弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を禁錮六月に処する。
     本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。
         理    由
 弁護人安藤久夫の上告趣意第二について(上告趣意第一は、上告を取下げたAに
関するものであるから判断をしない。)
 所論は原判決の判例違反および憲法二九条一項違反を主張する。しかし引用にか
かる判例(最高裁判所昭和二四年(れ)一九九七号同二四年一二月二五日第一小法
廷判決・集三巻一二号二〇二三頁、大審院昭和一九年(れ)四六四号同一九年九月
二九日判決・集二三巻一八号一九九頁、福岡高等裁判所昭和二四年(つ)一一一五
号同二五年五月二日判決・高裁刑事判決特報九号一一五頁)は、いずれも刑法の收
賄罪における同一九七条の四の規定の解釈に関するものであつて、本件に適切でな
い。また違憲の主張は、その実質は、原判決の公職選挙法二二四条の解釈適用の誤
まりを主張するものであつて、単なる法令違反の主張に過ぎない。従つて所論はい
ずれも上告適法の理由とならない。
 しかし職権をもつて調査するに、原判決が被告人から五万円を追徴する旨言渡し
たのは、左の理由により公職選挙法二二四条の解釈を誤まり、追徴すべからざるも
のを追徴した違法があるといわねばならない。
 原判決の認定したところを挙示の証拠と対照して考察すると、金銭の授受に関す
る事実関係は次の如くである。
(1)被告人は現金一〇万円を原審相被告人Aに供与し、Aはその供与を受けた一
〇万円をBに保管を托して預けたところ、Bはこれを自己名義の預金として銀行に
預け入れたため、このとき以後Aの供与を受けた右現金一〇万円はその特定性を失
い没收することができなくなつた。
(2)AはBが銀行に預け入れた右一〇万円のうち七万五、〇〇〇円をBの手を経
て払戻を受けて次の如く処分した。
 (イ) Cに二万五、〇〇〇円交付(第一審判示二の(二))
 (ロ) Dに二万五、〇〇〇円交付(同二の(三))
 (ハ) Eに一万五、〇〇〇円交付
 (ニ) Cに林道工事負担金として九、二五〇円支払
 (ホ) 被告人に残額七五〇円を返還
(3)Dは交付を受けた右現金二万五、〇〇〇円を、そのまま交付者Aに返しに行
つたが、同人不在で会えなかつたため、これを被告人に返還した。またEは右現金
一万五、〇〇〇円を、そのまま交付者Aに返そうとしたところ、それが被告人から
出た金だといわれたので、これを被告人に返還した。
(4)Aは前記(2)(二)のCに林道工事負担金として支払つた九、二五〇円と
同額の現金を被告人に返還した。
 ところで、原判決が被告人に追徴を言渡したのは、右(2)(ホ)の七五〇円、
(3)の二口合計四万円および(4)の九、二五〇円の合算額五万円である。しか
しAが供与を受け、收受した現金一〇万円は、同人の手許で銀行預金と化し、その
特定性を失つたため没收することができなくなつたのであるから、たといAが(B
の手を経て)これと同額の預金の払戻しを受け、それがAから直接被告人に、ある
いは一度他に交付され、その受交付者から被告人に、返還されたとしても、被告人
からこれを没收し、またはその価額を追徴することは許されないわけである。され
ば、右(4)の九、二五〇円については勿論、(2)(ホ)の七五〇円についても、
被告人からその価額を追徴することはできず、また(3)の二口合計四万円につい
ても同様である。なおまた、右(3)の二口合計四万円については、AからDおよ
びEがそれぞれ交付を受けた利益であるところ、Aと右両名との間の交付・受交付
の罪についは、被告人は第三者の地位にあるのであるから、この面をとらえて見て
も、これを公職選挙法二二四条により被告人から没牧すべきいわれはなく、その価
額の追徴の許されないことはいうまでもないところである。されば、原判決には判
決に影響をおよぼすべき法令の違反があり、これを破棄しなければ著しく正義に反
するものといわねばならない。
 よつて刑訴四一一条一号、四一三条但書により原判決を破棄し、被告事件につき
更に判決をする。
 原判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の判示所為中供与の点は公職
選挙法二二一条一項一号罰金等臨時措置法二条一項に、事前運動の点は公職選挙法
二三九条一号、同一二九条、罰金等臨時措置法二条一項に各該当するけれども、右
は一個の行為で数個の罪名にふれる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条
により重い供与罪の刑に従い、所定刑中禁錮刑を選択して被告人を主文第二項の刑
に処し、同二五条により主文第三項の期間右刑の執行を猶予することとする。
 よつて主文のとおり判決する。この判決は裁判官全員一致の意見によるものであ
る。
 検察官 平出禾公判出席
  昭和三七年五月一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊

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