弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各特別抗告を棄却する。
         理    由
 本件特別抗告の理由は末尾添附の再抗告状記載のとおりである。
 憲法三七条一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは偏頗や不公平のおそれの
ない組織と構成をもつ裁判所による裁判を意味するものであることは当裁判所の判
例とするところである(昭和二三年(つ)第二〇号同二五年四月七日大法延決定、
昭和二三年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法延判決、昭和二三年(れ)第一
七一号同二三年五月五日大法延判決)又憲法七六条三項にいわゆる裁判官が良心に
従うというのは裁判官が有形無形の外部の圧迫乃至誘惑に屈しないで自己内心の良
識と道徳感に従うの意である(昭和二二年(れ)第三三七号同二三年一一月一七日
大法延判決)しかして原審の確定した事実に徴すれぱ原決定の判断は正当であつて
所論のように前記憲法の条項に反し又はその解釈を誤つた判断てあるとはいえない。
それ故所論は採用できない。
 よつて刑訴法四三四条四二六条一項に則り主文のとおり決定する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
  昭和二六年一月一九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
(添附 再抗告状)
昭和二四年新(つ)第二一号
         再抗告状
        東京都千代田区a丁目b区
          再抗告人        A
        東京都北区c丁目d番地
          同  上        B
 東京高等裁判所昭和二四年(新か)第四八号忌避申立事件にたいして同裁判所第十
三刑事部が同年一一月二二日なした決定は同年一二月六日その謄本の送達をうけた
ので再抗告する。
         再抗告の趣旨
 原決定を取消しさらに相当の裁判を求める、
         再抗告の理由
 憲法第三七条第一項は「被告人は、公平な裁判所の迅速なる公開裁判を受ける権
利を有する」と定め、同第七六条第三項は「すべて裁判官は、その良心に従い独立
してその職権を行い」といつている。刑事訴訟法第二一条が忌避事由として「不公
平な裁判をする虞があるとき」をあげたのは右の憲法の規定にもとずいたものであ
る。しからば憲法の要求する不公平な裁判をする虞あるときは、いかなるばあいを
いうのであるか。それは単に形式的に法律の条項に従つているだけでは足らない。
憲法第七六条第三項が「この憲法及び法律にのみ拘束される」といつて、法律のほ
かに憲法をとくにかかげたところをみると、法律を運用し、裁判官の権限を行使す
るには、憲法の精神に従わなければならないことを示しているものといわねばなら
ない。ここで憲法の精神とは何か。被告人の防禦権または弁護権を十分に認めて、
基本的人権を保障しつつ公平な裁判をすることである。たとえ形式的に法律の条項
に従つていてもこの実質をみたさなければ公平な裁判手続がなされたとはいえない。
さらに公平な裁判とは、裁判官が主観的に公平な裁判をしたということではたらな
い。公平無私な裁判が行われたことを疑わしめるようなものであつてはならない。
死刑を宣告してもなお被告人および社会を当然のこととして納得せしめるような裁
判でなければならない。これが前記憲法の条規の要求する「公平」な、「良心に遵
う」裁判なのである。
 しかるに原決定は、この憲法の解釈を全く誤解した独断的判断をしている。原決
定は忌避申立の原由たる事実がすべて裁判所の「権限の行使の範囲」にあるから、
不公平な裁判をする虞があるものと認めることは出来ない」そして再抗告人の主張
は「その独自の見解に立脚する臆測乃至誤解である」というのである。これは形式
的に法律に従つてさえおれば、裁判官は良心に従つておるのであり、そこに公平な
裁判所があるとの立場であつて、憲法を無視することもはなはだしいものといわね
ばならない。そこでは何ら法律の運用において無法の精神を生かすことを要求して
いないからである。
 すでに原決定自身も、忌避原由たる事実が不公平な裁判についての臆測ないし誤
解を生ぜしめる程度のものであつたことを自認しているではないか。しかも原決定
は同僚裁判官を白々しくかばうのみで何一つこれを非難しようとしない。このよう
な決定では、とうてい再抗告人を納得させないことはいうまでもない。原決定に摘
示された忌避の原由は、不公平な裁判をする虞あることを十分に示している。これ
で忌避が成立しないならば、憲法が保障する「公平な裁判所」の「良心」ある権利
を保障されないであろう。
以   上

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