負担を右工事等の原因者
に課する命令権限及び強制徴収権限(道路法七三条)を認めたものと解すべきであり、そ
れゆえかかる法規の授権に基づき道路管理者の発する右給付命令(下命)は、債務不履行
又は不法行為により生ずる民事上の債権と同一ではなく、原因者の故意、過失を要しない
ことはもとより、その行為の適法、不適法をも問うものではなく、たとえその原因の一端
、、が不可抗力に因る場合においても費用の負担を求めることが行政の目的に合するときは
右原因者に対し、上記負担命令を発することができるのである。このように、右負担命令
の発令は、同命令が民事上の行為ではないことから、民事法の諸原則に必ずしも従うこと
を要するものではないけれども、行政処分といえども従わなければならない法の一般原則
に反する場合、たとえば行政庁において、法による羈束の下に認められた裁量権の行使に
際し、事実の判断を誤りもしくは著しく公正を欠く裁量を行ない又は同一の条件下におい
て理由なく差別的取扱をなすなど裁量権の行使に当たつて当然守られるべき公益原則、平
等原則又は比例原則に従わず、行政の目的に背反したような場合においては、法により羈
束された要件に関する判断の誤りもしくは裁量権の濫用として、前記処分(給付命令)の
無効又は取消の瑕疵を帯びるに至るものと解するのが相当である。
五1控訴人は(1)道路法五八条一項は、無過失責任ないし結果責任を認めたもので、

ない。そうでないとしても、原因者負担金は、その制度の趣旨に照らし、通常の用法を逸
脱して使用した結果損傷が生じた場合にのみ限定して適用されるべきである(2)本件。
は、
控訴人の被用者である訴外Aの行為により生じた出火ではなく、第三者が火のついた煙草
を訴外Aの運転する貨物自動車の荷台に投げ込んだために生じたものであるから、訴外A
には故意、過失がなく、また訴外Aの運転行為と本件損傷との間には因果関係もないと主
張する。
2(1)道路法五八条一項の負担が、民事上の無過失責任ないし結果責任と同一でない
ことは、所論のとおりであるが、しかし、本件制度の前記趣旨から本件負担金は、道路の
通常の用法を逸脱して使用した結果生じた損傷に限り負担さすべきものではなく、工事又
は行為の適否、故意過失の有無を問わないことは、前記判示のとおりである(2)本件。

傷に対する故意、過失又は因果関係の不存在に関する前記主張は、行政庁が本件負担命令
(行政処分)を発するに際し、羈束された要件に関する判断を誤つたことないし裁量権の
濫用があつたとするもの(行政事件訴訟法三〇条参照)にほかならないから、以下これに
ついて判断することとする。
六前記認定事実並びに成立に争いのない乙第一号証の一、二、弁論の全趣旨により真正
に成立したと認められる甲第一号証、乙第八号証の一、二、当審証人B、原審証人Aの各
証言を総合すると、次の事実が認められる。
1訴外Aは、昭和五九年六月一八日の夕刻、二トン積普通貨物自動車(大阪一二き一五
〇)の荷台に、いずれも小布団で包んだピアノ六台を並置し、その上にダンボールで梱包
された小型エレクトーン六台を乗せ、最後部のピアノをゴム製のベルトで、エレクトーン
はロープで固縛し、訴外近藤を助手席に同乗させ、訴外Aが右自動車を運転して、泉佐野
市の南部織物会館を発つて、寝屋川市の北共配センターへ向つた。
2そして、通称阪神高速道路に入つて約二〇分経過後の午後八時五〇分頃前記長柄出口
附近を進行中、訴外片出はバツクミラー越しに荷台左側の中央からや・前寄り部分に黄色
い炎様のものを発見したため停車場所を捜して約二、三分走行後、長柄出口の道路巾の広
くなつている所へ停車し、直ちに下車して、ピアノを包んでいた小布団の燃焼状況から容
易に消火できると思い、訴外近藤とともに、炎上している小布団の取り除き及び消火作業
を行つたが消火できないので、同日午後九時一一分頃近くに設置されていた電話器により
消防車の出動を要請し、間もなく駆けつけた消防車によつて消火された。
、、、、3右火災により積荷のピアノエレクトーン各四台が燃え前記自動車も前部運転席
ドア、天井、フロントパネル、荷台が焼毀し、又この火災により道路端の騒音遮壁用プラ
スチツク板が燃えるなどして本件損傷が生じた。
4訴外Aやその他の者が本件出火前に、第三者によつて火のついた煙草を前記自動車の
荷台に投げ込まれるのを目撃したようなことはなく、むしろ、本件出火場所が助手席に近
い荷台左側前寄部分であることを考えると、前記助手席から外に向かつて投げられた火の
ついた煙草の吸いがらが風下にあたる同場所に落下し、これが梱包用の小布団等に燃え移
つた可能性が考えられる。
以上のように認められ、前掲甲第一号証の記載及び原審証人Aの証言中右認定に反する部
分は、前掲他の証拠と比較して措信し難く、他にはこれを覆えすに足る証拠は存しない。
七右認定事実によれば、訴外Aの運転する前記自動車の火災により生じた本件損傷につ
いては、控訴人が道路法五八条一項に定める他の行為につき費用を負担する者に該当する
というべく、反証のない本件においては、同条同項に基づき本件損傷の回復工事費の全額
を控訴人に負担せしめた本件負担命令には、覇束された要件に関する判断の誤りもしくは
公益原則、比例原則などに反した裁量権の濫用はなく、同命令は適法で、何んら瑕疵はな
いといわなければならない。
八よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから
これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、
主文のとおり判決する。
(裁判官藤野岩雄仲江利政大石貢二)

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